習政権二期目の中国の経済動向と政策
-課題と方向性を探る-
内 藤 二 郎
(大東文化大学経済学部教授)【要約】
転 換 点 に 立 つ 中 国 経 済 に お い て 、 高 度 成 長 か ら 安 定 成 長 へ の 転 換 、供給側の 改革を中心 とした構造 改革が重要 かつ不可欠 である と の 認識が、改 めて強調さ れている。 また、習政 権が二期目 に入り 、 具 体的成果が 強く求めら れると同時 に、極めて 強い権力を 掌握し た だ けに期待も 大きい。他 方で、権力 の集中、党 主導の政策 運営は 改 革 を機動的に 進められる 反面、政策 が硬直的に なったり他 の見解 が 軽 視されるこ と、調整役 が不在とな って副作用 が拡大する などの 懸 念 もある。さ らに極端な 党主導と政 府の拡大は 、市場化の 推進に 逆 行 する面も多 い。二期目 の習政権が 直面してい るのは、経 済・社 会 の 安定を維持 しながら構 造改革を断 行し、着実 に政府機能 の再編 を 進 めて市場を 主体とした 経済システ ムに転換し ていくとい う極め て 困 難な課題へ の挑戦であ る。どこま で改革に切 り込むこと ができ る か、その対応と成果が大いに注目される。 キ ーワ ード: 安定成長、構 造改革、権 力集中の功 罪、政府機 能の 再 編一 はじめに
経済規模で 世界第二位 の大国とな った中国に は、国際社 会にお け る 大国として の責任が問 われている 。同時に、 国内では先 富論の 前 段 がほぼ達成 され、格差 問題の是正 を中心にい よいよ共同 富裕へ の 展 開が模索さ れている。 リーマンシ ョック後に 提唱された 「ニュ ー ノ ーマル」を 受けて、中 国でも「新 常態」への 移行が重要 な課題 と な った。その 主たる内容 は、高度成 長から安定 成長への転 換、構 造 改 革の推進、 供給側を中 心とした改 革の断行で ある。極め て強い 権 力 を掌握した 習近平政権 が二期目に 入り、改革 に対する期 待が高 ま る とともに、 具体的成果 が求められ ている。一 方で、これ まで世 界 を リードして きたアメリ カの総体的 地位の低下 と自国第一 主義に よ る 保守化の動 きが広がり 、世界経済 は混迷の度 合いを深め ており 、 そ のなかで中 国経済の影 響力がさら に強まるこ とが予想さ れる。 構 造 改革を断行 して量から 質への転換 を図ること は、中国自 身にと っ て も、また国 際社会にと っても極め て重要とな っている。 新たな 転 換期を迎えた中国経済の行方に国際社会の注目が集まっている。 以 上のよ うな 状況を 踏ま え、本 稿で は中国 経済 の動向 や問 題点、 さ らに二期目 の習近平政 権が目指す 目標等につ いて整理し 現状把 握 したうえで、それらに対する政策の方向性と課題を考察する。二 中国経済の現状把握
1 経済構造の変化 2018 年の成長率目標は 6.5%前後と昨年同様とされた一方で、経済 の 量的な拡大 から質的向 上への転換 がこれまで 以上に強調 される ようになった。2018 年上半期の GDP は 41 兆 8961 億元で、実質成長率 は 6.8%と前年水準を維持した1。これを需要別の成長率への貢献度 (寄与率)でみると、最終消費が 78.5%、固定資本形成が 31.4%、 純輸出が-9.9%であった。改革開放以降の中国経済の成長パターン の 特徴は、投 資が主導し 輸出が支え るというも のであり、 消費の 拡 大 が長年の課 題とされて きた。この 構造に少し ずつ変化が 生じて い る。伸びが若干低下したとはいえ、1~6 月期でみた消費(社会消費 品小売総額)は18 兆 18 億元で前年同月比+9.4%と二桁成長に近い 水準を維持している。また、都市部が+9.2%、農村が+10.5%と農 村 部の伸びが 大きくなっ ている。不 動産および 関連業種に 対する 引 き 締めや、減 税政策の影 響で自動車 販売にマイ ナスの影響 が出る こ 図1 需要別の成長率の推移 (注)単位:% ( 出 所 ) 中 国 国 家 統 計 局 の 資 料 ( 中 華 人 民 共 和 國 國 家 統 計 局 『 國 家 數 據 』http:// data.stats.gov.cn/)により作成。
1 成長率は 2017 年通年で+6.9%、2018 年の第 1 四半期が+6.8%、第 2 四半期が+6.7 %となっている。
と などが考え られる一方 で、政府に よる景気対 策の拡大方 針が示 さ れ たことや賃 金上昇とい う背景もあ り、当面は 大きく底割 れする こ とはないだろう。 その一方で、ネット通販や IT 化が急速に進むなかで新たなサービ ス 分野の消費 が刺激され ていること など、今後 の成長に向 けた新 た なプラスの展開もみられる2。 図2 固定資産投資の推移(対前年同期比伸び率) (注)単位:% (出所)中国国家統計局の資料(中華人民共和國國家統計局『國家數據』http://data. stats.gov.cn/)により作成。 これまで成 長を支えて きた投資に ついても構 造が若干変 化し、 過 剰 の解消とい う重要課題 の解決に向 けて資源・ エネルギー 、住宅 、 自 動車などの 関連業種に 対する抑制 策が強化さ れる一方で 、環境 改
2 消費については、例えばスマートフォンを利用して一般家庭の主婦が調理した料理 をネットを通じて宅配したり、個人がネット上で様々な物品を販売したり、個人が 配車アプリを利用してタクシー業務を行うなど、実際にデータには表れない「影の 消費」が大きく拡大しているとみられる。これらを勘案すれば、消費が過小評価さ れているとも考えられる。
善のための投資やICT、「中国製造 2025」などいわゆるニュービジネ ス や教育関連 分野の投資 を政府が支 援している 。上半期の 都市固 定 資産投資は29 兆 7316 億元で、前年同期比+6.0%となり、地域別で は、東部が+5.5%、中部が+9.1%、西部が+3.4%、東北部が+6.3 % であった。 そのうち、 インフラ関 連の投資( 電力・熱・ 天然ガ ス ・水生産供給以外)は前年同期比+7.3%と伸びが低下しており、鉄 道運輸が-10.3%と大きく落ち込んだ。一方で道路輸送が+10.9%、 公共施設が+5.8%と伸び率が若干低下しているが堅調に推移してお り、生態環境保護・環境対策関連が+35.4%と大きく伸びている。(図 2 を参照)。都市化政策が推進されており、投資需要も依然として底 堅 い。今後の 投資につい ては、民間 投資の拡充 と景気対策 として の 政 府の機動的 対応が求め られるが、 特に業種や 分野を考慮 した質 的 転換が重要課題となる。 図3 物価の推移(対前年同期比伸び率) (注)単位:% (出所)中国国家統計局の資料(中華人民共和國國家統計局『國家數據』http://data. stats.gov.cn/)により作成。
2 対外経済関係の動向 対外経済の 動向では、 一昨年あた りから輸出 入ともに大 きく回 復 し、順調に推移している。1~6 月期の貿易総額は 2 兆 2058.5 億ドル で、前年同期比+16.0%であった。輸出が 1 兆 1727.5 億ドルで、前 年同月比+12.8%、輸入は 1 兆 331.0 億ドルで、同+19.9%と大きく 伸びた。貿易黒字は1396.5 億ドルであった。(図 4 を参照)。この輸 出 増の背景に は、世界経 済が予想以 上に回復し たことに加 え、中 国 の 対外戦略の 大目標であ る「一帯一 路」構想に 伴う関係国 への輸 出 拡 大が挙げら れる。他方 で、対外貿 易において 最も懸念さ れるこ と は 、米中貿易 摩擦の激化 である。対 中国のみな らず、世界 各国に 対 す る貿易政策 におけるア メリカの姿 勢は強硬で あると同時 に一貫 性 に 欠ける不安 定なもので あり、見通 しが立て辛 いことに加 えて駆 け 引 き外交の手 段となって いる面が国 際社会の不 安定要因と なって い る 。貿易依存 度が依然と して高く、 しかも製造 業が中心と なって い る ことから、 米中貿易摩 擦の激化が 中国経済に とって大き な打撃 と な る可能性は 排除できな い。そうな れば、世界 経済にも深 刻な悪 影 響を与えることにつながる。他方で中国にも、「一帯一路」構想に関 連 して自国企 業を過度に 優遇したり 、逆に外資 に対する規 制を強 化 し たり経済を 政治的に利 用するなど 、外資政策 において一 貫性に 欠 け るという問 題がある。 米中貿易関 係のこれ以 上の悪化を 回避し 、 双 方の自国第 一主義を抑 制していく ことが肝要 であり、日 本を含 む 周辺国の協力が求められる3。 中 国の 対外関 係の 大きな 変化 は、投 資の 動向に 表れ ている 。2018
3 瀬口清之「米国との貿易摩擦に直面する中国~ボアオ・アジアフォーラムで習近平 主席が改革開放を加速する方針を表明~」キヤノングローバル戦略研究所リサーチ ノート(2018 年 5 月)を参照。
年は改革開放40 周年の節目の年にあたるが、この間に積極的な外資 導入政策によって「世界の工場」となった。しかし2014 年以降は、 対外直接投資が外資利用実績を上回る規模に拡大している(図 5 を 参照)。競争力や技術力の向上によって中国企業が外国へ進出するケ ー スが増加し ているとい うこともあ るが、需要 の縮小や様 々な過 剰 を 抱えている という国内 事情が背景 にあり、需 要を外国に 求める 動 きが強まった結果でもある。特に、「一帯一路」構想が示されて以降 は この動きが 加速してい る。今後も 「一帯一路 」構想の関 係国を 中 心にした投資拡大、そして、それを資金面で支援する形でAIIB の影 響 力が拡大す ることが予 想される。 これは、中 国型外交戦 略とし て も 極めて重要 な意味をも つ。中国政 府主導のこ うした動き が透明 性 や 公正性に欠 けるとの批 判や、債務 負担増によ って関係国 の経済 が 悪 化すること に対する懸 念、非効率 な投資が増 加すること による 地 域経済への悪影響などが指摘されているが、他方で、「一帯一路」構 想や AIIB に対する周辺国、関係国の期待は決して小さくない4。国 際 社会での国 家関係が複 雑化するな かで、中国 の対外経済 戦略が 新 たな局面を迎え不確実性が高まっている。
4 例えば、小田(2018)では、「一帯一路」構想の経済回廊の一つである中パ経済回廊
(CPEC: China-Pakistan Economic Corridor)は、中国の支援プロジェクトは当初の 460 億ドルから 620 億ドルに拡大し、インフラ整備の点でパキスタンの期待が極めて大 きい。しかし一方で、返済能力が低いパキスタンの財政を考えれば、債務不履行と なることが懸念され、いわゆる“debt-trap-diplomacy”(借金外交の罠)に陥る危険性 も小さくないことが指摘されている。小田尚也「『一帯一路』構想と強まるパキスタ ンの中国への依存」『アジ研ポリシー・ブリーフ』No.114(日本貿易振興機構アジア経 済研究所、2018 年 3 月)。
図4 輸出入および貿易収支の推移(対前年同期比伸び率) (注)単位:億元・% (出所)中国国家統計局の資料(中華人民共和國國家統計局『國家數據』http://data. stats.gov.cn/)により作成。 図5 外資利用実績および対外直接投資の推移 (注)単位:億ドル (出所)中国国家統計局の資料(中華人民共和國國家統計『國家數據』http://data. stats.gov.cn/)により作成。
3 小括 中国経済は 引き続き減 速傾向を辿 っているも のの、大き く底割 れ す ることなく 推移してい る。ただし 、米国との 「貿易紛争 」影響 を 受 けて、輸出 が減速する と同時に、 生産および 投資が抑制 傾向に あ る 。当面は賃 金上昇に支 えられて堅 調に推移し ている消費 と、ニ ュ ー ビ ジ ネ ス 振 興 策 の 継 続 が 経 済 を 下 支 え す る 状 況 が 続 く と み ら れ る 。また、景 気減速に対 しては、政 府がこれま でよりも積 極的な 財 政 政策や緩和 的な金融政 策によって 適切に対応 する姿勢を 示して お り 、固定資産 投資の拡大 等によって 適宜景気対 策を行って いくこ と になろう5。何よりもトランプ政策の強硬な貿易政策が終息する方向 が 見えないこ とが中国経 済にとって の大きなリ スクであり 、人民 元 安 が進むと同 時に株価も 下落傾向と なっている 。景気の失 速は何 と し ても避けな ければなら ないが、一 方で政府主 導の景気対 策に大 き く 依 存 し た 旧 態 依 然 の 成 長 パ タ ー ン か ら 脱 却 す る こ と も 急 務 で あ る 。構造改革 の断行と景 気対策の間 で難しい政 策運営を迫 られる こ とになる。
三 政策の方向性を探る
以 上の ような 経済 状況下 で行 われた 2018 年の全国人民代表大会 (以下;全人代)においては、憲法改正が最重要テーマであったが、 そ れとともに 、国家主席 の任期を撤 廃して長期 政権を可能 にし、 集 団 指導制を大 きく制限し たことで、 習近平総書 記への権力 集中が 名 実ともに達成されたことの再確認とアピールの場となった。第19 回 党大会後の中国共産党第19 期中央委員会第 2 回全体会議(以下、第5 実際に 7 月 5 日から預金準備率が 0.5%引き下げられたのに続き、7 月 23 日には減税 を中心とした積極的財政政策の実施も表明された。
19 期二中全会)は政府関連の機構改革や人事について話し合われる もので、通常であれば 2 月中旬から下旬に行われるが、今回は一ヶ 月前倒しで行われた6。これも憲法改正の影響からである。その主題 は、「法治の保障 」「全面的な依 法治国 」「憲法改正の必 要性・意義 」 「 憲 法 の 権 威 ・ 原 則 の 維 持 」「 監 察 体 制 の 改 革 」「 憲 法 実 施 の 保 障 」 「4 つの意識(政治意識、大局意識、核心意識、看斉意識〔見習う、 基準に合わせるの意〕)の樹立」などであった。さらに、習近平思想 が 「習近平の 新時代の中 国の特色あ る社会主義 思想」とし て憲法 に 明 記された。 正式に憲法 にも明記さ れたことで 、習近平総 書記の さ ら なる権威付 けと権力集 中・基盤強 化が確立さ れた。憲法 に記載 の あ る個人名を 冠した思想 は、マルク スレーニン 主義のほか 、毛沢 東 思想、鄧小平理論だけである(「三つの代表」思想もあるが江沢民思 想 と は 記 さ れ て い な い )。 今 回 、 習 近 平 思 想 が 憲 法 に 明 記 さ れ た こ と 、しかも現 役の指導者 であるとい うことの意 味は極めて 大きい も の である(現 役の政治家 〔指導者〕 としては過 去の毛沢東 思想以 来 となる)。これによって、習総書記の指導が権力によるものだけでな く 、法的な面 でも保障さ れることに なり、さら なる法整備 や規制 強 化によって様々な管理強化が進められる可能性が強い。 一方、これらは俗に「二つの百年」と称される中国共産党成立100 年および建国100 年を見据えた体制作りでもある。前者は 2020 年ま でにGDP 及び所得を 2010 年の 2 倍にするという「小康社会」の全 面的な実現に向けた動きであり、後者は2049 年に「社会主義現代化 強国の建設」を達成し、「中華民族の偉大な復興の実現」を果たすと 同時に、2050 年までにアメリカに匹敵する世界強国となり、人類運
6 第 19 期二中全会における決定および憲法改正の内容等は、「中國共產黨中央委員會 關於修改憲法部分內容建議」『人民日報』(2018 年 2 月 26 日)掲載による。
命 共 同 体 の 構 築 を 進 め る と い う も の で あ る7。 極 め て 壮 大 な 夢 で あ る 。こうした 背景のもと で、政府活 動報告を中 心とする習 近平政 権 二期目の政策課題や運営方針が示された。 1 2018 年の全人代にみる方針 (1) 「政府活動報告」8における主要課題の整理 2018 年の全人代において李克強総理によって行われた「政府活動 報 告」では、 習政権一期 目の成果が 大きく取り 上げられた が、そ の 中 心は、厳し さを増す国 際経済情勢 や構造問題 を抱える国 内経済 の 改 革という様 々な困難に 直面しつつ も、安定を 最優先しな がら徐 々 に進展させていくというスタンスであった。2014 年にスタートした 「 新常態」へ の移行の表 明をさらに 一歩前進さ せて、中高 速の成 長 か ら 成 長 の 質 へ の 転 換 を 重 視 す る も の で あ る9。 そ の こ と も あ っ て か 、政府活動 報告の重点 政策で、供 給側の構造 改革の推進 、イノ ベ ー ション型国 家の建設、 基礎的分野 の改革の深 化などが上 位に挙 げ ら れたのに対 し、消費や 投資の拡大 による景気 対策などは 重要度 が 下 がっている 。その中で 、マクロ経 済政策に関 連するもの として 、
7 新華社(2017 年 10 月 24 日)の報道による。「中国共産党第 19 回全国代表大会の第 18 期中央委員会報告に関する決議」『新華網』http://jp.xinhuanet.com/2017-10/24/ c_136702982.htm。 8 「政府活動報告」全文は、中華人民共和国中央人民政府による。中華人民共和國中 央人民政府「政府工作報告」2018 年 3 月 22 日、http://www.gov.cn/premier/2018-03/22/ content_5276608.htm。 9 経済指標について、目標値の設定から「区間コントロール」に重点が移されたこと もその一つである。これは李克強総理によって2013 年に提起された考え方であり、 所得、雇用、物価、環境指標などの経済指標が一定の範囲内に収まるようにコント ロールするという考え方であり、より柔軟な政策スタンスを示すものである。
営改増改革10による減税や地方債の借り換えの推進、財政赤字の抑制 な どの財政面 での改革の 意義や、人 民元の安定 化、通貨供 給量の コ ン トロールな ど金融面で の成果が挙 げられてい る点が注目 される 。 一 方、供給側 の改革では 、一部の資 源部門の生 産および雇 用の縮 小 の ほか、行政 改革、規制 改革による 効率化とコ スト削減が 成果と し て 示されてい る。供給側 の改革の核 心は国有企 業改革であ る。こ れ ま で、合併・ 吸収等を通 じて国有企 業の強大化 を進めてき たが、 こ れ はむしろ効 率化という 点では逆行 する面もあ った。今回 「ゾン ビ 企業」11の清算や債務処理を加速し、企業の質を高めていくとして「国 有 資本の強大 化、最適化 を図る」と いう表現が 用いられて いる。 ま た 、イノベー ション主導 の経済発展 の進展や「 一帯一路」 構想、 上 海 をはじめと する自由貿 易試験区の 設立などに よる対外開 放政策 の 推 進、さらに は、環境問 題の改善な ど、主要な 課題につい ての成 果 が細かく挙げられている。改革開放40 周年を迎え、さらに積極的な 対外開放政策を目指す意思が強調されたものである。 他方、今後 5 年間を見据えた 2018 年の方針については、現在の国 内 外の状況を チャンスと リスクが共 存する状態 と位置づけ 、安定 を 最優先する安全運転型となった。主要指標の目標値および過去 2 年 の実績を示したのが表1 である。経済成長率の目標は 2017 年と同レ ベルに据え置かれた12。第 19 回党大会においても、高速成長から質
10 営業税を増値税に移行し一本化する改革。サービス業の仕入れに対する課税が控除 されるなど、企業の税負担が軽減される一方で、地方の財源が縮小することになり、 増値税の中央と地方の配分の見直しもが必要となる。営改増改革についての制度改 革詳細は、中華人民共和国国家税務総局按税種査詢を参照されたい。國家稅務總局、 http://hd.chinatax.gov.cn/guoshui/main.jsp?articleField01=营改增。 11 不採算であるにもかかわらず淘汰されず、政府や金融機関の支援を受けて生き延び ている非効率な企業を指す。 12 中国では GDP および一人当たり所得を 2020 年に 2010 年の二倍にするという目標が
の 高い発展へ の転換が確 認されたと いう報告が なされたが 、ここ で は さらに踏み 込んで成長 の速度につ いての言及 が削除され ており 、 こ れまで以上 に質を重視 する姿勢に 転換すると いう強いメ ッセー ジ と捉えることができる。 表1 主要指標の目標および実績(2016~2018 年) 2018 目標 実績 目標 実績 目標 経済成長率(%) 6.5~7.5 6.7 6.5前後 6.9 6.5前後 消費者物価上昇率(%) 3.0 2.0 3.0 1.6 3.0 都市新規雇用者(増加分)(万人) 1000 1314 1100 1351 1100 都市調査失業率(%) - - - - 5.5 都市登録失業率(%) 4.5 4.0 4.5 3.9 4.5 マネーサプライ(%) 13.0 11.3 12.0 8.2 前年水準 全社会固定資産投資伸び率(%) 10.5 7.9 9.0 7.0 発表なし 輸出入(%) - - 安定・好転 7.3 安定・好転 2016 2017 (出所)「政府活動報告各年版」(中華人民共和國中央人民政府「歷年國務院政府工作報 告」http://www.gov.cn/guowuyuan/baogao.htm)、「中国統計年鑑各年版」(中華人 民共和國國家統計局、http://www.stats.gov.cn/tjsj/)により作成。 こ のほか 、特 に注目 され るのが 「三 大堅塁 攻略 戦」で ある 。これ は、重大リスクの防止、脱貧困(再分配の強化)、そして環境対策で あ る。重大リ スクについ ては、金融 機関の管理 ・監督の強 化によ る シ ャドーバン キングや理 財商品に対 する規制強 化、債務の コント ロ ー ル、金融引 き締めによ るバブルの 抑制などが 主要課題と なる。 脱 貧困については、2018 年に農村の貧困人口を 1000 万人削減し、2020
あり、達成のためには2016 年からの 5 年間の成長率を最低でも 6.5%に維持する必 要があった。しかし、2016 年および 17 年の成長率が目標を上回ったため、2018 年 からの3 年間は年平均 6.3%を達成すれば目標が達成されることになった。2018 年以 降は若干の減速も許容できるということになる。
年には3000 万人ともいわれる貧困人口を解消することを目指すとし ている。環境対策については、PM2.5 レベルの引き下げや各化学物 質 の排出量の 削減目標を 示し、大気 汚染、水質 汚濁を大幅 に改善 す る という目標 を掲げた。 併せて、公 共サービス の供給主体 として の 政 府の役割を 明確にする ことや行政 を効率化す ること、引 き続き 反 腐 敗運動を拡 充すること や規律の強 化など、政 府自身の改 革も必 要 である点も強調されている。 (2) 財政・金融政策の状況 主 要課題 の解 決と目 標達 成に向 けた 経済政 策も 注視す る必 要があ る 。財政政策 については 、これまで の積極的財 政政策を継 続する 一 方で、財政赤字のコントロールが重要な課題となる。2017 年の財政 赤字は2.38 兆元(中央財政が 1 兆 5500 億元、地方財政が 8300 億元) で対GDP 比 3%と政府目標の上限に達した。2018 年の赤字は額は同 じだが対GDP 比で 2.6%と若干低下を見込んだ予算とされた13。財政 支 出の方向と しては、機 動的かつ適 切な景気対 策、貧困削 減をは じ め とする三農 問題の解決 、環境改善 など「三大 堅塁攻略戦 」とし て 示 された分野 が中心とさ れている。 また、重大 リスクの一 つであ る 地 方財政の債 務問題を解 消し、財政 健全化を進 めることも 重要な 政 策課題となった。 一方、金融 政策につい ては、穏健 的な金融政 策が維持さ れるこ と に なった。マ ネーサプラ イを抑制的 に管理する 一方で、貸 し出し や 社 会資金調達 は一定の伸 びを確保す るという難 しい対応を 迫られ る こ とになる。 マネーサプ ライの目標 値を具体化 せず前年並 みとし た
13 中華人民共和國財政部「2018 年中央財政予算」中華人民共和國人民政府 HP、 http://www.gov.cn/zhengce/xxgkzl.htm。
こ とは、金融 政策に多少 の柔軟性を 持たせ、機 動的な政策 実行の 余 地 を残す狙い があるとみ られる。今 後は直接金 融の割合を 増やす こ と も課題とな る。同時に 、金融体制 全体の問題 として、金 融監督 管 理 体 制 の 強 化 が 挙 げ ら れ て い る 。 そ の 柱 は ル ー ル 化 と 透 明 化 で あ り 、管理体制 を強化しな がら、不良 債権処理や 債務問題の 解消な ど 健 全性を確保 することが 重要となる 。また為替 政策につい ても、 市 場 化をより一 層進めるこ とで人民元 レートの適 切性と安定 性を確 保 す ることが大 切であり、 それにより 人民元の国 際化をさら に進め る こが大きな目標となる。 (3) 小括 振り返れば、第18 期三中全会(2013 年 11 月)での「資源配分に お いては市場 に決定的な 役割を担わ せる」とし た決定や、 それに 続 く2014 年の「新常態」への移行などの強い政策メッセージによって 市 場化の動き が加速する ことが期待 されたが、 実際には逆 に規制 や 監 視・管理の 強化が進み 、むしろ市 場機能を阻 害する状況 が生ま れ た 。今回の報 告において は、改めて さらに踏み 込んで構造 改革の 重 要 性を強調し 、そのため には成長率 の低下を許 容する、と いうメ ッ セ ージが示さ れた点が印 象的である 。今回の報 告で注目さ れた「 三 大 賢塁攻略戦 」に示され た内容は、 いずれもこ れまでにも 課題と し て掲げられてきた問題であり、40 年の節目を迎えた改革開放政策の 残 された課題 でもある。 つまりは、 改革開放政 策によって ある程 度 達 成された「 先富論」か ら「共同富 裕」への移 行の実現が 何より も 求 められるこ とになる。 一方で、経 済の構造改 革の進捗は 必ずし も 芳 しくなく、 懸案となっ てきた様々 な「過剰」 の解消も道 半ばで あ る 。ここに掲 げられた目 標を達成す るための政 策運営は、 極めて 厳 しい舵取りとなるだろう。
2 政策運営体制の検証 以 上のよ うな 政策運 営方 針と目 標を 踏まえ 、今 後はこ れら の難し い 政策をいか に実行、実 現していく かが問われ ることにな る。そ の 方 向性を探る ためには、 全人代にお ける機構改 革および人 事面の 動 向 を検証し、 党と政府の 関係や中央 と地方の関 係について 確認し て お くことが重 要であろう 。習政権が 二期目に入 り、これま でにも 増 し て「党が国 家を指導す る」という 体制を強化 する動きが 加速し て いる。しかも、「中国共産党の指導強化」と言いながら、実質的には 「習近平の指導強化」ということにもなる。 (1) 機構改革の実態14 今 次の機 構改 革の背 景に は、習 主席 が強調 する 「二つ の百 年」が ある15。これを実現するためには、中国共産党が何よりも党の指導方 針 の堅持が重 要であり、 党の指導力 強化とそれ を徹底する ための 体 制 づくりが不 可欠である という習主 席の意思の 表れである とも考 え ら れる。機構 改革の全体 像をみると 、党と政府 の関係が交 錯し、 複 雑 化している という印象 が強い。党 中央の機構 改革につい ては、 中 央 全面深化改 革委員会、 中央財経委 員会、中央 外事工作委 員会、 中 央 ネット安全 情報化領導 委員会など これまで小 組であった 組織が 委 員 会に改めら れ、経済政 策、情報管 理、外交に 関しては党 が主導 す る 仕組みとな った。また 、中央党校 (党)と国 家行政学院 の役割 が 整 理 統 合 さ れ 、 中 央 党 校 ・ 国 家 行 政 学 院 と い う 新 た な 体 制 と な っ
14 機構改革の内容は、新華社(2018 年 3 月 22 日)の報道による。『新華網』http://www. xinhuanet.com/。 15 「二つの百年」とは、中国共産党が結党 100 周年を迎える 2021 年に小康社会を実現 すること、そして中華人民共和国建国100 周年の 2049 年までに富強・民主・文明・ 和諧の社会主義現代化強国を完成する、という目標を指す。
た。これらの改編とともに、国務院の機構改革も大きく進められた。 具 体的には、 自然資源部 、生態環境 部、農業農 村部、文化 旅游部 、 国 家衛生健康 委員会、退 役軍人事務 部、応急管 理部が新設 され、 科 学 技術部、司 法部、審計 署が改編さ れ、監察部 、国土資源 部、環 境 保 護部、農業 部、文化部 、国家衛生 育産委員会 が解体され るなど 、 国務院の機構は合計26 の組織に改められた。そこには、党が国家を 指 導するとい う体制をこ れまでにも 増して強化 するという 狙いが 表 れている16。いくつかポイントを指摘するとすれば、第一に注目され る の が 、 監 察 部 が 解 体 さ れ 国 家 監 察 委 員 会 が 設 置 さ れ た こ と で あ る 。これまで に最も力を 注いできた 反腐敗政策 をさらに強 化して い く だけでなく 、監視対象 をあらゆる 公権力を行 使する公職 者に拡 大 す るものであ る。しかも 、本監察委 員会は単に 汚職や腐敗 を取り 締 ま るだけでな く、役人の 行動原理や 思想にまで 踏み込んで 監視す る こ とがポイン トとなる。 国務院と同 列に位置付 けられた同 委員会 に 対 しては党の 指導を受け ることが法 律に明記さ れており、 国務院 の 監 察権を外し て実質的に 党が全てを 監視、管理 するという 仕組み が 確立された党の権限強化そのものである17。次に、報道メディアや出 版 関連など言 論に関わる 組織の整理 である。国 家新聞出版 広電総 局 が 解体されて 国家放送電 視総局に改 編されると ともに、中 央人民 放 送 局、中央国 際放送局、 中国中央電 視台が統合 されて中央 放送電 視
16 この点については、「中国共産党の指導は中国の特色ある社会主義の最も本質的な特 徴である」という条文が憲法に明記され、中国共産党の指導が一層強化されたこと に伴うものであると考えられる。 17 最高人民検察院が、改正憲法の下で同委員会と連携して反腐敗闘争を推進する姿勢 を示したことや、同委員会が党中央規律委員会と同じ場所に設置されたこと、さら には同委員会の委員長に党中央規律検査委員会楊暁渡・党中央規律検査委員会副書 記を選出したことなど、党が全面的に主導する体制が顕著である。
総 局が新設さ れた。これ によって党 中央宣伝部 が報道・出 版、映 画 部 門 を 直 接 管 理 す る 体 制 と な り 、 こ こ で も 党 に よ る 監 視 が 強 化 さ れ、メディア規制がさらに強まることになる。このほか、「一帯一路」 構 想や海洋進 出を見据え た自然資源 資源部の設 置や環境問 題の強 化 を図る意思を示した生態環境部への改編、急速に展開、進化するIoT やAI などを扱う科学技術部の設置なども、国際情勢の変化に対応す る動きとして注目される。さらには、国務院の直属機関についても、 国 家工商行政 管理総局、 国家質量監 督検験検疫 総局、国家 食品監 督 管 理総局が廃 止されて国 家市場監督 管理総局が 新設された こと、 中 国 銀行業監督 管理委員会 、中国保険 監督管理委 員会が廃止 されて 中 表2 国務院組織の新体制 外交部 自然資源部 国防部 生態環境部 国家発展改革委員会 住宅・都市農村建設部 教育部 交通運輸部 科学技術部 水利部 工業・情報化部 農業農村部 国家民族事務委員会 商務部 公安部 文化・観光部 国家安全部 国家衛生健康委員会 民政部 退役軍人事務部 司法部 応急管理部 財政部 中国人民銀行 人力資源・社会保障部 審計署 (出所)新華社(2018 年 3 月 22 日)により作成。『新華網』http://www.xinhuanet.com/。
国銀行保険監督管理委員会18に統合されたことなど、経済面において も 党による集 中管理体制 が整えられ た。このよ うに、党と 国家の あ らゆる関係において、党主導が極めて強化された構造となった。 (2) 人事体制の動向 人 事につ いて も習主 席ト ップダ ウン の色合 いが 強まっ た。 習主席 の下で王岐山氏が国家副主席に就いた。68 歳定年制という内規を覆 して党の最高指導部に残留させるかどうかが昨年(2017 年)秋の党 大会において注目されたが実現できなかった。しかし、1 月に全人代 代 表に選出さ れ、国家副 主席に就任 したことで 「習近平- 王岐山 」 と いう指導体 制が確立さ れ、しかも 継続されて いくことが 明確に 示 さ れた。また 、国家監察 委員会の委 員長に習主 席側近の楊 暁渡氏 が 就 任したこと も、王氏と の関係が深 い楊氏を登 用して反腐 敗を一 層 強 化すること が狙いであ るとみられ 、関連分野 における権 限はさ ら に 強化される だろう。国 務院総理に は李克強氏 が再任され 、韓正 、 胡 春華、孫春 蘭、劉鶴の 各氏が副総 理に就任し た。そして 、国務 委 員 として魏鳳 和、王勇、 王毅、肖捷 、趙克志の 各氏が付い たが、 す べては「習-王体制」の強い指導の下で運営される体制である。 そ の他の 人事 につい ては 、中国 人民 銀行総 裁に は易鋼 氏が 就任し た 。易 氏は 2007 年に人民銀行副総裁となり、中国国家外為管理局 (SAFE)局長等の経験も長く、金融政策には精通していると言われ る 。これまで の政策運営 に極端な対 応が見られ たこともあ り、重 要 な 金融政策を 担う役割と しては若干 の不安が残 る人事であ るとも 感
18 関(2018)では、銀行業と保険業の管理監督の一元化は、管理監督の資源の集中と 専門性の発揮に有利である、とされている。関辰一『中国 経済成長の罠 金融危 機とバランスシート不況』(日本経済新聞出版社、2018 年 5 月)。
じ られるが、 実務家とし ての経験と 国外ネット ワークを有 してい る の が強みとさ れる。この 易氏をサポ ートすると みられるの が、中 国 人 民銀行副総 裁(同行党 委員会書記 を兼務)に 就任した郭 樹清氏 で あ る。郭氏は 銀行保険監 督管理委員 会主席も務 めており、 過去に は 山 東省省長や 中国建設銀 行、中国証 券監督管理 委員会のト ップを 歴 任 し経済には 精通してお り、易氏を 支える役割 が求められ ている こ とになろう。 経 済面の 人事 で最も 注目 される のが 、経済 ・金 融担当 の劉 鶴・国 務院副総理19である。劉氏は、習政権一期目の党中央財経指導小組の 事務局トップを務めた経済政策ブレーンである。第18 期三中全会の 決定の作成に深くかかわったほか、「供給側の改革」を積極的に支持 し た改革派の 主要人物と して注目さ れてきてお り、習主席 および 王 副 主席との強 いパイプを 持っている 。中国経済 の最大の懸 案事項 と も 言える構造 改革の推進 において、 劉氏の果た す役割は極 めて大 き い と考え られ る。一 方、 米中貿 易摩 擦が激 化す る中で 、本 年(2018 年)5 月に、劉氏が米国財務長官をはじめとする高官らとの交渉にあ た ったが、目 立った成果 は得られて いなかった 。予想以上 に強硬 な 米 国に対して は、今後は 王副主席が 表に出て対 米交渉にあ たるの で は との見方も ある。劉氏 の手腕に期 待がかかっ ているのは むしろ 国 内 問題であり 、特に米中 貿易摩擦が 一段落する までは、対 外経済 関 係 は王氏が対 応し、明確 なロジック に基づいた 経済分析お よび運 営 を 行う能力が 評価されて きた劉氏が 、これまで 以上に国内 の経済 改 革 に注力する 、という構 図になる可 能性がある 。こうした 流れの 中 で 、 副 総 理 と し て 国 有 企 業 改 革 指 導 小 組 ・ 組 長 も 務 め て き た 劉 氏
19 詳しくは齊藤尚登「中国:『ポスト習近平』は習近平?経済政策面では劉鶴氏が重要 な役割を担う可能性」大和総研研究レポート(2017 年 10 月)を参照されたい。
が 、新たに安 全生産委員 会主任も兼 務すること になり、さ らに権 限 を拡大したとみられている。二期目の習政権の経済分野は、「王岐山 - 劉鶴」体制 が支えるこ とになり、 特に具体的 成果が求め られる だ け に劉氏への 期待は大き い。一方で 、これら経 済関連ポス トをみ て も、習主席に近い人物が配置されており、「依法治国」と言いながら、 習主席主導の「人治」が益々強まった感がある。 (3) 小括 以 上 の よ う に 、 全 人 代 に お け る 機 構 改 革 お よ び 人 事 面 の 動 き か ら 、党主導の 政策運営が 明らかとな り、政府は 党による強 い支配 、 管 理のもとに 置かれると 同時に、党 の決定を着 実かつ忠実 に行っ て いくだけの実務家的役割を担うのみの位置づけとなった20。党による 管 理、統制を 強化する統 治体制は、 軍のみなら ず行政まで も党が 一 括 し て 管 理 す る 政 治 体 制 の 構 築 で あ り 、 党 と 行 政 の 一 体 化 で も あ る 。つまり、 国務院の弱 体化、牽い ては総理の 権限縮小と いう意 味 合 いも持つ。 そして、こ れらは組織 で働く公務 員全体の管 理に直 結 す るため、公 務員が各部 局のトップ や総理では なく、党の 領導、 換 言 すれば習主 席の意向に 沿って行動 をせざるを 得ない体制 が作ら れ た とも言える 。習主席に あらゆる権 力が集中し 、その下で 行われ た 機 構改革およ び人事によ って、党に よる指導、 管理が徹底 され、 政 府をも支配する体制となった。
20 習近平への権力集中、および党指導部の人事については加藤(2018)が詳しい。加 藤青延「2 期目を迎えた習近平体制の行方」『武蔵野大学政治経済研究所年報第』16 号(武蔵野大学政治経済研究所、2018 年 2 月)。
四 経済面の諸課題
1 「供給側の改革」の動向 様々な改革 を通じて権 力集中が進 み、今後は 具体的な成 果とい う 大 きな課題を 背負うこと にもなる。 その柱とな るのが「供 給側の 改 革」であろう。「供給側の改革」については 2018 年の政府活動報告 においても、「三去一降一補」21の継続や、新たな原動力、製造強国 建設の加速、規制緩和の深化などの項目が重要施策とされ、TFP(全 要 素生産性) 向上による 潜在成長率 の上昇、そ のためのイ ノベー シ ョ ンや新たな 分野の開拓 、それらに 付随した規 制改革の推 進など 、 広範囲におよぶ取組み姿勢が改めて示された。 その中心は 何と言って も国有企業 改革にある 。これまで の改革 動 向 をみると、 大型国有企 業を党の管 理下におい て吸収・合 併等で 巨 大 化させる方 向が目立つ 。特に、鉄 道、造船、 海運、エネ ルギー な ど の分野で大 型国有企業 の合併が進 められ、統 合・再編に より数 は 減 っても逆に 効率の悪い 大型国有企 業を生み、 独占の度合 いを強 め る 。同時に、 非効率な国 有企業が政 府の支援に より温存さ れると い う 悪循環にも なる。これ では、産業 技術面で外 資依存体質 から抜 け 出 せず、海外 の有力企業 の買収や合 弁企業から の技術奪取 が続く こ と になる。こ れでは実質 的なイノベ ーションに つながらず 、発展 の 制約要因が拡大するだけである。「国有企業の強大化」という目標が 「 国有資産の 強大化」と いう表現に 改められた ことや、政 策の重 点 を 企業管理か ら資本管理 へ移すこと が表明され たこと、レ バレッ ジ21 過剰生産設備、不動産をはじめとする在庫、過剰債務の三つの解消、コストの引き 下げ、不足分野の補強、を指す。2015 年末の中央経済工作会議で示されたものであ る。
を 引き下げ、 資本収益率 を高めるこ となど、効 率ないしは 質を優 先 す る意思が相 次いで示さ れている。 また、国有 分野への非 国有資 本 の 参加を容認 することや 、国有資本 投資会社を 安全保障や 公共サ ー ビ ス、環境保 護分野、技 術革新など の改革に生 かすこと、 一部の 国 有 資産を社会 保障基金に 充当するこ となど、具 体的な改革 も進み つ つ ある。さら に、国有企 業の雇用に 市場的な要 素を取り入 れ、賃 金 体 系や待遇、 職務権限等 についての 見直しも行 われている 。こう し た 改革を今後 加速させる ことができ るか否かは 、習政権の 構造改 革 の 成否に直結 するだけに 、これまで のような頓 挫は許され ない局 面 を迎えていると言っても過言ではない22。 一方で、イ ンターネッ ト通販、ゲ ームソフト 開発、ドロ ーンの 開 発・商業化、シェアエコノミーの拡大、フィンテック23(情報技術を 使った金融サービスの創出)など、IT 関連を中心に新興企業が急成 長 しており、 スマートフ ォンの急速 な普及によ り、目覚ま しい発 展 を 続けている ニュービジ ネスもある 。背景には 、モバイル を中心 と し たインター ネット社会 の進展と、 それらを利 用するユー ザーの 急 拡 大があり、 インターネ ット通販な どによる消 費の拡大と ともに 、 イ ンターネッ ト金融が急 速に発展し ている。さ らに、ビッ グデー タ や IoT などをさらに拡大して既存の製造業と結び付けて高付加価値 化 を進めたり 、スマート フォンの普 及による電 子決済やキ ャッシ ュ レ ス社会が大 きく拡大す る状況に対 し、政府が インターネ ット金 融
22 国有企業改革の一つの重要な方向性として、三浦(2017)では、混合所有制に焦点 をあてた改革の動向と課題が分析されている。三浦有史「国家資本による支配強化 を図る習近平政権-混合所有制改革のシナリオを検証する」『RIM 環太平洋ビジネ ス情報』Vol.17 No.67(日本総研、2017 年 11 月)。 23 金融とテクノロジーの融合であり、主に情報技術(IT)を利用した金融商品やサービ スの創出を指す。
の 成長を支援 する姿勢を 強めている 。これら分 野の発展に 対する 期 待は極めて大きい。しかしながら、中国の手法には強い懸念が残る。 アメリカにおけるIT 革命の経験からも分かるように、こうした分野 の 持続的発展 は、インフ ォーマルな コミュニケ ーションや 企業の 新 陳 代謝を通じ た斬新なア イデアやビ ジネスモデ ルの不断の 変化に よ ってもたらされる24。つまり、自由な発想やオープンな参入退出など が 保証され、 規制が最大 限に緩和さ れた環境が なければな らない 。 こ の点を中国 の現実に照 らしてみれ ば、改革の 過程でむし ろ政府 に よ る規制強化 や補助金に よる誘導、 さらには民 間企業内で の党組 織 の 設置拡大な ど、政府な いしは党が 直接企業を 管理、監督 する動 き を強めており、市場化の推進に逆行する状況が広がっている25。中国 が課題とする TFP の拡大に向けては何よりもイノベーションが重要 であり、規制緩和やR&D 推進のための政策に大きく転換していくこ とが急務である26。国内のイノベーションが進まなければ、結局は海 外 に依存せざ るを得ない 状況が続く ことになり 、ようやく 育ち始 め た発展の芽が削がれることにもなりかねない。 経済の安定 と質を重視 する構造へ の転換は、 国有企業改 革と規 制 改 革による市 場化の推進 という積み 残された課 題の解決に 他なら な い 。その過程 で、経済の ハードラン ディングは 何としても 避けな け
24 アナリー・サクセニアン(山形浩生・柏木亮二訳)『現代の二都物語』(日経 BP 社、 1995 年)59 ページ~。 25 例えば、発展の最先端をいく深圳市についても、政府がリードしてモデル化を進め ようとしていたり、補助金等によってIoT やその他の IT 関連産業への政府の関与を 強めるなど、中国政府が主導する形である。 26 小宮山(2011)では、人工物はいずれ飽和するがそれは中国も例外ではなく、インフ ラに頼った需要はいずれ限界を迎えることから、イノベーションの重要性が指摘さ れている。小宮山宏『日本「再創造」―「プラチナ社会」実現に向けて』(東洋経済 新報社、2011 年 6 月)。
れ ばならない 。性急な改 革は景気腰 折リスクを 拡大させ、 失業者 が 増えれば社会の不安や不満を増幅させる。一方で、R&D の推進によ っ てイノベー ションを促 進して産業 構造の転換 に繋げて新 興産業 分 野 で雇用を吸 収するまで には相当の 費用と時間 を要する。 安定を 重 視 しすぎれば 政府依体質 から脱却で きないとい う旧来型の 課題も あ る 。ハードラ ンディング 回避しなが ら構造改革 を着実に進 めると い う粘り強い政策運営が必要となる。 2 残された課題-「過剰の解消」に向けた対応 構造改革を進める過程での最重要課題の一つが「過剰の解消」27で ある。リーマン・ショック後の 4 兆元の大規模景気対策の後遺症と も いえる過剰 生産設備、 不動産をは じめとする 過剰在庫、 そして 過 剰 債務をいか に解消する かという難 題に直面し ている。過 剰生産 設 備 については 、鉄鋼やセ メント、石 炭などの資 源関連分野 が問題 の 中心となってきた。2016 年以降はこれら関連部門の過剰生産設備解 消を進め、2018 年は石炭 1.5 トン、鉄鉱 3000 万トンの削減目標が設 定されている。2020 年頃までの総計で、石炭を 10 億トン、鉄鋼を 1 ~1.5 億トン減産するという目標も掲げられている。このほか、セメ ン トや海運関 連について も、国有企 業の統廃合 などによる 設備削 減 が 進められて いる。しか しこの問題 は、実需と のバランス も重要 で あ り、供給不 安による価 格上昇とい った問題が 生じないよ うな対 策 も 求められる 。雇用不安 にもつなが らない配慮 も必要であ る。輸 出 の 回復や民間 を中心とし た設備稼働 率の上昇な どプラス面 もあり 、
27 これまでの過剰問題の背景や経緯については内藤(2017)36~37 ページで整理して いる。内藤二郎「中国の経済情勢および構造改革の動向と課題」『国際情勢』No.87 (国際情勢研究所、2017 年 3 月)。
現 状では新規 投資を厳し く抑制する など設備解 消を継続す る方針 で はあるが、景気を睨んでの機動的な調整は容易ではないだろう。 過 剰在庫 につ いては 、ガ ラスや アル ミニウ ムな ど旧来 型の 分野の ほ か、太陽電 池や風力発 電、エコカ ー、スマー トフォンな どの分 野 で もすでに生 産過剰が指 摘されてい る。また、 不動産分野 でも、 一 部 の 地 方 で 市 場 に 大 量 の 資 金 が 流 れ 込 ん で 住 宅 建 設 が 拡 大 す る な ど 、過剰住宅 の解消が課 題となって いる地域が ある。経済 政策が 不 動 産バブルの 抑制に軸足 を移すなか で、ここ数 年は不動産 価格抑 制 政 策が強化さ れてきた。 一方で、不 動産価格は 地方財政に とって は 貴 重な収入源 であるため 、一種の官 製バブル的 による価格 が上昇 す るという要因もある28。不動産市場の変動は金融機関の不良債権問題 に も直結する ため、バブ ルの抑制と ともに急激 な価格下落 を抑制 し ながら軟着陸させなければならない。 過 剰問題 の中 で特に 懸念 される のが 、過剰 債務 問題で ある ( 図 6 を参照)29。特に、地方政府と非金融企業の債務増が目立っている30。 地 方 政府 債務 に つい ては 、 その 深刻 さ に対 する 懸 念が 高ま り 、2011 年6 月及び 2013 年 8 月に中華人民共和国審計署(日本の会計検査院
28 いわゆる「土地財政」と呼ばれる仕組み。90 年代以降、地方政府が土地を利用して 収入を確保する動きが強まり、土地関連の税収や開発関連の収入に対する地方財政 の依存度が拡大した流れを指す。 29 関(2016)は、現状の不良債権問題を理解する前提なる中国の潜在不良債権比率や 不良債権の規模を、理論的に推計した研究的研究である。関辰一「中国で深刻化す る過剰債務問題-潜在不良債権比率と不良債権規模の推計-」『RIM 環太平洋ビジ ネス情報』Vol.16 No.62(日本総研、2016 年 8 月)。 30 地方政府の債務管理に関し、地方債務の規模や構造、リスク管理の方針については、 中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会予算工作委員会調研組(2016)が詳し い。中華人民共和國全國人民代表大會常務委員會予算工作委員會調研組「關於規范 地方政府 債務管理工作狀況的調研報告」中華人民共和國全國人民代表大會(2016 年)。
に 相当)が調 査結果を公 表したこと で注目を浴 びるように なった 。 2013 年 6 月末時点の政府債務残高の合計が GDP 比 50%程度に相当 する約 30 兆 2700 億元に達し、そのうち地方政府の債務総額が 17.9 兆元(対 GDP 比約 32%)となり全体の約 60%を占めた。これは、 2010 年末の 10.8 兆元(同 27%)に比べて約 7 兆元の増加であった。 その後も地方政府債務は増加を続け、偶発債務も含めると2015 年末 時点の債務残高は24 兆元にまで拡大した31。 図6 中国の部門別債務残高 (注)単位:十億元
(出所)国際決済銀行(BIS)HP “Debt securities statistics”により作成。Bank for International Settlements, “Debt securities statistics,” http://stats.bis.org/statx/srs/table/c3?c=CN.
31 岡嵜久実子「中国の債務問題の現状と解決への取組み~『暗黙の保証』の世界から
脱却できるか~」キヤノングローバル戦略研究所リサーチノート(2017 年 8 月)、7 ページ。
そこで、地方財政の透明化や債務負担軽減を目的として2015 年 1 月 1 日から新予算法が施行され、省レベルにおいて自主起債が認め ら れるように なった。こ こでは、起 債が省レベ ル政府に限 定され 、 使 途も公共投 資と累積債 務の返済と されるなど 、厳しい管 理の下 で 実 施されるこ とになった 。また、借 り換え債の 発行も同時 に認め ら れ 、これによ って債務の 繰り延べが 可能となり 、地方政府 にとっ て 利 払いの負担 が軽減され ることにな った。さら に、地方政 府性基 金 ( 日本の特別 会計に相当 )のうち、 収益性のあ る公共事業 に限定 さ れた専項債32による資金調達も許可された。こうして地方政府の債券 発 行による資 金調達が制 度化された ことは、地 方財政の透 明化に よ る 実態の把握 や、地方政 府の負担軽 減によるリ スク低減と いう点 で は 一定程度の 効果は見込 まれる。し かしながら 、実際には 借換債 の 発 行が当初予 算より大き く拡大した り、公共投 資による景 気対策 と し て専項債の 発行が増加 するなど、 地方債発行 が拡大する 状況が 生 じ ている。こ うした手法 を続けるだ けでは、実 質的に問題 の先送 り と なる危険性 があり、逆 に地方政府 の債券発行 動機が急激 に高ま る ことで、地方財政のリスクを深刻化させることも懸念される。 これらの点に関しては、2018 年の政府活動報告の財政政策におい て 、積極財政 政策の方針 を維持しな がらも財政 の効率を高 めると し てこれまでよりも若干トーンダウンさせ、財政赤字の対GDP 比を 2.6 %に抑える(2017 年は 3%)とされた。しかしながら、財政収入に は 政府性基金 予算や予算 安定調節基 金等からの 繰り入れ資 金があ る こ とや、専項 債による資 金調達の拡 大によって 財政収入を 確保す る 動 きも同時に 進んでおり 、財政政策 が緊縮の方 向に転換さ れたわ け
32 収益の見込めるプロジェクトに対する資金調達に限定された地方債であり、一般会 計には繰り入れられず、政府性基金に算入される。
で はない。ま た、米国に よる貿易制 裁発動の影 響で景気減 速が加 速 す ることが懸 念されるな か、特に中 央政府が地 方政府の余 剰金を 利 用 した景気対 策を要求、 地方政府融 資プラット フォームの 資金需 要 に 対応するよ う金融機関 に要請する など、景気 対策が拡大 する傾 向 が 高 ま っ て い る 。 経 済 の 安 定 を 最 優 先 す る た め の 措 置 と も い え る が 、地方債発 行や減税の さらなる拡 大が続けば 、実質的な 財政圧 力 は 徐々に高ま ることにな る。やはり 根本的な改 革として、 中央と 地 方 のそれぞれ の支出責任 と財源を合 理化するこ とや財政移 転制度 の 拡 充など、す でに指摘さ れている課 題の解決が 急がれる。 また、 再 分 配機能向上 のための不 動産税導入 や個人所得 税制改革も 待った な し である。こ れらは従前 から幾度と なく重要課 題に挙げら れてい た が 、抜本的な 改革には至 っていない 。ある意味 で地方財政 制度の 整 備 を先送りし てきたこと のツケが表 面化してお り、限界を 迎えて い る とも言える 。ここでも 求められる のは実行力 と結果であ り、市 場 図7 部門別債務の対 GDP 比 (注)単位:%
(出所)国際決済銀行(BIS)HP “Debt securities statistics”により作成。http://stats.bis.org/ statx/srs/table/c3?c=CN.
経 済化の推進 を掲げる現 政権として 、政府が本 来やるべき 仕事と 市 場 に委ねる分 野の明確化 、そして政 府の役割と 規模に応じ た財政 制 度の整備が不可避である。 一方で、中国の非金融企業部門の負債比率は、2015 年以降には対 GDP 比で 160%を上回る極めて高い状況が続いている(図 7 を参照) 33。ここで特に問題となるのが、中国の非金融企業の多くが国有企業 や地方政府融資平台(以下、融資プラットフォーム)34を含む地方政 府 傘下の系列 企業である という実態 である。非 金融企業の 中にこ う し た企業や融 資プラット フォームが 多く含まれ ているため 、抱え る 債 務の多くが 実質的には 政府債務と なり、これ を加えれば 中国の 財 政赤字の規模は大きく拡大する35。他方で、実質的な政府の債務保証 を 頼りに企業 は債務を拡 大させ、資 金を供給す る金融機関 も安易 な 貸 し出しを増 やすなどの 構造的な問 題が債務問 題や不良債 権問題 を 深 刻化させる ことにつな がっている 。さらには 、シャドー バンキ ン グ を通じた銀 行理財商品 や信託融資 、委託融資 などによる 資金運 用 が拡大しており、さらにリスクが高まっている36。
33 過剰信用・過剰債務問題や企業債務については、清水(2018)で概説されている。 清水聡「中国における金融リスクの拡大と過剰信用・債務対策」(日本総研、2018 年 4 月)。 34 地方政府が財政資金や土地使用権などの形で出資し、主に資金調達や投資の窓口と して設立した組織(通常は法人)である。 35 債務膨張の構造と実態については、津上(2017)43 ページ~に詳述されている。津 上俊哉『「米中経済戦争」の内実を読み解く』(PHP 新書、2017 年 7 月)。 36 岡嵜久実子(2017)前掲、および関辰一(2018)前掲。中国の債務に関して、岡嵜 (2017)15 ページ~では政府や金融機関による不合理な「暗黙の保障」の問題点が 指摘されている。また関(2018)131 ページ~では、政府による債務保証や不透明な 補助金、元本が保証された社債(剛性兌付)などが市場の歪みを生じさせている点 が検証されている。いずれも、債務の構造や政府保証によるモラルハザードの拡大 などの問題点について詳細に分析されている。
以 上のよ うに 、鉄鋼 、石 炭等一 部の 素材部 門で 過剰生 産能 力の削 減 が進められ ているもの の、依然と して解消に は至ってお らず、 一 方 で、過剰債 務問題につ いては、政 府債務とと もに企業債 務の深 刻 化 が大きな懸 念材料とな っている。 過剰の解消 が進展しな ければ 、 景 気対策とし て地方政府 を中心に財 政政策に頼 る動きが強 まるこ と に なる。そし て、短期的 な景気刺激 策を優先し 過ぎて本質 的課題 で あ る構造改革 を先送りす ることにな る。実際に こうした動 きが生 じ 始 めており、 将来のリス クは深刻化 しつつある 。景気が底 割れし て か らでは手遅 れである。 今こそ、外 資の参入規 制緩和や投 資環境 の 改 善、知的財 産権の保護 強化、輸入 拡大など、 中国政府自 らがそ の 重 要性を主張 している改 革を着実に 実行してい くことが強 く求め ら れている37。 3 権力集中の功罪38 習近平主席 に絶大な権 力が集中し 、権威付け が確固たる ものと な っ た。このこ とは、政権 一期目から の腐敗撲滅 運動にも見 られる よ う に、スピー ド感があり 、徹底して 政策運営を 進める際に は有効 に 機 能する場合 がある。し かし一方で 、政策が硬 直的なる傾 向があ る こ とや反対意 見や他の見 解が取り上 げられ辛く なること、 調整役 が 不 在となって 政策効果が 効きすぎた り、副作用 が生じたり すると い
37 これらの諸点は、2018 年 4 月に海南島で開催された「ボアオ・アジアフォーラム」 における習近平総書記の演説で強調された点である。新華社(2018 年 4 月 11 日)の 報道による。「新華社評論員:中國開放的大門必將越開越大-二論習近平主席在博鰲亞 洲論壇 2018 年年會開幕式主旨演講」『新華網』http://www.xinhuanet.com/2018-04/11/ c_1122668746.htm。 38 権力集中がもたらす問題については、内藤(2018)を参照。内藤二郎「中国経済の 経済情勢と政策課題-第19 回党大会を踏まえて」『国際情勢』No.88(国際情勢研究 所、2018 年 3 月)。
うマイナスの面も懸念される。 加えて、3 月の全人代において党が政府を管理監督する仕組みが強 化 され、党、 および政府 の機構改革 が大幅に進 められたこ とで、 い わ ば国務院が 弱体化して 党と政府の 一体化が進 み、総理の 権限が 縮 小 することに なる。まさ に、国家の 運営におい ても習主席 の指導 、 政 策運営を徹 底させる狙 いが強く感 じられる。 しかしなが ら、こ の こ とが逆に実 際の政策運 営面におけ る不安材料 となる。例 えば、 日 本 では内閣人 事局が設置 されて各省 庁の事務次 官以下の幹 部職員 の 人 事権が官邸 に移行され 政治主導の 人事となっ たことで、 幹部の 姿 勢 が政権の意 向を過度に 意識したも のとなり、 その下で働 く公務 員 の 意識も官邸 の意向に従 うことにな ったという 批判がある 。その た め 、公務員が 国民や社会 のために働 くという本 来の姿を失 い、政 権 や 政治家を過 度に慮って 仕事をした り、創意工 夫よりも従 属的な 姿 勢 を強めたり 、管理強化 に対して逆 に不満を募 らせるなど 、様々 な 問 題点が指摘 されている 。過度な官 僚主導にも 大いに問題 があり 、 国 民によって 選ばれた政 治家が各省 庁のトップ として官僚 組織を 統 括 していくこ とが重要で あることは 言うまでも ない。しか し、過 度 に 政権に権力 が集中すれ ば、公務員 の政策立案 や執行能力 といっ た ブ レーンとし ての役割機 能が削がれ ることにも なる。また 、提案 や 意 見提示がな されない状 況が生じる ことも政権 にとって大 きなマ イ ナ スとなる。 これらの点 は、一党独 裁の中国で は更に深刻 な事態 を 招 く危険性が ある。仮に 権力集中に より表面的 な安定が保 たれた と し ても、政策 の立案から 運営におい て公務員の 本来の役割 が機能 し な くなる状況 になれば、 課題が山積 している経 済運営にも 少なか ら ず 悪影響を与 えることに なる。そう なれば、経 済面での政 策効果 が 極 端に強くな り過ぎたり 、失政につ ながること も考えられ 、実体 経 済 が底割れに 至る危険性 も否定でき ない。この 点は、中央 と地方 の
関 係において も懸念材料 である。こ れまで中国 では、中央 が決定 し た 政策や指導 に対して、 地方は必要 に応じて可 能な範囲で 拡大解 釈 し たり、自ら の事情に合 わせて一時 的に独自の 手法を用い るなど の ケ ースが少な くなかった 。一方、そ の影響が大 きなマイナ スとな ら な い限りにお いて、中央 もいわば黙 認する形で 地方の裁量 をある 程 度 認めてきた 。こうした 中央-地方 関係がむし ろ効率的に 機能し て き た面も軽視 できない。 ここへきて 権力が過度 に党中央に 集中し た こ とで、こう した地方の 自由度が大 幅に縮小さ れ、地方や 各部門 の 活 力を削ぐと 同時に、か えって政策 運営を非効 率なものに してし ま う 危険性があ る。権力集 中の裏に潜 むこうした 矛盾にも注 意が必 要 である。
五 おわりに
本 稿では 、中 国経済 の現 状と課 題を 整理し 、習 政権の 政策 の方向 に ついて考察 した。二期 目を迎えた 現政権の最 大のテーマ は、経 済 の 量的拡大か ら質的向上 への転換を 具体的成果 によって目 に見え る 形 にしていく という困難 な課題への 挑戦である 。そのため に、習 近 平 主席は自ら に様々な権 限、権力を 集中し、極 めて強い党 主導で 進 め ていくたこ とを決意し 、そのため の一応の体 制作りは整 った。 そ の ことによっ て、少なく とも表面的 には国内の 政治状況が 安定し 、 対 外的に強硬 的な政策を とる必要が ひとまずな くなった。 国際社 会 と の融和ムー ドを広げな がら対外経 済政策を拡 張しつつ、 国内経 済 の課題に取り組んでいく姿勢にも見える。 し かしな がら 、過剰 の解 消や国 有企 業改革 、格 差の是 正や イノベ ー ションの推 進など、舵 取りの難し い課題が山 積しており 、改革 は 容 易ではない 。その過程 で不可欠と なるのが、 市場経済化 の推進 で ある。改革開放40 年を迎え、市場システムに軸足を置いた改革が改めて強く求められることとなった。「資源配分において市場に決定的 な役割を担わせる」とした2013 年の第 18 期三中全会の決定や、2014 年 に習近平主 席自らが提 唱した「新 常態」への 移行など、 習政権 一 期 目 に 目 指 さ れ た 方 向 は 、 い ず れ も 市 場 経 済 化 の 強 力 な 推 進 で あ り 、見方を変 えれば「政 府の退出」 の加速を意 味するもの でもあ っ た。しかしながら、2017 年の党大会を前に盤石な権力基盤を築くこ と が優先され 、政府主導 の景気対策 が拡大して 市場経済化 に逆行 す る 動きが生じ た。そして 、二期目が スタートし た現在、経 済政策 の 立 案から運営 までを強力 な党主導で 行おうとす る体制にな ったこ と で、市場経済化から遠のく動きが生じ始めているようにも見える。 改 革開放 以前 とは国 際情 勢や経 済の 環境が 大き く異な って いるこ と も事実であ るが、だか らといって 、独裁的な 手法やハー ドパワ ー に よって経済 を発展させ 安定成長に 導くことに 限界がある ことは 、 す でに世界が 経験済みで ある。多く の課題の裏 で、ニュー ビジネ ス を 中心に新た な成長分野 も育ち始め ており、こ うした新た な発展 の 芽 を活かすた めにも、着 実に政府機 能を再編し 、市場を主 体とし た 経 済システム に転換して いかなけれ ばならない 。中国の抱 える課 題 の 解決には、 民間セクタ ーが活躍で きる環境を 整えること やソフ ト パ ワーの活用 が不可欠で あり、現在 の体制には 少なからず 不安が 残 る 。習近平政 権二期目の 経済のリス クは、強す ぎる政権が もたら す 市場経済化の停滞という皮肉な結果になることが懸念される。 (寄 稿 :2018 年 7 月 1 日、再審:2018 年 8 月 17 日、採用:2018 年 8 月 23 日)