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有關動名詞與變格動詞「 suru 」結合之考察

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Academic year: 2021

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全文

(1)

有 關 動 名 詞 與 變 格 動 詞 「 suru」 結 合 之 考 察

黃 鴻 信 ∗

摘 要

日 語 裏 具 有 動 詞 性 質 的 名 詞 ( 即 動 名 詞 ) 與 變 格 動 詞 「 suru」 結 合 時, 有「 動 名 詞 + suru」和「 動 名 詞 + o+ suru」兩 種 表 現 形 式 , 一 般 皆 認 為 這 兩 種 表 現 形 式 在 語 意 的 表 達 上 並 沒 有 特 別 不 同 , 欲 當 名 詞 使 用 則 以「 動 名 詞 + o+ suru」表 達,而 欲 當 動 詞 使 用 則 以「 動 名 詞 + suru」 表 達 。 或 許 是 此 一 認 知 的 緣 故 , 有 關 這 兩 種 表 達 形 式 在 使 用 上 的 差 異 方 面 的 考 察 研 究 其 實 並 不 多 。 本 研 究 的 主 要 目 的 , 即 在 於 考 察 「 動 名 詞 + suru」 和 「 動 名 詞 + o+ suru」 這 兩 種 表 達 形 式 的 差 異 。 在 這 為 數 不 多 的 既 有 研 究 裏 , 主 要 都 是 把 重 點 放 在 意 志 性 或 aspect 的 特 性 方 面,但 是,意 志 性 或 aspect 的 特 性 固 然 分 別 有 它 們 可 以 適 用 的 規 則 性 , 仍 然 侷 限 於 一 些 層 面 而 已 , 並 不 具 有 一 般 性 。 本 研 究 考 察 的 結 果 , 發 現 :( 1) 動 名 詞 所 表 現 的 意 涵 只 要 是 某 一 事 象 , 當 動 作 主 體 需 要 處 理 該 事 象 時 , 不 論 該 事 象 是 屬 外 在 的 或 屬 心 理 、 感 情 等 內 在 層 面 的 , 也 不 論 該 事 象 是 表 示 持 續 性 的 動 作 或 是 結 果 的 完 了 , 並 且 也 不 論 該 事 象 是 屬 於 動 作 主 體 的 意 志 性 所 得 以 控 制 與 否,都 可 以 採 取「 動 名 詞 + o+ suru」的 表 達 形 式;( 2)隨 著 場 合 不 同,動 名 詞 所 包 含 的 名 詞 性 質 優 先 顯 現 , 亦 即 動 作 主 體 有 必 要 處 理 該 事 象 時 , 應 使 用 「 動 名 詞 + o+ suru」的 表 達 形 式。相 反 的,當 所 包 含 的 動 詞 性 質 被 要 求 顯 現 時 , 亦 即 表 達 的 重 點 是 在 該 動 作 的 發 動 、 實 踐 時 , 必 須 採 用 「 動 名 詞 + suru」 的 表 達 形 式 ;( 3)「 動 名 詞 + o+ suru」 的 動 作 主 體 必 須 為 以

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人 ( 包 括 擬 人 化 之 情 況 ) 為 代 表 的 有 生 物 , 而 動 作 主 體 為 無 生 物 時 , 則 相 對 的 應 採 用 「 動 名 詞 + suru」 的 表 達 形 式 ;( 4) 動 名 詞 的 前 面 伴 隨 著 連 體 修 飾 句,而 整 體 構 成 一 個 事 象 時,應 使 用「 動 名 詞 + o+ suru」 的 表 達 形 式;( 5)句 中 已 含 有 受 格 或 表 空 間 的 移 動、或 途 經 的 助 詞「 o」 時 , 應 使 用 「 動 名 詞 + suru」 的 表 達 形 式 。 關 鍵 詞 : 事 象 、 動 作 、 動 詞 性 質 、 名 詞 性 質

(3)

A Study on the Combinations of Verbal Nouns and the Irregular Verb “Suru”

HUANG Hung-hsin ∗

Abstract

In Japanese, there are two forms of expression to combine verbal nouns and the irregular verb “suru” , “verbal nouns +suru” and “verbal nouns +o+suru”. These two forms of expression are considered almost the same in their meanings. Only that the form of “verbal nouns

+o+suru” is used as nouns, while the form of “verbal nouns +suru” is used as verbs. Maybe this is the reason why the studies on their differences are so rare. And the purpose of this paper is to survey the differences between these two forms of expression.

Our findings are as follows:

1 . If the connotation of verbal nouns is some state of affairs, and

when the subject of action has to face that situation by chance, then we could use the form of “verbal nouns +o+suru”.

2 . On the occasions when the nature of nouns in the verbal nouns

reveals itself, we should use the form of “verbal nouns +o+suru”. But on the occasions when the nature of verbs in the verbal nouns reveals itself, we should use the form of “verbal nouns +suru”.

A s s o c ia te P r o f e s s o r o f th e D e p ar t men t o f J a p a n e s e L a n g u ag e a n d L it e r a tu r e , N a t io n a l Tai w a n U n iv e r s it y

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3 . The subject of “verbal nouns +o+suru” has to be living things like

human beings, while the subject of “verbal nouns +suru” has to be inanimate objects.

4 . If a verbal noun accompanies an attributive adjunct, and the whole

phrase forms some state of affairs, we should use the form of “verbal nouns +o+suru”. If there is an auxiliary word “o” in the sentence already, then we use the form of “verbal nouns +suru”.

Key words: state of affairs, chance, the nature of verbs, the nature of nouns

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「 VN を す る 」 と 「 VN す る 」 に つ い て の 一 考 察

黄 鴻 信 ∗

要 旨

「 VN」 に は 名 詞 的 性 質 と 動 詞 的 性 質 の 両 方 が 含 ま れ て い る ゆ え 、 名 詞 と し て 働 く 場 合 に は 「 VN を す る 」 が 用 い ら れ る が 、 動 詞 と し て 機 能 す る 場 合 に は「 VN す る 」で 表 現 さ れ る 。ま た 、「 VN を す る 」 構 文 と 「 VN す る 」 構 文 は 、 一 般 に は 意 味 的 に 何 ら 変 わ り が な い と 言 わ れ る が 、 こ の 両 形 式 の 相 違 に つ い て の 先 行 研 究 は 、 あ ま り 多 く な い よ う に 思 わ れ る 。 本 研 究 の 目 的 は す な わ ち こ の 両 形 式 の 使 い 分 け に つ い て 究 明 す る こ と に あ る 。 こ れ ま で の 関 連 研 究 で は 論 述 の 焦 点 が 動 作 主 体 の 意 志 性 ま た は ア ス ペ ク ト 特 性 に 置 か れ て い る よ う に 見 受 け ら れ る 。 た し か に 動 作 主 体 の 意 志 性 あ る い 述 語 動 詞 は ア ス ペ ク ト 特 性 と 関 連 構 文 と の 間 に は 一 定 の 相 関 性 が あ る が 、 一 方 、 一 般 性 を 欠 い て い る と い う の も 事 実 で あ る 。 本 研 究 で 考 察 し た 結 果 、 主 な 発 見 と し て 次 の よ う な こ と が 挙 げ ら れ る 。( 1 )「 VN を す る 」 構 文 が 成 り 立 つ た め に は 、「 VN」 が 一 つ の 出 来 事 と し て 存 在 し な け れ ば な ら な い 。 こ の 表 現 形 式 に は 動 作 主 体 が あ る 出 来 事 を 実 行 に 移 す と い う 特 徴 が 潜 在 し て い る ゆ え 、 「 VN」 が 一 つ の 出 来 事 と し て 認 め ら れ さ え す れ ば 、 そ の 「 VN」 が 顕 在 的 な 出 来 事 か 、 そ れ と も 感 情 、 心 理 と い う 内 面 的 抽 象 的 な 出 来 事 か を 問 わ ず 、 ま た 、 継 続 動 作 を 表 す も の か 、 完 了 結 果 を 表 す も の か 、 あ る い は 動 作 主 体 の 意 志 的 制 御 が き く か 否 か に 関 わ ら ず 、「 VN を す る 」構 文 が 可 能 で あ る 。( 2 )文 脈 か ら 言 え ば 、「 VN」の 名 詞 的 性 質 が 優 先 さ れ る 、 す な わ ち 出 来 事 へ の 対 処 に 焦 点 が 置 か れ て い る ∗台 湾 大 学 日 本 語 文 学 系 副 教 授

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場 合 に は 、「 VN を す る 」 構 文 で 表 現 さ れ る べ き で あ る の に 対 し て 、 「 VN」の 動 詞 的 性 質 の 遂 行 が 要 求 さ れ る 、す な わ ち 動 作 の 発 動 、表 出 に 焦 点 が 絞 ら れ て い る 場 合 に は 「 VN す る 」 構 文 を と る べ き で あ る 。( 3 )動 作 主 体 が 人 間( 擬 人 化 の 場 合 を 含 む )で あ る 場 合 は 、「 VN を す る 」構 文 を 用 い る こ と が 可 能 で あ る が 、人 間 で な い 場 合 は「 VN す る 」構 文 を 使 う べ き で あ る 。( 4 )「 VN」が 連 体 修 飾 節 を 従 え る 場 合 に は 、「 ~ VN を す る 」 構 文 を と る べ き で あ る 。( 5 ) 文 中 に す で に 目 的 格 、 ま た は 空 間 の 移 動 、 経 過 を 表 す 「 を 」 が 含 ま れ て い る 場 合 に は 「 VN す る 」 と し て 表 現 さ れ る べ き で あ る 。 キ ー ワ ー ド : 事 象 、 動 作 、 動 詞 的 性 質 、 名 詞 的 性 質

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「 VN を す る 」 と 「 VN す る 」 に つ い て の 一 考 察

黄 鴻 信 1 . は じ め に 動 詞 的 性 質 を 有 す る 名 詞 ( 以 下 VNと 称 す ) が 目 的 格 助 詞 「 ヲ 」 を 介 し て サ 変 動 詞 「 ス ル 」 を 従 え る 場 合 ( 以 下 「 VNを す る 」 と 略 す ) と そ の 直 後 に 「 ス ル 」 が 起 こ る 場 合 ( 以 下 「 VNす る 」 と 略 す ) は 、 次 に 挙 げ る 例 文( 1 )~( 5 )の そ れ ぞ れ に お け る「 御 伴 を す る 」・ 「 御 伴 す る 」、「 散 歩 を す る 」・「 散 歩 す る 」、「 学 問 を す る 」・「 学 問 す る 」、「 寝 が え り を す る 」・「 寝 が え り す る 」 の よ う に 「 ヲ 」 が 介 在 し て い よ う と い ま い と 、 意 味 的 に 同 義 で あ る か の よ う に み な さ れ て い る 。動 詞 的 性 質 を 有 す る 名 詞 と い え ど も 、も と よ り 名 詞 で あ る ゆ え 、 そ れ を 一 つ の 事 態 と し て 扱 う 場 合 「 ヲ 」 を 介 し て 「 ス ル 」 を 後 続 さ せ る の が 当 然 で あ る 一 方 、 動 詞 的 性 質 と い う 因 子 を も 内 包 し て い る ゆ え 、 動 詞 と し て 働 く た め に 直 接 「 ス ル 」 と 結 合 す る の も 自 明 の 理 で あ る 。 そ の た め か 、 こ の 二 つ の 形 式 の 使 い 分 け に つ い て の 研 究 は あ ま り 多 く な さ れ て い な い よ う に 見 受 け ら れ る 。 し か し 、 実 際 に 検 討 し て み る と 、例 文( 6 )~( 9 )の よ う に 、( 6 )と( 8 )そ れ ぞ れ に お け る 「 恋 す る 」 と 「 手 術 す る 」 は 、 各 々 の 表 現 に 「 を 」 を 介 入 さ せ て 「 彼 女 を 恋 を す る 」、「 患 者 を 手 術 を す る 」 に す る と 、 同 一 の 文 の 中 で の 目 的 格 「 を 」 の 重 複 は 許 さ れ な い と い う 構 文 上 の 制 約 に よ り 、 非 文 と み な さ れ る し 、 あ る い は 「 彼 女 」、「 患 者 」 を 所 有 格 に し て「 彼 女 の 恋 を す る 」、「 患 者 の 手 術 を す る 」1 と 書 き 換 え る と 、 意 味 的 に 紛 ら わ し い 不 自 然 な 文 と な る の で 、 や は り 非 文 と 言 わ ざ る を 得 な い 。一 方 、( 7 )の「 恋 を し て い る 」と( 9 )の「 手 術 を し て 」 の 「 を 」 を 取 り 除 い て も 文 と し て は 成 り 立 ち は す る が 、 文 の ニ ュ ア ン ス が 変 わ る と 思 わ れ る 。 ま た 、 例 文 ( 10) ~ ( 13) の よ う に 、 そ 1 「 彼 女 に 恋 を す る 」、「 患 者 に 手 術 を す る 」の よ う に「 の 」格 を 使 わ ず に 、「 に 」 格 を 使 う と 自 然 な 分 に な る こ と に も 注 意 さ れ た い 。

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れ ぞ れ 「 蓄 積 ( * を ) し て 」、「 命 中 ( * を ) す る 」、「 形 成 ( * を ) さ れ た・克 服( * を )し よ う 」、「 一 蹴( * を )し た 」と も と よ り「 VN を す る 」形 式 を と ら な い 場 合 も 見 受 け ら れ る 。こ れ は 、い う な れ ば 、 「 VNを す る 」 の 使 用 に は な ん ら か の 制 約 が あ る と い う こ と を 物 語 っ て い る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 の 目 的 は こ の 「 VNを す る 」 の 使 用 上 の 制 約 、 す な わ ち 「 VNす る 」 と 「 VNを す る 」 の 使 い 分 け に つ い て 究 明 す る こ と に あ る 。 な お 、例 え ば「 び っ く り す る 」、「 し っ か り す る 」、「 あ っ さ り す る 」 と い っ た 副 詞 に 「 ス ル 」 が 結 合 し て 派 生 し た サ 変 複 合 動 詞 、 ま た は 「 が た が た す る 」、「 き ょ ろ き ょ ろ す る 」、「 じ た ば た す る 」 と い っ た オ ノ マ ト ペ 表 現 に 「 ス ル 」 が 接 続 し て 派 生 し た サ 変 複 合 動 詞 の 場 合 は そ の 間 に 「 を 」 の 介 入 が 考 え ら れ な い の で 、 考 察 の 範 囲 か ら 外 す こ と に す る 。 ( 1 )「 今 度 御 墓 参 り に い ら っ し ゃ る 時 に御 伴 を し て も宜 ご ざ ん す か 。 私 は 先 生 と 一 所 に 彼 所 い ら が散 歩 し て見 た い 」「 私 は 墓 参 り に 行 く ん で 、散 歩 に 行 く ん じ ゃ な い で す よ 」「 し か し 序 に散 歩 を な す っ た ら丁 度 好 い じ ゃ あ り ま せ ん か 」 ( 漱 石 『 こ こ ろ 』) ( 2 ) 先 生 の 宅 へ 帰 る に は 私 の 下 宿 の つ い 傍 を 通 る の が 順 路 で あ っ た 。 私 は 其 の 所 ま で 来 て 、 曲 が り 角 で 別 れ る の が 先 生 に 済 ま な い 様 な 気 が し た 。「 序 に 御 宅 の 前 ま で御 伴 し ま し ょ うか 」 と 云 っ た 。 ( 漱 石 『 こ こ ろ 』) ( 3 )「 子 供 に学 問 を さ せ るの も 、 好 し 悪 し だ ね 。 折 角 修 業 を さ せ る と 、 そ の 子 供 は 決 し て 宅 へ 帰 っ て こ な い 。 こ れ じ ゃ 手 も な く 親 子 を 隔 離 す る た め に学 問 さ せ るよ う な も の だ 」学 問 を し た結 果 兄 は 今 遠 い 国 に い た 。 ( 漱 石 『 こ こ ろ 』) ( 4 )「 や は り 起 き て い な い ん だ 。」 と 江 口 老 人 は 言 っ た 。 娘 の 頭 の ま ん な か を つ か ん で ゆ す ぶ る と 、 娘 は 眉 を 苦 痛 で 動 か す よ う に 見 え て 、 体 を う つ 伏 せ に 半 ば寝 が え り し た。 ( 川 端 「 眠 れ る 美 女 」)

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( 5 )「( 略 )こ の 物 音 で 鳶 子 も 目 を あ き ま し た が 、 私 だ と い う こ と が わ か っ た の で ( 三 郎 さ ん お ど か し ち ゃ い や よ 。 私 は 眠 い か ら 寝 る わ ) と 、 あ ち ら 向 き に寝 が え り を し て、 そ の ま ま ま た 眠 っ て し ま い ま し た け れ ど も( 略 )」 ( 川 端 「 散 り ぬ る を 」) ( 6 ) た え ず 自 分 に 彼 女 を恋 し て い ると 言 い き か せ て い る こ の 不 自 然 さ に 、 心 の 本 当 の 部 分 が ち ゃ ん と 気 づ い て い て 、 悪 意 の あ る 疲 れ で 抵 抗 す る の で あ っ た 。 ( 三 島 「 仮 面 の 」) ( 7 ) 私 は 演 技 を 忘 れ た の で あ ろ う か ? 全 く 正 常 な 人 間 と し て恋 を し て い ると い う お 定 ま り の 演 技 を ? ( 三 島 「 仮 面 の 」) ( 8 ) 当 時 は 、 ヨ ー ロ ッ パ に お い て も 、 ま だ 麻 酔 薬 は 発 見 さ れ て い な か っ た 。麻 酔 な し の 外 科 手 術 だ か ら 、や る ほ う も 大 変 、 や ら れ る ほ う は 死 ぬ 以 上 の 苦 し み だ っ た 。 痛 さ で あ ば れ ま わ る 患 者 を手 術 し て い た。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 9 ) お じ い ち ゃ ん は 、 三 年 前 に手 術 を し て、 胃 を 半 分 と っ て し ま い ま し た 。 ( 林 史 典他『 現 代 国 語 』) ( 10) 毎 日 が 平 凡 な た め の 欲 求 不 満 が蓄 積 し てこ う な っ た の だ ろ う か 。 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) ( 11)「 さ あ 、 そ れ で も う つ 気 か 。 同 時 に こ の 子 供 に命 中 す るぞ 」 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) ( 12) 外 見 は 完 全 な 武 士 。 し か し 、 用 事 環 境 で形 成 さ れ た性 格 と な る と 、 容 易 に 変 え ら れ ぬ 。 い か に 意 志 と 理 性 で克 服 し よ うと し て も で あ る 。 ( 星 『 気 ま ぐ れ 』) ( 13) 然 し 、 当 時 の 行 内 の 会 議 で は 、 あ る 調 査 部 の 幹 部 が 構 想 に 疑 念 を 挟 ん だ の に 対 し て 、 ト ッ プ の 鈴 木 茂 頭 取 は そ れ を一 蹴 し たと さ れ る 。 ( 北 海 道 『 解 明 ・ 拓 銀 』) 2 . こ れ ま で の 研 究 に つ い て こ れ ま で「 VN を す る 」に つ い て の 研 究 は 、前 述 し た よ う に あ ま り 多 く な さ れ て い な い が 、 そ の う ち 、 も っ と も 具 体 的 な 成 果 を 示 し て

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い る も の と し て 田 野 村( 1 9 8 8 : 71-76)が 挙 げ ら れ る 。 氏 は 「 VN を す る 」が 成 立 す る た め に は 、VN の 性 質 と し て 次 の 三 つ の 条 件 を 満 た さ な け れ ば な ら な い と 述 べ て い る 。 す な わ ち 、 ( A) 単 純 サ 変 動 詞 文 型 が 自 然 な 表 現 と し て 成 立 す る に は 、「 す る 」( =「 行 う 」)と 言 う に 足 る 動 作・ 行 為 を 表 し て い る こ と が 必 要 で あ る 。 ま た 、( A) が 成 立 す る た め に は 次 の 三 つ の 必 要 条 件 が 導 か れ る 。 ( A₁)単 純 サ 変 動 詞 文 型 が 自 然 な 表 現 と し て 成 立 す る に は 、 意 図 的 な 事 柄 を 表 し て い る こ と が 必 要 で あ る 。 ( A₂)単 純 サ 変 動 詞 文 型 が 自 然 な 表 現 と し て 成 立 す る に は 、 し 始 め 、し 終 わ る よ う な 性 質 の 事 柄 を 表 し て い る こ と が 必 要 で あ る 2 ( A₃)心 理 的 な 事 柄 を 表 わ す 場 合 に は 、単 純 サ 変 動 詞 文 型 は 不 自 然 に な る 。 ( B) 動 詞 概 念 部 が 、 そ れ 自 体 、「 行 う 」 こ と を 表 す も の で あ る 場 合 に は 単 純 サ 変 動 詞 文 型 は 不 自 然 と な る 。 ( C)動 作 対 象 に 対 す る 別 の 動 作・行 為 の 表 現 が 後 続 す る 同 一 の 文 脈 に お い て は 、 複 合 サ 変 動 詞 文 型 3 の 方 が ふ さ わ し い 。 そ し て 、( A₂)を め ぐ っ て < 事 実 上 、無 動 作・無 行 為 で あ る 場 合( 例 : 九 時 に 受 付 を 開 始 す る )> 、< 極 め て 短 時 間 の 動 作・行 為 の 場 合( 例: 申 し 出 を 拒 絶 し た ) > 、 < 表 現 の 主 眼 が 、 そ の 動 作 ・ 行 為 の 過 程 で は な く 、 そ の 事 態 の 達 成 に 置 か れ る 場 合 ( 例 : 二 年 間 で 日 本 語 を 習 得 し た ) > 、 < 個 別 の 行 為 で は な く 、 状 態 的 ・ 習 慣 的 な 事 柄 を 表 す

2小 林 ( 2004: 52-63) に よ る と Uchida and Nakayama( 1993) に お い て も ア ス ペ ク ト 特 性 と い う 観 点 か ら VNが 「 ~ を す る 」 構 文 で 使 え る か ど う か に つ い て の 考 察 が あ る と の こ と で あ る が 、 そ の 趣 旨 は ほ ぼ 田 野 村 ( 1988) の そ れ と 趣 き を 一 に し て い る 。こ の 点 に つ い て は 小 林( 2004)に お い て ア ス ペ ク ト 特 性 で は「 ~ を す る 」 構 文 で 使 え な い VNを 特 定 で き な い と の 反 論 が あ る 。 3 氏 の 定 義 に よ る と 、「 掃 除 す る 」 や 「 散 歩 す る 」 の よ う に 「 ~ す る 」 の 形 を し た 動 詞 を 「 複 合 サ 変 動 詞 」、「 掃 除 を す る 」 や 「 散 歩 を す る 」 の よ う に ヲ 格 の 目 的 語 を 取 る 他 動 詞 と し て の 「 す る 」 を 「 単 純 サ 変 動 詞 」 と 称 し 、 そ し て そ れ ぞ れ を 述 語 を す る 文 型 を「 複 合 サ 変 動 詞 文 型 」「 単 純 サ 変 動 詞 」と 称 す る 、と の こ と で あ る 。

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場 合 ( 例 : 健 康 を 維 持 す る ) > 、 < 主 語 の 表 す も の の 属 性 的 な 事 柄 を 表 す 場 合 ( 例 : 山 田 は 車 を 所 有 し て い る ) > 、 < 断 続 的 な 事 態 を 包 括 的 に 表 現 す る も の ( 例 : い ろ い ろ な こ と を 見 聞 す る ) > に は 単 純 サ 変 動 詞 文 型 は 不 自 然 と な る と 指 摘 し て い る 。 し か し 、 次 に 挙 げ る 用 例 ( 14) ~ ( 19) と ( 20)・( 21) は そ れ ぞ れ 上 掲 の ( A₂) の う ち の い く つ か の 論 点 と( A₁)の 反 論 に な る 。( 14)と( 15)に お け る 「 決 心 」 と 「 昇 進 」 は 事 実 上 無 動 作 ・ 無 行 為 に 属 す る も の で あ る 一 方 、( 16)と( 17)に お け る「 合 図 」と「 会 釈 」は い わ ゆ る 極 め て 短 時 間 の 動 作・行 為 で あ り 、( 18)の「 急 停 車 」と( 19)の「 寝 が え り 」 は 極 め て 短 時 間 の 動 作 ・ 行 為 で あ る と と も に 表 現 の 焦 点 が そ の 事 態 の 達 成 に 置 か れ る も の で も あ る と 見 受 け ら れ る 。そ し て 、( 20)の「 夢 精 」 と ( 21) の 「 寝 坊 」 は 、 文 脈 か ら 、 と も に 意 図 的 な 事 柄 で は な く 、 無 意 識 に 起 こ っ た 事 柄 と 見 る べ き で あ る 。 に も か か わ ら ず 、 い ず れ も「 VN を す る 」の 形 を と っ て い る 。こ れ は つ ま り 、氏 の 研 究 成 果 は そ れ な り に 適 用 さ れ る 側 面 も あ る が 、 一 般 化 す る に は な お 検 討 の 余 地 が あ る と い う こ と を 物 語 っ て い る と 考 え ら れ る の で あ る 。 ( 14) 仕 方 が な い 、 何 で も よ い か ら 食 べ 物 の あ る と こ ろ ま で 歩 こ う と決 心 を し てそ ろ り そ ろ り と 池 を 左 に 廻 り 始 め た 。 ( 漱 石 『 我 輩 は 』) ( 15)「( 略 )強 盗 を 追 い 払 っ た 社 員 は 、 ボ ー ナ ス と と も に昇 進 を し ま し た。」 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) ( 16) 十 吉 は エ ン ジ ン の 馬 力 を 落 し て 、 自 分 の 漁 場 へ 着 く と 、 新 治 に合 図 を し て、 調 革 を エ ン ジ ン に つ け さ せ 、 そ れ を 船 べ り の ロ ー ラ ・ ア シ ャ フ ト に 巻 か せ た 。 ( 三 島 「 潮 騒 」) ( 17)( 略 )き ょ う は め ず ら し く 先 に 来 て い る 支 部 長 の 安 夫 は 、机 の む こ う か ら 新 治 に き さ く に会 釈 を し た。( 三 島 「 潮 騒 」) ( 18) 自 転 車 は 音 も な く 辷 っ て き た 。 欅 の か げ か ら 、 私 は 自 転 車 の 前 へ 走 り 出 し た 。 自 転 車 は 危 う く急 停 車 を し た。 ( 三 島 「 金 閣 寺 」) ( 19) 娘 は 眠 っ て い て も よ く 動 い た 。 一 夜 の う ち に 二 十 度 も 三 十

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度 も寝 が え り を す るの か も し れ な か っ た 。 ( 川 端 「 眠 れ る 美 女 」) ( 20) と き た ま 私 は夢 精 を す るこ と が あ っ た 。( 三 島 「 金 閣 寺 」) ( 21) た し か 十 月 中 頃 と 思 い ま す 。 私 は寝 坊 を し た結 果 、 日 本 服 の ま ま 急 い で 学 校 へ 出 た 事 が あ り ま す 。( 漱 石 『 こ こ ろ 』) 田 野 村( 1 9 8 8 )の ほ か に 、 平 尾( 1 9 9 5 )も あ る 。 平 尾( 1 9 9 5 : 92-94) で は 「 VN」 の 内 包 す る 意 志 性 の 程 度 の 高 低 に 関 し て 考 察 を 行 い 、 そ の 結 果 と し て「 VN を す る 」の 形 が 可 能 と な る か な ら な い か は そ の 意 志 性 の 程 度 の 高 低 と 正 比 例 す る と 指 摘 し て い る 。 す な わ ち 、 意 志 性 が 高 い ほ ど ( 例 :「 勉 強 、 選 択 、 離 婚 、 散 歩 」)「 VN を す る 」 の 形 が 可 能 と な る の に 対 し て 、意 志 性 が 低 い ほ ど( 例:「 堆 積 、類 似 、漏 水 、 気 乗 り 」)「 VN を す る 」の 代 わ り に「 VN す る 」の 形 が 使 用 さ れ て い る と い う こ と に な る 。 そ し て 、 こ の 意 志 性 と い う 動 詞 の 性 質 も 「 ~ の VN を す る 」と い う 構 文 の 成 立 い か ん に 関 わ っ て お り 、「 ~ の VN を す る 」 構 文 が 成 り 立 つ の は 最 も 上 位 な 意 志 性 を 有 す る 動 詞 で あ る と も 主 張 さ れ て い る 。 意 志 性 と い う 観 点 か ら 見 れ ば 、 例 え ば 前 掲 の 例 文 ( 16)~( 18)は 、「 VN」そ の も の に 意 志 性 が 含 ま れ て い る し 、談 話 場 面 に お い て も 動 作 者 が 意 図 的 に 動 作 を 行 う と 見 受 け ら れ る か ら 、 難 な く 解 釈 が つ く 。こ れ に 対 し て 、( 19)と( 21)の 場 合 は 、動 詞 自 体 に 限 っ て 意 志 性 の 上 で あ る な し の 両 方 が と も に 考 え ら れ る が 、 ( 19) と ( 21) そ れ ぞ れ の 場 面 で は 当 該 「 VN」 が 意 志 性 の あ る も の と は 思 え な い 。「 VN」の 意 志 性 と い う の は 実 際 の 場 面 い か ん に 拘 わ ら ず 、「 VN」 自 体 に つ い て の み 指 す の か ど う か に つ い て は 、 平 尾( 1 9 9 5 )で は 言 及 さ れ て い な い 。 一 方 、 用 例 ( 18)、 さ ら に 次 に 挙 げ る 例 文 ( 22) ~ ( 24) は 、 確 実 に 意 志 性 の な い 動 詞 で あ る に も 拘 わ ら ず 、 依 然 と し て 「 VN を す る 」 ま た は 「 ~ の VN を す る 」 の 形 式 で 表 現 さ れ て い る 。 こ れ は 氏 の 説 と は 全 く 逆 な 例 文 で あ る と 言 わ ざ る を え な い 。 ( 22)刀 か 何 か で負 傷 を し た場 合 だ 。シ ョ ウ チ ュ ウ で 傷 口 を 洗 い 、

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白 い 布 を 巻 き つ け て 手 当 て を し て い る 。( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 23) あ ら 、 だ れ も 来 て い な い わ 、 私 、勘 違 い を し たの か し ら 。 ( 林 史 典他『 現 代 国 語 』) ( 24)「( 略 )お ま え と 組 ん で 、 新 興 成 金 を 相 手 に 大 が か り な 手 形 詐 欺 を や り 、 気 持 ち の い い ほ ど の成 功 を し たも の だ 」 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) 3 .「 VN を す る 」・「 VN す る 」 に お け る 「 す る 」 の 働 き 構 文 の 上 で は 、 例 え ば 「 勉 強 を す る 」、「 掃 除 を す る 」 な ど の よ う に 、サ 変 動 詞「 ス ル 」は 本 動 詞 で あ り 、「 勉 強 」、「 掃 除 」な ど の「 VN」 は 目 的 格 の「 ヲ 」に よ っ て「 ス ル 」の 目 的 語 と な る 。こ れ に 対 し て 、 「 勉 強 す る 」、「 掃 除 す る 」 な ど の よ う に サ 変 複 合 動 詞 の 場 合 に は 、 語 構 成 の 立 場 か ら 言 え ば 、「 勉 強 」、「 掃 除 」は 語 基 に 当 た り 、「 ス ル 」 は 接 辞 に な る と 考 え ら れ る 。 換 言 す れ ば 、「 勉 強 す る 」、「 掃 除 す る 」 な ど の よ う な サ 変 複 合 動 詞 の 場 合 に は 語 の 意 味 の 中 核 を な す の は 「 勉 強 」、「 掃 除 」 な ど の 「 VN」 で あ り 、「 ス ル 」 は 「 VN」 を 動 詞 と し て 構 成 さ せ る た め の 接 辞 的 な 働 き を 持 つ も の に 過 ぎ な い と い う こ と に な る 4 。 こ の 点 に つ い て は 次 に 挙 げ る 例 文 ( 25) ~ ( 29) か ら も 分 か る よ う に 、「 ス ル 」を 省 き 、「 VN」単 独 で も 文 の 述 語 と し て 十 分 に 働 き う る と い う 事 実 に よ っ て 裏 付 け ら れ る 。 ( 25) 拓 銀 傘 下 に 入 っ た エ イ ペ ッ ク ス と リ ッ チ フ ィ ー ル ド が 九 三 年 七 月 に カ ブ ト デ コ ム の 佐 藤 茂 社 長 を告 訴、 札 幌 地 検 が 同 十 二 月 に逮 捕、 起 訴 し た 。 ( 北 海 道 『 解 明 ・ 拓 銀 』) ( 26) 首 相 だ っ た 彼 は 協 調 外 交 を と な え 、 海 軍 の 反 対 を 押 し 切 っ て 、 ロ ン ド ン 軍 縮 条 約 を承 認。 そ の 会 議 の 終 了 後 、 東 京 駅 に お い て 右 翼 の 青 年 、 佐 郷 屋 留 雄 に 拳 銃 で う た れ た 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) 4 こ の 事 実 を 反 映 し て 、 サ 変 複 合 動 詞 の 「 ス ル 」 は 文 法 的 機 能 ( す な わ ち 動 詞 で あ る こ と )は 有 す る が 、語 彙 的 な 意 味 を 持 た な い「 軽 動 詞 」( light verb)と 呼 ば れ る こ と が あ る 。

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( 27)“ み な さ ん 、 お 手 を拝 借” と い う リ ー ダ ー の 声 に 応 じ て 、 み ん な で シ ャ ン シ ャ ン シ ャ ン と や る と き 、 そ れ に う ま く 合 わ な い の が 出 て く る 。 ( 柴 田 『 知 っ て る よ う で 』) ( 28)ま ず 、山 三 西 武 地 産 、丸 三 昭 和 通 商 と い っ た“ 地 上 げ 部 隊 ” の 関 係 会 社 に 土 地 を 取 得 さ せ 、 そ れ ら の 会 社 か ら カ ブ ト が 建 物 の 建 築 を受 注。 ( 北 海 道 『 解 明 ・ 拓 銀 』) ( 29)( 略 )父 親 の ほ う は 顔 や 足 に 嚙 み つ か れ 、殆 ん ど 戦 意 を 失 っ て し ま っ た が 、 十 一 歳 の 少 年 が 鎌 で応 戦、 自 分 の 鎌 は 狼 に 嚙 み 砕 か れ た が 、父 の 鎌 を 取 っ て 、柄 を 狼 の 口 に 突 っ 込 み 、 石 で 叩 い て 打 ち 殺 し た 上 に 、( 略 ) ( 平 岩 『 も の は 』) こ の よ う な 使 わ れ 方 は 文 中 、 文 末 と も に 現 わ れ る が 、 と い っ て 任 意 に 用 い ら れ る も の で は な い 。 文 脈 か ら 見 る と 、 意 味 的 に は 、 文 中 で は 「 し 」 ま た は 「 し て 」、 す な わ ち 中 止 、 文 末 で は 本 来 「 VN」 の 後 に あ る べ き 「 ス ル 」 や そ の 過 去 形 、 丁 寧 表 現 ・ 普 通 表 現 を 問 わ ず 、 か つ 、と も に 肯 定 形 の 場 合 に 限 っ て そ の 省 略 が 認 め ら れ る の で あ る 。 文 中 に お い て 構 文 の 必 要 に 応 じ て 連 体 修 飾 を 要 と す る 場 合 や 、 そ の 後 に 例 え ば 「 ば 」、「 の 」、「 た り 」、「 な が ら 」 と い っ た 格 ・ 接 続 助 詞 や「 た い 」、「 よ う だ 」、「 せ る 」と い っ た 助 動 詞 を 従 え る べ き 場 合 や 、 ま た 文 末 に お い て「 ~ て く だ さ い 」、「 ~ た い 」と い っ た 命 令 、希 望 、 依 頼 な ど 、 モ ダ リ テ ィ 表 現 に 後 接 す る 場 合 や 、 打 ち 消 し 、 意 量 、 使 役 、受 身 な ど を 構 成 す る 場 合 に は 、名 詞 的 な「 VN」の み で は そ の 意 図 を 全 う す る こ と が で き ず 、 動 詞 「 ス ル 」 の 仲 介 に 頼 ら な け れ ば な ら な い の で 、「 VN ス ル 」 の 形 を と る べ き こ と は 言 う を 待 た な い 。 4 .「 VN を す る 」・「 VN す る 」 に お け る 意 味 的 な 違 い 上 掲 の 例 文 ( 1 ) ~ ( 5 ) か ら も 分 か る よ う に 、 同 一 の 形 態 を と る 「 VN」 に は 「 VN を す る 」 の 形 で 表 現 さ れ る 場 合 も あ れ ば 、「 VN す る 」 の 形 で 表 現 さ れ る 場 合 も あ り 、 一 般 的 に は こ の 両 形 式 は 意 味 内 容 の 上 で 殆 ど 変 わ り が な い と 言 わ れ て い る 。 次 に 挙 げ る 例 文 ( 30)・( 31) 、( 32)・( 33) 、( 34)・( 35) で は 、 こ の よ う な 説 を 確

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認 す る こ と が で き る 。つ ま り 、そ れ ぞ れ の ペ ア の う ち 、も と よ り「 ヲ 」 が つ い て い る 場 合 、 そ れ を 取 り 除 い て も 、 あ る い は も と よ り 「 ヲ 」 の つ い て い な い 場 合 、 そ れ を 付 け 加 え て も 、 両 者 は 意 味 的 に も ニ ュ ア ン ス 的 に も な ん ら 異 な る と こ ろ を 感 じ 取 る こ と は な い と 思 わ れ る 。 ( 30) や が て 爺 さ ん は 、 も う よ か ろ う 、 引 っ 張 ら っ し と か 何 と か 云 う と 、婆 さ ん は は あ ー と 答 え る 、娘 は あ い と挨 拶 を し て、 名 々 に 蛇 の 頭 を 持 っ て ぐ い と 引 く 。 ( 漱 石 『 我 輩 は 』) ( 31) 車 夫 が 差 出 す 大 き な 風 呂 敷 包 を 下 女 に 受 け 取 ら し て 、 主 人 は 悠 然 と 茶 の 間 へ 這 入 っ て 来 る 。「 や あ 、来 た ね 」と 雪 江 さ ん に挨 拶 し な が ら、 例 の 有 名 な る 長 火 鉢 へ 、 ぽ か り と 手 に 携 え た 徳 利 様 の も の を 抛 り 出 し た 。 ( 漱 石 『 我 輩 は 』) ( 32)「 聴 き 捨 て な ら な い こ と を い う ね 。 今 、 僕 は 悦 子 さ ん に忠 告 を し て い たん だ よ( 略 )」 ( 三 島 「 愛 の 」) ( 33)( 略 )そ の 男 は 札 付 の 不 良 で あ る こ と か ら 、た び た び 三 郎 は 美 代 に忠 告 し たが 、 こ の 忠 告 が 肯 か れ な か っ た と か 。 ( 三 島 「 愛 の 」) ( 34) み な 、 同 じ よ う に 息 子 を 持 ち 、 そ れ を 心 か ら 愛 し 、 な に を し て も 許 し 、ま も っ て や る 、優 し く 善 良 な 父 親 た ち な の だ 。 ( 略 )ア ー ル 氏 は微 笑 を し た。危 険 な 年 代 と 呼 ば れ よ う が 、 い っ こ う か ま わ な い 。 親 心 以 上 に 強 い 力 が 、 こ の 世 の 中 に 存 在 す る だ ろ う か ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) ( 35) 車 の 中 で は 、 ば ん ば ん と い う 叫 び が 断 続 し 、 そ の た び に 三 郎 は 首 を す く め な く て は な ら な か っ た 。 通 り が か り に の ぞ き こ む 人 も あ っ た が 、微 笑 し な が ら去 っ て い っ た 。 三 郎 は そ れ を 見 て 、 今 ま で は 無 事 に 進 ん で い る ら し い と 感 じ た 。 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) し か し 一 方 、次 に 挙 げ る 例 文( 36)・( 37)、( 38)・( 39) 、( 40)・ ( 41)の よ う に 、よ く 吟 味 す れ ば 、そ れ ぞ れ の ペ ア の う ち 、「 ヲ 」が 介 在 し て い る か い な い か に よ っ て 意 味 的 に 明 白 な 違 い が あ る こ と に 気 づ く の で あ る 。( 36)に お け る「 食 事 」は 、朝 食 、昼 食 、夕 食 と 一 日 の 三 食 の よ う に 一 つ の 事 象 と し て 動 作 者 が そ れ に 関 わ る と 読 み 取

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れ る が 、こ れ に 相 反 し て 、( 37)に お け る「 食 事 し な が ら 」は 談 話 場 面 か ら「 食 べ る 」と い う 動 作 が 実 際 に 実 践 さ れ て い る 、い う な れ ば 、 食 事 進 行 中 と い う 過 程 に 身 が 置 か れ て い る と 感 じ ら れ る の で あ る 。 ( 38) と ( 40) の そ れ ぞ れ に お け る 「 恋 を し て い る 」 と 「 残 業 を し ( て い ) た 」、 そ し て 、( 39) と ( 41) の そ れ ぞ れ に お け る 「 恋 し て い る 」と「 残 業 し て い る 」も 、( 36)・( 37)の 場 合 と 同 様 に 解 釈 で き る 。つ ま り 、「 恋 を し て い る 」に お い て は 、動 作 者 は「 恋 」を あ る 特 定 の 異 性 に 寄 せ る と い う 一 つ の 事 象 と し て 実 践 し て い る の に 対 し て 、 「 恋 し て い る 」 に お い て は 動 作 者 は す で に そ の よ う な 心 的 状 態 に 身 を 置 い て い る の で あ る 。 他 方 、「 残 業 を し ( て い ) た 」 に お い て は 、 会 社 の 業 務 そ の も の を 一 つ の 事 象 と し て 執 り 行 っ ( て い ) た の に 対 し て 、「 残 業 し て い る 」に お い て は 逆 に 業 務 そ れ 自 体 が 捨 象 さ れ 、動 作 が 実 行 さ れ て い る 、 言 い 換 え れ ば 、 動 作 進 行 中 と い う 過 程 に 身 が 置 か れ て い る と 読 み 取 れ る の で あ る 。 ( 36) そ れ に 、 私 の 執 筆 時 間 は 夜 か ら 明 け 方 に か け て と な っ て い る 。 つ ま り 、 起 き る の が 正 午 ご ろ と な る 。食 事 を し、 新 聞 や 雑 誌 な ど を 読 み 、 来 客 と 会 っ た り す る と 、 い つ の ま に か 夕 方 に な る 。ま た食 事 を し、テ レ ビ を 眺 め た て い る う ち に 、 執 筆 時 間 と な る の で あ る 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 37) す る と 、 突 然 筒 井 さ ん が( 略 )き た な い 話 を し ゃ べ り は じ め た 。 な ま じ っ か な 程 度 の も の で な く 、 極 端 で リ ア ル で 、 え ん え ん と つ づ く の で あ る 。( 略 )こ れ は 彼 が の ち に「 最 高 有 機 質 肥 料 」 と い う 作 品 に 書 い た か ら 、 好 奇 心 の あ る か た は 、 そ れ を お 読 み に な る と い い 。食 事 し な が ら読 め た ら 、 え ら い も の だ 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 38) 私 は 演 技 を 忘 れ た の で あ ろ う か ? 全 く 正 常 な 人 間 と し て恋 を し て い ると い う お 定 ま り の 演 技 を 。 ( 三 島 「 仮 面 の 」) ( 39) た え ず 自 分 に 彼 女 を恋 し て い ると 言 い き か せ て い る こ の 不 自 然 さ に 、 心 の 本 当 の 部 分 が ち ゃ ん と 気 づ い て い て 、 悪 意 の あ る 疲 れ で 抵 抗 す る の で あ っ た 。 ( 三 島 「 仮 面 の 」)

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( 40) 数 日 後 。 そ の 青 年 は残 業 を し た。 会 計 課 で は 彼 ひ と り だ っ た が 、 隣 室 の 総 務 課 で も 同 僚 の 一 人 が残 業 を し て い た。 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) ( 41)「 昨 夜 、 き み が残 業 し て い る時 、 強 盗 が 入 っ た と い う 報 告 だ が … 」 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) 以 上 の 分 析 か ら 「 VNを す る 」 構 文 と 「 VNす る 」 構 文 は 、 各 々 意 味 の 上 で は 必 ず し も 同 様 と は 限 ら な い と い う こ と が 分 か っ た 。「 VNを す る 」・「 VNす る 」と い う 形 式 上 の 違 い の あ る な し に よ り 、意 味 的 相 違 が 生 じ る か 生 じ な い か の 境 界 は ど こ に あ る か と い う と 、 上 掲 の 二 つ の グ ル ー プ の 用 例 を 対 照 し て み れ ば 分 か る よ う に 、「 VN」 の 性 質 の 違 い に あ る と 考 え ら れ る 。「 ヲ 」の 介 在 の 有 無 に 拘 わ ら ず 、意 味 的 に 変 わ り が な い と 思 わ れ る 用 例 群( 30~ 35)で は 、「 忠 告 」を 例 に す る と 、 そ れ は 、『 新 明 解 国 語 辞 典 第 五 版 』 に よ れ ば 、「 心 か ら 相 手 の こ と を 思 い 、 早 く 悪 い 所 を 直 す ( 危 険 な こ と は し な い ) よ う に と 、 個 人 的 な 立 場 か ら 言 い 聞 か せ る こ と 。 ま た 、 そ の 言 葉 」 と い う 意 味 で あ る 。「 言 い 聞 か せ る 」 は 動 作 者 の 動 作 で あ り 、「 そ の 言 葉 」 は 動 作 者 が 自 ら の 有 し て い る 考 え を 言 語 の 形 に 変 え て 表 現 す る も の で あ る 。 ち な み に 、「 言 い 聞 か せ る 」 に せ よ 、「 そ の 言 葉 」 に せ よ 、 要 は い ず れ も 動 作 者 自 身 に 内 在 し て い る も の で あ る 。 そ れ を 動 作 者 が 何 ら か の 動 作( こ こ で は「 言 う 」)を 通 じ て 外 的 に 示 せ ば す む ゆ え 、一 つ の 事 象 と し て 取 り 扱 う ま で の こ と も な い 。 す な わ ち 、「 VNす る 」 と い う 形 で 表 現 す れ ば 十 分 な の で あ る 。 そ れ に わ ざ と 「 ヲ 」 を 介 入 さ せ て「 VNを す る 」の 形 に す る 理 由 の 一 つ と し て 、口 語 的 な 域 か ら 文 章 的 な 域 へ 、 換 言 す れ ば 、 く だ け た ム ー ド か ら 改 ま っ た ム ー ド へ と 近 づ か せ よ う と い う 文 体 の 考 慮 が あ る の で は な か ろ う か と 考 え ら れ る 5 。 こ れ が た め に 、「 ヲ 」 が つ い て い る か い な い か に 拘 わ ら ず 、 同 一 の 意 味 内 容 を 示 す と い う こ と に な る の で は な い か と 思 わ れ る 。 5 ち な み に 、 日 本 の 新 幹 線 の 車 内 ア ナ ウ ン ス で よ く 聞 か れ る 「 間 も な く … ( 停 車 駅 名 ) に 到 着 を い た し ま す 」 も こ の 観 点 か ら 解 釈 が つ く の で は な い か と 思 わ れ る 。

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ま た 、「 挨 拶 」、「 微 笑 」の 場 合 に お い て も そ れ ぞ れ の 中 か ら 同 様 な 特 徴 を 析 出 す る こ と が で き る 。 さ て 、 引 き 続 き 「 ヲ 」 の 介 在 の 有 無 に よ っ て 意 味 内 容 が 異 な っ て く る と 思 わ れ る 例 文( 36)~( 41)に つ い て 見 て み る 。ま ず「 食 事 」 は 、同 じ く『 新 明 解 国 語 辞 典 第 五 版 』に よ れ ば 、「 お な か が す く に 従 っ て 、主 食 と 副 食 と を 組 み 合 わ せ て 食 べ る こ と 。ま た 、そ の 食 べ 物 」 と あ る 。主 食 、副 食 と い う の は 動 作 者 と は 掛 け 離 れ た 存 在 物 で あ る 。 そ の 主 食 、 副 食 を 食 べ る 、 つ ま り 食 事 そ れ 自 体 は 動 作 者 に と っ て 一 つ の 事 象 と し て 成 り 立 つ は ず で あ る 。一 方 、「 恋 」は 、同 辞 典 に よ る と 、 特 定 の 異 性 に 愛 情 を 抱 く と い う 心 的 作 用 で あ る ゆ え 、 そ の 心 的 作 用 を 発 動 し て 特 定 の 異 性 に 自 ら の 愛 情 を 寄 せ る と い う こ と は す な わ ち「 恋 」を す る と い う こ と で あ る 。ち な み に 、「 恋 」も 当 の 動 作 者 に と っ て は 一 つ の 事 象 と し て 取 り 行 う の に 十 分 な 資 格 を 有 し て い る は ず な の で あ る 。ま た 、「 残 業 」は も と よ り 正 常 な 勤 務 時 間 の 後 に 会 社 に 残 っ て す る 仕 事 と い う 意 味 で あ る ゆ え 、 動 作 者 に と っ て 事 象 と し て 外 在 す る と い う こ と は も は や 贅 言 を 要 し ま い 。 こ の よ う に 見 て く る と 、 同 一 の 「 VN」 で は あ り な が ら 、「 ヲ 」 の 介 在 の 有 無 に よ っ て そ の 意 味 す る 内 容 も 異 な っ て く る と い う の は 、当 の「 VN」が 動 作 者 に と っ て 一 つ の 事 象 と し て 存 在 す る と い う 特 徴 に よ る も の で あ る こ と が 分 か る 。 し か し 、「 VN を す る 」の よ う に「 ヲ 」を さ し は さ む こ と に よ っ て 、 そ れ が さ し は さ ま れ て い な い 「 VN す る 」 と 意 味 の 上 で な ん ら か の 違 い が 出 て く る 場 合 は そ れ な り に 構 文 的 に 意 義 の あ る こ と は 納 得 が 行 く が 、「 ヲ 」が さ し は さ ま れ て い よ う が い ま い が 、ま た 、ニ ュ ア ン ス の 上 で 多 少 違 い が 感 じ ら れ よ う が 、 意 味 的 に は 変 わ り が な い 場 合 に 、「 VN」 と 「 ス ル 」 と の 間 に 「 ヲ 」 を 介 入 さ せ る の は な ぜ だ ろ う か 。 先 述 し た よ う に 、 そ の 理 由 の 一 つ と し て 文 体 の 差 、 あ る い は 談 話 の 雰 囲 気 の 丁 重 化 と で も い う も の が 考 え ら れ る 。 そ の ほ か に 、 次 に 挙 げ る 例 文 ( 42) に お け る 「 妊 娠 を し た 」 と ( 43) に お け る 「 妊 娠 し た 」 と は 、 一 見 、 意 味 的 に は な ん ら 変 わ り が な い 、 強 い て 言 え

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ば 、 前 者 が 後 者 に 比 べ て 比 較 的 丁 重 な 言 い 方 で あ る と 思 わ れ る が 、 ( 42) に お け る 「 江 口 と の 不 倫 が 女 か ら 洗 い 落 と さ れ た 」 と い う 文 脈 か ら は 、「 妊 娠 を し た 」は 女 が 意 図 的 に 懐 妊 し た と 解 釈 で き な い わ け で も な い 。 従 っ て 、 意 味 的 に 変 わ り が な い に も 拘 わ ら ず 、「 VN す る 」 を わ ざ と 「 VN を す る 」 と い う 形 に 言 い 換 え る に は そ れ な り に 様 々 な 理 由 が あ る と 考 え ら れ る 。 そ の 要 因 を 解 明 す る こ と は 興 味 深 い も の で あ る が 、 現 時 点 で は そ こ ま で 分 析 を 拡 げ る の に 十 分 な 資 料 を 持 っ て い な い の で 、 今 後 の 研 究 課 題 と し た い 。 ( 42) た よ り を よ こ さ な く な っ た の は 、 女 が妊 娠 を し たか ら だ っ た の か 。 そ う だ っ た か と 江 口 老 人 は 微 笑 が 浮 か ん で 来 そ う だ 。 シ ン ガ ポ オ ル か ら 戻 っ た 夫 を 迎 え て 、 女 が妊 娠 を し た と い う こ と は 、 江 口 と の 不 倫 が 女 か ら 洗 い 落 と さ れ た か の よ う で 、 老 人 を 安 ら か に し た 。 ( 川 端 「 眠 れ る 美 女 」) ( 43) 神 戸 の 若 い 人 妻 が 二 年 ぶ り に 夫 の 帰 り を 迎 え て 、 す ぐ妊 娠 し たの だ ろ う と い う 、 不 意 の 想 像 、 そ の 想 像 は た し か に 事 実 に 違 い な い と い う 、 必 然 の よ う な 実 感 は 、 江 口 老 人 を 急 に は は な れ な か っ た 。 ( 川 端 「 眠 れ る 美 女 」) 5 .「 VN を す る 」 構 文 に お け る 「 VN」 の 性 格 先 に 2 .に 述 べ た よ う に 、 田 野 村( 1 9 8 8 )で は 単 純 サ 変 動 詞 文 型 が 自 然 な 表 現 と し て 成 立 す る に は 意 図 的 な 事 柄 を 表 し て い る こ と が 必 要 で あ る と と も に 、 し 始 め 、 し 終 わ る よ う な 性 質 の 事 柄 を 表 し て い る こ と が 必 要 で あ り 、そ の 目 安 と し て「 ~ し て い る 最 中 だ 」「 ~ し て い る 所 だ 」 等 と 表 現 で き る も の と 指 摘 し て い る 。 こ の 田 野 村 氏 の 主 張 に つ い て す で に 2 .に 挙 げ た 反 例 か ら も 分 か る よ う に 、そ の よ う な 性 質 を 有 し て い る 「 VN」 は 「 VN を す る 」 構 文 を 成 立 さ せ る た め の 条 件 の 一 部 で は あ る も の の 、 決 し て す べ て で は な い こ と が 確 実 な の で あ る 。 こ の 節 で は 「 VN を す る 」 構 文 の 成 立 に お け る 「 VN」 の 性 格 に つ い て 検 討 し て み る 。 ま ず 動 作 の 仕 手 を 、 人 間 ( 擬 人 化 の 場 合 を 含 む ) を 代 表 と す る 有

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生 物 で あ る 場 合 と 、 人 間 以 外 の 無 生 物 の 場 合 に 二 大 別 す る こ と が で き る 。 動 作 の 仕 手 が 無 生 物 の 場 合 は 例 文 ( 44) ~ ( 48) に 示 す よ う に 、 動 詞 の 自 他 や 、 動 作 の 有 無 、 動 作 の 進 行 に ウ エ イ ト が 置 か れ て い る か 、 ま た は 結 果 ・ 状 態 の 持 続 に 焦 点 が 置 か れ て い る か と い っ た 動 詞 の 性 質 い か ん に 拘 わ ら ず 、 原 則 と し て 「 VN を す る 」 の 表 現 形 式 を と ら な い と い う こ と が 指 摘 で き る 。 こ れ は 、 前 に も 述 べ た よ う に 、「 VN を す る 」 構 文 に お い て 「 ス ル 」 は 本 動 詞 と し て 働 く も の で あ り 、 無 生 物 は も と よ り 意 図 的 に 行 為 を 行 う 能 力 を 持 っ て い な い こ と に よ る も の と 考 え ら れ る 。 ( 44) こ こ は か つ て 海 で あ り 、 船 が よ く座 礁 し たら し い が 、 そ の あ と を と ど め ぬ 変 貌 ぶ り で あ る 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 45) 自 分 が そ う な の だ か ら 、 子 供 も そ う に ち が い な い と 、 年 末 に 家 族 づ れ で ジ ャ ル パ ッ ク を 利 用 、 ハ ワ イ に 行 っ た 。 子 供 は 小 学 の 二 年 と 三 年 の 女 の 子 で 、 空 の 旅 は は じ め て で 、離 陸 す るや い な や 、 私 は 「 さ あ 、 下 を 見 て み ろ 」 と 、 さ い そ く し た 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 46) そ う い う 肯 定 的 用 法 の 例 は も ち ろ ん 以 前 に も あ り ま す が 、 一 種 の 言 語 的 流 行 現 象 と し て い っ せ い に波 及 し たと こ ろ に 、 一 つ の 時 代 風 潮 を 見 る こ と が で き る と 思 い ま す 。 ( 大 野他『 日 本 語 四 』) ( 47) 当 時 す で に 軍 人 向 き 教 育 が 私 の 学 校 を侵 蝕 し、 名 高 い 江 木 将 軍 の 「 質 実 剛 健 」 の 遺 訓 が 蒸 し 返 さ れ て 、 派 手 な マ フ ラ ー や 靴 下 は 禁 じ ら れ て い た 。 ( 三 島 「 仮 面 の 」) ( 48) そ れ は 光 が 落 ち て く る と し か 思 わ れ な か っ た 。 靴 が 運 ん だ 泥 で 塗 り た く ら れ た コ ン ク リ ー ト の 贋 の 泥 濘 へ 、 次 々 と 喚 声 を あ げ な が ら 、 光 が 身 を 投 げ て墜 死 す るの だ っ た 。 ( 三 島 「 仮 面 の 」) 次 に 、 動 作 の 仕 手 が 人 間 を 代 表 と す る 有 生 物 の 場 合 に つ い て 、 上 掲 の 例 文 ( 36) ~ ( 41) か ら も 分 か る よ う に 、 先 述 し た 無 生 物 の 場 合 と は 逆 で 、「 VN を す る 」の 形 を と る こ と が 可 能 で あ る と 指 摘 す る こ

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と が で き る 。 こ れ は 、 人 間 は も と よ り 行 為 を 行 う 能 力 を 有 す る も の で あ り 、 従 っ て 、「 VN」 を 一 つ の 独 立 し た 事 象 と し て 処 理 す る の も 可 能 で あ る こ と は 言 う を 待 た な い 。 と は い う も の の 、 例 え ば 前 出 の 例 文( 10)~( 14)に 示 し た よ う に 、あ り と あ ら ゆ る「 VN」を 任 意 に 一 つ の 独 立 し た 事 象 と し て 執 り 行 う も の で は な い と も 見 受 け ら れ る 。換 言 す れ ば 、そ れ に は「 VN」の 性 格 が 関 わ っ て い る と 考 え ら れ る の で あ る 。 以 下 、 こ の 点 に つ い て 検 討 し て み る 。 例 文 ( 49) ~ ( 59) は す べ て 「 VN を す る 」 で 表 現 さ れ る も の で あ る 。( 49) ~ ( 51) の そ れ ぞ れ に お け る 「 注 射 」・「 援 助 」・「 貯 金 」 は 動 作 者 に と っ て 一 つ の 外 的 な 事 象 と し て 顕 在 し て お り 、 か つ 「 し 始 め 」、「 し て い る 」、「 し 終 わ り 」 と い う 性 質 を 有 し て い る 一 方 、 文 脈 か ら も そ れ を 行 う 意 図 性 が う か が わ れ る 。 こ れ は 田 野 村( 1 9 8 8 )の 指 摘 に 一 致 し て い る 。 一 方 、( 52) ~ ( 54) に お け る 「 寝 が え り 」・「 目 隠 し 」、「 会 釈 」、「 解 散 」 も そ れ ぞ れ 外 在 的 な 事 象 と し て 成 り 立 つ 点 で は ( 49) ~ ( 51) の 場 合 と 同 様 と 認 め ら れ る が 、 い ず れ も 極 め て 短 い 時 間 の う ち に 遂 行 さ れ う る 所 謂 瞬 間 的 な「 VN」と い う 点 で は 異 な っ て い る と も 見 受 け ら れ る 。こ れ は 、田 野 村( 1 9 8 8 )に よ れ ば 、「 VN を す る 」が 自 然 な 構 文 と し て 成 り 立 つ た め の 条 件 か ら は み 出 て い る と 言 う べ き な の で あ る が 、 実 際 多 用 さ れ て い る の も 看 過 で き な い 。 更 に ( 55)、( 56) に お け る 「 手 分 け 」、「 負 傷 」 は 上 掲 ( 49) ~ ( 54) の 場 合 に 比 較 し て そ の 事 象 と し て の 顕 在 性 が 薄 れ 、 そ し て ( 57) ~ ( 59) の 「 苦 笑 い 」、 「 心 配 」、「 遠 慮 」は 、感 情 、心 理 と い う 内 面 的 抽 象 的 な も の に な り 、 い っ そ う そ の 顕 在 性 が 薄 れ て い る と 思 わ れ る が 、 依 然 と し て 自 然 な 「 VN を す る 」 構 文 と し て 成 り 立 っ て い る 。 従 っ て 、 事 象 を 積 極 的 に 実 行 す る 意 図 性 の 有 無 、 ま た は 「 ~ し て い る と こ ろ 」 と い う 進 行 中 を 表 す 性 質 は 、「 VNを す る 」 構 文 を 成 立 さ せ る た め の 一 側 面 の 条 件 で あ る こ と は 頷 け る が 、 必 ず し も そ の 必 須 条 件 で は な い と い う こ と が 分 か る 。 例 文 ( 49) ~ ( 59) に 一 貫 し て い る 特 徴 と し て な ん ら か の き っ か け に よ り 、 動 作 者 が あ る 事 柄 を 一 つ の 事 象 と し て 執 り

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行 う か 、 あ る 新 た な 事 象 が 発 生 す る と い う こ と が 挙 げ ら れ る 。 例 え ば 、( 49) の 場 合 で は 「 か ら だ が よ く な い の は 、 事 実 で も あ る の だ 。 ( 略 )自 己 分 析 を こ こ ろ み る に 、 私 の 場 合 、 他 人 と の 会 話 は 、 仕 事 や 作 品 を 話 題 に す る こ と が 多 い 。 し か し 、 病 院 に 出 か け る と 、 そ れ ら と は 無 縁 の 話 が で き る の で あ る 。 つ ま り ス ト レ ス 解 消 で 、 私 は そ れ を 求 め て い る ら し い 」 6 と い う 作 者 の 叙 述 か ら 、 病 気 の 治 療 の 場 合 は 言 う を 待 た ず 、 ス ト レ ス を 解 消 す る た め に 自 ら 病 院 に 通 っ て 注 射 を 求 め る の で あ る と の こ と が 分 か る 。 す な わ ち 、 病 気 や ス ト レ ス 解 消 が き っ か け と な り 、 注 射 と い う 出 来 事 を 実 行 に 移 す と い う こ と に な る 。( 53)で は そ の 文 脈 か ら 新 八 郎 が 祖 母 が 隣 の 女 性 と 座 席 を 換 わ っ た の に 気 づ き 、 迷 惑 を か け た と 思 っ た の で 、 礼 儀 と し て 相 手 に 軽 く 頭 を さ げ た と と れ る 。 言 い 換 え れ ば 、 迷 惑 を か け た と 思 う の が き っ か け と な り 、 会 釈 と い う こ と を 実 行 に 移 す と と っ て 差 し 支 え な か ろ う 。ま た 、( 58)で は 文 脈 か ら 自 分 が 怒 っ て 家 を 出 た と い う き っ か け に よ り 、 自 分 の 身 の 上 に 何 か 起 こ る の で は な い か と 妻 が 不 安 な 気 持 ち で い る の だ ろ う と い う 事 態 が 引 き 起 こ さ れ た と 読 み 取 れ る 。 こ の よ う に 見 て く る と 、「 VNを す る 」 と い う 形 の 構 文 か ら は 上 記 の よ う な「 な ん ら か の き っ か け に よ り 、あ る 新 た な 事 柄 を 実 行 に 移 す 」 と い う 特 徴 を 抽 出 す る こ と が で き る の で あ る 。 こ こ で と り わ け 「 き っ か け 」 と い う 点 に 注 意 さ れ た い 。 一 般 に 他 動 詞 の 意 味 内 容 に つ い て 論 ず る に 当 た っ て 、 動 作 者 が あ る 物 事 に 働 き か け て 、 そ れ を 変 え た り 変 化 さ せ た り す る と い っ た よ う な と こ ろ に 注 目 さ れ が ち な の で あ る が 、 当 の 物 事 へ の 動 作 者 の 働 き か け を 引 き 起 こ す き っ か け の ほ う は 往 々 に し て な お ざ り に さ れ て し ま う と 見 受 け ら れ る 。 事 実 き っ か け が あ る か ら こ そ 、 あ る 事 象 を 執 り 行 う と い う の が む し ろ 普 通 な の で あ る 7 6 星 新 一 『 気 ま ぐ れ 暦 』 p . 1 9 2 7 小 林 ( 2 00 4: 7 0) で は 語 彙 概 念 構 造 の 観 点 か ら 外 項 を も た な い 動 名 詞 が 「 ~ を す る 」構 文 で 使 え な い 動 名 詞 で あ る と 指 摘 し て い る 。こ れ は 、言 い 換 え れ ば 、 動 作 主 が 自 ら の 意 志 に 基 づ い て 当 該 動 名 詞 の 表 す 動 作 な り 変 化 な り へ の 制 御 が き か な い 場 合 、「 ~ を す る 」構 文 が 成 り 立 た な い と い う こ と に な る 。し か し 、こ れ は 例 え ば 本 稿 で 引 用 し た 例 文 ( 44) の 「 船 が 座 礁 し た 」 や ( 45) の 「 離 陸 す

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( 49) 診 察 室 と 待 合 室 が い っ し ょ で 、私 が注 射 を し て も ら っ て い る時 に 、 次 の 患 者 が 入 っ て き た り す る 。( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 50) 政 府 軍 に は ソ 連 が 武 器 を 送 っ た が 、フ ラ ン コ 軍 に は ド イ ツ 、 イ タ リ ー が援 助 を し、 反 乱 軍 や や 優 勢 。( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 51) 「 発 心 し て 、急 に貯 金 を し よ うと い う 気 に な ん か 、と う て い な れ な い で し ょ う 。 こ れ が あ な た 、 長 い 病 気 で も し て 、 病 院 に で も 入 れ て 、 金 の 工 面 に 苦 し ん で 、 そ し て 死 な れ た ん な ら 、同 じ 寂 し い に し て も 、や っ ぱ り貯 金 を し てお か ん と 困 る も の だ と い う 気 に は な り ま す わ よ 」 ( 川 端 「 散 り ぬ る を 」) ( 52) 「( 略 )こ の 物 音 で 鳶 子 も 目 を あ き ま し た が 、私 だ と い う こ と が わ か っ た の で 、( 三 郎 さ ん お ど か し ち ゃ い や よ 。 私 は 眠 い か ら 寝 る わ ) と 、 あ ち ら 向 き に寝 が え り を し て、 そ の ま ま 眠 っ て し ま い ま し た け れ ど も 、も し 目 を 覚 ま し て 声 で も 立 て ら れ る と 困 る と 思 い ま し た の で 、階 下 か ら 持 っ て き て あ っ た タ オ ル で 猿 轡 を は め 、そ こ の 壁 に か か っ て い た 手 拭 で目 隠 し を し て、 そ こ ら に あ っ た 紐 で 両 手 を 縛 っ た の で あ り ま す が( 略 )」 ( 川 端 「 散 り ぬ る を 」) ( 53) シ ー ト ベ ル ト 着 用 サ イ ン の 消 え る の を 待 っ て 、椿 井 新 八 郎 は 席 を 立 っ た 。( 略 )ス チ ュ ア デ ス に こ と わ っ て 通 路 の カ ー テ ン を く ぐ っ た 。こ こ か ら 先 は フ ァ ー ス ト ク ラ ス に な っ て い る 。 お や 、 と 思 っ た の は 成 田 で 席 へ つ れ て 行 っ た 時 、 前 か ら 三 番 目 の B 席 だ っ た の に 、そ の 席 に は 見 知 ら ぬ 女 性 が す わ っ て い る 。 祖 母 の は な は 、 そ の 隣 に 居 た 。 し き り と 窓 を の ぞ い て い る 。「 ば あ ち ゃ ん 」 声 を か け て お い て 、 祖 母 の 隣 の 女 性 に会 釈 を し た。 ( 平 岩 『 秋 色 ( 上 )』) ( 54) 安 倍 官 房 長 官 は 、四 日 の N H K 国 会 討 論 会 で 衆 院 解 散 問 題 に 触 れ「 私 自 身 が解 散 を し ろ、 と い う よ う な こ と は い っ た る 」な ど に 見 る よ う に 一 部 の 場 合 で 検 証 で き る が 、( 20)の「 夢 精 を す る 」や( 56) の 「 負 傷 を し た 」 な ど に 示 す よ う に 必 ず し も そ う と は 限 ら な い こ と が 分 か る 。

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こ と が な い 」 [中 略 ]と 述 べ 、 最 近 首 相 側 近 か ら 流 れ て い る “ 解 散 説 ” に つ い て 釈 明 し た 。 ( 寺 村 『 寺 村 秀 夫 І』) ( 55) 憲 兵 は手 分 け を し て、金 剛 院 を 四 方 か ら 囲 む こ と に な っ た 。 ( 三 島 「 金 閣 寺 」) ( 56) 刀 か 何 か で負 傷 を し た場 合 だ 。シ ョ ウ チ ュ ウ で 傷 口 を 洗 い 、 白 い 布 を 巻 き つ け て 手 当 て を し て い る 。( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 57) 私 が 先 生 々 々 と 呼 び 掛 け る の で 、先 生 は苦 笑 い を し た。私 は そ れ が 年 長 者 に 対 す る 私 の 口 癖 だ と 云 っ て 弁 解 し た 。 ( 夏 目 『 こ こ ろ 』) ( 58) 「 悪 い こ と を し た 。怒 っ て 出 た か ら 妻 は さ ぞ心 配 を し て い るだ ろ う 。 考 え る と 女 は 可 哀 想 な も の で す ね 。 私 の 妻 な ど は 私 よ り ほ か に ま る で 頼 り に す る も の が な い ん だ か ら 」 ( 夏 目 『 こ こ ろ 』) ( 59) 願 わ く ば も う 少 し遠 慮 を し て も ら い た い。( 夏 目『 我 輩 は 』) 一 方 、 次 に 挙 げ る 例 文 ( 60) ~ ( 68) は い ず れ も 「 VN を す る 」 構 文 を な さ な い も の で あ る 。 こ の 点 に つ い て は 、 ま ず 、「 VN」 の 内 包 し て い る 動 作 性 か ら 言 う と 、( 60) の 「 持 参 」 や ( 61) の 「 服 用 」 の よ う に 具 体 的 な 動 作 が 顕 在 し て い る も の も あ れ ば 、( 62)の「 展 開 」 や ( 63) の 「 酷 使 」 の よ う に 動 作 性 が 抽 象 化 さ れ 、 動 詞 的 性 質 の み 看 取 で き る も の も あ る 。 ま た ( 62) の 「 期 待 」 や ( 63) の 「 意 識 」 の よ う に 心 理 的 ・ 知 的 な 活 動 を 表 す も の も 見 ら れ る 。 次 に 、 そ の 動 作 の 性 質 か ら 見 る と 、( 60) の 「 持 参 」 そ し て ( 67) の 「 劇 画 化 」、 ( 68) の 「 気 化 」・「 液 化 」 は 「 ~ し て い る 」 の 性 質 を 有 し て い な い も の で あ る が 、 そ の 他 は い ず れ も 「 ~ し て い る 」 の 性 質 を 有 し て い る も の で あ る 。 従 っ て 、「 VN を す る 」 構 文 を な さ な い の は 「 VN」 の 内 包 し て い る 動 作 性 の 顕 在 か 否 か 、 ま た は 「 ~ し て い る 」 と い う 動 作 の 性 質 の 有 無 と は 関 係 が な い と 考 え ら れ る 。 実 際 に 例 文 に 即 し て 吟 味 し て み る と 、そ れ は 、こ れ ら の「 VN」は 文 中 に お い て 事 象 と し て 処 理 す る と い う よ り 、 動 詞 と し て 働 く 、 す な わ ち そ の 動 詞 的 性 質 の 実 行 が 要 求 さ れ て い る と い う 性 格 に よ る も の で あ る こ と が 分 か

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る 。例 え ば 、( 60)に お け る「 持 参 し た 」は 事 象 と 動 作 と の 両 側 面 の う ち 、も し 事 象 と し て 執 り 行 わ れ る の で あ れ ば 、「 こ れ の 持 参 を し た 」、 「 そ の 持 参 を し た 」、「 持 参 を し た 」 と い っ た 表 現 が 成 り 立 つ は ず で あ る が 、 事 実 そ れ ら の よ う な 表 現 は む し ろ 非 文 か 不 自 然 と い う 感 じ が す る の で あ る 。 そ の 名 詞 的 性 質 の 実 現 よ り も 、 何 か を 持 っ て ど こ か へ 行 く と い う 動 作 が 現 実 に 行 わ れ る の に ウ エ イ ト が 置 か れ て い る 、 言 い 換 え れ ば 、 そ の 動 詞 的 性 質 の 実 現 が 優 先 さ れ る と 思 わ れ る の で あ る 。 そ の 他 の 「 服 用 す る 」、「 展 開 す る 」、「 酷 使 し て い る 」 な ど の 場 合 に お い て も こ の よ う な 解 釈 が つ く 。一 方 、( 62)に お け る「 期 待 し た 」、( 63) に お け る 「 意 識 し て い た 」 と い っ た 心 理 的 ・ 知 的 な 活 動 を 表 す 場 合 で は そ れ が 現 実 に 発 動 さ れ 、 表 出 さ れ た か ら こ そ 成 立 す る も の で あ る か ら 、 上 記 の 「 持 参 」 な ど 具 体 的 な 動 作 を 表 現 す る 場 合 よ り い っ そ う 動 詞 と し て の 働 き が 優 先 さ れ る も の と 見 受 け ら れ る 。 ま た 、( 64) ~ ( 66) に お け る 「 頻 発 す る 」、「 連 発 し て い る 」、 「 愛 用 す る 」、そ し て( 67)と( 68)に お け る「 劇 画 化 し た 」、「 気 化 さ せ る 」、「 液 化 さ せ る 」 に つ い て は 、 田 野 村( 1 9 8 8 )で は 、 前 者 は 所 謂 習 慣 的 、 属 性 的 事 柄 を 表 す も の で あ り 、 後 者 は 表 現 の 焦 点 が そ の 事 象 の 達 成 に 置 か れ る も の で あ っ て 、 と も に 「 VN を す る 」 の 代 わ り に「 VN す る 」構 文 を と る べ き も の と さ れ て い る が 、習 慣 的 、 属 性 的 ま た は 事 態 の 達 成 が 焦 点 と 云 々 す る よ り も 、 実 際 こ れ ら の よ う な も の も 上 の 分 析 に 見 る よ う に 事 象 と し て 処 理 す る の で は な く 、 「 VN」の 内 包 し て い る 動 詞 的 性 質 が も は や 現 実 に 実 践 さ れ て い る ゆ え 、「 VN す る 」 構 文 を と る べ き な の で あ る と 思 わ れ る 。 ( 60) エ フ 氏 は こ れ を お 菓 子 に ま ぜ 、さ り げ な い 様 子 で持 参 し た。 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) ( 61) そ の 薬 の 発 明 者 、肺 炎 に か か っ て も は や 助 か ら ぬ と 知 っ た 時 、 そ れ を服 用 す るの で あ る 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 62) 交 通 “ 戦 争 ” と 名 づ け た か ら に は 、 マ ス コ ミ も よ ほ ど の 決 意 で キ ャ ン ペ ー ン を展 開 す るの か と期 待 し たが 、た だ 衝 撃 の 効 果 を 一 時 的 に 高 め る だ け だ っ た よ う だ 。

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( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 63) こ れ は 私 の 想 像 だ が 、 心 の す み で 、 藩 医 で あ る こ と か ら 離 れ よ う と意 識 し て い たの で は な か ろ う か 。晩 年 の 彼 は 自 分 の 肉 体 を 無 理 に酷 使 し て い る。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 64) 中 曽 根 総 理 は 、「 個 別 的 自 衛 権 」「 政 治 戦 略 的 」「 大 乗 的 見 地 」な ど 、よ く「 的 」を 使 い ま す 。プ ロ 野 球 解 説 者 は 、「 気 持 ち 的 」「 欠 点 的 」 を頻 発 し ま す。( 大 野他『 日 本 語 一 』) ( 65) ナ カ ソ ネ 氏 の 悲 劇 も ま さ に こ の 錯 覚 に あ り ま し た 。「 … … 的 」「 … … 的 」 を連 発 し て い るう ち に 、 自 分 が な ん だ か 偉 そ う な も の に 思 わ れ は じ め 、結 局 は ア メ リ カ の 知 的 水 準 を ウ ン ヌ ン し て 失 言 、そ の 痴 的 本 性 を 満 天 下 に さ ら し て し ま い ま し た 。 ( 大 野他『 日 本 語 一 』) ( 66) す で に 「 長 歌 」 は 全 体 と し て は 衰 え は て 、 ご く 少 数 の 歌 人 が 時 に 応 じ て愛 用 し、面 白 い 作 品 を つ く る に す ぎ な い も の に な っ て い ま し た 。 ( 大 野他『 日 本 語 四 』) ( 67) ま た 、 テ レ ビ 番 組 を劇 画 化 し たも の も あ る 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) ( 68) そ れ を 蒸 留 す る と 、 シ ョ ウ チ ュ ウ 、 ウ イ ス キ ー 、 ブ ラ ン デ ー に な る 。 す な わ ち 、 醸 造 酒 に 熱 を 加 え て ア ル コ ー ル 分 を 気 化 さ せ、 そ れ を ひ や し て液 化 さ せて と り 出 す 。 ( 星 『 き ま ぐ れ 』) な お 、 漢 字 一 字 の 場 合 に つ い て は 、 例 え ば 「 旅 」、「 恋 」、「 損 」 な ど の よ う に 、「 VN を す る 」・「 VN す る 」 の 両 形 式 を と も に と る こ と が で き る ご く 少 数 の 語 の 場 合 を 除 け ば 、 訓 読 み の 場 合 は 贅 言 を 要 せ ず 、 音 読 み の 場 合 で も 次 に 挙 げ る 例 文 ( 69) ~ ( 72) の よ う に 、 一 般 的 に 事 象 と し て の 資 格 を 持 た ず 、 動 詞 と し て 用 い ら れ る と さ れ て い る 。そ の う ち 、例 文( 69)、( 70)に 示 す よ う に 、「 愛 」、「 興 」は 一 つ の 事 象 と し て 取 り 扱 わ れ う る と 思 わ れ る も の も あ る が 、 動 詞 と し て 働 く 「 愛 す る 」、「 興 じ る 」 は 、 名 詞 と し て の 「 愛 」、「 興 」 と は 分 離 さ れ て 別 物 と な り 、 そ こ に は 事 象 と し て 成 り 立 つ 成 分 が 含 ま れ て

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い な い ゆ え 、「 愛 を す る 」 と か 、「 興 を す る 」 と い う 表 現 が な く 、 そ の 動 詞 的 性 質 の み が 表 現 の 焦 点 と な る 。( 71)の「 激 し た 」、( 72)の 「 達 し た 」 の 類 に 至 っ て は 、 名 詞 と し て の 働 き が な く 、 専 ら 動 詞 と し て の 働 き を 有 す る も の と な る の で あ る 。 ( 69) し か し 私 は 、二 人 の 指 の あ い だ に 交 わ さ れ た 稲 妻 の よ う な 力 の 戦 き と 共 に 、 私 の 彼 を 見 つ め た 一 瞬 の 視 線 か ら 、 私 が 彼 を ― ― た だ 彼 を の み ― ―愛 し て い るこ と を 、近 江 が 読 み と っ た と 直 感 し た 。 ( 三 島 「 仮 面 の 」) ( 70) こ う い う 当 て 物 の 言 い 争 い に興 じ な が ら、意 見 が 岐 か れ て 口 喧 嘩 を は じ め る 夫 婦 の 若 々 し さ は ま る で 芝 居 を や っ て い る の じ ゃ な い か と 思 わ れ る ほ ど で 、三 十 八 歳 と 三 十 七 歳 に な る 夫 婦 の 会 話 と は 思 え な か っ た 。 ( 三 島 「 愛 の 」) ( 71) 妻 か ら 何 か 云 わ れ た 為 に 、私 が激 し た例 は 殆 ど な か っ た 位 で す か ら 。 ( 夏 目 『 こ こ ろ 』) ( 72) た え が た い 、 狂 お し い 雰 囲 気 。 そ れ が 絶 頂 に達 し た時 、 電 話 の ベ ル が 鳴 っ た 。 ( 星 『 エ ヌ 氏 の 』) 6 . 構 文 論 的 観 点 か ら 見 た 「 VN を す る 」・「 VN す る 」 最 後 に 構 文 論 的 観 点 か ら 「 VNを す る 」 と 「 VNす る 」 そ れ ぞ れ の 構 文 に お け る い く つ か の 制 約 に つ い て 見 て み る 。ま ず 、「 VNを す る 」 構 文 に つ い て は 、「 VN」 が 連 体 修 飾 節 を 従 え て い る 場 合 、 意 志 的 か 非 意 志 的 か 、 あ る い は 継 続 的 か 瞬 間 的 か な ど 、「 VN」 の 性 質 い か ん を 問 わ ず 、 次 に 挙 げ る 例 文 ( 73) ~ ( 78) の よ う に 、「 VNを す る 」 の 形 を と ら な け れ ば な ら な い 、 厳 密 に 言 え ば 、「 ~ VNを す る 」 構 文 と し て 表 現 さ れ る べ き な の で あ る 。こ れ は 、連 体 修 飾 節 を 従 え る と 、 「 VN」の 内 包 す る 動 詞 的 性 質 が 抹 消 さ れ 、「 ~ VN」全 体 が 一 つ の 事 象 と し て 取 り 上 げ ら れ る こ と に 起 因 す る も の と 思 わ れ る 。 事 実 、 日 本 語 に お い て 、 例 え ば 「 気 持 の い い ほ ど の 成 功 し た 」 や 「 と ん だ 後

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