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釣魚台列島(尖閣諸島)国有化後の日本対中国態勢--ソフトランディングへの試案を兼ねて

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釣魚台列島(尖閣諸島)国有化後の

日本対中国態勢

-ソフトランディングへの試案を兼ねて-

呉 春 宜

(国立高雄第一科技大学応用日本語科副教授)

【要約】

安 倍総理 就任 後、日 本は 中国と の対 抗姿勢 を隠 すこと なく 前面に 出している。両国の関係は 40 年来、最も冷淡な状況に陥っている。 そ のきっかけ は、釣魚台 列島(日本 名:尖閣諸 島)をめぐ る領有 の 係 争であるが 、実際には 両国とも軍 事大国にな るという意 図に端 を 発したものだといったほうが、より真実に近いであろう。 中 国は戦 域戦 力の拡 大に 取り組 んで おり、 西太 平洋の 雄で ありた い と考える一 方で、過去 の歴史的栄 光を回復し ようと考え ている 。 日 本は中国台 頭の危惧と 、排斥なら びに敗戦国 から完全に 脱却し 、 汚 名返上を狙 っている。 即ち、中国 の陰影を取 り払うため 、日本 自 身も軍事力の強化をせねばならないと考えている。 加 えて、 アメ リカが アジ ア回帰 、も しくは リバ ランス を対 アジア 政 策の軸にし ている。他 方では、ロ シアが昔日 の超大国へ の復帰 に 意 欲を示しつ つある。こ ういった情 勢と相まっ て、中日の 対立は 西 太 平洋におけ る安全保障 情勢におい て、より複 雑多岐な変 数とな っ ている。

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両 国の関 係は 、近い 将来 に何ら かの 劇的な 変化 が無い 限り 、互い に 膠着と突破 という矛盾 した狭間を さまようだ ろう。そし て今後 の 行 方として、 以下の選択 肢の中の一 つが選ばれ ることにな ろう。 つ ま り、戦争、 訴訟、仲介 、棚上げ、 交渉である 。その中で は当然 、 両 国の話し合 いによって 、関係改善 を模索して いくのが最 も望ま し く、賢明であると考える。 キーワード:中日関係、国有化、右傾化、価値観外交、国民感情

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一 はじめに

2010 年 9 月に発生した中国漁船と日本の海上保安庁巡視船との衝 突 事件で、中 日間の外交 関係はぎく しゃくしは じめ、さら に日本 政 府が2012 年 9 月、釣魚台列島(日本名:尖閣諸島、以下省略)国有 化 を施行する と、両国関 係は決裂に 近い状態に なった。以 来、中 国 はその公権力の象徴である公船を派遣し、「公務の遂行」として直接 当該海域を巡視している。 日 本は、 中国 のこう した 行動に 対し て、不 法行 為であ り、 現状を 実 力で変えよ うとしてい るとして、 内外に向け 、非難、批 判を展 開 し ている。一 方、中国は 「当該島嶼 は自国の固 有領土であ り、日 本 こ そが一方的 に現状を改 変(国有化 )したので はないか」 と反論 し て いる。斯く の如く、こ こ数年来、 双方とも非 難に明け暮 れ、互 い に一歩も譲らず、事態を完全に行き詰まらせている。 2012 年末に日本では政権が交代し、事態が改善するかもしれない と 期待された 安倍政権で あったが、 政権成立後 は以前にも 増して さ ら に中日関係 を悪化させ ていった。 就任早々の 外遊では、 中国の 周 辺 国である東 南アジアを 朝鮮半島を 除いてこと ごとく歴訪 した。 建 前 は価値観外 交と称して はいるが、 本音は対中 包囲網の結 成、構 築 に余念のない赤裸々な外交展開である。 ま た、安 倍首 相は一 方で 、日本 の構 造的側 面の 改革に も着 手して いる。つまり、法制面、軍事面の抜本的、徹底的な改革促進である。 例えば、武器輸出の解禁、日本版NSC(国家安全保障会議)の創設、 集 団的自衛権 の行使、自 衛隊の国軍 化に、果て は憲法改正 まで成 し 遂げようとしている。 安 倍首相 は、 日本の 国防 は質量 とも に大い に強 化しな けれ ばなら な いと強調す る一方で、 過去の戦争 への反省や お詫び、不 戦の誓 い

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などに対し、消極的であり、正面からの取り組みはみられない。 西太平洋は、大国がひしめいている地域である。例えば、ロシア、 イ ンド、中国 、日本、オ ーストラリ アなどが全 てこの地域 または 周 辺 にある。そ れに、アメ リカが再均 衡政策の名 の下で、重 心をヨ ー ロ ッパからア ジアへ傾斜 している。 こういった 状況下で、 中日の 対 立 は、当該地 域にとって 決して喜べ るものでは なく、おそ らく将 来 大きな変化がもたらされるだろう。 本 稿は、 釣魚 台列島 国有 化後の 安倍 首相の 言動 に焦点 を当 て、両 国の関係悪化の成り行きを検証し、その深層にある日本の右傾化1 触れ、今後の行方や推移、影響を探り、それらを検討する。

二 日本の右傾化・軍事大国化

中国の徐敦信・元駐日大使は、「中日関係の緊張は表面上は釣魚島 問 題が引き起 こしたよう に見えるが 、両国の発 展戦略が矛 盾を生 じ させている事が底にある2」と表明している。徐・元駐日大使は両国 の 発展戦略の 矛盾が何で あるかにつ いては明言 していない が、お そ ら く両国とも に軍事大国 を目指して いるのでは ないかと筆 者は考 え る。 中国は 1971 年に国連常任理事国に入りし、政治大国にはなった。 し かし、経済 面では深刻 な貧困状態 に喘いでい た。そこか ら脱出 す

1 右傾化:一般的には自由経済、市場経済を信奉しており、また、個人よりも国家を 重んじるとされる。思想や外交姿勢などは、保守的、国粋主義的になることで、こ こでは元来の保守、国粋的な思想信念を抱く人々は、一層右翼的傾向へ傾いていく ことを意味する。 2 石原聖、工藤哲「日中平和友好条約 35 周年:元駐日大使『原点回帰を』」『毎日新聞』 ホームページ、2013 年 08 月 13 日、http://mainichi.jp/select/news/20130814k0000m 030057000c.html、検索日:2013 年 10 月 27 日。

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るため、1979 年から改革解放政策を実施し、そして 30 年後、2010 年 に日本を抜 いて世界第 二の経済大 国に急伸し た。しかし 、一人 当 た りの国民平 均所得にお いては、依 然として米 、日、独、 仏、英 等 の 先進国とは 程遠い。と はいえ、い ちおう政治 大国、経済 大国の 地 位 は手にした 。次なる目 標は、おそ らくアメリ カと拮抗で きるよ う な軍事大国になることであろう。 で は、中 国と 同じく 経済 大国、 政治 大国の 地位 を手に した 日本は どう かといえば 、長年の夢 である「力 強い日本 」、「正 常国家 」の 建 設で あろう。換 言すれば 、「軍事大国」 になること によって 、「力 強 い日 本」、「正常 国家」を実 現するので ある。日本 の国家とし ての 運 命 は米中に大 きく左右さ れる宿命に あることが 予測される 。端的 に 言 えば、いず れかに依存 する結果に なりやすい 。日本は戦 後、一 貫 し てアメリカ への従属に 甘んじてき たが、近い 将来、米国 が世界 一 の経済大国の座を中国に明け渡す可能性が見え始めている。 右 傾化傾 向の ある政 治家 にとっ ては 、同盟 の対 象をア メリ カから 中 国へと路線 を切り替え るのは不本 意であり、 その抵抗も 並大抵 で は ない。ここ に日米間に 共通の自覚 、思惑があ る。つまり 、単独 で 中 国とやりあ うことは避 けたいが、 中国の台頭 をすんなり とさせ た くないという認識である。 したがって、日米は分業体制3を取っている。アメリカが背後でバ

3 アメリカの保守系シンクタンクであるヘリテージ財団のレポートには、次の記述が ある。「安倍の保守的な外交政策についての考え方と中国に対する日本の民衆の増 大しつつある懸念は、ワシントンが米日同盟に死活的に重要な幾つかの政治的目的 を達成する絶好の機会である。(略)現在、東京は中国の拡大主義に対峙し、軍事力 を強化する用意がある。ワシントンが為すべきことに次のものがある。(1)東京は より大きい国際的役務を受け入れるべきだということを明確にする。(2)同盟国(米 国)の安全保障上の必要に見合うよう防衛費支出の増大を促す。(3)集団的自衛権 により柔軟な解釈をするように勧告する。日本は海外の軍事展開で同盟国(米国)

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ッ クアップ( アメリカは 日本の釣魚 台列島国有 化後、当該 島嶼の 主 権に関して、中立の立場を取る以外、すべて日本の肩を持っている) して、日本が前面に出るという、まさに「互相需要(求め合い)」の 構 図、態勢で ある。これ によって、 中国を掣肘 、消耗させ 、その 台 頭 を遅延、阻 止するので ある。この シナリオで は、日本も 軍備強 化 する必要がある。 し かし、 如何 に軍事 大国 になる か。 それに は技 術、資 金、 国民の 支 持が必要不 可欠である 。周知のよ うに、日本 の技術力、 資金力 は 世界屈指の地位にあるが、欠如しているのは国民からの支持である。 こ れをクリア するための 方法の一つ は、右傾化 を活発化さ せるこ と である。 し たがっ て、 中日間 の領 土係争 は、 軍事大 国を 志向す る者 にとっ て は、まさに 「鴨葱」で はなかろう か。右傾化 風潮の形成 に格好 の 係 争問題を口 実として、 その無人島 をめぐり、 両国はまる で明日 に も 開戦するか のような勢 いである。 もともと日 本では、軍 備強化 は 反対されるはずであるが、今は賛成に回る傾向も強まりつつある。 日 本では 、右 傾化に 属す る政治 家、 文人、 自衛 官、党 派、 社団な ど の人々のイ デオロギー には、度合 いに多少相 違はあるも のの、 基 本 は「親米反 中」である 。例えば、 安倍首相の 右傾化につ いて出 自 の 系譜を見て みると、外 祖父である 岸信介元首 相も、上記 のカテ ゴ リ に属してい る。岸は、 首相在任中 に日米安保 条約を改訂 し、そ の 枠内で日本の国益を最大限にすべきだという信念を貫いた。70 歳を 超 えた後も「 自主憲法制 定国民会議 」を主宰し 、自主憲法 制定に 生 涯余念がなかった。

の資源を消耗させるのではなく、効果的貢献を行うべきである。(略)」孫崎享編『検 証 尖閣問題』(岩波書店、2012 年 12 月)、pp. 227~228 から引用。

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安 倍首相 はこ ういっ た系 譜を完 全に 受け継 いで いる。 例え ば、内 閣法制局長の更迭4である。2013 年 8 月 8 日、安倍首相は駐フランス 大 使だった小 松一郎氏を 法制局の新 長官に任命 した。それ まで長 官 の任命は、政治的中立性を保つために、内部昇進を慣例としていた。 な るべく政権 の交代とは 無関係に、 独自の憲法 解釈を確保 、維持 し ていくといった「憲法の番人」の役割を果たさせる目的である。(編 集部注:小松氏は体調不良を理由に2014 年 5 月に退任し、同年 6 月 に逝去した。) 今回の異例の人事を行なった背景には、第一次安倍内閣(2006 年 ~2007 年)で、安倍首相は集団的自衛権に関する従来の憲法解釈を 変 更しようと 試みたが、 当時の長官 をはじめ、 幹部が一斉 に辞表 を 出 すと表明し たため、断 念した。同 じ時期に、 外務省国際 法局長 で あ っ た 小 松 は 、「 集 団 的 自 衛 権 は 正 当 防 衛 と 同 じ5」 と の 見 解 を 示 し た。 こ うした 経緯 の下、 安倍 現内閣 でい わゆる 「パ ラシュ ート 」人事 が行われた。つまり、集団的自衛権の行使に積極的に賛成する点で、 小 松長官と安 倍総理との 意見は一致 している、 というのが 異例人 事 の最大の理由であると言えよう。 憲 法改正 は現 段階で 国民 の危機 感や 、敏感 さが 依然と して 高い。 し たがって、 新長官は法 制局での勤 務経験を持 たないにも かかわ ら ず 、トップを すげ替える 事によって 、憲法改正 でなく憲法 解釈の み で 集団的自衛 権が行使で きるよう、 安倍首相は 簡便な迂回 作戦を 取 っている。

4 車学峰「安倍首相の筋書き通り、再軍備に向けて動く日本!」『朝鮮日報日本語版』 2013 年 8 月 28 日、http://blogs.yahoo.co.jp/tncfn946/30800692.html、検索日:2013 年 10 月29 日。 5 同上。

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これは、麻生太郎副首相が撤回した発言(2013 年 7 月 29 日、都内 における講演で)の内容を彷彿とさせる手法であろう。「憲法は、あ る 日気づいた ら、ワイマ ール憲法が 変わって、 ナチス憲法 に変わ っ て いたんです よ。だれも 気づかない で変わった 。あの手口 学んだ ら どうかね6」との発言である。国民が知らぬ間に「平和憲法」を変質 させてしまうという作戦戦略である。 集 団的自 衛権 の容認 は、 法制局 の憲 法解釈 だけ で事が 済む 。改憲 し なくても実 質的に改憲 と同じよう な効果がも たらされる 。日本 の 軍 備および同 盟国との共 同海外出兵 や戦争参加 などが可能 になり 、 軍事大国への道は自ずと開けてくる。 次 に戦後 日本 全体の 右傾 化への うね りを回 顧し てみよ う。 一回目 のピークは、1950~1960 年代である。国家戦略目標である経済大国 (1968 年にドイツを抜いて、世界第二位)を達成したため、右傾化 の風潮は影を潜めた。二回目は、1980~1990 年代である。中曽根政 権が掲げる「戦後政治の総決算」に集約している。そして、「国際国 家 ・日本」お よび「文化 と福祉の国 」の実現に よって、右 傾化は 退 潮した。 三回目は、2001 年小泉政権から現われ始め、鳩山政権時を除いて、 今 現在も進行 中である。 安倍政権が 先頭に立っ て求める国 家戦略 目 標は、「軍事大国」の建設であろう。要するに、政治、経済、軍事の 三 拍子揃った 正常国家の 追求である 。平和憲法 の改正だけ は、官 民 に わたっての 全国的なコ ンセンサス を得られな ければ、簡 単には 到 達できない。

6 志葉玲「麻生『ナチス手口学んだら』発言のツッコミどころ」『Yahoo! JAPAN ニュー ス』2013 年 8 月 2 日、http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20130802-00026952/、検 索日:2013 年 11 月 2 日。

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そこで表面上の領土係争は、目標達成のための絶好の材料となる。 即ち、中国を領土的野心を抱く国、若しくは潜在的敵国に仕立てて、 こ れを退却さ せうるほど の軍事力の 整備が必要 不可欠だと 主張す る の である。そ こに、いわ ゆる「領土 ナショナリ ズムの魔力 (民族 主 義の 高揚)」を登 場させ、「軍 事大国」に なるまでの 障害を一つ 一 つ 取り除いている。現に、改憲せずとも、軍事大国に近づいているが、 異 議を唱える 勢力はほと んど現われ ていないの が、その証 拠の一 つ である。 国 家 安 全 保 障 戦 略 (NSS)には、武器輸出三原則の見直し、日本 版 NSC(国家安全保障会議)の創設、特定秘密保護法案の制定など が盛り込まれている。これらを2013 年末に閣議で決定された新防衛 大 綱に反映さ せた。繰り 返しになる が、主要な 目標は憲法 改正で あ る。 以 下に安 倍首 相就任 後の 言動を 検証 し、そ の右 傾化の あり 方に触 れてみる。

三 釣魚台列島国有化後の中日関係

今日の中日関係の全面的悪化の発端は、周知のように2012 年 9 月 11 日の日本政府の釣魚台列島の国有化である。事の伏線を少しさか のぼると、その前年(2010 年)にいわゆる日本の海上保安庁巡視船 と 中国漁船と の衝突事件 があった。 この事件の 処理に際し 、民主 党 政 府の不手際 があった上 、漁船衝突 の映像が流 出し、マス コミが 騒 ぎ 立て、日本 国民の不満 を買った。 これにより 、両国官民 の間に は 不信、不満の感情が生まれた。 その後、当時の石原慎太郎東京都知事は、2012 年 4 月にワシント ン の保守系シ ンクタンク であるヘリ テージ財団 主催の講演 会で釣 魚 台 列島を東京 都が購入す ると発表し た。日本政 府は、当該 島嶼の 領

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有 を巡って中 台と係争中 であり、一 地方政府の 所有になる のは好 ま しくない。トラブルを引き起こしやすく、管理にも困るからである。 最 終 的 には、 日 本 政 府 が 乗 り 出 し て 、 当 該 島 嶼 を 「 国 有 化 」 し た7 「国有化」以前、両国は外交ルートを通じて、互いに交渉や説明、 抗 議、警告な どのやりと りをしてき たが、互い に理解を示 さず平 行 線のまま物別れになったと報じられた。そして、「国有化」が決定す る と、中国で は大規模な 暴動まがい の反日デモ が発生し、 両国の 関 係は瞬時に「凍結」に近い状態に突入した。 台湾では、「国有化」から 1 ヶ月経過した同年 10 月に、日本側か ら 交流協会を 通じて、台 日漁業協定 の締結を打 診してきた 。台湾 は それに応じて、翌年 4 月に長年の懸案であった同協定締結についに こぎ着けた。したがって、「国有化」の影響は、台湾において相対的 に平穏なものであったと言えよう。 国 有化の 時点 から、 中日 間の当 該島 嶼の領 有を めぐる 紛糾 は、過 熱 していった 。以下、政 府、民間な どのレベル に分けて、 それら の 情勢について検討する。 1 外交安全保障 日本では、「国有化」から3 ヶ月後の 2012 年 12 月に自民党の安倍 政 権が、民主 党の野田政 権に取って 代わった。 安倍首相は 就任後 、 前 政権と比べ 、より強硬 な対中姿勢 や政策を即 座に打ち出 した。 最 も目立ったのは外交・安全保障面である。政権発足1 ヵ月後、「対中 国包囲網8」の構築といえる外交攻勢を早々に繰り広げた。安倍政権

7 孫崎享編、前掲書、161~163 ページ参照。 8 「【図解・政治】参院選/安倍外交の「中国包囲網」」『時事ドットコム』、2013 年 6 月28 日、http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_election-sangiin20130628j-04-w560、 検索日2013 年 8 月 19 日。

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の外遊の足跡を追ってみよう。 2013 年 1 月中旬、安倍首相はベトナム、タイ、インドネシアの 3 ヶ 国を歴訪し 、安全保障 関係の促進 を含めた日 本との連携 の強化 に 努めた。同年2 月にはアメリカ、3 月にはモンゴルをそれぞれ訪問し た。4 月 10 日には台日間長年の懸案である「漁業協定」を締結させ た。4 月 28 日~5 月 4 日には、ロシア、サウジアラビア、アラブ首 長国連邦、トルコ等の 4 カ国を歴訪した。特に、モスクワでは日露 首脳会談を開催し、日露間にも日米間と同じく、「2+2(外務相と防 衛相による安全保障協議委員会)9」体制を設置することで合意した。 日露間では画期的な出来事であると言えよう。 同年 5 月には、これまで中国の牙城の一つであったミャンマーを 訪問し、新しい両国関係を築いた。また、同月29 日に、訪日したシ ン・インド首相と「海上保安庁とインドの沿岸警備隊との訓練10」な ど の項目を盛 り込んだ日 印共同声明 を発表した 。そして、 両国の 首 脳 外交を強め るため、安 倍首相は年 内に自らイ ンドを訪問 すると シ ン首相に対して表明した。 同 年 6 月 1 日 、 横 浜 で 開 催 さ れ た 第 五 回 「 ア フ リ カ 開 発 会 議 (TICAD)」の冒頭演説で、安倍首相はアフリカ諸国首脳に対し、今 後 5 年間で最大約 3 兆 2 千億円11ODA も含む)の対アフリカ資金 援助を官民で拠出すると公表した。7 月下旬には、マレーシア、シン

9 兵頭慎治「日露 2 プラス 2 開催へ 深化する安保協力の背景」『WEDGE Infinity』2013 年9 月 26 日、http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3181、検索日:2013 年 10 月 4 日。 10 「マンモハン・シン・インド首相の訪日(概要と評価)」外務省、2013 年 5 月 30 日、 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page3_000194.html、検索日:2013 年 9 月 22 日。 11 板垣英憲「安倍晋三が『対中包囲網』を張る『カネばら撒き外交』に」『Yahoo! JAPAN ニュース』、2013 年 6 月 2 日、http://bylines.news.yahoo.co.jp/eikenitagaki/20130602- 00025390/、検索日:2013 年 9 月 5 日。

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ガポール、フィリピンの東南アジア3 ヶ国を訪問した。 特 筆すべ きは 、フィ リピ ンとの 「海 洋分野 での 協力の 推進 」であ る 。日比双方 は、両国の 海上保安機 関同士の共 同訓練をは じめ、 他 の 実践、応用 分野での協 力も推進し ていくと合 意した。そ れに、 フ ィリピンの沿岸警備隊の能力を向上するために、日本から10 隻の巡 視船12を提供(円借款で賄われる)すると約束した。また、内航海運 の専門家も、日本からフィリピンに派遣することを決定した。 9 月上旬のモスクワにおける G20 では、安倍首相は中韓の首脳と は立ち話しかできなかった。しかし、9 月下旬の国連総会出席の機に、 アフリカの「地域経済共同体(RECs)」議長国の首脳と会合し、2014 年1 月にアフリカ諸国を歴訪する意向を表明13した。 安倍首相は、国連総会出席の道中、アメリカに渡り、同月25 日に 保守系シンクタンク・ハドソン研究所で講演した。その際、「戦争の 道を目指す右翼」との批判に「日本の防衛費の伸びが中国の10 分の 1 である」と弁明した上、「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいの ならどうぞ14」と逆に批判した。 以上のように、安倍首相は就任 1 年の間に世界各地を精力的に飛 び回った。その外遊先を整理すると、以下の特徴を指摘できよう。 (1)中国の周辺国歴訪:安倍首相は、就任後半年にもならない内 に 、中国と国 境を接する 国々はほぼ 漏れなく訪 問してきた 。モン ゴ

12 「安倍総理大臣の東南アジア訪問(概要と評価)」外務省、2013 年 7 月 27 日、 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page3_000327.html、検索日:2013 年 9 月 21 日。 13 安倍首相 アフリカ外交強化 年明け訪問伝達へ 対中国牽制 海上安全・資源で 協力」『msn 産経ニュース』、2013 年 9 月 25 日、http://sankei.jp.msn.com/politics/news/ 130925/plc13092507210002-n1.htm、検索日:2013 年 10 月 3 日。 14 水内茂幸「中国の右翼批判に「呼びたいならどうぞ」安倍首相、NY で演説、逆批判」 『msn 産経ニュース』、2013 年 9 月 26 日、http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130926/ plc13092608450001-n1.htm、検索日:2013 年 10 月 26 日。

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ル 、ロシア、 ミャンマ、 ベトナム、 フィリピン などである 。特に 中 国 と領土係争 のある国々 、即ちイン ド、ベトナ ム、フィリ ピンな ど と は、従来な かった安保 関係を重点 に緊密化し ようと力を 入れて い る 。フィリピ ンへの海上 巡視船提供 まで協力す るというこ とは、 両 国の 安保体制強 化の実態を 如実に物語 っている何 よりの証左 である 。 (2)ロシアとの安保関係構築:日本は、中国と国境を最も長く接 するロシアとの間には、日米間に因んで、「2+2」体制の設置に決着 を つけた。中 国にとって ロシアは軍 事技術や先 端兵器など の供給 源 で あり、また 国際政治、 国際外交に おいても信 頼を寄せる 友好国 で ある。 日 露間の 安全 保障協 議委 員会体 制の 確立は 、中 露友好 関係 が骨抜 き になるかも しれない。 いわゆる「 釜底抽薪( 釜の底で燃 えてい る 薪 を取り出し 発生源を根 本的に抹消 する。最有 効かつ根本 的な対 策 のこと)」の状態である。しかし、これこそ安倍首相の真の狙いでは なかろうか。 (3)アフリカにおける中日の競合展開:中国のアフリカ進出は長 年 にわたり、 関係を培っ てきた。そ の間、多大 な資金や労 力など を 注 ぎ込んでき たのは間違 いはない。 したがって 、ヨーロッ パ諸国 ど こ ろかアメリ カでさえ、 当該地域で 中国の影響 力を凌ぐの はそう 簡 単 ではない。 安部首相は 当地域への 更なる参入 、関係強化 を宣言 し た ことで、中 日各自のア フリカでの 基盤固めに おいて競合 は避け ら れないだろう。 (4)台湾との漁業協定締結:2013 年 4 月 10 日に、台日間で「漁 業秩序の構築に関する取り決め」に調印した。台日間の漁業交渉は、 これまでに17 年間もの歳月と精力を費やしてきたが、成果を上げる

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こ とができな かった。そ れが今回、 なぜすんな りと成し遂 げられ た か。さらにこの交渉の提議15は、2012 年 10 月、当時の日本の外務大 臣である玄葉光一郎による台湾住民に向けた私信であった。 要 するに 、日 本側の 譲歩 である 。ど うして 日本 はここ まで 譲歩し たのか。台北・北京間に楔を打ち込みたいからである16。日本との釣 魚 台列島の領 有係争にお いて、中台 が連携して 共同で日本 に当た る と の構図を出 現させたく ないためで ある。言い 換えれば、 同じく 対 中外交作戦の一環だと言えよう。 1972 年の中日国交樹立後、台日間には政府間関係を持たないため、 日 本は台湾を 国際社会に おいての国 家的アクタ ーとして見 なして い ない。したがって、この協定がもし一つの成果といえるのであれば、 台 湾にとって 、中日両国 対立の機運 を掴んだ「 漁夫の利」 と言え る か もしれない 。逆に、日 本は対中外 交において 、中国のあ りとあ ら ゆ る弱みや隙 を狙って利 用する、そ の闘争心の 凄まじさ、 険しさ 、 鋭さをも雄弁に物語っているのである。 2 物的・人的交流 日本貿易振興会(ジェトロ)が 2014 年 1 月に公表した 2013 年の 日中貿易総額は、3,119 億ドルであった。前年比 6.5%減少で、2 年連 続の衰退となった。輸出入別では、対中輸出が1,298 億ドルで、前年 比10.2%減少、対中輸入が 1,821 億ドルで、同 3.7%減となった。貿 易収支に関しては、日本側の赤字であり、対前年比 17.8%の増加で 522 億ドルに達し、過去最大を更新した。中国経済の減速が中日貿易

15 川島真「『歴史的』日台漁業協定締結―その意義と課題」『nippon.com』、2013 年 5 月 14 日、http://www.nippon.com/ja/currents/d00081/、検索日:2013 年 9 月 10 日。 16 同上。

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不 振の最大の 原因である と見なされ ているが、 冷え込んで いる両 国 関係の悪影響も否めない。輸入額と総額の減少は、4 年ぶりの出来事 だからである17 一方、観光はどうであったか。日本のメディアは2013 年 8 月下旬、 訪 中 す る 日 本 人 観 光 客 が 激 減 し た と 報 道 し た 。 日 本 の 主 要 旅 行 社 (JTB、日本旅行、ジャルパック、近畿日本ツーリスト)が扱うパッ ケージツアーの2013 年 4~9 月の中国行き予約者数は 6,302 人で、前 年同期の集計と比べ 4 分の 1 にしか達していない。釣魚台列島国有 化の悪影響の表れである18。同じく中国人の日本観光ツアーも、同様 に減少した。 他方で、両 国の国民感 情いわゆる 両国の民間 レベルにお ける互 い の好感度についてはどうであったか。2013 年 8 月上旬に公表された、 日本の民間団体「言論 NPO」と中国の新聞社「チャイナデイリー」 が協力して、日中それぞれの国内で行なわれた国民世論調査19の結果 から得たデータを紹介する。 相手国に対するマイナスの印象(「よくない印象を持っている」と 「どちらかといえばよくない印象を持っている」)の項目で、日本国 民が中国にマイナスの印象を持つ人が 90.1%であり、中国国民が日

17 真家陽一「日中貿易総額 4 年ぶりに減少 1~6 月期 中国経済の減速響く」『msn 産 経ニュース』、2013 年 8 月 14 日、http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130814/biz 13081420500015-n1.htm、検索日:2013 年 10 月 8 日。 18 「尖閣諸島国有化が日本の旅行業を直撃、中国行きツアーが大幅減―中国メディア」

『Record China』、2013 年 8 月 29 日、http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid= 76114、検索日:2013 年 10 月 6 日。

19 実施期間は 2013 年 6~7 月。18 歳以上の男女を対象に、日本で 1000 人、中国で 1540

人の回答を得た。「「第9 回日中共同世論調査」結果」『言論 NPO』、2013 年 8 月 5

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本にマイナスの印象を持つ人の割合も92.8%に達している20 反対にプラスの印象を持つ項目はどうであろうか。日本側が9.6%、 中国側は5.2%であった。上記の国民感情をまとめてみると、わずか の 差ではある が、全般と して中国の 対日不満が より深刻に なって い る。 両国の国民 が互いに九 割以上の負 のイメージ を抱いてい る。な ぜ こ こまで悪化 したのか。 その背景に ある主な理 由としては 次が挙 げ られる。 日本側は「(1)尖閣諸島での対立、(2)歴史問題で日本を批判、(3) 中国の行動が自己中心的」21としている。 中国 側は「(1)尖閣問題で日本が強硬、(2)歴史を反省していな い、(3)中国を包囲しようとしている」22としている。このように、 すべての反感の根源は、やはり釣魚台列島の係争にある。 また、この 対立が経済 関係に影響 を与えうる かどうかも 項目に あ る。影響すると答えた人は、日本側が 67.7%、中国側は 82.3%であ っ た。さらに この対立は 軍事紛争ま で発展する かどうかに ついて 、 可能性あると返答した人は、日本側が 23.7%、中国側は 52.7%であ った。両国の関係について、重要であるかどうかの問いに対しては、 「重要」だと認める人の割合は、日本側が 74.1%、中国側は 72.3% に上り、互いに高水準をキープした23

20 加藤青延「時論公論 国民感情さらに悪化 どうなる日中関係」『NHK 時事公論』、 2013 年 8 月 8 日、http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/164328.html、検索日:2013 年 9 月 13 日。 21 同上、解説から引用。 22 同上、解説から引用。 23 「言論 NPO 第 9 回日中共同世論調査の結果公表」『言論 NPO』、2013 年 8 月 5 日、 http://www.genron-npo.net/press/2013/08/npo-12.html、検索日:2013 年 9 月 10 日。

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上 記の調 査デ ータを 見る と、両 国の 現段階 での 関係は 、文 字通り の 嫌悪を抱き 、険悪であ ると言わざ るを得ない 。ただ、両 国がと も に 互いの関係 を「重要」 だとしてい る点につい ては、唯一 の救い で あろう。

四 中国を照準にした日本の対外政策の展開

釣魚台列島国有化後の中日関係は、両国国交樹立(1972 年)以来、 最 も冷え込ん だ時期と言 われている 。ことに安 倍首相就任 後、緩 和 す るどころか 、火に油を 注いだとい っても過言 ではないほ ど後退 し ている。2013 年末に閣議決定した新防衛大綱の中では「中国は日本 の脅威だ24」と名指しで指摘している。繰り返しになるが、日本は中 国の 軍事面のパ トロンであ るロシアと 「2+2」体制を実現した。中 国 をパトロン とする北朝 鮮にも、日 本は特使を 派遣し、関 係改善 の 突破口を探った。 中 国と領 土係 争の問 題を 抱える フィ リピン 、ベ トナム 、イ ンドな ど との安保関 係の強化を 日本は意欲 的に図って いる。釣魚 台列島 領 有の係争において、当事国の一方である台湾と妥協して、20 年に近 い 懸案である 台日漁業協 定を締結す るまで踏み 込んだ。本 件にお け る中台の歩み寄りを阻止するためであった。 さ らに中 国が 長期的 に進 出を展 開し てきた アフ リカ地 域ま でも、 安 倍総理は競 合に加わる と表明し、 次々とあの 手この手を 繰り出 し て いる。今後 、各地域、 各方面にお いて、両国 の関係改善 が効果 的 に進展しない場合、中日間の闘争態勢は避けられない。

24 「新「防衛計画の大綱」策定に係る提言(「防衛を取り戻す」)」自民党、2013 年 6 月 4 日、https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf106_2_1.pdf、検索日:2013 年 7 月8 日。

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安倍首相は、「戦略的互恵関係の原点に立ち戻って、日中関係を発 展 さ せ て い く べ き だ 」、「 条 件 を つ け る こ と な く 、 な る べ く 早 く 外 相 ・首脳レベ ルの会合を 持ちたい」 と呼びかけ てはいる。 しかし 、 実 際の行動は 中韓両国を 除いた諸国 を訪れてい る。このよ うな外 交 スタンスで、「戦略的互恵関係」への希求や整合性はどう成立させる のか。その矛盾は、火を見るより明らかなのではなかろうか。 ところが今 、問題とな っている中 日間の外交 的不和の原 点を見 つ め 直したい。 そもそも日 本は中国の 警告を無視 して、釣魚 台列島 を 国有化したことに起因している。このため、両国の関係は後退した。 し たがって、 中国は両国 の関係を元 に戻すこと ができるな ら、国 有 化 前の状況に 戻るべきで あると主張 している。 即ち、日本 は領土 の 係争問題が存在すると認めることである。 こ れに対 し、 日本は 「条 件をつ ける ことな く」 との理 由で これを 退けている。日本としては、つまり国有化を撤廃(もしくは棚上げ) し ないままで 、中日両国 の関係正常 化の再開を するべきだ と主張 し て いる。ここ でのネック は、日本が 「領土問題 が存在しな い」と す る 一方で、中 国は「領土 問題が存在 する」とい うずれにあ る。こ の た め、現段階 の関係打開 においてデ ッドロック が発生して いるの で ある。 に もかか わら ず、中 国は 、安倍 首相 の一連 の外 交攻勢 に対 し、今 の ところ国際 社会で首脳 外交といっ た、大掛か りな対抗措 置の展 開 は、まだ見受けられない。

五 膠着と突破の狭間へ

日本が釣魚 台列島を国 有化して以 来、すでに 満一年が経 過した 。 こ の間、中日 両国は正式 な首脳会談 どころか、 大臣級会議 すら実 現 で きなかった 。中国とし ては、まず 責任は日本 にあると主 張して い

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る。なぜなら、国有化以前に中国政府が胡錦濤・前国家主席を含め、 再 三にわたり 警告をした が、日本は それらを顧 みずに国有 化に踏 み 切 ったからで ある。中国 は国有化前 の関係に戻 すべきだと 主張し て い るが、その 場合、当該 島嶼の領有 をめぐって 、せめて係 争問題 が 存 在すること を日本が認 めねばなら ない。しか し、日本は 「そも そ も存在しない」と堅持している。 こ うして 、改 善の兆 しが 見えな いま まで事 態を 推移し てい るのが 現状である。こうなった背後には、日本では少なくとも以下の 3 点 と考え られている 。(1)安倍首相の持つイデオロギー、(2)アメリ カの 後ろ盾、(3)中国の公船による当該島嶼周辺海域巡視に対する 反発である。 一 つ目の 安倍 首相の イデ オロギ ーに 関して 、ま ず就任 後の 安倍首 相の言動を見てみると、2013 年 4 月 22 日の参議院予算委員会で、安 倍首相は「村山談話25」について、「安倍内閣としてそのまま継承し ているわけではない26」と表明した。「村山談話」は、戦後50 周年に あたる 1995 年 8 月 15 日に、日本の過去の植民地支配と侵略への反 省 とお詫びの 気持ちを伝 えた公式文 書である。 談話の焦点 である 先 般の戦争の非を認めるといった部分は、評価に値する。 引き続き、翌23 日の同委員会で安倍首相は村山談話に関してこう

25 1995 年 8 月 15 日、当時の総理大臣であった村山富市が終戦記念日の式辞として、「日 本は焼け野原から立ち上がり、現在は平和で豊かな日本となり、過去の一時期、植 民地支配と侵略により、多くの国々、特にアジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を 与え、心からお詫びするなどの趣意」を盛り込んだ談話を発表し、これを日本の第 二次大戦における所為についての公式見解として、内外に示し、歴代内閣がこれを 踏襲してきた。 26 「村山談話 そのまま継承ではない 予算委で安倍首相」『朝日新聞デジタル』、 2013 年 4 月 23 日、http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201304220560.html、検索 日:2013 年 9 月 11 日。

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言 及 し た 。「 侵 略 と 言 う 定 義 は 学 界 的 に も 国 際 的 に も 定 ま っ て い な い。国と国の関係でどちらから見るかで違う」。27この発言は、侵略 否定を示唆していると受け止められた。 安 倍首相 の考 えをよ り明 確にす るた め、以 下に 自民党 政調 会長で ある高市早苗氏の、同じく「村山談話」に関する発言を引用すると、 高 市氏は「侵 略と言う文 言を入れて いるのは私 自身しっく りきて い な い。自存自 衛のために 決然と立っ て戦うとい うのが当時 の解釈 だ った28」との認識を示している。 高 市政調 会長 はまた 、靖 国参拝 につ いても 「靖 国参拝 をこ こでや めたら終わりだ。国策に殉じて命を捧げた方をいかにお祭りするか、 慰霊するかは国の内政の問題だ29」と発言している。 高 市政調 会長 の「自 存自 衛」の 説は 、英米 諸国 に向か って 言うな ら ともかく、 近隣諸国に 対しては的 外れと言わ ざるを得な い。史 実 に照らしてみると、日露戦争(1904~1905 年)後、日本は世界的に 屈 指の大国に 上り詰めた 。当時の朝 鮮半島、東 南アジア、 中国な ど の 近隣諸国は 、中国は大 国ではある が弱かった し、それ以 外は全 て 小 国である。 これらの弱 小国が日本 本土まで攻 め入って戦 ったと い う なら、高市 氏の説は成 立する。し かし、実際 は日本の部 隊が一 方 的 に何千キロ も離れた近 隣諸国に派 遣され、戦 ったのでは ないか 。 高市政調会長の主張の正否は自明であろう。

27 「首相『侵略の定義定まっていない』村山談話に絡み答弁」『朝日新聞デジタル』、 2013 年 4 月 24 日、http://www.asahi.com/politics/update/0423/TKY201304230074.html、 検索日:2013 年 10 月 15 日。 28 「村山談話の侵略、しっくりこない 自民・高市氏」『朝日新聞デジタル』、2013 年 5 月 12 日から引用、http://www.asahi.com/politics/update/0512/TKY201305120076.html、 検索日:2013 年 10 月 14 日。 29 同上。

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靖国への公式参拝については、特に A 級戦犯を分祀しない場合、 公 式参拝する ことになれ ば、自ずと 先の大戦を 肯定または 正当化 す る とのシグナ ルになる。 また、公式 に祭祀を受 けることに よって 、 近 隣諸国の被 害者にとっ て、過去の 加害者が英 雄ないし神 様に昇 格 さ れることに なる。一般 的に英雄と 神様は正義 の化身であ り、そ う な ると近隣諸 国の戦争犠 牲者は不義 の人間にな る。なぜな ら、正 義 は一方にしか存在しないからである。つまり、日本が正義の士なら、 近 隣諸国の軍 人と民衆は 当然不義の 徒になり、 征討の対象 になる の で ある。近隣 諸国の軍人 と民衆が大 戦中に酷い 目に遭った のは当 た り 前なのか、 ということ になる。内 政云々とい う前に、加 害者と 被 害者の立場を弁えてほしい。 2013 年 8 月 15 日の戦没者追悼式では、近年の歴代首相が式辞の中 で 表明してき た「アジア 諸国の人々 に多大の損 害と苦痛を 与え、 深 い反省と哀悼の意を表する」と言った表現が消え、「不戦の誓い」に も触れられなかった。これらの言及は、1993 年細川護熙総理から恒 例ともいえるほど、毎年歴代総理(2007 年 1 回目の安倍内閣も例外 なく)が踏襲してきたものである30 しかし、2013 年の安倍首相の式辞には、これらの文言はなかった。 上 記の高市政 調会長の発 言は、安倍 総理の心境 を代弁して いるか も し れないとの 推測の所以 はここにあ る。植民地 支配と侵略 への反 省 をよそにしている。さらに安倍総理は2013 年の追悼式辞の中で、次 のような一節を述べた。「わが国(日本)は世界をより良い場に変え る ため、戦後 間もない頃 から、各国 ・各地域に 支援の手を 差し伸 べ

30 「『アジアへの反省触れず』=戦没者追悼式で首相式辞―終戦記念日」『ウォール・ ストリート・ジャーナル』、2013 年 8 月 15 日、http://jp.wsj.com/article/SB10001424127 887324593704579013733361455084.html、検索日:2013 年 8 月 19 日。

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てきた」。31このような発言は、恩着せがましいと受け止められても 仕方がない文言である。 安 倍首相 はこ れ以外 にも 、就任 後に 各地( 南西 諸島ま で及 ぶ)の 自 衛隊を積極 的に視察し 、戦闘機や 戦車、戦艦 などに乗っ て戦力 を ア ピールして おり、その パフォーマ ンスシーン が歴代首相 よりも よ く見受けられるのも事実である。 2013 年 7 月の参議院選挙の結果、安倍内閣は圧勝を収めた。この 実 績および就 任以来、常 に高い国民 支持率が維 持できてい ること を 象 徴するよう に、安倍首 相の言動は 、日本全般 の右傾化を 何より 雄 弁に物語っている。 二 つ目に 日本 がアメ リカ を後ろ 盾と してい ると いうの は、 釣魚台 列島 海域の防衛 が日米安保 条約の適用 範囲に入る ということ である 。 言 い換えれば 、当該海域 でいったん 有事があれ ば、日本単 独では な く 日米両国が 共同で対処 する。要す るに、もし 釣魚台列島 領有の 係 争 で万が一中 国と武力衝 突になれば 、アメリカ は当該島嶼 の主権 に つ いて、中立 を取ってい るとは言え 、日米安全 保障条約の 下、日 本 と肩並べて共に中国に当たるとしているのであろう。 ア メリカ をパ トロン とす ること は、 国有化 に踏 み込み 、棚 上げ論 や 領土問題の 存在さえ認 めず、一連 の強硬姿勢 をとってき た日本 に とって、最も心強い基盤の一つであろう。 三 つ目に 、中 国公船 の当 該島嶼 周辺 海域へ の巡 視に対 する 日本側 の 不満につい て、中国は 、国有化後 、棚上げ論 どころか領 土の係 争 問 題の存在さ え認めない 日本への突 破口として 、当該海域 におい て 公船を巡視させる措置を取り、日本の問題への正視を求めている。 日 本は、 国有 化は当 該海 域を平 穏裏 に管理 する ためだ と主 張して

31 同上。

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い るが、領有 問題に至っ てはそもそ も存在しな いと主張し ている 。 そ れゆえ、中 国が巡視船 を派遣する 行為に対し 、中国が実 力で現 状 を変えようと批判している。 中 国のこ うし た行動 に対 して、 日本 は打開 策と して、 日米 安保の 関 係強化をは じめ、建前 は価値観外 交としてい るが、本音 は中国 に 対 して包囲、 牽制、抑止 、対抗を構 築しようと する意図を 持った 外 交 活動を展開 している。 日米の外に も、露、印 、越、比な どとの 安 保関係の構築にも注力している。 そ れに日 本は 、中長 期的 な軍備 、軍 拡、憲 法改 正、集 団的 自衛権 の解禁と行使、自衛隊の国軍化などといった計画、構想を立て、徐々 に その実現を 視野に浮上 させ、着々 と射程内に 納めていく ことが 予 想される。 以 上の経 緯か ら、両 国間 には葛 藤が 渦巻い てい る。中 国が 領有問 題 の存在すら 認めない日 本に対し、 不服の表れ として、公 船を派 遣 し て管轄権あ ることを行 動で示し、 挑戦を繰り 返している 一方で 、 日 本は、中国 の力任せで 事態を変更 しようとい う不法行為 に対し 、 対 抗や、反発 、アンチテ ーゼとして 自身の軍事 力を整備し ながら 、 外 交や安全保 障強化を精 力的に展開 することで 、突破口を 見出そ う としている。 こ のよう に、 どちら も相 手を屈 服さ せよう とす るのは 、童 話「北 風 と太陽」の 北風の手法 ではなかろ うか。劇的 な展開がな ければ 、 当 分の間、両 国は引き続 き膠着と突 破という相 矛盾した狭 間を浮 き 沈みするであろう。

六 欧州統合を見習え

中 日領土 係争 のこれ だけ 入り組 んだ 事情に なっ た理由 は、 両国の 国 力の消長に 起因したも のであった が、両国と もに昔日の 栄光や 、

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屈辱ないし怨念などの情念が絡んでいるからでもある。日本は、1870 年代の琉球王国併合以降、1895 年の日清戦争も大勝し、そしてロシ ア の撃退、朝 鮮の併合、 満州進出な ど破竹の勢 いで一直線 に隆盛 へ と極まっていった。だが、1945 年の第二次世界大戦で敗北し、うね りに満ちた歴史を経験してきた。 一 方、中 国は 、二千 年に わたっ て東 アジア の雄 として 君臨 してき たが、19 世紀の中葉から西洋列強をはじめ、隣国である日本からも、 容 赦なく悲惨 な目に遭っ てきた。辛 酸の末、中 国はついに 勝利を 勝 ち 取ったが、 日本は内心 で敗戦相手 国は中国で はなく、ア メリカ で あると思ってきた。 こ のよう に、 両国の 間に は栄光 と屈 辱、怨 念な どの感 情が 交錯し て おり、関係 をいっそう 難しく、複 雑多岐にし ている。し かし、 こ れ だけの紛糾 にまで発展 した以上、 両国は一つ の覚悟をし なけれ ば な らない。一 方的に当該 島嶼を領有 することは 非常に困難 であり 、 ほとんど不可能に近いことを認知、認識すべきである。 と 言うの も、 日本に は日 米同盟 があ り、沖 縄に も米軍 が駐 屯して いる。これは中国にとって、超越しがたいハードルである。つまり、 中 国は同時に 日米両国を 敵に回すお それがある のである。 他方で 、 日 本は永遠に 国益を犠牲 にして、ア メリカに従 属していく わけに も いかない。 国 力は水 物で 、強け れば 取る側 に、 衰えれ ば取 られる 側に なる。 領 土問題はゼ ロサム・ゲ ームであり 、一方が笑 えば他方は 泣くこ と に なる。泣く 側の憤懣が 巻き返しの ために蓄積 、爆発する という 悪 循環に墜ち入る恐れがあり、そう簡単に割り切れるものではない。 ならば、ヨーロッパで現在機能している「エネルギーの共同利用・ 共同開発」および「国境の凍結(現状維持)」を参考にしてはどうか 。 キ ーワードは ただ一つ、 地域の平和 と引き換え にドイツは 自ら犠 牲

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を甘受するのである32

1950 年 の 欧 州 石 炭 鉄 鋼 共 同 体 ( ECSC: European Coal and Steel Community)の結成によって、戦後フランス領となったアルザス・ロ レ ーヌをめぐ る独仏両国 の紛争の火 種が揉み消 された。ま た、国 境 について、1975 年全欧安全保障協力会議(CSCE:the Conference on Security and Cooperation in Europe)のヘルシンキ宣言において、ドイ ツは境界線の引き直しを放棄した。 つ まり、 領土 放棄し てで きた国 境線 をドイ ツは 認めた 。い わゆる 「 国境の凍結 」である。 ドイツは、 領土を含め 、あらゆる 屈辱を 受 け 入れて、ヨ ーロッパで 不戦共同体 として平和 と安定の環 境を構 築 することができた。ヨーロッパにおける2000 年間絶え間なく続いた 国境線の引き直しの紛争は、ドイツの犠牲でついに解消された。「ド イ ツはヨーロ ッパに対し て犠牲を払 い、ヨーロ ッパのため に生き る ことで、ヨーロッパの中でドイツが存在することができる 33」とド イ ツの人々は 繰り返し語 っている。 ヨーロッパ (主に独仏 両国) の 所作は示唆に富んでいる。

七 今後の行方

こ れまで 見て きたよ うに 、領有 の係 争によ り中 日両国 関係 は完全 に 暗礁に乗り 上げている 。これだけ 深刻になっ た理由は、 無論、 そ の深層に過去中日間の歴史的怨念が潜んでいるからで、それゆえに、 発 火点として の領有係争 問題がいっ たん着火し てから、収 拾不能 な ほど一気に噴出した。

32 岩下明裕・羽場久美子・孫崎享「座談会・国境問題を解決する道はどこにあるか」 孫崎享編、前掲書、196~204 ページを参照。 33 孫崎享編、前掲書、202 ページからの引用。

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皮肉なのは、35 年前から両国間には平和友好条約が存在するにも か かわらず、 釣魚体列島 領有の係争 に遭遇する と、うその ように 一 溜 りもなく吹 き飛ばされ てしまう。 というのも 、前述のア ンケー ト 調査のように、両国の民間レベルの嫌中、嫌日感情は、ともに 9 割 以 上に達して いるからで ある。官民 にわたる両 国関係は、 相互不 信 の 脆さ、意思 疎通の欠如 からくる溝 の深さ、隔 たりの大き さなど を 非情にも露呈している。 で は、本 件の 帰着は どう 展開さ れて いくだ ろう か。当 然、 欧州統 合 方式が東ア ジアで実現 可能ならば 何よりであ るが、それ 以外に 、 次のいくつかのパターンを検討してみたい。 1 戦争 突 発的な 事件 が発生 し、 事態が エス カレー トす る以外 、蓋 然性は 低い。両者ともに、極力避けたい局面である。戦争に持っていくと、 共倒れになるに違いないからである。笑うのは、アメリカをはじめ、 ロ シアなどで ある。村田 忠禧教授が 指摘したよ うに本件は アメリ カ のために中日間に埋設された地雷である。 つ まり、 中日 が友好 的に なれば 、ア メリカ の日 本に対 する 影響力 は 、言うまで もなく低下 していく。 仲違いの状 況に陥ると 、現段 階 の ように日本 はアメリカ 一辺倒を選 択するので ある。こう なると 、 日 本が望んで いる自主外 交はまた遠 のいていく 。多大な国 益を逸 し ても、合衆国に追随していくしかない。 中 国にと って も、ア メリ カの先 兵で ある日 本に 惑わさ れ、 争い合 い に明け暮れ れば互いの 国力の消耗 、相殺へと 導かれて陥 没して い く 。そして犬 猿の仲にな った両国は 、アメリカ の顔色を伺 わざる を 得 ない。アメ リカは時と して中国か 、日本かど ちらか一方 に加担 す ることによって、両国を変幻自在に操っていくことができる。

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つ まり、 永遠 に合衆 国の 支配下 にお かれる とい う結果 に至 ってし ま う。したが って、最も 賢明なのは 、歴史上宿 敵であった 独仏両 国 を真似て、戦後の大和解(EU 達成までの努力の道程)を展開し、ア メ リカの思う つぼになら ないように 行動するこ とである。 つまり 、 アメリカの一極支配から脱出する方法を模索すべきである。 2 訴訟 訴訟 とは、 国際 司法裁 判所34(ICJ)への提訴である。前述でも触 れたように、ICJ にかけるには、前提が必要になる。つまり、当事者 間 において一 方が提訴し 、他方はこ れに応訴す る。要する に、両 当 事国の同意による付託である。もしくは、当事国が義務的管轄権(強 制管轄権)の受諾を宣言している場合である。 換 言すれ ば、 受諾を 宣言 してい る国 であれ ば、 提訴さ れる と、応 訴 の義務はあ る。そうで ない場合、 応否はその 国の自由で ある。 こ ういった手続きを完備させない場合、ICJ における訴訟はできない。 主 権平等の原 理を遵守す るため、国 家主権の上 に、支配力 を持つ 権 力 機 構 の 存 在 は 、 原 則 的 に 認 め な い か ら で あ る 。 し た が っ て 、ICJ への提訴は国家しかできない。 釣魚台列島の帰属問題をもし ICJ に提訴する場合、主権国家では な いから、ま ず台湾の提 訴は受理さ れない。義 務的管轄権 の受諾 に 関 して、日本 は宣言して いるが、中 国はしてい ない。また 、今ま で 中日両国の言行から判断すれば、ICJ に付託する用意はまだ見せてい な い。理由の 一つは、当 該地域は日 本が実効支 配している から、 日

34 矢吹晋『尖閣問題の核心ー日中関係はどうなる』(花伝社、2013 年)、68 ページを参 照。ならびに「国際司法裁判所(ICJ)―よくある質問―」『国際連合広報センター』 http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/faq/、検索日:2013 年 9 月 15 日。

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本が能動的に提訴する必要はない。 中国は日本の一方的な当該問題の「棚上げ」を破棄したと認定し、 公 権力を代表 する巡視船 を巡航させ 、日本の主 張を直接否 定する 行 動 を採ってい る。したが って、予見 しうる将来 において、 この手 法 による解決の可能性は薄い。 3 仲介 国 連の下 での 「常設 仲裁 裁判所 」で の仲裁 、調 停では なく 、どこ か 第三国が乗 り出して、 両者の間に 立ち紛争を 避けるため に、如 何 に 努力して決 着につけら れるか、あ るいは互い にどのよう な条件 が 受 け入れられ るか、と言 った協議の 場を提供す る場合のみ である 。 それだけなら、現行の外交ルートを使えば充分ではないか。しかし、 接 触して物別 れになれば 、今度どっ ちが先に発 議するかと いう面 子 に 関わるので 、ややもす れば、容易 に行き詰ま るか、停滞 してし ま いやすい。第三者の仲介になれば、がちがちになりにくい。 問 題は、 両者 がとも に受 け入れ られ る公正 な第 三者( 対象 )が存 在 するのか。 アメリカ、 ロシアはい ずれにせよ 風格や、貫 禄など は 問 題はないか もしれない が、公正性 においては 、中国もし くは日 本 の 信頼を受け られないと 思われる。 例えば、ア メリカに対 して日 本 寄 りではない かと中国が 疑い、ロシ アには日本 が同じ不安 を抱く だ ろう。 ま た、仲 介者 も、仲 介に よって 何か の利益 を得 なけれ ば、 積極性 は 今一つであ ろう。世を 見渡せば、 むしろ両雄 が対立し続 けるほ う が メリットが 多いのでは ないか。中 国の近隣諸 国は、日本 が出て き て 中国を牽制 することに よって、自 国の自由度 や重みが増 すし、 虐 められないとするかもしれない。 ヨ ーロッ パの 主要国 家は 、経済 的な ライバ ルは 日本で ある ので、

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日 本の中国市 場における 後退は好都 合である。 アメリカや 、ロシ ア な どは、安保 、経済、外 交などの国 際問題にお いて、中、 日のど ち らかから抑圧を加えられる場合がある。米露などの主要国にとって、 両 者が対抗し 合えば、抑 圧者から協 力者へと変 身するので 、直接 の 受 益者になる 。したがっ て、有力な 第三国が進 んで名乗っ て本件 の 軟着陸をアレンジすることは、期待できそうにないと言える。 4 棚上げ 中日間における 1972 年の国交正常化樹立、および 1978 年の平和 友 好条約締結 に際して、 当該島嶼の 領有をめぐ る問題は、 棚上げ に 関 して一切言 及していな い。その解 決は後世に 譲り任せ、 まず平 和 条 約の締結を 優先してい る。棚上げ と言うのは 、当該島嶼 の帰属 を め ぐる論争、 闘争などは 、中日両者 が暗黙の了 解として、 双方と も 独 占しようと する行動を 採らないで 、そのまま 放置してお くこと で あ る。要する に、円満な 解決方法が 見つからな ければ、何 世代で も いいから、後回しにするのである。いわゆる棚上げ論である。 こ ういっ た凍 結論は 、当 時の両 国高 層部の 指導 者がい ずれ も承知 し ている。例 えば、中国 側は周恩来 、鄧小平、 黄華などで ある。 日 本側は、田中角栄、大平正芳、園田直などである。しかし、2010 年 9 月に中国の漁船と海保の巡視船が衝突した際、日本は当事件の処理 に あたって、 国内法で対 処すると表 明した。言 葉を返せば 、日本 が 当 該海域での 排他的管轄 権を行使し 、現状(棚 上げ論)を 打破し た 結果になる。中国の不満の芽生えである。 後に、当時の前原誠司外相は国会(衆議院安全保障委員会/同外務 委員会、2010 年 10 月 21 日および同 27 日)で、「結論として棚上げ

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論について中国と合意した事実はない35」と答弁した。日本が一方的 に 約束事を破 るのではな いかと中国 は疑心暗鬼 になった。 そし て 2 年 後に日本は 国有化まで 踏み込んで 、領有問題 の激化の再 燃を起 こ した。 棚 上げ論 の存 在は、 中国 が認め てい る。し かし 日本は 一切 否定し ている。ところが、日本の一部の中国研究者の研究成果36には、確か に 存在すると 裏付けてい る。棚上げ 論は中国に してみれば 、先人 の 承 諾をきちん と遵守して きたのに、 裏切られた と不満を爆 発させ 、 そ の結果全国 を挙げて反 日デモをお こなった。 今回はこれ だけの 波 風 を立たせ、 これだけの 代償を払っ ていること を鑑みて、 やはり 両 国 間に何かの 措置が必要 不可欠であ る。そこで 何より手っ 取り早 い の は、棚上げ 論の復活( 現状の回復 )である。 それは両国 のため に なるからである。 中 日両国 の国 交樹立 後、 半世紀 近い 年月を 経て 、当該 島嶼 領有係 争 のために、 全国規模で 事に当たっ たのは、今 回がはじめ てであ っ た 。棚上げ論 の有無をめ ぐって、理 非曲直はと もかく、そ の効用 は 甚 大と言わざ るを得ない 。したがっ て、今まで の教訓を生 かし、 棚 上げ論を検証可能にし、そして正式に再活用すべきである。 両 国の先 人た ちには 受け 入れら れた のに、 なぜ 現在は 問題 となっ ているのか。もともと日本の領土ではないのに、「領有権の問題は存 在 しない」と の一点張り に見られる ように、不 承知なのは 実はす べ て 日本側にあ る。欲張り すぎれば、 そのうちす べてを失い かねな い だろう。「戦前の殷鑑遠からず、喉元過ぎれば熱さを忘れる」の吟味

35 矢吹晋、前掲書、23 ページを参照。 36 孫崎享と矢吹晋両氏の著作で明らかに解析し、立証している。孫崎享編、前掲書、 および矢吹晋、前掲書、を参照されたい。

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を勧めたい。 5 交渉談判 戦 争、訴 訟、 仲介な どを 避けた い、 もしく は同 海域で の航 海、調 査 開発などの 確保、利用 を実現する ため、例え ば、海底資 源の共 同 開 発や、同海 域での平和 的活動など の展開にお いて、それ らを実 行 に 移す場合、 交渉談判と いった行動 、過程は必 要不可欠で ある。 要 す るに、力と 力とのぶつ かり合いで いくならと もかく、そ れ以外 の 道 を追求する ならば、両 方の接触、 交渉、談判 は、好むか 好まざ る かに関係なく、必ず取る手段である。 と いうの も、 上記で 検討 してき た戦 争、訴 訟、 仲介、 棚上 げなど の可能性は低いからである。戦争になれば、「得不償失(損は得より 大きい)」となるばかりでなく、両国は破滅の奈落に陥落するに違い な い。理性的 判断が機能 する限り、 そこまで事 態はエスカ レート し な いだろう。 次に法に訴 えるかとい うことでは 、どこかの 国の誰 か ら の仲介を受 けるなどと は現段階に おいて、そ ういう気配 はまっ た く感じ取れない。 棚 上げ論 の再 復活も 、接 触、談 判を やらな けれ ば実現 する ことが で きない。実 は棚上げ論 は、適切な 解決を得ら れないうち 、やむ を 得 ない方法の 一つとして 、先延ばし ていくこと である。い わば、 非 常 に消極的で ある。単に 問題をその まま放置し 、触らない ように す る しかない。 火種は同じ くそのまま 残る。いつ か、今日の ような 衝 突 を再燃させ ない保証は 、何もない のである。 不健全で無 責任と い われても、仕方がない。 したがって、ここに台湾側が2012 年 8 月に出した「東海和平倡議

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(東シナ海平和イニシアチブ)37」という提案に注目すべきであろう。 交 渉談判を経 て、当地域 、海域の漁 業、海底資 源、海上安 全、環 境 保 全といった 分野におい て、平和、 互恵、協力 、共有の原 則で推 進 していくべきであるという提案である。 東 シナ海 平和 イニシ アチ ブの試 金石 として 、台 中日三 者が 連合し て 、交渉談判 を通して、 まず海底資 源の調査確 認から事を 始める 。 石 油の埋蔵が 確かであれ ば、宝物の 持ち腐れに ならないた め、眠 ら せ ないで互恵 、共有の下 で、開発に 向けて関連 計画を練り 上げて い く 。不確かで あれば、今 ほどの尖鋭 化的な対立 は多少緩和 される だ ろう。 こ のイニ シア チブは 中日 両強国 に比 して、 弱小 国台湾 なら ではの 主 張であるが 、互いに折 り合わない 場合、共倒 れを避ける ため、 独 り 占めではな く、ウイン ウインへ持 っていくほ うが双方の ために も なるのではなかろうか。 両 国の関 係が これ以 上悪 化しな いよ う、速 やか に真摯 なコ ミュニ ケ ーションか ら始める以 外、方法は ないのであ る。なぜな ら、上 記 の どの可能性 よりも、交 渉談判が最 もリスクが 低く、建設 的で望 ま しい発展方向でもあるからである。

八 おわりに

国 有化後 の中 日情勢 は、 次のい くつ かの点 に集 約でき るだ ろう。 換言すれば、現時点の紛糾の所在は、以下の通りである。 一 中日 両国 の国民 感情 は、領 土係 争によ って 、嫌中 と嫌 日は、

37 「中華民國提出『東海和平倡議』」中華民國外交部、2012 年 8 月 5 日、http://www. mofa.gov.tw/News_Content_M_2.aspx?n=5028B03CED127255&sms=5ED24855AD8E6C5 8&s=AA5027829A384713。

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ともに 9 割に達している。ヒト、モノ、カネなどの交流も減少して いる。 一 日本側は「領有権の問題は存在していない」と主張しながら、 国有化の目的は波風を立たせないため、一地方政府が購入するより、 中央政府のほうが妥当だと判断したから、行動したと説明している。 こ の説は、係 争問題が存 在しないの ではなく、 存在してい るから こ そ 、中央政府 の介入が必 要であると いうことを 物語ってい るので は な いか。した がって、領 有係争問題 の存在を全 否定してい る外務 省 の見解とは矛盾するのではないか。 一 中国 は棚 上げ論 を肯 定し、 長年 にわた って 当該島 嶼領 有の公 的 表明を自粛 してきたに もかかわら ず、日本が 警告を無視 し、強 行 に 国有化し、 均衡を破っ た。こうい った行動に 対する不服 、反発 の 印として、中国は公船の当該海域への巡視を派遣している。 一 日本 は均 衡を破 った 責任を 認め ないま まで 、逆に 内外 に向け て 中国に非難 (公船の巡 視)を浴び せている。 これを理由 に、日 本 は 軍備、軍拡 や、西太平 洋の諸国と の安保関係 の強化、武 器輸出 、 集団的自衛権行使などの権利獲得の推進に力を注いでいる。 一 中日 両国 は係争 が表 面化し て以 来、単 独か 、また は他 国との 連 合で海上で の軍事的演 習を以前と は比べもの にならない 頻度、 規 模 、投入、広 範囲、長距 離で行なっ ている。両 者とも力は 力で対 処 するといった、むき出しの構えを見せている。 以 上の流 れで 、デッ ドロ ックの 真因 の一部 は、 互いに 軍事 大国を 目 指している ことにある のではなか ろうか。こ のぶつかり 合いを 表 面 化させたの は、今の情 勢である。 中国の軍事 大国化のタ ーゲッ ト は 、アメリカ である。ア メリカと拮 抗できる状 態に達すれ ば、日 本 は 中国の子分 になりかね ない。これ を受け入れ たくない日 本は米 国 の 威望を借り ながら、中 国が日本を 越すことが ないようけ ん制し て

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い る。平和憲 法を投げ捨 ててまで歴 史から脱却 したい日本 、自主 外 交の道から遠ざかっている日本がある。 日本は、政治、経済、軍事大国への希求は分からないでもないが、 ア プローチに おいては、 歴史から脱 却するつも りである。 下手を す る と、歴史が 逆戻りし、 その再現に もなりかね ないのであ る。そ れ を 避けるため には、ドイ ツが戦後辿 った足跡は 参考にする ことは 価 値があるものである。しかし、最も簡便なのは、台湾が提案した「東 シナ海平和イニシアチブ」を活かすことであろう。 (寄 稿 :2014 年 1 月 13 日、採用:2014 年 3 月 26 日)

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釣島國有化後之日對中態勢

-兼論關係軟著陸之試案-

春 宜

(國立高雄第一科技大學應用日語系副教授)

【摘要】

安 倍出 任首相 之後 ,外交 上毫 不掩飾 地採 取對抗 中國 態勢。 兩國 關 係陷入 40 年來的最低點。其導火線雖歸因於釣魚台列嶼領有之糾 紛 ,但更真切 的原因可能 是兩國皆欲 成為一個軍 事強國。據 此中國 當 可 恢復歷史上 的光輝燦爛 。日本則可 排除中國之 陰影並可脫 離戰敗 境 遇,洗刷敗戰汙名。於此復加:美國揭示重回亞洲、或稱再平衡政策, 以 及俄羅斯逐 步顯示其有 意恢復昔日 超級大國地 位。因之, 中日之 對 立讓西太平洋區域之安保情勢,帶來更多變數與複雜多端。 中 日兩 國關係 在最 近的將 來, 如無戲 劇性 變化, 雙方 當同陷 膠著 和 突破相互矛 盾之死胡同 中。有關兩 國間今後之 走向,以下 之選項 , 該係可能性之一。亦即,戰爭、訴訟、仲介、擱置(重回過去)、交涉 談 判是也。當 然,由會談 協商以進行 關係改善, 該是最受期 待,亦 是 最為明智之舉。 關鍵字:中日關係、國有化、右傾化、價值觀外交、國民感情

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