これからの世界食料需給状況については、表 4 に示されているFAO、
OECD、FAPRI、日本農林水産政策研究所の予測結果に基づき、検討 してみる。
FAO(2006)は世界の食料、栄養不足等の問題を検討するために、
世界の食料供給、栄養、農業等について2050 年までの長期実施見通 しをまとめた。FAO のこの予測は、2003 年に実施された 2030 年の 予測の改訂版としての中間報告である。世界全体の穀物の生産量、
消費量は、2050 年には 3 億トンを超えると見込まれている。先進工 業国では生産量が消費量を上回って増加する一方、開発途上国のう
ち東アジア地域は、消費量の伸びが生産量の伸びを上回る見込みで ある。そして 1 人当たり食料消費(カロリー・ベース)は、開発途 上国の 15.7%(1999/01 年の基準に 2050 年の増加率)を中心に増加 する見込みである。
OECD/FAO(2008)は各国の農業政策が世界の農産物需給に与え る影響の分析を目的に、2017 年までの中期的な世界食料需給見通し を実施した。世界の農産物価格高騰は次第に落ち着くと予測されて いるが、過去十年間の平均に比べ高い水準で推移する見込みである。
途上国の経済成長やバイオ燃料需要等を背景に、農産物需要が高ま り、需要量が価格に左右されづらくなる一方、気候変動等により供 給量は不安定化し、結果として農産物価格はますます不安定化する 見込みである。
FAPRI(2009)は米国議会等の委託を受けて、2017 年までの中期 的な世界食料需給実施見通しをまとめた。その予測はメルトダウン の手法により需給を調整する特徴がある。とうもろこし価格はエタ ノール用需要、飼料用需要等により 2007/08 年度にトン当たり 198 ドルまで高騰、その後 10 年間も高い水準を維持すると見込まれる。
また、小麦価格は生産損失のため 314 ドルまで高騰する可能性があ り、また 2017/18 年度には 264 ドルとなり、需要と供給よる調節が 行われると見込まれる。
日本農林水産政策研究所(2009)は食料危機懸念の高まり等によ り、日本の食料安定供給政策を立案する参考材料の提供を目的に、
米等の独自データを盛り込んで新モデルを開発して、2006年を基準 年に2018年までの中長期的な主要穀物等の世界的な需給の実施見通 しをまとめた。世界の食料需給は、中長期的には人口の増加、所得 水準の向上等に伴うアジア等を中心とした食用・飼料用需要の拡大 に加え、バイオ燃料原料用需要の拡大も影響し、今後とも穀物等の
在庫水準が低く、需給の逼迫状態が継続する見通しである。
日本農林水産政策研究所の予測では、2018年の世界人口はアジア、
アフリカ等の途上国を中心に増加し、76億人に達する見通しで、一 人当たりGDPも9千3百ドルまで増加する見通しである。所得水準の 向上等に伴い、2018年には一人当たり年間肉類消費量は35キロから 49キロに増加し、さらに人口の増加やバイオ燃料原料用需要の増加 などにより、世界の穀物消費量は2006年に比べて約5億トン増え、26 億トンに達する予測結果である。特に、飼料用等の穀物消費量は肉 類消費量の増加等から34%と高い伸び率を示している。
品目別食料需給の見通しについて、世界の肉類消費量は、家禽肉 が1.3倍、豚肉と牛肉が1.2倍とともに増加する。一方、穀物等の消費 量は、小麦と米は、人口増加に伴う食用需要の伸び等により1.2倍に 増加、とうもろこしは、畜産物生産量の増加に伴う飼料用需要やバ イオ燃料原料需要の増加から1.3倍に増加、大豆は搾油用等の食用需 要の伸びから1.2倍に増加する見通しである。
従って、2018年の食料価格は2006年以前に比して高い水準で、且 つ上昇傾向で推移する見込みである。2006年を基準とした穀物価格 は名目で34 46 %、実質で7 17% 上昇する。品目別の名目価格で、と うもろこしが46%、小麦が35%、コメが34%上昇すると予測した。但 し、穀物価格の見通しに投機資金の急激な動きは織り込んでいない。
また、肉類の価格も名目で31 41 %、実質で5 13 %上昇する見通しと なっている。
以上のOECD/FAO、FAPRI、日本農林水産政策研究所等の2018年の 中期予測結果をまとめると、穀物消費量は最高26億トンに最低24億 トン、そのうち、小麦最高7.5億トンに最低6.9億トン、米(精米)最 高に5.1億トンに最低4.6億トン、粗粒穀物最高13億トンに最低12億ト ン、とうもろこし9億トンとの予測である。穀物生産量は消費量に追
いつかないとの予測で、期末在庫量と在庫率(期末在庫/消費量)は、
穀物3.25億トン(12.6%)、小麦最高1.4億トン(21%)に最低1.2億ト ン(16%)、米最高に0.7億トン(13.9%)に最低0.67億トン(14.4%)、
粗粒穀物1.3億トン(10%)、とうもろこし1.2億トン(13%)等の低 位水準と予測されている。穀物価格と上昇率はトン当たり、小麦最 高272ドル(30%)に最低231ドル(-30%)、米最高450ドル(40.6%)
に最低335ドル(-7%)、とうもろこし最高195ドル(25%)に最低193 ドル(35%)との予測である。OECD/FAOは穀物価格の低下を予測し ているが、FAPRIと日本農林水産研究所は上昇すると予測している。
価 格 上 昇 率 に つ い て は 、 日 本 農 林 水 産 研 究 所 はFAPRIを上回る予測 である。価格予測が大幅にかけ離れていることは穀物需給について の見方の違いによると思われる。しかし、各予測はともに生産と消 費の逼迫状態を示している。穀物需要は堅実に成長する一方、生産 量は気候変化等によって不安定になりやすいことに、低水準の在庫 率を加えると、穀物価格の変動は激しくなると見られる。
さらに長期的な食料需給を需要面からみた場合、世界の人口は、
国連「World Population Prospects 2006」の推計によると、開発途上国 を中心に大幅に増加し、2007年の66.7億人が2050年に約1.4倍の92億 人に達すると見込まれている18。人口成長とFAOの一人一日当たりカ ロリー消費の成長推計(平均12.2%)による食料需要の増加に加えて、
バイオエタノールやバイオディーゼル等バイオ燃料の原料とする穀 物や植物油脂等の非食料の需要も増加する傾向にある。バイオ燃料 増 産 に よ る 穀 物 需 要 は 国 際 エ ネ ル ギ ー 機 関 (IEA) 「 World Energy Outlook 2006」によると、2005年から2030年にかけて約7.3倍に増加
18 UN (2007) “World Population Prospects The 2006 Revision-Highlights,” p.1.
するとの見通しである19。 2,654 → 3,070kcal 国 連 食 料 農 業 機 関
(FAO) 2050 年(2006 年 6 月 ) World agriculture:
towards 2030/2050 (Interim report)
注 : 各 数 値 は 、1999/01 年と 2050 年の比較である。
19 IEA (2006) “World Energy Outlook 2006,” OECD/IEA, p.385.
(生産量) (消費量)
度そして政策対応によって異なる。Dessus et al(2008)が推計した 2005 08 年の国別食料物価指数変動は表5に示されている。挙げられ た中低所得国の国内食料物価の上げ幅は世界主要穀物価格の上げ幅 には及ばないが、殆どの国はその消費者物価指数(CPI)より高く上 昇し、特にパキスタン、タンザニア、ボリビアエジプト等の食料物 価の上げ幅が顕著であった。そしてナイジェリアを除いて、殆ど国 の食料物価の上昇は非食料物価より高く、特にボリビア、エジプト が顕著であった。
表5 国別食料物価の変動(2005‐2008) CPI 物価指数
(%)
食料物価指数 (%)
食料と非食料物価の差 (%)
パキスタン 33 42 18
タンザニア 32 39 14
ボリビア 23 38 30
エジプト 24 38 28
インド 16 22 12
コロンビア 13 22 18
バングラデシュ 17 21 8
チリ 12 20 16
ナイジェリア 18 17 -2
メキシコ 9 15 12
( 注 ) 非 食 料 物 価 は 食 料 支 出 がCPIの50%の比重を占める前提で推計され、そし て食料と非食料物価の差を計算したものである。
(出所)Dessus, Sébastien, S. Herrera, R. de Hoyos (2008) “The Impact of Food Inflation on Urban Poverty and Its Monetary Cost: Some Back-of-the- Envelope Calculations,”
table 1.
世 界 食 料 穀 物 価 格 高 騰 に よ る 消 費 者 へ の 影 響 に つ い て は 、 米 国 USDA/ERSの試算結果を見てみる。表6は主食穀物価格50%がそして 消 費 者 価 格60%が値上げする前提において、低所得の食料不足国の 消費者への影響を示している。
表6 食料穀物価格高騰による低所得国消費者への影響
高所得国 低所得の食料 不足国 I. ベース・シナリオ
所得 $40,000 $800
食料支出 $4,000 $400
所得に対する食料支出比率 10 50
食料支出に於ける主食(Staples)比率 20 70
主食支出 $800 $280
非主食支出 $3,200 $120
II. 食料穀物価格高騰のシナリオ:主食価格 50%、消費者価格 60%値上げ
主食コストの増加 $240 $84
値上げ後の総食料支出 $4,240 $484
所得に対する食料支出比率 10.6 60.5
(出所)Trostle R. (2008a), p. 16.
主食穀物価格の値上げシナリオにおいては、主食コストの増幅が 高所得国と同水準であっても、低所得国の所得に於ける総食料支出 比率の増幅は10%を超え、高所得国の1%未満の増幅より相対的に高 いことがわかる。低所得国消費者の生活に大きな影響を与えること となる。
そして食料価格高騰の影響を受けて、FAOの推定によると、世界 の 栄 養 不 足 人 口 は2003-05 年 の 8 億 4,800 万 人 か ら 、 2007 年 に は 9 億 2,300万人へ、さらに2008年には9億6,300万人へと増え続けた。これ ら栄養不足人口の大部分はアフリカとアジアの食料不足低所得国の 低所得層の人々である。
食料価格の高騰による食料支出の増加は低所得者、特に貧困者層 に対して、少なくとも妊婦と入学前児童の栄養失調、児童、特に女
食料価格の高騰による食料支出の増加は低所得者、特に貧困者層 に対して、少なくとも妊婦と入学前児童の栄養失調、児童、特に女