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エネルギー安全保障共同体と食糧安全保障共同体 を包摂する経済「集団」安全保障体制へ―むすび

に代えて

このようにみると、20 世紀末においてさえ実現可能性の低い楽観 主義的な構想と一蹴されてきた東アジア・サミット(EAS)でさえ、

東アジアにとってもはや欠かすことのできない協力と協調の重要な メカニズムとなってしまった。本稿で取り上げたエネルギー資源や 食糧資源について今後のEAS で議論の対象となる可能性は高いし、

ま た 制 度 枠 組 み が ど の よ う な も の に な る か 予 断 を 許 さ な い と し て も、これらの有限の財を緊急時の地域的危機管理の枠組みの中で相 互融通システムを構築することについて何らかの合意が形成される 可能性はある。

2007 年後半から世界経済システムの根幹を揺るがした金融危機に 際して、1997 年当時のアジア通貨・金融危機を教訓にした二国間・

多国間の通貨スワップ・システムの構築で合意が成立したことは、

EAS のメンバーである 16 カ国が次なる危機の到来に備えて、通貨以 外の財についても集団財化する意思が潜在的に共有されていること を示唆する。それだけ東アジアには、経済相互依存体系が複合化し ていることを国々の政策決定者たちは、認識しあっているとみてい い。

もしも経済相互依存が経済的な厚生を縮減するのではなく、むし ろ協力の輪を広げるという積極的な効果を伴うのであれば、国際的 な共通ルールの存在が不可欠になる。これが、経済的厚生をより確 実なものにする際の国際的な集団的役割の基礎となる。経済安全保 障を手段よりもむしろ価値によって意義づけるなら、経済安全保障 は経済的な厚生が剥奪されるという脅威が存在しないことにつなが り、したがって経済「集団」安全保障システムの構築にとって大き な障害が存在しないことにもつながってくる。言い換えると、国々 が経済安全保障を個別的に追求するに当たって、ゼロ・サム的な発 想に立たず、むしろ「集団」財化することで結果的にプラス・サム 的な利益がすべてのプレーヤーに行き渡るという発想に立てるかど うかが問われることになる。

いずれにせよ、エネルギー「集団」安全保障も食糧「集団」安全 保障も、それぞれ別個のものとしてよりも経済「集団」安全保障シ ステムとして相互にリンクし合ったものとして追求された方が、全 体としての“東アジア総合安全保障共同体”の活性化を促す上でもは るかに効果的である。経済「集団」安全保障を経済的厚生が喪失す る脅威を削減するための国際経済秩序を創造する試みとして捉えれ ば、東アジアの地域的枠組みの中で総合安全保障レジームと制度の 構築を進めることが、多様な脅威に対処するのに必可欠な作業とな るのは明らかである17

経済「集団」安全保障体制は東アジアにおいてもはや夢物語では なく、すでにEAS の枠組みの中で芽生えてきている。アジアにも波 及してきた今回の世界経済危機を触媒にして、この新体制を現実化 す る シ ナ リ オ を 官 民 挙 げ て 真 剣 に 書 き 上 げ る 時 期 に 立 ち 至 っ て い る、と言っても過言ではない。なかでもEAS のスポークに位置する 日本と中国のイニシアチブは、ハブとしてのASEAN のエネルギー安 全保障と食糧安全保障にも影響を及ぼすだけに、利己的政策に走る ことだけは避けるべきである。なかでも、中国は2009 年 3 月末時点 での外貨準備高が1 兆 9537 億ドルで世界第 1 位となり、外貨準備資 産に占める金準備高も世界第 5 位に入る押しも押されもせぬ経済超 大国となった18。責任ある大国として東アジア経済「集団」安全保障 体制の構築に向けて積極的なイニシアチブを発揮することが求めら れる。

17 この点は、ジョセフ・ナイの着想に触発される。See, Joseph S. Nye, Jr., “Collective Economic Security,” op. cit., pp.587-588.

18 共同通信社国際資料室編『チャイナ・ウオッチ』2009 年 5 月 8 日。

〈参考文献〉

David Mitrany, A Working Peace System. (London: Royal Institute of International Affairs), 1943.

John Gerard Ruggie, “International Regimes, Transactions, and Change: Embedded Liberalism in the Postwar Economic System,” in Stephen D. Krasner, (ed.), International Regimes.

(Cornell University Pres), 1983, pp.379-415.

Joseph S. Nye, Jr., “Collective Economic Security,” International Affairs, Vol. 50, No.4, October 1974, pp.586-587.

Joseph S. Nye, Jr., Peace in Parts: Integration and Conflict in Regional Organization. (Lanham:

University Press of America), 1987.

Mancur Olson, The Logic of Collective Action: Public Goods and the Theory of Groups.

(Harvard University Press), 1971.

Nicholas J. Wheeler and Ken Booth, The Security Dilemma: Fear Cooperation and Trust.

(London: Palgrave Macmillan), 2007.

共同通信社国際資料室編『チャイナ・ウオッチ』2009 年 3 月 3 日、3 月 4 日、5 月 8 日。

十市勉『21 世紀のエネルギー地政学』産経新聞出版、2007 年。

メアリー・カルドー著、山本武彦・渡部正樹訳『新戦争論―グローバル時代の組織暴力』

岩波書店、2003 年。

山本武彦「国際公共圏の中の『三安』主義と『三場』主義」『季刊ロゴスドン』(ヌース 出版)第63 号、2005 年冬季号(2005 年 12 月)、42-45 頁。

山本武彦『安全保障政策―経世済民・新地政学・安全保障共同体』日本経済評論社、2009 年、142-151 頁。

山本武彦「日本の『東アジア共同体』外交と共同体構想―二国間主義と他国間主義の間」 山本武彦・天児慧編『東アジア共同体の構築(1)新たな地域形成』岩波書店、2007 年、

5 章。

(寄稿:2009 年 5 月 12 日、審査:2009 年 5 月 25 日、採用:2009 年 6 月 9 日)

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