学習者の相違点に関して、中国語話者には、次のような「一」の過剰使用が見 られた。(31)は既出の指示対象(旧情報)を再び指す場合に、「1Q の NC 型」を 使用してしまった誤用である。このタイプの「一」の過剰使用は陳(2019)によ って指摘されているが、今回の英語話者の言語資料には観察されなかったため、
中国語母語の影響によるものである可能性があると考えられる。
(31)(=(6))地図を研究する時、犬がそっとバスケットに入ってしまった。
(中略)ケンは蓋を開けて、食べ物を出そうと思って、パット一匹の犬 が(→その犬は/犬は)走ってしまった。(CCM11-SW1 上級)
このような誤用は中国語話者にのみ見られているかは、今後、初級と上級学習 者を対象に更なる検討が必要である。
5.4 「一」を含む数量詞の使用頻度
日本語話者、英語話者、及び中国語話者による日本語の数詞「一」の使用回数 を語彙数 10,000 語あたり何回使用しているのかに換算すると、日本語話者は 8.3 回使用であるのに対し、英語話者と中国語話者はそれぞれ、5.1 回(中級話者 5.1 回)と 7.6 回(中級 8.1 回)となった。
数量詞が必ずしも必要とは限らない日本語話者の「一」を含む数量詞の使用頻 度が中国語と英語話者より高いことから、中国語話者の使用傾向を調査した陳
(2019)と同じ、第二言語における「一」の使用頻度においては、母語における 使用頻度の影響が観察されたとは言えない結果になった。
「一」を含む数量詞の「過剰使用」の割合においても、学習者は母語を問わず、
中級下位群の学習者が殆ど使用しなかったのに対し、中級上位群の学習者が少し
ずつ使用するようになった。このことから、中級レベルの学習者に関して言えば、
学習者が母語の影響により、数量詞を過剰に使用するのではなく、レベルが上が るにつれて、使用数が増えたため、「過剰使用」の割合も上がったのではないか と考えられる。
6.終わりに
本研究は英語話者が使用した「一」を含む数量表現の特徴を分析し、日本語母 語話者、及び中国語話者と比較した。その結果、以下のことがわかった。
(a) 英語を母語とする日本語学習者は、「QN 型」と「その他」の使用割合が高か ったため、「NQ 型」と「QN 型」をほぼ均等に使用している日本語母語話者 と異なっていることがわかった。
(b) 英語と中国語母語の日本語中級学習者について、母語と日本語能力を問わ ず、「QN 型」の使用頻度が最も多かった。英語母語の中級上位群の学習者に よる「NQ 型」の使用が、返事などに使用された「その他」に続き、多く使 用されるようになったため、レベルが上がるにつれて、日本人の使用傾向 に近づいてきたと言える。それに対し、日本語中級の中国語話者における
「助数詞の誤選択」は、レベルが上がっても誤用の割合が減らないことか ら、母語の影響を受けている可能性がある。
(c) 予想に反し、英語話者は中国語話者と日本語話者より数詞「一」の使用頻 度が低く、「過剰使用」による不自然な表現が少なかった。つまり、英語を 母語とする日本語学習者は、母語の影響を受け、過剰に日本語の数量詞を 使用しているとは言えない。一方で、物事の存在に関する質問に対して、
英語と中国語を母語とする学習者が共に新情報として答えた日本語の数詞
「一」の「過剰使用」が観察された。
今回の分析において中級学習者が多く、学習者の間に日本語能力の差があるな どの問題点が残されている。また、使用場面の考察も十分とは言えない。今後、
使用領域や課題による影響など、分析範囲を広げ、さらに、初級、上級学習者を
含む調査が必要であろう。
参考文献 pp.39-48.国際大学
建石始(2013)「日中両言語における数量表現の分布と意味・機能」『中国語話者 おいて―」『北研学刊』11, pp.146-153.
三井さや花(2013)「英語母語話者による日本語名詞の複数形の産出について―
英語と日本語の複数認識のずれ―」『日本語教育』154, pp.115-122.
付記:本稿は、国立国語研究所のプロジェクトによる成果『多言語母語の日本語
U108-11100-A07、研究代表者:陳嬿如)の成果の一部である。