2009 年第 2 四半期以後、世界の経済の多くがすでに底打ちし、回 復の兆しを見せているが、2009 年の世界経済全体は第二次世界大戦 以来のマイナス成長が予測されている16。2009 年の第 2 四半期の日 本主要経済指標によると、下落幅の縮小または回復成長の傾向が見 られる。しかし、これは最悪の状態を抜け出したというだけであり、
日本経済が完全に成長軌道に乗るには、まだまだ多くの重大な課題 と挑戦が残っている。短期的には、衆議院改選及び改選後の政局問 題があり、長期的には、財政赤字、少子高齢化等の課題があげられ る。また、日本が従来と同じような発展を目指すとするなら、持続 的な経済発展と技術革新が不可欠である。以下、これらの課題と挑 戦について、検証していく。
1 衆議院議員改選と選挙後の政局問題
日本経済がまずはじめに解決しなければならない課題は、目前に
15 関連統計資料は、帝国データバンクホームページ。(http://www.tdb.co.jp/report/tosan/
syukei/09kami.html、2009 年 8 月 8 日確認)を参照のこと。
16 内閣府政策統括官室編(2009)『世界金融・経済危機の現況世界経済の潮流 2009 年
Ⅰ』第三章を参照。
迫っている衆議院改選選挙とその後の政局にほかならない。2008 年 9 月 24 日に麻生太郎が日本第 92 代内閣総理大臣に就任した後、内閣 のメンバーが二度三度となく失言を繰り返したり、酒により失態を さらす等、不適任問題が発生した。また低迷した国民の支持率を終 始引き上げることができず、2009 年 7 月 21 日、記者会見にて衆議院 の解散を発表し、衆議院は8 月 30 日に改選されることとなった。日 本読売新聞が8 月 4-6 日に行った衆議院選挙第 3 回継続全国世論調 査によると、多くの日本国民が今回の衆議院選挙に関心を持ってお り、そのうち40.7%が比例代表制選挙で民主党に投票すると回答し、
46.5%が民主党の鳩山由紀夫代表が首相にふさわしいと回答した17。 近頃、自民党、民主党等二大政党は続々と「政権マニフェスト」
を提出しているが、経済政策の多くに肝要な点が欠けており、大き な相異はなく、経済政策の実施時に必要な財源についての力強い説 明に欠けている。しかしながら、世論調査や評論家の多くが、よほ どのことがないかぎり、選挙後は民主党が国会において一番大きな 党となりうると予測している。しかし、民主党の衆議院議席が国会 の過半数、如いては安定多数の 2/3 に達することができず、また民 主党の参議院議席が過半数に達していないことを考慮すると、これ は、民主党が仮に与党となったとしても、他の政党と連立政権を打 ち立てる必要があることを意味している。異なる理念を持つ各政党 と経験不足の政党による新政権が誕生するならば、改選後の日本政 局は、全く新しいものに生まれ変わる様相を呈するも、選挙後の政 権発足初期段階において、政局が不安定となることは、避けられな い。しかし、経済政策を着実に実行し、また経済の堅固な成長のた
17 読売 Online(http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6100/koumoku/20090807.htm、2009 年 8 月7 日確認)を参照のこと。
めには、安定した政局が不可欠である。改選後、いかに短時間で政 局を安定させるかが新政権の最も重要な任務となるであろう。
2 財政赤字
前述したように、1990 年代、日本経済が長期的な低迷に陥ったた め、日本政府は継続的な財政政策の拡大により景気を刺激し、経済 の好転を待って、税収の増加により財政の不足を補おうとしてきた。
2008 年に日本財政赤字累積が GDP 比 170.9%に達し、同期の他の先 進国に比べ、これは遥かに高い比率となっている。そのため、今回 の金融危機に際し、日本政府は他の先進国と同様に大規模な財政政 策拡大による対応を行うことができなかった。また日本国債が速く 累積しているため、今後国債発行の余地が制限されるほか、毎年の 国債費用(国債の利息と元本償還費用)の一般会計歳出における比 率が、1975 年度、1985 年度はそれぞれ 4.9%、19.5%であったが、2008 年度には、24.3%にまで増加し、ますます高くなっている。これは一 般会計歳出における政策経費の割合を大幅に下げることにつながり、
しだいに日本財政の応対能力を弱めている18。
このほか、国立社会保障・人口問題研究所の資料によると、2005 年の日本における65 歳以上人口は総人口の 20.2%に達し、同年のア メリカ 12.3%、ドイツ 18.8%、イギリス 16.1%、フランス 16.3%に 比べかなり高く、しかもその格差はしだいに大きくなっている19。日 本は高齢者人口の増加により、社会保障関連費用が年々増加し、2000 年度の社会保障関連費予算は16.8 兆円であったが、2008 年度は 21.8
18 日本は利率が低いため、国債費の負担を比較的軽くなっているが、今後の利率の動 向により、国債費が大幅に増加することも考えられる。
19 詳細は国立社会保障・人口問題研究所ホームページ(http://www.ipss.go.jp/、2009 年 8 月7 日確認)を参照のこと。
兆円と、この期間に 29.8%増加し、今後老年人口がますます増加し 続け、その費用を引き上げると予測されている。社会保障関連費用 の一般会計歳出に占める比重は年々上昇しており、日本財政におい て非常に大きな負担となっている。日本政府がこの問題を克服する ためには、収入を増やし支出を減らすことにより赤字拡大を減少さ せる他、更には一日も早く経済を成長軌道にのせ、税収の増加によ って財政の空洞を補う必要がある。
3 少子高齢化
過去 40 年間、日本の人口高齢化は他の先進国に比べてずっと速か った。例えば、日本の65 歳以上の老人人口が総人口に占める割合は、
1965 年から 1995 年までの間に 6.3%から 14.5%へと 8.2%も増加し ているのに対し、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカでは同期 間にそれぞれ 3.0%、3.0%、3.7%、3.0%の増加にとどまっている。
そして、このような増加傾向は、現在でもまだ続いている。なお、
表 8 は1950~2050 年における日本の人口構造の変化を示したもので ある。この表からわかるように、日本では65 歳以上の人口が速やか に増加しており、総人口に占める割合はすでに2005 年の段階で 20%
を超えている。そして、今後も高齢化はますます深刻化することが 予 想 さ れ て い る20。 一 方 、 そ れ と は 対 照 的 に 、 日 本 の 労 働 人 口 (15
~64 歳人口)は 1995 年の 8,725 万人を頂点に減少に転じ、総人口に 占める割合も年々減少の一途をたどっている。また、将来の労働人 口を表す14 歳以下の人口に至っては事態はさらに深刻で、少子化が
20 日本は高齢社会対策基本法に基づき、1996 年から毎年政府が国会に年次報告書を提 出している(『高齢社会白書』)。これは高齢化の状況や政府が講じた高齢社会対策の 実施の状況、また、高齢化の状況を考慮して講じようとする施策について明らかに しているものである。
急速に進行している21。
表 8 日本の人口構造の変化(1950~2050 年) (単位:万人、%)
0~14 歳 15~64 歳 65 歳以上人口 総人口 年別 人口数 比例 人口数 比例 人口数 比例 人口数 比例 1950 2942.8 35.4 4965.8 59.7 410.9 4.9 8319.5 100.0 1960 2806.7 30.0 6000.2 64.2 535.0 5.7 9341.6 100.0 1970 2482.3 23.9 7156.6 69.0 733.1 7.1 10372.0 100.0 1980 2750.7 23.5 7883.5 67.4 1064.7 9.1 11698.9 100.0 1990 2248.6 18.2 8590.4 69.7 1489.5 12.1 12328.5 100.0 2000 1847.2 14.6 8622.0 68.1 2200.5 17.4 12669.7 100.0 2010 1647.9 13.2 8128.5 64.1 2941.2 23.1 12717.6 100.0 2020 1320.1 10.8 7363.5 60.0 3589.9 29.2 12273.5 100.0 2030 1115.0 9.7 6740.4 58.5 3667.0 31.8 11522.4 100.0 2040 983.3 9.3 5733.5 54.2 3852.7 36.5 10569.5 100.0 2050 821.4 8.6 4929.7 51.8 3764.1 39.6 9515.2 100.0
(注)人口数は四捨五入のため、合計数が合わない場合がある。
(出所)総務省統計局『国勢調査報告』、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来 推計人口』(2006 年 12 月推計)により筆者作成。
ところで、一国の経済を成長させる源泉は、労働投入量の増加、
資 本 投 入 量 の 増 加 及 び 技 術 進 歩 等 に よ る 全 要 素 生 産 性 (TFP: Total Factor Productivity)の成長に分けられる。このうち、少子高齢化・
人口減少の影響として考えられることは、まず直接的には、労働力 人口の減少を通じた労働投入量の減少である。次に考えられること は、高齢化によって退職世代が増加することが予測でき、貯蓄を行 う年齢層に比べ、貯蓄を取り崩す年齢層が増加することを通じて、
21 日本は新生児出生率を高めるため、児童手当制度を設けている。2007 年 4 月 1 日よ り児童手当法が改正され、3 歳未満の乳幼児に対する児童手当等の額が出生順位にか かわらず一律月額1 万円になった。3 歳到達後の翌月からは第 1 子および第 2 子の手 当額は5 千円となるが、第 3 子以降は月額 1 万円となる。なお、児童手当の支給対 象となる児童の年齢は小学校6 年生(12 歳到達後最初の年度末)までである(所得 の制限あり)。ただし、若者の出産意欲は依然として低いままである。
一国全体の貯蓄が減少することである。これは同時に投資に回る資 金が減少することを意味し、将来の資本ストックの成長を阻害する 可能性がある。すなわち、「ライフサイクル・恒常所得仮説」に従え ば、一国全体の人口構成の高齢化は家計貯蓄率の低下をもたらし、
その結果、将来的な資本蓄積を阻害する可能性がある22。このように、
今後の少子高齢化・人口減少社会は、労働投入量の減少と資本スト
今後の少子高齢化・人口減少社会は、労働投入量の減少と資本スト