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第六章 結論
6.1 まとめ
本研究は、現代日本語における「範囲」を表す複合助詞「において」「にあ って」「にかけて」「にわたって」の、動詞から複合助詞への文法化、多義語と しての意味拡張の仕組み、各語の複合辞性の程度、評価的用法としての前件名 詞のタイプ、後件述語の特徴を明らかにした。
本章では、この前の各章で行った考察の結果をまとめ、以下の通りに示して おく。
まず、第三章では、「において」、「にあって」、「にかけて」、「にわたって」
の各語の文法化および意味拡張を示した。文法化について、「にあって」、「に かけて」、「にわたって」の三語は、元の動詞「ある」、「かける」、「わたる」と は意味上の類似性があり、動詞と複合助詞の間にはメタファー的な関係
(metaphorically related relations)があり、動詞から複合助詞への文法化 は、メタファー的写像(metaphorical mapping)によるものであると考えられ る。これに対し、「において」は元の動詞「置く」とは意味上の類似性がなく、
下位範疇化(subcategorize)をして複合助詞「において」になる、という特 殊な形式である。これにより、この文法化の二タイプを、それぞれ「メタファ ー的写像型」と「下位範疇化型」にすることができると思われる。
そして、第三章ではさらに、多義語としての「において」、「にあって」、「に かけて」、「にわたって」の各語の意味拡張の仕組みを解明した。
第四章では、「連用形になる」、「文末に来る」、「連体修飾節になる」、「分裂 文を使う」の四点から、「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」の 四語の構文的特徴を考察することによって、この四語の複合辞性の程度の高低 によって配列し、以下のようになる。
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けて」と「にわたって」を二グループにし、八亀(2012)、仁田(2001)と影 山(2008)の叙述類型に関わる理論によって、各語の、評価を表す場合、その 評価が成り立つ範囲としての前件名詞の性質と、これらの複合助詞の後件にく る述語の性質を考察した。この四語の、評価表現として、その評価が成り立つ 範囲のタイプを以下の〈表 13〉のようにまとめることができた。‧
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そして、「にかけて」と「にわたって」については、工藤(1995)と(2014)
に従って各語の各グループの後件に現す述語の種類を〈表 11〉のように整理 してみた。
〈表 11 を再掲〉
複合助詞 述語
のタイプ
「にかけて」 「にわたって」
空間的範囲 時間的範囲 空間的範囲 時間的範囲 範囲
運 動
主客
+ ++ -- - -
主変
-- + ++ -- --
主動
+ -- -- ++ ++
状態
- -- -- -- --
存在
+ - + -- --
特性
-- -- -- -- --
関係
-- - -- -- --
質
-- - -- -- --
6.2 今後の課題
本研究では「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」の、動詞か ら複合助詞への文法化と多義性、複合辞性の程度、そして評価性と後件述語の 特徴を考察したが、いくつかの課題が残っている。
まず、「において」「にあって」「にかけて」「にわたって」のこの四語は、複 合助詞の直後の「は」がきて以下のようなものがある。
(337)欧米においては戦後、制度としていち早く広まりましたが、最近わ が国においても、権利擁護の一つの方法としてオンブズマン制度が 注目されています。
(338)江戸時代の俳人‧松尾芭蕉(千六百四十四〜九十四)は、そのことを
「不易流行」という言葉で示したが、グローバル化が進む時代にあ っては、まさにこの視点が重要ではないだろうか。
(339)一方「白砂」については、瀬戸内海沿岸や日本海沿岸に比較的多く 見られますが、東京湾から東海地方にかけては火山灰による黒っぽ い砂の海岸が多く存在します。
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(340)しかし、これこれは減らしてこれは増やしましょうという「質の変 更」は、もっともっと難しくて、長期にわたってはなかなか実現で きないのです。
また、例えば「にあって」と「にかけて」の用法②にように、直後の「は」が 既に定着した。
(341)高橋さんにあっては、どんな強敵でも勝てそうにありませんね。
(342)ロブは銃撃戦にかけてはたんなる素人だ。だから、彼の行動はまっ たく予測がつかない。
つまり、同じく時空間範囲を表すものとして、複合助詞の直後に「は」がく るものと、現れないものとの相違点、および「にあって」と「にかけて」のそ れぞれの用法②では、複合助詞の直後にくる「は」の定着の理由を解明する必 要はある。
そして、複合助詞の後件の述語について、本研究は既に、工藤(1995)と(2014)
の述語のタイプの理論を導入して「にかけて」と「にわたって」の後件述語の 特徴を考察したが、例えば動作述語の場合、その動詞述語の意味にしか注目せ ず、スル‧シタ、またはシテイル‧シテイタなどのように、その動詞述語がどの 形式でくるかについては考察に入れていない。これについて、工藤(1989)で は、スル‧シタ‧シテイル‧シテイタなどの形式が、終止の位置にある(単文、
主文の述語である)ときに、習慣的、恒常的運動ではなく、個別=具体的な運 動として、以下のようにテンス=アスペクト対立をなしていると指摘している
38‧39。
38工藤(1989)によると、基本的にスル(シタ)―シテイル(シテイタ)はアスペクト的に対 立している。スル(シタ)は運動を圧縮して一点集約的=ひとまとまり的にとらえ、〈完成性
(ひとまちまり性)〉であるのに対し、シテイル(シテイタ)は運動を押し広げ、持続的にと らえ、〈持続性〉である。また、このスル(シタ)―シテイル(シテイタ)、というアスペクト の対立は、以下のように、動詞の語彙的意味と法則的に結びついている。
スル シテイル
‧主体動作(動き)動詞(無限界動詞) 〈動作全体〉 ←→ 〈動作持続〉
あるく、たべる、みる、うごく (〈動作成立の限界達成〉)
‧主体動作‧客体変化動詞(限界動詞) 〈動作全体
あける、とめる、きる、つける =結果(限界)達成〉 ←→ 〈動作持続〉
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アスペクト
テンス 〈完成性〉 〈持続性〉 〈パーフェクト性〉
〈発話時以後=未来〉
〈発話時同時=現在〉
〈発話時以前=過去〉
スル シテイル シテイル /
/ シテイル シテイル シタ シタ シテイタ シテイタ /
複合助詞の特徴を体系的に考察するために、後件述語の性質だけではなく、動 詞述語がくる場合、スル‧シタ‧シテイル‧シテイタなど、その動詞述語の形態 から、テンスやアスペクト的意味を考察し、各語の各用法の意味特徴を考える 必要があると思われる。
‧主体変化動詞(限界動詞) 〈結果(限界)達成〉 ←→ 〈結果持続〉
あく、とまる、いく、けっこんする
39 〈パーフェクト性〉は、〈設定時点(reference time)において、それに先行して起こる(以 前の)運動が引き続き関わり=効力をもっている〉というアスペクト的意味を表していて、以 下のように対立していると思われる。
‧あなたが帰国した時には、わたしはこの世にいないでしょう。とっくに死んでいるでしょう。
〈未来パーフェクト〉
‧私の父はもう 10 年前に死んでいる。/私の父はもう死にました。〈現在パーフェクト〉
‧彼が帰国した時には、父親は既に三ヵ月前に死んでいた。〈過去パーフェクト〉
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参考文献
秋元実治(2002)『文法化とイディオム化』ひつじ書房 池上義彦(1976)『意味論』大修館書店
大堀寿夫(2005)「日本語の文法化研究にあたって 概観と理論的課題」『日本 語の研究』第 1 巻第3号、日本語学会
影山太郎(1996)『日英語対照研究シリーズ 5 動詞意味論』くろしお出版 影山太郎編(2012)『属性叙述の世界』くろしお出版
影山太郎「属性叙述の文法的意義」
工藤真由美「時間的限定性という観点から提起するもの」
仁田義雄「状態をめぐって」
八亀裕美「評価を絞り込む形式」
河上誓作(1996)『認知言語学の基礎』研究社
工藤真由美(1989)「現代日本語の従属文のテンスとアスペクト」『横浜国立大 学人文紀要 第 2 類 語学・文学』36:1–24. 横浜国立大学
工藤真由美(1995)『アスペクト・テンス体系とテクスト 現代日本語の時間 の表現』ひつじ書房
工藤真由美(2014)『現代日本語ムード・テンス・アスペクト論』ひつじ書房 国広哲弥(1982)『意味論の方法』大修館書店
グループ‧ジャマシイ(1998)『日本語文型辞典』くろしお出版
佐野裕子(2004)「ニカケテ‧ニワタッテに関する一考察」『大阪外国語大学 日本語講座』14、119-129
ジョージ‧レイコフ著、渡辺昇一他訳(1986)『レトリックと人生(原題:
Metaphors We Live By)』大修館書店
ジョージ‧レイコフ著、池上義彦‧河上誓作訳(1993)『認知意味論(原題:Women, Fire, and Dangerous Things)』紀伊国屋書店
ジョン‧R.テイラー著、瀬戸賢一訳(2008)『認知文法のエッセンス(原題:
Cognitive Grammar)』大修館書店
ジョン‧R.テイラー著、辻幸夫他訳(2008)『認知言語学のための14章(原題:
Linguistics Categorization)』紀伊国屋書店
鈴木智美(2007)『複合助詞がこれでわかる』ひつじ書房
砂川由里子(1987)「複合助詞について」『日本語教育』62 日本語教育学会
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100
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瀬戸賢一(1995)『空間のレトリック』海鳴社
瀬戸賢一(1995)『メタファー思考:意味と認識の仕組み』講談社
瀬戸賢一(2007)「メタファーと多義語の記述」楠見孝編『メタファー研究の 最前線』ひつじ書房
蘇文郎(2009)「引用動詞と変化動詞の文法化現象をめぐって-「言う」「思う」
「する」「なる」を例として」『政大日本研究』6、127-143
蘇文郎(2010)「日本語の思考動詞と知覚動詞の文法化現象をめぐって-「見
蘇文郎(2010)「日本語の思考動詞と知覚動詞の文法化現象をめぐって-「見