五 「インド太平洋戦略」下の米中関係
六 北朝鮮問題の厳しい試練
2 期目のオバマ政権のアジア太平洋地域における最重要課題は、南 シ ナ海での米 中の対立で あった。一 方、トラン プ政権では 朝鮮半 島 問題が外交上、最も厳しい試練となっている。北朝鮮が2017 年 7 月 4 日と 28 日の 2 回にわたって大陸間弾道ミサイル・火星 12 の発射実 験を実施したことを受け、国連安全保障理事会は8 月 5 日、北朝鮮 への制裁強化の決議第2371 号(アメリカが起草)を全会一致で採択 し た。これに より、北朝 鮮からの石 炭、鉄・鉄 鉱石、海産 物の輸 入 が禁止された57。これに対し北朝鮮側は、我々の自主権の侵害であり、
全 面的に排撃 するとの政 府声明を発 表した。核 兵器を放棄 せず核 大 国 への道を歩 み続ける意 志をあらた めて世界に 示し、中距 離弾道 ミ サイル・火星12 型でアメリカ軍の基地があるグアム周辺を攻撃する 作戦計画を慎重に検討していると威嚇した58。9 月 3 日には 2006 年
China,” November 9, 2017, https://www.whitehouse.gov/search/?s=remarks+president+
trump+business+event+president+xi+china+beijing+china.
55 U.S. White House, “Remarks by President Trump and President Xi in Joint Press Statement,”
November 9, 2017, https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president- trump-president-xi-china-joint-press-statement-beijing-china/.
56 同上。
57 United Nations Security Council, “Resolution 2371(S/RES/2371/2017),” August 5, 2017, http://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/2371%282017%29.
58 「北韓:4 彈飛越日本襲關島 月中完成計畫」『中央通訊社』2017 年 8 月 10 日、
10 月に初めて核実験を実施してから 6 度目となる核実験を強行した。
そ の数時間前 には、北朝 鮮の朝鮮中 央テレビで 、大陸間弾 道ミサ イ ル搭載用の水爆実験に完全に成功したと発表した59。国連安全保障理 事会は9 月 11 日、アメリカ、中国、ロシアの協議と譲歩を経て、北 朝鮮に対する追加制裁決議第2375 号を全会一致で採択した。同決議 に は北朝鮮へ の天然ガス 、原油、石 油精製品の 輸出制限や 北朝鮮 に よる繊維製品の輸出の禁止が新たに盛り込まれた60。
朝 鮮半島 情勢 に関し て、 トラン プ政 権は一 見強 硬派で 一切 妥協す る つもりはな いように見 えるが、公 正な目で見 ると、北朝 鮮に対 す る 中国の影響 力を重視し ている。こ れは北朝鮮 問題と米中 間の重 要 な二国間問題が連動している(取引される余地と可能性が存在する)
こ とを示唆し ているだけ ではなく、 トランプ氏 とオバマ氏 の対北 朝 鮮政 策における 違いが実に 微々たるも のであるこ とも示唆し ている 。 習 近平主席は かつて双暫 停(北朝鮮 の核・ミサ イル開発と 米韓の 大 規 模軍事演習 を同時に一 時停止する )という提 案をしたが 、アメ リ カ から肯定的 な反応はな かった。中 国の姿勢は 基本的には 変わっ て おらず、朝鮮半島情勢の緊張緩和に向け、朝鮮半島の非核化、政治・
外 交・対話を 通じた問題 の解決、六 者会合の再 開を主張し 、すべ て の 関係国に自 制を促して いる。暴走 する北朝鮮 は、中国に とって も も はやかつて の戦略的資 産ではなく 、戦略的負 担になって きてい る よ うだ。しか し、いくら 北朝鮮に対 する忍耐力 がなくなっ てきて い て も、アメリ カとその同 盟国が武力 干渉によっ て問題を解 決する こ
http://www.cna.com.tw/news/firstnews/201708100023-1.aspx。
59 季晶晶「北韓裝氫彈 嗆高空核爆」『聯合新聞網』2017 年 9 月 3 日、https://udn.com/
news/story/11267/2679793。
60 United Nations Security Council, “Resolution 2375(S/RES/2375/2017),” September 11, 2017, https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/2375%282017%29.
と にはやはり 反対である 。つまり、 非核化と朝 鮮半島の平 和と安 定 の 維持という 点では、米 中はある程 度認識が一 致し共通の 利益を 有 す るが、北朝 鮮の脅威を いかに効果 的に緩和し 、この政策 目標を 達 成するかについては、依然として異なる意見を持っている。
アメリカ大 統領選挙期 間中、北朝 鮮はトラン プ氏が最も 懸念す る 安 全保障上の 脅威であっ た。トラン プ氏は金正 恩政権を地 域の平 和 と 安全保障の 秩序を壊す 不安定化の 根源であり 、アメリカ の長期 的 な国益を脅かす存在と見なしていた。また、国際社会が何年もの間、
北 朝鮮をコン トロールす ることがで きなかった のは、中国 がかば っ て いたからで 、中国は大 国の責任を 果たす努力 をしておら ず、そ の 地 政学的な影 響力を十分 に発揮せず 、北朝鮮に 核放棄を迫 ってい な い と、北朝鮮 に対する甘 い対応を批 判した。ま た、長年に わたる 国 連 安保理の制 裁決議も厳 格に履行し ておらず、 金融、エネ ルギー 、 貿 易など、各 方面におけ る北朝鮮と の繋がりや 援助を中断 してい な いと批判していた61。しかし、トランプ大統領就任後は、米中は北朝 鮮問題について活発に意見交換をするようになった。4 月上旬にフロ リ ダ州パーム ビーチの別 荘で非公式 の首脳会談 を行う前は 、北朝 鮮 問 題と米中間 の経済・貿 易問題(貿 易不均衡や 人民元安) を結び つ け て中国当局 に圧力をか け、対北朝 鮮共同戦線 を張り、協 力して 金 正 恩政権に譲 歩を促すこ とを期待し ていた。ま た、中国が 朝鮮半 島 情 勢を転換さ せるつもり がなければ 、単独行動 も辞さない とも示 唆 していた62。フロリダの別荘での会談を終えた後の2017 年 4 月 12 日、
61 Stacey Yuan, “Trump Wants China to Fix North Korea, But It Isn't Going to Happen,” CNBC, August 30, 2017, https://www.cnbc.com/2017/08/30/trump-wants-china-to-fix-north-korea- but-it-isnt-going-to-happen.html.
62 Graham Allison, “High Stakes: Can Trump and Xi Avoid War and Strike A North Korea Deal?” Time, April 17, 2017, p. 9.
ト ランプ大統 領は再び習 主席と電話 会談を行っ た。電話で 米中二 国 間 およびアジ ア太平洋地 域問題につ いて話し合 ったが、そ の中で も や はり北朝鮮 の脅威をい かに抑える かが焦点に なった。そ の後も 、 金 正恩の度重 なる挑発行 為に対し、 両国は何度 も電話で最 新情勢 に つ いて話 し合 った。 ドイ ツのハ ンブ ルクで 開か れ た 20 カ国・地域
(G20)首脳会合の場でも、認識の一致を求め個別会談を持った63。 そして、前述したように、2017 年 11 月上旬にトランプ氏が中国を公 式訪問した際も、朝鮮半島情勢と北朝鮮問題が最大の焦点だった。
オバマ政権 時代の対北 朝鮮政策に おける基調 はいわゆる 「戦略 的 忍 耐」であっ た。北朝鮮 当局の瓦解 を急いで求 めず、硬軟 両様の 対 応 策をとり、 時間の経過 とともに金 体制が崩壊 していくこ とを最 終 目 標にしてい た。国際的 な制裁(安 保理決議と 各国の独自 制裁を 含 む )を通じて 金体制に圧 力を加える 一方で、北 朝鮮との対 話の門 は 閉 ざさず、か といって対 話も急いで はいなかっ た。北朝鮮 が非核 化 の 意思を示し 、かつ実際 に行動をと らない限り 、対話には 応じな い と強調していた64。他方で、トランプ政権の北朝鮮に対する姿勢は、
明 らかにオバ マ政権時代 より強硬に なっている 。金正恩政 権がア メ リ カとアジア 太平洋地域 の安全保障 に与える脅 威は決して 容認で き な いと幾度と なく表明し 、アメリカ は効果的か つ圧倒的な 対応措 置 を採り、金正恩の野望を打ち砕くと強調した。
63 張加「『川習二會』登場 聚焦北韓與貿易」『聯合新聞網』2017 年 7 月 8 日、
https://udn.com/news/story/6809/2572343。
64 David Nakamura and Anne Gearan, “Obama Warned Trump on North Korea. But Trump’s
‘Fire and Fury’ Strategy Wasn’t What Obama aides Expected.,” The Washington Post, August 9, 2017, https://www.washingtonpost.com/politics/obama-warned-trump-on-north-korea-but- trumps-fire-and-fury-strategy-wasnt-what-obama-aides-expected/2017/08/09/f3f02e0e-7d19-11e7-9d08-b79f191668ed_story.html?utm_term=.410689620234.
ただ、トランプ氏は現在、次の 2 つの困難な状況を抱えている。
第 1 に、アメリカの政策手段は一見、あらゆる手段が利用可能であ る ように見え るが、実際 には利用可 能な選択肢 は限られて いる。 外 交 や経済制裁 などの従来 の力の行使 以外では、 トランプ氏 と政府 高 官 が頻繁に言 及する軍事 計画は、非 常に複雑で リスクが高 い。北 の 核 施設を狙っ た外科手術 的のように きわめて正 確な攻撃に しろ、 北 朝 鮮指導部の 斬首作戦に しろ、一撃 で仕留めら れなければ 、朝鮮 半 島 の緊張状態 は一瞬にし て高まる。 さらには、 金正恩が一 か八か で 反撃に出て、全面衝突、戦争にまで発展する可能性が高い。たとえ、
ア メリカが金 正恩委員長 とその幹部 を根こそぎ 取り除くこ とに成 功 し たとしても 、北朝鮮は 収拾のつか ない激しい 混乱状態に 陥るだ ろ う 。したがっ て、軍事計 画の不確実 性は非常に 高い。それ に、ホ ワ イ トハウスも アメリカの 一方的な武 力行使に対 する中国と ロシア の 強 烈な反応と それに対す る措置を過 小評価する ことができ ない。 ど ん な軍事的選 択肢が採用 されても、 アメリカや その同盟国 の韓国 、 日 本を問わず 、軍事攻撃 によって引 き起こされ る莫大なコ スト圧 力 と 衝撃に耐え ることは困 難である。 これはどの アメリカ政 府であ っ て も(オバマ 政権もトラ ンプ政権も )回避する ことができ ない現 実 である。第2 に、北朝鮮のこれまでの記録を見返すと、基本的に「危 険 な情勢を作 り出す、協 議に応じる 、妥協・譲 歩する、見 返りを 手 に する、合意 を破る、再 び挑発行為 を行う」と いう循環パ ターン が 見 えてくる。 衝突の危険 を高め、核 で恐喝し、 戦争の瀬戸 際政策 を 繰 り返して、 交渉のテー ブルで自分 の利益を最 大限にしよ うとし て
ア メリカが金 正恩委員長 とその幹部 を根こそぎ 取り除くこ とに成 功 し たとしても 、北朝鮮は 収拾のつか ない激しい 混乱状態に 陥るだ ろ う 。したがっ て、軍事計 画の不確実 性は非常に 高い。それ に、ホ ワ イ トハウスも アメリカの 一方的な武 力行使に対 する中国と ロシア の 強 烈な反応と それに対す る措置を過 小評価する ことができ ない。 ど ん な軍事的選 択肢が採用 されても、 アメリカや その同盟国 の韓国 、 日 本を問わず 、軍事攻撃 によって引 き起こされ る莫大なコ スト圧 力 と 衝撃に耐え ることは困 難である。 これはどの アメリカ政 府であ っ て も(オバマ 政権もトラ ンプ政権も )回避する ことができ ない現 実 である。第2 に、北朝鮮のこれまでの記録を見返すと、基本的に「危 険 な情勢を作 り出す、協 議に応じる 、妥協・譲 歩する、見 返りを 手 に する、合意 を破る、再 び挑発行為 を行う」と いう循環パ ターン が 見 えてくる。 衝突の危険 を高め、核 で恐喝し、 戦争の瀬戸 際政策 を 繰 り返して、 交渉のテー ブルで自分 の利益を最 大限にしよ うとし て