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2012 年総統選挙の争点としての対日政策

2012 年 1 月に行われた台湾総統選挙において、対中関係の緊張緩 和 がもたらし た「活路外 交」の成功 は、馬英九 陣営が再選 を訴え る 際 のアピール ・ポイント となり、と りわけ日台 関係の進展 は重要 な 成果の一つとして強調された46。民進党の蔡英文陣営は、馬英九政権 の 「活路外交 」は台湾の 主権を損な うものであ るとの批判 を展開 し たが、「活路外交」に代わる明確な対外政策を提示することはできな かった。また、対日政策についても、2008 年の謝長廷候補とは異な り 、蔡英文候 補自身の経 歴も馬英九 と同様に日 本と密接な 繋がり を 持たず、「親日・知日」かどうかといった対立軸は設定できなかった47。 こうし た状 況を打 開す べく、 蔡英 文 は 10 月初旬に日本を訪問し

0321001023;「岡田大臣と王毅・国務院台湾事務弁公室主任の会談」外務省、

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/3/0317_09.html。

45 「台辦主任王毅例外訪日引發揣測」BBC 中国網、http://www.bbc.co.uk/zhongwen/trad/

indepth/2011/11/111117_analysis_japan_china.shtml;「玄葉大臣と王毅・国務院台湾事務 弁公室主任の会談」外務省、http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/23/11/1114_03.

html。

46 「總統主持『黃金十年』系列第五場記者會」總統府、http://www.president.gov.tw/

Default.aspx?tabid=131&itemid=25592&rmid=514&word1=黃金十年。

47 蔡英文の対外政策や対日政策を示す資料として、「台湾経済の最大の課題は内需拡大 だ―蔡英文・台湾民進党主席」『週刊東洋経済』東洋経済オンライン、http://www.

toyokeizai.net/business/international/detail/AC/3650215eedf25a820850b3094bf7b6f9/;「十 年政綱:國家安全戰略」十年政綱、http://10.iing.tw。

た 。早稲田大 学での講演 後、民進党 政権が誕生 した場合に 、対日 政 策 はどのよう に変わるの かとの質問 を受けた蔡 英文は、そ れは「 親 近 感」の問題 であり、歴 史的に「中 国と親しく 日本と疎遠 」な国 民 党政権では「本当に日本と親しい関係」は築けないと答えた48。しか し 、蔡英文が この訪日で 明らかにし た対日政策 の内容は、 日本と の 安全保障対話を継続し、日台FTA の締結を目指すことにとどまり、

馬 英九陣営と の大きな違 いを印象づ けることは できなかっ た。同 月 末 、馬英九陣 営の選挙対 策本部長を 務める金溥 聰氏は、同 じ早稲 田 大 学にて講演 を行った。 金溥聰は馬 英九政権が 「特別なパ ートナ ー シップ」を掲げ、2009 年から本格的に対日関係の強化に努めた成果 を 強調し、こ の間に日台 間で調印し た協定はい ずれも李登 輝政権 期 や 陳水扁政権 期に求めた が実現しな かったもの であり、両 岸関係 が 改善したからこそ実現したのであると主張した49

2012 年総統選挙の最大の争点は、「一中各表」というかたちで「92 年 コンセンサ ス」を認め 、中国との 和解を果た した馬英九 政権の 方 針を信任するか否かであった。民進党は「92 年コンセンサス」に代 わ る「台湾コ ンセンサス 」を提起し たが、その 内容は政権 奪還後 に 決 定 す る と 述 べ 、 具 体 的 な 内 容 を 明 ら か に し な か っ た 。 ま た 、「92 年 コンセンサ ス」を認め ない限り、 交渉相手と して認める ことは で き ないとする 中国側の姿 勢も変化し なかった。 このような 状況に 置 か れた蔡英文 陣営が、馬 英九政権と も、また「 台湾」の主 権を過 度 に 強調して国 際的な緊張 を招いた陳 水扁政権と も異なる独 自の対 外 政 策方針を打 ち出せなか ったのは、 やむをえな いことであ ったと 言

48 「早稻田大學演說 蔡:民進黨堅持民主自由」『自由時報』2011 年 10 月 6 日。

49 「金早稻田演說 建構台日新思維」『中央通訊社』2011 年 10 月 18 日、「金溥聰:馬 總統是行動的友日派」『中央通訊社』2011 年 10 月 19 日。

えるだろう。

2 第二期馬英九政権の対日政策

蔡英文を破り、総統再選を果たした馬英九は、2012 年 5 月の就任 演説において、台湾の安全を守る「鉄の三角形」の重視を掲げた。「鉄 の三角形」とは、「両岸の和解によって台湾海峡の平和を実現するこ と 」、「活路外交に よって国際 空間を拡大 すること 」、「国防能力 によ って脅威を抑止すること」であった。また「活路外交」については、

4 年前には触れなかった日本や欧州との関係にも言及し、日本とは過 去40 年間で最も友好的な「特別パートナーシップ」を打ち立てたと 述べた50。この就任演説や前後の言動、中国との政治的交渉をめぐる 状 況などを観 察すると、 第二期目の 馬英九政権 は対中和解 と国防 ・ 外 交の間でバ ランスを取 ろうとして おり、時に は後者を優 先する 局 面も出てくるのではないかと推測できる。

第二期を迎 えるにあた り、馬英九 政権は対日 政策上の目 標をど の よ うに設定す るであろう か。国防に 関して、馬 英九政権は 日米同 盟 を 支持すると いう態度を 表明するに 今後もとど まり、日本 との直 接 的 な協力には 多くを期待 していない 。しかし外 交について 、馬英 九 政 権は日本の 役割に一定 の期待をか けているの ではないか と考え ら れる。

第一は、馬英九政権が第一期後半から呼びかけているFTA 交渉で ある。馬英九は選挙時の公約において、10 年以内に環太平洋戦略的 経済連携構想(TPP)に参加するという目標を掲げた。実際に、同政 権 は 周辺 国と の 経済 協力 協 定(ECA)締結を進めており、先述のマ

50 「中華民國第 13 任總統、副總統宣誓就職典禮」總統府、

http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=27200&rmid=514。

レ ーシア、ニ ュージーラ ンドのほか 、インドネ シアとも共 同研究 に 入っている51。日本が TPP への参加を表明し、周辺国との交渉を進 める場合、台湾側の日台FTA に対する期待は高まり、実現へ向けた 何らかの要請がなされる可能性もあろう。

第二は、台 湾の国際機 関・会議へ の参加に関 する日本の 態度表 明 である。馬英九政権は、WHA へのオブザーバー参加が達成された後 も 、名称や立 場には拘ら ない国連専 門機関への 参加を求め ている 。 既に国際民間航空組織(ICAO)へのオブザーバー加盟については、

米 国務省およ び上下両院 、ベルギー 代議院、欧 州議会の有 志議員 ら が既に支持を表明している。また、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)

の 締 約 国 会議 (COP)への参加についても、台湾と外交関係を有す る パラオ、ツ バル、マー シャル諸国 などのほか 、欧州議会 の有志 議 員が支持している52。これら組織・会議への台湾代表の参加およびそ の形態について、日本政府もその立場を問われることになろう。

第三は、上 記のように 日台間で協 議すべき案 件のなかに 政治判 断 を 必要とする ような問題 が含まれて くるのに伴 い、相互に 訪問し 、 協 議できるレ ベルを上げ ることを台 湾側が要請 してくる可 能性が あ る 。この点に ついて、馬 英九政権の 第一期目に は、すでに 米国か ら 国 際開発庁長 官およびエ ネルギー省 副長官が訪 台している ほか、 フ ィリピンやマレーシアからも現役の閣僚級政治家が訪台している53。 日 本も必要に 応じ、現役 の閣僚を含 む必要な人 員が台湾側 と協議 す ることを考えなければならないかもしれない。

51 「楊部長立法院第八届第一會期外交業務報告」外交部、http://www.mofa.gov.tw/official/

Home/Detail/ef99f166-ef01-41d9-8fac-6d86d0690ff8?arfid=640a8ac1-119a-4120-b4d2-a400 e0e052c3&opno=e64993ce-392b-4851-9ad8-28ac7acb1fc4。

52 同上。

53 同上。

上記の課題 について、 馬英九政権 の対日政策 が成果を上 げるこ と が できるのか 否かは、中 国の反応に 大きく影響 されること は否定 で き ない。中国 の基本的な 姿勢はあく までも先述 の「胡六点 」に示 さ れ た枠内、す なわち中国 の主張する 「国家主権 」に抵触し ない範 囲 内 ならば、議 論の余地が あるという ものである 。そして何 が「国 家 主 権」に抵触 しないのか という判断 は、その時 々の中台関 係や日 中 関 係の状況に も左右され るため、い ずれかの状 況が一定以 上悪化 し た 場合には、 それ以前と 同様の日台 関係を継続 できるとは 限らな い のである。

五 おわりに

本論文にお いては、馬 英九政権第 一期におい て「台日特 別パー ト ナ ーシップ」 の提起、形 成、発展へ と進む過程 を軸に、同 政権の 対 日 政策を振り 返り、第二 期の対日政 策について 論じる際の 手がか り とした。

「台日特別 パートナー シップ」は 、馬英九政 権の対外政 策の基 本 方針である「活路外交」と密接な関係にある。すなわち、「一中各表」

の 立場で中国 との衝突を 回避するこ とを前提と しつつ、日 台関係 を さらに発展させるための一種のレトリックであるともいえる。「一中 各表 」の前半(「一つの中国 」)は中国側 との共通認 識であるが 、 後 半(「各自が表述 する」)を中 国側は黙認 しているに すぎず、厳 密 に は共通認識とはいえない。「活路外交」や「台日特別パートナーシッ プ 」はこの「 各表」の部 分に基づい た発想なの で、現在の ところ 中 国は黙認しているが、具体的に「主権」の侵害(「一つの中国」原則 への抵触)とみなされる場合は、抗議や攻撃を行う可能性もある。

馬英九政権第一期のうち前半(2008 年、2009 年)の「台日特別パ

馬英九政権第一期のうち前半(2008 年、2009 年)の「台日特別パ

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