第1章 先行研究の概観
4. 外国語としての日本語の習得研究
日本語学習者の誤用を対象とした研究は実に膨大な数にのぼる。
松田(2000;2004)と森山(2000;2005;2006)は、上述し たように認知の方法を日本語習得研究に応用した研究である。長 友(1998)は 1990 年以降の代表的と思われる 200 点あまりの 文献に基づき、さまざまな観点から日本語の習得研究の動向を探っ た。具体的な分類を見てみると、文字・表記、音声・音韻、文法、
談話、語用論、文化など言語の諸領域に関するものと、文化に関 する知識およびその運用能力としては、発話、聴解、作文、読解
など 4 技能に関するものが挙げられた。さらに、ストラテジー、
接触場面のインターアクション能力、自律能力という観点から学 習者言語に言及した。全体の特色としては、日本語の習得研究の 量的拡大に伴って、研究領域が拡大し、細分化したことが挙げら れる(長友 1998: 81)。
日本語研究を基盤とした誤用分析としては、森田(1985)、水 谷(1985)、佐治(1992)、野田・迫田・渋谷・小林(2001)な ど を 挙 げ る こ と が で き る。 ま た、 長 友・ 迫 田(1987;1988;
1989)、迫田(1998)は、日本語学習者の習得過程を解明するこ とを目的としている研究である。迫田(1998)では、日本語の中 間言語研究に関する先行研究をまとめたうえ、指示詞コ、ソ、ア の習得について研究した。そして、市川(1997;2000)は多国 籍の学習者による誤用例を集め、誤用例文辞典を編纂し、日本語 教育に貢献している。
外国語としての日本語の語彙研究に関する研究としては、谷口・
赤堀・任都・杉村(1994)、松本(1999a;1999b)、森(2003)、 陳毓敏(2004)、陳淑娟(2006)などが挙げられる。谷口・赤堀・
任都・杉村(1994)は認知的な観点から語彙の習得順序について 考察した。結果として、日本語の初級学習者は、まず自分の経験 を通して具体的な語彙を習得し、言語能力が上がるにつれ、概念 構造による語彙のネットワークを形成していくと結論付け、後の 語彙研究に影響している。
特定な文法項目に関する研究として、関口・堀・黄(2005)は副詞、
黄・関口(2005)は受身、やりもらい、動詞の自他および可能表現 に関する誤用分析である。黄・関口(2005)において、奥津(1984)、 佐治(1992)、明治書院企画編集部編(1997)を引用して、日本語 の授受表現が外国人にとって非常に困難であることを指摘している。
また、日本語学習者における「ている」の習得に関するこれまでの 研究としては、黒野(1995)、許夏珮(1997;2000)、何琳(1996)、 羅素娟(2002)などが挙げられる。
中国語に関する日本語の習得研究としては、中野、張、林(1997)、 佐 治・ 唐・ 張(1998)、 馮(1999)、 張(2001) な ど が あ る。 ま た、特に台湾人学習者に焦点を当てたものとしては、吉田(1999;
2000)の教科書や、坂江(2004)の参考書などがあり、日本語教育 に貢献しているが、学習者の誤用が示される場合、それはある一人 の学生の誤用例なのか、それとも、多くの学生が同じ間違いを犯し ているのかは、明らかにされていないなどの問題点がある。こうし た問題を解消するには、まず学習者による大量の作文をコーパスの 形にする必要がある。上述したように、学習者コーパス作成の試み はすでに始まっており、国立国語研究所による「作文対訳データベー ス」や、大曾らを中心とする「日本語学習者の作文コーパス:電子 化による共有資源化」などのコーパスがあるが、それらのコーパス 中には台湾人学習者のデータが少ないという我々にとっては重大な 不備がある。そこで、陳淑娟(2006)がLARP at SCU の十ヶ月に亘 る 4 人のデータを利用して、語彙習得について縦断分析を行ったこ とは、意義が大きいと言える。ただし、LARP at SCU は東呉大学の みを対象に調査したデータであり、台湾諸大学の日本語学習者に共 通する問題を代表しているかどうかについて現段階では確定するこ とが難しいため、さらなる研究が望まれる。本稿は少しでも台湾の 日本語教育に貢献できるよう、台湾の 13 の大学の学習者による作文 を集め、コーパス化するだけでなく、長期的なデータに基づく量的 な分析および認知的な観点による質的な分析を目指している。なお、
本稿の各章に関する先行研究には、該当の各章で改めて言及する。