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第一章 序論

1.1 研究動機及び目的

現代日本語において、範囲を表す表現が多い。例えば、グループジャマシイ

『日本語文型辞典』(1992)によると、範囲を表すものには以下のようなもの があるとされている。

いない

例:十人以内なら乗れます。

うち

例:この三曲のうちでどれが一番気に入りましたか。

うちにはいらない

例:通勤の行き帰りに駅まで歩くだけでは、運動するうちに入らない。

なか

例:部屋の中にはだれがいるの。

きり

例:ふたりきりで話しあった。

から…にかけて…

例:台風は今晩から明日にかけて上陸するもようです。

北陸から東北にかけての一帯が大雪の被害に見舞われた。

から…まで…

例:ここから目的地までは 10 キロほどあります。

10 日から 15 日まで休みます。

にいたるまで

例:旅行中に買ったものからハンドバックの中身に至るまで、厳しく調べら れた。

にわたって

例:この研究グループは水質汚染の調査を 10 年にわたって続けてきた。

首相はヨーロッパからアメリカ大陸まで八カ国にわたって訪問し、経済 問題についての理解を求めた。

にわたり

例:話し合いは数回にわたり、最終的には和解した。

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る/…ている かぎり

例:この山小屋にいる限りは安全だろう。

また、以下の「期間」「限界」「場合‧状況」を示す用法にも、「範囲」を表す 機能があると考えられる。

あいだ(間):期間

例:ステレオと本棚の間にテレビを置いた。

かぎり:限界

例:限りある資源を大切にしよう。

において:場合‧状況‧(領域)

例:卒業式は大講堂において行われた。

その時代において、女性が学問を志すのは珍しいことであった。

絵付けの技術において彼にかようものはいない。

にあって:場合‧状況

例:異国の地にあって、仕事を探すこともままならない。

いつ戦争が起こるか知れない状況にあっては、明るい未来を思い描くこ となどできない。

これらの範囲を示すものは、品詞によっておおよそ以下のように分類するこ とができる。

名詞で表すもの: いない/うち/きり なか/あいだ/かぎり

複合助詞で表すもの: から…にかけて…1/にいたるまで、

にわたって(にわたり)

において/にあって

1 『日本語文型辞典』(1992)でば、「にかけて」は、「から」と共起して固定形式化したもの であり、文型で表すものであるが、ここでは、「において」「にあって」「にわたって」ととも に複合助詞にしておく。

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文型で表すもの: から…まで…

うちにはいらない

~かぎり

以上の整理は、現代日本語における範囲表現には、「複合助詞」というもの がいくつ存在することを示している。

本研究は主に現代日本語における範囲表現として用いられる「において」「に あって」「にかけて」「にわたって」の四つの複合助詞を研究対象とする2。そ して、それぞれの実質的な意味を持つ動詞としての用法から、文法的機能を持 つ複合辞的用法への転化などの諸現象を考察することによって、次のようなも のを明らかにすることを目的とする。

①動詞の、複合助詞への転化の過程における語彙的意味の変化。

②複合助詞の多義性。

③複合助詞の類義性。

2.1.1 複合助詞とは何か

前節で整理した現代日本語における範囲表現では、「において」「にあって」

「にかけて」「にわたって」などのような「複合助詞」がいくつかある。三宅

(2005)3により、これらの複合助詞は、内容語(content word)としての動 詞が、機能語(functional word/grammatical word)としての性格を持つもの に変化する現象、いわゆる文法化(grammaticalization)の過程を経て生まれ たものである。また、複合助詞の定義として、砂川(1987)は「複合助詞とは、

複数の語が結び合わさって、全体として1語の助詞に準ずる機能を果たすよう になった連語のこと」と説明していて、また、語構成からみて、複合助詞は大

2これらの複合助詞では、「にいたるまで」のみ「格助詞(に)+動詞テ形」の形式ではないた め、本研究では考察の対象外にしておく。

3三宅(2005)にも以下のようなものを指摘している。

本来、動詞であったものから固定的な形をとることによって作られた、一般に「複合格助詞」

などと呼ばれる一群の形式がある(鈴木(1972)、塚本(1991)等)。例えば次のようなもので ある。

(34)~において、~について、~によって、~にとって、~に対して、~に関して、

~に際して、~に限って、~をめぐって、~をもって、…

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きく次の二つに分けることができる。

(a)動詞や名詞など、実質的な意味を持つ語が、実質的意味を失い、形態 的に固定化して助詞と同じような機能を果たすようになったもの。例え ば、「として」「だけあって」「たびに」などである。

(b)複数の助詞が結合して1語の助詞相当になったもの。例えば、「からに は」「だけに」などがある。

以上から見れば、範囲表現の「において」「にあって」「にかけて」「にわた って」などは(a)に属し、動詞と格助詞が一つの単位として結合したもので ある。「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」が全て「格助詞(に)

+動詞テ形」の形式である。これらの語が、文中で格助詞と相当する機能を持 つため、「複合格助詞」ともいう。

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