こ れまで 見て きたよ うに 、領有 の係 争によ り中 日両国 関係 は完全 に 暗礁に乗り 上げている 。これだけ 深刻になっ た理由は、 無論、 そ の深層に過去中日間の歴史的怨念が潜んでいるからで、それゆえに、
発 火点として の領有係争 問題がいっ たん着火し てから、収 拾不能 な ほど一気に噴出した。
32 岩下明裕・羽場久美子・孫崎享「座談会・国境問題を解決する道はどこにあるか」
孫崎享編、前掲書、196~204 ページを参照。
33 孫崎享編、前掲書、202 ページからの引用。
皮肉なのは、35 年前から両国間には平和友好条約が存在するにも か かわらず、 釣魚体列島 領有の係争 に遭遇する と、うその ように 一 溜 りもなく吹 き飛ばされ てしまう。 というのも 、前述のア ンケー ト 調査のように、両国の民間レベルの嫌中、嫌日感情は、ともに 9 割 以 上に達して いるからで ある。官民 にわたる両 国関係は、 相互不 信 の 脆さ、意思 疎通の欠如 からくる溝 の深さ、隔 たりの大き さなど を 非情にも露呈している。
で は、本 件の 帰着は どう 展開さ れて いくだ ろう か。当 然、 欧州統 合 方式が東ア ジアで実現 可能ならば 何よりであ るが、それ 以外に 、 次のいくつかのパターンを検討してみたい。
1 戦争
突 発的な 事件 が発生 し、 事態が エス カレー トす る以外 、蓋 然性は 低い。両者ともに、極力避けたい局面である。戦争に持っていくと、
共倒れになるに違いないからである。笑うのは、アメリカをはじめ、
ロ シアなどで ある。村田 忠禧教授が 指摘したよ うに本件は アメリ カ のために中日間に埋設された地雷である。
つ まり、 中日 が友好 的に なれば 、ア メリカ の日 本に対 する 影響力 は 、言うまで もなく低下 していく。 仲違いの状 況に陥ると 、現段 階 の ように日本 はアメリカ 一辺倒を選 択するので ある。こう なると 、 日 本が望んで いる自主外 交はまた遠 のいていく 。多大な国 益を逸 し ても、合衆国に追随していくしかない。
中 国にと って も、ア メリ カの先 兵で ある日 本に 惑わさ れ、 争い合 い に明け暮れ れば互いの 国力の消耗 、相殺へと 導かれて陥 没して い く 。そして犬 猿の仲にな った両国は 、アメリカ の顔色を伺 わざる を 得 ない。アメ リカは時と して中国か 、日本かど ちらか一方 に加担 す ることによって、両国を変幻自在に操っていくことができる。
つ まり、 永遠 に合衆 国の 支配下 にお かれる とい う結果 に至 ってし ま う。したが って、最も 賢明なのは 、歴史上宿 敵であった 独仏両 国 を真似て、戦後の大和解(EU 達成までの努力の道程)を展開し、ア メ リカの思う つぼになら ないように 行動するこ とである。 つまり 、 アメリカの一極支配から脱出する方法を模索すべきである。
2 訴訟
訴訟 とは、 国際 司法裁 判所34(ICJ)への提訴である。前述でも触 れたように、ICJ にかけるには、前提が必要になる。つまり、当事者 間 において一 方が提訴し 、他方はこ れに応訴す る。要する に、両 当 事国の同意による付託である。もしくは、当事国が義務的管轄権(強 制管轄権)の受諾を宣言している場合である。
換 言すれ ば、 受諾を 宣言 してい る国 であれ ば、 提訴さ れる と、応 訴 の義務はあ る。そうで ない場合、 応否はその 国の自由で ある。 こ ういった手続きを完備させない場合、ICJ における訴訟はできない。
主 権平等の原 理を遵守す るため、国 家主権の上 に、支配力 を持つ 権 力 機 構 の 存 在 は 、 原 則 的 に 認 め な い か ら で あ る 。 し た が っ て 、ICJ への提訴は国家しかできない。
釣魚台列島の帰属問題をもし ICJ に提訴する場合、主権国家では な いから、ま ず台湾の提 訴は受理さ れない。義 務的管轄権 の受諾 に 関 して、日本 は宣言して いるが、中 国はしてい ない。また 、今ま で 中日両国の言行から判断すれば、ICJ に付託する用意はまだ見せてい な い。理由の 一つは、当 該地域は日 本が実効支 配している から、 日
34 矢吹晋『尖閣問題の核心ー日中関係はどうなる』(花伝社、2013 年)、68 ページを参 照。ならびに「国際司法裁判所(ICJ)―よくある質問―」『国際連合広報センター』
http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/faq/、検索日:2013 年 9 月 15 日。
本が能動的に提訴する必要はない。
中国は日本の一方的な当該問題の「棚上げ」を破棄したと認定し、
公 権力を代表 する巡視船 を巡航させ 、日本の主 張を直接否 定する 行 動 を採ってい る。したが って、予見 しうる将来 において、 この手 法 による解決の可能性は薄い。
3 仲介
国 連の下 での 「常設 仲裁 裁判所 」で の仲裁 、調 停では なく 、どこ か 第三国が乗 り出して、 両者の間に 立ち紛争を 避けるため に、如 何 に 努力して決 着につけら れるか、あ るいは互い にどのよう な条件 が 受 け入れられ るか、と言 った協議の 場を提供す る場合のみ である 。 それだけなら、現行の外交ルートを使えば充分ではないか。しかし、
接 触して物別 れになれば 、今度どっ ちが先に発 議するかと いう面 子 に 関わるので 、ややもす れば、容易 に行き詰ま るか、停滞 してし ま いやすい。第三者の仲介になれば、がちがちになりにくい。
問 題は、 両者 がとも に受 け入れ られ る公正 な第 三者( 対象 )が存 在 するのか。 アメリカ、 ロシアはい ずれにせよ 風格や、貫 禄など は 問 題はないか もしれない が、公正性 においては 、中国もし くは日 本 の 信頼を受け られないと 思われる。 例えば、ア メリカに対 して日 本 寄 りではない かと中国が 疑い、ロシ アには日本 が同じ不安 を抱く だ ろう。
ま た、仲 介者 も、仲 介に よって 何か の利益 を得 なけれ ば、 積極性 は 今一つであ ろう。世を 見渡せば、 むしろ両雄 が対立し続 けるほ う が メリットが 多いのでは ないか。中 国の近隣諸 国は、日本 が出て き て 中国を牽制 することに よって、自 国の自由度 や重みが増 すし、 虐 められないとするかもしれない。
ヨ ーロッ パの 主要国 家は 、経済 的な ライバ ルは 日本で ある ので、
日 本の中国市 場における 後退は好都 合である。 アメリカや 、ロシ ア な どは、安保 、経済、外 交などの国 際問題にお いて、中、 日のど ち らかから抑圧を加えられる場合がある。米露などの主要国にとって、
両 者が対抗し 合えば、抑 圧者から協 力者へと変 身するので 、直接 の 受 益者になる 。したがっ て、有力な 第三国が進 んで名乗っ て本件 の 軟着陸をアレンジすることは、期待できそうにないと言える。
4 棚上げ
中日間における 1972 年の国交正常化樹立、および 1978 年の平和 友 好条約締結 に際して、 当該島嶼の 領有をめぐ る問題は、 棚上げ に 関 して一切言 及していな い。その解 決は後世に 譲り任せ、 まず平 和 条 約の締結を 優先してい る。棚上げ と言うのは 、当該島嶼 の帰属 を め ぐる論争、 闘争などは 、中日両者 が暗黙の了 解として、 双方と も 独 占しようと する行動を 採らないで 、そのまま 放置してお くこと で あ る。要する に、円満な 解決方法が 見つからな ければ、何 世代で も いいから、後回しにするのである。いわゆる棚上げ論である。
こ ういっ た凍 結論は 、当 時の両 国高 層部の 指導 者がい ずれ も承知 し ている。例 えば、中国 側は周恩来 、鄧小平、 黄華などで ある。 日 本側は、田中角栄、大平正芳、園田直などである。しかし、2010 年 9 月に中国の漁船と海保の巡視船が衝突した際、日本は当事件の処理 に あたって、 国内法で対 処すると表 明した。言 葉を返せば 、日本 が 当 該海域での 排他的管轄 権を行使し 、現状(棚 上げ論)を 打破し た 結果になる。中国の不満の芽生えである。
後に、当時の前原誠司外相は国会(衆議院安全保障委員会/同外務 委員会、2010 年 10 月 21 日および同 27 日)で、「結論として棚上げ
論について中国と合意した事実はない35」と答弁した。日本が一方的 に 約束事を破 るのではな いかと中国 は疑心暗鬼 になった。 そし て 2 年 後に日本は 国有化まで 踏み込んで 、領有問題 の激化の再 燃を起 こ した。
棚 上げ論 の存 在は、 中国 が認め てい る。し かし 日本は 一切 否定し ている。ところが、日本の一部の中国研究者の研究成果36には、確か に 存在すると 裏付けてい る。棚上げ 論は中国に してみれば 、先人 の 承 諾をきちん と遵守して きたのに、 裏切られた と不満を爆 発させ 、 そ の結果全国 を挙げて反 日デモをお こなった。 今回はこれ だけの 波 風 を立たせ、 これだけの 代償を払っ ていること を鑑みて、 やはり 両 国 間に何かの 措置が必要 不可欠であ る。そこで 何より手っ 取り早 い の は、棚上げ 論の復活( 現状の回復 )である。 それは両国 のため に なるからである。
中 日両国 の国 交樹立 後、 半世紀 近い 年月を 経て 、当該 島嶼 領有係
中 日両国 の国 交樹立 後、 半世紀 近い 年月を 経て 、当該 島嶼 領有係