(1) 河川における石積み構造物の歴史
わが国の河川工事において石積み構造物を用いる技術は古代までさかのぼるものと 推察されるが、本格的に河川に石積み構造物が用いられるようになったのは、全国各地 で河川改修が行われるようになった戦国時代以降とされる。
当初は、河川内にある玉石や近くの石切場から切り 出してきた石材が利用されていたが、舟運の発達によ り河川の上下流から石を集めることができるようにな り、大きな石材も利用されるようになった。また、城 下町では河川を城の外堀とするなどの河川改修が行わ れ、それに伴い河岸部が石積み護岸等として整備され ていった。
また、江戸期には石の大きさをある程度規格化した間知石が石積みに用いられるよう になり、明治期には間知石を6種類の大きさに区分し、利用する部分によって石の大き さを使い分けていた。(表-2-1 参照)
さらに、流水による護岸部からの吸い出し防止策として、裏込め材の背後に粘土層を 設ける等の工夫も行われていた。(図-2-3 参照)
写真-2-2 岩手県盛岡市・北上川の石積み
・幾度の水害に悩まされながら、1700 年代に北上川の瀬替 え部分を石積みにし、北上川の流路を安定させた
・石積みは年代によって様々な石積み(布積、谷積など)
で施工された
・写真は江戸期の石積み(低水部の護岸は近年のもの)
写真-2-3 鹿児島県・川内川
・1687 年に造られたと思われる長崎堤防
・石材の大きさは 40×30 ㎝程度
写真-2-1 山形県・最上川
・1600 年代に造られたと思われる直江堤な お え て い
・玉石(30~80 ㎝)を丁寧に積み上げている 現在も江戸期の石積みが残っているおおよその地点
図-2-1 盛岡城下と河川の付替え
(図:図説盛岡今と昔
盛岡市中央公民会館発行より)
明治期には、河川工事にレンガやコンクリートブロックが利用されるようになってい たが、明治期・大正期においては、セメントが高価であったことや、鉄道の発展により 石材輸送が容易になり、かつ、全国各地に石切場が設けられていたことなどから、土木 工事全般に石積み工事が数多く用いられていた。
石積み構造物が、コンクリートブロック積構造物に変わったのは、高度経済成長期に 入り多くの土木工事が進められる中、昭和 40 年に宅地造成等規制法に基づき、コンク リートブロック練積擁壁が、間知石練積擁壁と同等以上の効力があると認められたこと によると言われている。*7これにより、土木工事において本格的にコンクリートブロッ クが導入され、河川工事においても、コンクリートブロックによる護岸等が整備されて いった。一方、石積み工事はコスト面、職人不足などから次第にその工事量を減らして いった。
その後、平成 2 年からは多自然型川づくりとして自然環境や景観に配慮した河川工事 が実施されるようになり、また、平成 9 年の河川法改正により法の目的に環境が位置づ けられたこと等から、多孔質な空間(構造)を有し、河川景観に馴染みやすい石積み構 造物が見直されるようになってきた。
図-2-3、写真-2-4 明治 22(1889)年に完成した琵琶湖疎水・大津閘門(滋賀県)
・石積みの裏は、グリ石を詰めるとともに、その背後に石積みと粘土を配置し、閘門利用 による水位変動に対応する吸い出し防止の工夫がなされていたものと思われる
(図:京都府提供)
面 控胴差長 友面
甲種 2尺以上 4尺以上 6寸以上 5寸
60cm 120cm 18cm 15cm
乙種 1尺5寸以上 3尺以上 5~6寸以上 5寸
45cm 90cm 15~18cm 15cm
丙種 1尺5寸以上 2尺5寸以上 5寸以上 4寸
45cm 75cm 15cm 12cm
丁種 1尺2~3寸以上 2尺以上 4~5寸以上 3寸
36~39cm 60cm 12~15cm 9cm 戊種 1尺2~3寸以上 1尺7~8寸以上 3~4寸以上 3寸 36~39cm 81~84cm 9~12cm 9cm
巳種 1尺5寸以上 1尺5寸以上 3寸以上 2寸
45cm 45cm 9cm 6cm
仕上げ 合口切合
区分
表-2-1 明治 35 年の土木工事仕様にみる間知石の種類
粘土 グリ石
(表:明治 35 年土木工事仕様設計実例 共益商社蔵版より) 図-2-2 明治期の石積み護岸の断面図
・江戸~昭和初期までの空積は、表面の石の大きさは同程 度でも、下部ほど控えの長さが長い石を利用していた (図:明治 35 年土木工事仕様設計実例 共益商社蔵版より)
28
自然石, 1, 0.6%
笠石天
0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0%
景観形成
(3) 河川における石積み構造物の整備目的とその事例
河川における石積み構造物の整備目的は、大きく以下の3つに分類することができる。
これらの目的は単独で考えられる場合もあるが、一般的には組み合わせて考え、どの目 的を基本(中心)にして、どのような石積み構造物を整備していくのかを考える必要が ある。
①景観形成を目的とした石積み構造物
地域のアイデンティティーを高めるために、歴史的町並みなどを整備・復元すること が多くなってきている。この場合、河川構造物も歴史性を確保するために石積み構造物 等として保全・整備する場合が多い。
また、歴史的町並み整備でなくても、まちづくりにおいて、自然素材である石材を利 用して景観形成を実施していくことも考えられる。
写真-2-8 秋田県・横手川
・城の手前を流れる河川改修において歴史 的景観を確保するために石積護岸を整備
写真-2-9 岩手県・北上川
・城下町整備の一環として石積護岸を再整備
・周辺の護岸の積み方を参考に谷積としている
写真-2-10 三重県・銚子川
・現地にある玉石を利用し、周囲に溶け込む 景観を形成している
②生態系への配慮を目的とした石積み構造物
石積み構造物は、一般のコンクリートブロック等に比べ、目地部が多孔質な構造であ ることから、生物の生息環境として適している。そのため、多自然型川づくりにより石 積み構造物や石張り構造物が数多く整備されている。
写真-2-11 鹿児島県・泊野川
・水生生物や植物に配慮して多孔質な石積み護岸を整備
写真-2-14 広島県・芦田川
・水衝部において水勢に耐える構造で、かつ水辺植物の 生育が可能な多孔質な巨石空張の水制を設置
写真-2-12 北海道・網走川
・目地部に植物が生育している
写真-2-13 山口県・一の坂川
・ホタル生息のため、深目地を採用し多孔質空間を確保した事例
・深目地は、胴込めコンクリートが目地部分に出てこないように している
・30 年近く経過し、景観的にも趣のある空間となっている
③強度を確保するための石積み構造物
河川の護岸は、コンクリートが無い時代には、必要な強度を確保するために、石積み が整備されてきた。しかし、河川構造物にコンクリートを容易に用いることができるよ うになった現在では、強度確保のために石積み構造物を整備することは少なくなってき ている。しかし今でも、経済性や耐久性の面から石積みにより整備している場合がある。
特に上流域では、河川にある石材(玉石等)を利用することにより経済性を確保する とともに、コンクリートよりも摩耗強度が高い自然石を利用した石積み構造物を整備し ている例も多く、今後も石積み構造物による整備が考えられる。
写真-2-15 岩手県・荒谷川
・河道内転石を利用しコスト縮減を実施
写真-2-16 山梨県・塩川
・河川勾配1/120 の急流河川であり、洪水 時に流出した石等による護岸の摩耗対 策として石積みとしている
玉石の中央までの胴込コンクリート とすれは、目地にコンクリートが見 えない
しかし、玉石の安定に不安がある 玉石の安定を考えると上部まで 胴込コンクリートとなり、目地 のコンクリートが目立つ
写真-2-17 図-2-17 山梨県・塩川・玉石護岸の拡大写真
・玉石の安定確保のため上部まで胴込コンクリートを施工
・玉石が胴込めコンクリートの中に落ち込んで見えるが、玉石同士はかみ合っている