二字漢語サ変自他両用動詞の自他性に関する一考察
A Study in Intransitivity and Transitivity of
Sino-Japanese Two-Character
Sahen Verbs
Lee Wei-Huang
李偉煌
Department of Japanese Language and Literature
Providence University, Republic of China(Taiwan)
靜宜大學日本語文學系
107.05.11 到稿 107.06.15 通過刊登
《靜宜語文論叢》第十一卷第二期(107 年 6 月),109-125 頁 Providence Forum: Language and Humanities Vol.XI, No.2 ( June 2018 ), 109-125
二字漢語サ変自他両用動詞の自他性に関する一考察
李偉煌
要 旨
現代日本語の動詞には自他両用の二字漢語サ変動詞(以下、自他両用動詞と呼 ぶ)が多数存在している。自他両用とはいうものの、自動詞文または他動詞文の どちらかに構文制限が見られ、すべてが自他両用法とも自由に選択できるとは限 らない。 本稿では、まず漢語サ変自動詞・他動詞と比較しながら、受動化と使役化の操 作を通じて、自他両用動詞を、「自動性的な自他両用動詞」・「プロトタイプの自 他両用動詞」・「他動性的な自他両用動詞」の三タイプに分類してみる。次に、「プ ロトタイプの自他両用動詞」を中心に、動詞の自他性がそれぞれ漢語サ変自動詞 と他動詞へと連続的に分布される現象を考察するとともに、自他両用動詞におけ る自・他動詞文の選択には、「主語による目的語のコントロール性」・「事象構造 における視点の移動」といった構文的要素が機能していることが明らかになっ た。 キーワード:自他性の連続的分布・主語による目的語のコントロール性・事象構 造における視点の移動 李偉煌、静宜大学日本語文学科副教授A Study in Intransitivity and Transitivity of
Si-no-Japanese Two-Character
Sahen Verbs
Lee Wei-Huang
Abstract
There are a number of Sino-Japanese two-character Sahen verbs which can operate as both intransitive and transitive verbs in modern Japanese. Although those Sahen verbs have both of transitive and intransitive usages, they still have syntactic restrictions in constructions of intransitive sentences and transitive sentences.
In this paper, first of all, we shall divide two-character Sahen verbs which can operate as both intransitive and transitive verbs into three groups, “the intransitive verbs operating as both in/transitive verbs”, “the typical verbs operating as both in/transitive verbs”, “the transitive verbs operating as both in/transitive verbs ”, through a comparison of intransitive verbs and transitive verbs in Sahen verbs by passiveness and causativeness.
Furthermore, we shall study phenomena of in/transitivity which are distributed continuously with a focus on “the typical verbs operating as both in/transitive verbs”.
Then to elucidate the option of in/transitivity in Sino-Japanese two-character
Sahen verbs which can operate as both intransitive and transitive verbs are
affected by “object-control by subject” and “movement of the viewpoints in event structure”.
Key-words: in/transitivity which are distributed continuously, object-control by subject, movement of the viewpoints in event structure
淺論日語二字漢語サ行自他兩用動詞的自他性
李偉煌
摘
要
現代日語動詞中,存在為數極多的二字漢語サ行自他兩用動詞,此動詞有自動詞 及他動詞的兩種句法,但某些動詞仍會出現自動詞句或他動詞句的語法制約,並非 所有此類動詞皆能自由擁有自、他動詞句法。 本研究首先與漢語サ行自動詞及他動詞作比較,透過日語被動句與使役句的轉換 作業,將二字漢語サ行自他兩用動詞分成「自動性的自他兩用動詞」、「原型的自他 両用動詞」、「他動性的自他兩用動詞」三類型。其次,以「原型的自他兩用動詞」 為中心,考察二字漢語サ行自他兩用動詞之自、他動性,呈現各朝向漢語サ行自動 詞及他動詞延伸的「連續性分布」現象,觀察發現,二字漢語サ行自他兩用動詞在 選用自動詞句或他動詞句時,其背後乃依據「主語對補語的控制性」、「事件描述時 的視點移動」的兩種句法性要素而決定。 關鍵詞:自他性的連續性分布、主語對補語的控制性、事件描述時的視點移動 李偉煌,靜宜大學日本語文學系副教授二字漢語サ変自他両用動詞の自他性に関する一考察
一、はじめに
現代日本語の動詞には自他両用の二字漢語サ変動詞(以下、自他両用動詞と呼 ぶ)が多数存在している。自他両用とはいうものの、自動詞文または他動詞文の どちらかに構文制限が見られ、すべてが自他両用法とも自由に選択できるとは限 らない。 本稿では、まず漢語サ変自動詞・他動詞と比較しながら、受動化と使役化の操 作を通じて、自他両用動詞を、「自動性的な自他両用動詞」・「プロトタイプの自 他両用動詞」・「他動性的な自他両用動詞」の三タイプに分類してみる。次に、「プ ロトタイプの自他両用動詞」を中心に、動詞の自他性がそれぞれ漢語サ変自動詞 と他動詞へと連続的に分布される現象を考察するとともに、自他両用動詞におけ る自・他動詞文の選択には、「主語による目的語のコントロール性」・「事象構造 における視点の移動」といった構文的要素が機能していることが明らかになった。二、考察対象と分析方法
(一)、対象と用例
張志剛(2014)で挙げられている 268 語の自他両用動詞を考察対象とし、『現 代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)の少納言サイトを使って、用例を検 索する。たとえば、「~が移転し」と「~を移転し」という検索文字を入れて、 それぞれのヒット件数(自51 件・他 67 件)を調べる。そして、自・他動詞用法 の倍率を基準にし、自他両用動詞のタイプ分けを試みる。次に、BCCWJ から取 り入れた実例を考察の例文と書き換え、再度、BCCWJ かグーグルを用いて、考 察で使われる用例の自然さチェックを行う。(二)、分析方法
1、受動化と使役化日本語の動詞の自・他動性を明らかにするには、その動詞がどれほど受動態ま たは使役態の形式と対応できるかは、一つのパラメータになっていると言われ る。受動化と使役化による動詞の分類作業が有効であることについて、益岡 (1987)は次のように述べている。「統語的観点から見ると、受動態と使役態は それぞれ、部分的に自動詞形成と他動詞形成の機能を有する。...動詞の自他動性 を考察するには受動態接辞の「~される」と使役態接辞の「させる」を使用すれ ば、自動詞か他動詞かはすぐ区別することができる。」1 本稿では、楊卨郞(2007)で上げられた受動態と使役態による分類法を用いて、 自他両用動詞の「~する」形を受動態接辞「~される」(受動化)と使役態接辞 「~させる」(使役化)に変換させる際に、自・他動詞文の用法に制限が見られ るかどうかを確認するとともに、自他両用動詞のタイプ分けを試みる。
2、語彙概念構造(Lexical Conceptual Structure)
日本語の自動詞と他動詞を語彙概念構造の基本的意味タイプに当てはめると、 次の四つの動詞タイプと分けることができる。 自動詞: ・非対格自動詞=語彙概念構造の「状態動詞」・「到達動詞」 ・非能格自動詞=語彙概念構造の「活動動詞」(“ACT”のみの場合) 他動詞: ・状態変化他動詞=語彙概念構造の「達成動詞」 ・働きかけ他動詞=語彙概念構造の「活動動詞」(“ACT ON”のみの場合)2 3、事象(Event)構造における視点移動 英語は「スル型」言語で、常に動作の行為者から動作や作用の結果に視点を伸 ばしていく、いわゆる「結果重視」の傾向があるとよく言われる。 英語{スル型視点}
[x ACT ON y ] CAUSE [y [BECOME [y BE AT-z ] ] 行為者 ◎ ――――――――→ 結果 <視点> これに対して、「ナル型」言語 3と言われる日本語は、ナル[ BECOME ]という
1 益岡(1987)(P169-170)まとめたものである。 2 影山・由本(1997)よりまとめたものである。 3 池上(1981)では、日本語が「スル型」言語との研究はよく知られている。
視点が事象構造の中で、中間的なところに位置している。 日本語{ナル型視点}
[x ACT ON y ] CAUSE [y [BECOME [y BE AT-z ] ] 行為者 ←――――――――― 結果 ←―――――――――― ◎ ――――――――→ <視点> [ BECOME ]が中間に置かれることは、日本語の動詞は、結果状態のほうに視線 をのばすこともできるし、使役行為のほうに視線をおくこともできるという双方 向的な拡張が可能なことを示している。特に、自・他の変換には、数多くの自他 両用動詞が存在するのは、視点が中間的な位置にあるがゆえに、右にも左にも焦 点を絞りこめないという不徹底さが見られるからとも言われている。 本稿では、語彙概念構造の意味タイプと事象構造における視点移動の両理論 が、自他両用動詞の自他性を考察するにあたって、有効な分析方法であると位置 づけておきたい。
三、自他両用動詞のタイプ
(一)、自動性的な自他両用動詞
自他両用動詞には、他動詞文の用法に何らかの構文的制限や抵抗が見られる一 群の動詞が存在している。自他両用の用法があるものの、「~を~する」形式よ り「~が~する」のほうが用例や用法が多いのが特徴である。動詞の受動化に制 限が見られるため、自動詞的な意味がやや強く、使役化の操作を通じて、これら の動詞の他動的表現を補っている。次の例を参照されたい。 (1) 入居者の間にトラブルが発生している。 a. トラブルが発生する b.*トラブルが発生される c.?トラブルを発生する d. トラブルを発生させる (2) 先進諸国において景気回復に伴って食料消費が増加している。 a. 食料消費が増加する b.*食料消費が増加される c.?食料消費を増加する d. 食料消費を増加させる「発生する」「増加する」は、「トラブルが発生する」「消費が増加する」のよ うな自動詞文の用例が最もよく使われる。動詞の語彙的意味は、動作や作用の結 果状態を表し、構文的に見ても、動作主が主語に現れにくく、出来事名詞が主語 に現れる場合が多い。そのため、b の「*トラブルが発生される」「*食料消費が増 加される」のような受動化が非文になる。そして c の「?トラブルを発生する」 「?消費を増加する」の用法にも不自然さを感じさせられ、他動詞文の成立に制 限がある。三の(二)のプロトタイプの自他両用動詞に比べ、他動性が弱く、「ト ラブルを発生させる」「食料消費を増加させる」のような使役化を通じて、これ らの動詞の他動性的用法を補っている。このタイプの動詞を「自動性的な自他両 用動詞」と呼ぶことにする。
(二)、プロトタイプの自他両用動詞
自他両用動詞には、自動詞文または他動詞文の用法に何の構文的制限や抵抗も なく、自動詞と他動詞の用法が自由に成立する一群の動詞が存在している。「~ を~する」と「~が~する」の両形式とも成立可能であり、用例や用法もほぼ同 じ倍率となって、自他両用動詞のプロトタイプの語彙的役割を担っている。自動 詞文や他動詞文の両方とも成立できるだけでなく、受動化と使役化の両形式も問 題なく自由に選択されている。次の例を参照されたい。 (3) 貧富の格差が拡大した。 グローバリゼーションが貧富の格差を拡大した a. 貧富の格差が拡大する b. 貧富の格差が拡大される c. 貧富の格差を拡大する d. 貧富の格差を拡大させる (4) プロ野球選手の夢が実現した。 あの人はプロ野球選手の夢を実現した a. プロの夢が実現する b. プロの夢が実現される c. プロの夢を実現する d. プロの夢を実現させる 「拡大する」は「貧富の格差が拡大する」「貧富の格差を拡大する」、そして「実 現する」は「プロの夢が実現する」「プロの夢を実現する」のように、自・他動 詞文のどちらの用法も成立できる。これは、動詞の語彙的意味が動作や作用の結果状態を表すこともできるし、動作主による意図的な動作や作用を表すこともで きるからである。そのためか、b の「プロの夢が実現される」と c「プロの夢を 実現させる」の受動化と使役化のどちらでも非文にならない。三の(一)と(三) の両用動詞に比べ、自他動性がほぼ同じ程度であり、自他両用動詞の中心的な語 彙役割を果たしているため、このタイプの動詞を「プロトタイプの自他両用動詞」 と呼ぶことにする。
(三)、他動性的な自他両用動詞
三の(一)と違い、自動詞文の用法に何らかの構文的制限や抵抗が見られる一 群の自他両用動詞が存在している。自他両用の用法があるが、「~が~する」よ り「~を~する」形式のほうが用例や用法が多いのが特徴である。動詞の使役化 にも制限があるため、語彙の他動詞的な意味がやや強く、受動化の操作を通じて、 これらの動詞の自動性的用法を補っている。次の例を参照されたい。 (5) 担当者が会社に必要があるかを検討して採用を決定する。 a.?採用が決定する b. 採用が決定される c. 採用を決定する d.*採用を決定させる (6) 生物は有機物を分解して生命活動を営む。 a.?有機物が分解する b. 有機物が分解される c. 有機物を分解する d.*有機物を分解させる 「決定する」「分解する」は、「採用を決定する」「有機物を分解する」のよう な他動詞文の用例が最もよく使われる。動詞の語彙的意味が動作主による意図的 な動作や作用を表す場合が多く、出来事名詞に代わって、動作主が主語に現れや すい。そのため、d の「*採用を決定させる」「*有機物を分解させる」の使役化が 非文になる。また、a の「?採用が決定する」「?有機物が分解する」の用法に不 自然さを感じさせられ、自動詞文の成立にも制限が出る。三の(二)のプロトタ イプの自他両用動詞に比べ、自動性がやや弱く、「採用が決定される」「有機物が 分解される」の受動化の操作を通じて、自動性的用法を満たしている。このタイ プの動詞を「他動性的な自他両用動詞」と呼ぶことにする。 以上の考察を通して、自他両用の二字漢語サ変動詞には、自動性的な自他両用 動詞・プロトタイプの自他両用動詞・他動性的な自他両用動詞の三タイプが存在することが明らかになった。
四、自・他動性の連続的分布
三で取り上げた自他両用動詞のほか、和語動詞と同じように、漢語サ変動詞に も自動詞と他動詞が存在している。ここでは、これらの動詞と対照しながら自他 両用動詞における自・他動性の連続的分布を概観してみる。(一)、典型的漢語サ変自動詞
漢語サ変動詞の中には、自動詞文の用法しか成立しない自動詞が存在してい る。「~が~する」の構文的意味や用法しかないのが特徴である。受動化はもち ろんのこと、「~を~する」形式もほとんど現れない。自動詞のため、普通は使 役化の操作を通じて、これらの動詞の他動性的用法を補っている。次の例を参照 されたい。 (7) 子供が成長して自分の部屋が欲しいと言った。 a. 子供が成長する b.*子供が成長される c.*子供を成長する d. 子供を成長させる (8) 幕が上がり、廃墟のような町が出現した。 a. 廃墟のような町が出現する b.*廃墟のような町が出現される c.*廃墟のような町を出現する d. 廃墟のような町を出現させる 「成長する」「出現する」は、「子供が成長する」「廃墟のような町が出現する」 のような自動詞文の用法しか成立できない。動詞の構文的な意味も自然現象や主 体の自発的な動作や変化を表すものがほとんどである。そのため、b の「*子供が 成長される」「*廃墟のような町が出現される」の受動化、そして c の「?子供を成 長する」「?廃墟のような町を出現する」の他動詞用法が非文となる。三の(二) のプロトタイプの自他両用動詞に比べ、他動性がなく、他動詞文の用例もほとん ど見られない。d の「子供を成長させる」「廃墟のような町を出現させる」の使役 化の操作を通じて、これらの動詞の他動性的用法を満たしている。典型的な自動 詞の構文的意味役割を果たしているため、このタイプの動詞を「典型的漢語サ変自動詞」と呼ぶことにする。
(二)、典型的漢語サ変他動詞
四の(一)と同じように、他動詞文の用法しか成立しない他動詞も存在してい る。「~を~する」の構文的意味や用法しかないのが特徴である。使役化の操作 はもちろん、「~が~する」の自動詞構文もほとんど見られない。他動詞のため、 普通は受動化の操作によって、これらの動詞の自動性的用法が満たされている。 次の例を参照されたい。 (9) 人類が地球の自然や環境を破壊していく。 a.*環境が破壊する b. 環境が破壊される c. 環境を破壊する d.*環境を破壊させる (10) 科学者はサンプルを採取して実験を行う。 a.*サンプルが採取する b. サンプルが採取される c. サンプルを採取する d.*サンプルを採取させる 「破壊する」「採取する」は、「環境を破壊する」「サンプルを採取する」のよ うな他動詞文の用法しか成立できない。動詞の構文的意味も動作主による意図的 な動作や作用を表すものがほとんどであり、そのため、d の「*環境を破壊させる」 「*サンプルを採取させる」の使役化、そして a の「*環境が破壊する」「*サンプ ルが採取する」の自動詞用法も非文となる。三の(二)のプロトタイプの自他両 用動詞に比べ、自動性がなく、自動詞文の用例もほとんど見つからない。b の「環 境が破壊される」「サンプルが採取される」の受動化の操作によって、これらの 動詞の自動性的用法が補われている。典型的な他動詞の構文的意味役割を果たし ているため、このタイプの動詞を「典型的漢語サ変他動詞」と呼ぶことにする。(三)、語彙概念構造による構文的意味分析
ここでは、プロトタイプの自他両用動詞を中心として、自他両用動詞の自他性 に強弱が見られ、それぞれが典型的漢語サ変自動詞と他動詞へと発展し、連続的 な分布現象を成していることを明らかにしたい。 四の(一)の「子供が成長する」のような典型的漢語サ変自動詞の構文的意味 は、自然現象や主体の自発的な動作や変化を表すものが大半である。動作主による意志的な動作や作用がなく、他動性も見られない。動詞の項構造は「+外項{主 語}・-内項{目的語}」となり、語彙概念構造の意味タイプは非対格自動詞の「状 態動詞」である。 四の(二)の「サンプルを採取する」のような典型的漢語サ変他動詞の構文的 意味は、動作主による意図的な動作や作用を表すものが多く、動詞の他動性がも っとも強く現れている。そのため、動詞の項構造は「+外項{主語}、+内項{目 的語}」の内項が必須となり、語彙概念構造の意味タイプは働きかけ他動詞の「活 動動詞」となる。 一方、典型的漢語サ変自動詞と他動詞の間に存在している自他両用動詞は、プ ロトタイプの自他両用動詞を中心として、自動性的な自他両用動詞が典型的漢語 サ変自動詞へ、そして他動性的な自他両用動詞が典型的漢語サ変他動詞へと、動 詞の自他性がそれぞれ連続的な分布現象を成している傾向が見られる。 三の(一)の「食料消費が増加する」のような自動性的な自他両用動詞の構文 的意味は、主として主体の変化の結果状態を表すものであるが、「?食料消費を 増加する」のような他動詞文用法がまったく見られないとは言い切れない。プロ トタイプの自他両用動詞よりも、動詞の自動性が若干強く感じられる。動詞の項 構造は「-外項{主語}・+内項{目的語}」の外項が必須でないこととなり、語 彙概念構造の意味タイプは「+到達動詞・±達成動詞」の非対格自動詞の「到達 動詞」の意味がやや強くなる。 三の(二)の「プロの夢が実現する」と「プロの夢を実現する」のようなプロ トタイプの自他両用動詞の構文的意味は、主体の変化の結果状態を表すのと、動 作主による意図的な動作や作用を表すの両方とも成立可能である。自動性と他動 性の両方とも含まれているため、「プロの夢が実現する」のような自動詞文用法 の場合、項構造が「-外項{主語}・+内項{目的語}」となり、語彙概念構造の 意味タイプが非対格自動詞の「到達動詞」に属している。一方、「プロの夢を実 現する」のような他動詞文用法の場合、項構造は「+外項{主語}・+内項{目 的語}」となり、語彙概念構造の意味タイプは状態変化他動詞の「達成動詞」と なる。 三の(三)の「採用を決定する」のような他動性的な自他両用動詞の構文的意 味は、動作主による意図的な動作や作用を表す他動詞文用法が多く見られるもの の、「?採用が決定する」のような自動詞文用法も決して少なくない。これらの 動詞は、プロトタイプの自他両用動詞よりも、他動性が若干強く感じられる。そ のため、動詞の項構造は「-外項{主語}・+内項{目的語}」の外項が必ずしも
必須でないこととなり、語彙概念構造の意味タイプは「±達成動詞・+到達動詞」 の状態変化他動詞のやや強くなる「達成動詞」となろう。
(四)、自・他動性の連続的分布
上述したように、二字漢語サ変自他両用動詞は、「実現する」のようなプロト タイプの自他両用動詞を中心として、「増加する」のような自動性的な自他両用 動詞が典型的漢語サ変自動詞へと、そして「決定する」のような他動性的な自他 両用動詞が典型的漢語サ変他動詞の方向へと、動詞の自他動性が連続的な分布現 象を成している。次の表を参照されたい。 二字漢語サ変動詞 自・他動性の連続的分布 動詞 自動 詞文 受動化 他動詞 文 他動化 タイプ 概念構 造 自他性 成長 復帰 出現 崩壊 腐敗 〇 〇 〇 〇 〇 × × × × × × × × × × 〇 〇 〇 〇 〇 典型的 漢語サ 変自動 詞 状態動 詞 (+++)自 動性 発生 増加 乾燥 向上 終了 〇 〇 〇 〇 〇 × × × × × △ △ △ △ △ 〇 〇 〇 〇 〇 自動性 的な自 他両用 動詞 ↑ +到達 動詞 ↑ ±達成 動詞 ↑ (++) 自動性移転 拡大 実現 確立 継続 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 プロト タイプ の自他 両用動 詞 ↑ +到達 動詞 ↑ (+) 自動性 +達成 動詞 ↓ 他動性(+) ↓ 決定 分解 汚染 更新 開始 △ △ △ △ △ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 × × × × × 他動性 的な自 他両用 動詞 ±達成 動詞 ↓ +到達 動詞 ↓ 他動性 (++) ↓ 破壊 加工 研究 紹介 採取 × × × × × 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 × × × × × 典型的 漢語サ 変他動 詞 活動動 詞 “ACT ON”の み ↓ 他動性 (+++)
五、自他両用動詞の構文的要素
(一)、主語による目的語のコントロール性
影山(1993)は、「「怪我をした」「病気をした」の場合の<経験者>主語は単な る受身的な存在ではなく、自分の意思で病気や怪我の状態にならないようにコン トロールすることは可能である」と説明している4。ここでは、「主語による目的 語のコントロール性」が自他両用動詞における自他動詞文用法の選択に重要なの 要素となることとする。要するに、主語<動作主>が意図的に行う動作はもちろ ん、主語<経験者>が動作の意図性がなくても、目的語へのコントロール性があ れば、自他両用動詞における「~を~する」用法の成立が可能と考えたい。 三の(二)のプロトタイプの自他両用動詞では、「~が~する」の自動詞文の 形式になる場合、語彙概念構造の意味タイプが「-外項{主語}・+内項{目的 語}」・主体主語の非対格自動詞の「到達動詞」に属しているため、「主語による 目的語のコントロール性」が「-」となる。一方、「~を~する」の他動詞文の 場合、語彙概念構造の意味タイプが「+外項{主語}・+内項{目的語}」・経験 者主語の状態変化他動詞の「達成動詞」に属しているため、「主語による目的語 のコントロール性」が「+」となる。 三の(一)の自動性的な自他両用動詞は、動詞の項構造が「-外項{主語}・ +内項{目的語}」の外項が必須でないこととなり、語彙概念構造の意味タイプ も「+到達動詞・±達成動詞」の主体主語の非対格自動詞の「到達動詞」の意味 がやや強く、「主語による目的語のコントロール性」もプロトタイプの自他両用 動詞の自動詞文よりも低いものとなる。 三の(三)の他動性的な自他両用動詞は、動詞の項構造が「-外項{主語}・ +内項{目的語}」の外項が必ずしも必須でないこととなり、語彙概念構造の意 味タイプは「±達成動詞・+到達動詞」の主体主語の状態変化他動詞の「達成動 詞」の意味がやや強く、「主語による目的語のコントロール性」もプロトタイプ の自他両用動詞の他動詞文より高いものとされている。 このように、自他両用動詞における自他動詞文の選択には、「主語による目的 語のコントロール性」の有無(「+・-」)が重要な要素となっていることが分か る。
(二)、事象(Event)構造における視点の移動
日本語における動的事象の捉え方として、動詞の結果状態のほうに視線をのば すこともできるし、使役行為に視線をおくこともできるような双方向的な拡張が4 影山太郎(1993) p.283 より要約したものである。
可能である。常に[ BECOME ]という意味素性を中間に置いて動的事象を左右にと らえる、という日本語特有の事象(Event)構造における視点移動を、自他両用 動詞の構文的要素の分析に当てはめて考えると、三の(二)のプロトタイプの自 他両用動詞は、話し手が動詞の事象を結果状態のほうに視線をのばしていくと、 「~が~する」の自動詞文が選択され、そして話し手が使役行為のほうに視線を おくようになる場合、「~を~する」の他動詞文が選択されることになる。 三の(一)の自動性的な自他両用動詞は、話し手が結果状態のほうに視線をの ばすことの割合が高く、「~を~する」よりも「~が~する」の自動詞文がよく 現れる。これに対して、三の(三)の他動性的な自他両用動詞は、話し手が使役 行為のほうに視線を置くようになる場合が多く、「~が~する」に比べ「~を~ する」の他動詞文のほうがよく選択される。 このように、自他両用動詞における自・他動詞文の選択には、「事象(Event) 構造における視点移動」の捉え方が、重要な構文的要素となっていることが分か る。
六、残された課題
四の(四)の表で挙げられているように、二字漢語サ変自他両用動詞には、自 動性的な自他両用動詞・他動性的な自他両用動詞・そしてプロトタイプの自他両 用動詞の三タイプが存在し、各タイプの動詞の自他性も、プロトタイプの自他両 用動詞を中心に、典型的漢語サ変自動詞と典型的漢語サ変他動詞へと、連続的に 分布されている傾向が見られる。 構文的語彙概念に基づいて自他両用動詞のタイプ分けを試みたものの、タイプ 間の境界に線を引くことが難しく、曖昧であることも明らかである。たとえば、 プロトタイプの自他両用動詞の「実現する」と自動性的な自他両用動詞の「発生 する」の自動性に差があるのをすぐ判断できるが、タイプ分けの境にある「終了 する」と「移転する」の両動詞を、違った動詞のタイプに分類しようとする客観 的な基準や根拠が弱いのも明白なことである。 本稿では、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)の実例を基準に、動 詞のタイプ分けを行ってきたが、今後、五で挙げた二つの自他両用動詞の構文的 要素に基づき、張志剛(2014)でまとめられた 268 個の二字漢語サ変自他両用動 詞の主語と目的語の記述的分析を行い、自他両用動詞の自他性の連続的分布を判断できるバロメーターを明らかにしていきたい。いずれも今後の研究課題として おく。