ここまで第二章と第三章で、中国と EU それぞれの「包括的戦略 パー トナーシッ プ」認識を 、明らかに してきた。 本章では、 それ ら を踏まえて中国と EU のそれぞれパートナーシップ認識を比較する 事で 、両者が今 後の関係発 展をどのよ うに捉えて いるのか、 その 方 向性を考察する。
中国、EU はともに互いを戦略パートナーシップとして、今後の国 際 社会におい て多くの分 野かつ重層 的なレベル で協力する 必要性 が あ ることを認 めている。 そして、そ の手段とし ては様々な レベル で の 対話を行い 、情報の共 有と信頼の 醸成が必要 であるとい う点に お いても共通の認識を有している。この共通認識に基づいて、2003 年 以後多くの協議の場が提供されてきた。
他 方 で 当 然 な が ら 意 見 の 相 違 も 見 ら れ る 。 特 に チ ベ ッ ト 問 題 で は、中国側は、EU 要人のチベット訪問を歓迎するとしているが、ダ ラ イ ・ ラ マ ・ チ ベ ッ ト 亡 命 政 権 と の 接 触 は し な い よ う に 求 め て い る。それに対して EU は平和と安定のために中国とダライ・ラマと の 間で現在行 われている 直接コンタ クトを深め るよう両者 を促す と して、ダライ・ラマ側との接触も否定していない。中・EU 間でこう し た意見の不 一致が存在 するのは、 当然であり 、中国側も それを 承 知している。ただ、ここで指摘しておきたいのは、中国と EU が今
後 両者の関係 をどのよう に発展させ たいと考え ているのか 、その 発 展プロセスに対する認識の差異である。
まず、中国側から見てみる。第二章で指摘したように、1998 年の
「建設的パートナーシップ」関係時には、中国自身 EU との関係の 在り方を明確に位置づける意思はまだなかったといえる。また、2001 年の「全面的パートナーシップ」の際にも政策文書を提示せずに 2003 年になりようやく初の対 EU 政策文書を作成した事からも、中国の EU 認 識 は 中 国 自 身 が 指 摘 し て い る よ う な 「 建 設 的 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 」から「全 面パートナ ーシップ」 そして「全 面的戦略パ ートナ ー シ ップ」へと 意識的に積 み上げ式に よって発展 させていっ たもの と い う よ り は 、 そ れ ま で 経 済 的 な 関 係 を 重 視 す る 一 方 で 、 明 確 な EU 政 策を提示し てこなかっ た中国が「 全面的戦略 パートナー シップ 」 で、ようやくにして EU を対外政策の重要な柱の一つに位置付ける ようになったという理解の方が妥当であろう。
さらに、「中国が、国際関係、特に対西側諸国との関係において重 視しているのは、段階的な発展であり、大同小異の発展形式である。
歴 史的に見て も、冷戦以 前から日中 関係をはじ め多くの国 家と段 階 的 な発展をと げてきた。 この段階的 な発展とは 、主に(民 間)経 済 関 係から政治 的な関係へ と二国間関 係を発展さ せるという プロセ ス で あり、さら に重要なの は二国間関 係における 相違点を棚 上げし て 関係の強化を図るというものであった。EU に対しても同様で、「対 EU 政策文書」においても中国側の対 EU 政策の目標は「共通点を見 つ けだし、異 なる点は残 しておく」 という部分 にもそれが 表れて い る 。中国は、 今後もチベ ット問題や 人権問題等 の政治問題 の解決 を 進 めるのでは なく、棚上 げすること に重点を置 いており、 中国に と って今後の EU との関係発展は、積み上げ式が前提となっていると いえる。
中国が、問題解決を棚上げした積み上げ方式による中・EU 関係の 発展を模索しているのに対して、EU は逆の発展プロセスを模索して いる。EU は、1998 年の時点ですでに、中国との「包括的戦略パー トナーシップ」を目標として設定していた。2001 年の「包括的パー トナーシップ」と 2003 年の「包括的戦略パートナーシップ」はその 目 標を達成す るためのプ ロセスをよ り具体的な 条件や手段 を示し た ものであるにすぎず、EU の対中国政策の根幹は依然として 1998 年 の目標である。
そして、EU は「包括的戦略パートナーシップ」を成熟させるため に は、中国の 民主化や開 かれた国家 となる事が 必要である として 、 中 国にとって 「デリケー トな問題」 であるチベ ット問題や 人権問 題 に 対 し て も 懸 念 を 表 明 し 続 け る 事 を 明 言 し て い る の で あ る 。 さ ら に 、こうした 問題の解決 に向けた支 援は必ずし も「トップ ダウン 」 式 にとられた ものとは限 らず、市民 を巻き込ん だ草の根活 動を含 め たものでなければならないとまで述べている。
このように EU にとっての中国との関係の発展とは、中国が EU の 設 定する目標 をどれだけ 達成できた かという点 が重視され ている 。 中 国が積み上 げ方式によ って問題の 棚上げをは かっている のにに 対 して、EU は全く逆のプロセスから関係の発展を捉えているといえる のである。2006 年に発表された新たな政策文書「EU中国:より緊 密 な パ ー ト ナ ー 、 増 大 す る 責 任 」( 原 題 : EU-China: Closer partner, growing responsibilities)に おい ても「 責任 」とい う項 目が加 えら れ たが、依然としてパートナーシップは 1998 年の目標を実現する手段 であると位置付けられている点に変わりはない。
六 おわりに
本稿では、中国と EU の政策文書に着目して、双方がどのように
パ ートナーシ ップ関係を 発展させて いこうと考 えているの かを明 ら かにする事を目的としてきた。
「対 EU 政策文書」において中国は EU との関係のパートナーシッ プ関係を、「建設的パートナーシップ」、「包括的パートナーシップ」
そ して「包括 的戦略パー トナーシッ プ」へと関 係が発展し ている と い う捉え方を している。 この関係発 展観は中国 外交の特色 のひと つ で あ る 段 階 的 発 展 方 式 と お な じ も の で あ る 。 つ ま り 、 中 国 の 対 EU パートナーシップ発展認識は、「加点式」の関係発展といえる。
対する EU のパートナーシップ観は 1998 年に策定された「中国と の包括的パートナーシップに向けて」を基とし、その後さらに 2001 年と 2003 年に EU は政策文書を策定したが、中国のように段階的に パートナーシップを強化してきたという認識では無い。2001 年、2002 年に策定されたものは、内容に若干の修正を加えつつも、「中国との 包 括的パート ナーシップ に向けて」 の目標に対 する達成度 および そ れ に向けた具 体的政策が 基軸となっ ている。そ の中には、 中国が 国 内 問題と位置 付けている 人権問題や チベット問 題も含まれ ている 。 つまり、EU のパートナーシップ発展認識は中国に対するコミットメ ン トが前提と なっている のである。 これはいわ ば「減点式 」の関 係 発展観といえるであろう。
このように、中国側は EU との関係を、「小異」を残しながらも「大 同 につく」こ とによって 発展させて いこうと模 索している のに対 し て EU 側は、中国側の言葉を借りれば、「大同につく」ことで(ある いは 「大同につ く」ために )、「 小異」 にコミット メントする こと が 関係発展の前提となっているのである。2008 年のチベット問題をめ ぐる対立や EU 内における対中アプローチの見直し議論などもこう した関係発展プロセスに対する認識の差異が根本的な原因である。
こ うした 状況 は中国 側も 認識し てお り、首 脳会 談をキ ャン セルし
た翌年の 2009 年の首脳会談の場で、温家宝首相が「中・EU 戦略協 力 でもっとも 重要なもの は、相互尊 重・内政不 干渉の原則 に照ら し 合わせて、敏感な問題を適切に処理し、中・EU 関係が一時の事態の 影響を受けない事である」と述べている38。また、懸案事項が中・EU 関 係全体に大 きな影を落 とさないよ うにするた めには、引 き続き 各 分 野における 多重なレベ ルでの対話 メカニズム を構築して いくこ と が必要であろう。
中国は、EU との関係において、常に両者の間に根本的な利害関係 が存在しないことを強調している。しかし、中・EU 関係における「小 異 」である人 権問題など は中国にと っては干渉 を許さない 問題で あ り 、これにコ ミットメン トすること がパートナ ーシップ関 係の発 展 であるという認識にたつ EU との関係の構図は、将来的に根本的な 利害対立へと変化する要因となりうる。今後も中・EU 関係は経済的 に も政治的に も発展して いく事は事 実であろう 。しかし、 その関 係 は 必ずしも「 根本的な利 害対立」が ないわけで はなく、常 に顕在 化 する可能性のある構図のうえになりたっているのである。
38 「溫家寶與歐盟領導人會見記者時講和」2009 年 5 月 21 日、http://www.fmprc.gov.cn/
chn/pds/gjhdq/gj/oz/1206_46/1209/t563653.htm。