5.1 パラメータの種類と設定の基本的な考え方
<考え方>
水理解析におけるパラメータとしては、各解析法に内在したパラメータと河道の粗度状況に 依存したパラメータが存在する。
前者は、準二次元流解析の境界混合係数、平面二次元流解析の渦動粘性係数等である。一方、
後者の粗度状況に依存したパラメータとは基本的に粗度係数を指す。
計算手法に内在したパラメータは、既往の知見から水理条件等に応じて設定されることが多 く、その設定方法を本章 第 4 節 計算手法の説明 に記載している。したがって、本節では粗度 係数の設定法について述べる。
なお、計算手法に内在したパラメータについては、実洪水の観測結果から逆算等によって検 証されることが少なからず行われてきたが、観測技術の進歩に伴ってデータの空間分解能や時 間分解能が向上してきたことも考慮して、今後とも積極的に検証を試みることが重要である。
5.2 粗度係数の設定
<考え方>
粗度係数の設定方法としては、逆算によって粗度係数を同定する方法、河道の粗度状況から 物理的に粗度係数を推定する方法の大きく分けて二つが存在する。
粗度係数の逆算による同定法とは、適切な平均流速公式を用いた洪水流の計算手法に実測の 河道形状、水位、流量あるいは流速を与えて、粗度係数を算定することである。逆算粗度係数 には、その洪水発生時の種々の情報が集約されており、実績と言う意味で重みがある。設定対 象とする粗度状況、河道形状、洪水規模が、粗度係数逆算対象のそれらと余り変わらない場合 には、妥当な設定を行うことができる。逆にそうでない場合、この設定が妥当ではなくなる可 能性がある。質が良く十分な数の粗度係数逆算が行われていることが前提となり、また、設定 結果の成否が洪水データの精度に依存する。
物理的な推定による方法とは、推定法の原理、特徴、適用範囲を理解した上で、対象となる 場の特性を踏まえた適切な推定法に基づき粗度係数を算定するものである。粗度状況による粗 度係数の推定は、一般性、応用性が高く、原理的には任意の断面形状、洪水規模及び粗度状況 に適用できる。したがって、任意の粗度状況、河道形状、洪水規模を想定した粗度係数設定を 行うことができる。その一方で、粗度係数の物理性が保たれるような平均流速公式の使用が前 提となる。また、粗度係数の推定精度や推定法の適用範囲に限界や不確定要素が残る。
粗度係数の設定に当たっては、逆算による同定法と粗度状況による推定法の弱点を補完する ように、両方の設定法を併用することが現実的な選択である。すなわち、河道の粗度状況から 物理的に粗度係数を設定し、その一方で、その設定により既往代表洪水の逆算粗度係数あるい は洪水位を再現できるかを確認し、必要に応じて、逆算粗度係数値を踏まえて粗度係数を修正 するというものである。あるいは、逆算粗度係数に基づき粗度係数を設定することを試み、そ の一方で、逆算対象の洪水規模・河道状況と粗度係数設定対象のそれらとの違いを踏まえ、物 理的な粗度係数推定法を加味して、最終的に粗度係数を設定するというものである。
なお、物理的な粗度係数推定法の適用が難しい河道については、粗度係数逆算結果を重視し た粗度係数設定を行うこととなる。この例として、岩河道、土丹が露出した河道などが挙げら れる。逆に、逆算のためのデータが存在しないまま設定せざるを得ない場合は、物理的な推定 法のみの適用や、それが難しい場合には、類似の河川の粗度係数を十分に吟味した上で適用す ることも現実的な選択肢となる。
粗度係数を支配する要因とその影響度が複雑で、精度の良い洪水観測が必ずしも容易でない 実河川を対象としていることから、適切な粗度係数設定を行った場合でも、種々の誤差、不明
確な要素を粗度係数から完全に除去することは困難と考えるべきであり、一般的には粗度係数 の有効数字は2桁が限度である。粗度係数の設定や設定した流れ場の解析結果の解釈と利用に おいては、粗度係数が含みうるこのような誤差、不確実性を十分考慮しなければならない。
<関連通知等>
1) 土木学会水理委員会:水理公式集[平成 11 年版],pp.87-92・p.117・pp.182-184・
pp.206-209,・pp.212-218,丸善,1999.
2) (財)国土技術研究センター:河道計画検討の手引き,pp.97-118,山海堂,2002.
3) (財)リバーフロント整備センター:河川における樹木管理の手引き,pp.98-103,
pp.118-120,山海堂,1999.
5.3 逆算による同定の方法
5.3.1 逆算に用いるデータセットの種類
<考え方>
粗度係数の逆算に用いるデータセットとして、以下の3種類を用いる。データセット1)、2)
は、第 2 章 水文・水理観測 第 1 節 総説 で述べたカテゴリー1.2による観測データ群であり、
3)はカテゴリー3.1の河川の流れの総合的把握のための観測データ群である。
1)時間的には疎であるが、空間的に密に計測された水位データ
代表的なデータとしては、第 2 章 水文・水理観測 第 3 節 水位観測 3.9 に示す洪水痕跡水位 が挙げられる。
2)空間的には疎であるが、時間的には密に計測された水位データ
代表的なデータとしては、第 2 章 水文・水理観測 第 3 節 水位観測 3.4 に示す水位観測所の 水位データが挙げられる。
3)時間的・空間的に密に計測された水位データ
代表的なデータとしては、第 2 章 水文・水理観測 第 7 節 河川の流れの総合的把握 に示す 水位時間変化の縦断方向多点観測結果が挙げられる。
5.3.2 データセットに応じた同定
<標 準>
1)共通事項
1断面内に複数の粗度係数(低水路と高水敷など)を設定する場合には、1回の逆算で1断 面内の全ての粗度係数を逆算することはできない。そのような場合には、次のように算定する のを標準とする。
種々の規模の洪水について逆算を行い、実測値に合う粗度係数の組合せを見いだす。たとえ ば、低水路満杯時の洪水で低水路粗度係数を逆算し、それよりも高い水位の洪水から高水敷上 の樹木や草本植物の粗度係数を求める。この場合は、洪水規模による粗度係数の変化、対象と した各洪水発生時の粗度状況の違いを無視できることが適用条件となる。
また、水位に対する影響が支配的でなく、粗度状況からの物理的推定の信頼性が比較的高い 粗度係数の値を逆算時に既知として与え、この条件に該当せず逆算する必要性が高い1つの粗 度係数だけを対象に逆算を行う。たとえば、高水敷の粗度係数値を植生地被からの推定により 与え、低水路粗度係数だけを逆算の対象とする場合等がこれに当たる。この場合は、既知とし て与える粗度係数値の誤差によって、逆算した粗度係数の精度が決まる。
2)データセット1を用いた同定法
この同定法では、河道の長い区間の平均的な粗度係数が得られる。「河道の長い区間」の一つ の目安としては河道特性が同一と見なせる単位であるセグメント区間が挙げられる。逆算にお いては、平均的な粗度係数を算定する本同定法が用いられることが多いが、これは対象区間の 平均的な粗度係数を設定することにより、河道計画の策定などに使用できる精度で水位計算を 行うことができるからである。
長い河道区間の平均的な粗度係数を逆算する場合、河道及び洪水流の特徴に応じて、本章 第 3 節 3.2 に述べたように不定流計算と不等流計算を使い分ける。なお、一次元・準二次元流解 析によって逆算する場合には、左右岸の痕跡水位の平均値と水位計算値を比較する。
3)データセット2を用いた同定法
この同定法では、水位観測所の水位データを用いるのが一般的であり、その場合、水位観測 所地点間の平均的な粗度係数が得られる。
河道の長い区間内に多地点の水位観測所が設置されている場合には、各観測所の最高水位に 対して、上記 2)で述べた痕跡水位に対する手法によって粗度係数の逆算を行う。
また、同一のセグメント区間内に近接した 2 地点で水位観測所等により水位データが得られ る場合には、等流計算又は不等流計算によって粗度係数を逆算できる。「近接した 2 地点」の一 つの目安としては 2 地点間の流量が同一と見なせることが挙げられる。この場合、最高水位の みならず水位の時間変化にも適用できるため、粗度係数の時間変化が把握できる。
この逆算において、大きな誤差をもたらす可能性が高いのは水面勾配である。水位測定精度
この逆算において、大きな誤差をもたらす可能性が高いのは水面勾配である。水位測定精度