ブレトンウッズ体制と中国の国家戦略
から分析する
AIIB の国際金融ガバナン
スへの挑戦
邱
奕 宏
(台湾国立交通大学通識教育センター助理教授)【要約】
本 稿では 、中 国の国 家戦 略の角 度か ら、中 国政 府がア ジア インフ ラ投資銀行(AIIB)の創設を通じて達成しようとする戦略の目的、 潜 在的意義お よび国際金 融ガバナン ス体制に対 する挑戦に ついて 検 討 する。また 、ブレトン ウッズ体制 が米国の世 界経済にお ける覇 権 拡張といかに結びついているかを説明するとともに、AIIB の性質に 近 い世界銀行 およびアジ ア開発銀行 がいかに主 導国家に裨 益して き た のかを分析 する。そし て、中国の 国家戦略か らみて、同 国の国 家 戦略である「一帯一路」におけるAIIB 創設の役割を検討するととも に、AIIB、世界銀行およびアジア開発銀行の 3 者の差異を比較する。 最後に、AIIB が現在の西側諸国が主導する国際金融秩序にもたらす 挑戦について分析する。 キ ーワ ード: アジアインフ ラ投資銀行 、ブレトン ウッズ体制 、世 界 銀行、アジア開発銀行一 はじめに
国際政治経済情勢は 21 世紀初めから、巨大な変動を遂げている。 2001 年の 911 テロ、2008 年の世界金融危機後、国際政治および経済 はその発展の方向はねじれ、第 2 次世界大戦期に確立された戦勝国 主導による国際経済秩序も、連動するように緩んできている。 十数年に及 ぶ反テロ戦 争の消耗と サブプライ ムローンが 引き起 こ し た世界金融 危機の衝撃 は、それま で世界経済 の成長をけ ん引し て い た主要な原 動力であり 、国際世界 経済秩序と ルールを制 定し、 権 力 を支配して いた米国の 経済力を弱 体化させた 。反して、 国際政 治 経 済の秩序を そのまま受 け入れてい た被支配者 の開発途上 諸国、 と りわけBRICS を中心とする新興市場国家は、ポスト金融危機初期に 世 界経済を支 える役割を 担うように なると、広 く期待が寄 せられ る よ うになった 。多くの人 々は西洋諸 国主導の世 界経済体制 は過去 の ものになると予想した。 しかし、近 年、世界経 済成長の鈍 化、消費ニ ーズの減退 、石油 の 供 給過剰、コ モディティ の価格下落 等、さまざ まな負の要 素が影 響 し、期待が寄せられていたBRICS 諸国の経済は、その光明もにわか に 暗雲が立ち 込めるよう になった。 世界経済の 需要が低迷 する今 、 ブラ ジルとロシ アは原料輸 出に過度に 依頼してい る弱点が露 見した 。 世 界金融危機 時にも成長 を維持して いた中国で すら、近年 の世界 的 な需要不振や国内の生産能力過剰といった衝撃を受け、いわゆる「新 常態」(new normal)に入ったと自らを位置付け、年経済成長率 6~7% の 維持を目標 に設定する ようになっ た。こうし て中国が世 界経済 を 支えるという期待は水泡に帰した。 言い換えれ ば、混沌と している状 態こそが現 在の世界経 済の特 徴 と いえよう。 これは、西 側諸国の国 力が落ちて いるだけで なく、 それ に取って代 わる新興勢 力が未だ現 れておらず 、世界経済 が停滞 し て 前進しない 現状を打破 しようとす る明確なパ ワーが欠如 してい る ということである。現在の世界経済の混迷は、第 2 次世界大戦後に 米 国主導で確 立し、世界 経済の安定 と発展を促 進すること を主旨 と する「ブレトンウッズ体制」が、21 世紀に入って多くの課題に直面 していることを顕著に示している。 こ の 体 制 下 で 世 界 の 貿 易 ル ー ル を 掌 握 し て い る 世 界 貿 易 機 構
(World Trade Organization, WTO)が、ドーハ・ラウンドの交渉失敗
後 、停滞して 前進をみな い苦しい状 況に陥り、 各地域で起 こった 地
域貿易協定(regional trade agreements, RTAs)との挟み撃ちにあって
い るほか、国 際金融秩序 の管理およ び国家が金 融危機を乗 り切る た め の 支 援 を 主 旨 と す る 国 際 通 貨 基 金 (International Monetary Fund, IMF)は、世界および地域の金融危機に対処する上で、その成果が振 る わないと、 たびたび批 判を浴びて いる。発展 途上国の社 会発展 と 経済成長への協力を主旨とする世界銀行(World Bank, 以下、世界銀 行 )も、第三 世界の多く の国から成 果に対する 疑義や内部 の職員 に よる汚職などに対して非難を受けた。 こうして、第 2 次世界大戦後の西側自由市場の資本主義を基調と す る世界経済 秩序を維持 することは 、ここ数年 のグローバ ルガバ ナ ン スにおいて 多くの課題 と新興勢力 の挑戦に直 面している 。こう し た既存の国際経済体制の挑戦が続く中、2013 年、中国がアジアイン
フラ投資銀行(the Asia Infrastructure Investment Bank, AIIB)の設立
を提唱、2015 年には正式に発足し、西側諸国が主導する現在のグロ
ー バルガバナ ンス機制に おいて、初 めて非西側 の発展途上 国の手 に よ って創設さ れるとあっ て、その深 層にある政 治・経済的 意義は と りわけ注目するに価する。
国 家間の相互 往来および 連結は日増 しに緊密に なっており 、国家 は 法 律を制定し 、国際社会 のアナーキ ーな状態下 での取引コ スト高 を 引 き下げなけ ればならな い。国家間 の協力や協 調を通して 、ある い は 国際組織お よび国際法 等の国際レ ジームの確 立を通して 、効果 的 に 不確実性を 引き下げ、 国家間協力 を増進する ことで、メ ンバー は 共に利益を獲得することができる1。 しかし、こ れらの理論 によると、 国際レジー ムの確立に は主導 国 家による「能力」(ability)と「意思」(willingness)が必要であり、 制度確立時には初期コストの支払い負担が必須となる2。この主導国 家 は純粋な利 他主義に基 づいて進ん で負担を引 き受けよう とする の で はなく、そ れとは反対 に、主導国 家は自己の 利益を長期 的に考 え た上で国際的な責務を負おうとする3。 同様に、現在の国際金融体制の本質は、多国間協調機制により「国 際 公共財」を 管理し、国 際金融秩序 の維持と安 定および経 済発展 を 主 要な目的と している。 しかし国際 金融の発展 を管理する 国際機 制 そ のものに、 主導国家の 利益とイデ オロギーが はめ込まれ ること は 避 けられず、 国際組織の 名義と効能 を通じて主 導国家自身 の国家 利 益 を延伸およ び拡張する ことを可能 とする。つ まり、グロ ーバル ガ
1 Keohane, R. O., After Hegemony: Cooperation and Discord in the World Political Economy,
(Princeton: Princeton University Press, 1984); Krasner, S. D., Ed., International Regimes, (Ithaca, NY: Cornell University Press, 1983); Ruggie, J. G., “International Regimes, Transactions and Change: Embedded Liberalism in the Postwar Economic Order,” In S. D. Krasner Ed., International Regimes, (Ithaca: Cornell University Press, 1983), pp. 195~232.
2 ロバート・オーエン・コヘインはこうした国家を覇権国家(hegemon)と定義した。
Keohane, R. O., op.cit., 1984, p. 39.
3 Keohane, R. O., “The Theory of Hegemonic Stability and Changes in International Economic
Regimes, 1967-1977,” In O. R. Holsti, R. M. Siverson, & A. L. George Eds., Change in the
バ ナンスの発 展はおおよ そ主導国家 が達成しよ うとする国 家利益 や 戦略意図に相応している。 自由貿易が19 世紀パクス・ブリタニカにおいて世界経済秩序の維 持のために遵守された大本営であったように、20 世紀パクス・アメ リ カーナの下 では自由資 本主義が遵 守すべき経 済制度のド グマで あ っ た。しかし 、強調すべ きは、現在 では自明の 経済イデオ ロギー と み なされてい るものの多 くは人為的 にはめ込ま れたもので あり、 そ の 時代の特定 の主導国家 の利益に有 利に働き、 国際社会の 共同利 益 の 発展に有益 であるとい う大義名分 を用いて、 主導国家と 同様に 信 服・遵守させられるものであるということである。 この角度からみると、世界の主導国家にならんとする強権国家は、 膨 大な初期コ ストがかか る国際組織 の設立を通 じて対外的 な影響 力 を 拡大しよう とし、その 多くは国家 の戦略目標 をその組織 の中に は め 込んで、当 該組織を自 身の国家戦 略を実践し 、国家目標 を達成 す るための手段やツールとなるよう働きかける。 19 世紀の自由貿易体制によって産業革命以降、他者を圧倒する生 産力を誇った英国のように、米国は第 2 次大戦後のブレトンウッズ 体 制により、 世界経済に おける圧倒 的な地位を 確立し、同 時に米 国 が 発行するド ルが金と同 等の貨幣価 値を獲得し 、世界経済 を動か す 国 際基軸通貨 となった。 このため、 米国はブレ トンウッズ 体制を 通 じ て世界で唯 一の規制を 受けない、 どの国家に 対しても責 任を負 う 必 要がない「 法外な特権 」(exorbitant privilege)を獲得した4。 中国 が設立した AIIB にも必然的に中央政府が達成や拡張を望む戦略目 標 や国家利益 が隠れてい る。もし、 世界の共同 利益の促進 といっ た
4 Eichengreen, B., Exorbitant Privilege: The Rise and Fall of the Dollar and the Future of the
美 辞麗句の下 に隠された 主導国家の 戦略意図や はめ込まれ た国家 利 益 を無視すれ ば、国家ア クターの動 機や目的に ついて踏み 込んだ 理 解はできない。 本論文の主旨は、中国の国家戦略の角度から、北京がAIIB の設立 を 通して達成 を図ろうと する戦略目 的、潜在的 意義および 現在の 国 際 金融ガバナ ンス体制に 対する挑戦 について検 討するもの である 。 本文は、中国がAIIB を設立したことで、世界の主導国家にならんと す る戦略意図 が明るみに なったと認 識している 。しかし、 中国が 今 後、AIIB を通して自身の利益を拡大するか否かは、既存の国際金融 体 制と主導国 家間の相互 往来から観 察、分析し なければな らない 。 これは、中国がこの類の国際金融機構の創設者ではなく、AIIB が既 存 の国際金融 機構の模倣 と改良に基 づいて設立 されたもの であり 、 全くのゼロから創り出したものではないということである。 主導国家と 国際金融制 度の間にあ るインタラ クティブな 関連性 を 理 解するため 、本論文は 現在の世界 経済秩序の ガバナンス の枠組 み を 管理するブ レトンウッ ズ体制から 出発し、こ の体制が米 国の世 界 経 済における 覇権拡張と いかにつな がっている のかを説明 する。 次 に 、AIIB の 性 質 に 近 い 世 界 銀 行 お よ び ア ジ ア 開 発 銀 行 ( Asian
Development Bank, ADB)について、これらの設立および運営が主導 国 家の利益に いかに資し てきたのか を分析する 。このほか 、中国 の 国家戦略の角度から、中国の国家戦略におけるAIIB の役割を検討す るほか、「一帯一路」構想との関連性について考察する。さらに、AIIB、 世界銀行、ADB の差異を比較し、AIIB が既存の国際金融体制にもた らす影響について理解する。最後に、AIIB が現在の西側諸国主導の 世界金融秩序にもたらす挑戦について列挙し、まとめとする。
二 ブレトンウッズ体制の政治的・経済的意義
第2 次世界大戦の終わりが近づく 1944 年夏、44 の同盟国メンバー に より、米国 ニューハン プシャー州 の景勝地で あるブレト ンウッ ズ で 2 週間に亘る国際通貨会議が開催され、戦後の国際秩序の案配に ついて検討された。この会議の最後に、戦後の世界経済を管理する3 つ の多国間国 際組織が設 立され、そ れぞれ異な る国際的経 済問題 を 負担することが決定された。 この 3 つの組織はそれぞれ、国際的な通貨の流通を管理し短期的 な緊急融資を提供することで国際経常収支を均衡にするための IMF、 発 展途上国へ の中長期的 な融資によ り経済発展 および貧困 の減少 を主目的とする国際復興開発銀行(International Bank for Reconstruction
and Development, IBRD)、世界貿易ルールを制定、管理し、国家間の 貿 易 紛 争 を 処 理 す る こ と を 目 的 と す る 国 際 貿 易 機 関 (International Trade Organization, ITO)である5。
この 3 機構は世界経済事務の管理を主旨とする国際組織として成 立 したが、純 粋に国際金 融の安定確 保や発展途 上国の経済 発展の 促 進 といった経 済目的から 生まれたも のではない 。逆に、世 界経済 事 務のガバナンスにかかる国際組織の成立は、相当程度において1930 年 代に起こっ た「世界大 恐慌」によ り各国が手 前勝手な経 済ナシ ョ ナ リズムを採 用したこと で、政治が 急進化し世 界大戦を誘 発した と
5 米国政府は ITO が同国議会の承認を得ることができないと考えたため、比較的緩い 関税と貿易に関する一般協定(GATT)に変更した。この協定は大統領の同意のみを 必要とし、議会の承認は必要としなかった。Helleiner, E., “The Evolution of the International Monetary and Financial System,” In J. Ravenhill Ed., Global Political Economy 4th ed., (Oxford: Oxford University Press, 2011).
いう要因を回避するためと言える6。言い換えれば、戦後の世界経済 秩 序の安定を 維持するこ とは、消極 的には経済 危機と国際 衝突を 回 避 できるほか 、積極的に 経済発展と 世界平和を 促進するこ とがで き る 。このため 、経済秩序 の乱れによ る国際衝突 の発生を減 少させ る こ とは、有史 以来「レジ ームの創造 」に属する グローバル 経済ガ バ ナンス機構が産み出す根本原因となっている。 しかし、こ れら国際機 構は世界の 公共利益を 提供すると してい た が 、実際は、 これらの制 度が当時の 主導国家の 国家利益の ために 奏 功 し、これら の主導国家 が国際的な 政治理念や 世界観を推 進・展 開 するために機能していたことは明らかである。 例えば、ブ レトンウッ ズ体制下、 貿易および その他の経 済活動 は 必 ず拘束力を 持った国際 規則によっ て管理し、 かつ国家は 国際経 済 に干 渉するべき ではないと いうことに 関係諸国は いずれも同 意した 。 こ のほか、関 連諸国は以 下の基本原 則を遵守し なければな らなか っ た―(1)国家は貿易自由化を承諾し、無差別を原則とする多国間協 調を 通じて目標 を達成する 、(2)国家は国際収支統計に同意し、取 引は 規制を受け ず、資本の 自由な移動 を許可する 、(3)国家は為替 レ ートについ て固定相場 制あるいは ペッグ制の 採用に同意 し、個 別 国家がレート変更という重大な変更をする場合は、IMF と調整をし なければならない7。 これらの原 則の主な目 的は、国内 経済の自主 性と国際規 範の維 持 と いう両者の 衝突に解答 を示すこと にある。自 由放任や金 本位制 の 経 済自由主義 を過度に強 調し、国内 経済の安定 を犠牲にす ること を
6 Balaam, D. N., & Veseth, M., Introduction to International Political Economy 2nd ed.,
(Upper Saddle River, NJ: Prentice-Hall, Inc., 2001).
7 Gilpin, R., The Challenge of Global Capitalism: The World Economy in the 21st Century,
避 ける一方、 国家利益を 過度に重視 し保護主義 の流行を誘 発し、 国 際 経済を破壊 することを 防止すると いう側面も ある。この ため、 ブ レ トンウッズ 体制下の国 家は経済面 で十分な就 業機会と経 済成長 を 促 進する役目 を演じるこ とを許され るが、その 行動は国際 規範の 下 に進行される8。 そのため国 内経済の安 定・促進と 国際経済秩 序の維持は 共存が 可 能 となり、自 由主義によ る自由貿易 の理念、多 国間協調に よる国 際 的 メカニズム 、金本位精 神による固 定レート制 、ケインズ 主義に よ る マクロ経済 の角度から の国際経済 管理といっ た概念が、 ブレト ン ウ ッズ体制の 構築および 運用の下で 各国の経済 体制にはめ 込まれ 、 国際間で各国が遵守する原則や励行する規範となった9。 しかし、注 意すべきこ とは、これ らの原則や 概念は反論 不能な ほ ど 正しいもの でも、もと もと大多数 の国家によ って共に遵 守され て い た規則でも ない。逆に 、これらの 考え方はジ ョン・メイ ナード ・ ケインズ(John Maynard Keynes)等、少数の英米の経済学者が打ち
立てた国際経済秩序の規範であって、彼らが第 2 次大戦後の政治的 勝 利によって 国際経済公 共財のガバ ナンスの上 に付け加え たもの で あ り、非共産 陣営国家が 共同で遵守 していたも のではない 。さら に 重 要なことは 、これらの 原則は次の ような意味 を含んでい る、つ ま り 、国際経済 秩序の安定 や発展は、 各国が対応 する国内経 済制度 を 採 用して足並 みをそろえ なければな らず、また 、これらの 国家経 済 制度は政治体制によって支えらなければならなかった。 このため、 ブレトンウ ッズ体制の 主導国家で ある米国は 、市場 メ
8 Balaam, D. N., & Veseth, M., op.cit., p. 57.
9 Ruggie, J. G., “International Regimes, Transactions, and Change: Embedded Liberalism in
カ ニズムを尊 重する自由 主義経済体 制は民主的 な政治体制 下で最 大 の 効率・効果 を発揮する と強調した 。逆に、国 家が計画経 済を採 用 し 、市場メカ ニズムを否 定し、個人 の経済的自 由の選択を 無視す れ ば、ハイエク(F. A. Hayek)が「隷属への道」で言明したような全 体主義の勃興を引き起こし10、世界的な政治の安定と経済の成長を脅 かすとした。 言い換えれ ば、経済の 自由と政治 の自由は互 いに補完す るとい う こ とである。 ブレトンウ ッズ体制を 構成するメ ンバーは市 場メカ ニ ズ ムを尊重し 、経済自由 の資本主義 国家と想定 される。ま たこれ ら の 国家は必然 的に民衆の 福祉と個人 の自由を重 視する民主 国家で あ り 、政治的に は当然、米 国主導の自 由世界陣営 の一員とな り、私 有 財産 制を否定し 中央計画経 済を主張す る共産主義 陣営とは相 違する 。 ま た、一旦国 家がブレト ンウッズ体 制により計 画された世 界経済 体 制 の合法性を 承認し受け 入れれば、 それは自ず と自由資本 主義が 国 際 社会の主流 として正当 な経済思想 であり、政 治的にも西 側の民 主 制度に向かって進むことを認めることでもある。 このため、 国家がある 種特定の「 国際経済シ ステム」制 度の一 員 と なることは 、ある程度 において当 該国がこの 制度下で偏 った政 治 制 度へ移行し なければな らないこと を意味する 。これは特 定の国 際 経 済体制の発 展過程にお いてその国 際メンバー 、すなわち 国家の 社 会 化の結果生 まれた政治 的な影響で ある。過去 冷戦期の西 側の資 本 主 義陣営と東 側の共産主 義陣営にお いて、米国 とソ連が各 自の政 治 勢 力を直接的 または間接 的に行使す ることで、 その内部メ ンバー に よる偏った経済制度の運用に影響したことが、その証拠である。
三 国際金融機構の創設と主導国家の国家利益
異なる角度 から観察す ると、ブレ トンウッズ 体制の国際 金融ガ バ ナ ンスは現代 国際関係の 歴史におい て画期的な 取り組みと 言える 。 経 済理論から みれば、ケ インズ主義 の下で政府 の力によっ てマク ロ 経 済を管理す るという論 点を世界経 済の領域で 実践すると 主張し 、 ブ レトンウッ ズ体制の国 際経済ガバ ナンスがま さに「世界 政府」 の 力で 世界経済に おける国際 機構に関与 することを 代表すると 言える 。 しかし、国際経済の規範と管理については国内市場と同じように、 公 共財の範疇 に属してお り大多数の 公衆利益を 代表する政 府によ っ て処理されるが、国際間ではこの責任を担う世界政府は存在しない。 こ のため、学 者らは、国 際公共財の ガバナンス は「意思」 があり か つ 「能力」が あることに 依存し、こ の重責を負 うことがで きる覇 権 国 家により主 導されると 指摘する。 これは国際 公共財のガ バナン ス が 特定の覇権 国家の支持 を必要とす るためで、 その他の国 々が負 担 を 望まない巨 額な費用を 支払う能力 が十分にあ り、かつ高 度な知 見 や 統率力とい う側面にお いてその他 の国々をリ ードする能 力があ る こ とが求めら れるためで ある。そし て、その国 家は重大な 任務を 引 き受ける強烈な意思が必要となる11。 20 世紀初め、第 1 次世界大戦後の米国は、その全体的な国力の上 に 覇権国家と して国際公 共財をガバ ナンスする 能力を備え ていた に も 関わらず、 戦後国内の 孤立主義の 影響を受け 主観的なリ ーダー シ ップの意思に欠けていた。100 年後の中国を照らし合わせると、経済11 Kindleberger, C. P., The World in Depression, 1929-1939, (Berkeley: University of California
Press, 1973); Kindleberger, C. P., “Dominance and Leadership in the International Economy: Exploitation, Public Goods, and Free Riders,” International Studies Quarterly, 25(2), 242-254, 1981.
力は世界第 2 位に上りつめ、遠くない将来に米国を超越することが 予測されている。AIIB の設立は、中国が国際公共財という重大な責 務を 負う能力と 意思をいず れも有して いることを 如実に示し ている 。 中国の主導に対する積極性に比べ、米国は第 2 次世界大戦時、戦後 の 国際秩序の 再建と復興 を担う能力 が唯一有る 国家である ことを 消 極 的に認知し 、さらに米 国自身が今 後の国際経 済について 青写真 を 描 くことで、 世界経済を ガバナンス するために ブレトンウ ッズ体 制 を構築し、また米国自身の利益をこの体制の中にはめ込んだ。 本節では、AIIB の性質に比較的近い国際金融機構である世界銀行 と IMF、および地域金融機構である ADB の設立を分析することで、 多 国間金融メ カニズムの 背後にある 主導国家が 設立時に、 どのよ う に メカニズム 内に国家利 益をはめ込 んで運用さ せ、また金 融機構 設 立にあたってどのような「特権」を獲得したのかをまとめる。 1 米国と世界銀行および国際通貨基金の創設 米国は第2 次大戦終結後、正式に世界の覇権的地位に躍り出ると、 戦 後の世界経 済秩序のガ バナンスを 維持すると いう重責が 、当然 の よ うに肩にの しかかった 。主に発展 途上国の経 済成長を援 助する 世 界銀行と国家に短期的な資金を提供するIMF が、米国による国際経 済公共財ガバナンスへの貢献ための主要ツールとなった。この 2 大 国 際経済ガバ ナンスメカ ニズムは、 米国の思想 を反映し、 英国の 提 案 を斟酌して 設立された 。もっとも 顕著な例と して、当該 機構が い ず れもその規 定において 米ドルが金 とほぼ同等 の価値とし て認定 さ れ 、国際基軸 通貨として の独自の地 位を獲得し 、同時に、 英ポン ド な どその他の 貨幣の国際 金融におけ る準備およ び流通の重 要性は 弱
まった12。 この結果が生じた主因は、世界銀行およびIMF の成立当初におけ る 、各出資国 の経済力お よび出資比 率に関係し ている。主 権国家 の 大 小に関わら ず、分け隔 てなく平等 な加盟国と いう立場を 強調す る 国連の設計とは異なり、2 つの国際金融機構は創設当初から、加盟国 に 平等な投票 権は与えず 、民間の私 営金融機構 のやり方に 従い、 出 資比率に基づいて加盟国ごとに異なる「投票権」を与えた。 米国が第 2 次大戦後唯一の経済大国であったため、比較的多い出 資 を負担する ことが当然 のように期 待された。 このため、 世界銀 行 の初期資本額100 億米ドルのうち、米国は 31.74 億米ドルを出資し、 37.2%の投票権を獲得した。また、IMF も加盟国の世界経済における 相 対的な重要 性を基に基 金への出資 割当額(ク オータ)が 割り当 て られ、「加重投票制」の下、経済力が大きい加盟国ほど出資割当額は 大きく、投票権も自然と大きくなっている。米国のIMF に対する貢 献は27.5 億米ドルで、英国の 13 億米ドルの倍余りに達しており、当 該機構においても必然的に影響力が最も大きい国となっている。 米国はこの2 大国際金融機構の最大出資国であることを背景に、2 大 機構の本部 をワシント ンに設置し 、世界銀行 の総裁を暗 黙の了 解 と して米国出 身者から選 出する慣例 を強固にし ている。出 資比率 が わずかに米国に及ばない西ヨーロッパ諸国だが、IMF の総裁は欧州 から選出する慣例が守られた。これより、米国は 2 大機構の創始国 家 および主導 国家として 、本部所在 地地点の設 置とトップ のアサ イ ン を直接主導 し、表面上 「グローバ ル経済ガバ ナンス」と して、 両
12 例えば、IMF 成立協定において、規定メンバーは貨幣を金か米ドルに設定した。金 とドルの交換率は、金1 オンス=35 ドルと定められた。参照:“Articles of Agreement of the International Monetary Fund,” IMF, https://www.imf.org/external/pubs/ft/aa/.
機 構に対して 政策の制定 と方向性に ついて直接 的あるいは 間接的 に 影 響を与えた 。世界銀行 について、 理事は必ず 米国政府が 指名す る ほ か、総裁の 人選につい ては米大統 領が指名を することで 、世界 銀 行 の今後の政 策・人事・ 予算編成に ついても直 接的な影響 を及ぼ し ている13。 第 2 次世界大戦初期からの米国の世界戦略を見ると、IMF が為替 レ ートの安定 という任務 を遂行して いることと 比較して、 世界銀 行 は、元の名前を国際復興開発銀行(IBRD)としたように、西側諸国 お よび発展途 上国との妥 協の結果で あった。米 国はもとも と当該 銀 行を 戦後の欧州 諸国に対す る融資提供 元としたた め、「復興 」(あ る い は再建と訳 した)の名 を冠したが 、発展途上 国側が第三 世界の 国 家 への資金援 助に対する 「発展」の 機能を強調 することを 希望し 、 両方の妥協の上で名称が決定された。 1947 年世界銀行による戦後再建ためのフランス、オランダ、デン マ ークへの初 の融資は、 米国が世界 銀行を利用 し西欧諸国 の戦後 の 経 済安定とい う目的を達 成しようと しているこ とが明らか にみて と れる。しかし、米国のトルーマン(Harry S. Truman)政権はソ連の 東 欧での急速 な拡大と西 欧への浸透 に直面し、 二国間ルー トの「 マ ー シャルプラ ン」を通じ て西欧に大 規模な経済 援助を決定 し、戦 後 復 興および共 産主義の手 から逃れる ことを助け た。この転 換によ り 世界銀行の重心を徐々に戦後復興から経済発展へと移行した14。こう し て、世界銀 行は発展途 上国に長期 融資を提供 し、米国が 発展途 上 国に対して外交面で発揮する経済ツールとなっていた。
13 Cohn, T. H., Global political economy: theory and practice 3 ed., (New York: Pearson
Education, Inc, 2005).
広大な第三 世界に直面 し、米国は 世界銀行を 利用してこ れら植 民 統 治から抜け 出したばか りの発展途 上国に狙い を定め、そ れらの 国 家 のインフラ 整備に対し て世界銀行 から融資を 行って社会 の安定 と 経 済発展に協 力し、また 間接的には 共産陣営に 陥落するこ とを防 い だ。冷戦のピークであった1960~70 年代、世界銀行が発展途上国に 対 して行った 融資とイン フラ計画の 資金援助は 、これら国 家の政 治 的立場と密接に関連している。最も顕著な例を挙げると、1965 年、 インドネシアで親共のスカルノ(Sukarno)政権から右派軍人のスハ ルト(Suharto)政権に代わり、西側の市場経済と外資開放解放政策 を採用すると、IMF と世界銀行は援助を開始し15、スハルト政権期の 同国には300 億米ドルが注入され、「世界経済の模範生」と賞賛され、 一方で内部の独裁と蔓延する腐敗や汚職は無視された16。 世界銀行は 、米国の世 界戦略に奉 仕する対外 経済ツール である ほ か、「アジェンダセッティング」を通じて、主導国家による融資項目 の 手配を利用 した自身に 有利な特定 の政策およ びイデオロ ギーの 普 及を可能にした。たとえば、1968 年から 1980 年までロバート・マク
ナマラ(Robert Strange McNamara)が世界銀行総裁を務めた時期、
世 界銀行は人 類の基本的 要求を強調 し始め、有 償資金協力 項目を イ ンフラ整備から社会サービスに拡張した。1980 年代には、世界銀行 は 正統自由主 義路線に転 向し、資金 援助を受け る発展途上 国内部 の 市場効率と構造調整を強調し、1989 年からは環境保護や非政府組織 の参与を考慮に含め始めた。 世界銀行は1990 年代には発展途上国に対して融資を提供すること
15 Palmer, I., The Indonesian Economy Since 1965: A Case Study of Political Economy,
(London: Frank Cass & Company Limited. 1978).
16 Hill, H., Indonesia’s New Order: The Dynamics of Socio-economic Transformation, (Allen &
で 、これらの 国家に関連 した改革を 推進するこ とを求めた 。これ ら 改革の政策還俗は「ワシントンコンセンサス」に集約され、自由化・ 規 制緩和・民 営化によっ て市場効率 と経済発展 を促進する もので あ った17。こうした政策の発展は、世界銀行が開発問題を処理する際に 直 面した課題 と調整を反 映している ほか、当時 の主導国家 の主流 な 経 済思潮や政 策思想にか なり符号し ている。そ こで、世界 銀行は 研 究 報告を通じ て、各国の 経済発展の 潜在能力を 判定し、あ る国家 の 経 験を開発成 功のモデル として賞賛 したり、ま たある政策 を国家 の 経済開発の成功条件として高く掲げたりした18。 このほか、IMF および世界銀行が融資先の民主国家に比較的好意 的 な差別待遇 をしている という研究 報告もある 。両機構は 、民主 国 家 に対して市 場改革計画 の実行を要 求する際比 較的寛大な 態度で 臨 み 、そうした 国家の指導 者が選挙前 に改革を一 時的に停止 し、よ り 多く の民衆から の支持を獲 得できるよ うにするこ とを許容し ている 。 同 様の研究で は、米国の 同盟国が融 資を受ける 場合、その 他の国 家 に 比べて敷居 の低い融資 条件を獲得 することが できるとも 指摘さ れ ている19。この研究では、国際機構の主導国家として当該機構を利用 し 選好国家に 対して待遇 を差別する という顕著 な事例を証 明して い
17 Williamson, J., “What Washington Means by Policy Reform,” In J. Williamson Ed., Latin
American Readjustment: How Much has Happened, (Washington, DC: Peterson Institute for
International Economics, 1990).
18 たとえば、世界銀行は 1993 年のレポート、The East Asian Miracle: Economic Growth and
Public Policy で、ある状況下における政府の干渉は有益であるとの認識を示してい
る。A World Bank Policy Research Report, The East Asian Miracle: Economic Growth and
Public Policy, (NY: Oxford University, 1993).
19 Dreher, A., & Jensen, N. M., “Independent Actor or Agent? An Empricial Analysis of the
Impact of U.S. Interests on International Monetary Fund Conditions,” The Journal of Law &
る。 2 日本とアジア開発銀行 世界銀行の 業務が世界 各地域の発 展計画をカ バーしてい るのに 比 べ、世界銀行成立から20 年後の 1966 年に設立された ADB は、その 主 旨をアジア 太平洋地域 諸国の経済 成長および 協力に置き 、イン フ ラ整備のための融資を主要機能の 1 つとしている。中国が提唱した AIIB の設立は、世界銀行への影響をはるかにしのぐ衝撃を ADB に 与えたが、これは ADB および AIIB の両者のカバーする地域および 機 能が非常に 重複してい るためであ る。フィリ ピンのマニ ラに本 部 を持つADB は、現在 67 のメンバー国を有し、そのうち 48 はアジア 太平洋地域の国家、残りは域外国家となっている20。 ADB 設立には日本が世界的な威信と影響力を獲得したいという意 思が関連している。ADB の誕生は、日本が 10 年足らずで戦後の廃 墟の中から復興し、米国に次ぐ世界第 2 位の経済大国に一躍躍り出 た 1960 年代のことである。ADB の設立は、アジア地域における開 発 の需要が極 めて膨大で 、業務範囲 が世界全体 に及ぶ世界 銀行で は 単 独で負担す ることがで きず、アジ ア地域の経 済発展に特 化した 銀 行を設立する必要があると日本が考えたためである。その上、当時、 世 界各地域で 独自の、地 域開発銀行 が存在して いたが、た だアジ ア のみそれがなかった。このため、日本が米州開発銀行(Inter-American
Development Bank)や欧州投資銀行(European Investment Bank)を参
考 に 、ADB を設立して世界銀行のアジアにおける業務を支持した。
出資比率をみると、日本の当初の構想は10 億米ドルを募る予定で
あった。米国および日本は各自 3 億米ドル、本部は東京に設置し、
日 本人が総裁 を務めると 提起したが 、米国はそ のような考 えを持 っ ていなかった。当時、折良く国連アジア極東経済委員会(the United Nations’ Economic Commission for Asia and the Far East, ECAFE)がア ジ ア地域での 独立銀行設 立の可能性 を探ってお り、このた め日本 が 提起したADB 設立プランは ECAFE の計画および裏書きの下で成立 し た。日本政 府はこれに 対し、アジ アの国から 日本による 主導に 反 感を買われないよう低調な態度で事を進めた。最終的に1966 年、日 本人が総裁を担当することで決定してADB が設立、ただし本部は 1 票差で東京ではなくマニラが選出された21。 ADB は日本が 1960 年代の経済復興後に対外的な金融パワーの拡 張 を通じて日 本経済の影 響力を強め るために用 いた外交ツ ールと 言 え る。しかし 政治的に米 国を拠りど ころとして いた日本は 、同地 域 の 金融機構設 立のために は必ず米国 の支持を得 なければな らなか っ た。日本は、米国にADB 設立の出資金額を分担させ、世界の金融市 場 の信頼度を 増進させよ うとしただ けでなく、 米国の参与 によっ て ア ジア諸国の 日本主導に 対する憂慮 を避け、同 時に米国主 導の世 界 銀行とリンクし、米国の警戒心を低下させることができると考えた。 このため、ADB は米国主導の世界経済秩序の下、日本が経済的影響 力を拡張させようと試みた路線といえた22。 2015 年の統計によると、ADB の投票権トップ 5 は日本が第 1 位で 12.798%、第 2 位が米国で 12.710%、以下中国 5.459%、インド 5.369%、 豪州4.933%となっている。米国と日本の投票権が極めて大きく、日 本はしばしばADB は日米共同で主導していると言明しているが、実
21 Huang, P.-W., The Asian Development Bank: Diplomacy And Development In Asia, (New
York: Praeger, 1975).
際は日本が巧みにADB 内部の主導的地位を確立し、同時に当該機構 と 日本の財務 省の間に制 度的なリン クを構築し ている。米 財務省 が 世 界 銀 行 に 対 し て 影 響 力 が あ る の と 同 様 に 、 日 本 の 財 務 省 も ま た ADB に対して似たような権力を持っており、ADB 内部の幹部の多く が日本の財務省出身で、ADB 内の幹部の派遣や決定モデルはいずれ も日本の特色を色濃く反映している23。 一方で、ADB の出資比率において日本と伯仲している米国は、当 該 機構におい て日本を抑 制する役割 を務め、適 時日本に対 して非 対 称の優位的な政治・経済パワーを利用し、日本のADB における主導 的地位を抑えている。例えば米国は 1980 年代、ADB が日本の主導 の 下で過度に 大型の融資 計画を推進 していると 批判し、日 米関係 が 緊張した 1980~1990 年代前半には、日本のアジア開発銀行に対する 措 置に警戒を 続けていた 。もっとも 顕著な例と して、1997~1998 年 のアジア金融危機時、米国は日本が提出したアジア通貨基金(Asian Monetary Fund)設置について反対を表明し、頓挫させた。ADB の運 用 方向と内部 の幹部派遣 について日 本が主導し てはいたが 、米国 は ADB が日本の独占的なツールになることを避け、世界銀行の運用原 則および方向性との一致を確保しようとした。 ADB の政策の選択方向について言えば、設立当初はアジア地域の イ ンフラ整備 の資金援助 に重きが置 かれたが、 その後世界 銀行と 一 致するように貧困削減に目標が移っていった。ADB は世界銀行との 分 業および連 携を強調し てはいるが 、融資国家 のガバナン ス条件 に ついていえば、日本主導のADB は米国主導の世界銀行あるいは IMF
23 Wan, M., The Asian Infrastructure Investment Bank: The Construction of Power and the
Struggle for the East Asian International Order, (New York: Palgrave Macmillan, 2016), p.
の ようにグッ ドガバナン スを民主的 および民主 化として見 なして お らず、融資を供与するか否か評価する条件としている24。ADB はこ の 議題におい てより実務 的に開発ア ジェンダと 人権の関係 につい て 区別しており、日本主導のADB は比較的少ないがイデオロギーとい う 問題を抱え ているほか 、アジア地 域の半数以 上が成熟し た民主 国 家で ないという 現状を現実 的に受け止 めているこ とは明らか である 。 しかし、日本はADB の政策方向と融資提供について依然として重 要な影響を及ぼしている。日中関係についていえば、中国は1983 年 にADB に加盟し、6.2%の投票権を獲得していたが、年々その比率は 減 少し、経済 力が年毎に 上昇してい る状況は反 映されてい ないば か りか、ADB への実質的な影響力は下降している。つまり、日本は ADB の 主導を確固 なものとし ており、中 国の経済力 上昇という 課題は 問 題になっていない。これまで、中国はADB から多くの融資を獲得し ていたが、近年ADB は日本の主導の下、中国に対する融資を年々減 ら しており、 表面上は中 国の経済力 増進を理由 としている が、背 後 に ある原因は 、日本が中 国の軍事力 拡大と近年 悪化する日 中関係 を 懸念し、日本政府がADB に中国への融資を見直すよう要求している とされる25。
一方で、AIIB の ADB に対する排斥効果によって、AIIB からの挑
戦に対応するため日本は ADB の業務を調整しはじめている。2015 年、ADB は 2017 年までに 1.5 倍、約 200 億米ドルの資金をインフラ 投資の融資金として出資することを宣言した26。まり、AIIB と ADB
24 Ibid, pp. 73~74. 25 Ibid, pp. 68. 26 「安倍提出向亞洲基礎設施投 1100 億美元」『日本經濟新聞中文版』2015 年 5 月 22 日、 http://zh.cn.nikkei.com/politicsaeconomy/economic-policy/14486-20150522.html;「中尾武 彥:新興國家同樣可在亞開行做出貢獻」『日本經濟新聞中文版』2015 年 5 月 3 日、
の 業務は高度 に重複して おり、今後 アジア太平 洋地域にお けるイ ン フ ラ開発融資 において両 者が激烈な 競争に直面 するという ことで あ る 。その時に は両者の背 後にある主 導国家の外 交政策と政 治力・ 経 済力が各自の発展の成否を深刻に左右することになる。 3 主導国家と国際金融機構の特殊権力 前述の、米国の世界銀行における、また日本のADB における主導 的地位についての検討の中から、本節では以下の点に簡潔にまとめ、 こ れらの国際 金融機構に おいて、主 導国家とし て共有する 特殊な 権 力を説明したい。新興の国際金融機構である AIIB の提唱国として、 中国も AIIB を通じてこれらの権力を享有する可能性が極めて高く、 ひ いてはこれ らの権力を 行使するこ とで、国家 戦略を実践 し国家 利 益を拡張する可能性があるためである。 特殊な権力とは以下を含む。 (1) 重要アジェンダ設定を主導する権力:主導国家が国際金融機構 内 に特 定のア ジェ ンダを 当該 機構の 重点 発展方 向と して設 定す る こと ができ る。 例えば 、米 国は世 界銀 行設立 当初 欧州に 対す る再建をその発展方向と定めた。 (2) ゲームのルールを設定する権力:主導国家が国際金融機構の中 の 政策 決定方 法や 運用規 則に ついて 設定 するこ とが できる 。例 えば、米国が世界銀行およびIMF の規定においてメンバー資格 や 出資 比率の 方法 などを 設定 し、体 系的 に冷戦 時期 の共産 陣営 の東欧諸国の参与を排除した。 (3) 資源の分配と政策実行において主導国家の利益を連係させる権 力 :主 導国家 は国 際金融 機構 の資源 分配 と政策 実施 におい てで
http://zh.cn.nikkei.com/politicsaeconomy/investtrade/19383-20160503.html。
き る限 り自身 の政 策と国 家利 益にか なう よう影 響を 及ぼす こと が でき る。例 えば 、米国 は同 盟国に 対し て世界 銀行 から優 先的 に融資を獲得できるようにしている。 (4) 幹部の派遣および人材を選定する権力:主導国家が国際金融機 構 にお いて自 国か ら幹部 を派 遣し、 機構 のトッ プや 幹部を 担当 さ せ、 同時に 多く の専門 員を 当該国 から 選出し て機 構内の 職務 に就かせることができる。例えば、世界銀行およびADB 総裁は そ れぞ れ米国 、日 本から 選出 され、 内部 幹部も 比較 的高い 比率 で当該国から役職に就いている。 (5) 情報収集および規範的イニシアチブを提出する権力:主導国家 は 国際 金融機 構を 通じて 合法 的にメ ンバ ー国の 関連 情報を 収集 し 、さ らに機 構の 中で自 身の 利益に かな う規範 的な イニシ アチ ブを提出することができる。例えば、世界銀行とADB はいずれ も その 加盟国 の膨 大な情 報を 収集し 、主 導国家 であ る米国 ・日 本 はこ れらの 情報 の分析 を通 じて、 ワシ ントン コン センサ スの よ うな 規範的 なイ ニシア チブ を提出 し、 加盟国 にそ れに沿 って 改 革を 要求し たり 、ある いは 融資の 評価 基準か どう かを配 列す るよう要求したりしている。 (6) 主導国家と当該機構の特殊な連結を構築する能力:主導国家が 制 度的 あるい は成 文化さ れて いない 慣例 で機構 と国 家の特 殊な 連 結を 確立し 、機 構が主 導国 家の利 益と 政策を 一致 させる こと ができる。例えば1997 年にアジア通貨危機が発生した時、米国 財 務省 は世界 銀行 の政策 に大 きく影 響を 及ぼし 、ま た日本 の財 務省もADB の政策を指導する関係であった。 (7) 主導国家の特定の開発モデルやイデオロギーを広める能力:主 導 国家 は国際 金融 機構の 政策 実施を 通じ て国家 利益 にかな った 開 発モ デルお よび 潜在的 に特 定のイ デオ ロギー を広 めるこ とが
で きる 。例え ば、 米国が 主導 する世 界銀 行が広 める 制度は 自由 資 本主 義であ り、 国家が 経済 に干渉 する 保護主 義や 中央計 画経 済モデルを否定するものである。
四
AIIB の中国「一帯一路」戦略における役割
AIIB を提唱した 2013 年は、中国が今世紀初めて提出した国家大 戦略構想のカギとなる 1 年であった。この年の 9 月、中国の習近平 国 家主席は中 央アジアを 訪問した際 、初めて陸 上シルクロ ード経 済 ベルト構想を発表した。その後同年10 月にインドネシアを訪問した 際には海上シルクロード構想も発表し、AIIB 設立の構想も打ち出さ れた。これらの文脈からAIIB は中国の最新の戦略「一帯一路」構想 と緊密な関係にあることが分かる。 実際、インフラ開発融資を主要な目標とするAIIB は、提出された 時期が良いタイミングであったと言える。2013 年は ASEAN の大国 であるインドネシアがアジア太平洋経済協力(Asia-Pacific Economic Cooperation, APEC)首脳会議のホスト国を務め、その年に提出され た APEC の優先議題 3 項目の中で、国家間のインフラ連結を増進す る ということ が宣言され たが、これ はつまり「 連結性の促 進」の 議 題 における「 物理的連結 」である。 中国はアジ ア地域にお ける専 門 のインフラ投資の金融機関の設立を提唱し、APEC の多くの開発途上 国 と地域から 好意的な評 価を受けた 。一方で、 日米は各自 が主導 す る世界および地域金融機関(世界銀行と ADB)の排斥に AIIB が影 響を及ぼすと懸念し、態度を保留した。 2014 年、中国は一連の外交攻勢を展開し、対外的に一帯一路構想 および AIIB を大々的に宣言し、同年 10 月、中国がホストとなった APEC 首脳会議の期間にその成果を盛り込んだ。まず、中国は APEC 首脳会議開催の場を利用し、APEC の全メンバーエコノミーが参加する 一 帯 一 路 と ア ジ ア 太 平 洋 自 由 貿 易 圏 (Free Trade Area of the Asia-Pacific, FTAAP)の相互連結性パートナーシップ強化対話を開催 し、APEC の場で一帯一路構想の正当性を増進させた。そのほか、首 脳会議開催期間に、中国はAIIB 創設会議を開催し、設立メンバーへ の参加の意向がある21 カ国が招聘され、設立の覚書に調印した。そ の後、同年11 月には雲南省昆明市で第 1 回首席交渉代表会議が開催 された。2015 年 1 月には、ニュージーランド、サウジアラビア、タ ジキスタンが続けてAIIB への参加を表明、また同年 3 月には、英国 が 参加を表明 し、主要な 西側諸国と しては初の 参加表明と なった 。 その後、フランス、イタリア、ドイツが続いた。同年 6 月には、創 設メンバーとしての意向を持つ57 カ国が北京で協定に調印し、AIIB はこの年の年末に正式に発足し始動した。 中国がAIIB を設立した原因は、公式な見解ではアジア地域のイン フ ラへの資金 不足が深刻 な事態に直 面しており 、それを援 助する た めとしている。ADB の統計によれば、2010~2020 年、アジアにおけ るインフラへの資金需要は 8 兆米ドルに達している。現在の世界銀 行とADB ではこの需要を満たすことはできず、このためインフラ投 資 を専門とす る銀行の設 立が必要と されている 。しかし、 多くの 学 者は、AIIB の設立は中国の現行の国際金融システムに対する多くの 不満が体現したものであるという見方を示している。 まず、現行 の国際金融 機関におけ る中国の代 表性が低い という 不 満である。中国が独自に切り開いてAIIB を設立するに至らしめた原 因は、米国議会がIMF における中国の投票権を増加するという改革 案 を遅々とし て通さず、 これに対し て中国が不 満を感じ新 たな組 織 を 設立すると いう構想を 生じさせた と考える米 国官僚や学 者が少 な
くない27。中国経済の台頭に伴い、中国は世界銀行および IMF にお ける投票権と金融パワーの間に差が生じ、この 2 つの組織において より多くの発言力を獲得することを要求していた。IMF は 2010 年、 中国および発展途上国により多くの投票権を付与し、同時にIMF の 財 政資源を倍 にするとい う改革案を 通過させた が、米国議 会はこ の 案 を批准せず 、米国によ る主導力が 同案のため に低下する ことを 恐 れた28。 次に、中国がIMF および世界銀行に対して特定のアジェンダにつ い て「融資条 件」を盛り 込んだこと に対する不 満である。 世界銀 行 による一連の非公式な基準、例えば国連のミレニアム開発目標(the
Millennium Development Goals)について、その評価として被援助国 家が 適切にその 融資を人道 措置に使用 しているか 否かが設定 された 。 ま た、乳児死 亡率、伝染 病、当該国 家の民主メ カニズム、 政府の 透 明 性等が融資 査定の指標 とされ、中 国はいずれ も融資の主 旨から 逸 脱 し、特定国 家のイデオ ロギーに迎 合している とみなされ た。こ の ほか、IMF と世界銀行の融資条件が誘発した悪い見本として、1997 年のアジア金融危機ほど明らかなものはない。当時IMF は融資援助 の 受取国に対 して適切な 準備をする 前に金融市 場の開放を 強要し た り 、これらの 国家に対し て財政緊縮 や援助取消 といった措 置を迫 っ た りしたこと で、アジア の多くの国 で経済が悪 化し、社会 経済の 混
27 例えば米国の元財務相であるローレンス・サマーズや元連邦準備制度理事会議長の ベン・バーナンキはいずれも中国のAIIB 設立は米国議会が IMF の改革を通さなかっ たためとしている。Wan, op.cit., 2016. 28 2016 年 5 月の資料によると、国際復興開発銀行(IBRD)では、米国が 16.66%の投票 権を有し、次いで日本が7.2%、中国が 4.65%を有している。この比率は明らかに中 国の現在の経済力とは差が見られる。参照:“Subscriptions and Voting Power of Member Countries,” IBRD, http://siteresources.worldbank.org/BODINT/Resources/278027-1215524 804501/IBRDCountryVotingTable.pdf.
乱をまねいた29。これらの要素により中国は西側の主導するものとは 異 なる国際金 融機関を設 立すること で、アジア の発展途上 国から 広 く 共鳴を得ら れるほか、 中国の世界 における経 済的な地位 と権力 を 示すことができると考えた。 このほか、 例えば一帯 一路が陸上 と海上の連 結性を促進 するこ と で アジア・欧 州・アフリ カを跨ぐ中 国の勢力影 響ベルトを 構築す る という青写真を描いたものであるなら、AIIB は資金の調達と運用に よ って実際に インフラを 整備し、こ の大戦略計 画を実践す るとい う 役 割を果たす ものである 。中国の一 帯一路構想 の道筋はそ の多く が 新興市場および発展途上国に沿っており、約44 億人をカバーするほ か、GDP 総額は全世界の 3 分の 1 に及んでいる。 中国が推進する同計画は、以下の点において突出している30。 (1) 新興市場を開拓し、日米欧への依存を分散。 (2) 海路の連結を通じて、多様なエネルギー源を取得。 (3) 国内西部の大開発計画と結合し、戦略を強化、産業の東部重視・ 西部軽視の現象を改善。 (4) 中央アジア・中東・アフリカ諸国が戦略および自由貿易協定の パートナーとなるよう努力、米国の包囲網を回避。 (5) インフラ(道路、鉄道、港湾、空港等)整備を通じて、関連諸 国との貿易通商・投資往来・エネルギー連結を強化。 この戦略思 想において 、インフラ 整備は一帯 一路構想を 実践す る た めに最も重 要で最も基 本となる方 向性である 。相対的に 孤立し た 米 国の地理的 位置とは異 なり、中国 は陸上およ び海上で多 くの国 と 接 しており、 仮に中国が インフラの 連結を通じ て互いの経 済貿易 お
29 Liao, R., “Out of the Bretton Woods: How the AIIB is Different,” Foreign Affairs, 2015. 30 馮並『一帶一路:全球發展的中國邏輯』(台北:高寶國際出版、2015 年)。
よ び人的な往 来を増進で きれば、消 極的には中 国が日米の 海上に お け る包囲網の リスクを軽 減すること にプラスに 働くほか、 積極的 に 近 隣諸国を中 国の経済影 響圏の範囲 に組み込み 、潜在的な 敵を減 少 させ、ひいては親中の盟友を増加することができる31。 このため、 当該構想内 で拡張させ るべき道路 鉄道・港湾 施設・ 石 油 ガスパイプ ライン・通 信ライン設 備等のイン フラ整備に は莫大 な 資 金が注入さ れ、具合も よいことに 一帯一路構 想沿線の国 家はそ の 大部 分がインフ ラ不足かつ 投資資金不 足という苦 境に直面し ている 。 AIIB の提唱はまさにそれらの国家がインフラ設備に必要な莫大な資 金を提供することができる。このため、AIIB の設計は、上述の目的 を 達成するた めに、連結 性の促進と いう重要な 機能を発揮 し、イ ン フ ラの連結を 運用するこ とで、アジ ア諸国の中 国に対する 印象を 中 立化させ、距離を縮めさせることである32。 さらに、中国はAIIB を通じて一帯一路構想の実践以外に、以下の 機能を達成することができると考えられている。 (1) 高い外貨準備高を対外実質高投資に転換:中国は長期的に対外 貿 易黒 字が続 き、 欧米の 国債 などの 買い 入れで 累積 した莫 大な 外貨準備高は 3 兆米ドルを超えているが、自国の建設に使用し ていないほか、為替変動による資産の損失に苛まれてきた。AIIB の 運用 を通じ て、 国内お よび アジア の過 剰な資 金を インフ ラに 投 資さ せ、さ らに 成長が 見込 める経 済効 果をも たら すこと がで きる。 (2) 中国のインフラ整備企業の海外展開を援助支援:近年、中国は
31 Smith, J. M., “Beware China's Grand Strategy: How Obama Can Set the Right Red Lines,”
Foreign Affairs, 2015.
世 界的 な景気 低迷 および 国内 の生産 能力 過剰と いっ た影響 を受 けていたが、AIIB のアジア諸国に対するインフラ融資を通じて、 中国 の関連イン フラ企業が 国家の保証 およ び AIIB の融資獲得 と いう 協力の 下、 積極的 にア ジア諸 国の インフ ラ計 画に参 加す る こと で、中 国企 業の海 外市 場開拓 に有 利に働 くほ か、国 内の 過 剰な 生産能 力を 効果的 に消 費し、 国内 経済を 刺激 するこ とが できる。 最後に、強調しておかなければいけないことは、AIIB は中国が長 年 にわたって 西側諸国主 導の国際金 融秩序を転 換しようと する手 段 のただの一手にすぎないということである。AIIB のほかに、中国は
400 億米ドルを出資して「シルクロード基金」(New Silk Road Fund) を 設立し、一 帯一路構想 沿線国家の インフラ計 画、資源開 発、産 業 金 融協力等、 相互に関連 した項目に ついて融資 提供を支持 すると し ている。このほか、中国は「新開発銀行」(BRICS Bank)に対しても 100 億米ドルの出資を承諾しており、同銀行に対する緊急時外貨準備 金に対しても410 億米ドルを出資することで同意している。さらに、 中 国は東南ア ジア諸国に 対しても数 多くの融資 ・貸付を提 供して い る 。このこと からも、中 国は二国間 の特定国家 に対する金 融資金 援 助 を利用する ほか、多国 間の金融機 制の設立を 主導するこ とで現 在 国 際的に主流 となってい る金融機構 の影響やそ れらに対す る依存 を 弱めようとしていることが見て取れる。
五
AIIB と既存の国際金融機制の共通点と相違点
AIIB は現在のブレトンウッズ体制主導の国際金融秩序において、 今 世紀誕生し た新進気鋭 の機構とし て、その組 織および運 用が完 全 に 国際金融メ カニズムの モデルから 完全に離脱 することは 難しく な っている。本節では、AIIB とその機能に近い世界銀行・ADB について 簡単に比較 し、非西側 諸国が確立 した多国間 国際金融メ カニズ ム と 既存の国際 金融メカニ ズムの差異 および類似 点について 理解を 深 める。 表1 は AIIB・世界銀行・ADB を簡潔に比較したものである。設立 年から分かるように、AIIB は世界銀行設立から 70 年後、ADB から 半世紀後にようやく設立した。AIIB 設立は前の両者の実践経験と運 用制度を全く参考にしないということは難しい。事実、この 3 者の 設立協定の協定文を分析すると、AIIB が世界銀行・ADB を基礎に設 立され、三者間の協定内容には多くの類似点があることが 分 か る33。 表1 世界銀行、アジア開発銀行、AIIB 比較 項目 世界銀行 アジア開発銀行 アジアインフラ 投資銀行 設立年 1944 年 1966 年 2015 年 目的 1. 再建・開発を援助 2. 外国直接投資を提 唱 3. 国際貿易の均衡成 長・国際収支の均 衡維持を提唱 4. より有用で緊急性 の高い計画に対し て融資を手配 5. 国際投資を利用し て国家の戦時経済 から平時経済への シフトを援助 アジア極東地域の経 済成長・経済協力を促 進し、開発途上加盟国 の経済発展を加速 1. インフラおよびその 他生産性分野への投 資を通じて、アジア 経済の持続可能な発 展・富の創造・イン フラの相互接続改善 を促進 2. その他の多国間およ び二国間の開発機関 と緊密に協力、地域 協力およびパートナ ーシップを推進、開 発課題に対応 メンバ ー 188 カ国 67 カ国、うち 48 はア ジア太平洋地域内、19 は域外 57 カ国 本部 ワシントン マニラ 北京 資本額 100 億米ドル(1944) 10 億米ドル(1965) 1000 億米ドル(2015)
33 Wan, op.cit..
2200 億米ドル(2014) 1750 億米ドル(2014) 75%が域内、25%が域外 5 大投 票権国 1. 米:16.66% 2. 日:7.20% 3. 中:4.65% 4. 独:4.22% 5. 仏/英:3.95% 1. 日:12.798% 2. 米:12.710% 3. 中:5.459% 4. 印:5.369% 5. 豪:4.933% 1. 中:26.06% 2. 印:7.51% 3. 露:5.92% 4. 独:4.15% 5. 韓:3.50% 包括 範囲 全世界 国連アジア極東経済 委員会(現国連アジア 太平洋経済社会委員 会)が指すアジア極東 地域 国連の定める地理区分 の指すアジア州および 大洋州 加盟 条件 1. メ ン バ ー は 必 ず IMF に加盟 2. すべての IMF 加盟 国に開放 1. 国連アジア州およ び東アジア経済委 員会メンバー 2. 国連加盟国のその 他地域の国家と非 地域先進国あるい は特別機構 1. IBRD および ADB 加 盟国に開放 2. 主権を持たない或い は自らの国際関係上 の行為に責任を負え ない申請者は、AIIB 加盟メンバーを通じ た代行申請が必要
(出典)各銀行の設立協定は、以下を参照。世界銀行、“Articles of Agreement,” IBRD, http://siteresources.worldbank.org/BODINT/Resources/278027-1215526322295/IBRD ArticlesOfAgreement_English.pdf, ADB, “Agreement Establishing the Asian Development Bank,” ADB, http://www.adb.org/documents/agreement-establishing- asian-development-bank-adb-charter、AIIB, “Articles of Agreement,” AIIB, http:// www.aiib.org/html/aboutus/basicdocuments/AOA/?show=2. また、設立 目的から見 ると、世界 銀行は国家 の経済発展 および 安 定 した国際経 済に尽力す るというグ ローバルな 配慮が現れ ており 、 ADB はアジア太平洋地域の経済発展・経済協力への偏重がみられ、 AIIB は特にインフラ整備を通じて関連国家間との協力および経済発 展を促進することに重きが置かれている。文面から見れば 3 者の目 的と機能は各自異なっているが、実際はインフラ整備がこれら 3 つ の金融機構の共通点である。過去のある時期に、世界銀行とADB は い ずれも貧富 の格差の縮 小を重点項 目としてい たが、近年 は双方 と も インフラ建 設への融資 を増加させ ている。例 えば、現在 の世界 銀
行総裁である韓国系米国人のキムヨンジュン氏は、2012 年に着任後、 インフラ計画への支持を強調し始め、2014 年のインフラ計画への融 資額は240 億米ドルに達し、当該年度の予算総額の約 40%を占めた34。 つまり、AIIB は業務内容において確かに現行の世界銀行や ADB と 部分的に重複している。 加盟国を見ると、世界銀行の加盟国が世界規模であるのに対して、 ADB と AIIB はいずれも地域内に偏重しており、ADB 加盟国はアジ
ア太平洋、AIIB 加盟国は国連の指すアジア州にそれぞれ偏っている。 この3 者の本部は、ADB の提唱国で主導国家である日本にはないが、 その他の 2 つはいずれも提唱国の首都に置かれており、これらの金 融機構と主導国家間に緊密な連結があることが明らかである。 資本額を見 ると、設立 が最も古く 、加盟国が 最多の世界 銀行が 約 2,200 億米ドルに上っているほか、ADB も引けをとらず 1,750 億米ド ルに達している。最も新しく設立された AIIB の資本準備金は 1,000 億 米ドルと最 も少ないが 、世界銀行 の包括する 範囲および 業務の 煩 雑さやADB の機能が比較的複雑であることと比較すると、単一の目 的に対する専門的銀行であるAIIB は、その融資をインフラ計画に専 門 的に使用で きる。アジ アの膨大な 需要を完全 に解決する ことは で きないが、世界銀行・ADB に比べ単独で専門的な機能の成果を発揮 することが可能である。 意思決定メ カニズムお よび主要投 票権国家の 分布を観察 すると 、 AIIB・世界銀行・ADB の政策決定メカニズムの組織および規範にお いては目立った差異はない。ただし、AIIB は出資比率の 70%をアジ
34 参照:“World Bank Group’s Infrastructure Spending Increases to US$24 Billion,” World
Bank Press Release, July 18, 2014, http://www.worldbank.org/en/news/press-release/2014/ 07/18/world-bank-group-infrastructure-spending-increases-to-24-billion.
アからとし、意思決定には 75%以上の同意票が必要となっているた め 、中国が最 大の出資比 率国となる よう確保し ており、重 要事項 の 意 思決定に対 して拒否権 を有してい る。米国と 日本も同様 に世界 銀 行・ADB においてそれぞれ拒否権を有している。5 大投票権国につ いて、世界銀行においては西側諸国が圧倒的な優勢にあり、ADB で は先進諸国の投票権比率が発展途上国に比べて高い。またAIIB は発 展途上国が優勢となる現象が現れており、そのうち中国の投票権は4 分の1 を超え、AIIB の主導的地位を確かなものとしている。 加盟資格についてみると、ADB・ブレトンウッズ体制下の世界銀 行・IMF はそれぞれ緊密に関係している。いずれも西側主導のグロ ーバルな政治秩序下の金融体制の一環であり、ADB の規定はその加 盟 条件として 国連メンバ ー、あるい は国連に付 属する機構 のメン バ ーであることが定められている。AIIB は特に世界銀行・ADB との連 結を強調しており、加盟は 2 機構のメンバーであればいずれも参加 可 能であると し、同時に 主権を持た ない政治実 体(香港・ マカオ な ど)については、AIIB 加盟国が代理で申請するとする別の規定を設 けた。 AIIB は 設 立 し て 間 も な い た め 、 そ の 実 際 の 運 用 に つ い て 世 界 銀 行・ADB との比較はできないが、中国によるこれまでの対外援助の 主張と実現から、中国は次の点について強調するものと考えられる。 つまりそれは、AIIB の融資基準は関連国家の内政事務に断固として 干渉しないということである。つまり、中国主導のAIIB の融資基準 は 比較的単純 で、純粋に 経済的考慮 から出資を 判断し、世 界銀行 の よ うに特定の アジェンダ (人権・汚 職・自由・ 民主等の価 値判断 ) を 融資評価基 準には組み 込まないと いうことで ある。これ は中国 が 経 済発展に成 功した理由 であると考 えており、 西側の新自 由主義 政 策 を拒絶し、 独立した自 主的発展の 方法がその 他の発展途 上国の モ
デルになりうると考えているからである35。 最後に、たとえAIIB が中国主導の下で融資利用を除外することで 借 入国が特定 のイデオロ ギーを服膺 するよう圧 力を加える ことが あ るとしても、相対的にみて、AIIB が根本的に現在のブレトンウッズ 体制下の国際金融秩序に挑戦しようとはしておらず、AIIB の運用は 今 なお多国間 協調、法の 原則、市場 メカニズム を基礎とす るグロ ー バ ル金融市場 の法則に従 っている。 このため、 国際制度の 確立と い う角度からみると、AIIB は国際金融体制を本質的に転換したわけで は なく、既存 の体制から ごくわずか に変化させ たものであ ると言 え る36。