中国・EU 包括的戦略的パートナーシップ
関係の発展における勢力均衡の意義と
その実践にかかる制約
張 雅 君
(国立政治大学国際関係研究センター中国政治研究所副研究員)【要約】
1990 年代中盤以降、中国は主要国との勢力均衡を促進すべく、パ ー トナーシッ プの構築に 力を注ぎ、 とりわけ大 国との戦略 的パー ト ナーシップの構築を望んだ。90 年代中盤、中国は中露戦略的パート ナーシップの発展を主要国との勢力均衡戦略の中心としたが、21 世 紀に入ると、その重点をヨーロッパへ移し、中国・EU 包括的戦略的 パ ートナーシ ップによっ て米国の単 独行動主義 を阻止し、 同時に 世 界 が多極化へ 向かうこと を期待した 。しかし、 中国とヨー ロッパ に は価値観の相違があるため、中国・EU 包括的戦略的パートナーシッ プ の実践にお いては、内 外の様々な 要素が制約 要因となり 、大国 間 の勢力均衡の効果は現れにくくなっている。 キーワード:勢力均衡、ネオリアリズム、パートナーシップ、中国・ EU 包括的戦略的パートナーシップ一 はじめに
1990 年代中盤以降、中国はパートナーシップの構築に力を注ぎ、 パ ートナーシ ップ外交に おいては、 世界の多極 化を絶えず 提唱し て い たことから 、中国がパ ートナーシ ップによっ て国際シス テムの 勢 力 均衡を望ん でいたこと は明らかで ある。中国 のパートナ ーシッ プ ネ ットワーク においては 、大国との 戦略的パー トナーシッ プ関係 の 構築、とりわけ勢力均衡を達成することがその重点であった。90 年 代 中盤、中国 は中露戦略 的パートナ ーシップ発 展を勢力均 衡戦略 の 重点とした。21 世紀に入って、中国の重点はヨーロッパに向かい、 温家宝・総理がロマーノ・プローディ(Romano Prodi)・欧州委員会 委員長(当時)と会談した2003 年 10 月の第 6 回中国・EU 首脳会議 では、まず、1998 年に結んだ「包括的パートナーシップ」から「包 括的戦略的パートナーシップ」へと高め、中国は EU に対し対中武 器輸出禁止を解禁するよう迫った。ここから、中国が中国・EU 戦略 的パートナーシップの発展を21 世紀の勢力均衡戦略にしようとして い ることは明 らかであり 、また、学 者、デイヴ ィッド・シ ャンボ ー (David Shambaugh)氏が、日増しに密接になる中国・EU の交流は、 既 に グ ロ ー バ ル 問 題 に 対 し 重 要 な 意 義 を 持 つ 「 成 熟 し た 軸 の 関 係 」 (emerging Axis)を形成していると指摘していることからも明らか である1。 中 国が戦 略的 パート ナー シップ の外 交によ って 、国際 シス テムに お ける勢力均 衡促進を期 待している ことは、明 らかにネオ リアリ ズ ム 的な思考で ある。ネオ リアリズム を代表する 学者、ケネ ス・ウ ォ1 David Shambaugh, “China and EUrope: The Emerging Axis”, Current History (September
ルツ(Kenneth N. Waltz)氏は、無政府状態にある国際システム構造 は、主に国家行為主体の力によって決定され2、システム構造の変化 も 国家行為主 体の力の変 化によって 決まり、特 に大国間の 力の変 化 に左右されると考える3。この理論は、中国が冷戦後に台頭した大国 と して、安全 保障と発展 に基づき、 国際システ ムに変化を 起こそ う と いう意図を 持ち、行動 することは 避けられな いことを説 明して お り 、大国との パートナー シップ構築 が目標達成 のための戦 略であ る ことは明らかである。本論の目的は、中国・EU 包括的パートナーシ ッ プによる勢 力均衡の効 果、及びそ の実践と制 約について 分析す る ことにある。本稿では、中国が中国・EU 包括的戦略的パートナーシ ッ プにおける 勢力均衡効 果に期待し 、また、い くつかのヨ ーロッ パ 主要国も米国の単独行動主義に反対し、中国・EU 戦略的パートナー シップに同様の期待を持っていたにもかかわらず、中国・EU 間の価 値観の相違により、中国・EU 包括的戦略的パートナーシップがその 実践において様々な弊害に直面したことに焦点を当てて論じる。 本 稿は三 部で 構成し 、ま ず、冷 戦終 結後に おけ る中国 の勢 力均衡 モデルであるパートナーシップとその含意を検討し、中国・EU 戦略 的パートナーシップの効果を分析する。続いて、21 世紀に中国が中 国・EU 戦略的パートナーシップの発展を勢力均衡戦略にしようと試 みた意図とメリットを検討し、そして、中国・EU 間に横たわる価値 観の相違が、中国・EU 包括的戦略的パートナーシップを勢力均衡戦 略とする中国に与えた不利な影響について論じ、最後に結論付ける。
2 Kenneth N. Waltz,
Theory of International Politics (New York: Random House, 1979), p. 97.
二 パートナーシップモデルと勢力均衡の意味
パ ー ト ナ ー シ ッ プ と い う 言 葉 は 冷 戦 期 に リ チ ャ ー ド ・ ニ ク ソ ン
(Richard Nixon)政権が NATO 加盟国や日本などの同盟国との関係
を 強化するた めに用い始 めたもので 、パートナ ーシップを 軸とす る
外交戦略を制定した4。冷戦終結後、国際情勢が緩和し、様々な形式
や機能を具えたパートナーシップ関係が五月雨式に誕生し、1992 年
初 め、ブッシ ュ大統領( 当時)が訪 日した際、 日米は「日 米グロ ー
バル・パートナーシップに関する東京宣言」(The Tokyo Declaration
on the U.S.-Japan Global Partnership)及び「世界行動計画」(Global Partnership Plan of Action)を発表し5、同年6 月にロシアのエリツィ
ン大統領(当時)が訪米した際には、「米露パートナーシップ友好関 係憲章」(The Russian-US Partnership and Friendship. Charter)に調印 し 、冷戦終結 後、米国に は日本やロ シアと新し い形のパー トナー シ ップ関係を構築する用意があることを示した。続いて、1994 年 9 月、 江 澤民・中国 国家主席( 当時)が訪 露した際に もまた、中 露共同 声 明 の中で、双 方は「善隣 友好、相互 協力の建設 的な協力パ ートナ ー シップ関係」を発展させていくことを強調した6。その後、中国は主 要 国、なかで も大国との パートナー シップ関係 構築に広く 乗り出 し た。
4 Richard Nixon, “United Foreign Policy for 1970─Nixon Doctrine: Toward New Forms of
New Partnership”, From Revolution to Reconstruction–an. Html Project, http://www.let.rug. nl/~usa/P/rn37/writings/ch2_p2.htm.
5 “1992 U.S.-Japan Global Partnership Agreement,” January 9, 1992. http://www.mac.doc.gov/
japan-korea/market-opening/ta920109.htm.
6 「中俄聯合聲明」新華網、1994 年 9 月 3 日、http://big5.xinhuanet.com/gate/big5/news.
パ ートナ ーシ ップ関 係の 構築が 日増 しに広 がる 現象は 、冷 戦終結 後 、国際関係 が調整とい う新しい趨 勢の中にあ ることを反 映して い る 。中国の国 際関係研究 者である劉 江永氏は、 国際関係の パート ナ ー シップ化は 冷戦終結後 における世 界の多極化 と経済グロ ーバル 化 による必然の産物で7、その背景には、冷戦終結による国際関係の二 極 体制の瓦解 に加え、冷 戦終結後に 経済のグロ ーバル化が 加速し 、 国 家間の経済 相互依存が 強まったた め、かつて 構築された 二極対 抗 の 旧体制の上 に形成され た同盟関係 が自ずと課 題に直面し 、新た な 形 勢の下で同 盟関係が対 応・調整を 迫られたこ とがあると 述べた 。 ま た、そうし なければ、 各国は冷戦 後の安全保 障や経済利 益に対 応 す ることがで きないこと から、パー トナーシッ プの構築は 調整戦 略 の一つとみなすことができると指摘した。 パートナーシップ関係とは、お互いをパートナーとし、共同参与、 協 力、利益の 共有を図る 関係であり 、国家間の パートナー シップ 関 係 とは国家が 共同の利益 を追求し、 ある種の協 力関係を構 築する こ ととみなされる8。冷戦終結後のパートナーシップには異なるレベル が あるが、一 般的には、 パートナー シップ関係 構築の成功 の可否 、 或 いは運用の 如何は、相 互に共同の 利益・目的 があるか否 かによ っ て 決まり、戦 略的パート ナーシップ の成功につ いては、共 同の価 値 を 具えている ことも求め られる。国 際政治学者 であるモー トン・ カ プラン(Morton A. Kaplan)氏は、勢力均衡やある種の国際システム は 往々にして 共同の文化 ・政治制度 ・価値観の 歴史といっ た基礎 の
7 劉江永「國際關係夥伴化及其面臨的挑戰」『現代國際關係』第 4 期、(1999 年 4 月)、 頁3。 8 王巧榮「論 20 世紀 90 年代中國的夥伴關係外交」『形勢與政策』(北京)第 2 期(2006 年)、頁53。
上に構築されると指摘している9。前述したニクソン政権が日本とパ ー トナーシッ プを構築し た目的は、 同盟関係や 民主主義的 価値を 確 固としたものにしようとしたことにあり、冷戦終結後、米国が日本、 ロ シアと構築 したパート ナーシップ はあいまい で不明瞭な もので あ る が、内容か らすると、 やはり同盟 強化が目的 であり、米 露パー ト ナ ーシップ関 係について いえば、ロ シアの民主 化によって 、米国 は ロ シアとの民 主主義連盟 を固めるこ とを望んで いたと言え よう。 よ っ て、冷戦終 結後、米国 と西側との パートナー シップ関係 はイデ オ ロギーと冷戦の成果の底固めを目的としたものであった。 中 国は冷 戦期 の同盟 体制 に衝撃 を与 えよう と、 世界の 多極 化を全 力 で提唱し、 また、冷戦 終結後のパ ートナーシ ップ構築の 普及に よ る 調整の趨勢 が、中国の 利益と明ら かに一致し ていたこと から、 中 国 は西側世界 が積極的に パートナー シップを構 築すること で、こ れ を 同盟体制構 造にとって 代わること を期待した のみならず 、自身 も 中 露関係から 着手し、パ ートナーシ ップの構築 を積極的に 推進し 、 多 極化プロセ スの一極と して、中国 自身の合法 的な利益を 追求し よ うとした10。1990 年代中盤以降、中国は明らかに台頭し始め、主要 国 との交流も 日増しに密 接となり、 パートナー シップを構 築し、 な か でも大国と のパートナ ーシップ構 築を大国戦 略の実践及 び外交 目 標 達成の運用 モデルとみ なした。学 者は、中国 がパートナ ーシッ プ 構 築の外交モ デルによっ て達成した 目標には下 記の五点が あると 指 摘 し て い る 。( 一 ) 経 済 発 展 に 有 利 な 平 和 な 国 際 環 境 を 創 造 す る 、 ( 二)大国と しての地位 を高め、国 際問題にお ける影響力 を拡大 す
9 Morton A. Kaplan, System and Process in International Politics (Huntington N. Y.: R. E.
Krieger, 1975), pp.1~20.
10 Joseph Y. S. Cheng and Zhang Wankun, “Patterns and Dynamics of China’s International
るため、主要国や地域組織との関係を改善する、(三)世界の多極化 を促進し、国際問題に対する米国の支配力を低減させる、(四)市場 開 放・外資吸 収、産業技 術の向上に 有利な条件 を創造すべ く、経 済 外 交を効果的 に推進する (五)国際 社会におけ る中国のイ メージ を 改善する11。 上 述の期 待と 目標に 基づ き、中 国も またパ ート ナーシ ップ 構築の た めの方向性 と意義にか かる指導原 則を積極的 に示し、中 国とロ シ アは1996 年、平等と信頼を発展させ、21 世紀に向けた戦略的協力パ ートナーシップを構築するとした「中露共同声明」に調印し12、1997 年にも、「世界の多極化と国際新秩序の構築」に関して共同声明を出 し た。ここか ら、中国が 考えるパー トナーシッ プにおいて 最も重 視 し ているのは 共同の利益 であり、協 力を対抗に 取って代わ らせよ う と しているこ とが分かる 。中国が望 むパートナ ーシップ関 係モデ ル の 特徴は、一 つには平等 ・相互利益 、相互尊重 、小異を残 し大同 に つく(求同存異)、すなわち国家の大小や発展レベル、社会制度の違 い に関わらず 、共同の利 益の基礎の 上に協力関 係を強化す ること で あ る。二つ目 には、対話 ・交渉・コ ミュニケー ションを強 化し、 メ カ ニズムの構 築によって 相互の利益 にかかる相 違を解決す ること で あ り、三つ目 には、他国 と同盟を結 ばず、また 第三国に対 し対抗 し な いことであ る。ここか ら、冷戦思 考の同盟モ デルが明確 な仮想 敵 を 想像したゼ ロサム思考 の上に成り 立っていた のとは異な り、中 国
11 Ibid., pp.239~240. 12 「中俄聯合聲明」新華網、1996 年 4 月 25 日、http://big5.xinhuanet.com/gate/big5/news. xinhuanet.com/ziliao/2002-11/27/content_642464.htm。 「中俄關於世界多極化與建立國際新秩序的聯合聲明」新華網、1997 年 4 月 23 日、 http://big5.xinhuanet.com/gate/big5/news.xinhuanet.com/ziliao/2002-09/30/content_581524. htm。
は 共同利益の 基礎の上に 、ゼロサム ではなく、 オープンで 小異を 残 し大同につく緩やかな協力関係を原則とし13、より多くの国家が中国 が 主導するパ ートナーシ ップの構築 に参与する ことで、自 身の影 響 力を拡大しようとしていることが分かる。 し かし、 劉江 永氏の 観点 に基づ くと 、冷戦 終結 後にお ける 国際関 係 のパートナ ーシップ化 は大国関係 が勢力均衡 へ向かうの を積極 的 に後押しするもので14、大国間のパートナーシップ、とりわけ戦略的 パ ートナーシ ップには勢 力均衡の意 味合いが含 まれること になる 。 中 国は、表面 的には同盟 ではなく、 第三国に対 し対抗しな いゼロ サ ム ではないパ ートナーシ ップを絶え ず強調した が、主要国 との日 増 し に進む密接 な交流によ るリスクを 防ぎ、頻繁 な交流によ る利益 を 確 保するため 、パートナ ーシップ構 築によって 二つの目標 を達成 し よ うとする意 図があった 。一つは、 国際システ ムの促進で あり、 と り わけ、大国 が相互に抑 制し合って 不均衡な主 要国の権力 構造を 均 衡へと向かわせることで15、もう一つは、力の強化であり、国際シス テ ムのなかで 弱い立場に ある状態か ら中国が脱 することを 目標と し て いた。中国 の学者の多 くは、パー トナーシッ プ関係が具 える勢 力 均 衡理論につ いて更に踏 み込んだ解 釈を示して おり、例え ば、俞 正 樑 氏は、ある 非対抗的な 国際関係構 造において は、勢力均 衡外交 に は価値があるが、ただ単に形式が異なるだけであると指摘し16、また、 葉 自成氏は中 露戦略的パ ートナーシ ップは一種 の「准同盟 」関係 で
13 俞正樑「構築夥伴關係的網絡:世紀之交中國的外交戰略趨勢」陳 玉 剛 、 陳 志 敏 、 臧 志 軍 主編『大國戰略研究:未來世界的美、俄、日、歐盟和中國』(北京:中央編 譯出版社、1998 年)、頁 338。 14 劉江永、前掲書、頁 3。 15 Ibid., p. 254, 257. 16 俞正樑、前掲書、頁 344。
あ る と 見 て い る17。 宋 偉 氏 は 、 同 盟 (alliance)と聯盟(alignment) の違いから18、同盟を結ばないとの前提の下でも、中国は「低コスト、 多レベル、広領域」の聯盟戦略の推進が可能であると考え19、いわゆ る 低コストは 聯盟が形式 的には正式 なものでな く、暫定的 である こ と を意味し、 パートナー シップは本 質的には一 種の緩やか な聯盟 関 係であると見ている。 その原因は、1990 年代において中国の総合国力が西側のそれに大 き く差をつけ られ、国際 システムに おいても相 対的に脆弱 で、ま た 1996 年に米国と日本が日米安保条約を再定義したため、中国はこう し た 行 動 を 自 身 を 仮 想 敵 国 と す る 抑 止 戦 略 と み な し 、 ま た 米 国 と NATO の同盟関係強化や、ユーゴスラビア内戦への積極的な干渉は 単 独行動主義 による国際 秩序構築を 意図したも のであると 考えた こ と にあり、更 には中国脅 威論の浮上 もあって、 中国の不安 感が高 ま っ たことにあ る。よって 、こうした 現実が中露 間の戦略的 パート ナ ー シップを急 速に発展さ せ、同時に 勢力均衡的 な意味合い が増し た た め、中国と ロシアはそ ろって単独 行動主義的 な行動に強 烈な反 対 を示した。中露が1996 年、1997 年に軍事信頼醸成措置協定及び国境 地 域における 軍事力の相 互削減に関 する協定に 調印したこ とは、 長 きに渡った国境付近の緊張が急速に低下したことを意味し20、また、 軍 事技術協力 を含む安全 保障及び経 済協力を更 に強化した 。米国 防
17 葉自成「中國實行大國外交勢在必行:關於中國外交戰略幾點思考」『世界經濟與政治』 第1 期(2000 年)、頁 9。 18 宋偉「淺說國際戰略與中國的選擇」『國際政治研究』(北京)第 3 期(2001 年)、頁118。 宋偉は、同盟は一種の条約的な意義を具えた正式な同盟であり、聯盟の範囲はより 広範、且つ暫定的で緩やかな結びつきであるとした。 19 宋偉、前掲書、頁 120~121。 20 董拜南「中俄關係的歷史回顧與發展軌跡」施嶽群、陳佩堯編『探索冷戰後的世界』(上 海:上海教育出版社、2000 年)、頁 525~529。
省の推計では、90 年代全般において中国がロシアから輸入した武器 装備価格は年平均約12 億米ドルで、1999 年以降、中国の年平均輸入 価格額は約2 倍に拡大した。また、2004 年だけ見ても、中国の輸入 額はロシアの対外軍事総売上額の約 40~45%を占めており21、中国の 海・空軍戦力能力が急速に向上したことは明らかである。 し かし、 中露 パート ナー シップ 関係 におい てこ のよう に潜 在的な 勢 力均衡の意 図を示すこ とは、中国 が元々もく ろんでいた 緩やか な 原 則によるパ ートナーシ ップの構築 による同盟 システムを 明らか に し て し ま い 、 よ り 広 範 な 利 益 を 獲 得 し よ う と す る 目 標 と 矛 盾 を 生 じ 、パートナ ーシップ関 係の構築の 阻害要因と なった。前 述した パ ー トナーシッ プ構築の成 功の如何を 図る基準か ら見ると、 勢力均 衡 的 な意味合い を具えた戦 略的パート ナーシップ の円滑な運 用は、 共 同 の価値観・ 信念を拠り どころとし ており、潜 在的な勢力 均衡を 意 図 した中露の 戦略的パー トナーシッ プが相対的 に順調に発 展した 理 由 の一つとし て、双方に 米国の単独 行動主義を 抑制すると の明確 な 共 同の利益が あったこと があげられ る。また、 ロシアが長 期的な 権 威 主義体制か ら民主政治 体制へと移 行して間も ない段階で あった た め 、その政治 システムと 運用は形式 的なもので あり、政治 体制や 価 値 観が、潜在 的を勢力均 衡を意図し た中露の戦 略的パート ナーシ ッ プ 構築の障害 とならなか ったことが 、もう一つ の理由とし て挙げ ら れる。しかし、中国とEU、米国、日本とのハイレベルな戦略パート ナ ーシップ確 立のプロセ スにおいて は、それぞ れの価値観 が明ら か な阻害要因となった。以下では、中国・EU 戦略的パートナーシップ
21 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo
on China: Implications and Options for U. S. Policy”, CRS Report for Congress, May 27, 2005, http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL32870.pdf, pp. 17~18.
が具える勢力均衡の意味とその実践上の弊害について分析する。
三 中国・EU パートナーシップ形成における勢力均衡
の意味
長 きに渡 って 、中国 はヨ ーロッ パを 国際シ ステ ム構造 や国 際秩序 に 最も効果的 な変化を生 む鍵となる 地域とみな し、ヨーロ ッパに 勢 力均衡や覇権対抗における役割を期待し、中国は中国・EU 関係の発 展 によって自 身のパワー を強化し、 さらに勢力 均衡を意図 した国 際 戦略を進めようとした。 1 ヨーロッパ及び中国・EU 包括的戦略的パートナーシップ関係の 勢力均衡効果に対する中国の認識 (1) EU の発展と中国の世界多極化目標 基 本的に 、ヨ ーロッ パが 勢力均 衡を 促進し 、国 際シス テム 構造に 変化をもたらし始めた 1950~60 年代に、中国は西ヨーロッパを「第 二 中間地帯」 と位置づけ たが、これ は欧州を覇 権主義に属 する米 国 や ソ連とは一 線を画して みなそうと する中国の 意図を示す もので あ る22。また、1970 年代以降、西ヨーロッパは「第二世界」と見なさ れたが23、「第二中間地帯」であれ、「第二世界」であれ、西ヨーロッ パ は中国の覇 権主義反対 の目標の下 で、一時的 に聯合する パワー と 見なされた。こうした認識が、中国と西ヨーロッパ各国に1990 年代 以 前、ソ連の 脅威に対抗 するという 共同戦略利 益に基づき 密接な 関22 尹慶耀『中共外交與對外關係』(台北:国際関係研究センター、1973 年)、頁 34~35。
23 Michael B. Yahuda, “China and Europe: The Significance of a Secondary Relationship”,
Thomas W. Robinson and David Shambaugh ed., Chinese Foreign Policy: Theory and
係を構築させた24。そうであるならば、ヨーロッパは中国の考える国 際システムに二つのより深い意義を具える発展・変化をもたらした。 一つは 1990 年代末の EU 統合プロセスの加速と規模の拡大であり、 も う一つは、 冷戦終結後 のヨーロッ パと米国の 大西洋を跨 ぐ緩や か な聯盟である。 一つ目の発展についていえば、基本的には中国と EU の前身であ るヨーロッパ共同体(European Communities)が 1975 年に正式な関 係を構築したことであるが、90 年代前半においては、中国の概念の 中では、「ヨーロッパ」の重要性は一貫してEU に勝るものであった。 というのも、主に、「ヨーロッパ」は西側の工業民族国家による抽象 的な集合体であり、1993 年にマーストリヒト条約が発効した後、正 式に誕生した EU は主権国家が部分的な主権を譲歩するとの基礎の 上 に徐々に形 成されてき たものであ って、主権 と領土の完 備を重 視 する中国の政治的伝統や経験に一致しなかったからである25。もう一 つの要素は、EU が実体として統合に向かうにもかかわらず、ビジョ ンが不確定であったためで、中国が EU に対し明確な定義や目標を 定めることができなかったためである26。しかし、90 年代の統合・ 発 展 を 経 て 、EU は 貨 幣 及 び 経 済 、 共 同 の 外 交 及 び 安 全 保 障 政 策 (Common Foreign and Security Policy)、司法及び内政(Justice and Home Affairs)の三大柱を強化し、これを基礎に政治的統合プロセス を加速させ、EU は徐々に一つの実体として体現してきた。最も重要 なのは、EU の加盟国数が増え続けていることで、1995 年当時の加 盟国は15 カ国であったが、2004 年 5 月 1 日には東欧・南欧の 10 カ
24 Ibid., 270~273.
25 Kay Moller, “Diplomatic Relations and Mutual Strategic Perceptions: China and the
European Union”, The China Quarterly, Vol. 169, (March 2002), p. 10.
国 が加盟した 。主に大国 間のパワー バランスに よってシス テム構 造 が決定されるとするネオリアリズムの観点からすれば、EU の統合と 規模の拡大は、EU が大国に類似する実体であることを顕著にし、冷 戦 終結以降の 米国主導の 国際システ ムに衝撃を 与えたこと は明ら か で、こうした発展が中国に90 年代末以降に認識を改めさせることに なり 、国際的な 場で中国が 「一つの聯 合」、「強大 なヨーロッ パ」 と 楽観的に強調することにつながった。さらに2003 年に発表した「中 国対EU 政策文件」において、中国は「EU は世界の一つの重要なパ ワーである」と指摘した27。よって、中国・EU 包括的戦略的パート ナ ーシップの 形成と発展 は、中国か らすれば、 国際システ ムを勢 力 均衡へ導く目標と意義を具えたものであった。 ネ オリア リズ ムは、 経済 が国家 間の 力の分 布と 切れな い重 要な要 素であることを強調していることから分かるように28、EU の統合が 成功した中で、中国・EU 戦略的パートナーシップは中国にとっては 重要な勢力均衡の意味合いを持つようになった。中国・EU 双方が世 界 政治経済に おいてパワ ーを増強し 、システム 構造に徐々 に変化 を 与えようとするその目標と実践には、強大な経済的基礎がある。2003 年 、中国は世 界第六位の 経済貿易主 体で、総貿 易総量は世 界第四 位 となり、他方、EU15 カ国の経済総量及び貿易総額はそれぞれ全世界 の 25%、35%を占めていた29。最も重要なのは、中国・EU が経済貿 易 において、 互いに相互 補完性を具 え、これを 増強し続け たこと か ら、双方の貿易総額も拡大し続けたことであり、2003 年に中国・EU 貿易額は初めて 1000 億米ドルを突破し、2004 年には 1772.8 億米ド
27 「中國對歐盟政策檔」新華網、2003 年 10 月 13 日、http://news.xinhuanet.com/zhengfu/ 2003-10/13/content_1120537.htm。 28 Kenneth N. Waltz,
Theory of International Politics, pp. 130~131.
ルに達し、増加幅は33.6%となり、EU にとっては、対米、対日貿易 額を上回り、中国が最大の貿易パートナーとなった30。こうした巨大 な経済的な共同の利益は、中国が21 世紀に世界の多極化を推進する 中で、中国・EU 戦略的パートナーシップ関係にその主導的役割を持 たせることにつながった。 第 二の発 展に ついて みる と、冷 戦終 結によ って ヨーロ ッパ と米国 に よる大西洋 を跨ぐ同盟 は日増しに 緩み、ヨー ロッパと米 国の安 全 保 障 戦 略 や 国 際 問 題 を め ぐ る 認 識 に 、 共 同 の 脅 威 の 消 失 に よ っ て 徐 々に相違が 生じるよう になった。 基本的に、 ヨーロッパ 諸国は 多 国間主義(Multilateralism)の見地から冷戦後の国際新秩序の形成に 影 響を与えよ うとし、他 方、米国は 国際問題に おける自身 の指導 力 を 確保するた め、強大な 軍事力を基 礎とする同 盟を構築す る戦略 を 深く信じていた。しかし、90 年代後半には、国際的な軍事コントロ ー ル、グロー バル的な安 全保障、国 連問題、第 三世界問題 、地域 紛 争 の解決のい ずれにおい ても、両者 の見解の相 違が目立つ ように な った31。21 世紀に入って、ヨーロッパと米国との見解の相違は、2001 年 にジョージ ・W.ブッ シュ氏が大 統領に就任 して以降、 単独行 動 の 傾向がより 顕著、且つ 弛まず拡大 したため、 大西洋を跨 ぐ欧米 の 聯盟関係は、EU の自主性向上によってさらに弱まることとなった32。 911 連続テロ事件後、EU 各国は全力で米の対テロ戦争を支持したが、
30 李鋼「中國與歐盟經貿關係現狀的評估」中國網、2006 年 10 月 27 日、http://www.china. com.cn/authority/txt/2006-10/27/content_7282612.htm。
31 Andrew Moravcsik “Striking a New Transatlantic Bargain”, Foreign affairs, Vol. 82, No. 4,
(July/August 2003), pp. 74~89; Robert Kagan, Of Paradise and Power: America and Europe
in the New World Order (New York: Random House, 2004) を参考のこと。
32 Robert E. Hunter, “Europe’s Leverage”, The Washington Quarterly, Vol. 27, No. 1 (Winter
2003-04), pp. 94~97; T. R. Reid, The United States of Europe: The New Superpower and the
フ ランスやド イツ等のヨ ーロッパの 主要国は基 本的には大 げさな 軍 事 行動に反対 し、中東問 題の公正な 解決こそが イスラム原 理主義 や テ ロリズムを 消滅させる 最善の案で あると主張 し、ドイツ 、フラ ン スなどヨーロッパの主要国は米国が2003 年に国連安全保障理事会の 同 意を得ずに 、イラクを 攻撃し占領 したことに 強烈に反対 し、こ れ によってヨーロッパ諸国と米国の見解の相違と争いが表面化 し た33。 表 1 2002-2010 中国と EU の輸出入総額(単位:億米ドル) 年 輸出 輸入 輸出入総額 2002 362.9 330.5 696.2 2003 721.5 530.6 1252.1 2004 1071.6 701.2 1772.8 2005 1437.1 735.9 2173 2006 1819.8 903.1 2723 2007 2451.9 1109.5 3561.5 2008 2928.7 1326.9 4255.7 2009 2362 1278 3640 2010 3112.3 1684.7 4797.1 (出典)中國商務部、http://ozs.mofcom.gov.cn/date/date.html。 日 増しに 拡大 する見 解の 相違や 争い を抱え るヨ ーロッ パと 、中国 の 国際秩序に 対する理念 や国際シス テムを勢力 均衡の世界 多極化 へ 向 かわそうと する目標は 疑う余地な く一致した 。中国は、 世界の 多 極 化の進展が 緩慢な原因 の一つには 、米国とヨ ーロッパが 、歴史 ・ 文 化、制度や イデオロギ ーにかかる 価値観の同 一性によっ て強い 西 側の概念を形成し34、これを基礎として、工業化、市場化、現代化、
33 Robert E. Hunter, “Europe’s Leverage”, pp. 96~97.
民 主資本主義 に代表され る西側シス テムが形成 されている ことに あ る と考えてい る。言い換 えれば、米 国の覇権的 地位は、冷 戦以降 、 米 国が西大西 洋を跨ぐ同 盟を基礎に 、長期的に 西側のリー ダーと な っ てきたこと に起因する 。中国のい う世界の多 極化の目標 が、強 い 西側システムの分化を意図していることは否定できない。90 年代後 期 、中国はロ シアとの戦 略的協力パ ートナーシ ップを発展 させて き たほか、アジア欧州会合(Asia-Europe Meeting)にも積極的に参加し た 。その動機 の一つには 、強固な西 側システム の影響に対 しバラ ン ス をとるため 、同会合を 通して西側 と東側の国 家の対話と 協力を 強 化 し、アジア とヨーロッ パの間に新 しいタイプ のパートナ ーシッ プ を構築しようとしたためである35。よって、中国が積極的にEU とパ ー トナーシッ プを発展さ せたことに は、この機 会に乗じて 観念や 価 値 観における 西側との見 解の相違を 緩和し、強 固な西側シ ステム 構 造を分化しようとする意図があったことは否定できない36。 (2) 中国の国力強化に対する EU の作用 ネ オリア リズ ムの観 点か らすれ ば、 力を追 求し て安全 保障 と発展 をもぎ取ろうとする中国にとっては、中国・EU 戦略的パートナーシ ッ プにおける 最も重要な 勢力均衡の 意義は、中 国自身の国 力向上 で あ り、国際シ ステムにお いて弱い立 場にある中 国の地位に 変化を 及 ぼすのに有益であるからで、簡単に言えば、中国・EU 戦略的パート ナーシップの枠組みを通して、EU から科学技術力、地政学、イメー ジの三つの側面における実力を強化することであった。
110~111. 35 Ibid., p.111. 36 Ibid., pp. 115~118;田德文「中歐夥伴關係與觀念因素」周弘編『共性與差異:中歐夥 伴關係評析』(北京:中國社會科學出版社、2004 年)、頁 117~118。
ま ず、科 学技 術のレ ベル につい てい えば、 ハン ス・モ ーゲ ンソー (Hans J. Morgenthau)氏が早くから指摘しているように、技術レベ ルの違いは国家間の力の分布に決定的な影響を与える37。モーゲンソ ー 氏はさらに 、米国が長 期的に世界 をリードす る地位につ いた要 因 は先進技術にあると強調している。21 世紀における中国の総合国力 は 科学技術の 突破という ボトルネッ クにぶつか り、米国が 中国脅 威 論 を防ぐとい う国家安全 保障を理由 に、中国へ の先進技術 輸出を 規 制する状況下で、同レベルの先進技術を有する EU やその加盟国が 中 国の技術力 及び総合国 力向上の重 要な協力相 手となった ことは 明 らかである。90 年代中期以降、中国は EU との経済貿易交流の向上 を通して、科学技術協力を強化した。EU の対中投資も米国、日本に 続くものとなったが、EU の対中投資は概ね技術性が高い生産分野に 集 中しており 、大きな案 件としては 、上海リニ アモーター カーや 大 亜湾原子力発電所等がある38。この他、EU は 1989 年の天安門事件を 受けて対中武器輸出を禁止し、また、1990 年代中期・後期には、よ
り完備された輸出管理システム(export control system)を構築した
が39、中国は依然としてフランス、ドイツ、英国、イタリアの民用武 器 及び非殺傷 性装備の購 入や科学技 術協力等に よって間接 的に国 防 力を向上させることができた40。中国の国防現代化の長期的発展から す れば、中国 が西側から より多くの 武器装備及 び技術を獲 得し、 同
37 張自學譯、Hans J. Morgenthau 著『国際政治学』(台北:幼獅文化事業公司、1976 年、 頁37~44。 38 孫永福「中歐經貿合作的現狀與前景」『國際經濟貿易關係』(北京)、第4 期(2005 年)、 頁53。 39 鍾志明「從歐洲聯盟出口管制體系談對中國之武器禁運」『全球政治評論』第 14 期(95 年4 月)、頁 42~46。
40 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo
時に90 年代以来続くロシアの武器システムに過度に依存している状 態を脱しようとしていたことは否定できず、中国が中国・EU 戦略的 パ ートナーシ ップによっ て同目標を 達成しよう としていた ことは 間
違いない。2003 年、中国と EU は「ガリレオグローバル衛星システ
ム」(Galileo Global Satellite System)協力計画を締結し、中国は同計
画への参与によって初めて EU に加わった。一般的に、民用と商用 の 性質をもつ 同協力が中 国の科学技 術、ひいて は国防力を 大幅に 向 上させることになると見られている41。中国はまた、EU が対中武器 輸 出禁止の解 除を進める ことによっ て、国防力 向上の目標 を達成 す ることを期待した。 地政学的レベルからいえば、21 世紀初め、中国は日米安全保障同 盟、NATO の東方拡大、及び 911 テロ事件による米軍の中央アジア 駐 留 と い っ た 地 政 学 的 挑 戦 に 直 面 し た 。 ウ ィ リ ア ム ・ ネ ス タ ー (William Nester)氏は、地政学的挑戦に直面する国家は往々にして 軍 事支出と経 済発展の両 難に陥るた め、脆弱性 を呈しやす いと指 摘 している42。中国がユーラシア大陸のもう一端に位置し、国際制度や 多国間主義統治モデルを重視する EU との戦略的協力を推進したこ とは、こうした脆弱性を緩衝するのに有益であることは間違いない。
41 西側の専門家は、中国がガリレオ開発計画に参与する機会を利用して国産の民用・ 軍用軍事技術を如何に生産するか研究しようとしていると見ている。ガリレオ開発 計画に参与した外交官は、ある国家がガリレオ衛星(衛星測位)システムへ参加し たが、この国がガリレオに対応する防衛システムを選択することは間違いなく、最 も重要なのはガリレオの最先端技術やサービス技術の公共規制が軍事協力能力発展 の促進に役立つことであると指摘している。「中國加入"伽利略"衛星系統」BBC. Chinese.com、2003 年 9 月 19 日、http://news.bbc.co.uk/chinese/trad/hi/newsid_3120000/ newsid_3121900/3121962.stm.
42 William Nester, Geopolitical and Geoeconomic Conflict and Cooperation (New York:
簡単に言えば、中国・EU 戦略的パートナーシップの発展は、基本的 に は、東アジ ア及び中央 アジアの地 政学的安全 保障を強化 しよう と す る中国の一 種の戦略で ある。東ア ジアの面に おいては、 中国は 中 国・EU 関係によって米国、日本、同盟国とのバランスを保ち、東ア ジ アにおける リスクを抑 制できる。 最も重要な のは、台湾 海峡問 題 において、EU が一つの中国政策を支持していることで、中国・EU 戦 略的パート ナーシップ の強化はま た、米国に 東アジアの 戦略的 安 全 保障及び経 済上の利益 を確保させ て容易に一 つの中国政 策を転 換 さ せないよう にし、同時 に、実際の 行動によっ て台湾独立 を阻止 し 台湾海峡の平和を確保することである。中央アジアの面においては、 中国・EU の戦略的協力は、一方では中国と NATO に加盟するヨーロ ッパ諸国との関係を強化し、米国主導による NATO を牽制し、最終 的 に東方拡大 の範囲を中 央アジアや 新疆・チベ ットにおけ る中国 の 地 政学的利益 に衝撃を起 こしうる中 央アジア地 域へと広げ 、一方 で ロ シアに中露 戦略的パー トナーシッ プと上海協 力機構を重 視させ 、 ユ ーラシア大 陸の地政学 における中 国の安全保 障上の守り を固め る ことである。 イ メージ の面 におい ては 、中国 脅威 論を緩 和し 、天安 門事 件以来 の国際イメージを改善することが、90 年代から今日に至るまでの中 国 の重要な国 際目標であ る。しかし 、中国の台 頭は、ハー ドパワ ー に 属する経済 や軍事力に よるもので あり、ジョ セフ・ナイ 氏が指 摘 す る制度、文 化、価値観 といったソ フトパワー が同時に向 上して い ないため43、中国脅威論は国際社会でいまだに払拭されておらず、国 際 社会に対す る中国の影 響力も弱体 化した。中 国が、人権 ・制度 を 重視し、民主化が成熟した EU との戦略的パートナーシップを発展
さ せることは 、中国の苦 手とするソ フトパワー 面を補うこ とに有 益 で 、西側社会 の共鳴を得 て中国脅威 論を払しょ くして不利 なイメ ー ジを改善することは、21 世紀における中国の平和的台頭や世界と調 和する秩序・理念にも有利に働くと考えたからである。 (3) 中国 ・EU 包括的 パー トナー シッ プにお ける 勢力均 衡に 対する ヨーロッパ U の認識 中国・EU 戦略的パートナーシップ構築によって勢力均衡を示すこ と に対し、中 国とヨーロ ッパはもと もと共通認 識を持って おり、 こ れは中国・EU 戦略的パートナーシップ発展の利益でもあった。 ①中国とヨーロッパは地理的に遠く離れているため、双方の間で 戦略的利害衝突は存在しにくい。沈大偉氏は、EU には正式な軍 隊がなく、東アジアにおいて戦略的利益がなく、また中国・EU 双方に潜在的脅威の安全保障連盟だと認識させる要素がなく、 更には全ての EU メンバーが、「一つの中国の原則」を支持し、 お互いに台湾問題をめぐっても争いがなかったことから、EU に 中国と安定した関係を培う良好な環境を提供できたと指摘して いる44。 ②中国の台頭は EU とアジア諸国の経済貿易関係の開拓に役立つ ものである。EU は 1993 年の発足以降、自身の経済力増強に有 益な外部の力を模索し、アジア太平洋及び中国は EU の経済貿 易開拓の重点地域となり、90 年代における中国の急速な経済的 台頭、経済体制改革・転換は特に EU にモチベーションを与え た。よって、EU は経済統合後、世界的に重要な経済実体として の自主性と競争力を示すべく、安定した中国・EU 関係を通して
アジアに進出し、アジア市場を開拓することを期待した45。 ③ヨーロッパの数カ国の主要国及び EU は、国際権力構造もまた 勢力均衡を具えるべきとの認識・期待を持っていた。18、19 世 紀以降のヨーロッパの均衡の取れた政治的伝統や外交からも、 ヨーロッパが国際政治及び国際システムに対して常にバランス を保つべきとの認識・期待を持っていたことが分かり、一極の 世界秩序及び覇権政治には反対してきた。早くは冷戦期間中に おいて、フランスのド・ゴール大統領(当時)は独立・自主を 強調し、フランスとヨーロッパ諸国は、米国がコントロールし ようとする従属的地位から脱することを望んだ46。1991 年末に、 ヨーロッパ共同体がマーストリヒト条約を締結したことは、冷 戦終結後、EU が統合によって自主性を拡大しようとしたことを 意味する。ヨーロッパは、大西洋を跨ぐ米欧の聯盟がよりバラ ンスの取れた関係になることを望んだのみならず、世界構造に おける自身の影響力を強め、不均衡な国際権力構造を変えるこ とを望んだ。こうした勢力均衡の理念と世界の多極化に対する 中国の考え方や期待は、期せずして一致し、国際新秩序の変更 に与える中国の台頭の潜在的影響力を EU が徐々に重視するこ とになった。 上述の利益に基づき、EU は 90 年代中盤から中国に対して積極的 な 外交政策・ 戦略を採り 始め、中国 との関係強 化によって 経済貿 易 利益を拡大し、自身の影響力と地位を強化しようとした。1995 年、
45 Communities, “Towards a New Asia Strategy,” COM (1994) 314 final, Brussels, July 13,
1994; Franco Alegieri, “EU Economic Relations with China: An Institutionalist Perspective,
The China Quarterly, Vol. 169 (Mar. 2002), p. 76.
46 Kenneth N. Waltz,
EU は初めて「中国・ヨーロッパ間関係のための長期的政策」(A Long Term Policy for China-Europe Relations)を発表し、その中で中国・EU
関係の長期性と独立性を強調し、合わせて対中戦略が EU のアジア
戦略の核心であると指摘し、中国との建設的な関係の強化を望んだ47。
1998 年 、「 中 国 と の 包 括 的 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 構 築 」( Building a Comprehensive Partnership with China)の文書にて、EU は初めて政治 的 、経済的に 成長し続け る中国と新 しい包括的 パートナー シップ を 構 築すべきで あると打ち 出し、中国 を米国、日 本、ロシア と同等 の 戦略水準の地位に高めた48。21 世紀に入って、国際問題に対するブ ッシュ政権の単独行動主義が日増しに顕著になり、2003 年にはイラ ク に対し戦争 を発動した ため、フラ ンス、ドイ ツなどのヨ ーロッ パ の 主要国の米 国に対する 不満は一段 と高まり、 世界の多極 化の目 標 に おいて、中 国との間に 徐々にグロ ーバル的且 つ戦略的な 共同の 利 益が生れ、2003 年 9 月、EU は再び「成熟するパートナーシップ:
EU・中国関係における利益及び課題の共有」(A Maturing Partnership: Shared Interests and Challenges in EU-China Relations)報告書を提出し、
さらに12 月、安全保障戦略報告において、中国を EU のグローバル
戦略の一つと位置づけ49、安全保障及び戦略分野における中国との協
力関係を拡大することを望んだ。
47 Commission of the European Communities, “A Long-Term Policy for EU-China Relations,”
COM (95) 279 final, Brussels (May 7, 1995).
48 Commission of the European Communities, “Building a Comprehensive Partnership with
China,” COM (1998) 181 final (April 23, 1998).
49 Javier Solana, A Secure Europe in a Better World: European Security Strategy (Paris: The
四 中国・EU 戦略的パートナーシップの実践におけ
る制約
しかしながら、中国・EU 戦略的パートナーシップは、その発展過 程 において、 価値観をめ ぐってたび たび見解の 相違が生じ 、戦略 性 を 具えた勢力 均衡の目標 は実際には 現れにくく なった。こ れは、 欧 米関係が程なく良好に転じ、また EU が今日までに対中武器輸出禁 止 を解除して いないこと からも分か り、更には 、前述した カプラ ン 氏 が指摘した ように、勢 力均衡はし ばしば共同 の文化・政 治制度 と 価 値観の歴史 的基礎の観 点に基づい て築かれな ければなら ないこ と を証明している。 中国・EU 双方においては、価値レベルの相違が非常に多岐に渡っ て おり、なか でも関係発 展にもっと も深刻な影 響を与えた のは、 主 権や人権に関わる問題である。2003 年、中国・EU 双方は、包括的 戦 略的パート ナーシップ の発展に同 意したが、 民主主義的 価値を 重 視 するヨ ーロ ッパは 中国 の人権 に対 する批 判を 緩めて おら ず、2006 年 以降、中国 の人権に対 するヨーロ ッパの批判 は中国台頭 に伴っ て 更 に高まり、 ダライ・ラ マ氏やチベ ットの問題 は特に双方 の争点 と なった。2007 年、ドイツのメルケル首相が首相公邸でダライ・ラマ 氏と会見したことに中国は強い不満を抱き、内政干渉であるとして、 貿易の発注先をフランスにシフトした。また、2008 年 3 月のチベッ ト 騒乱の発生 以降、ヨー ロッパの各 界において チベットに 対する 同 情が広がり、北京オリンピックの聖火リレーにいたってはロンドン、 パリで民衆の抗議に遭ったが、年末に、EU 議長国を務めるサルコジ 大 統領がポー ランドでダ ライ・ラマ 氏と会見し たため、中 国は憤 慨 し、当初 12 月 1 日にフランスのリヨンで開催する予定だった第 11 回中国・EU 首脳会議を延期した。さらに 2010 年、ノーベル基金会がノーベル平和賞を「08 憲章」を草案した中国の劉曉波氏に授与す るとしたことを受け、中国はノルウェーとの政治経済関係を凍結し、 今日まで回復していない。 こ のほか 、様 々なグ ロー バル問 題、 例えば イラ ンの核 問題 、アフ リ カの政治問 題、気候変 動などをめ ぐって、中 国とヨーロ ッパは 立 場 が一致して おらず、利 益競争の要 素があるだ けでなく、 最も重 要 な のはこうし た立場の不 一致が依然 として価値 観の相違に 起因し て いることである。イランの核問題への対処においては、EU は中国が そ の交渉過程 において、 国際安全保 障利益より も、イラン におけ る 自身の経済的、エネルギー的利益を重視したと考え、中国は EU が 期 待する責任 ある関係の パートナー となるには 程遠いこと が顕著 と なった。アフリカの政治問題において、EU は、中国が原料や石油の 利 益に基づき 、人権迫害 を行ってい るアフリカ の政府と積 極的に 協 力することに反対した。また、気候変動問題については、EU は中国 が 経済発展レ ベルの違い を理由に、 中国を含む 発展途上国 も能力 と 責任が及ぶ範囲で排出削減に努めるべきとの EU の主張を拒否した ことに不満を抱いている。 上述の価値観の相違は、以下三つのレベルにおける中国・EU 双方 の発展に不利な影響を及ぼし、中国・EU の戦略的な勢力均衡にも影 響を与えた。 一つ目は、米・中国・EU の三者関係が徐々に中国に不利な方向に 向かったことである。中国・EU の価値観の相違は、米国の対イラク 戦 争によって 亀裂が入っ ていた欧米 のパートナ ーシップを 、大西 洋 を 跨ぐ長期的 な同盟とい う伝統的な 友好や共同 の体制、価 値観と い った共同な価値の基礎の上に再び凝集させた。米国は中国・EU 戦略 的 パートナー シップの発 展に終始関 心を抱いて いたが、世 界の多 極 化に対する中国と EU の共通の期待が両者の聯盟に繋がったとは考
えておらず、むしろ米国は中国と EU がパワーを増強すると同時に そ の戦略的レ ベルの協力 が米国の利 益に対しマ イナスの衝 撃を与 え かねないことを憂慮した。よって、EU が象徴的な意味合いを持つだ け と何度も強 調した対中 武器輸出禁 止解除につ いて徹底し て反対 し た。まず、米国は EU が一旦禁止解除を決議した場合、非民主主義 国 家に対する 欧米の戦略 の共同性が 更に弱まり 、イラク戦 争に続 い て 大西洋両岸 を跨ぐ共同 の価値観の 基礎が再び 深い傷を負 うこと を 懸念した50。次に、EU 加盟国は先進科学技術を有していることから、 中国・EU が戦略的レベルにおける協力を深化させれば、EU 加盟国 と の科学技術 協力によっ て中国が米 国から入手 できない敏 感な科 学 技 術を獲得す ることが可 能になるた め、中国に 対する米国 の敏感 な 技術における抑止効果が脆弱になり51、アジア太平洋における米国の 安 全保障上の 利益が損失 を受け、と りわけ台湾 海峡の軍事 バラン ス がより失われることを懸念した52。 これに基づき、米国は 2004 年から、中国・EU の戦略的な協力の 象 徴的である 対中武器輸 出禁止解除 を阻止する 様々な措置 を積極 的 に採った。中国・EU の共同の価値観をめぐる見解の相違は、EU の 対 中武器輸出 禁止解除を 阻止しよう とする米国 のモチベー ション を
50 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo
on China,” p. 26. このほか、「歐盟外長會議為何不解除對華軍售禁令」新華網、2004 年4 月 26 日、http://news.sohu.com/2004/04/26/32/news219953237.shtmlを参照のこと。 “United States Summarizes EU Arms Embargo Against China”, USINFO.STATE.GOV, http://usinfo.state.gov/is/Archive/2004/Nov/18-661185.html.
51 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo
on China,” pp. 15~17.
52 Peter Brookes, “The Lifting of the EU Arms Embargo on China: An American Perspective”,
Heritage Lecture #866, March 2, 2005, The Heritage Foundation, http://www.heritage.org/ Research/EUrope/hl866.cfm.
大 きく高めた 。米国のパ ウエル、ラ イス・元国 務長官、ブ ッシュ 前 大統領は EU のリーダーに対し積極的にロビー活動を行っただけで なく53、米国はヨーロッパ内部におけるロビー活動を強化し、中国の 人 権 政 策 に 関 心 を 抱 く ヨ ー ロ ッ パ 諸 国 や 欧 州 議 会 (European Parliament)54、更には経済レベルが比較的劣る EU 新加盟国に対し ても働きかけた55。 二 つ目の 面は 、ヨー ロッ パ主要 国の リーダ ー交 代後に おけ る対中 認識への影響である。2005 年、中国・EU 関係の発展は順調であっ た が、その主 な要因はフ ランスのシ ラク前大統 領とドイツ のシュ レ ー ダー前大統 領が、米国 の単独行動 主義に不満 を抱き、中 国との 国 際 協力を強化 して、ヨー ロッパの影 響力を顕著 にしようと してい た の に加え、他 方で中国と の経済貿易 関係発展に よる実務的 利益を 重 視 してい たた めであ る。 二人は 任期 中、何 度も 中国を 訪問 し、1999 年から2005 年にかけては、シラク大統領は七度も訪中している。2003 年、中国・EU は包括的戦略的パートナーシップの発展に同意し、こ れを基礎に、2004 年、フランスと中国は「中仏包括的戦略的パート ナーシップ」の構築を宣言し、同年 5 月、ドイツもまた温家宝総理 が公式に訪独した際、両国は中国と EU の包括的戦略的パートナー シ ッ プ の 枠 組 み に お い て 、「 国 際 的 責 任 を 伴 う 戦 略 的 パ ー ト ナ ー シ ップ」を構築すると宣言した。しかし、中国・EU に横たわる価値観 の 相違は、リ ーダーの交 流によって 構築された パートナー シップ を
53 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo
on China,” p. 10.
54 Ibid., p. 34.
55 Joakim Kreutz, “Reviewing the EU Arms Embargo on China: the Clash between Value and
Rationale in the European Security Strategy”, Perspective, Vol. 22 (Summer 2004), pp. 50~53.
相当に脆弱なものとした。2005 年にドイツのリーダーが交代すると、 中国・EU 関係は明らかに新たな課題に直面し、前任が中国との密接 な交流政策を望んだにもかかわらず、メルケル大統領は2006 年の訪 中 に際し、価 値観外交を 提唱し、米 国との関係 強化を望ん だため 、 中独関係に影響が及んだ。 三つ目の面は、価値観の相違が EU の対中武器輸出禁止解除をめ ぐる全会一致の効率に与えた影響である。中国は、EU の 90 年代の 統 合以降、日 増しにその 実体として のパワーと 影響力を示 してい る こ と を 重 視 し て い た が 、 中 国 と EU の 交 流 は 、 EU が 超 国 家 主 義 (Supranationalism)と政 府間主義(Intergovernmentalism)の両 方の 性質を同時に兼ね備えることによる制約を明らかに受けた。つまり、 超国家主義では EU が統合した実体としての利益を示すにもかかわ らず、政府間主義では逆に EU 加盟国は依然として自身の利益を考 慮する自主性を維持している。共通の外交・安全保障政策において、 EU は政策決定効率の改善を図るため 1997 年 10 月にアムステルダム 条約(The Treaty of Amsterdam)を結び全会一致(unanimity)の原則
を定めたが、EU 加盟国は依然として政府間協力・交流のモデルに依 存している56。よって、EU の外交・安全保障政策の基礎は、各加盟 国の国家主権と国家利益に基づき、EU の総合的な利益に基づくもの ではない57。体制と価値観もまたより多くの加盟国が考慮する重要な 要 素となり、 個別案件に おける全会 一致の政策 決定の効率 に影響 を
56 張亜中『歐洲統合:政府間主義與超國家主義的互動』(台北:揚智文化、1998 年)、 頁147~148、162。 57 沈大偉は、EU の共同外交・安全保障政策は今日まで一連の宣言による空想に過ぎな
いと考えている。David Shambaugh, “The New Strategic Triangle U. S. and European Reactions to China’s Rise”, The Washington Quarterly (Summer 2005), p. 13. を参照のこ と。
与えた。よって、ロマーノ・プローディ・EU 委員会主席が EU の対 中 武器輸出禁 止解除を支 持し、フラ ンス、ドイ ツ、オラン ダ、イ タ リ アなどの各 国が経済貿 易及び武器 輸出の利益 に鑑みて中 国の肩 を 持っても58、同分野で利益がないEU 加盟国は、明らかに米国のロビ ー 活動やその 他の反対要 因の影響を 受けやすく 、禁止解除 に対し 異 議を唱えた。2004 年 5 月の中欧・東欧 10 カ国の EU 加盟は、重要な 問題にかかる EU の政策決定の効率に更なる影響を与え、米国はま た、「新欧州」(New Europe)諸国といわれる国々対しロビー活動と 分化戦略を行った59。プローディ・EU 委員会主席は武器売却を人権 問 題とあわせ て論じるべ きではない ことに同意 したが、中 国に対 し ては早急に人権改善措置を採るよう呼びかけた60。 中国が日ごとに増強する中で、中国・EU 関係においては価値観の 相 違による摩 擦が拡大し 続け、ヨー ロッパの国 民の中国に 対する マ イナスイメージが強まった。米ジャーマン・マーシャル基金(German
Marshall Fund of the United States)が 2010 年に行った大西洋を跨ぐ世
論 調 査 で は 、 三 分 の 二 (63%)近くのヨーロッパの人々が、中国・ EU 間には共同の価値観をめぐって大きな相違があり、国際協力を進 められないと回答した61。よって、2010 年末以降、中国が EU に対し、 ヨ ーロッパの 金融安定を 支持し、深 刻な債務危 機にある国 の国債 の 購入を含む協調行動を採る用意があることを暗に示しても、EU の反 応はさめたもので、なかには中国の動機を勘ぐる声さえあった。
58 Kristin Archick, Richard F. Grimmett and Shirley Kan, “European Union’s Arms Embargo
on China,” p. 19.
59 Joakim Kreutz, “Reviewing the EU Arms Embargo on China,” p. 54.
60 「歐盟不擬近期解除對華軍售禁令」世界華人網、2004 年 4 月 20 日、http://www.world-
chinese.com/GB/7438.asp。
2010 年に至ると、中国と EU の経済貿易総額は既に 4797.1 億米ド ルに達し、2004 年と比較すると 64%増となったが、こうした発展に よ って双方は 国際戦略の 勢力均衡に おける意義 を顕著にで きなか っ たばかりか、逆に 2009 年以降、中国・EU 包括的戦略的パートナー シ ップはヨー ロッパ内部 の知識人や 中国専門家 から公に疑 義を抱 か れ るようにな り、ドイツ 外交関係委 員会の研究 所所長のエ バーハ ー ド ・サンドシ ュナイダー (Eberhard Sandschneider)教授は、戦略的 パ ートナーシ ップの多く は戦略的で ないと指摘 した。狭義 の定義 か ら すれば、戦 略的パート ナーは、基 本的価値観 や利益、特 殊な状 況 下 で、共同の 理念の基礎 の上に採ら れる行動で あり、大西 洋を跨 ぐ 関係のみがこの条件に符合する62。ベルギー・ブリュッセルの現代中 国研究所のスタンレー・クロシックス(Stanley Crossick)氏もまた、 中国・EU 関係は戦略的ではなく、またパートナー関係でもないと認 識 している。 戦略的パー トナーシッ プの構築に は、様々な 政策分 野 に おいて相互 に密接な関 係を確立で きるよう、 二つの行為 者が長 期 的な責任を負わなければならず63、中国・EU 包括的戦略的パートナ ーシップは明らかにこの重要条件に一致していない。 実際、EU は、戦略的な見地から、中国と勢力均衡を促進するパー ト ナーシップ の構築を期 待したが、 システムか らしても中 国とは 勢 力 均衡の理念 や目標にお いて明らか に相違があ った。中国 との関 係 強化にかかる勢力均衡をめぐる EU の認識は主に中国を国際社会に 取り込み、責任ある安全保障上のパートナーとし、EU の行動力の強 化を図ることであった。1998 年末、欧州委員会委員長であるジャッ
62 Eberhard Sandschneider, “The Strategic Significance of China-EU Partnership”, Foreign
Affairs Journal, Special Issue (Nov. 2009), p. 81.
63 Stanley Crossick, “China-EU Strategic Partnership: State of Play”, Paper for the Fudan
ク・サンテール(Jacques Santer)氏は、中国訪問中の演説において、 「EU と中国は世界のステージでより重要な責任を負う方法でお互 い に対する認 識を改め、 双方による 対話はいう までもなく 重要で あ り 、こうした 対話は一つ の新しい世 界の勢力均 衡にとって も有益 で ある」と述べた64。しかし、EU のこうした期待は完全に破れた。EU の 著名なシン クタンクで ある欧州外 交評議会の フランソワ ・ゴデ メ ント(Francois Godement)氏は、EU の対中戦略に対する期待はある 種の時代錯誤的な信念の上に成り立っており、EU は中国との無条件 な 接触と交流 を通して、 中国の経済 自由化を促 進するだけ でなく 、 同 時に中国の 法治改善や 政治的民主 化の推進に 寄与するこ とがで き ると信じていたと指摘した65。失望の余り、ゴデメント氏は「グロー
バル的な対中政策」(A Global China Policy)の報告書の中で、EU は
かつてのように中国・EU 双方の間の戦略的パートナーシップを強調 し、無条件に関与する(unconditional engagement)ことを改め、実務 的 ないわゆる グローバル 的な対中政 策を実施す べきと指摘 した。 つ ま り、グロー バル的問題 や世界の異 なる地域の 中国に対す る見方 か ら 中国をとら え、世界の 別のパワー と協力し、 ヨーロッパ の影響 力 を高める政策である66。 上述した EU の対中政策にかかる認識の変化は、2009 年 12 月に EU が正式にリスボン条約(Treaty of Lisbon)を批准したことで強化
64 邢驊「論國際格局變化中的中歐關係」『國際問題研究』(北京)第 1 期(2003 年)、 頁28。
65 John Fox and Francois Godement, A Power Audit of EU-China Relations (London: the
European Council on Foreign Relations, 2009), http://ecfr.3cdn.net/532cd91d0b5c9699ad_ ozm6b9bz4.pdf, pp. 17, 19~32.
66 Francois Godement, A Global China Policy (London: the European Council on Foreign
された。リスボン条約は EU の対外関係にかかる政策決定メカニズ ム に対して改 革を行い、 例えば、欧 州理事会常 任主席制度 の確立 、 欧 州連合外務 ・安全保障 政策上級代 表の設立、 欧州対外行 動局の 設 立といった進展が見られ、これらは EU の対外政策における全会一 致性と協調性の向上に寄与し、透明度と効率性が高まり、EU は対外 的 に一つの声 を発するよ うになった 。こうした 発展は中国 がより 簡 素・明確・直接的な方法で EU と交流するのに役立ったが、問題は リスボン条約では同時に、EU の共同の外交政策における欧州議会の 権力が強まったことで、例えば、EU 予算に対する改修権やコントロ ール権が拡大し、EU 委員会主席の選択権や任命権にも拡大した。こ れはつまり欧州議会が、EU の立法や外交政策決定に間接的に参与す ることを通して、EU の共同の外交に対する影響力を強化することを 意味し、中国・EU の関係発展に与えるイデオロギーの影響力も更に 強まり、将来、EU が価値観の相違を理由に中国・EU の利益に矛盾 が 生じる分野 で中国に対 し圧力をか けることが できること を意味 す る。
五 結論
上述した中国・EU 戦略的パートナーシップの発展から、中国は冷 戦 以降、大国 による勢力 均衡戦略に よって安全 保障と発展 を獲得 し よ うとする動 きを採った が、これに は明らかな 制約があっ たこと が 分 かる。主に 、冷戦終結 後、国際情 勢が大幅に 緩和し、更 にグロ ー バ ル化が各国 の相互依存 を強化させ 続け、権力 を追求し行 使する 行 為 が国家の生 存と発展を 増強しよう とする動き に、事実上 制約を 与 え 、国家が同 時にネオリ アリズム的 な制度やメ カニズムを 重視し な い 場合、安全 保障、発展 、影響力の 強化といっ た目標は容 易に達 成 できなかった。長 い間、 中国 はネオ リア リズム 権力 のモデ ルに 習い、 これ を二極 が 対峙する冷 戦期下で、 安全保障を 確保するた めの重要な 拠り所 と し たことから 、大国によ る勢力均衡 は、中国が 目標を達す るため の 主 要戦略とな った。冷戦 終結後、中 国は制度や メカニズム が安全 保 障 と持続的な 経済発展に 対し重要な 役割を担っ ていること を徐々 に 認識し、国際協力を強化し、90 年代中盤以降には、大国との更なる 協 力関係強化 に乗り出し た。しかし 、国際シス テムの不均 衡が日 増 しに拡大する中で、大国追従や依存によるリスクを防止するために、 中 国はネオリ アリズムを 考慮した大 国による勢 力均衡戦略 に引き 続 き依存した。これは90 年代中盤以降、中国がパートナーシップ外交 を 積極的に展 開すること に繋がり、 パートナー シップにお いては 共 同 の利益を基 礎とするゼ ロサムでは ない非対抗 モデルであ ること を あ えて顕著に しようとし たが、ネオ リアリズム 的な勢力均 衡の意 義 を 含んでいる のはやはり 明らかであ る。実際、 中国に、パ ートナ ー シ ップの構築 を通して、 とりわけ大 国と戦略的 パートナー シップ を 発 展させて世 界の多極化 を促進し、 自身のパワ ーを強化し ようと す る意図があったことは明らかである。21 世紀に入って、EU の統合 が 進展し、ヨ ーロッパと 米国の見解 の相違の大 きさが公の ものと な っ たことから 、米国の単 独行動主義 が進むこと を憂慮する 中国が 、 強 大なシステ ムと力を具 えようとし たこともま た明らかで ある。 ネ オリアリズムの観点からすれば、台頭する中国が、中国・EU 包括的 戦略的パートナーシップ関係を21 世紀において更に大国による勢力 均 衡を進め、 自身のパワ ーを強化す るための主 要戦略とし たこと が 証明できる。 実践レベルについて言えば、EU や加盟国もまた同様に、中国・EU 関 係が国際権 力構造にお ける勢力不 均衡を改善 することが 有益で あ る ことを重視 したが、双 方における 深刻な価値 観の相違の ために 、