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多重主格形容詞構文の意味解釈と文生成

(24) の論理的説明が (23) の配列・組み合わせに関する意味解釈と(不)適格 性判断の結論を支持するものであるとすれば、後に残る仕事は実際の文例に基 づいてその正確性を検証することである。以下、(23) に挙げた 16 種類の配列・

組み合わせに基づいてそれぞれ文例を提示し、その意味解釈と統語構造の関係 について吟味し、適格性についても検証する。また、文例の前に現れた不適格 性を表す星印は、Kubo (1994: 28-29) の判断に基づいたものである。

(25) a. *太郎ハ (主題) 英語ガ (排他) できる。

a'. *象ハ (主題) 鼻ガ (排他) 長い。

b. 太郎ハ (主題) 英語ガ (中立) できる。

b'. 象ハ (主題) 鼻ガ (中立) 長い。

c. *太郎ハ (対比) 英語ガ (排他) できる。

c'. *象ハ (対比) 鼻ガ (排他) 長い。

d. 太郎ハ (対比) 英語ガ (中立) できる。

d'. 象ハ (対比) 鼻ガ (中立) 長い。

e. *太郎ガ (排他) 英語ハ (主題) できる。

e'. *象ガ (排他) 鼻ハ (主題) 長い。

f. 太郎ガ (排他) 英語ハ (対比) できる。

f'. 象ガ (排他) 鼻ハ (対比) 長い。

g. *太郎ガ (中立) 英語ハ (主題) できる。

g'. *象ガ (中立) 鼻ハ (主題) 長い。

h. 太郎ガ (中立) 英語ハ (対比) できる。

h'. 象ガ (中立) 鼻ハ (対比) 長い。

57 この結論は、(24c) の一般化から 自然な帰結 (natural consequence) として得られる。

i. *太郎ガ (排他) 英語ガ (排他) できる。

i'. *象ガ (排他) 鼻ガ (排他) 長い。

j. 太郎ガ (排他) 英語ガ (中立) できる。

j'. 象ガ (排他) 鼻ガ (中立) 長い。

k. *太郎ガ (中立) 英語ガ (排他) できる。

k'. *象ガ (中立) 鼻ガ (排他) 長い。

l. 太郎ガ (中立) 英語ガ (中立) できる。

l'. 象ガ (中立) 鼻ガ (中立) 長い。

m. *太郎ハ (主題) 英語ハ (主題) できる。

m'. *象ハ (主題) 鼻ハ (主題) 長い。

n. 太郎ハ (主題) 英語ハ (対比) できる。

n'. 象ハ (主題) 鼻ハ (対比) 長い。

o. *太郎ハ (対比) 英語ハ (主題) できる。

o'. *象ハ (対比) 鼻ハ (主題) が長い。

p. 太郎(ニ)ハ (対比) 英語ハ (対比) できる。

p'. 象ハ (対比) 鼻ハ (対比) 長い。

以上の文例における主題 (「ハ」 格) と主語 (「ガ」 格) の配列・組み合わせ は、2 項述語に属して、経験者外項名詞句と対象内項名詞句を取り、この 2 つ の名詞句がそれぞれ主題や主語に写像される状態動詞の 「できる」 と、1 項述 語に属して対象内項名詞句のみを取るが、その対象名詞句が所有者を表す(属 格)名詞句を取り得ることによって、この 2 つの名詞句がそれぞれ主題や主語 に写像される次元形容詞の 「長い」 の 2 種類の述語から生成されるものを選 んだ。「できる」 を述語とする文例 (プライム記号 「'」 の付かないローマ数字 の番号で列記したもの) は、2 項述語に属するので、その他の 1 項・2 項の動 詞および 2 項形容詞 (例えば、感情形容詞) とも相通じるものがあろう、との 配慮から選んだものであり、1 項形容詞の 「長い」 を述語とする文例 (プライ ム記号 「'」 が付いたローマ数字の番号で列記したもの) との比較・対照に役立 つものと思われる。また、これらの文例に現れる主題はいわゆる 文内主題 (intra-sentential tipic) に属するので 、 基 底構造では文内の付加詞や項から生成 され、移動 (movement) や 上昇 (raising)・付加 (adjunction) によって表層構 造に生成されたものである。一方、基底構造から直接文頭の位置に生成され、

解説との間の 主従関係 (predication) はやや漠然とした内容の 関連性条件 (Aboutness Condition) に従う、いわゆる 文外主題 (extra-sentential topic) の文例 は、(25) の文例の中に入っていないが、「ハ」 と 「ガ」 の意味解釈に限っては、

文内主題と文外主題の間にそう大きな相違はないものと思われる。

まず、文例 (25a) が主題として 「太郎は」 を提示した後、排他の 「ほかでは なく英語が」 を意味する 「英語が」 で続けているのは、かなり不自然に響く

58。一方、文例 (25b) のように、「太郎は」 を主題と解し、「英語が」 を中立の 意味に解すれば、ごく自然な文になる。同じような理由で、文例 (25a') と文 例 (25b') もそれぞれ不適格・適格と判断される。次に、文例 (25c) が 「太郎 は」 を使って 「太郎」 をその他の人たち (例えば、「次郎や三郎」) と対比した 後、さらに、「ほかではなく英語が」 の排他の意味で 「英語が」 を取り上げて いるのも、かなり不自然に聞こえる。一方、文例 (25d) のように、「太郎は」 を 対比の意味に解し、「英語が」 を中立の意味に解すると、ごく自然な表現にな る。同じよう理由で、文例 (25c') と (25d') は、それぞれ不適格な文および適 格な文と判断される。さらに、文例 (25e) のように、「太郎が」 を排他の意味 で取り上げた後、「英語は」 ではじめて主題をもち出すのは、非常に不自然な 文である。しかし、文例 (25f) のように、排他の 「太郎が」 の後ろに起こる 「英 語は」 を、「英語はできるが、ドイツ語はできない」 というような対比の意味 に解釈すれば、ごく自然な文になる。同じような理由で、文例 (25e') と文例 (25f') もそれぞれ不適格な文・適格な文として判断される。続いて、文例 (25g) と (25g') のように、2 項述語の経験者外項 (「太郎」) や 1 項述語の対象内項 (「象」) を 「ガ」 格で取り上げて中立の意味を表した後、2 項述語の対象内項 (「英語」) や 1 項述語の対象内項 (「象」) と全体・部分の関係にある主名詞 (「鼻」) を 「ハ」 格で取り立てて主題とするのは不自然であり、文全体が新し い情報を表す中立文の中に主題という古い情報が含まれているという意味で も不適格な文と判断される。しかし、文例 (25h) と文例 (25h') のように、「英 語は」 や 「象は」 を主題の意味ではなく、対比の意味に解すれば、中立の 「太 郎が」 や 「象が」 に続く 「英語はできる (がドイツ語はできない)」 や 「鼻は 長い (が尻尾は短い)」 のように、「英語は」 と 「鼻は」 が対比の意味に解され て自然な文となる。さらに、文例 (25i) と (25i') のように、「太郎が」 と 「英 語が」 の両方、あるいは、「象が」 と 「鼻が」 の両方がともに排他の意味に解さ れるのは、文例 (25m) と文例 (25m') の 「太郎は」 と 「英語は」 の両方、およ び、「象は」 と 「鼻は」 の両方がともに主題の意味に解されるのと同じように、

1 つの文の中に 2 つ (あるいは、2 つ) 以上の排他や主題の観点が連続して現 れることになり、読者や聞き手の理解が妨げられるので、不自然・不適格な文 と判断される。一方、文例 (25j) や文例 (25j') のように、2 番目に起こる 「ガ」

格 (すなわち、「英語が」 と 「鼻が」) を排他の意味ではなく、中立の意味に解 したり、文例 (25n) や文例 (25n') のように、2 番目に起こる 「ハ」 格 (すなわ ち、「英語は」 と 「鼻は」) を主題の意味ではなく、対比の意味に解したりすれ ば、排他や主題の複数生起が回避されて自然な文になる。また、文例 (25k) や 文例 (25k') のように、中立の 「ガ」 格の後ろに排他の 「ガ」 格が起こったり、

58 文例 (25a) を利用して 「英語」 を排他の意味で表現しようとすれば、排他の 「ガ」 格を使 わずとも、<僅有> の意味を表す取り立て詞の 「だけ」 を使って、「太郎は英語ダケ(が) できる」 のように表現することができる。

文例 (25o) や文例 (25o') のように、対比の 「ハ」 格の後ろに主題の 「ハ」 格 が起こったりするのは、排他や主題の意味を表す名詞句は 定名詞句 (definite noun phrase)59 でなければならないのに対し、中立や対比を表す名詞句は 不定 名詞句 (indefinite noun phrase) でなければならない60、という名詞句の定性に 関する配置の原則に違反して不適格であるが、文例 (25j) や (25j')、および、

文例 (25n) や (25n') のように、その左右行列の順序を 「排他 < 中立」 およ び 「主題 < 対比」 に入れ替えると、ごく自然な文になる。最後に、文例 (25l) や (25l') と文例 (25p) や (25p') のように、中立の解釈と対比の解釈がそれぞ れ連続して継起するものは、自然であり、適格である。

Kubo (1994) は以上の観察に基づき、主題と排他を表す名詞句は、句構造に おいて 補文化辞句 (complementizer phrase; CP) の指定部の位置に現れ、対比 と中立を 表 す 「 ハ 」 格 と 「 ガ 」 格 名 詞 句 は句構造において 屈折辞句 (inflectional phrase; IP) の指定部の位置に現れると分析することで、主題と排他 を表す名詞句が 1 つの単文の中で 1 つだけ現れ、対比と中立を表す名詞句がそ の下 (すなわち、主題や排他を表す名詞句に C 統御 (c-command)61 される) 位 置 に 現 れ る こ と は 、 こ の よ う な 句 構 造 か ら の 自 然 な 帰 結 (natural consequence) であると説明した。また、東京方言のように、対比や中立を表す 名詞句が 1 つ以上生起する多重主格構文は、屈折辞句の句構造に 多層指定部 (multiple specifier) を想定するか、あるいは、屈折辞句の指定部に起こって対 比や中立を表す属格名詞句がさらに 上昇移動 (raise) して、屈折辞句に 付加 (adjoin)62 されるかによって生起されることになる。Kubo (1994) はこのほかに もいろいろ傍証を挙げて、当該の分析が妥当なものであることを支持している が、その内容はかなり技術的な面に及ぶので、ここでは詳述しないことにする。

5. 結び

59 ここでいう定名詞句とは、話し手と聞き手ともにその指示対象がわかっている場合のほか に、話し手だけにその指示対象がわかっている 特定名詞句 (specific noun phrase) や指示対 象が含まれている 集合 (set) がわかっている 総称名詞句 (generic noun phrase) を含む。

60 例えば、「太郎が/は 彼ノ英語が/は できる」 や 「象が/は ソノ鼻が/は 長い」 のよう にいうことはかなり不自然である。

61 α を 支配する (dominate; α の上の節点は α を支配する) すべての 節点 (node) が β を支 配し、かつ、α が β を支配しないとき、α は β を C 統御するという。すなわち、α が β を支配するとは、α と β が 姉妹節点 (sister nodes) であるか、それとも β が α より低い 姪(めい)節点 (niece nodes) であることを示す。

62 ここでいう付加とは、最大投射 (maximal projection; XP) の上にもう 1 つ同じような XP を 加え、次に図示するように、その 枝分かれ (branching off) によってもう 1 つの 空の節点 (empty node; „e‟) を設けることである。また、付加は最大投射の XP 以外に、主要部の X に 付加することもできる。

以上、日本語の多重主格形容詞文に関して、1 項述語や 2 項述語形容詞の項 構造から説き起こし、その構造に含まれる主題役割がいかに写像されて、文の 表層構造を形成するかについてかなり詳しく説明した。また、「ハ」 格と 「ガ」

格の意味機能とその配列・組み合わせについても、先行文献を踏まえつつ、特 に Kubo (1994) の知見に基づいてこれらの配列・組み合わせを全面的に網羅し た 16 組から成るリストを掲げ、一々文例を引いてその(不)適格性を検証し、

不適格な場合にはなぜ不適格であるのかについても多少の説明を加えた。最後 に、これら配列・組み合わせの適格性と不適格性は、Kubo (1994) が提唱する 日本語句構造の分析 (すなわち、主題と排他を表す名詞句は補文化辞句の指定 部の位置に、そして対比と中立を表す名詞句は屈折辞句の指定部の位置に生起 するというもの) によって自動的に規制・説明されることを指摘した。勿論、

このような句構造分析は、日本語の多重主格構文だけでその当否が判定される

このような句構造分析は、日本語の多重主格構文だけでその当否が判定される

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