本章では、実際の政治過程において各常務委員が分有する権力を 確認する。一般に権力は、権威と権限によって形成される。本章で は、各常務委員が担当する機関において有する権威と各機関の権限 の分析を通じて、各常務委員の権力を解明する。
1 各常務委員の経歴に由来する権威
ここでは、権力を形成する要素である権威に着目して、17 期の常 務委員が有する権威の高低を分析する。権威は、権限といった明文 化される法的根拠を有するものと、人格、「長幼の序」などの道徳倫 理を根拠とするものから形成されるが、権限については、下節で考 察するので、ここでは、「長幼の序」といった道徳倫理を根拠とする ものを考察の対象とする。人格については、各常務委員の人格を分 析することは極めて困難であるので、取り上げないこととする。な お、常務委員が担当しているポストの機関に由来する権威について は、本章第三節以下で考察する。
常務委員の間の「長幼の序」を規定する基準は、一般社会のよう に年齢ではない。党中央の幹部同士の間では、党中央幹部としての
34 中央政策研究室は、習近平が組長を務める党的建設工作領導小組の秘書組、つまり 事務局機能も担っている。
経歴の長短によって「長幼の序」が決まる。そしてこの経歴が長い 幹部ほど、権威が高くなると思料される35。16 期、17 期の両期を通 じて、常務委員会で経歴が最も長いのは、1992 年から 14 期、15 期 の 10 年間、常務委員を務めていた胡錦濤である。胡錦濤は 92 年か ら 2002 年までの 10 年間、常務委員として中央書記処常務書記と組 織人事部門主管、中央党的建設工作領導小組組長、中央党校校長を 担当した。そのほか、98 年から国家副主席、99 年から中央軍事委員 会副主席をそれぞれ担当している。2001 年からは、江沢民総書記の 代理としていくつかの党活動で重要報告を行っている。17 期の他の 常務委員8 名の常務委員に初めて就任した時期は、呉邦国、温家宝、
賈慶林、李長春の4 名が 16 期からであり、習近平、李克強、賀国強、
周永康の4 名は 17 期である。胡錦濤の常務委員の経歴は、他の常務 委員と比べて 10 年以上の先輩ということになる。胡錦濤について は、総書記というポストのほか、このような、他の常務委員と比較 にならない、14 期以来の常務委員としての経歴に因る権威が備わっ ていると思料される。江沢民は、2004 年 9 月 20 日、中央軍事委員会 拡大会議で、党中央軍事委員会主席に胡錦濤が就任したことを支持 する発言を行うとともに、その主な理由として、胡錦濤の常務委員 の担当の長さを指摘している36。
続いて他の常務委員について考察してみる。まず、16 期に常務委 員会入りした呉邦国、温家宝、賈慶林、李長春の4 名と、17 期に常 務委員会入りした習近平、李克強、賀国強、周永康 4 名の間には、
35 幹部としての経歴については、中国語では「資歴」(qualification)という。高新、『領 導中国的新人物』、(明鏡出版社、2003 年)、695-696 ページを参照。高新によれば、
このほか、実際の地位に基づいた「尊卑の序」もある。以前は、建国前の革命運動 への従事の早晩も、各幹部の権威の形成に大きな役割を占めた。
36 『人民日報』、2004 年 9 月 21 日。
常務委員会入りの早晩という経歴に基づく権威の高低差があると思 料される。そして、16 期で常務委員会入りした呉邦国、温家宝、賈 慶林、李長春の 4 名のうち、政治局委員の経歴については、一番長 いのは呉邦国である。呉邦国は1992 年 10 月の 14 期 1 中全会で政治 局委員になっている。温家宝は、14 期 1 中全会で政治局候補委員兼 中央書記処書記、97 年の 15 期 1 中全会で政治局委員兼中央書記処書 記に選ばれている。賈慶林と李長春は、15 期 1 中全会で政治局委員 になっている。つまり、呉邦国、温家宝と、賈慶林、李長春の間に は、やはり権威の明確な高低の差があるものと思料される。このこ とは、現在のポストからもうかがえる。呉邦国が常務委員長を務め る全人代は国家最高権力機関で、温家宝が総理を務める国務院は国 家の最高行政機関である。他方、賈慶林が主席を務める政協は、人 民団体にしかすぎず、李長春が組長を務める中央宣伝思想工作領導 小組は、党の一つの議事協調機関にすぎない。なお、呉邦国と温家 宝との間では、経歴に基づく権威の高低の差はそれほど大きくない が、賈慶林と李長春との間では、16 期以降、担当している現在の担 当ポストから、一定の差があるものと思料される。17 期に常務委員 会入りした、習近平、李克強、賀国強、周永康 4 名の序列は、現在 の担当ポストの重要度に基づいたものである37。
胡錦濤以外の各常務委員の権威の高低を考察する上では、上のよ うな経歴による「長幼の序」のほか、権力者との親疎の程度も影響 することが思料される。権力者と「親しい」人物は、その権威が向
37 また当該ポスト担当者が常務委員会入りした順序でもある。中央書記処常務書記、
国務院常務副総理は、1987 年 11 月の 13 期 1 中全会、中央規律検査委員会書記は、
1997 年 9 月の 15 期 1 中全会、中央政法委員会書記は 2002 年 11 月の 16 期 1 中全会 である。なお、政治局入りの順序は、賀国強、周永康が16 期 1 中全会、習近平、李 克強が17 期 1 中全会となる。
上する作用があると思料されるからである。この「親しさ」につい ては、関係者の主観的判断を基準とすることは不可能なので、両者 の業務上の補佐、被補佐関係の緊密さや長さを基準とする。まず、
常務委員の中で、総書記を務める胡錦濤との関係を考察する。17 期 の常務委員について、胡錦濤と業務上の補佐、被補佐関係など密接 な交流がある人物は、交流の長さの順序で、温家宝、呉邦国、賈慶 林、李長春、李克強、賀国強、周永康の 7 名となる。つまり、習近 平以外は、みな胡錦濤と業務上の交流がある。
まず、胡錦濤と温家宝の具体的接触は、1992 年春の第 14 回党大会 準備業務からであると思料される。92 年 10 月の 14 期 1 中全会では、
胡錦濤は中央書記処常務書記、温家宝は同書記に選ばれ、業務上の 補佐、被補佐の関係になり、10 年続いている。02 年からはともに常 務委員を務めている。胡錦濤は常務書記に就任した際、党中央での 勤務歴がなかったため、組織、人の名称と役割、業務のやり方など に知識がなかったところを、中央弁公庁主任を1985 年から 7 年間既 に務めていた温家宝が詳しく紹介、説明したとされる38。
胡錦濤と呉邦国は、92 年 10 月の 14 期 1 中全会で同時に政治局入 りしている。いわば「同期」として業務上の接触があったと思料さ れる。特に94 年 9 月の 14 期 4 中全会で呉邦国が中央書記処書記に 追加選出されてからは、02 年までの 8 年間、中央書記処常務書記で あった胡錦濤との業務上の補佐、被補佐関係にあった。02 年からは ともに常務委員を務めている。
賈慶林と李長春は、97 年 9 月の 15 期 1 中全会で同時に政治局入り している。それぞれ、北京市、広東省の党委員会書記であり、地方 のトップであった二人と、中央書記処常務書記であった胡錦濤との
38 宗海仁、『第四代』、(明鏡出版社、2002 年)、57-58 ページ。
間で、密接な交流はなかったようであるが、政治局会議などを通じ た接触はあった。なお、賈慶林は、2003 年 3 月以降、対台工作領導 小組の副組長となり、同組長である胡錦濤を補佐する地位にある。
また、賈慶林は03 年 3 月以降、政協主席として少数民族問題も担当 している。少数民族の多い貴州省やチベット自治区の党委員会書記 を務めた胡錦濤とは、業務上の相談をすることも少なくないと思料 される。
李 克 強 は 、1983 年 に 共 産 主 義 青 年 団 中 央 に 学 校 部 部 長 と し て 入 り、その後、85 年までの 2 年間、当時、共青団中央書記処書記、第 一書記であった胡錦濤の部下であった。李克強は、1998 年まで共青 団の中で、第一書記まで昇進していくが、92 年からは、党務担当の 政治局常務委員に就任した胡錦濤が所管として、共青団を担当する ようになり、二人は約6 年間、領導、被領導の関係であった。
賀国強と周永康はともに、2002 年 11 月の 16 期 1 中全会で、中央 書記処書記に就任し、総書記である胡錦濤とは、業務上、補佐、被 補佐の関係にあった。
本節の結論として、常務委員の中では、胡錦濤の権威が圧倒的に 高いことが指摘される。これは、現在のポストに加えて、常務委員 と し て の 経 歴 の 長 さ が そ の 理 由 と な る 。 そ の 他 の 常 務 委 員 の 中 で は、呉邦国、温家宝の二人が、政治局入りが早い、胡錦濤との業務 上の補佐、被補佐関係が長い、ということでその権威が高いことが 思料される。
2 各常務委員が分有する権力
2 各常務委員が分有する権力