4.1 総説
地すべりにより斜面やのり面に変状が確認された場合は、以下の対応を検討する。
①変状範囲と地すべり移動方向の確認
②移動量、変位量等の計測
③発生機構(素因・誘因)の推定
④移動土塊の挙動の予測
⑤拡大の可能性の検討
⑥影響範囲の推定
⑦危機管理基準値の設定
解説
ここでは、地すべりにより変状が発生した場合に、危機管理に役立つ技術を示す。
なお、危機管理は災害対策基本法、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進 に関する法律により、警戒、避難等がおこなわれる。
上記①~⑦は、対応項目をほぼ時系列で挙げているが、非常時には併行して対応がなされ る必要がある。
特に⑥、⑦は人命に関わる対応項目であることから、迅速かつ安全側の判断が必要。
また、現地での調査・応急対策の実施にあたっては、作業者の安全を確保した上で実施す る。
4.2 緊急時の調査 4.2.1 現地調査
現地調査により、「変状範囲の確認」、「移動量、変位量等の計測」を行う。
変状範囲の確認は、変状の認められる範囲よりも広い範囲で行うものとする。
移動量、変位量等の計測は、地盤伸縮計等により、滑動状況に応じた適切な測定間隔で行 うものとし、必要に応じ、変位量が大きくなった場合や危険度の高まりにより近づけなくな った場合を想定した計測手法を検討しておくものとする。
解説
1) 変状範囲の確認
斜面に変状が確認された場合には、第一に変状の生じている範囲と地すべりの移動方向を 確認する必要がある。これらの状況をもとに「③発生機構の推定」、「④移動土塊の挙動の予
調査時の着眼点は次のとおりである。
(1)地形
マクロな地形を概観し、既存の地すべり、崩壊地の分布状況を調査する。さらに、
ミクロに変状範囲の微地形を確認し、地すべり範囲の推定に役立てる。
予め地形図より周辺域の大地形等を把握しておくとともに、変状の生じた斜面の対 岸や上空等から斜面全体を遠望するとよい。
(2)地質、地質構造
地質図を入手するとともに、露頭より地質、地質構造を調査し、地すべり範囲、移 動土塊の性状等の推定に役立てる。
(3)構造物や斜面の変状の分布
構造物の変状は容易に発見可能であるが、斜面(地山)の変状は発見できない場合 もある。しかし、急激な移動の場合には、斜面(地山)にも何らかの変状が認められ ることが多いため、詳細な調査により変状範囲を明らかにし、地すべり範囲の推定に 役立てる。
一般に、崩壊の上部や側部斜面は不安定となっているため、詳細な調査が必要であ る。また、地すべりの活動に起因して末端部で崩壊した可能性もあるため、上部斜面 の地形との関連性を確認することも重要である。
(4)湧水
地すべり地では、しばしば豊富な湧水が認められる。すべり面が不透水層となって いる場合には、末端部のすべり面の露頭からの湧水がしばしば認められる。湧水位置 を調査することにより、地すべり範囲の推定に役立てる。
2) 移動量、変位量等の計測
地表面の変状が明瞭でない場合には、地盤伸縮計等を用いて引張り、圧縮の変位量を計測 することによって移動範囲を確認する必要がある。通常、地盤伸縮計は、引張亀裂をまたい で移動土塊側と不動地側にかけて設置される。しかし、頭部の変状範囲が認められない場合 や、移動範囲の拡大が懸念される場合には、上方斜面にまで地盤伸縮計を設置する必要があ る。このような場合図4-1に示すように、遷急線や遷緩線を目安とし、幾つかの地盤伸縮 計を連続して設置する。
崩壊斜面 Monitoring Technology2)」を開発、立ち入りが危険な斜面の挙動をより精度よく計測する方 法を考案した。
地盤に亀裂が発生した場合の簡易な計測手法として、応急的には、ぬき板による移動量(水 平、鉛直変位)の計測(図4-3)や亀裂等を挟んだピンの間隔の測定等も実施される。これ らは計測機器調達までの応急対応である場合や、多数地点のデータが必要な際に実施される ことが多い。その他、移動杭による計測(横断見通し測量、光波測距)により移動状況の把 握がなされることも多い。また、CCTV カメラ等によって、斜面や河川の状況を監視すること も有効である。
計測地点の選定にあたっては、的確に移動状況を把握できるよう検討する必要がある。ま た、地すべり範囲の把握、移動状況の把握という観点からは、できるだけ多くの計測データ を取得することが望ましい。なお、既に地盤伸縮計、孔内傾斜計、縦型伸縮計等の計測機器 が設置されている場合には、それらの機器に加えて、変状の拡大や新たな亀裂が発生した場 合には、計測機器を新設する。
図4-3 ぬき板による計測例1)
4.2.2 地すべり運動の予測
「地すべり発生機構(素因・誘因)を推定」し、「移動土塊の挙動の予測」を行うとともに、
「拡大の可能性の検討」、「影響範囲の推定」を行う。
解説
1) 発生機構(素因・誘因)の推定
地すべりの発生機構(素因・誘因)の推定は今後の地すべり運動の予測を行う上で極めて 重要である。斜面の地形、地質、地質構造等の素因を把握し、移動が拡大する可能性につい て検討を行うとともに、斜面が移動した誘因を推定して、警戒避難体制の整備や応急対策を 検討する。検討にあたっての着眼点は次のとおりである。
(1)地形
(2)地質、地質構造
り末端部の侵食、地震等の自然要因と切土、盛土、貯水池の建設等の人為的要因が考えられ る。応急対策工は、誘因となった要因を取り除くような工法が効果的であることから、誘因 の把握は極めて重要である。
2) 移動土塊の挙動の予測
地すべりの変状や地形状況等から、今後の移動土塊の挙動を予測する。
可塑性の大きい地盤ほど、亀裂発生から滑落までの時間が長い傾向にあり、また、すべり 面の形が弧状または舟底型で、末端隆起を伴う場合にも滑落しにくい傾向がある。その逆に、
すべり面が末端開放型のものや規模の小さいものは滑落しやすく、降雨も即効的に影響する 場合が多い。
地すべりの変状や地形状況等からみた将来の移動土塊の挙動には、一般に次の傾向が見ら れる。
(1)滑落した地すべりの場合
滑落した後の移動土塊の安定度は相対的に高い。
滑落崖の比高は大きくなりがちであるため、上方斜面が不安定化する恐れがある。
元地形
図4-41)
(2)末端部に隆起を伴う場合
すべり面が水平に近いか逆勾配になっていると推定される。移動量の増加ととも に移動土塊の末端部が抵抗体となるため、移動は収束に向かうことが多い。
・抵抗体の形成によって移動は 収束する傾向がある。
(3)末端部の勾配が緩い場合
(2)と同様の理由から、移動は収束に向かうことが多い。
・抵抗体の形成によって移動は 収束する傾向がある。
図4-61)
(4)末端部の勾配が急な場合
末端部の崩壊が継続し、移動に対する抵抗体が形成されにくいため、容易に停止 しない。
・末端部の崩壊が継続するため 容易に停止しない。
図4-71)
ただし、これらはいずれも、一般的な傾向を述べたものであり、個々の現場の特性に応じ て、慎重に判断する必要がある。特に地下水が豊富な場所では、土塊の土石流化の恐れもあ り、注意が必要である。
また、一般に滑落の直前には移動速度が急激に増加する傾向があるので、これを観測する ことによって事前に滑落時期を予測できる場合がある。斜面に異常が発見された場合には、
その引張亀裂の最上部のものについてその伸びを測定し、滑落時期を計算するか、警報器を 取付けて観測を行うとよい。
亀裂(引張亀裂)をまたいで地盤伸縮計を設置して移動速度を測定し、斜面の滑落時期を 予測する手法として、斉藤によるクリープ破壊予測法2)、福囿による移動速度の逆数による 予測法3)等が提案されている。地すべりが崩落した場合に社会的な影響の大きい地すべりに
地すべり頭部に設置された地盤伸縮計の観測結果を基に、滑落予測を行った事例について、
以下に紹介する。対象とした地すべりでは、5月頃から変位量の増加が認められ、相次ぐ台風 の襲来により、8月10日0時15分頃滑落が発生した。
図4-8~図4-10に、斉藤式、福囿式による滑落予測結果を示す。一般にはこれらの 8/6 12:00 8/7 0:00 8/7 12:00 8/8 0:00 8/8 12:00 8/9 0:00 8/9 12:00 8/10 0:00 8/10 12:00 8/11 0:00
1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10日
0
8/9 18:00 8/9 19:00 8/9 20:00 8/9 21:00 8/9 22:00 8/9 23:00 8/10 0:00 8/10 1:00 8/10 2:00 8/10 3:00 8/10 4:00 8/10 5:00
18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 0:00 8月9日
0
8/9 18:00 8/9 19:00 8/9 20:00 8/9 21:00 8/9 22:00 8/9 23:00 8/10 0:00 8/10 1:00 8/10 2:00 8/10 3:00 8/10 4:00 8/10 5:00
22:00 23:00 0:00
8月9日
【参考 各予測法の解説】
図4-12 斜面崩壊の実測結果2)
③3 次クリープ領域における予測方法
斉藤4)は三次クリープ領域における予測方法も提案している。
斉藤4)は三次クリープ領域における予測方法も提案している。