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鳩山政権が発足した2009 年には、オバマ政権の誕生とともに、日 本 では米中両 政府が地域 、及びグロ ーバルな秩 序の行く末 を二国 間 で議論していくのではないか、といういわゆる「G-2」論が注目さ れていた42。この構想は、同年の米軍音響測定艦「インペッカブル」

と中国政府船舶との接近事案に加え、12 月のコペンハーゲンにおけ る 気候変動枠 組み条約締 約国会議で の中国政府 の対応、サ イバー セ キ ュリティ、 南シナ海領 土紛争など によって周 辺諸国、及 び先進 諸 国 の間で対中 警戒心が高 まるなかで アイディア として後退 してい っ たとみられる。

むしろ、この時期にアメリカの同盟ネットワークはブッシュ政権 期同様に、強化される方向にあった43。冷戦期に「ハブ・アンド・ス

聞』2010 年 6 月 2 日。

42 たとえば、Zbigniew Brzezinski, “The Group of Two that could change the world,”

Financial Times, January 13, 2009; Fred Bergsten, “Two’s Company”, Foreign Affairs, Vol.88, No.5 (September/October 2009).

43 佐橋亮、前掲「アジア太平洋地域における安全保障アーキテクチャと三層分析法」。

同盟の「ウェッブ化」について、ブレア太平洋軍司令による以下の論文がある。Dennis C. Blair and John T. Hanley Jr., “From Wheels to Webs: Reconstructing Asia-Pacific Security Arrangements,” The Washington Quarterly, vol.24, no.1 (Winter 2001). 日米豪関係につい ては、William T. Tow, Mark J. Thomson, Yoshinobu Yamamoto, and Satu P. Limaye (eds), Asia-Pacific Security: S, Australia and Japan and the New Security Triangle(New York:

ポークス」といわれた、アメリカとアジア太平洋地域諸国との二カ 国間同盟が束になっている状態が、「スポークス」間の連携によって 強化される現象が、この時期にも見られた。たとえば、日本は自民 党政権期において、オーストラリアやインドとの二カ国間安全保障 協力宣言を発出し、パートナーシップ強化を図った44。鳩山政権期に おいても、両国との関係強化が確認され、発展していることは注目 に値する。

すなわち、2009 年 12 月にはラッド首相の訪日に合わせて、日豪両 国政府は安全保障協力のための行動計画の改定に合意し、ロジステ ィックス面での協力強化(物品役務相互提供協定(ACSA)締結に向 けた交渉)を約束した。また、同月の鳩山首相の訪印により、イン ドとも安全保障協力の具体的な行動計画と対話の強化が決定され た。そして、2010 年 5 月に日豪両国では ACSA が締結される。

この時期には韓豪、豪印の両政府間でも安全保障協力声明が出さ れ、韓印パートナーシップも強化されている。2010 年 1 月における ヒラリー国務長官のホノルル演説は、アメリカ政府として初めて「安 全保障アーキテクチャ」という用語を使い、「アジアの世紀」の到来 においてアメリカと同盟国、友好国との関係性の強化の重要性を訴 えた45。また、2 月に公表された「四カ年ごとの国防見直し(QDR)」

においても、アジア太平洋地域におけるアメリカの軍事的プレゼン スの維持を確認したうえで、地域各国との協調を重要な政策として 位置付けている。事実、日豪、日印関係の強化はアメリカを含んだ

Routledge, 2007).

44 参考として、防衛省防衛研究所『東アジア戦略概観』2008 年度版。

45 Hillary Rodham Clinton, “Remarks on Regional Architecture in Asia: Principles and Priorities,” Honolulu, Hawaii, January 12, 2010, http://www.state.gov/secretary/rm/2010/01/

135090.htm.

三ヶ国関係の強化を伴って進展している。 4 月 23 日、http://www.mod.go.jp/j/press/youjin/2009/04/23a.html。

このようなアメリカの同盟国、友好国の関係強化は、現時点にお いては特定の国家に対して力の均衡を図るという伝統的な集団防衛 の性格を必ずしも持ち合わせてはいない。冷戦終結後の安全保障環 境において、PKO や人道支援など軍の任務が増え、またテロや大量 破壊兵器の拡散、海洋安全保障など非伝統的な課題に対する協力の 重要性も増すなかで、特定の政策的関心を共有する主体のあいだ で、明確な目標を実現するために形成されている。これらは相互防 衛を約束せず、また特定の国家の脅威への対抗を意図していないた め、同盟の性格を有しない。アメリカとの同盟、友好関係が媒介(カ タリスト)になっており、一部の事例ではそれはアメリカの同盟国 間では取引費用(トランザクションコスト)が装備面等においても 低いことも示されている47。また、これらの動きにはアメリカの負担 を軽減し、アメリカの影響力をこの地域に引き続き維持しようとす る意図も観察される。自民党政権末期にあたる2009 年夏に麻生太郎 首相に提出された「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書にお いても、韓国や豪州等との協力関係を促進することで「米国のコミ ットメントを引き続き確保」するという意図が記されている48。この 限りにおいては、「政権交代」後にも継続性がみられる。

しかし、鳩 山首相の政 権担当期間 中に、アメ リカのアジ ア太平 洋 に おける同盟 国、パート ナー国との 関係強化が 妨げられな かった と

47 高橋杉雄「アジア太平洋安全保障アーキテクチャと同盟の役割」神保謙編『アジア 太平洋の地域安全保障アーキテクチャ 地域安全保障の重層的構造』(東京財団、

2010 年 8 月)、51~66 ページ。とりわけ豪州とは先進的な装備体系、協力の蓄積、相 似した価値観により運用面での相乗効果も期待できる。自衛隊と豪州軍(ADF)は カンボジアPKO、東ティモール PKO、イラク人道復興支援活動において協力した経 験がある。日本政府防衛当局者(自衛官)インタビュー、2009 年 8 月。

48 「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書、2009 年 8 月、http://www.kantei.go.jp/

jp/singi/ampobouei2/200908houkoku.pdf。

し ても、それ は中核にあ るべき日米 同盟の関係 強化を伴っ たもの と は いえなかっ た。繰り返 すまでもな く、日米関 係は普天間 飛行場 移 設 問題の日本 国内におけ る混乱に巻 き込まれる 形で混迷を 深め、 日 米安保条約成立50 周年を契機とした新たな政治宣言を模索する機運 を 失った。国 際テロリズ ム対策への 貢献として 日米関係の 文脈で も 重 要とみなさ れてきた、 インド洋沖 における「 不朽の自由 」作戦 の 一 環としての 海上自衛隊 艦船による 補給活動は 、補給支援 特別措 置 法の期限切れにより、2010 年 1 月にその任務を終えた。

なお、2009 年 4 月に麻生政権はソマリア沖、アデン湾における海 賊 対策のため の国際社会 の活動に参 画すること を決め、当 初は海 上 警備行動として、7 月よりは新法の成立により海賊対処行動として海 上 自衛隊艦船 、および海 上保安官が 派遣されて いる。これ らの海 賊 対 処、さらに ハイチ、及 びパキスタ ンにおける 自然災害の 発生に 際 しての国際協力は、2009 年 9 月における政権交代後も粛々と実行さ れている。

五 結論

2010 年 6 月に菅直人政権が誕生し、同年 9 月より岡田克也に代わ り前原誠司が外務大臣に就任する。前原外相は、2011 年 1 月に訪米 先 の戦略国際 問題研究所 において、 主要な政策 演説として アジア 太 平洋について語っている。

覇権の下ではなく

‧‧‧‧‧‧‧‧、協調を通じて‧‧‧‧‧‧アジア太平洋地域全体を発 展させることが、各国の長期的利益と不可分一体であるとの基 本的な考え方に立ち、新しい秩序を形成すべきです。その一環 として、途上国の開発と経済成長を支えてきたインフラの整備 に加え、法の支配、民主主義、人権の尊重、グローバル・コモ

ンズ、知的財産権の保護を含む自由で公正な貿易・投資ルール といった制度的基盤‧‧‧‧‧

を整備していくことが必要です。

日本は、これまでも貿易・投資、ODA 等を通じてアジア太平 洋地域の持続的成長に貢献するのみならず、様々な地域協力の 推進に努力してきましたし、今後も引き続き努力を続けます。

とくに、日本は、米国とともに‧‧‧‧‧‧

、ASEAN が地域協力において 果 た す 中 心 的 役 割 を 重 視 し て き ま し た 。 今 後 も 2015 年 の ASEAN 共同体構築や、連結性強化を通じた ASEAN 統合を支援 していくことが重要と考えています。また、ASEAN を中心に 発展する様々な枠組みの中では、東アジア首脳会議(EAS)が ありますが、EAS への米国の参加は日本がかねてより呼びかけ ていたもので、日本は昨年の米国及びロシアの参加決定を歓迎‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧‧

しています

‧‧‧‧‧49

。(傍点引用者)

すでに、こ こに「東ア ジア共同体 」の面影を みいだすこ とはで き な い。アメリ カにおいて 行われた演 説という性 格もあるに せよ、 ア ジ ア太平洋の 地域主義が 強調され、 そして東ア ジアの制度 構築に お け るアメリカ の役割を歓 迎している 。それが望 ましいかど うか、 そ れ は本論文が 評価を与え るものでは ない。しか し、あれほ どまで に 前政権が強調した、「東アジア共同体」構想は、鳩山政権の退陣とと も に、再び持 ち出される ことはなく なっている 。そして、 普遍的 な 価 値の実現の ための「制 度的基盤」 を「覇権の 下ではなく 、協調 を 通じて」求めていくことが示されている。

49 前原外務大臣外交演説「アジア太平洋に新しい地平線を拓く」戦略国際問題研究所

(ワシントン)2011 年 1 月 6 日。なお、2011 年 3 月より、松本剛明が外務大臣とな

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