しかしながら、中国・EU 戦略的パートナーシップは、その発展過 程 において、 価値観をめ ぐってたび たび見解の 相違が生じ 、戦略 性 を 具えた勢力 均衡の目標 は実際には 現れにくく なった。こ れは、 欧 米関係が程なく良好に転じ、また EU が今日までに対中武器輸出禁 止 を解除して いないこと からも分か り、更には 、前述した カプラ ン 氏 が指摘した ように、勢 力均衡はし ばしば共同 の文化・政 治制度 と 価 値観の歴史 的基礎の観 点に基づい て築かれな ければなら ないこ と を証明している。
中国・EU 双方においては、価値レベルの相違が非常に多岐に渡っ て おり、なか でも関係発 展にもっと も深刻な影 響を与えた のは、 主 権や人権に関わる問題である。2003 年、中国・EU 双方は、包括的 戦 略的パート ナーシップ の発展に同 意したが、 民主主義的 価値を 重 視 するヨ ーロ ッパは 中国 の人権 に対 する批 判を 緩めて おら ず、2006 年 以降、中国 の人権に対 するヨーロ ッパの批判 は中国台頭 に伴っ て 更 に高まり、 ダライ・ラ マ氏やチベ ットの問題 は特に双方 の争点 と なった。2007 年、ドイツのメルケル首相が首相公邸でダライ・ラマ 氏と会見したことに中国は強い不満を抱き、内政干渉であるとして、
貿易の発注先をフランスにシフトした。また、2008 年 3 月のチベッ ト 騒乱の発生 以降、ヨー ロッパの各 界において チベットに 対する 同 情が広がり、北京オリンピックの聖火リレーにいたってはロンドン、
パリで民衆の抗議に遭ったが、年末に、EU 議長国を務めるサルコジ 大 統領がポー ランドでダ ライ・ラマ 氏と会見し たため、中 国は憤 慨 し、当初 12 月 1 日にフランスのリヨンで開催する予定だった第 11 回中国・EU 首脳会議を延期した。さらに 2010 年、ノーベル基金会
がノーベル平和賞を「08 憲章」を草案した中国の劉曉波氏に授与す るとしたことを受け、中国はノルウェーとの政治経済関係を凍結し、
今日まで回復していない。
こ のほか 、様 々なグ ロー バル問 題、 例えば イラ ンの核 問題 、アフ リ カの政治問 題、気候変 動などをめ ぐって、中 国とヨーロ ッパは 立 場 が一致して おらず、利 益競争の要 素があるだ けでなく、 最も重 要 な のはこうし た立場の不 一致が依然 として価値 観の相違に 起因し て いることである。イランの核問題への対処においては、EU は中国が そ の交渉過程 において、 国際安全保 障利益より も、イラン におけ る 自身の経済的、エネルギー的利益を重視したと考え、中国は EU が 期 待する責任 ある関係の パートナー となるには 程遠いこと が顕著 と なった。アフリカの政治問題において、EU は、中国が原料や石油の 利 益に基づき 、人権迫害 を行ってい るアフリカ の政府と積 極的に 協 力することに反対した。また、気候変動問題については、EU は中国 が 経済発展レ ベルの違い を理由に、 中国を含む 発展途上国 も能力 と 責任が及ぶ範囲で排出削減に努めるべきとの EU の主張を拒否した ことに不満を抱いている。
上述の価値観の相違は、以下三つのレベルにおける中国・EU 双方 の発展に不利な影響を及ぼし、中国・EU の戦略的な勢力均衡にも影 響を与えた。
一つ目は、米・中国・EU の三者関係が徐々に中国に不利な方向に 向かったことである。中国・EU の価値観の相違は、米国の対イラク 戦 争によって 亀裂が入っ ていた欧米 のパートナ ーシップを 、大西 洋 を 跨ぐ長期的 な同盟とい う伝統的な 友好や共同 の体制、価 値観と い った共同な価値の基礎の上に再び凝集させた。米国は中国・EU 戦略 的 パートナー シップの発 展に終始関 心を抱いて いたが、世 界の多 極 化に対する中国と EU の共通の期待が両者の聯盟に繋がったとは考
えておらず、むしろ米国は中国と EU がパワーを増強すると同時に そ の戦略的レ ベルの協力 が米国の利 益に対しマ イナスの衝 撃を与 え かねないことを憂慮した。よって、EU が象徴的な意味合いを持つだ け と何度も強 調した対中 武器輸出禁 止解除につ いて徹底し て反対 し た。まず、米国は EU が一旦禁止解除を決議した場合、非民主主義 国 家に対する 欧米の戦略 の共同性が 更に弱まり 、イラク戦 争に続 い て 大西洋両岸 を跨ぐ共同 の価値観の 基礎が再び 深い傷を負 うこと を 懸念した50。次に、EU 加盟国は先進科学技術を有していることから、
中国・EU が戦略的レベルにおける協力を深化させれば、EU 加盟国 と の科学技術 協力によっ て中国が米 国から入手 できない敏 感な科 学 技 術を獲得す ることが可 能になるた め、中国に 対する米国 の敏感 な 技術における抑止効果が脆弱になり51、アジア太平洋における米国の 安 全保障上の 利益が損失 を受け、と りわけ台湾 海峡の軍事 バラン ス がより失われることを懸念した52。
これに基づき、米国は 2004 年から、中国・EU の戦略的な協力の 象 徴的である 対中武器輸 出禁止解除 を阻止する 様々な措置 を積極 的 に採った。中国・EU の共同の価値観をめぐる見解の相違は、EU の 対 中武器輸出 禁止解除を 阻止しよう とする米国 のモチベー ション を
50 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo on China,” p. 26. このほか、「歐盟外長會議為何不解除對華軍售禁令」新華網、2004 年4 月 26 日、http://news.sohu.com/2004/04/26/32/news219953237.shtmlを参照のこと。
“United States Summarizes EU Arms Embargo Against China”, USINFO.STATE.GOV, http://usinfo.state.gov/is/Archive/2004/Nov/18-661185.html.
51 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo on China,” pp. 15~17.
52 Peter Brookes, “The Lifting of the EU Arms Embargo on China: An American Perspective”, Heritage Lecture #866, March 2, 2005, The Heritage Foundation, http://www.heritage.org/
Research/EUrope/hl866.cfm.
大 きく高めた 。米国のパ ウエル、ラ イス・元国 務長官、ブ ッシュ 前 大統領は EU のリーダーに対し積極的にロビー活動を行っただけで なく53、米国はヨーロッパ内部におけるロビー活動を強化し、中国の 人 権 政 策 に 関 心 を 抱 く ヨ ー ロ ッ パ 諸 国 や 欧 州 議 会 (European Parliament)54、更には経済レベルが比較的劣る EU 新加盟国に対し ても働きかけた55。
二 つ目の 面は 、ヨー ロッ パ主要 国の リーダ ー交 代後に おけ る対中 認識への影響である。2005 年、中国・EU 関係の発展は順調であっ た が、その主 な要因はフ ランスのシ ラク前大統 領とドイツ のシュ レ ー ダー前大統 領が、米国 の単独行動 主義に不満 を抱き、中 国との 国 際 協力を強化 して、ヨー ロッパの影 響力を顕著 にしようと してい た の に加え、他 方で中国と の経済貿易 関係発展に よる実務的 利益を 重 視 してい たた めであ る。 二人は 任期 中、何 度も 中国を 訪問 し、1999 年から2005 年にかけては、シラク大統領は七度も訪中している。2003 年、中国・EU は包括的戦略的パートナーシップの発展に同意し、こ れを基礎に、2004 年、フランスと中国は「中仏包括的戦略的パート ナーシップ」の構築を宣言し、同年 5 月、ドイツもまた温家宝総理 が公式に訪独した際、両国は中国と EU の包括的戦略的パートナー シ ッ プ の 枠 組 み に お い て 、「 国 際 的 責 任 を 伴 う 戦 略 的 パ ー ト ナ ー シ ップ」を構築すると宣言した。しかし、中国・EU に横たわる価値観 の 相違は、リ ーダーの交 流によって 構築された パートナー シップ を
53 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo on China,” p. 10.
54 Ibid., p. 34.
55 Joakim Kreutz, “Reviewing the EU Arms Embargo on China: the Clash between Value and Rationale in the European Security Strategy”, Perspective, Vol. 22 (Summer 2004), pp.
50~53.
相当に脆弱なものとした。2005 年にドイツのリーダーが交代すると、
中国・EU 関係は明らかに新たな課題に直面し、前任が中国との密接 な交流政策を望んだにもかかわらず、メルケル大統領は2006 年の訪 中 に際し、価 値観外交を 提唱し、米 国との関係 強化を望ん だため 、 中独関係に影響が及んだ。
三つ目の面は、価値観の相違が EU の対中武器輸出禁止解除をめ ぐる全会一致の効率に与えた影響である。中国は、EU の 90 年代の 統 合以降、日 増しにその 実体として のパワーと 影響力を示 してい る こ と を 重 視 し て い た が 、 中 国 と EU の 交 流 は 、 EU が 超 国 家 主 義
(Supranationalism)と政 府間主義(Intergovernmentalism)の両 方の 性質を同時に兼ね備えることによる制約を明らかに受けた。つまり、
超国家主義では EU が統合した実体としての利益を示すにもかかわ らず、政府間主義では逆に EU 加盟国は依然として自身の利益を考 慮する自主性を維持している。共通の外交・安全保障政策において、
EU は政策決定効率の改善を図るため 1997 年 10 月にアムステルダム 条約(The Treaty of Amsterdam)を結び全会一致(unanimity)の原則 を定めたが、EU 加盟国は依然として政府間協力・交流のモデルに依 存している56。よって、EU の外交・安全保障政策の基礎は、各加盟 国の国家主権と国家利益に基づき、EU の総合的な利益に基づくもの ではない57。体制と価値観もまたより多くの加盟国が考慮する重要な 要 素となり、 個別案件に おける全会 一致の政策 決定の効率 に影響 を
EU は政策決定効率の改善を図るため 1997 年 10 月にアムステルダム 条約(The Treaty of Amsterdam)を結び全会一致(unanimity)の原則 を定めたが、EU 加盟国は依然として政府間協力・交流のモデルに依 存している56。よって、EU の外交・安全保障政策の基礎は、各加盟 国の国家主権と国家利益に基づき、EU の総合的な利益に基づくもの ではない57。体制と価値観もまたより多くの加盟国が考慮する重要な 要 素となり、 個別案件に おける全会 一致の政策 決定の効率 に影響 を