1 国際食料価格高騰への政策対応選択
食料価格高騰において低所得層、特に貧困層が最も大きなダメジ ーを受けた。従って、2006年以降食料価格高騰への対応策について は、セーフティネットによる国内貧困者層への援助と国内食料物価 の安定に繋ぐ短期的緊急措置が必要とされる。
表 7は 世 界 銀 行 が ま と め た こ の 二 つ 緊 急 課 題 に 対 応 す る 政 策 の 選 択を示している21。
セーフティネットには現金支払い(目標条件付)、給食付き労働、
食料援助と給食・栄養プログラム等の政策選択がある。現金支払い は所得、職業、地域などの条件付きで、特定弱者対象に現金または 食料券を与える。給食付き労働も特定対象に実施され、その運営コ ストは食料援助より安く上がる。食料援助は労働などの条件に制限 されず、実施のし易さにメリットがあるが、運輸コストと運搬ロス が生じる以外に、長期的になると農業生産にもマイナス影響を与え る。
国内食料物価の安定つまり高騰した食料価格の引き下げ策には目 標消費者の補助・配給、一般消費者補助、バッファーストックによ る供給増、輸入関税・付加価値税の削減、輸出禁止・制限、生産者 価格管理等の政策選択がある。特定対象に実施される目標消費者の 補助・配給は政府補助によって食料価格高騰の危害から免れるが、
21 World Bank (2008) “Rising food prices: Policy options and World Bank response,” p.11.
一般消費者補助と同じく、政府補助価格との差額を充たすため生産 者価格が低く抑えられ、長期的になると農業生産にマイナスの影響 が生じる可能性がある。
輸入関税・付加価値税の削減と輸出制限は国内食料供給を安定さ せるために施される。輸入関税・付加価値税の削減は財政収入の減 少が代価となり、またセーフティネットと併せて行う場合には財政 負担がさらに膨らむことで優先順位の低い目標消費者が犠牲になり 兼ねない。一方、輸出制限は国内食料価格の上昇にはあまり抑制の 効果がないものの、むしろ国内生産にマイナスの影響、そして海外 輸入国の食料価格高騰に大きな影響を及ぼしている。
バッファーストックは豊作または輸入による穀物余剰分を備蓄し て将来の食料供給と価格変動を安定させるために行う。1970年代以 来各国が食料価格の高騰を防ぐため備蓄在庫を備えてきたが、維持 管理コストの高さと国際食料価格が豊作による充分供給のため低水 準に維持されていたこと等から、備蓄在庫よりも国際市場から調達 した方が安上がりなため、1990年代にEU、米国、中国等主要穀物生 産国を中心に備蓄政策が在庫減少の方向へ見直された。しかし、2006 年からの価格急騰、輸出国の輸出制限等によって備蓄政策が各国に おいて再び重要視されるようになった。
ただ、輸入関税・付加価値税の削減、セーフテイネットを含む消 費者の食料補助、バッファーストック等の措置は各国とりわけ開発 国にとって大きな財政負担となる。また、国内食料安定供給のため に、こうした緊急対応措置以外に、農業生産の維持ひいては拡大を 引き起こす政策措置が他方では必要である。
表7 食料価格高騰下の政策選択(対象、有効性、経済性等)
(Targeted consumer subsidies / rations)
v v v
一般消費者補助
(Generalized consumer subsidies)
(出所)World Bank (2008) “Rising food prices: Policy options and World Bank response,”p.11, http://siteresources.worldbank.org/NEWS/Resources/risingfoodprices_backgroundnote
潜在的成長を引き出すための戦略投資等である。
表8は2007年中から2008年12月中旬までに世界101ヶ国におけるこ の二通りの対策の数を地域別に消費者、生産者と貿易政策別に示し ている。消費者、生産者と貿易政策別でみると、消費者特に都会部 低所得層が最も食料物価高騰の危害を受けたため、消費者対策の実 施数が最も多く、そのうち、社会保障と市場介入策が多かった。社 会保障関連策特に食料援助と食料補助金、市場介入関連策特に価格 統制と海外買い付けの食料調達が多く施された措置である。二番目 に多く施されたのは貿易対策であり、とりわけ関税削減等の輸入開 放と輸出数量制限の措置である。他方、農業生産の維持と拡大のた めに施された生産者対策の数が相対的に少なかったが、農業生産者 向け信用供与の拡大つまり農業生産投入と投資へのファイナンス措 置が多く施された。対策措置別の実施数で見ると、2007年中期から、
生産者向けの信用供与(62)と輸入関税・付加価値税の削減(59)が世界 中で最も多く採用されていた対策措置であり、そして消費者の食料 援助(30)、輸出数量制限(30)、消費者食料補助・配給(25)、価格統制 (25)、減税(23)、食料調達(21)、最低生産者価格(19)、他のセーフテイ ネッツト(11)、輸出価格管理(6)、バッファーストック(5)等の順であ る。
また地域ごとの政策別措置の実施数で見ると、北米・欧州・オセ アニアが貿易政策を中心とした展開に対して、アジア、アフリカ、
中南米は消費者を中心に対策が展開された。そのうち、中南米にお いては消費者対策の次に多い対策措置数が生産者対策であったが、
アジアとアフリカの方は貿易対策が次に多い対策措置数であった。
消費者対策の中、アジア、アフリカ、中南米はともに社会保障が主 であり、また食料援助が社会保障の主眼であった。市場介入の内、
アジアは食料調達、アフリカと中南米は価格統制が主であり、その
次に多い措置数はアジアが価格統制、アフリカが食料調達であった。
(出所)FAO (2009) FAOの世界食料と農業早期警戒システム(FAO/GIEWS)の統 計 、(http://www.fao.org/giews/english/policy/2.asp)。
そして、各対策措置の地域別の実施数で見ると、減税措置、食料
く実施されていた。
韓国 v v v v
中国 v o v v v
マレーシア v v v
タイ v o v
イ ン ド ネ シ
ア v v v v v
フイリピン v v o o v
ベトナム v
カンボジア v v v v v
ビルマ v v
ネパール v v
バ ン グ ラ デ
シュ v v v v v
パキスタン v v o v v v
インド o v v v
スリランカ v v
モンゴリア v v v
(注)1.実施時期、vは2008年10月まで、oはその後に施された対策項。2.シンガポール、
台湾とスリランカの資料はADB、他国はFAOから、但し台湾2008年4月の米輸出量 制限は台湾農業委員会からえた。3.FAOの世界食料と農業早期警戒システム (FAO/GIEWS)の統計とADB (2008) “Food Prices and Inflation in Developing Asia: Is Poverty Reduction Coming to an End?” Special Report on Apr. 2008, p.31より整理した。
http://www.fao.org/giews/english/policy/2.as, http://www.adb.org/Documents/reports/
food-prices-inflation/food-prices-inflation.pdf.
3 貿易規制対策
2006年以降の世界穀物価格の高騰に際して、各国政府は国内食料 安定供給や国内食料物価上昇の抑制などを目的とした様々な政策を 実施している。その国境措置として、輸入開放と輸出制限の措置が 施され、同時に行われた国もある。それは飲食習慣の変化により、
肉類、乳製品、油脂と飼料用穀物の輸入需要が増える一方、旧来農 産物の生産過剰が輸出に回されたからである。
輸出量の制限や輸出の禁止、輸出税の賦課といった輸出規制は前 出した101ヵ国を対象に行われたFAOの対応策調査によると、延べ36 ヶ国で実施された。その中、小麦の輸出規制を実施した国は、パキ
スタン、ボリビア等15ヶ国であり、カザフスタンも2008年4月に小麦 の輸出を一時的に停止したが、2008年の夏には再開している。また、
とうもろこしの輸出規制が十数ヶ国で実施され、大豆もアルゼンチ ン等で輸出規制が実施されている。特に、アルゼンチン、ロシア、
カザフスタン、インド等の主要な輸出国による輸出規制の実施は、
国際食料価格の急騰に拍車をかけたと見られる。
そして、前出表8と9を対照してみると、アジア特に東アジアと南 アジアは最も輸出規制を行った地域であったことがわかる。アジア の 輸 出 数 量 制 限 措 置 数 は14件で調査対象国が発動した総数の47%、
台湾を加えると15件で同50%、輸出価格管理措置数は4件で同67%を 占めている。一方、関税削減等の輸入開放措置数はアジアが18件で 調 査 対 象 国 が 発 動 し た 総 数 の31%、台湾、スリランカを加えると20 件で同34%を占め、アフリカの24件、41%より少なかった。
アジアにおいて、特に主食である米の輸出規制を実施した国は、
インド、ベトナム、中国等14ヶ国、台湾を付け加えると15ヶ国であ る。その内、国際食料価格騰貴による国内食料物価の高騰を抑制す るために、ベトナム、カンボジアは輸出禁止、台湾は輸出数量制限、
中国は輸出付加価値税の払い戻しを撤廃して新たに輸出税、パキス タ ン は 最 低 輸 出 価 格 を 施 し た 。 イ ン ド は 非 バ ス マ テ ィ 米 の 輸 出 を 2007年10月に禁止し、さらに、バスマティ米の輸出を2008年4月に禁 止した。2007年10月インドの米輸出禁止直後、タイ米の輸出価格の 上昇が一段と激化された。その後、インドは2008年10月中旬からグ レードの高い香り米の輸出を認めたが、最低輸出価格がトン当たり 1,200米ドルとの条件つきであった。ビルマはサイクロン(Nargis)
の損害により、一時的に輸出禁止を行った。しかし、タイはその国 内輸出業者が食料価格騰貴のために新規取引を中止したことで、逆
の損害により、一時的に輸出禁止を行った。しかし、タイはその国 内輸出業者が食料価格騰貴のために新規取引を中止したことで、逆