第 3 節 地下水解析 ... 1
3.1 総説 ... 1
3.2 水収支解析 ... 1
3.3 地下水流動解析 ... 3
3.4 地下水汚染解析 ... 8
3.5 地盤沈下解析 ... 9
平成 26 年 4 月 版
第3章 水文解析 第3節 地下水解析 3.1 総説
<考え方>
地下水解析は、対象地域における地下水の状態や予測を、調査・観測データを用いた数値解 析等により行うものである。
数値解析の一般的な手法は、目的や取り扱う検討項目によって、①水収支解析、②地下水流 動解析、③地下水汚染解析、④地盤沈下解析に区分される。
<必 須>
地下水解析は、目的や取り扱う検討項目に応じた解析手法により、実施しなければならない。
<標 準>
低水流出解析、河川と地下水の関係を解析する場合については、第 3 章 第 2 節 2.3 低水流出 計算 によることを標準とする。
<参考となる資料>
地下水解析の詳細については、下記の資料が参考となる。
1) 建設省河川局監修,(財)国土開発技術研究センター編集:地下水調査および観測指針(案), pp.257-289,山海堂,1993.
2) 日本地下水学会 地下水流動解析基礎理論のとりまとめに関する研究グループ編集:地下 水シミュレーション,技報堂出版,2010.
3) 地下水ハンドブック編集委員会:地下水ハンドブック,pp.980-994,建設産業調査会,
1998.
3.2 水収支解析
<考え方>
水収支解析は、広域における水循環の主として地下水に関わる問題を、検討することを目的 として実施する。
<必 須>
対象領域、対象期間は、対象地域の特性、利用可能なデータ等を考慮して、所期の目的が達 成できるように、それぞれ適切に選定しなければならない。
<標 準>
水収支解析は、水収支モデルによる解析方法と、タンクモデルによる解析方法を標準とする。
<例 示>
1) 水収支モデルによる解析
地下水の水収支式は、不圧地下水と被圧地下水の別等により異なる。以下に不圧地下水の水 収支式の例を示す。
図3-3-1 不圧地下水の水収支概念図
(「地下水調査及び観測指針(案)」に加筆)
・水収支式
地表水 Ws PERi Ro G (3-3-1)
地下水 HM GGi Go Qd (3-3-2) ここに、
P
:降雨量Ri :表流水流入量(上流域からの地表水、かんがい水等の流入量)
Ro :表流水流出量(下流域への地表水、かんがい水等の流出量)
Gi :地下水流入量(上流域からの地下水、異なる帯水層等からの流入量)
Go :地下水流出量(下流域への地下水、異なる帯水層等への流出量)
E
:蒸発散量Ws :地表における貯留量変化(表流水の水位変化等)
Qd :地下水揚水量・地下水湧水量
M
:不飽和帯の土壌水分量変化(地表から帯水層上端までの土壌中の水分量の変化)
H
:地下水位変化量(対象領域の面積×貯留係数×地下水位変化)
G
:地下水かん養量(地表から浸透する水量)である。
対象期間を長期(たとえば1水文年)とすることにより、地表における貯留量変化や、不飽 和帯の土壌水分量変化をゼロとみなせる場合がある。短い時間単位や対象領域を細分化した水 収支解析は多くのデータを要し、水収支解析は困難になることが多い。その場合、地下水流動 解析を行い、その計算結果を集約し水収支を推定することが可能である。
2) タンクモデルによる方法
地下水涵養量の算出や中小河川流域を対象とする水収支の検討のため、河川の流出解析法と して開発されたタンクモデルを地下水に適用する。全域を1か所のタンクモデルで表現する場 合や、流出特性に応じてタンクを連結する場合などがある。
3.3 地下水流動解析
<考え方>
地下水流動解析は、広域的又は局所的な地下水流動状況の把握あるいは予測を目的として実 施する。
<必 須>
地下水流動解析の手法は、目的、対象地域の特性、利用可能なデータ等を考慮して適切に選 定しなければならない。
<標 準>
解析結果は、調査対象域の地下水状況が把握できるように、調査目的に応じてデータの整理 を行い、地下水位等高線図、地下水位変動図等、適切な図表等を用いてわかりやすく表現する ことを基本とする。
<例 示>
地下水流動解析の一般的な手順としては、図 3-3-2 に示すように、目的に応じた解析対象地 域を設定し、解析モデルを作成する。モデルは、各種条件の下で検証を行い、妥当性を検討し た上で、将来計画の条件による予測計算を行う。
図3-3-2 地下水流動解析の流れ
Ss
:比貯留係数〔1/L 〕a 三次元モデル
b 準三次元モデル①
d 準三次元モデル③
e 断面二次元モデル
f 平面二次元モデル
g 一次元モデル
図3-3-3 各地下水流動解析モデルの概念図
<例 示>
近年は、地下水流動や地下水汚染の問題を解析するためのプログラムが多く公表されている。
解析に用いるプログラムの選定に当たっては、対象とする地域あるいは目的に合致するかど うかはもちろんのこと、経済性、解析に要する時間効率等も勘案することが重要である。
以下に公開されている主なプログラムの一部を参考として示す。
表3-3-2 地下水解析プログラムの事例
プログラム名※ 次 元 解析対象 開発機関
GWAP 準三次元 飽和浸透流 岡山地下水研究会
UNSAF 三次元 飽和・不飽和浸透流 岡山地下水研究会 Dtransu 三次元 飽和・不飽和浸透流、物質輸送 岡山大学、他 MODFLOW 三次元 飽和浸透流、物質輸送(MT3D
との組合せ)
アメリカ合衆国地質 調査所
※ ソースコードがインターネット等で公開され、比較的、適用事例の多いもの
<参考となる資料>
各プログラムについては、下記のサイトが参考となる。
1) GWAP,UNSAF,Dtransu.
http://gw.civil.okayama-u.ac.jp/gel_home/download/index.html 2) MODFLOW.
http://water.usgs.gov/nrp/gwsoftware/modflow.html
3.4 地下水汚染解析
<標 準>
地下水汚染解析については、第 12 章 水質・底質調査 第 2 節 水質調査 2.13 によることを標 準とする。
3.5 地盤沈下解析
<考え方>
地盤沈下解析は、地盤沈下が進行するあるいは予想される地域において、地盤沈下量の予測 及び沈下量と揚水量との関係の把握のために実施する。
地下水の揚水に伴う広域的な地盤沈下は、粘性土の圧縮により発生するものと、砂層や礫層 などの弾性変形によって生じるものとがあり、前者の方が沈下量は大きい。帯水層中の水圧が 低下すると、粘性土中の水圧も徐々に低下し、土粒子構造が収縮する、いわゆる脱水圧密現象 が生じる。各地層の収縮量が地表に累積され、地盤沈下となって現れる。
図3-3-4 粘土層の圧密収縮
(佐藤、岩佐「地下水理学」(2002)、丸善による)
地盤沈下解析の手法には、時系列的な予測手法、圧密理論による予測手法及び地盤沈下シミ ュレーション等が用いられている。
<必 須>
解析の手法は、目的、対象地域の特性などを考慮して適切に選定しなければならない。
<例 示>
1) 時系列的な予測手法
1地点における地盤沈下の観測結果を時系列に整理し、直線あるいは曲線で近似させて、沈 下量及び沈下時間を予測する方法である。
2) 圧密理論による予測手法
盛土の載荷によって生じる地盤の形状変化にともなう沈下及びゆるい砂層に生じる沈下を無 視し、盛土中央下の軟弱層の一次元圧密沈下のみを求めて全沈下量とする。
すなわち、層区分された圧密層ごとに次式から一次圧密沈下量Sc〔cm〕を求めた後、軟弱層 全体について合計して全沈下量とする。
e H e Sc e i
0 0
1 (3-3-4)
ここに、
Sc :一次圧密沈下量〔cm〕
e0 :圧密層の初期間隙比
ei :圧密層の圧密後間隙比で、e-logP 曲線に層中央深度の P0+ΔP を適用して求め る。この場合、現場における e-logP 曲線の推定は一般に困難なので、試験に よるe-logP 曲線から求めた値を用いてもよい。
H :圧密層の層厚〔cm〕
である。
なお、正規圧密土からなる軟弱層の場合で、区分された圧密層ごとに圧縮指数Cc 又は体積圧 縮係数 mv〔m2/kN〕が求められている場合には、それぞれ次式によって圧密層毎の一次元圧密 沈下量を求めることができる。
P H P P e
Sc Cc
0 0 0
1 log (3-3-5)
H P m
Sc v (3-3-6)
ここに,
Sc :一次圧密沈下量〔cm〕
P0 :盛土前土かぶり応力〔kN/m2〕
P
:盛土荷重による増加応力〔kN/m2〕 H :圧密層の層厚〔cm〕である。
3) 地盤沈下シミュレーション
平面的な地盤沈下量の分布、あるいは、断面線上の地盤沈下量を予測する方法である。地下 水流動解析モデルでは帯水層内の地下水頭変化量が算出される。また、断面二次元モデルある いは三次元モデルを用いることで、粘土層内の水圧が計算される。帯水層の水頭変化量、ある いは、粘土層内の水圧(間隙水圧)変化量より、圧密理論により地盤沈下量を解析することが できる。