1 「供給側の改革」の動向
様々な改革 を通じて権 力集中が進 み、今後は 具体的な成 果とい う 大 きな課題を 背負うこと にもなる。 その柱とな るのが「供 給側の 改 革」であろう。「供給側の改革」については 2018 年の政府活動報告 においても、「三去一降一補」21の継続や、新たな原動力、製造強国 建設の加速、規制緩和の深化などの項目が重要施策とされ、TFP(全 要 素生産性) 向上による 潜在成長率 の上昇、そ のためのイ ノベー シ ョ ンや新たな 分野の開拓 、それらに 付随した規 制改革の推 進など 、 広範囲におよぶ取組み姿勢が改めて示された。
その中心は 何と言って も国有企業 改革にある 。これまで の改革 動 向 をみると、 大型国有企 業を党の管 理下におい て吸収・合 併等で 巨 大 化させる方 向が目立つ 。特に、鉄 道、造船、 海運、エネ ルギー な ど の分野で大 型国有企業 の合併が進 められ、統 合・再編に より数 は 減 っても逆に 効率の悪い 大型国有企 業を生み、 独占の度合 いを強 め る 。同時に、 非効率な国 有企業が政 府の支援に より温存さ れると い う 悪循環にも なる。これ では、産業 技術面で外 資依存体質 から抜 け 出 せず、海外 の有力企業 の買収や合 弁企業から の技術奪取 が続く こ と になる。こ れでは実質 的なイノベ ーションに つながらず 、発展 の 制約要因が拡大するだけである。「国有企業の強大化」という目標が
「 国有資産の 強大化」と いう表現に 改められた ことや、政 策の重 点 を 企業管理か ら資本管理 へ移すこと が表明され たこと、レ バレッ ジ
21 過剰生産設備、不動産をはじめとする在庫、過剰債務の三つの解消、コストの引き 下げ、不足分野の補強、を指す。2015 年末の中央経済工作会議で示されたものであ る。
を 引き下げ、 資本収益率 を高めるこ となど、効 率ないしは 質を優 先 す る意思が相 次いで示さ れている。 また、国有 分野への非 国有資 本 の 参加を容認 することや 、国有資本 投資会社を 安全保障や 公共サ ー ビ ス、環境保 護分野、技 術革新など の改革に生 かすこと、 一部の 国 有 資産を社会 保障基金に 充当するこ となど、具 体的な改革 も進み つ つ ある。さら に、国有企 業の雇用に 市場的な要 素を取り入 れ、賃 金 体 系や待遇、 職務権限等 についての 見直しも行 われている 。こう し た 改革を今後 加速させる ことができ るか否かは 、習政権の 構造改 革 の 成否に直結 するだけに 、これまで のような頓 挫は許され ない局 面 を迎えていると言っても過言ではない22。
一方で、イ ンターネッ ト通販、ゲ ームソフト 開発、ドロ ーンの 開 発・商業化、シェアエコノミーの拡大、フィンテック23(情報技術を 使った金融サービスの創出)など、IT 関連を中心に新興企業が急成 長 しており、 スマートフ ォンの急速 な普及によ り、目覚ま しい発 展 を 続けている ニュービジ ネスもある 。背景には 、モバイル を中心 と し たインター ネット社会 の進展と、 それらを利 用するユー ザーの 急 拡 大があり、 インターネ ット通販な どによる消 費の拡大と ともに 、 イ ンターネッ ト金融が急 速に発展し ている。さ らに、ビッ グデー タ や IoT などをさらに拡大して既存の製造業と結び付けて高付加価値 化 を進めたり 、スマート フォンの普 及による電 子決済やキ ャッシ ュ レ ス社会が大 きく拡大す る状況に対 し、政府が インターネ ット金 融
22 国有企業改革の一つの重要な方向性として、三浦(2017)では、混合所有制に焦点 をあてた改革の動向と課題が分析されている。三浦有史「国家資本による支配強化 を図る習近平政権-混合所有制改革のシナリオを検証する」『RIM 環太平洋ビジネ ス情報』Vol.17 No.67(日本総研、2017 年 11 月)。
23 金融とテクノロジーの融合であり、主に情報技術(IT)を利用した金融商品やサービ スの創出を指す。
の 成長を支援 する姿勢を 強めている 。これら分 野の発展に 対する 期 待は極めて大きい。しかしながら、中国の手法には強い懸念が残る。
アメリカにおけるIT 革命の経験からも分かるように、こうした分野 の 持続的発展 は、インフ ォーマルな コミュニケ ーションや 企業の 新 陳 代謝を通じ た斬新なア イデアやビ ジネスモデ ルの不断の 変化に よ ってもたらされる24。つまり、自由な発想やオープンな参入退出など が 保証され、 規制が最大 限に緩和さ れた環境が なければな らない 。 こ の点を中国 の現実に照 らしてみれ ば、改革の 過程でむし ろ政府 に よ る規制強化 や補助金に よる誘導、 さらには民 間企業内で の党組 織 の 設置拡大な ど、政府な いしは党が 直接企業を 管理、監督 する動 き を強めており、市場化の推進に逆行する状況が広がっている25。中国 が課題とする TFP の拡大に向けては何よりもイノベーションが重要 であり、規制緩和やR&D 推進のための政策に大きく転換していくこ とが急務である26。国内のイノベーションが進まなければ、結局は海 外 に依存せざ るを得ない 状況が続く ことになり 、ようやく 育ち始 め た発展の芽が削がれることにもなりかねない。
経済の安定 と質を重視 する構造へ の転換は、 国有企業改 革と規 制 改 革による市 場化の推進 という積み 残された課 題の解決に 他なら な い 。その過程 で、経済の ハードラン ディングは 何としても 避けな け
24 アナリー・サクセニアン(山形浩生・柏木亮二訳)『現代の二都物語』(日経 BP 社、
1995 年)59 ページ~。
25 例えば、発展の最先端をいく深圳市についても、政府がリードしてモデル化を進め ようとしていたり、補助金等によってIoT やその他の IT 関連産業への政府の関与を 強めるなど、中国政府が主導する形である。
26 小宮山(2011)では、人工物はいずれ飽和するがそれは中国も例外ではなく、インフ ラに頼った需要はいずれ限界を迎えることから、イノベーションの重要性が指摘さ れている。小宮山宏『日本「再創造」―「プラチナ社会」実現に向けて』(東洋経済 新報社、2011 年 6 月)。
れ ばならない 。性急な改 革は景気腰 折リスクを 拡大させ、 失業者 が 増えれば社会の不安や不満を増幅させる。一方で、R&D の推進によ っ てイノベー ションを促 進して産業 構造の転換 に繋げて新 興産業 分 野 で雇用を吸 収するまで には相当の 費用と時間 を要する。 安定を 重 視 しすぎれば 政府依体質 から脱却で きないとい う旧来型の 課題も あ る 。ハードラ ンディング 回避しなが ら構造改革 を着実に進 めると い う粘り強い政策運営が必要となる。
2 残された課題-「過剰の解消」に向けた対応
構造改革を進める過程での最重要課題の一つが「過剰の解消」27で ある。リーマン・ショック後の 4 兆元の大規模景気対策の後遺症と も いえる過剰 生産設備、 不動産をは じめとする 過剰在庫、 そして 過 剰 債務をいか に解消する かという難 題に直面し ている。過 剰生産 設 備 については 、鉄鋼やセ メント、石 炭などの資 源関連分野 が問題 の 中心となってきた。2016 年以降はこれら関連部門の過剰生産設備解 消を進め、2018 年は石炭 1.5 トン、鉄鉱 3000 万トンの削減目標が設 定されている。2020 年頃までの総計で、石炭を 10 億トン、鉄鋼を 1
~1.5 億トン減産するという目標も掲げられている。このほか、セメ ン トや海運関 連について も、国有企 業の統廃合 などによる 設備削 減 が 進められて いる。しか しこの問題 は、実需と のバランス も重要 で あ り、供給不 安による価 格上昇とい った問題が 生じないよ うな対 策 も 求められる 。雇用不安 にもつなが らない配慮 も必要であ る。輸 出 の 回復や民間 を中心とし た設備稼働 率の上昇な どプラス面 もあり 、
27 これまでの過剰問題の背景や経緯については内藤(2017)36~37 ページで整理して いる。内藤二郎「中国の経済情勢および構造改革の動向と課題」『国際情勢』No.87
(国際情勢研究所、2017 年 3 月)。
現 状では新規 投資を厳し く抑制する など設備解 消を継続す る方針 で
に 相当)が調 査結果を公 表したこと で注目を浴 びるように なった 。 2013 年 6 月末時点の政府債務残高の合計が GDP 比 50%程度に相当 する約 30 兆 2700 億元に達し、そのうち地方政府の債務総額が 17.9 兆元(対 GDP 比約 32%)となり全体の約 60%を占めた。これは、
2010 年末の 10.8 兆元(同 27%)に比べて約 7 兆元の増加であった。
その後も地方政府債務は増加を続け、偶発債務も含めると2015 年末 時点の債務残高は24 兆元にまで拡大した31。
図6 中国の部門別債務残高
(注)単位:十億元
(出所)国際決済銀行(BIS)HP “Debt securities statistics”により作成。Bank for International Settlements, “Debt securities statistics,” http://stats.bis.org/statx/srs/table/c3?c=CN.
31 岡嵜久実子「中国の債務問題の現状と解決への取組み~『暗黙の保証』の世界から
31 岡嵜久実子「中国の債務問題の現状と解決への取組み~『暗黙の保証』の世界から