習近平時代における大陸交流
台湾人学生のライフプラン追跡調査
*
王
嘉 州
(台湾・義守大学公共政策與管理学科教授)【要約】
中 共にと って 「ひま わり 学生運 動」 で離れ た台 湾の青 年層 の心を 取 り戻すこと は、すでに 対台湾政策 の主要な目 標となって おり、 両 岸 交流を通し て大陸志向 を伸ばすと いう戦略が 生み出され ている 。 そ のため、大 陸での経験 が台湾の学 生のライフ プランにど のよう な 変 化をもたら すかが、両 岸関係研究 の新たな重 要テーマと なりつ つ ある。本論文では、2016 年の夏期・冬期長期休暇を利用して、大陸 で の交流団に 参加した台 湾の学生を 対象とし、 追跡調査の 手法と 社 会 的接触・合 理的選択と いう理論的 基盤を用い て、ライフ プラン の 変 化とそれに 影響を与え る因子を分 析した。本 研究では、 大陸で の 交 流経験を経 た台湾の学 生が、大陸 を人生設計 の舞台とし て組み 込 もうという願望について1〜4 点の点数評価を用いた場合、平均 0.14 の有意な増加がみられた。またその願望は学生の22.10%で希薄な方 に、52.89%で強い方に転じ、25.00%が変化なしであった。本論文で 導かれた回帰方程式は、この願望の変化の程度が22.71%の変異を説* 本論文は、中華民国科技部の特定領域補助(計画番号 MOST 105-2410-H-214-002- MY2)の助成を受けたものである。
明 できている 。さらに、 男性で中国 大陸へのイ メージが良 く、大 陸 市場への自己評価利益が高い者ほど、この願望が強かった。 キ ーワ ード: ひまわり学生 運動、両岸 関係、社会 的接触、合 理的 選
一 はじめに
2014 年 3 月に台湾で起こった「ひまわり学生運動」の結果、「両岸 貿 易サービス 協定」の調 印はされた ものの未だ 施行にいた ってい な い 。この運動 以来台湾の 青年層は、 中国共産党 (以下中共 )によ る 対台湾政策の主要な対象となった1。中共が台湾の青年層に対して行 っ た交流の方 法の一部は 、夏と冬の 長期休暇を 利用して大 陸を訪 問 するイベントを開催することであった。2015 年の夏期休暇には、こ の イベントは 観光型・実 地学習型・ 学術討論型 の三種があ った。 こ の うち観光型 は以前から 恒例のもの であるが、 残り二つは 「ひま わ り 学生運動」 後に新しく 形成された ものである 。どのタイ プのイ ベ ン トも両岸の 青年層の心 をつなぐに あたって有 利に働くが 、観光 型 は 大陸への印 象を改めさ せる、学術 討論型は台 湾の青年層 の考え 方 を知る、実地学習型は大陸での成長を促すという副産物がある2。筆 者の助手が2017 年冬期休暇を利用して北京で参加したのは観光型の イ ベントであ ったが、大 陸での就業 ・起業講座 も日程に組 み込ま れ て おり、中共 が台湾青年 層の大陸で の成長を特 に重視して いるこ と が うかがえる 。このよう な交流経験 は、中共が 期待するよ うに、 台 湾 青年層のラ イフプラン 変更と大陸 での成長を 成功させる ことが で きるのだろうか? ライフプラ ンとは、あ る個人が人 生のイベン トを適切に 配置す る ことであり3、自らの能力と価値観を実際の環境から来る需要とすり1 陳鍵興「習近平總書記會見宋楚瑜一行」『新華網』2014 年 5 月 7 日、http://news. xinhuanet.com/politics/2014-05/07/c_1110577861.htm。 2 王嘉州「中共推動兩岸青年交流政策評析」『亞太評論』第 1 卷第 6 期(2015 年 11 月)、 頁90。 3 張振成「生涯規劃與生涯發展」『諮商與輔導』第 144 期(1994 年 12 月)、頁 24。
合わせる連続的な過程である4。このプランニングが成功するか否か は、「我を知る」「彼を知る」「決断する」の如何によって決まる。「我 を知る」とは自分の興味・能力・性格・価値観を把握すること、「彼 を知る」とは政治・経済・社会的環境を認識すること、「決断する」 と は情報を収 集・分析・ 比較した後 に、最適な 決定を出す ことで あ る5。大学生はまさにライフプランの「とば口」におり、人生の選択 肢は減ってはきているものの、まだ完全に固まってはいない6。その ため、大陸経験は「彼我を知る」状況を変えるだけでなく、「決断」 を促すことになる可能性もある。『聯合報』では、台湾の青年層と中 国 大陸に関す るライフプ ランとして 、現地での 就学・勤務 または 起 業・長期居住・現地人との結婚の四つのステージを挙げている7。諸 文 献から、本 論文ではそ れに「現地 人と恋愛関 係になる」 という 一 項 が加えられ ると考えて いる。これ までの研究 から、大陸 経験に よ る 台湾人学生 のライフプ ラン変更は 、中台統一 /台湾独立 への考 え 方 に顕著な影 響を与える ことがわか っている。 大陸との交 流後、 現 地 での就学意 欲が強くな るほど台湾 独立を強く 志向し、現 地人と の 恋 愛・結婚へ の意欲が強 くなるほど 台湾独立か ら距離を置 くよう に なる8。
4 黃惠惠『我的未來不是夢:生涯發展與規劃』(臺北:張老師、2004 年)、頁 56。 5 張添洲『生涯發展與規劃』(台北市:五南圖書、1993 年)、頁 161-162。
6 Donald E. Super, “A life-span, life-space to career development,” In D. Brown, L. Brooks,
and Associates, eds., Career choice and development (2nd ed.) (San Francisco: Jossey-Bass, 1990), pp. 197-261. 7 聯合報系民意調查中心「兩岸互動 16 年 台灣青年關鍵 7 變」『聯合報』2016 年 11 月 20 日、https://udn.com/news/story/10599/2117317。 8 王嘉州、劉羿朋「交流化獨或煙火效應?赴陸臺生統獨立場之持續與變遷」、發表於「民 主與治理的挑戰」研討會(地點:臺灣政治學會、國立金門大、2015 年 11 月 14-15 日)、 頁14-15。
上記の研究 は両岸関係 研究におい て先駆けと なるもので あり、 主 に データ収集 の困難さか ら、今のと ころ他にこ れに類する 研究は な い 。しかし以 上から、台 湾の学生が 大陸に渡っ たことによ ってど の よ うにライフ プランが変 化するかは 、両岸関係 研究の重要 なテー マ で あると言え る。ただ、 上記の研究 で対象にし ていたのは 現地で の 就 学と両岸に またがる恋 愛・婚姻の 三点であり 、勤務また は起業 と 長 期居住につ いては触れ ていない。 また、ライ フプランを 独立変 数 と 見なしてい たため深い 分析を欠き 、その変化 に影響を与 える因 子 の分析もしていなかった。さらにサンプルは23 しかない初歩的な研 究と言えるもので、引き続き磨きをかける必要があった。そのため、 本論文では2016 年に大陸への交流団に参加した台湾の学生を研究対 象 として追跡 調査を行い 、ライフプ ランの変化 とそれに影 響を与 え る因子の分析を行う。
二 先行文献分析と仮説設定
本論文のテ ーマは、大 陸経験が台 湾の青年の ライフプラ ンに影 響 を 与えたかど うかを見る ことである 。その理論 的背景とな るのは 、 社会的接触理論と合理的選択理論である9。以下ではそれぞれの理論 がライフプランに与える影響を検討し、研究上の仮説を提出する。 1 社会的接触 大陸に渡っ て交流を行 うことは、 二つの異な る社会のメ ンバー が 接 触する機会 である。社 会的接触に は、偏見を なくすこと と強く す9 上記以外にも、強調感性因子による社会的アイデンティティ理論を取り入れる可能 性はある。だが本論文ではそれについて検討する紙幅がない。
る こ と の ど ち ら も も た ら す こ と が あ る10。 接 触 が 繰 り 返 さ れ る こ と で 、個人への 偏見やエス ニック・グ ループへの 差別を減少 させる こ とができる11。接触は彼我の間に親愛の情を築き、差別や敵視を少な く させること ができる。 そのため、 異人種の友 人を持つ者 は、人 種 差別の現象が比較的起こりにくい12。接触によって良好な結果を得る の に最も貢献 する条件は 、次の五つ に帰着する 。二つの集 団の地 位 が 平等である こと、共通 の目標があ ること、集 団の間に協 力関係 が あ ること、政 府から支持 されている こと、潜在 的な親愛の 情があ る ことである13。 友人と肉親は「知悉性接触(true acquaintance)」の主要な対象であ る 。相互に信 頼と理解が あるため、 偏見を減少 させること が比較 的 易しい14。両岸交流で相手の善意を感じることで、理解のための共感 を 生み出すこ とができる 。交流を通 じて相互に 信頼が生ま れ、連 係 の ネットワー クが打ち立 てられるか らである。 例えば大陸 から短 期 交 流のため来 台した学者 は「もし私 が台湾人だ としたら、 私も今 の 状況では統一してほしくない」と述べた15。一方、他人や友人の友人
10 Gordon W. Allport, The Nature of Prejudice (Cambridge, MA: Addison-Wesley, 1954), pp.
3-7.
11 Daniel A. Powers & Christopher G. Ellison, “Interracial Contact and Black Racial Attitudes:
The Contact Hypothesis and Selectivity Bias,” Social Forces, Vol. 74, Issue 1 (September 1995), p. 205; Thomas F. Pettigrew, “Intergroup Contact Theory,” Annual Review of Psychology, Vol. 49, Issue 1 (February 1998), p. 71.
12 Jürgen Hamberger & Miles Hewstone, “Inter-ethnic Contact as a Predictor of Prejudice:
Tests of a Model in Four West European Nations,” British Journal of Social Psychology, Vol. 36, Issue 2 (June 1997), p. 173.
13 Thomas F. Pettigrew, “Intergroup Contact Theory,” Annual Review of Psychology, p. 80. 14 Gordon W. Allport, The Nature of Prejudice, pp. 263-268.
15 陳德昇、陳欽春「兩岸學術交流政策與運作評估」『遠景基金會季刊』第 6 卷第 2 期
など、よく知らない人物はすべて「偶然性接触(casual contact)」の 主 要な対象で あり、信頼 と理解を欠 くため、偏 見が助長さ れやす い 16。メディアによる一面的な報道のため、台湾の大部分の大衆は中国 大 陸では列へ の割り込み 、ところ構 わず痰を吐 いたり大声 で話し た り するといっ たマナーの 悪さが横行 していると 思っている 。大陸 か ら の観光が開 放されたた め、少数の 観光客の言 動を報じる メディ ア の 記事がその 認識を裏づ ける形とな り、中国大 陸にマイナ スのイ メ ージが刷り込まれることとなった17。 台湾の学生 が大陸への 交流団に参 加する際は 、航空券と ビザの 費 用 は自腹だが 、現地滞在 中の食事・ 宿泊・交通 費や見学費 はすべ て 中 国政府持ち である。応 対するスタ ッフも、台 湾の学生が 我が家 に 帰ったかのようにくつろげるよう努力している18。このようなもてな し は「知悉性 接触」であ り、学生た ちが抱いて いた中国大 陸への 悪 印 象を変える のに有利だ と予測され る。また、 空前の発展 を遂げ た 中 国経済に驚 愕するなど 、自分の目 で見たもの から変化が 起きる か も しれない。 どちらの経 験も中国大 陸に対する イメージを 変え、 大 陸 をライフプ ランの舞台 として組み 入れようと いう、大陸 での成 長 願望を高める可能性がある。そこで次の仮説を提出する。 仮説1 交流の際に中国大陸へのイメージが良好だった者ほど、大陸 での成長願望が強い。
16 王嘉州「來臺陸生統一態度變遷初探─政治社會化途徑與定群追蹤法之分析」『臺灣民 主季刊』第9 卷第 3 期(2012 年 9 月)、頁 104。 17 楊開煌、劉祥得「社會接觸及政治態度影響臺灣民眾對大陸印象、認知、政策評估之 分析」『遠景基金會季刊』第12 卷第 3 期(2011 年 7 月)、頁 50。 18 王嘉州、李侑潔「赴陸交流對臺灣學生統一意願之影響」『社會科學論叢』第 6 卷第 2 期(2012 年 10 月)、頁 22-23。
2 合理的選択 社会的接触 理論が学習 によるライ フプラン変 更を主張す るのに 対 し 、 合 理 的 選 択 を 採 る 学 派 は 「 自 己 利 益 の 最 大 化 (self-interest maximization)」を強調し、ライフプランは利益を基礎において深謀 熟 慮 し た 末 に 選 択 さ れ る も の で あ る と 主 張 す る19。 合 理 的 選 択 理 論 は 、行動を起 こす者はす べて自分の 好みがあり 、それらを 配列・ 取 捨できると仮定している20。そしてその好みは、制度や社会構造の中 か ら生まれて くるという 。なぜなら 制度が選択 肢を限定し 、個人 的 利益の提示をもするからである21。また個人的利益は他人との関係、 す なわち社会 構造の中で の位置から 決定される 。自己利益 は自我 を 中 心においた 物質的なも のであり、 短期ないし 中期に及ぶ 個人的 行 為を決定する22。自己評価利益(self-interest)こそ、合理的選択が政 策に影響すると主張する核心にある概念である23。 両岸の経済 ・貿易につ いての議題 上、調査対 象に「もし 政府が 両 岸 経済・貿易 を完全に開 放したら」 という質問 を行った場 合、自 己 評 価利益とし て実際に用 いられる定 義は、その 各自の経済 状況へ の
19 陳陸輝、耿曙、涂萍蘭、黃冠博「理性自理或感性認同?影響臺灣民眾兩岸經貿立場 因素的分析」『東吳政治學報』第27 卷第 2 期(2009 年 6 月)、頁 93-94。
20 William H. Riker, “The Future of a Science of Politics,” American Behavioral Scientist, Vol.
21, No. 1 (September/October, 1977), p. 33.
21 Keith Dowding and Desmond King, eds., Preferences, Institutions, and Rational Choice
(Oxford: Clarendon Press, 1995), p. 2.
22 David O. Sears, Richard R. Lau, Tom R. Tyler and Harris M. Allen, Jr., “Self-Interest vs.
Symbolic Politics in Policy Attitudes and Presidential Voting,” American Political Science Review, Vol. 74, No. 3 (September 1980), p. 671.
23 Richard R. Lau and Caroline Heldman, “Self-Interest, Symbolic Attitudes, and Support for
Public Policy: A Multilevel Analysis,” Political Psychology, Vol. 30, No. 4 (July 2009), pp. 513-516.
影響についてである24。ほかにも点数方式があり、調査対象に「海峡 両 岸サービス 貿易協定」 の全体的お よび個人的 効果を評価 しても ら うことを行っている25。上述のような評価項目は、台湾の青年にとっ て それほど切 迫した利害 につながる ものではな かったので 、本論 文 で は 大 陸 で の ビ ジ ネ ス 展 開 、 あ る い は 就 業 を 利 害 評 価 の 指 標 と す る 。両岸の経 済関係が日 増しに密接 になってき ていること は、台 湾 の 人々の就職 先選択にす でに影響を 及ぼしてい る。中国大 陸は台 商 ( 台湾ビジネ スマン)に よる長年の 巨額な投資 があり、ま た起業 地 として台湾の青年層を引きつけていることから、2016 年には現地で の 個人商工企 業設立の規 制が大幅に 緩和された 。その結果 、台湾 企 業経営者の地理的範囲は26 の省・市・自治区におよび、業種も二つ から 24 に増えたという26。このような経済情勢と政策変更は、両岸 の 就業市場、 ひいてはそ れに対する 台湾の青年 層の利害評 価に影 響 を与えるであろう。 本論文では「1111 人力銀行」が 2015 年に実施した「サラリーマン の大陸西進・台湾帰還アンケート」の結果27を参考に、台湾の学生に 次 の五つの側 面から中国 大陸におけ る就職市場 の利害を評 価して も ら った。すな わち、大陸 市場の展望 、自分の強 みを活かせ るか、 立 身 出世のチャ ンス、高給 を目指すこ と、競争力 の強化であ る。彼 ら が 交流イベン ト終了後、 自己評価利 益が中国大 陸での就職 市場に お
24 陳陸輝、耿曙、涂萍蘭、黃冠博「理性自理或感性認同?影響台灣民眾兩岸經貿立場 因素的分析」、頁120。 25 湯晏甄「『兩岸關係因素』真的影響了 2012 年的台灣總統大選嗎?」『臺灣民主季刊』 第10 卷第 3 期(2013 年 9 月)、頁 104-105。 26 潘薇、陳翠仙「個體戶條件鬆綁 臺商搶攻對岸內需財」『聯合新聞網』2017 年 1 月 26 日、https://udn.com/news/story/6867/2252303。 27 「上班族西進大陸暨歸臺調查」『1111 人力銀行網站』2015 年 2 月 25 日、http://www. 1111.com.tw/news/surveyns_con.asp?ano=72895。
い てより有利 に働くとわ かれば、自 己利益最大 化によって 大陸で の 成 長願望が強 まることを 予測する。 そこで、本 論文では次 の仮説 を 提出する。 仮説2 交流経験後、自分が大陸の就職市場において有利であると認 識した者ほど、大陸での成長願望は強くなる。 中国大陸へ のイメージ と、大陸市 場への自己 評価という 二つの 独 立 変数以外に も、出身( 省籍)と性 別も大陸志 向に影響を 与える 可 能 性がある。 本省人(台 湾出身者) は中国大陸 との関係の ネット ワ ー クが少なく 、当地への アイデンテ ィティも薄 い可能性が あり、 比 較 的民進党を 支持する一 方、中国大 陸には好感 を抱いてお らず、 大 陸での成長願望も比較的弱いと考えられる28。また中台統一/台湾独 立 への見方に は性別によ る差異が存 在する。男 性は女性に 比べ、 明 らかに利益を計算に入れて統一を支持する者が多い29。そのため、交 流 経験後の台 湾青年層が 中国大陸の 就職市場に 明るい展望 を読み 取 っ たとき、男 性の方が大 陸願望が強 いことが予 想される。 このこ と か ら、出身と 性別も本論 文において はパラメー タとして考 慮に入 れ ることとする。
28 耿曙、曾于蓁「中共邀訪臺灣青年政策的政治影響」『問題與研究』第 49 卷第 3 期(2010 年9 月)、頁 55-56。 29 楊婉瑩、劉嘉薇「探討統獨態度的性別差異:和平戰爭與發展利益的觀點」『選舉研究』 第16 卷第 1 期(2009 年 5 月)、頁 58。
三 データの出自と各変数の測定
1 データの出自 本論文では2016 年の冬期および夏期休暇を利用して大陸を訪れた 105 名の台湾青年層(学生)を対象とし、各自二回のアンケート調査 に 答えてもら った。回答 者は台湾か ら中国大陸 に赴く機上 で一回 目 の 、交流イベ ント終了後 台湾に帰る までの間に 二回目のア ンケー ト に 答えた。こ れらの結果 を比較する ことで、交 流前後の態 度に変 化 が 見られるか どうかを知 ることがで きる。本論 文で追跡調 査対象 と なった 105 の固定追跡サンプルは、四つの交流団から得られたもの で、交流期間などは以下の通りである ①「2016 年冬期台湾青年・学生のための中華文化研修キャンプ」1 月 25 日〜2 月 1 日(8 日間)、北京。参加者 27 名全員にアンケート 配布、全員が回答(回収率100%、以下同)、有効回答26 名。②「2016 年夏期台湾青年・学生のための中華文化研修キャンプ(北京)」7 月 18 日〜26 日(9 日間)、北京。参加者32 名中 30 名にアンケート配布、 27 名が回答(90%)、有効回答 22 名。③「2016 年夏期台湾青年・学 生のための中華文化研修キャンプ(上海・湖州・蘇州)」8 月 25 日〜 9 月 3 日(10 日間)、上海・湖州・蘇州。参加者 45 名全員にアンケ ート配布、42 名が回答(93%)、有効回答 42 名。④「2016 年夏期台 湾青年・学生のための中華文化研修キャンプ(山東省威海・青島)」 8 月 30 日〜9 月 7 日(9 日間)、威海・青島。参加者 15 名全員にアン ケート配布、全員が回答(100%)、有効回答 15 名。 両岸関係に 関する問題 はセンシテ ィブである ため、回答 を保留 ま た は拒否され る可能性が ある。忌憚 なく回答で きるよう、 今回は 匿 名 方式を採用 した。回答 者各自の電 子メールア ドレスを照 合する こ と で、任意の 二回分のア ンケート結 果が同一人 物によるも のであ ると認定する。有効回答を行った 105 名のうち、29.5%が男性、70.5% が女性であった。学歴では、62.9%が学部、21.9%が大学院修士課程 に在学中、また 10.5%が高校卒業直後、4.8%が学部卒業直後か大学 院 修 了 直 後 で あ っ た 。 ル ー ツ 別 で は 、 台 湾 漢 族 85.7%、 台 湾 客 家 7.6%、大陸 3.8%、未回答 2.9%となっている。出生年では民国 80〜 87(1991〜1998)年、18〜25 歳が全体の 95.1%を占めた。戸籍は計 17 の県または市にわたり、北部(基隆・台北・新北・桃園・新竹・ 苗栗)27.6%、中部(台中・彰化・南投・雲林・嘉義)20.0%、南部 (台南・高雄・屏東)50.5%、台東と金門各 1%であった。 2 各変数の測定 本論文では 、従属変数 として大陸 での成長願 望の変化を 、独立 変 数 として中国 大陸へのイ メージの変 化と中国大 陸市場への 自己評 価 利 益の変化、 以上三つの 変数が測定 される。そ れぞれの測 定方法 は 以下の通りである。 (1) 大陸での成長願望の変化 この変数に関するアンケート項目は次の五問である。「大陸で就学 す る 意 思 が あ り ま す か ? 」「 大 陸 で 就 業 ま た は 起 業 す る 意 思 は あ り ます か?」「大陸 に長期居住 する意思は ありますか ?」「大陸の 人 を 恋 人 に し た い と い う 願 望 は あ り ま す か ? 」「 大 陸 の 人 と 結 婚 し た い という願望はありますか?」30。回答の選択肢は「非常に希薄」「希
30 「恋人どうし」は二つの個人的関係の進展とみることができ、同化理論のいう構造 的同化(structural assimilation)にあたる。一方「婚姻」は二つの家族間関係の進展で あり、「婚姻同化(marital assimilation)」にあたる。参考:Milton M. Gordon, Assimilation in American Life: The Role of Race, Religion, and National Origins (Oxford and New York:
薄」「強い」「非常に強い」の四種で、それぞれ 1 から 4 までの数が 割 り当てられ ているので 、これらの 数値が高い ほど大陸願 望が強 い ことになる。これら五問に対するクロンバックの α 信頼性係数は、 一回目0.77、二回目 0.86 であった。回答の数値の平均をとることで、 台 湾の学生の 大陸願望を 読み取るこ とができる 。また交流 前後の 変 化 は二回目の 数値から一 回目の数値 を引くこと で表せる。 その差 は -3 から 3 の範囲にあり、正の数なら願望が強くなっているというこ とである。 (2) 中国大陸へのイメージの変化 この変数に 対応する問 題は「中国 大陸の民衆 へのイメー ジは良 い ですか、悪いですか?」「中国大陸の国家指導者へのイメージは良い ですか、悪いですか?」「中国大陸全体へのイメージは良いですか、 悪いですか?」の三問である31。この設問に対しても悪い方から「は なはだ良くない」「良くない」「良い」「非常に良い」の四つの回答が 用意されており、順に 1 から 4 の数字を割り当てられているので、 こ れらの数値 が高いほど 中国大陸へ のイメージ は良いこと になる 。 クロンバックのα 信頼性係数は、一回目 0.63、二回目 0.69 であった。 回 答の数値の 平均をとる ことで、中 国大陸への イメージを 読み取 る こ とができる 。また交流 前後の変化 は二回目の 数値から一 回目の 数 値を引くことで表し、その差は-3 から 3 の範囲、正の数なら中国へ のイメージがよくなっていることを表している。
Oxford University Press, 1964), pp. 70-71.
31 この三問は台湾の学生による中国大陸への「偏見」が薄まったか強まったかを測る
ためのものである。もし薄まっているなら、社会的接触理論の「知悉性接触」の予 測と符合するし、強まっているなら「偶然性接触」の予測と符合する。
(3) 中国大陸市場への自己評価利益の変化 この変数を測定するための設問は「大陸市場の展望は明るい」「大 陸での就業により、自分の強みを活かすことができる」「大陸での就 業により、出世するチャンスがある」「大陸での就業により、より高 いサラリーが望める」「大陸での就業により、競争力を強化すること ができる」の五問である。回答の選択肢は「非常に怪しいと思う」「怪 しい と思う」「妥 当だと思う 」「非常に妥 当だと思う 」の四つで 、 同 様に点数を割り当てて平均値をとると、最小1、最大 4 となる。これ が大きいほ ど自己評価 利益が大き いことにな る。クロン バックの α 信頼性係数は、一回目0.71、二回目 0.86 であった。交流前後の変化 は二回目の数値から一回目の数値を引くことで表し、その差は-3 か ら 3 の範囲、数値が大きいほど自己評価利益が高くなったことを表 している。
四 データの分析と考察
まずクロス 分析表と棒 グラフによ り、従属変 数である大 陸願望 の 変 化について 述べ、交流 経験後のラ イフプラン に変化が見 られた か を みる。続け て独立変数 である中国 大陸へのイ メージと自 己評価 利 益 の変化を述 べる。最後 に回帰分析 を用いて仮 説検定を行 い、独 立 変数の変化が従属変数に影響を与えているかをみる。 1 大陸での成長願望の変化 台湾の学生 による大陸 での成長願 望が交流前 後でどのく らい変 化 したかを、表 1 に整理した。まず大陸で就学する願望がある者の割 合は、交流前の58.09%と交流後の 71.43%を比べると、13.34%増加し ている。「非常に希薄」と答えた者が 0.95%から 1.90%に増える一方、 「非常に強い」と答えた者も5.71%から 10.48%に増えた。クロス分析の結果、62.85%が交流前後で見方を変えていないことがわかる。 その内訳は、20.95%が一貫して願望が希薄な者、41.90%が一貫して 強い者である。37.13%が見方を変えた者で、内訳は 26.66%が願望が 強いに転じ、10.47%が希薄に転じた。 大陸で勤務または起業の願望がある者の割合は、交流前の71.43% と交流後の83.81%を比べると、12.38%増加している。「非常に希薄」 と答えた者が 1.90%から 0.95%に減る一方、「非常に強い」と答えた 者は11.43%から 15.24%に増えた。クロス分析の結果、68.57%が交流 前後で見方を変えていないことがわかる。その内訳は、10.48%が一 貫して願望が希薄な者、58.09%が一貫して強い者である。31.42%が 見方を変えた者で、内訳は 23.80%が願望が強いに転じ、7.62%が希 薄に転じた。 大陸で長期居住願望がある者の割合は、交流前の19.04%と交流後 の 39.05%を比べると、20.01%増加している。「非常に希薄」と答え た者が交流前後で8.57%と変わらないのに対して、「非常に強い」と 答えた者は 1.90%から 4.76%に増えた。クロス分析の結果、59.04% が交流前後で見方を変えていないことがわかる。その内訳は、46.66% が一貫して願望が希薄な者、12.38%が一貫して強い者である。40.93% が見方を変えた者で、内訳は 31.42%が願望が強いに転じ、9.51%が 希薄に転じた。 大陸の人を恋人にしたい願望がある者の割合は、交流前の50.00% と交流後の53.85%を比べると、3.85%増加している。「非常に希薄」 と答えた者が 4.81%から 7.69%に増える一方、「非常に強い」と答え た者は2.88%から 6.73%に増えた。クロス分析の結果、70.19%が交流 前後で見方を変えていないことがわかる。その内訳は、36.54%が一 貫して願望が希薄な者、33.65%が一貫して強い者である。29.80%が 見方を変えた者で、内訳は18.27%が願望が強いに転じ、11.53%が希
薄に転じた。 表1 中国大陸での成長願望の変化 交流前 非常に 希薄 希薄 強い 非常に 強い 合計% 大陸での就 学願望 交流後 非常に希薄 1.90 1.90 希薄 0.95 20.95 4.76 26.67 強い 17.14 40.00 3.81 60.95 非常に強い 0.95 7.62 1.90 10.48 合計%(N=105) 0.95 40.95 52.38 5.71 100.00 大陸での就 業願望 交流後 非常に希薄 0.95 0.95 希薄 0.95 10.48 3.81 15.24 強い 0.95 15.24 49.52 2.86 68.57 非常に強い 0.95 5.71 8.57 15.24 合計%(N=105) 1.90 26.67 60.00 11.43 100.00 大陸で長期 居住願望 交流後 非常に希薄 0.95 5.71 1.90 8.57 希薄 5.71 45.71 0.95 52.38 強い 1.90 20.00 11.43 0.95 34.29 非常に強い 0.95 2.86 0.95 4.76 合計%(N=105) 8.57 72.38 17.14 1.90 100.00 大陸の人と の恋愛願望 交流後 非常に希薄 4.81 0.96 1.92 7.69 希薄 31.73 6.73 38.46 強い 12.50 32.69 1.92 47.12 非常に強い 5.77 0.96 6.73 合計%(N=104) 4.81 45.19 47.12 2.88 100.00 大陸の人と の結婚願望 交流後 非常に希薄 4.76 2.86 0.95 8.57 希薄 0.95 36.19 6.67 43.81 強い 13.33 26.67 1.90 41.90 非常に強い 4.76 0.95 5.71 合計%(N=105) 5.71 52.38 39.05 2.86 100.00 出 典 : 筆者 作成 。 大陸の人と結婚したい願望がある者の割合は、交流前の41.91%と 交流後の47.61%を比べると、5.70%増加している。「非常に希薄」と 答えた者が 5.71%から 8.57%に増える一方、「非常に強い」と答えた
者は2.86%から 5.71%に増えた。クロス分析の結果、68.57%が交流前 後で見方を変えていないことがわかる。その内訳は、40.95%が一貫 して願望が薄な者、27.62%が一貫して強い者である。31.42%が見方 を変えた者で、内訳は19.04%が願望が強いに転じ、12.38%が希薄に 転じた。 図1 台湾学生の中国大陸での成長願望の変化 出 典 : 筆者 作成 。 說 明 : サン プル 数104。 上の五問に 対する諸数 値から、大 陸への成長 願望を構成 するこ と ができる。一回目のアンケートによる数値の平均は2.49 で標準偏差 は0.45、二回目についてはそれぞれ 2.63 と 0.55 であった。二回のア ンケートの各サンプルの平均から t 検定を行うと、願望の平均は有 意に 0.14 上がっている(p=0.001)。交流前後の平均点数の変化は図 1 にまとめており、平均は 0.14、標準偏差は 0.41 である。横軸は理 論的に−3 から 3 までの値を取り得るが、実際には−1.4 から 1.0 であ っ た。この数 字が大きい ほど、交流 経験によっ て願望が強 められ た こ と に な る 。 図 1 か ら は 、 22.10%の 学 生 が 交 流 後 に 願 望 が 弱 く 、
52.89%が強くなり、25.00%が変化なしということがわかる。まとめ る と、大陸訪 問後、大陸 願望がより 強くなった 学生は、よ り希薄 と なった学生より30.79%多かった。 2 中国大陸へのイメージの変化 台湾の学生 による中国 大陸へのイ メージが交 流前後でど のくら い 変化したかを、表 2 に整理した。中国大陸の民衆へのイメージが良 いと答えた者の割合は、交流前の46.66%と交流後の 56.19%を比べる と、9.53%増加している。クロス分析の結果、57.09%が交流前後で見 方を変えていないことがわかる。残り42.85%が見方を変えた者で、 内訳は25.71%がイメージが良いに転じ、17.14%が悪に転じた。中国 大 陸の国家指 導者へのイ メージが良 いと答えた 者の割合は 、交流 前 の41.91%と交流後の 54.28%を比べると、12.37%増加している。クロ ス分析の結果、69.52%が交流前後で見方を変えていないことがわか る。残り30.48%が見方を変えた者で、内訳は 20.95%がイメージが良 いに転じ、9.53%が悪いに転じた。最後に、中国大陸全体へのイメー ジが良いと答えた者の割合は、交流前の45.19%と交流後の 71.15%を 比べると、25.96%増加している。クロス分析の結果、52.89%が交流 前後で見方を変えていないことがわかる。あとの47.10%が見方を変 えた者で、内訳は 37.49%がイメージが良いに転じ、9.61%が悪いに 転じた。
表2 中国大陸へのイメージの変化 交流前 非常によい よい 悪い 非常に悪い 合計% 民衆への イメージ 交流後 非常によい 0.95 0.95 1.90 よい 31.43 22.86 54.29 悪い 0.95 13.33 24.76 1.90 40.95 非常に悪い 2.86 2.86 合計%(N=105) 1.90 44.76 51.43 1.90 100.00 国家指導 者へのイ メージ 交流後 非常によい 0.95 0.95 よい 2.86 31.43 18.10 0.95 53.33 悪い 6.67 37.14 0.95 44.76 非常に悪い 0.95 0.95 合計%(N=105) 2.86 39.05 55.24 2.86 100.00 中国全体 へのイメ ージ 交流後 非常によい 1.92 0.96 2.88 よい 34.62 31.73 1.92 68.27 悪い 8.65 17.31 0.96 26.92 非常に悪い 0.96 0.96 1.92 合計%(N=104) 0 45.19 50.96 3.85 100.00 出 典 : 筆者 作成 。 上の三問に 対する諸数 値から、中 国大陸への イメージを 構成す る ことができる。一回目のアンケートによる数値の平均は2.43 で標準 偏差は0.44、二回目についてはそれぞれ 2.61 と 0.44 であった。二回 のアンケートの各サンプルの平均から t 検定を行うと、願望の平均 は有意に 0.17 上がっている(p<0.001)。交流前後の平均点数の変化 は図2 のようにまとめることができる。平均は 0.17、標準偏差は 0.47 である。横軸は−3 から 3 までの値を取り得るが、実際には−0.67 か ら1.33 であった。図 2 からは、24.04%の学生が交流後にイメージが 悪い方へ、46.15%が良い方へ、29.81%が変化なしということがわか る 。まとめる と、大陸訪 問後、中国 大陸へのイ メージがよ り良く な った学生は、より悪くなった学生より22.11%多かった。
図2 台湾学生の中国大陸イメージの変化 出 典 : 筆者 作成 。 説 明 : サン プル 数104。 3 自己評価利益の変化 台湾の学生 による中国 大陸での就 業の利害評 価が交流前 後でど の くらい変化したかを、表 3 に整理した。大陸市場の展望は明るいと 答えた者の割合は、交流前の84.76%と交流後の 89.52%を比べると、 4.76%増加している。大陸での就業で自分の強みを活かすことができ ると答えた者の割合は、交流前の58.10%と交流後の 65.72%を比べる と、7.62%増加している。大陸での就業で出世するチャンスがあると 答えた者の割合は、交流前の63.81%と交流後の 60.00%を比べると、 3.81%減少している。大陸での就業でより高いサラリーが望めると答 えた者の割合も、交流前の 76.19%と交流後の 71.43%を比べると、 4.76%減少している。最後に、大陸での就業で競争力を強化すること ができると答えた者の割合は、交流前の82.86%と交流後の 83.81%を 比べると、0.95%増加している。
表3 自己評価利益の変化 交流前 非常に反対 反対 同意 強く同意 合計% 大陸市場 の展望は 明るい 交流後 反対 1.90 1.90 6.67 10.48 同意 10.48 60.95 4.76 76.19 強く同意 0.95 7.62 4.76 13.33 合計%(N=105) 1.90 13.33 75.24 9.52 100.00 就業で強 みを発揮 できる 交流後 反対 22.86 11.43 34.29 同意 0.95 17.14 35.24 0.95 54.29 非常同意 0.95 7.62 2.86 11.43 合計%(N=105) 0.95 40.95 54.29 3.81 100.00 出世のチ ャンスが ある 交流後 反対 0.95 24.76 14.29 40.00 同意 0.95 9.52 36.19 1.90 48.57 強く同意 9.52 1.90 11.43 合計%(N=105) 1.90 34.29 60.00 3.81 100.00 高いサラ リーが望 める 交流後 反対 15.24 13.33 28.57 同意 7.62 49.52 57.14 強く同意 0.95 8.57 4.76 14.29 合計%(N=105) 0 23.81 71.43 4.76 100.00 競争力が 強化でき る 交流後 非常に反対 0.95 0.95 反対 7.62 6.67 0.95 15.24 同意 8.57 48.57 6.67 63.81 強く同意 12.38 7.62 20.00 合計%(N=105) 0 17.14 67.62 15.24 100.00 出 典 : 筆者 作成 。 上の五問に 対する諸数 値から、中 国大陸での 就業の利害 評価を 構 成することができる。一回目のアンケートによる数値の平均は 2.80 で標準偏差は 0.38、二回目についてはそれぞれ 2.88 と 0.49 であっ た。二回のアンケートの各サンプルの平均から t 検定を行うと、自 己評価利益の平均は0.08 上がっており、統計上有意なレベルである (p=0.046)。交流前後の平均点数の変化は図 3 のようにまとめるこ とができる。平均は0.08、標準偏差は 0.43 である。横軸は−3 から 3 までの値を取り得るが、実際には−1.0 から 1.2 であった。図 3 から
は、31.43%の学生が交流後に低く、40.00%が高くなり、28.57%が変 化 なしという ことがわか る。まとめ ると、大陸 訪問後、大 陸での 就 業 に対する自 己評価利益 がより高く なった学生 は、より低 くなっ た 学生より8.57%多かった。 図3 台湾学生の自己評価利益の変化 1.90 0.95 1.90 9.52 17.14 28.57 16.19 8.57 3.81 5.71 4.76 0.95 0 5 10 15 20 25 30 ‐1.00 ‐.80 ‐.60 ‐.40 ‐.20 .00 .20 .40 .60 .80 1.00 1.20 % 出 典 : 筆者 作成 。 説 明 : サン プル 数105。 4 大陸での成長願望の変化についての回帰分析 本論文の従 属変数、す なわち大陸 願望の二回 のアンケー ト間の 差 は 連 続 変 数 な の で 、 線 形 回 帰 を 仮 定 す る 最 小 二 乗 法 (ordinary least squares, OLS) を 用 い て、 そ の 変 化が も た ら す影 響 を 測 るこ と が で き、表 4 に示す結果を得た。この回帰モデルは F 検定で妥当とされ (F=8.23, p<0.001)、従属変数に説明力があることを示している。回 帰 方 程 式 は こ の 願 望 の 変 化 の 程 度 が 22.71%の 変 異 を 説 明 で き て お り、二つの仮説も支持された。
本論文では 性別とルー ツ(省籍) を制御変数 としている が、従 属 変 数に有意な 影響を与え たのは前者 だけであっ た。成長へ の願望 の 増 加 は 、 単 位 あ た り 標 準 偏 差 に し て 男 性 の 方 が 女 性 よ り 0.15 大き く 、 男 性 の 方 が 利 益 を 考 慮 し 願 望 を 変 化 さ せ た 可 能 性 が 考 え ら れ る 。ルーツを 台湾漢族に 持つ者の願 望は持たな い者に比べ ると、 単 位 あ た り 標 準 偏 差 に し て 0.11 低く、理論による予測と符号はす る が 、 統 計 的 に 有 意 な 水 準 に は 達 し な か っ た (p=0.236)。この結果 が 台 湾の青年層 の中国大陸 に対する態 度において 、ルーツは 考慮し な く てもよい因 子であるこ とを示すか は、より多 くの実証研 究を待 た ねばならない。 社会的接触 の仮説を検 証すると、 中国大陸へ のイメージ の変化 が 単位あたり標準偏差にして 1 増加するごとに、大陸での成長への願 望 の 変 化 も 同 様 に 0.41 と、統計的に有意な水準だけ上がってお り (p<0.001)、仮説 1 は支持される。台湾の学生は我が家に帰ったか の ようにくつ ろぐことが でき、相手 の善意を感 じたほか、 相互に 信 頼 が生まれ、 連係のネッ トワークが 打ち立てら れたのであ る。ま た 中 国大陸への マイナスイ メージにつ いても、空 前の発展を 遂げた 中 国 経済に驚愕 するなど、 自分の目で 見たものか ら変化が起 きたの か も しれない。 以上のこと から、台湾 の学生は中 国大陸に対 する印 象 を 改め、大陸 での成長願 望を高めた と考えられ る。これは 社会的 接 触理論の主張する知悉性接触の影響を支持する結果である。 合理的選択 の仮説を検 証すると、 自己評価利 益が単位あ たり標 準 偏差にして1 増加するごとに、大陸での成長願望の変化も同様に 0.18 と、統計的に有意な水準だけ上がっており(p=0.050)、仮説 2 は支 持 される。台 湾の学生が 台湾の産業 の展望を憂 慮し、中国 大陸の 市 場 の展望が明 るいとみる ほど、大陸 では自分の 強みが活か せ、出 世 の チャンスが あり、より 高いサラリ ーを得るこ とができ、 さらに 競
争 力を高める ことができ るとして、 大陸での成 長願望を強 くする の で ある。これ は合理的選 択理論の主 張する自己 利益最大化 を支持 す る結果である。 表4 台湾学生の大陸での成長願望の変化要因 OLS 回帰モデル B 値 標準誤差 Beta 値 中国へのイメージの変化 .36 .08*** .41 自己評価利益の変化 .17 .09+ .18 性別(女性は対照群) 男性 .14 .08 + .15 省籍(非閩南人は対照群) 閩南人 -.13 .11 -.11 常数 .13 .10 アンケート数 R2 Adj. R2 S.E.E. F 102 0.2577 0.2271 0.3678 8.42*** 出 典 : 筆者 作成 。 説 明 :+:p<.1,***:p<.001。
五 結論
習近平時代 になり中共 の台湾青年 層に向けた 交流政策の 目標は 、 彼 らを大陸で 発展させる よう引きつ けるものに 変わってき た。中 国 大 陸での短期 交流経験は 、台湾青年 層の大陸願 望を強める ことが で き る の だ ろ う か ? ま た ど の よ う な 因 子 が そ れ に 影 響 す る の だ ろ う か ?この問題 には両岸の 政府が関心 を持ってい るが、学会 はまだ そ の 答を提供で きていない 。本論文は その空白を 埋めようと するも の で ある。ここ からは本研 究でわかっ たこと、ま た理論に貢 献でき ることと政策上の参照価値を述べる。 本論文では 大陸での成 長項目を五 つに分けた 。中国大陸 での交 流 経 験は、台湾 の青年層の 大陸での成 長願望を確 実に押し上 げたが 、 五 つ の 上 昇 率 を 高 い 順 に 挙 げ る と 、 長 期 居 住 (20.1% )、 就 学 (13.34%)、就業または起業(12.38%)、結婚(5.70%)、恋愛(3.85%) で ある。これ ら五項目を 総合した場 合の願望の 数値は、交 流前の 平 均が2.49 で標準偏差は 0.45、交流後はそれぞれ 2.63 と 0.55 であっ た。平均値は1〜4 点の評価で 0.14 増加している。また、中国大陸へ の イメージと 大陸での就 業に対する 自己評価利 益でも、平 均値は そ れぞれ0.17 と 0.08 の増加を見せた。本論文で導かれた回帰方程式は この願望の変化の程度が22.71%の変異を説明できている。まとめる と 、中国大陸 へのイメー ジが良いほ ど、また大 陸市場への 自己評 価 利益が高いほど、大陸での成長願望も強いものになる。 上述の結果 は、両岸の 民間交流が 民意の構造 に影響を与 えるこ と を 、改めて証 明した。台 湾の学生に よる大陸で の交流をテ ーマと し た 先行研究を 見ると、一 回限りのア ンケートを 用いた横断 的研究 で は 、交流の影 響は認知面 、すなわち 中国大陸へ のエスニッ ク的な 偏 見 と刷り込み の減少に限 られ、アイ デンティテ ィ面におけ る両岸 統 一 /台湾独立 の立場、両 岸統一の可 能性、自分 は台湾人か 中国人 か といったアイデンティティに関する見解は変わらないとされた32。し か し追跡調査 によって交 流前後の比 較を行うと 、統一反対 から賛 成 に転じた者が、逆に反対に転じた者より12.3%多くなっており33、「独 立指向」者も正味 14.29%減少していたのである34。本論文で取り上
32 耿曙、曾于蓁「中共邀訪臺灣青年政策的政治影響」、頁 46、55-56。 33 王嘉州、李侑潔「赴陸交流對臺灣學生統一意願之影響」、頁 1-34。 34 王嘉州「交流生共識?赴陸臺生統獨立場之變遷」『東亞研究』第 46 卷第 1 期(2015 年1 月)、頁 20。
げ た独立変数 、すなわち 中国大陸へ のイメージ と大陸市場 への自 己 利 益評価は、 どちらも認 知面のもの とみること ができる。 また従 属 変 数(大陸で の成長願望 )はアイデ ンティティ 面のものと みるこ と ができる35。よって、本論文の研究結果として、台湾の学生の大陸で の 交流経験は 、認知面・ アイデンテ ィティ面両 方に影響を 及ぼす と いうことが言えるであろう。 上記の結果 に対して、 台湾政府は 中共の対台 湾交流シス テム告 知 に も寛容であ るべきであ ろう。それ は中共に台 湾の武力統 一では な く 交流を経た 統一促進に 向けてのた ゆまぬ努力 を鼓舞する ことに な る からである 。もう一方 では、台湾 政府と学界 は大陸への 成長願 望 に 影響を与え る因子がほ かにないか 、また交流 が政治的見 解に与 え る 影響を深く 研究し、そ れに対応す る戦略を練 るべきであ る。進 ん で 交流に赴き たがる学生 は、そうで ない学生に 比べて中国 大陸へ の 態 度を変えや すいのか? 可能性とし てはあるが 、現在のデ ータで は 検 証できない 。また中国 大陸へのイ メージの変 化にどのよ うな因 子 が 影響を与え るのかとい うことも関 心を惹く問 題であるが 、本論 文 で はそれを論 じるスペー スがない。 さらに、交 流により生 じた影 響 が 台湾に帰っ た後は時間 とともに減 衰していく ということ がある の か 、これも本 論文の限ら れたデータ では答えよ うがない。 この三 つ の問題が今後の研究の目指すべき方向となるだろう。 ( 寄 稿 :2017 年 4 月 13 日、採用 2017 年 6 月 7 日) 翻 訳 : 田中 研也 ( 台 湾・ 東呉 大 学 日本 語文 学 科 非常 勤講 師 )
35 大陸での成長願望に属する五項目のうち「就業」と「長期居住」は、中国大陸をホ ームグラウンドとみて留まり、花を咲かせたいという抱負を表す者で、同化理論の いうアイデンティティ同化(identificational assimilation)に近い。参考:Mary E. Wilkie, “Colonials, Marginals and Immigrants: Contributions to a Theory of Ethnic Stratification,” Comparative Studies in Society and History, Vol. 19, No. 1 (January 1977), p. 88.
習近平時代赴陸交流臺生生涯規劃之
定群追蹤
王
嘉 州
(義守大學公共政策與管理學系教授)【摘要】
太 陽花 學運後 爭取 臺灣青 年的 認同, 已成 中共對 臺政 策的首 要目 標 ,其創新策 略乃透過交 流吸引臺灣 青年赴陸發 展。因此, 赴陸臺 生 生涯規劃變遷乃兩岸關係研究之新興重要議題。本文以2016 年寒假與 暑 假赴陸交流 團的臺生為 研究對象, 採用定群追 蹤調查法, 根據社 會 接 觸與理性選 擇理論,分 析赴陸臺生 生涯規劃之 變遷與影響 因素。 本 研究發現:臺生前往大陸交流後的赴陸發展意願,其平均數在 1 至 4 的量表中顯著提升0.14,22.10%臺生赴陸發展意願變低,52.89%變高, 25.00%沒有變化。本文建構的迴歸方程式可以解釋臺生赴陸發展意願 變遷程度出現22.71%的變異。男性、對中國大陸印象變愈佳、以及對 大陸市場自評利益變愈佳者,其赴陸發展意願變愈高。 關鍵字:太陽花學運、兩岸關係、社會接觸、理性選擇 本文乃科技部專題補助研究成果,計畫編號:MOST 105-2410-H-214-002-MY2。
Panel Study of Career Planning Among
Taiwanese Students Studying in Mainland
China During the Xi Jinping Era
Chia-Chou Wang
Professor, Department of Public Policy and Management, I-Shou University, Taiwan
【
Abstract】
In the wake of Taiwan’s Sunflower Student Movement, a primary goal of the Chinese government in its policy towards Taiwan has been to gain a greater identification with Chinese identity among more Taiwanese youths. One innovative strategy the Chinese government has adopted is to attract Taiwanese youths to pursue a career in mainland China through organizing exchange activities. Therefore, studying changes in the career planning of Taiwanese students who have undertaken such exchanges in China have become an important emerging topic in cross-strait studies. This study focuses on Taiwanese students who visited China during the winter and summer vacations of 2016. It employs a panel data investigation based on social contact and rational choice theories to analyze the changes in their career planning and the factors that influenced these changes. The results showed that on a scale of 1-4, the average score of these students’ intentions to pursue a career in China significantly increased by 0.14, with 52.89% exhibiting an increased intention and 22.10% a decreased intention, and 25.00% demonstrating unchanged intentions. In addition, a regression model
This work was supported by the Ministry of Science and Technology, R.O.C. [grant number
was established to explain 22.71% of the variance in these changes. Specifically, Taiwanese students who were male, gained an improved impression of China, and those whose perceived benefits in the Chinese market had been enhanced showed an increased intention to pursue a career in China.
Keywords: Sunflower Student Movement, cross-strait relations, rational
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