ISSN 0386-5878 土木研究所資料第 4077 号
土 木 研 究 所 資 料
地すべり防止技術指針及び同解説(提案)
平 成 19年9月
独立行 政法人 土木 研究所
土 砂 管 理 研 究 グ ル ー プ
土 木 研 究 所 資 料 第 4077号 2007 年 9 月
地すべり防止技術基準及び同解説(提案)
土砂管理研究グループ 地すべりチーム
要 旨
地すべり現象は、地形、地質、地質構造等、地すべりのおかれている環境によって挙動が 異なり、事態の進展に対する予測が難しい。このため、地すべり対策に際しては、地すべり の特徴を的確に把握し、臨機応変に効果的な対策を実施する必要がある。
地すべり災害を防止するためには、適切な調査、計画、設計、施工のほか、緊急時の調査 や工事実施後の点検・観測が必要となる。本資料は、地すべり防止計画を策定するに際して の標準的な手法と留意点を示すものである。
【 目 次 】
第 1 章 総説
1.1.指針の目的と内容 ・・・・・ 1
1.2.指針の適用 ・・・・・ 1
1.3.指針の構成 ・・・・・ 2
第 2 章 調査 2.1.総説 ・・・・・ 3
2.2.予備調査 ・・・・・ 4
2.2.1.予備調査の概要及び目的 ・・・・・ 4
2.2.2.文献調査 ・・・・・ 4
2.2.3.地形判読調査 ・・・・・ 5
2.3.概査 ・・・・・ 7
2.3.1.概査の概要及び目的 ・・・・・ 7
2.3.2.現地調査 ・・・・・ 7
2.4.精査 ・・・・・ 10
2.4.1.精査の概要及び目的 ・・・・・ 10
2.4.2.地形調査 ・・・・・ 12
2.4.3.地質調査 ・・・・・ 12
2.4.4.すべり面調査 ・・・・・ 17
2.4.5.地表変動調査 ・・・・・ 27
2.4.6.地下水調査 ・・・・・ 33
2.4.7.土質試験 ・・・・・ 43
2.5.解析 ・・・・・ 46
第 3 章 計画 3.1.地すべり防止計画 ・・・・・ 51
3.1.1.総説 ・・・・・ 51
3.1.2.保全対象の特定 ・・・・・ 51
3.1.3.計画安全率の設定 ・・・・・ 52
3.2.2.斜面安定解析 ・・・・・ 55
3.2.2.1.土質強度定数 ・・・・・ 56
3.2.2.2.間隙水圧 ・・・・・ 57
3.2.3.工法の選定 ・・・・・ 58
3.2.4.抑制工の計画 ・・・・・ 60
3.2.5.抑止工の計画 ・・・・・ 64
3.3.工事に際しての安全対策 ・・・・・ 65
第 4 章 緊急時の調査・危機管理基準 4.1.総説 ・・・・・ 67
4.2.緊急時の調査 ・・・・・ 67
4.2.1.現地調査 ・・・・・ 67
4.2.2.地すべり運動の予測 ・・・・・ 70
4.3.緊急時の管理基準値の設定 ・・・・・ 79
4.4.応急対策 ・・・・・ 83
第 5 章 設計 5.1.総説 ・・・・・ 87
5.2.抑制工の設計 ・・・・・ 87
5.2.1.地表水排除工 ・・・・・ 87
5.2.2.地下水排除工 ・・・・・ 91
5.2.3.排土工 ・・・・・101
5.2.4.押え盛土工 ・・・・・103
5.2.5.河川構造物による侵食防止工 ・・・・・104
5.3.抑止工の設計 ・・・・・105
5.3.1.杭工 ・・・・・105
5.3.2.シャフト工 ・・・・・110
5.3.3.アンカー工 ・・・・・112
第 6 章 工事実施後の地すべり斜面に対する点検・観測 6.1.総説 ・・・・・119
第 7 章 地すべり防止施設の機能維持
7.1.総説 ・・・・・121
7.2.点検 ・・・・・121
7.3.観測 ・・・・・122
7.4.付帯施設 ・・・・・122
7.5.資料・記録の保管 ・・・・・123
7.6.地すべり防止施設の機能低下判定 ・・・・・123
7.7.修繕等 ・・・・・124
巻末参考 1.地すべりの発生要因 ・・・・・129
1.1.地すべりの素因 ・・・・・129
1.2.地すべりの誘因 ・・・・・131
1.3.地すべり地形 ・・・・・132
1.4.すべり面形状 ・・・・・136
1.5.すべり面の構造 ・・・・・138
2.地すべり地の地下水 ・・・・・139
3.地すべりの分類 ・・・・・140
4.「RE・MO・TE2」について ・・・・・143
4.1.「RE・MO・TE2」の概要および目的 ・・・・・143
4.1.1.「RE・MO・TE2」の概要 ・・・・・143
4.1.2.「RE・MO・TE2」の目的 ・・・・・144
4.2.適用条件 ・・・・・145
4.2.1.対象斜面 ・・・・・145
4.2.2.計測地点 ・・・・・145
4.3.使用装置の構成 ・・・・・149
4.4.事前準備 ・・・・・158
4.5.計測方法 ・・・・・159
第1章 総説
1.1 指針の目的と内容
地すべり防止技術指針(以下、「本指針」)は、地すべり災害を防止するために、調査、
計画、緊急時の調査・危機管理、設計、工事実施後の地すべり斜面に対する点検・観測、
地すべり防止施設の機能維持を実施していく上の標準的な手法と留意点を示すものである。
なお、本指針における地すべりとは、土地の一部が地下水等に起因してすべる現象又は これに伴って移動する現象をいう。
本指針の内容は、技術水準の向上などに応じて随時改定を行うものである。
解説
地すべり現象は地形、地質、地質構造等の地すべりのおかれている環境によって異なる ことから、調査、計画等を実施するにあたっては、対象とする地すべりの特徴を的確に把 握し効果的な対策を実施することができるよう、ここに記述した内容を参考として検討を 行う必要がある。
すなわち、継続的な調査の結果、新たな情報が得られた場合には、調査、計画等の見直 しが必要になることもある。また、地すべりの運動状況の変化に応じて、追加の調査、計 画等が必要となる場合もある。断続的に地すべり運動が見られる斜面では、調査により得 られた情報をもとに迅速に解析を行いながら、適切な対策等を進めていくべきことを十分 に認識しておく必要がある。
1.2 指針の適用
地すべりは地中深いところで発生する自然現象であり、全てを予測することは困難であ るため、調査・計画・対策工事の実施にあたっては、地すべり現象に応じて対応すること が大切である。
このため、本指針を適用すれば不合理となる場合においては、適用しないことができる。
また、所期の目的を十分に達成する、より適切な手法が存在する場合は、その採用を妨 げるものではない。
1.3 指針の構成
本指針では、調査、計画、緊急時の調査・危機管理基準、工事実施後の地すべり斜面に 対する点検・観測、地すべり防止施設の機能維持の章立てにより、各段階での標準的な手 法と留意点を示した。
地すべり対策実施にあたっての限られた調査では地すべり運動とその特性を十分に把握 出来ていない可能性もあるという意識を常に持ちつつ、本指針を参考として調査から維持 管理までの地すべり対策事業の全体像を意識し、実務にあたる必要がある。
また、今まさに大きく滑動している、又はその恐れがある地すべりについては、応急緊 急的な調査・対策によって一定の安全性を確保した後に、通常の調査、計画に移ることと なるため、緊急時の調査として第4章を章立てている。
解説
本指針の構成は、図1-1に示すとおりである。
地すべり対策の調査から施工後の施設の機能維持に至る一連の内容を、第2章、第3章、
そして第5章から第7章に記載した。一方で、今まさに大きく滑動している地すべり、も しくはその恐れのある地すべりに対しては応急緊急的な対応が必要であり、第4章には緊 急時の調査並びに危機管理基準に関する事項を記載した。
地すべり対策のための調査は限られたものであるため、地すべりの運動と特性を全て把 握した上で対策を行うことは難しいのが現状である。そのため、施工中或いは施工後の観 測・監視により、追加の工事が必要となる場合もある。このような背景から、本指針の各 章は、第1章から第7章の一方的な流れではなく、必要に応じて地すべり運動の確認を行 いながら、必要に応じて前の章に立ち戻ることもある。
第2章 調査
2.1 総説
地すべり調査は、地すべり防止計画を策定することを目的に実施する。必要に応じて、予備調査、
概査及び精査に区分し、実施するものとする。
なお、地すべり防止計画は、地すべりによる災害から、国民の生命、財産及び公共施設等を守る ことを目的として作成するものであり、河川砂防技術基準における地すべり防止計画をいう。
解説
地すべり調査で実施される予備調査、概査、精査の概要とそれぞれの関係を図2-1に示す。こ れら調査結果をもとに解析を行う。
なお、緊急に対策工を施工する場合については、現地踏査によって地すべりの範囲や活動状況を 判断し、対策工事量を決定するために必要最小限のすべり面調査、地下水調査などを先行して実施 することもある。
また、集水井掘削中の壁面の状況や、地下水排除工からの排水状況など、施工中や施工後の対策 工から得られる情報も多く、対策工に緊急を要する場合や、地すべりの発生・運動機構の解明に長 期間を要する場合などでは、地すべり調査を兼ねた対策工事を実施することも有効である。
「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」に基づく基礎調査(以下、
基礎調査)は、広範囲を対象とし概ね 5 年毎に実施されるものであり、ここで述べている予備調査、
概査及び精査とは対象範囲、実施時期が異なる。しかしながら、基礎調査は、予備調査、概査、精 査と重複する部分もあることから、得られたデータは図2-1に示すように各調査の実施にあたっ て相互に活用を図る。
・調査対象箇所の抽出
・区域設定のための調査
・危害の恐れのある土地等の調査
・危害の恐れのある土地等の設定 基 礎 調 査
・地表変動調査 ・地下水調査 ・土質調査 ・物理検層等
精 査 ・地形図の作成 ・地質調査 ・すべり面調査 予備調査
・文献調査 ・地形判読調査
概 査 ・現地踏査 ・精査計画の立案
2.2 予備調査
2.2.1 予備調査の概要及び目的
予備調査は、広域における地すべり地の分布、地質、地下水状況等の概況を把握することを目的 に実施する。
予備調査は、文献調査および地形判読調査により行う。
2.2.2 文献調査
文献調査は、地すべり特性を把握することを目的に、対象地域の地形、地質、気象、過去の地す べり履歴および近傍の地すべりの発生に関する情報の収集を行う。
解説
地すべりは、特定の地形・地質の地域に多発しやすく、また、同様な地形・地質の地域では類似 した形態の地すべりが発生しやすい(巻末参考1.1参照)。したがって、文献調査で得られる地 形・地質、気象、過去の地すべり履歴及び近傍の地すべり発生等の情報は、その地域での地すべり の発生及び運動の特性を把握する上で重要な手がかりとなる。
文献調査においては、下記に示すような資料を入手し、その地域の地形・地質、近傍の地すべり の発生記録、発生時の気象状況等の情報を抽出する。
(1) 地形・地質等の地盤条件に関する資料 1) 地形図
2) 空中写真 3) 地質図
4) 地形分類図、土地条件図
5) その他(既存の土質、地質調査報告書など)
(2) 過去の災害履歴、近傍の地すべり発生に関する資料
1) 既存の工事誌、災害調査報告書、土質(地質)調査報告書 2) 学会等の研究論文、報告書
3) 集落分布、土地利用状況に関する資料 4) 地誌、新聞
5) その他(地元住民からの聞き取り)
(3) 気象に関する資料 1) 気象月報
2.2.3 地形判読調査
地形判読調査は、空中写真および地形図等を用いて、広域における地形・地質上の特徴を知るこ とを目的に、地すべり地形および地質構造上の特性について調査するものとする。
解説
地形図及び空中写真等を用いて図2-2に示すような地すべり地形(巻末参考1.3参照)や地 質構造上の弱線等を判読する。現地踏査では把握できない広域での地すべり地の分布を把握する上 で非常に有用な方法である。
図2-2 地すべり地形模式図2)
ただし、過去に移動を繰り返すことによって形成された地すべり地形は判読しやすい地形の一つ であるが、溶岩台地末端の火砕流堆積地や河岸段丘を地すべり地形と見誤る場合があるので、現地 踏査を実施して確認する必要がある。また、過去の移動量が少なく地形図上で判読し難い岩盤地す べりでも、地質構造上の弱線の存在から予知し得る場合等がある。
地形判読に用いる地形図は、国土地理院発行の 1/25,000 のものが全国整備されており、比較的 入手しやすい。また、最近では数値地図による3次元的な表現方法も容易にできるようになり、広 域的な概査に有効である。さらに、市町村においても 1/10,000 の地形図が整備されているところ があり、特に山地については森林基本図(1/5,000)なども作られている。
地すべり地形の抽出は、地質、地質構造に注意しながら実施される。次の地域では地すべりの発 生事例が多いことから、地形判読時に注意を要する。
4) 蛇紋岩
5) 温泉余土等の火山性変質岩に属する地区
(2) 地質構造(巻末参考1.1参照)
1) 破砕帯を伴う断層周辺の地区、地質構造線沿いの地区 2) 流れ盤斜面の地区
3) 新第三紀層の砂岩、泥岩などにおける褶曲の背斜軸、向斜軸周辺の地区 4) 火成岩と貫入岩の境界と周辺の地区
5) キャップロック(玄武岩、安山岩、火山砕屑物等)を持った地区
地形判読時には、次の地形に注意して抽出を行う。
(3) 地形
1) 侵食平坦面を下刻するV字谷斜面に属する地区 2) 崩壊による厚い堆積物が存在する地区や埋没谷地区
3) 山腹に小凹地があり、斜面下方でやや盛り上がっている地形や、河川等の押し出された地形、
もしくは上流の河川等が途絶える地形などの集水地形に属する地区
4) 地すべり発生の可能性が高い岩種の水衝部斜面、または水衝部が硬い岩の場合は、その両面 の斜面に属する地区
5) 河川の曲流部で、凸地に侵食が発生している地区。
6) 千枚田、棚田となっている地区
(4) 微地形
1) 等高線が乱れている。等高線間隔が上部で縮まり、中部で拡がり、末端部で再度縮まる。
2) 斜面上部で馬蹄形もしくは、四角等の滑落崖を呈し、中部は平坦な緩傾斜地となっている。
また、分離小丘が存在する場合もある。
3) 凹地、陥没地、亀裂等が存在する。また、山地や山頂には帯状の陥没があることもある。
4) 池、沼、湿地の規則的な配列がみられる。
5) 地すべり側面は、沢状、もしくは、亀裂となっている。
6) 地すべり背後の尾根は、陥没地形となっていることが多い。
7) 斜面の末端は急傾斜となり、隆起や押し出しが見られる地区 8) 道路、鉄道の曲がり、構造物の変位が見られる地区
9) 沢や河川の異常な曲がり。川幅が狭くなっている地区
2.3 概査
2.3.1 概査の概要及び目的
概査は、対策の緊急性を判断し、必要な場合には応急対策を策定する。また、精査を効率的に行 うための精査計画を立案することを目的に、地すべりの範囲や規模、移動状況を確認する。
概査は、現地踏査により行うことを基本とする。
2.3.2 現地踏査
現地踏査は、予備調査結果を踏まえて調査計画や応急対策計画の立案のために行うものであり、
地すべりの発生・運動機構とその影響について概略把握を行うものとする。
現地踏査は、特に、①地すべり範囲及び危険範囲の推定、②地質性状と地質構造、③微地形や大 地形による地質構造の推定、④地下水分布の推定、⑤運動形態の推定、⑥誘因の推定、⑦今後の地 すべり運動予測、⑧被害の予測に留意して行う。
解説
現地踏査時の留意点は次のとおりである。
(1) 地すべり範囲及び危険範囲の推定
地すべり地周辺の地形図を入手し、対岸の高所等からの遠望によって地すべり地及び周辺の 地形を観察する。これらの観察結果と地すべり地内に発生している亀裂、隆起等の徴候から、
地すべりの活動範囲、将来、活動の恐れがある地域、被害の及ぶ範囲、保全対象等を推定する。
(2) 地質調査(地質性状と地質構造)
地すべり土塊を構成している物質の種類、粒度、礫等の岩質・形状や粘土等の色調を調べる ことによって、その地すべりの新旧、運動特性の推定に役立てられる。また、基岩の岩質、地 すべり土塊の推定にも役立てられる。
周辺露頭の基盤の性状を調べることによって、基盤の一般的な層序、層位、走向及び傾斜を 推定して、その地質構造上の地すべりの特性を推定することも可能である。周辺部の地盤に断 層及び破砕帯等が存在する場合は、その分布を追跡してその地すべり地に関係しているか否か について検討することが重要である。
(3) 地形調査(微地形や大地形による地質構造の推定)
地形調査では、主として微地形や大地形を観察することによって地質構造の推定を行うとと もに地すべり地形(巻末参考1.3参照)を確認する。
(4) 地下水の分布の把握
地すべり地内外の池、沼、湿地及び湧水点について調査する。池、沼の場合は水位、湧水点 では湧水量がそれぞれ降雨とどのような関係を持っているかを調べることによって、その水が 浅い地下水に起因するものか、あるいは深い地下水に起因するものかを推定することができる。
地すべり発生当時の気象や運動形態等を検討して誘因(巻末参考1.2参照)を推定する。
次のようなものが誘因である場合が多いが、単一の誘因によるものではなく、複数の誘因に より発生することもあるため、慎重な検討が必要である。
1) 地すべり末端部の河川等による侵食 2) 長期間の降雨または融雪
3) 台風等の豪雨
4) 地すべり末端部の切土、地すべり頭部への盛土 5) 地表水、地下水処理の不備
6) 湛水(貯水池周辺の地すべりの場合)
a) 最初の湛水時(水位上昇時)
b) 水位の急激な下降時 7) 地震、火山活動
(7) 今後の地すべり運動予測
今後の運動について踏査のみで予測することはかなり困難であるが、一般的に岩盤・風化岩 地すべりで、ほぼ一様なすべり面勾配を持つ地すべりでは滑落の可能性が大きい。末端が河床 より高い位置にある場合は崩壊の危険性がより大きい。
(8) 地すべり運動の活発化に伴う被害区域と被災の予測
前項までの調査において地すべりの活動が活発化する可能性が高い場合には、その地すべり の被害区域を想定し、この区域に対して、必要な措置(警戒・避難体制の確立等)を早急に講 じる必要がある。被害区域は、地すべり周辺の地形をよく把握し、特に地すべりの上部斜面へ の拡大に注意する必要がある。舟底型地すべりや椅子型地すべりでは末端部で二次的な地すべ りが発生する可能性があり、この場合、土塊が薄く、地すべりの規模が小さい場合が多いため、
降雨等によって活動が活発化する可能性が高いことに留意する必要がある。
また、地すべり土塊が滑落した場合に土石流化する可能性の有無とその影響範囲、天然ダム の可能性の有無、天然ダムの決壊に伴う被害発生範囲の予測を行う必要がある(図2-3参照)。
図2-3 地すべり被害想定区域の範囲例3)
(9) 応急対策についての検討
現地踏査の結果、地すべりの発生機構、運動機構がほぼ推定され、その活発化や滑落が予測 される場合には、地すべりに対する監視体制や避難体制、応急対策を検討する必要がある。ま た、必要に応じて、リアルタイムで地すべりの挙動を監視できる計器の配置等の緊急調査計画 を立案する。
地すべりの発生機構(素因,誘因)及び運動機構(平面範囲、運動型、ブロック区分、移動 方向、移動速度等)の概要の推定には、巻末参考の表参-1が参考となる。
2.4 精査
2.4.1 精査の概要及び目的
精査は、予備調査、概査の結果を確認し、地すべりの発生・運動機構を解明するものとする。
精査は、目的に応じて、①地形調査、②地質調査、③すべり面調査、④地表変動調査、⑤地下水 調査、⑥土質試験等を行う。
解説
解析は通常、運動ブロック毎になされることから、精査計画を立案するためには、まず、地すべ り地域をいくつかの運動ブロックに分割し、調査測線を設定する必要がある。
精査時に、把握すべき内容と調査項目を表2-1に示す。表2-1に示した内容は、予備調査及 び概査の結果に基づいてあらかじめ推定し、必要性を十分検討した上で各調査を実施する。精査結 果は、地すべり機構解析の元になるデータであり、精査計画立案時点においてどのような解析を実 施するか十分に検討しておく必要がある。
表2-1は、標準的な調査項目、内容を示している。過去に調査が行われている場合や応急対策 の必要な場合等で調査項目は異なるため、地すべりの状況に応じて調査項目を検討する必要がある。
表2-1 把握すべき内容と精査項目
地
形
調
査 地
質
調
査 す べ り 面 調 査
地 表 変 動 調 査
地 下 水 調 査
土
質
試
験 環
境
調
査 地 形 ・ 地 質 等 に 基 づ く
地す べりの 型(表 参-1 参照)
② 地 質 構 造 上 の 弱 線 帯 ○ ○ 運 動 ブ ロ ッ ク の 分 割 と
各 運 動 ブ ロ ッ ク の 到 達 範 囲
④ 各 運 動 ブ ロ ッ ク の 運 動 状 況 ○ ○
⑤ 地 す べ り 土 塊 の 面 積 お よ び 量 ○ ○
⑥ す べ り 面 の 形 状 お よ び 位 置 ○ ○
⑦ 地 下 水 の 分 布 ・ 流 動 状 況 ○
把
握
す
べ
き
① ○
精査項目
○
③ ○ ○
1) 運動ブロックの分割
地すべり防止計画は、一体となって移動している運動ブロック毎に決定される。したがって、解 析は通常、運動ブロック毎になされる。精査計画を立案するためには、予備調査及び現地踏査の結 果に基づき、いくつかの運動ブロックに分割する必要がある。
運動ブロックの分割は、地形、地質、想定される被害等を考慮して決定する。ブロック分割は、
微地形と運動状況により行い、1つの頭部を含む斜面や引張亀裂に囲まれた斜面を1つの単位とする。
ここでいう運動ブロックの分割は、防止計画の策定に用いられるものである。細かく分割しすぎ ると防止計画立案の際の検討が困難なものになる恐れがあり、大局的にみてブロック分割をしたほ うが良い場合もある。また、運動ブロックは精査結果により見直しを行う必要がある。
2) 調査測線の設定
調査測線は、地質調査、地下水調査等の実施位置を決定する基本となる測線であり、地すべりブ ロック毎に設定される。地すべりの幅が広い場合には、調査測線を複数設定する場合がある。
亀
裂 亀
裂
亀 裂 地
す べ り 方向
主 測 線
主測
線 副
測 線
副 測 線 主
測 線
主測 線
運動ブロックが 1つの場合
運動ブロックが 2つの場合
地すべりの幅が 広い場合 図2-4 調査測線の設定1)
主測線は地すべり運動ブロックの地質、地質構造、地下水分布、地表変動及びすべり面等が具体 的に確認でき、対策の基本計画及び基本設計を行うのに適した位置及び方向に設定される。主測線 の断面は二次元の安定解析に用いられるものであり、調査測線は対策が過少にならないような位置 で運動方向にほぼ平行に設定する必要がある。その際、斜面上部と下部の運動方向が異なる場合は、
折線となることもある。
副測線は、特に地質構造及び地下水分布等の横断的もしくは平面的な状況を把握するため補助的 に調査する必要のある場合に設置する測線で、原則として主測線と平行に設定する。地すべりブロ ックの幅が100m程度にわたるような広域の場合は、主測線の両側に50m程度の間隔で副測線群の設 置を検討する。
2.4.2 地形調査
地形調査においては、地すべり対策の基礎資料となる地形図を作成するものとする。
地形図には、調査及び対策のために必要な事項を記入する。また。地形図の作成にあたっては、
地すべり運動ブロックの分割ができるような精度と範囲で作成する。さらに、必要に応じ、対象と する地すべり周辺の地形や過去の地すべり地も含めた広範囲な地形図を作成しておく。
解説
地形図には、調査及び対策のために必要な事物を記入し、地形的にも、地すべり運動ブロックの 分割ができるような精度と範囲で作成する。地形図の縮尺は、地すべりの長さが200m以下の場合は 1/500程度,200m以上の場合は,地すべり全体を示すものが1/1,000~1/3,000程度、部分を示すも のが1/500程度とする。特に面積の大きい場合は、上述より小縮尺で全域を作成した上で、対象とな る地すべりブロック及びその周縁部の範囲について地形図を作成する。図示すべき項目は、家屋、
道路、各種構造物、河川(小渓流を含む)、崩壊地、沼地、湧水地点、湿地、亀裂、滑落崖、水田、
畑などである。
対象とする地すべり周辺の地形や上部斜面の状況を把握するため、周辺部の過去の地すべり地も 含めた広範囲な地形図を作成しておくと良い。
作成された地形図は以後の地すべり対策の基本資料となり、調査計画から対策計画まで一貫して 利用されるため、その範囲・精度については慎重に決定する必要がある。また、空中写真等で作成 された地形図は正確な地形が現れない場合も多いことに留意する必要がある。近年ではレーザープ ロファイラーによる地形図作成が行われ、微地形が容易に判読できた事例もある。
2.4.3 地質調査
地質調査は、地質、土質、すべり面等の状況を把握することを目的に実施する。
地質調査はボーリング調査を基本とし、必要に応じて弾性波探査、電気探査、自然放射能探査等 を行う。
解説
地質調査においては、次の項目を明確にする必要がある。
(1) 地すべり変動に関係すると思われる脆弱な地層、すべり面の分布
(2) 主要な抵抗部となったり、地すべりの移動範囲を規制する抵抗部、支持力の大きな地層 また、地質調査では、主にボーリング調査が行われる。必要に応じて広域的な調査として弾性波 探査等が併用されることがある。さらに、地質調査の結果に基づき再度現地踏査を実施し、地すべ り地の地質構造や地質を確認することに加えてすべり面の深度・形状を推定することが必要である。
ることが必要である。
(1) すべり面調査(パイプ歪計・孔内傾斜計・縦型伸縮計による調査、孔壁の観察)
(2) 地下水調査(地下水位観測、地下水追跡、間隙水圧測定、地温測定、揚水試験、地下水検層、
その他の検層)
(1) ボーリング調査測線の配置と長さ
ボーリングは、地すべりの運動方向に設定した主測線に沿って、30~50m程度の間隔で、運動ブロ ック内で3本以上及びブロック外の上部斜面内に少なくとも1本以上の計4本以上行うことを原則と する。地すべりブロックの面積が小さな場合には、地すべり地の地質を把握するのに最適な位置に2 本以上配置する。また、副測線でも50~100m間隔程度で必要に応じて行う。さらに、基盤内に断層・
破砕帯が分布していたり、地質構造が複雑であったり、すべり面の形状が複雑な場合には、別途補 足のボーリングを行う必要がある。1本のボーリングの長さは、基盤を確認するのに十分な長さとす る。地すべりによっては、地すべり土塊内の岩塊を基盤と見誤る場合もあることから、少なくとも1 本は深い深度まで掘削する事が望ましい。
地すべりブロックの層厚が推定不可能な場合は、原則として 1 本当りの長さを地すべりブロック 幅の 1/3 程度と仮定し、掘進結果を参考にして長さを調整する。
図2-5には、複数のブロックからなる地すべりにおける測線及びボーリング配置の例を示して いるが、規模の小さな地すべりの場合、主測線のみにおいてボーリングを実施することが多い。ま た、規模の大きな地すべりの場合、精査は例えば1年間といった短期間で終わることは少なく、ボ ーリング調査結果をふまえて機構解析が行われ、精査計画を修正していく。したがって、必ずしも 当初計画どおりの位置でボーリングを実施しないこともある。ボーリング位置は断面図、横断図、
すべり面等高線、地下水位等高線等の作成に資するようにその配置を決定する必要がある。
(主)冠頂部のボーリング
(主)冠頂部のボーリング
一つの運動ブロック内 で3本以上
(副) (副)
(副)
50~100m
3 0 ~ 5 0 m
流向
図2-5 ブロック毎の測線沿いのボーリングの配置4)を一部修正
最終の孔内水位(図2-30参照)、コア採取率である。また、岩盤中における調査では、風化の 程度、亀裂の角度、層理面・片理面の角度、亀裂の量等の状況も観察し、その垂直的な分布につい ても記載する。地質、土質及びすべり面の観察は、経験豊富な技術者が行うものとする。すべり面 及び地すべり土塊の性状の記録としてコア写真(カラー)を撮影する。コア写真は、正常な色が出 るように 3 色または 5 色の標準色調板を貼布して撮影する。図2-6にボーリング柱状図の例を示 す。
ボーリング調査結果は、「地質調査資料整理要領(案)」5)により整理、データベース化される。
柱状図様式は「地すべり調査用ボーリング柱状図作成要領(案)」6)を参考に作成することができ る。
(3) ボーリング孔を利用した調査
ボーリング掘進中においては、ケーシング未挿入の孔壁(裸孔状態の区間)を利用する等により 表2-2に示す各種試験が行われる。
表2-2に示した試験は、地すべりの地盤特性の定量的な評価に用いられ、抑止工の設計、浸透 流解析、応力歪み解析(FEM等)にも役立てられる。
表2-2 ボーリング孔内で実施される試験7)を一部修正 動的現位置試験 標準貫入試験、大型貫入試験、(N ベーン試験)
孔底地盤を利用す
る現位置試験 静的現位置試験 深層載荷試験、ベーン試験、(孔内リングせん断試験)
静的現位置試験 孔内水平載荷試験、(自己推進型動的プレッシャメータ試験)
(孔内せん断試験、周面摩擦測定試験、孔内コーン貫入試験)
孔壁地盤を利用す る現位置試験
すべり面調査 パイプ歪計計測、孔内傾斜計計測、縦型伸縮計計測、多層移動 量計計測
その他の現位置試験 (地中応力測定試験、推進抵抗測定型サウンディング)
孔壁観察 孔内カメラ
速度検層 P 波検層、PS 検層 電気検層 比抵抗検層、自然電位検層
放射能検層 自然放射能検層、密度検層、中性子検層 物理検層
その他 孔径検層、温度検層、ジオトモグラフィ、孔曲がり測定 水位・水圧測定 孔内水位測定、間隙水圧測定
現場透水試験 オーガー法、チューブ法、ピエゾメータ法 揚水試験 単井法、観測井法
岩盤地下水試験 湧水圧試験(JFT)、ルジオンテスト 地下水調査
その他 地下水検層、水質調査、流向流速調査
2) 弾性波探査
弾性波探査は、弾性波が地層を伝播する速度を測定し、地層の分布特性を明らかにするものであ る。地すべり調査では、特に広大な地すべり地における地層の分布状況を推察する場合に有効であ る。ただし、弾性波探査は、地表から順に地層が硬くなることを前提にしており、地層間に挟まれ た軟弱層は把握できない。
弾性波探査の方法には次のものがある。
(1) 屈折法 (2) 浅層反射法 (3) 常時微動法
(3) 破砕程度が激しいほど、弾性波速度は遅くなる。
(4) 固結程度が低いほど、弾性波速度は遅くなる。
3) 自然放射能探査
地山を構成している岩石類には、ウランやトリチウム系統等の放射性元素が含まれていて、これ らは崩壊の過程で不活性気体のラドンやトロンが生成される。これらの不活性気体もまた放射性元 素であるが、地下の断層や亀裂帯を通過して地上に散逸する。これらの放出する放射性元素を地表 で計測し、その量が多い箇所は、地山内に断層や破砕帯が存在する可能性が高いと推察するもので ある。
4) 電気探査
電気探査には 2 つの方法があり、人為的に地盤に電流を流して地盤内の電気的特性の変化によっ て発生する電位の変化を計測する比抵抗法と、地盤内に発生している自然電位を計測する自然電位 法がある。
地すべり調査では、一般的に比抵抗法が用いられるが、地層の変化、あるいは同一地層において も、含水・非含水によって電気的特性が変化することから、電気探査結果からのみ地層の状態を知 ることは困難であり、ボーリング結果等と併用して電気探査結果を評価する必要がある。
2.4.4 すべり面調査
すべり面調査においては、すべり面の判定を行うものとする。
すべり面の判定は、ボーリング調査と機器(パイプ歪計、孔内傾斜計、縦型伸縮計、多層移動量 計、クリープウェル等)による計測等の結果を用いて総合的に行う。
解説
すべり面調査の方法には、ボーリング調査による方法に加えて、計測機器による方法がある。計 測機器による方法には、パイプ歪計、孔内傾斜計、縦型伸縮計、多層移動量計、クリープウェルに よる方法があり、すべり面の判定にあたっては地質調査による方法と計測機器による方法の結果を 用いて総合的に行う必要がある。なお、パイプ周囲の間詰めの不良により計測の精度を損なうこと が多いので、計測機器によるすべり面調査に用いるボーリング孔を地下水位観測孔として併用しな いことが望ましい。
1) ボーリング調査による判定
地質調査によるすべり面判定では、一般に以下の方法が行われている。
(1) ボーリング掘進中の判定
地すべり移動の活発な地域では、掘進中に孔曲りが発生し、掘進毎に同一深度で抵抗を感じ
ては、色調、亀裂の形状・量、風化状況、粘土層等について観察を行い、総合的にすべり面を 判定する。
すべり面付近は移動に伴って破砕されていることが多い。時には、鏡肌(スリッケンサイド)
や条痕、コアへの木片の混入が見られることもあり、このようなコアの状況に着目する必要が ある。
地すべり土塊の鉛直方向の構成を図2-7に模式的に示す。すべり面は粘土化し、透水性が 小さく、暗色を呈する一方、移動層は透水性が大きく褐色系の色調を呈することが多い。ただ し、地下水の分布状況、地すべり土塊内の位置(頭部、末端部等)によっても異なることに留 意する必要がある。
地表
地下
すべり面
(粘土薄層)
深度方向の 移動速度分布
亀裂
地下水位
基岩 運動
様式 色調 透水性 変質
剛 体
主 と し て 褐 色 系
大 酸
化
小
・ 難 透水 性
流体 暗色 還元
不動 原岩色 未変質
地すべり 土塊
図2-7 地すべり斜面の構成8)を一部修正
コアの観察によりすべり面を判定する際の留意点としては、次の項目が挙げられる9)。 1) 軟弱粘土層の存在
2) 崩積土の下面
3) 風化岩あるいは岩盤上部 4) 異種の岩石などの境界部
5) 岩盤中の軟弱挟み層あるいは破砕部の存在 6) 堆積岩中における堆積構造の乱れの存在 7) 地すべり規模、形態とすべり面深度の相関
また、ボーリング孔壁の観察結果(孔壁写真、展開図等)がある場合には、コアと同様の観
2) すべり面測桿による判定
ボーリング孔内に短いパイプを挿入しておき、一定期間後にこのパイプを引き上げると孔曲がり をした深度で止まる。さらに孔口より同種のパイプを下げるとこの位置で停止するのですべり面を 確認できる。
図2-8 すべり面測桿によるすべり面の判定8)を一部修正
3) パイプ歪計による判定
パイプ歪計によるすべり面の計測方法の特徴は、ボーリング孔全長にわたってその曲りを測定で きることであるが、その寿命は1~2年程度である。パイプ歪計は、普通1mの塩ビ管等のパイプ毎に 1対(2枚のストレインゲージ)ないし2対のゲージをパイプ外周の180度反対位置に貼り、ケージの 歪を計測するものである。ゲージの方向は、地すべり運動の方向に一致させるのが原則であるが、
運動方向が不明の場合は1個所につき直角に2方向に計4枚のゲージを貼布したものを用いる。
また、パイプ歪計をボーリング孔に設置するとき、孔壁とパイプの間の空隙はセメントミルク等
(最近はアクリル系の薬液による重合剤が効果をあげている)を用いて完全に充填することが必要 である。なお、ゲージの測定は原則として7日に1回とするが、地すべりの動きにより測定間隔を縮 めたり延ばしたりしてもよい。
解析に用いる測定値は、パイプ歪計設置後1週間後のものから利用することを原則とする。計測の 結果は、変動累積図に整理し、表2-3に示す判定基準等によってすべり面と判断する。ただし、
測定値の変動が顕著であっても、累積傾向のないものはすべり面と判定できない。逆に、ひずみ量 が小さく変動cであっても、累積性のある深度はすべり面の可能性が高く、継続観測が必要である。
ワイヤ
地表
測桿
ボーリング孔 すべり面
表2-3 パイプ歪計観測結果による地すべり判定基準2)を一部修正
変動形態 総合判定
変動種別
累積変動値
(μ/月) 累積傾向 変動状態
すべり面存在 の地形・地質
的可能性 変動判定 滑動性ほか
変 動
A 5,000 以上 顕 著 累積 あ り 確 定
顕著に活動して いる岩盤~崩積 土すべり
〃 B 1,000 以上 やや顕著 累積 あ り 準 確 定
緩慢に活動して いるクリープ型 地すべり
〃 C 100 以上 ややあり
累 積 断 続 攪 乱 回 帰
あ り 潜 在
すべり面存在有 無を断定できな いため、継続観 測が必要
〃 D 1,000 以上
(短期間)
な し
断 続 攪 乱 回 帰
な し
異 常
すべり面なし 地すべり以外の 要因
2000μstrain
W-1
5
10
15
20 23 0
10 月
11 月
11 月
11 月
11 月
11 月
深度(m)
-1000 -3000
-5000
深度別歪量(μ) 11m
11m (- +)
基準:谷側ゲージ(縮み- 伸び+)
BV-1
4) 孔内傾斜計による判定
孔内傾斜計は、ボーリング孔内に傾斜計測用のガイドパイプを挿入・設置し、ガイドに沿って傾 斜計を挿入して上下に移動させ、ガイドパイプの傾斜角を測定する方法である。孔曲りが激しくな ると計器を挿入できなくなることが欠点であるが、ほぼ連続的にボーリング孔の曲がりによる形状 の変化を追跡することが可能である。図2-10に挿入型孔内傾斜計の概要を、図2-11に計測 結果の表示例を示す。
図2-10 挿入型孔内傾斜計の概要図10)に加筆
F1(Y方向) 20mm
深度(m)
10 20 0
60 50 40 30
深度別 変動量 (mm)
20 10 0
37m
37m
0 125 250 375 500
日雨量 (mm) 20
24 28
32 地下水位 (m)
地下水位( F-2)
BV-2(X方向)
位(GL-m)
(- +)
測定結果は、孔底からの傾斜量の積分で表現され、その曲りが著しくかつ歪が累積する位置をす べり面と判定する。計測に当たっては、センサ部が温度による影響を受ける恐れがあるので、温度 変化の少ない地中内部にセンサ部を一定時間保持した後に計測を行う必要がある。
孔内傾斜計は、孔内のすべり面深度に孔内傾斜計を固定し、傾斜や変形を測定する設置型のタイ プも用いられている。図2-12にその設置の概要を示す。
図2-12 設置型孔内傾斜計の設置全体図10)を一部修正
5) 縦型伸縮計による判定
本方法は、基本的には地すべり移動量の測定に用いられる地盤伸縮計をボーリング孔内に鉛直方 向に 1 本もしくは複数設置したものであり、すべり面をはさむ上下の層の変位を直接測定するもの である。ボーリング孔底にワイヤの先端部を固定し、それを地上に導いて、このワイヤの伸縮量を 地上で測定する。地すべり頭部においては沈下のため圧縮傾向を示すことがある。図2-13にそ の概要を示す。また、積雪により地表変動調査が困難な場合は、地盤伸縮計の代用とすることがあ る。
(a)すべり面のずれ量とワイヤの引き込み量 (b)初期無感帯 計測ワイヤ
すべり面
ワイヤ 固定点 移動層
基盤岩
≒ ≒
(a)すべり面のずれ量とワイヤの引き込み量 (b)初期無感帯
図2-13 縦型伸縮計の概要図10)
6) 多層移動量計による判定
多層移動量計によるすべり面の計測方法は、すべり面深度が不明な場合、多くのすべり面が存在 する場合、大変位を示す場合等に用いられる。この手法は、地すべり土塊内に鉛直に設置された塩 ビ管内の任意の複数深度にワイヤを固定して、地上部へと導かれたワイヤの伸縮量を計測するもの である。地上部はおよそ高さ 1.0m、幅 0.5m、長さ 0.5mの大きさの測定台に、滑車ごとステンレ スのメジャーが設置されている。各深度から導かれたワイヤはこの測定台を通過し、重りあるいは バネによって一定の荷重で引っ張られており、各深度のワイヤの伸びが直接測定できるようになっ ている(図2-14)。測定結果は、横軸に日付を記載し、縦軸に深度ごとの累積伸縮量が記録され た時間累積図が作成され、すべり面の位置判定がなされる。
図2-15にその地上計測部の構造を示す。
図2-14 多層移動量計の概要図11)
測定架台
ワイヤリール
φ1m ステンレス ワイヤ
G.L
ボーリング孔
ブーリ
ワイヤ誘導板
ブーリスケール台 ワイヤ ワイヤクリップ
(スケール指示用)
錘 ブーリ台 スチールスケール(L=30cm)
上面部
地下埋設部
側面部
図2-15 多層移動量計計測部11)
7) クリープウェルによる判定
地すべり地において、基盤岩までライナープレート製の井戸を掘り、施工後、鉛直方向のボルト 締めを解放すると、井戸は高さ 10~50cm ごとのライナープレートのリングで積み重ねられた形にな る。このライナープレート中にすべり面が存在する場合、ある深度でリングのズレが生じ、すべり 面深度及び移動量を特定することができる。クリープウェルを用いた場合、すべり面の観察や土質 試験に用いる不攪乱試料の採取が可能となる。図2-16にその概要を示す。
クリープウェルを設置する際には、掘削面(壁面)の観察を行い、写真と展開図で記録しておく とともに、必要に応じて、土質試験に用いる試料採取を行う。クリープウェルを活用して、揚水試 験等の地下水調査を行うことも有効である。
クリープウェルの直径は、坑内作業の安全性を考慮して、集水井と同等とする。
また、一連の調査実施後に、クリープウェルを地下水排除工として活用することも有効である。
図2-16 クリープウェルの概要図10)
8) 計測機器類の特徴
これまで紹介した計測機器の性能を表2-4に示す。すべり面調査においては、すべり面の位置
(深度)及び変位量の把握がなされる。「すべり面の位置(深度)、測定間隔」欄には、計測間隔 の最小値を記載した。「測定範囲」欄には実際に測定可能な深度の最大値を記載した。また、すべ り面における変位量は、精度と最大の測定範囲を示した。いずれも標準的な値であり、製品によっ て異なる。現地への機器の設置にあたっては、各製品の仕様を確認しておく必要がある。表2-4 に各計測機器の一般的な性能を示したが、計測精度の良いもの、測定範囲が大きいものが良い計測 機器ということではない。すべり面調査では、連続計測の可否、設置の容易さ、耐久性、積雪によ る影響等を考慮し、現場の状況に応じて適切な計測器を選択して、継続的に観測を行うことが重要 である。
表2-4 計測機器類の特徴 計測項目
すべり面の位置(深度) すべり面における変位量 測定間隔 測定範囲 精度 測定範囲 パイプ歪計 1.0m 50m 程度 (間接的には可能)
孔内傾斜計 0.5m 50m 程度 1.0mm 10 cm 程度
縦型伸縮計 (測定不能) 200cm 程度
多層移動量計 1.0m 30m 程度 200cm 程度 クリープウェル 0.1~0.5m 20m 程度 10.0mm 100cm 程度
2.4.5 地表変動調査
精査時に行う地表変動調査は、地すべり発生・運動機構を把握することを目的に、地盤伸縮計、
地盤傾斜計、地上測量、GPS測量等により、地表に発生した亀裂、陥没、隆起等の変動を計測す ることにより行う。
解説
一般的な地表変動調査の方法としては次のものがあり、その目的は図2-17に示すとおりであ る。
(1) 地盤伸縮計による方法 (2) 地盤傾斜計による方法 (3) 測量による方法
1) 地上測量 2) GPS 測量等
図2-17 地表変動調査の目的と方法
調査目的は、概査時、精査時、対策工施工時、施工完了後の各段階で異なる。特に精査時と施工 完了後では大きく異なる。精査時は、地すべり機構の把握を目的とするのに対して、施工完了後は 地すべり地及び対策工の維持管理が主目的となる。
1) 地盤伸縮計による調査
地盤伸縮計は、地すべりによる亀裂や段差をはさむ区間の伸縮量を測定する計器である。計器は、
各調査測線に沿って地すべりの運動方向に設置することが望ましい。地盤伸縮計の観測値は、連続 的に自記記録される。次項の地盤傾斜計の場合も同様であるが、観測期間は融雪、梅雨、台風期等 をカバーするように計測し、降雨等に対する地すべりの移動特性が把握できるよう、1年以上の長期 観測を継続して実施することが望ましい。
図2-18に地盤伸縮計の設置方法を示す。このうちインバー線の固定杭は、固定するのに十分
が不明である場合や地すべり全体の移動状況を把握するために、地盤伸縮計を主測線に沿い連続的 に設置することもある。
図2-18 地盤伸縮計設置概略図1)
調査の結果は、縦軸に累積地盤伸縮量、横軸に日時をとり、降水量または地下水位と対照できる 図に整理する。図2-19に測定結果のとりまとめの例を示す。表2-5に示した判定基準等と比 較できるように、データを整理する方法も有効である。
0 125 250 375 500
6月14日 7月14日 8月14日 9月14日 10月14日 11月14日 12月14日 1月14日 2月14日 3月14日 4月14日 5月14日 6月14日 7月14日
日雨量 (mm) 20
24 28
32 地下水位 (m)
地下水位(F-2)
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
地盤伸縮量 (mm)
欠測
地下水位(GL-m)
インバー線
インバー線保護管 地盤伸縮計
亀裂
杭
表2-5 地盤伸縮計観測結果による地すべり判定基準2)を一部修正 総合判定 変動種別 日変位量
(mm)
累積変位量
(mm/月)
一定方向へ
の累積傾向 変動判定 活動性ほか
変動 A 1 以上 10 以上 顕 著 確 定 活発に運動中、
表層・深層すべり
〃 B 0.1~1 2~10 やや顕著 準 確 定 緩慢に運動中、粘質土・
崩積土すべり
〃 C 0.02~0.1 0.5~2 ややあり 潜 在 継続観測が必要
〃 D 0.1 以上 な し
(断続変動)
な し
異 常 局部的な地盤変動・
その他
2) 地盤傾斜計による調査
地盤傾斜計は、地すべり地内のほか、主測線沿いの運動ブロックの上方斜面にも設置して、地す べりの拡大の可能性を検討する。また、必要に応じて運動ブロックの両側にも設置する。地盤傾斜 計を設置する台は、まず地表上を約20cm程度掘削し、図2-20に示すようなコンクリートブロッ クを打設し、表面にガラス板を張って水平に仕上げ、これを設置台とする。この設置台は計器格納 用の木箱で覆っておく必要がある。傾斜計には、水管式、サーボ式、差動トランス式などがある。
水管式では、測定は2本の傾斜計をN-S、E-Wの2方向に直交させて行い、傾斜計は主軸(分 度板のついた軸)をN、E側として設置する。
図2-20 地盤傾斜計設置例12)に加筆
調査の結果は、縦軸に傾斜累積量、日傾斜変動量、横軸に期日をとり、降雨量や地下水位と対照
-800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800
4月1日 5月31日 7月30日 9月28日 11月27日 1月26日 3月27日 5月26日 7月25日 9月23日 11月22日 1月21日 3月21日 5月20日 7月19日 9月17日 11月16日 1月15日 3月16日 5月15日 7月14日 9月12日 11月11日 1月10日
傾斜累積量(秒)
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
日降雨量(mm)
N-S方向 E-W方向
図2-21 地盤傾斜計測定結果
表2-6 地盤傾斜計観測結果による地すべり判定基準2)を一部修正 総合判定 変動種別 日平均変動量
(秒)
累積変動値
(秒/月)
傾斜量の集 積傾向有無
傾斜運動方向と
地形との相関性 変動判定 活動性ほか 変 動
A 5 以上 100 以上 顕 著 あ り 確 定 活発に運動中
〃 B 1~5 20~100 やや顕著 あ り 準 確 定 緩慢に運動中
〃 C 1 以下 20 以下 ややあり あ り 潜 在 継続観測が必要
〃 D 3 以上 な し
(断続変動)
な し
な し 異 常 局部的な地盤 変動・その他
3) 地上測量による調査
地上測量による調査は、主として地すべりの運動方向が不明瞭な場合や運動の激しい場合に実施 される。
地上測量による調査には、地すべり運動地域外の固定点を基準とする横断見通し測量や移動杭測
0 5 10 20 30m
No.1 No.2
R Q P NO ML KJ I H G F E D C B A
S
0 N
5 10 15m
0 ベクトル変移量
123m
Q P O J
H
E
C
A N
図2-22 移動杭測定結果1)
4) GPS 測量による調査
GPS測量は、主として地すべり運動方向が不明瞭な場合、広範な地すべり地で移動量観測を行う必 要がある場合等に行うものである。
この方法は、複数の人工衛星を用いて観測点の3次元座標を自動的に測量するシステムで、図2-
23に示すとおり、宇宙部分、利用者部分、制御部分からなり、観測点間の見通しを必要としない ことや、天候の影響が少なく、夜間観測が可能なこと、長時間の連続観測ができることなどの利点 がある。測量の誤差は、人工衛星の個数等にもよるが、約±5~10mmである。但し、衛星の数が少 ない場合や、天空の見通し状況が悪い条件下では計測精度が低下する。GPS測量は、一回ごとの測定 誤差が大であっても、連続観測を行うことで傾向を把握することができる。
宇宙部分 人工衛星
アンテナ
地上アンテナ
モニター局
受話機 主制御局
制御部分 利用者部分
5) その他の計測機器による調査 (1) 光ファイバ-センサによる調査
光ファイバーを通過する光は、温度・ひずみ・曲げ等によって特性(光の強さ・周波数・波長等)
が変化するため、光ファイバー自体がセンサとしての機能を有する。光ファイバーセンサーは、
電源が不要、落雷や電磁波に強いなど、野外計測に適しているため、斜面監視への適用に関する 研究が進められている。現在は、電気式計測機器に変わるものとして、変位計・傾斜計・水位計・
方位計・温度計などが実用化されている。地すべりの計測に関しては、地盤伸縮計・地盤傾斜計・
パイプ歪計・水圧式水位計などが開発されつつある。また、1 本の光ファイバ-で多点計測が可 能という利点を生かし、地すべりの面的な活動状況把握手法についても検討14)が進められてい る。
本体 3×3 カプラ デポラライザ 遅延素子
検出部 1 (光伸縮計)
収録用 PC
検出部 2
検出部 3 検出部 4
検出部 N
クラック
保護管
インバー線 斜面
測定器 周辺機器
コンピュータ 本体 3×3 カプラ デポラライザ 遅延素子
検出部 1 (光伸縮計)
収録用 PC
検出部 2
検出部 3 検出部 4
検出部 N
クラック
保護管
インバー線 斜面
本体 3×3 カプラ デポラライザ 遅延素子
検出部 1 (光伸縮計)
収録用 PC
検出部 2
検出部 3 検出部 4
検出部 N
クラック
保護管
インバー線 斜面
測定器 周辺機器
コンピュータ
図2-24 光ファイバーを活用した地盤変位計による観測15)
(2) レーザースキャナによる調査
地すべり発生時に地形図を取得したい場合や、地すべり地内への立ち入りが困難な場合での動 態観測には、地上 3Dレーザースキャナを用いた測量が実用化されつつある。
この方法は、トータルステーション等の光波測量と計測原理は同じであるが、機械内部のミラ ーを回転させることによってレーザーの向きを変え、1 秒間に数千点以上を高速にスキャニング できるよう設計されている。このデータを用いた地形図の作成や、ある基準点データの差分から 移動量を算出することもできる。