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高齢女性の肩関節の可動域と着衣動作との関連 - J-Stage

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Academic year: 2023

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1. 緒 言

衣服の着脱は日々, 頻繁に行われることから, その 容易性は重要である. われわれは先に, 構造の異なる 3種類の上衣の着脱のしやすさについての官能評価と 着衣動作の所要時間の比較を行った. 着衣動作を区切 り, 動作の所要時間を比較した結果, 高齢女性では原 型に近いゆとりしか加えなかった上衣では, 片方ずつ 袖に腕を通す場合の後から通す方の袖ぐりに手首を通 すまでの動作の所要時間が長くなり, 着にくいと評価 されることが明らかになった. しかし, これには個人 差も見られた (渡邊等 2009).

被服の着脱動作は広範囲の骨格や関節, 筋の運動が 複雑に関連して行われる運動ではあるが, 主として上 肢帯の運動機能が影響していると考えられる. これま でに, 着脱行動に関わる身体機能の加齢変化として, 身体各部位に痛みが発症することや手指の巧緻性が低 下すること (岡田 2005), 肩関節の可動域の減少によ り手が届く体表面積が狭まること (岡田 1999) など が報告されている. また, 伊藤 (1973) は高齢者の関 節可動域について肩関節の屈曲, 外転は可動域制限を 受けやすい, つまり正常値と比較して可動域の減少が 著しい関節運動であるとしている. したがって, この

高齢女性の肩関節の可動域と着衣動作との関連

渡 邊 敬 子, 中 井 梨 恵

, 岡 村 政 明

**

, 大 村 知 子

***

, 矢井田 修

****

(京都女子大学短期大学部, 京都女子大学大学院博士前期課程, **岐阜大学工学部,

***静岡大学教育学部, ****京都女子大学家政学部) 原稿受付平成 20 年4月4日;原稿受理平成 21 年1月 10 日

Motion Analysis of Elderly Women's Dressing for Clothing Design

Keiko W

ATANABE

, Rie N

AKAI

,

Masaaki O

KAMURA

,

**

Tomoko O

HMURA***

and Osamu Y

AIDA****

Kyoto Women’s Junior College, Kyoto 605 8501

Graduate School of Home Economics, Kyoto Women’s University, Kyoto 605 8501

**Faculty of Engineering, Gifu University, Gifu 501 1193

***Faculty of Education, Shizuoka University, Shizuoka 422 8529

****Faculty of Home Economics, Kyoto Women’s University, Kyoto 605 8501

With the aim of designing a jacket that an elderly person can put on without difficulty, the motions of putting on jackets (Jacket A, basic ease; Jacket B, like Jacket A but with two pleats added to the back so that the back part can become wider) were recorded with eight digital video cameras followed by three-dimensional motion analysis in 46 healthy elderly women (mean age, 75.1 years). The active range of motion of the acromioclavicular joint and the angle of the upper limb were also measured. The maximal adduction angle of the shoulder joint was negatively correlated with the time it took to put the second wrist through the armhole of Jacket A (r=−0.48). By studying the position of the arm, the following was clarified: since the maximal horizontal adduction of the shoulder generally decreased in elderly women compared with younger women, the subjects adducted the upper limb to raise the wrist so that it could reach the armhole of Jacket A. When the maximal horizontal adduction of the shoulder decreased, it took the subjects longer to put on the jacket and they experience difficulty. It was easier for subjects to put on Jacket B because they could pull the armhole forward to the wrist.

(Received April 4, 2008; Accepted in revised form January 10, 2009)

Keywords:active range 自動可動域, shoulder joint 肩関節, motion time analysis 動作時間分 析,3D motion analysis 3 次元動作分析, clothing design 衣服設計, putting on motion 着衣動作.

(2)

肩関節の可動域の減少が着衣を困難にする要因の一つ であり, これに個人差があるのではないか推測できた.

本研究では肩関節の可動域と着衣動作との関連を明 らかにすることを目的として, 肩関節の可動域を定量 的に捉え, これと着衣動作の所要時間との関連, 着衣 動作時の肩, 肘, 手首の位置関係との関連などについ て検討した. 関節可動域について, 医療やリハビリテー ションの分野では, 計測者が被験者の関節を動かして, 動かしうる角度 (他動可動域) を万能角度計 (univer- sal goniometer) などを用いて計測するのが一般的で ある. しかし, 本研究では, 介助を受けず自分で衣服 を着脱している人々の衣服の着脱が困難となる要因を 身体機能の面から明らかにするために, 被験者自身が 関節を動かす自動可動域を独自に定義し計測した. な お, 留具については先行研究 (猪又と中村 1997;大 村等 2003) が見られるため, 今回は解析の対象とし なかった.

2. 研究方法

資 料

実験は, 2004 年9月, 2005 年6月, 2007 年9月に 高齢女性を対象に, 2004 年 12 月, 2006 年8月に若年 女性を対象に行った. 被験者は愛知県一宮市の老人ク ラブに所属し, 一人で実験会場に来場できる程度の自 立した高齢女性 71 名と, 比較の対象としての関西在 住の若年女性 32 名である. このうち, 例数が少なかっ た両腕を同時に通す着衣パターンの者, 実験中に体表 につけたLEDがはずれるなどのトラブルがあった者 を除外した高齢女性 46 名, 18〜23 歳の若年女性 23 名 を 解 析 の 対 象 と し た . 高 齢 女 性 の 年 齢 構 成 は 65〜74 歳 23 名, 75〜84 歳 19 名, 85〜94 歳3名, 95〜99 歳1名で, 平均年齢は 75.3 歳であった. 被験 者の身体計測値はTable1 に示すとおりであり, 全国 の平均値 (人間生活工学研究センター 1997) と比較

した結果, 有意な差は見られなかった.

さらに, 肩関節の可動域の制限による着衣への影響 について調べるため, 若年女性の肩関節の可動域を, 後述のような高齢女性で着衣に問題が生じる被験者と 同程度 (外転運動が 120°以下, 水平屈曲運動 (肘屈 曲時) が−10°以下) に制限して着衣動作実験を行っ た. 制限は, 被験者の体幹上部を軽く前屈することに よって加え, Fig. 1のようにテーピング用テープを片 側につき前後各1本ずつ貼って固定した. 被験者は若 年女性 11 名 (20〜25 歳, 平均 22.3 歳) である. 被 験者の身体計測値はTable 1に示すとおりである.

実験方法

本研究では, LEDマーカーをFig. 2に示す 12 か所 に貼り, 着衣・脱衣の動作の過程を, 可視光カットフィ Fig. 1. The method of restricting the active range of

the shoulder joint Table 1. The body sizes of the subjects

Mean S.D. Max. Min.

cm cm cm cm

Height 156.2 3.4 164.4 152.6

Bust 83.1 3.4 87.6 78.5

Sleeve 51.2 2.2 56.2 48.4

kg kg kg kg

Weight 50.4 3.0 57.4 47.2

Fig. 2. The position of the twelve LED markers

(3)

ルターを取り付けたビデオカメラで撮影した. これは 衣服を透過した赤外光をビデオカメラで補足すること によって, 衣服が遮蔽物となり体幹部や上肢の動きを 計測できなくなることを避けるためである. なお, マー カーの電源はコードによって着衣脱動作が妨げられな いようボタン電池を用いた. マーカーの貼り付け位置 は頸椎点, 肩峰点, 尺骨の上端点, 橈骨の上端 (橈骨 頭) 点, 尺骨の下端点, 橈骨茎突点および胸椎上の肩 甲骨下角の高さの点である. ビデオカメラはFig. 3 に示す位置に8台設置した. このビデオ画像を3次元 動作分析システムIMpro-3D(ヒューテック社) を用 いて解析した.

照明は高齢者の視力に配慮して, 蛍光灯のみで 480 ルクスを確保した. 被験者が薄着になることを考慮し て室温 26℃, 相対湿度 50%とした.

実験に用いた上衣はFig. 4に示すようなA, B, C の3種類である. Aは旧文化式原型の後身頃のバス トに2cmのゆとりを入れたノーカラー, 二枚袖のジャ ケットである. 生地の諸元はTable 2に示すとおりで ある.

伸縮性や裏地のすべりなどによる影響を避けるため, 伸縮性が少ない生地を選定し, 裏地は付けず一重仕立 てとした. Bは背幅が広がる構造を意図して, Aの背 中に2箇所のプリーツ (合計 24cm) を入れたもので あり, Cは身頃の袖下を2cm繰り下げ3cm外側に 出すことで袖下に三角マチを入れる代わりに同様のゆ とりを入れたものとした. これは外観に大きな影響を

与えず, 袖ぐりの繰り下げによって腕の上挙が困難に ならない量として設定した. 被験者のバスト寸法の範 囲を考慮して4cmピッチの6サイズを作製し, 被験 者のバスト寸法から適合するサイズの上衣を選択した.

袖丈については身体計測値に基づいて, 袖口を折り返 して調節した. 官能評価の偏りを避けるため着用順は 被験者ごとにランダムに割り当てた. インナーには共 通のタンクトップを着用してもらった.

肩関節の可動域については, 実験者の誘導で被験者 に3種の肩関節運動をしてもらい, 3 次元動作分析シ ステムを用いて肩と肘のなす角度の最大値を求めた.

Fig. 5に示すように, 上肢を矢状面と平行に前方と後

方へ可能な限り挙上する肩関節の屈曲伸展運動, 上肢 を前頭面と平行に可能な限り外転する外転運動, 上肢 を肩の高さで水平に外側へ伸展する水平伸展運動の3 つの運動を採り上げた.

解析方法

前報 (渡邊等 2009) と同様, 着衣動作は 「動作の Fig. 3.The placement of digital video cameras

Fig. 4. The flat pattern of the three types of jackets that are used in this study

(4)

開始 (ただし, ジャケットを手に取り, 形を確認する などの動作を除き, 実際に着る動作に入るタイミング のこと)」, 「先の腕を袖ぐりに入れ始める」, 「先の腕 を袖口から出す」, 「後の腕を袖ぐりに入れ始める」,

「後の腕を袖口から出す」 と5つのタイミングで区切っ た. さらに, 5 つのタイミングの間をそれぞれ̀フェー ズ 1:先の腕を通すための準備時間' ̀フェーズ 2:先 の腕を通す時間' ̀フェーズ 3:後の腕を通すための

準備時間' ̀フェーズ 4:後の腕を通す時間' とし, それぞれの所要時間を算出した. 本報では肩関節の可 動域について, 高齢女性と若年女性の差異や高齢女性 間での年齢との相関, 着衣動作の所要時間との関連を 検討した. さらに3次元動作分析によって算出した着 衣動作時の肩峰点, 肘点, 手首点の位置関係と着衣動 作の所要時間との関連についても検討した.

3. 結果および考察

高齢女性と若年女性の肩関節の可動域

Table 3は高齢女性と若年女性の肩関節の可動域を

比較した結果である. 若年女性に比べて高齢女性は 10°〜20°狭く, 有意な差が認められた. 渡辺等 (1979) の他動可動域の調査では, 20〜30 歳の被験者に比べ て 60〜80 歳の被験者は, 屈曲, 伸展, 外転, 水平伸 展いずれも 5°〜18°狭く, 本研究と同様の傾向を示し ていた.

高齢女性の中には年齢が 67 歳から 97 歳までの広い 範囲の被験者がいるが, 3 種類とも年齢との有意な相 関は見られなかった. 若年女性より可動域は狭いもの の, 高齢女性の間では可動域の大小と年齢は関連して いないといえる.

肩関節の可動域と着衣動作との関連

次に肩関節の可動域と各着衣動作の所要時間の相関 を見ると (Table 4), 多くの項目で相関が見られない 中, 上衣Aの ̀フェーズ 3:後の腕を通すための準 備時間' と外転運動の可動域とに危険率 1%水準で負 の弱い相関が見られた. そこで, 外転運動の可動域に よってどの程度の所要時間差が見られるか, 可動域に よって4グループに分け, これを要因としてフェーズ ごとの所要時間の分散分析を行った. グループは, 外 転の可動域が 120°以下 (5 名), 121°から 145°(12 名), 146°から 170°(25 名), 171°以上 (3 名) の4グルー Table 2. The contents of the fabric of the jacket

used in this experiment

Material Polyester100%

Fabric type Mat weave

Thickness(mm) 0.45

Weight(g/m) 160.45

Yarn density Warp 42

Weft 32

Tensile property

WT(g・cm/cm) Warp 19.18 Weft 11.73

LT Warp 0.63

Weft 0.68

RT(%) Warp 69.10 Weft 66.95

Shear property

G(gf/cm・degree) Warp 0.39

Weft 0.42

2HG(gf/cm) Warp 0.73

Weft 0.86

2HG5 (gf/cm) Warp 1.53

Weft 1.70

Tensile elongation(%) Warp 57.53

Weft 47.21

Tensile strength(N) Warp 495.72

Weft 442.55

Fig. 5 Definition of the motions of the active range of the shoulder joint

(5)

プである.

多重比較の結果 (Fig. 6), 原型に近い上衣Aのフェー

ズ3のみに有意な差が見られ, 120°以下のグループは 146°から 170°および 171°以上のグループに比べフェー ズ3の所要時間が有意に長かった. 一方, 背幅が広が る上衣Bではグループ間に有意な差が見られず, 可 動域が 120°以下のグループであっても他のグループ と同程度に短い. 背幅が広がる場合, 可動域の大きい, 小さいによる所要時間の差は見られなかった. フェー ズ3とは片腕を通し終えた後, もう一方の手首を袖ぐ りに入れるまでの袖ぐりを探る時間である. 外転運動 の可動域が 120°以下のグループでは, 上衣Aのよう に原型に近い型でゆとりが少ない構造の上衣を着衣す る際, 後から通す方の袖ぐりを探って手首を入れるま でに時間がかかる. 言い換えると, この動作が困難に なると推察できた.

Table 3. Comparison of the active range of the shoulder joint between the elderly women and the young women

(°) Item

Elderly women

t-test

Young women

N Mean S.D. Max. Min. N Mean S.D. Max. Min.

Flexion and

extention 46 199.5 19.8 238 158 ** 23 223.0 15.7 260 197

Abduction 46 148.8 17.4 174 110 ** 23 167.3 8.3 183 148

Horizontal

extention 30 30.1 12.6 58 8 14 43.3 12.2 60 23

:p<0.01,**:p<0.001.

Fig. 6 Result of the multiple comparison of the mo- tion time of Phase 3 among the 4 groups di- vided by the active range of the abduction

Table 4. Correlation coefficients between the motion time and the active range of shoulder joint among the elderly women

Item Flexion and

extention Abduction Horizontal extention Phase 1: prepare to put the first wrist in the armhole −0.41 −0.10 −0.14 Phase 2: put the first arm through the sleeve 0.26 −0.12 0.40 Phase 3: prepare to put the second wrist in the armhole −0.29 −0.48 −0.09 Phase 4: put the second arm through the sleeve −0.18 0.00 −0.18 Phase 1: prepare to put the first wrist in the armhole −0.37 0.11 0.03 Phase 2: put the first arm through the sleeve −0.15 −0.31 0.14 Phase 3: prepare to put the second wrist in the armhole −0.13 −0.27 −0.01 Phase 4: put the second arm through the sleeve −0.19 −0.10 0.04 Phase 1: prepare to put the first wrist in the armhole −0.24 0.04 0.20 Phase 2: put the first arm through the sleeve 0.14 −0.08 0.33 Phase 3: prepare to put the second wrist in the armhole −0.21 −0.15 0.06 Phase 4: put the second arm through the sleeve −0.18 −0.10 −0.25

:p<0.01,**:p<0.001.

JacketCJacketBJacketA

(6)

この理由について, 後から通す袖ぐりに手首を入れ る瞬間の肩, 肘, 手首の位置関係から検討した. その 結果, 若年女性は手首を肩よりも後方へ約 13°〜20°引 いているが, 高齢女性では手首は肩よりも 20°以上前 で袖ぐりに入れていることが明らかとなった (Table

5). そこで, 被験者のうち高齢女性 12 名と若年女性 12 名に肘を屈曲させた状態で手首を肩よりどの程度 引くことができるのか (水平屈曲運動 (肘屈曲時) と

称する, Fig. 7) を調べた. その結果, 高齢女性は平

均−5°(標準偏差 15°), 若年女性は平均 23°(標準偏 差 21°) であり, 高齢女性は腕を屈曲した状態で後ろ へ引く動作が困難であると考えられた.

さらに, 後から通す袖ぐりに手首を入れる瞬間の肘 と肩の高さの関係, つまり肩の高さから肘の高さを引 いた値を比較したところ (Table 6), 上衣Aに比べ て上衣Bでは低い位置で袖ぐりに手首を通し始めて いることが明らかとなった.Fig. 8はある被験者のフェー ズ3における肩, 肘, 手首の軌跡を示したもので, 太 線で結ばれた3点は, 手首を袖ぐりに入れる瞬間, つ まりフェーズ3の最終フレームの位置関係を示したも Table 5. Comparison of the position of the wrist

relative to that of the shoulder on the hori- zontal plane between the elderly women and the young women

(°) Elderly women

(n:46) t-test

Young women (n:18)

Mean S.D. Mean S.D.

Jacket A −23.44 28.84 ** 14.73 35.46 Jacket B −22.55 27.83 ** 12.79 22.13 Jacket C −23.21 29.19 ** 20.36 21.13

:p<0.01,**:p<0.001.

Fig. 7. Definition of the horizontal extension of the shoulder joint with a bending elbow

Table 6. Comparison of the height of the elbow rela- tive to the shoulder between Jacket A and Jacket B

(mm) Jacket A

t-test

Jacket B

Mean S.D. Mean S.D.

Elderly women

(n:46) 138.0 110.9 191.3 79.8 Young women

(n:23) 205.9 96.6 207.3 62.7

:p<0.01,**:p<0.001.

Fig. 8 The position of the second arm that the subject put in the armhole at the moment of putting the wrist in the armhole and the locus of the shoulder, elbow and wrist of the second arm for Phase 3

(7)

のである. なお, この被験者の外転の可動域は 112°

である. Fig. 7から, 後から通す袖ぐりに手首を入れ

る瞬間に上衣Aでは肘を高い位置に挙げて, つまり 外転させて手首を袖ぐりに入れていることが分かる.

一方, Bでは外転させることなく袖ぐりに手首を入れ ている.

したがって, 高齢女性は肘を屈曲した状態で手首を 肩より後ろへ引くことが難しく, 原型に近い上衣A では手首が袖ぐりに届かないため, 上肢を外転させて 肩の上から手首を袖ぐりに近づけようとする. 可動域 の大きい被験者はこれをスムーズに行うことができる が, 外転運動の可動域の小さい被験者はこれが困難と なり, 所要時間が長くなると考えられた. これに対し て, 背中にプリーツを入れた上衣Bは背幅が広がる ため, 袖ぐりを手首のある位置まで引き寄せることが できる.

これらのことを検証するため, 若年女性に外転運動 が 120°以下, 水平屈曲運動 (肘屈曲時) が−10°以下 になるようテーピングによって可動域を制限した. 結 果として, 前者の平均が 110°(標準偏差 18°), 後者 の平均−9°(標準偏差 13°) となった. 被験者の制限 を受けていない場合の可動域は, 平均 163°(標準偏 差 4°) と平均 23°(標準偏差 21°) であった. この結 果, 高齢女性のように水平伸展運動 (肘屈曲時) と外 転運動が制限された場合には, 制限がない場合に比べ てフェーズ3が有意に長かった (Table 7). つまり, 手首を肩より後ろへ引くことができない場合, 外転運 動の可動域が小さいと一方の腕を通し終えた後, もう 一方の袖ぐりに手首を入れるまでの袖ぐりを探る動作 が困難になることが示された. これは前述の高齢女性 の結果を裏付けるものと考えられた.

一方, 外転運動のみを制限した場合 (平均 114°) では, 可動域の制限がない場合と有意な差が見られな かった. このことは可動域の条件が1つでも異なると, 着衣の困難の生じ方に差が出ることを意味しており, 改めて着衣動作の問題は関節可動域のような身体の機 能との関連から議論される必要があることが明らかに なった.

他方, 上衣Cのように袖下にゆとりを入れた構造 は高齢者服や介護服で見かけられるが (小林と田中 2 005), 関節の可動域との関連は見られず, 袖幅が広い ために袖通しがしやすくなるものと考えられた.

4. 要 約

身体の運動機能に対応した被服設計を行うため, 肩 関節の可動域と着衣動作との関連を明らかにすること を目的とした. 本研究の資料は, 高齢女性 46 名と若 年女性 23 名である.

(1) 高齢女性は若年女性に比べて, 肩関節の可動域 が平均で約 20°と有意に狭い.

(2) 高齢女性の間では年齢と可動域との相関は見ら れない.

(3) 原型程度のゆとりしか入っていない上衣Aで は, 外転運動の可動域が 120°以下の被験者は, 後か ら通す袖ぐりに手首を入れる動作が困難であった. こ れは高齢女性では高齢女性は肘を曲げた状態で手首を 肩よりも後ろに引くことができないため, 肘を外転さ せて肩の上から手首を袖ぐりに近づけようとするため である.

外転運動の可動域が小さい場合, この動作が困難と なるといえた. これに対して背中にプリーツを入れた 上衣Bは背幅が広がるため, 袖ぐりを手首のある位 Table 7. Comparison of the motion time between the restricted and the not restricted

condition of the shoulder joint

(s) Restricted movement of horizontal

extention bending arm and abduction t-test

No restriction

Mean S.D. Mean S.D.

Phase 1 1.82 1.16 1.36 0.72

Phase 2 1.40 0.55 1.17 0.35

Phase 3 2.02 1.01 1.29 0.57

Phase 4 2.95 1.78 1.77 0.81

:p<0.01,**:p<0.001.

(8)

置まで引っ張ることができる. そのため, 肘を外転さ せることなくスムースに手首を袖ぐりに入れることが できる. したがって, 高齢女性のように手首を肩より 後方へ引く動作と外転運動が困難な人にとって上衣B は着衣しやすいといえる.

本研究で高齢女性の着衣動作が困難となるメカニズ ムと着衣動作を定量的にとらえるための手法を明らか にすることができた. 今回, 実験に使用した上衣B は背幅が最大で 24cm広がるように設計されている.

高齢者や障害者用の被服設計やリフォームに応用する ため, 今後は可動域の程度に対応したゆとり量および, 適切なゆとりの位置について検討する必要があると考 えられた.

本研究を実施するにあたり, ご協力いただきました 被験者の方々, 計測にご協力いただきました皆様に深 く感謝いたします.

なお, この研究は平成 16〜17 年度科学研究費補助 金基盤研究 (C) (課題番号 16500497 研究課題 「衣服 のユニバーサルデザインのための着脱動作の解析」) によるものです.

引 用 文 献

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伊藤直栄 (1973) 老人の関節可動域の研究, 浴風会調査研 究紀要, 57, 17 47

小林重雄, 田中美智 (2005) 介護と衣生活 , 同文書院, 72

人間生活工学研究センター (1997) 日本人の人体計測デー タ,人間生活工学研究センター

大村知子, 稲見直子, 川口 綾 (2003) バリアフリーの衣 服デザインのための基礎的研究 視覚障害における留め 具の装着性, 静岡大学教育学部研究報告書 (自然科学篇), 53, 53 66

岡田宣子 (1999) 高齢者服設計のための基礎的研究 若年・

中年との比較に基づく高年の身体運動機能と着脱動作, 民族衛生,65(4), 182 196

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(2009) 高齢女性の前あき上衣の構造と着衣動作および 着やすさとの関係, 家政誌, 60(2), 111 121

參考文獻

相關文件

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