5 月 20 日、蔡はついに総統就任の日を迎え、就任演説を行った。
逆転山雨欲来風満楼」『環球時報』2016 年 4 月 28 日。
46 本報評論員「不承認“九二共識”就是破壊両岸関係共同政治基礎」『人民日報』2016 年 5 月 5 日。
47 「童振源:台湾参與 WHA 與一中原則無関」中央通訊社、2016 年 5 月 17 日、http://
www.cna.com.tw/news/aipl/201605170465-1.aspx。
48 「不認 92 共識 ECFA 後続商談将中断」『旺報』2016 年 5 月 16 日。
その中台関係に関連する部分は以下の通りである49。
両岸間の対話と意思疎通については、我々も既存のメカニズムの 維持に努めます。1992 年に両岸の両会(海峡交流基金会と海峡両 岸関係協会)が相互理解と求同存異(小異を残して大同につく)
の政治的姿勢で、意思疎通の話し合いを行い、若干の共通の認知 と理解が得られました。私はこの歴史的事実を尊重します。(中略)
新政権は中華民国憲法、両岸人民関係条例およびその他関連する 法律に基づき、両岸の実務を処理してまいります。(中略)私が述 べた既存の政治的基礎は、次の数点の重要な要素が含まれます。
第1 に、1992 年の両岸両会会談の歴史的事実および求同存異の共 通の認知は歴史的事実であること。第 2 に、中華民国の現行憲政 体制。第3 に、両岸の過去 20 数年間にわたる話し合いと交流の成 果。第4 に、台湾の民主主義の原則と普遍的な民意であります。
今 回、こ れま での発 言と の違い で注 目すべ きは 下線部 であ る。ま ず「92 年の歴史的事実」について、「否認しない」(2015.12.25)か ら、「鍵となる要素」(2015.1.20)を経て、「尊重します」(2016.5.20)
にアップグレードされた。そして、「両岸人民関係条例」が新たに出 現 した。これ は、国民党 の李登輝政 権時代にで きた法律で あり、 中 国 大陸との関 係のいわば 「親法」で ある。した がって、中 台を「 国 と 国との関係 」とする法 律は蔡政権 では作られ ないことに なる。 こ れまでの経緯に鑑みるならば、就任演説は「92 年コンセンサス」を
49 「中華民国第十四任総統、副総統 520 就職専輯―就職演説―」中華民国総統府、2016 年5 月 20 日、http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=1565。日本語訳は以下の 通り。「蔡英文・中華民国(台湾)第14 代総統 就任演説(全文)」台北駐日経済文 化代表処、http://web.roc-taiwan.org/jp_ja/post/32054.html。
文 字通り受け 入れるので はなく、間 接的表現で その意味を 引き継 い でいると言えなくもないぎりぎりの表現だったのである。
直 後に、 中国 の専門 家か ら以下 のよ うな肯 定的 な評価 がい くつか 出た50。中国社会科学院台湾研究所の周志懐所長は就任演説直後に、
演 説からは蔡 総統の「両 岸政策には 柔軟性があ り、大陸と 同じ方 向 を向いて一歩進むのと合っていて、両岸の氷を砕くために 1 つの条 件を創造した」と発言した。厦門大学台湾研究院の劉国深院長は「基 本的 に意外なこ とがなく 」、「彼 女は両 岸および国 際政治の現 実を 比 較 的理解した 指導者であ る」と評論 した。清華 大学の巫永 平教授 は
「 蔡 英 文 は 『 憲 法 』 と 『 両 岸 人 民 関 係 条 例 』 を 用 い て 間 接 的 に 『1 つ の中国』を 表現してお り、蔡の努 力が見られ る」と表し た。こ の こ とは、蔡の 就任演説の 内容と表現 の一部が、 中国で肯定 的に受 け 取 られた可能 性を示唆し ている。し かし、これ らの言説は 、主に 台 湾で報道され、中国ではほとんど報道されなかった。
当日午後4 時に、国台辦は、記者会見で蔡の演説内容について「両 岸 の同胞が最 も関心を持 っている両 岸関係の性 質という根 本的問 題 で、曖昧な態度を取り、『92 年コンセンサス』を明確に承認してその 中 核的意味に 賛同するこ とはなく、 両岸関係の 平和的安定 的発展 を 確保する具体的方法を提起しなかった。これは未完成の答案である」
と 批判した。 翌日の『人 民日報』で も評論員が 同様な表現 で、蔡 の
50 「蔡総統演説 周志懐:為破氷創造条件」中央通訊社、2016 年 5 月 20 日、
http://www.cna.com.tw/news/acn/201605200379-1.aspx。「蔡総統両岸論述一貫 陸学 者:零意外」中央通訊社、2016 年 5 月 21 日、http://www.cna.com.tw/news/acn/201605 210032-1.aspx。「蔡 520 演説 陸学者:間接表達一中」『中時電子報』2016 年 5 月 22 日、http://www.chinatimes.com/newspapers/20160522000595-260301。この評論は、以下 のより厳しい内容の評論に換えられ、紙媒体の新聞には掲載されなかった。「陸学 者:先冷和 不急著翻臉」『中国時報』2016 年 5 月 22 日。
就任演説を批判したのである51。
5 月 21 日になると、国台辦報道官が、「『92 年コンセンサス』とい う 1 つの中国原則を体現する共通の政治的基礎を堅持することを確 認 して、始め て両部門の 連繋・意思 疎通メカニ ズムを続け ること が で きる」と発 言し、海協 会と海基会 の連絡が途 絶えること が示唆 さ れた52。続いて国台辦は、2008 年以来の馬英九の大陸政策について、
「 馬英九氏は 、台湾当局 の指導者と してこのた めに努力を し、貢 献 をした」53という異例の高評価を与えた。そして、両会の連絡メカニ ズムは6 月末をもって、「停止状態にある」ことが国台辦によって正 式に明言されたのである54。
直後の7 月 1 日の「建党 95 周年」講話で、習は「『92 年コンセン サ ス』と「台 湾独立」反 対を堅持す ることは両 岸関係の平 和的発 展 の 政治的基礎 である。我 々は『台湾 独立』分裂 勢力に断固 として 反 対 する。いか なる人に対 しても、い かなる時に も、いかな る形式 で 行われる国家分裂活動も、13 億あまりの中国人民、中華民族全体が それに応えることは決してないのだ!」55と述べた。「地動山揺」と
51 「中共中央台辦、国務院台辦負責人就当前両岸関係発表談話」『人民日報』2016 年 5 月21 日。本報評論員「両岸関係和平発展的政治基礎必須維護」『人民日報』2016 年 5 月 21 日。
52 「国台辦発言人就今後国台辦與陸委会聯系溝通機制表明態度」中共中央台湾工作辦 公室・国務院台湾事務辦公室、2016 年 5 月 21 日、http://www.gwytb.gov.cn/wyly/201605/
t20160521_11463274.htm。これらは標題を付けて、以下の 3 つの記事になっている。
「国台辦発言人就今後国台辦與陸委会聯系溝通機制表明態度」、「海教会負責人就今 後両会授権協商和聯系機制表明態度」、新華社記者「台湾当局新領導人必須確認体現 一個中国原則的共同政治基礎」『人民日報』2016 年 5 月 22 日。
53 「国台辦:両岸関係根本性質是繞不開的“必応題”」『人民日報』2016 年 5 月 26 日。
54 「国台辦:両岸聯系溝通機制停擺責任完全在台湾一方」『人民日報』2016 年 6 月 30 日。
55 習近平「在慶祝中国共産党成立 95 周年大会上的講話(2016 年 7 月 1 日)」『人民日報』
い う厳しい表 現こそ使わ れていない が、習の発 言は「習馬 会」以 前 の 厳しい論理 と表現に戻 ってしまっ た。こうし て、対話回 復の機 運 は一気に消え去った。
10 月 10 日の双十節(中華民国の国慶節)において、蔡は「中華民 国 が存在して いる事実を 正視し、台 湾人民の民 主制度に対 する堅 い 信 念を正視す るよう中国 大陸当局に 呼びかける 。両岸の間 は、で き る だけ早くテ ーブルにつ いて話し合 うべきであ り、両岸の 平和的 発 展 に有利であ り、両岸人 民の福祉に 有利であり さえすれば 、何で も 話 すことがで きる。両岸 の指導者は 共に智恵と 柔軟性を発 揮し、 冷 静 な態度で、 共に両岸に 現存する不 一致をウィ ンウィンの 未来に 持 って行くべきである」と訴えた56。これに対して、国台辦報道官は、
「『92 年コンセンサス』を否認し、両岸の対抗を扇動し、両岸の経済 社 会および文 化的なつな がりを引き 裂くのは通 り抜け不能 の邪道 で ある」57と一蹴した。
11 月 1 日、習は国民党の洪秀柱主席(総統選挙に敗北し、引責辞 任 した朱立倫 の後任)と 、最初の国 共首脳会談 を行った。 下野し 、 長 期にわたっ て政権復帰 の見込みが ないと見ら れている国 民党と の 関係を再構築するステップにおいて、習はいわゆる「習金平6 項目」
(「習六点」)と呼ばれる講話をした58。その主な内容は、①1 つの中 国原則を体現した「92 年コンセンサス」を堅持する、②「台湾独立」
と いう分裂勢 力およびそ の活動に断 固として反 対する、③両岸の経
2016 年 7 月 2 日。
56 「総統出席中華民国中枢曁各界慶祝 105 年国慶大会」中華民国総統府、2016 年 10 月 10 日、http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=38134&rmid=514。
57 「国台辦:没有任何力量能夠阻擋国家統一和民族復興的歴史歩伐」『人民日報』2016 年10 月 11 日。
58 彭波「習近平総書記見中国国民党主席洪秀柱」『人民日報』2016 年 11 月 2 日。
済 社会の融合 と発展を推 進する、④共に中華文化を発揚する、⑤両 岸 同胞の福祉 を増進する 、⑥中華民族の偉大な復興の実現に共に力 を 尽くす、で ある。つま り、主権に 関わる原則 では一切妥 協しな い が 、経済・文 化交流はさ らに進め、 非平和的手 段は当面全 く考え て いないということを再度確認したのであった。
さ らに習 は、 洪との 会談 の際に 「台 湾独立 (の 問題) を処 理しな ければ、(政府は)人民に転覆される」という非公式発言をしたと伝 えられる59。蔡総統は、再度「中華民国の存在を正視すべきだ」と呼 びかけた60。11 月 11 日に、習は孫文生誕 150 周年の記念集会で、「台 湾 のいかなる 党派、団体 、個人であ っても、過 去に何を主 張した か
さ らに習 は、 洪との 会談 の際に 「台 湾独立 (の 問題) を処 理しな ければ、(政府は)人民に転覆される」という非公式発言をしたと伝 えられる59。蔡総統は、再度「中華民国の存在を正視すべきだ」と呼 びかけた60。11 月 11 日に、習は孫文生誕 150 周年の記念集会で、「台 湾 のいかなる 党派、団体 、個人であ っても、過 去に何を主 張した か