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第四章 「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」の統 語的特徴と複合辞性の程度
本章では、「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」の統語的特徴 およびこの四語の複合辞性の程度を観察する。ここでは、砂川(1987)、松木
(1990)、塚本(1991)に提出された複合助詞の認定基準を参考にして、以下 の②と③を抽出しておく。また、複合助詞が、「て」を失って連用形として使 うことができない、または「~は、~複合助詞+である」という形式の分裂文 が使われる、などのことで、動詞としての性質が失われているということも観 察できるため、認定基準に追加しておく。
①連用形になることができない。
②文末に来ることができない。
③連体修飾節になる。
④「~は、~複合助詞+である。」という分裂文を使う。
ここで注目されたいのは、③の「連体修飾節になる」について、複合助詞の連 体修飾形式が一般的に、元の動詞で修飾するものと、「複合助詞+の」で修飾 するもの、の二形式がある。元の動詞で連体修飾をする形式に比べて、「複合 助詞+の」の形式のほうが複合辞性の程度が高いと考えられる32。また、「に おいて」の連体修飾形式が特殊なもので、「においての」と、「における」のよ うに元の動詞「置く」の変形で表す。
4.1 連用形になる場合
まず、時空間範囲を表す用法①について、「において」のみで「におき」の 形で表すことができず、動詞「置く」としての性質が失われていて、典型的な 複合助詞であると考えられる。その一方、他の三語は、「にあり」「にかけ」「に わたり」のように、連用形になることができる。そして、用法②について、「に おいて」「にあって」「にかけて」は全て、連用形になることができない。また、
32 例えば、「について」と「に関して」は、名詞修飾の場合、「について」は「についての+
名詞」という形式であり、「につく+名詞」は認められない。これに対し、「に関して」は「に 関しての+名詞」と「に関する+名詞」ともに認められ、これにより、「に関して」のほうが 動詞としての性質が高く、これに対して「について」は複合辞性が高くて文法化の程度が高い と考えられる。
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「にかけて」の用法③が、連用形になることができない。
「において」:
(104) a.卒業式は大講堂において行われた。(用法①)
b.*卒業式は大講堂におき、行われた。
(105) a.絵付けの技術において彼にかなうものはいない。(用法②)
b.*絵付けの技術におき、彼にかなうものはいない。
「にあって」:
(106)a.異国の地にあって、仕事を探すこともままならない。
(用法①)
b.異国の地にあり、仕事を探すこともままならない
(107)a.高橋さんにあっては、どんな強敵でも勝てそうにありませんね。
(用法②)
b.*高橋さんにあり、どんな強敵でも勝てそうにありませんね。
「にかけて」:
(108)a. 台風は今晩から明日にかけて上陸するもようです。(用法①)
b. 台風は今晩から明日にかけ、上陸するもようです。
(109)a. 話術にかけては彼の右にでるものはいない。(用法②)
b. *話術にかけ、彼の右にでるものはいない。
(110)a. 私の命にかけて、彼らを助け出してみせます。(用法③)
b. *私の命にかけ、彼らを助け出してみせます。
「にわたって」:
(111)a.この研究グループは水質汚染の調査を 10 年にわたって続けてきた。
b. この研究グループは水質汚染の調査を 10 年にわたり、続けてきた。
4.2 文末に来る場合
以下のように、「において」と「にかけて」は、文末で使用することができ ず、動詞「置く」と「かける」としての性質が失われていて、典型的な複合助 詞であると考えられる。これに対し、「にあって」と「にわたって」は、文末 で使用することができて、元の動詞「ある」と「わたる」としての性質が残っ ている特徴が観察できる。
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「において」:
(112) a.卒業式は大講堂において行われた。(用法①)
b.*卒業式は大講堂におく。
(113) a.絵付けの技術において彼にかなうものはいない。(用法②)
b.*絵付けの技術におく。
「にあって」:
(114)a.異国の地にあって、仕事を探すこともままならない。(用法①)
b.異国の地にある。
(115)a.高橋さんにあっては、どんな強敵でも勝てそうにありませんね。
b.?高橋さんにある。 (用法②)
「にかけて」:
(116)a. 台風は今晩から明日にかけて上陸するもようです。(用法①)
b. *台風の上陸は今晩から明日にかける。
(117)a. 話術にかけては彼の右にでるものはいない。(用法②)
b. *彼の右にでていないのは話術にかける。
(118)a. 私の命にかけて、彼らを助け出してみせます。(用法③)
b. 私は彼らを助け出すのに命{*に/を}かける。
「にわたって」:
(119)a.この研究グループは水質汚染の調査を 10 年にわたって続けてきた。
b. この研究グループの水質汚染調査の継続は 10 年にわたる。
4.3 連体修飾節になる場合
以下のように、「において」と「にかけて」が連体修飾節になる場合、「にお いての」と「にかけての」は認められるが、元の動詞「置く」「かける」を連 体修飾にするのは認められない。これに対し、「にあって」と「にわたって」
の場合、(121)と(124)のように「にあっての」と「にわたっての」は認め られるが、用例数が少なく、逆に(122)と(125)のように元の動詞によって 表す連体修飾節の用例数がはるかに多く、元の動詞としての性格が濃厚に保た れていると考えられる。
「において」:
(120)消費者の国産大豆志向の高まりも加わり、大豆を水田農業|におい
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ての/*におく|米に次ぐ所得確保作物として位遣づけ、大豆の安 定生産が本格的に国策として打出されたのである。
「にあって」:
(121)テレビ局は屈指の高給職場ではある。しかし、国が放送免許の許認 可権を握り、長年にわたって競争相手の変化がない。限られたチャ ンネル数という寡占状態にあっての高利益だ。
(122)もっとも、現在ドイツにある十六州のうち、ベルリン、ハンブルク 及びブレーメンは、州が即地方自治体であるから、州会計検査院が 当然それに該当し、特に広域検査というものを考える余地がない。
「にかけて」:
(123)幼児から成年|にかけての/*にかける|教育に関して、彼は音楽 と体育を二つの柱とする。
「にわたって」:
(124)また、土地資産を加えても説明力は高まらず、推計値が有意となる 地域とそうでない地域が混在し、全国にわたっての土地資産効果も 認められなかった(注3)(図表5‐3‐1)。
(125)国営武蔵丘陵森林公園は、明治百年記念事業として、閣議決定「明 治百年記念事業として行う国営森林公園の設置について」に基づき、
埼玉県比企郡滑川町及び熊谷市にわたる丘陵地を整備するものであ る。
4.2.1 「における」について
「において」の連体修飾の形として、「においての」のほかに、「における」
で表すものがある。
(126)エネルギー税にみられるような環境課徴金や環境税の導入、ドイツ における脱原発化、風力発電の導入などは、これに当たる。
(127)我が国が世界の文化の創造に貢献するとともに、芸術創造活動の水 準の向上に資するため、芸術家や芸術団体の相互交流、美術や映画 分野における国際交流などを推進する必要があります。
「における」について、『大辞泉』では以下のように記述されている。
「お(於)ける」を「動詞「お(置)く」の已然形+完了の助動詞「り」の 連体形。「…における」の形で」(『大辞泉』)
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これにより、「お(於)ける」が「置く」から変化したことがわかる。この 場合、動詞「置く」としての意味が薄くなる一方、範囲を表す機能を持つよう になり、「における+名詞」の形式で「において」の連体修飾用法としている。
筆者が収集した資料では、「においての」の用例がわずか 150 でがあるのに対 し、「における」の用例は 27592 件あり、使用頻度がはるかに高い。また、元々 動作を表す「置く」から、状態を表す「おける」への変化のように、他動詞か ら自動詞への転換が観察できる。
4.3 分裂文を使う場合
以下の(128)と(130)のように、「において」と「にかけて」が、「~(の)
は~において/にかけてである」のように、分裂文の形式として使われていて、
動詞としての性質が失われていることが観察できる。これに対し、(130)と(132)
のように、「にあって」と「にわたって」が、「~(の)は~にあって/わたっ てである」のように分裂文の形式にならず、元の動詞「ある」としての性質が 残っていると考えられる。
(128)麻薬問題が最も大きくクローズアップされたのは、千九百八十五年 九月の“ピッツバーグ裁判”においてでである。
(129)アメリカで“外部導入型”が近年、非常に増えてきたのは、経営環 境の激変が背景|*にあってである/にある|。
(130)マクロ経済モデルの開発と応用が、経済学界のホットトピックだっ たのは、アメリカでは四十年代の終わりから、五十年代にかけてで である。
(131)山地からの移出品は、材木‧木工品‧燃料‧皮革‧薬品‧鉱産物など多岐
|*にわたってである/にわたる|。
4.4 まとめ
以上では、「連用形になる」、「文末に来る」、「連体修飾節になる」、「分裂文 を使う」の四点において、「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」
のそれぞれの構文的特徴を考察した。その結果を以下のように示しておく33。
のそれぞれの構文的特徴を考察した。その結果を以下のように示しておく33。