日本の新防衛計画大綱下における
日中間の安全保障関係のゆくえ
何
思 慎
(輔仁大学日本語学科教授)【要約】
2009 年 9 月、日本では自民党に代わり民主党政権が誕生した。外 交 及び安全保 障に関し自 民党政権と は異なった 考えを持つ 民主党 政 権 は、日中関 係の強化を 図り、それ によって日 米間のバラ ンスを と り 、対等な「 日米同盟」 を実現しよ うとした。 しかしなが ら、外 交 に おける理想 は、現実的 な安全保障 上の利益外 交に敵うも のでは な い 。安全保障 政策は経済 や社会等の 内政関連の 政策とは異 なり、 国 内 政治の影響 を受けるこ とはあまり なく、保守 政権であろ うが改 革 派 であろうが 、いずれの 政権であっ ても一国が 置かれてい る客観 的 な 安全保障環 境を変える ことはでき ず、全くも って政権を 握る者 の 主 観的な好き 嫌いにより 政策が改め られていく のである。 ポスト 鳩 山 内閣時 代の 民主党 政権 は「新 自由 主義」 (neo liberalism)的な外 交路線を放棄し、再度「攻撃的現実主義」(offensive realism)的な 思 考に戻り、 新たな外交 及び安保政 策を構築し た。本稿で は、民 主 党 による『防 衛計画大綱 』見直しに 関する議論 から、日中 間の新 た な安全保障関係のゆくえを分析する。 キーワード:防衛計画大綱、自衛隊、日米同盟、日米関係、日中関 係一 はじめに
2009 年 9 月、日本では自民党に代わり民主党政権が誕生した。外 交 及び安全保 障に関し自 民党政権と は異なった 考えを持つ 民主党 政 権 は、日中関 係及び日米 関係におけ るバランス を強化する ことで 対 等 な「日米同 盟」を実現 しようとし た。しかし ながら、外 交にお け る 理想は、現 実的な安全 保障上の利 益外交に敵 うものでは ない。 安 全 保障政策は 経済や社会 等の内政関 連の政策と は異なり、 国内政 治 の 影響を受け ることはあ まりなく、 保守政権で あろうが改 革派で あ ろ うが、いず れの政権で あっても一 国が置かれ ている客観 的な安 全 保 障環境を変 えることは できず、全 くもって政 権を握る者 の主観 的 な好き嫌いにより政策が改められていくのである。2010 年末、菅内 閣 はようやく 新『防衛計 画大綱』を 改定し、今 後の防衛政 策が発 表 された。 この『防衛計画大綱』は、1994 年及び 2004 年における二度の改定 とは異なり、1976 年に定めた『防衛計画大綱』において掲げられて い る「我が国 に対する軍 事的脅威に 直接対抗す るよりも、 自らが 力 の 空白となっ て我が国周 辺地域にお ける不安定 要因となら ないよ う に、独立国として必要最小限の基盤的な防衛力を保有する」1という 「 防衛力構想 」の基本方 針を徹底的 に検討し、 新たに平和 国家を 創 り上げるために必要である「動的防衛力」構想を打ち出した2。従っ て 、新『防衛 計画大綱』 は、日本が 戦後の平和 憲法体制下 におい て1 「防衛大綱解説」防衛省自衛隊、2010 年 10 月 25 日、http://www.mod.go.jp/j/approach/ agenda/guideline/1996_taikou/kaisetu/index.html。 2 「安保懇が報告書『専守防衛』『集団的自衛権』の見直しを提起」『産経新聞』(電 子版)、2010 年 8 月 27 日、http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100827/plc10082723 22019-n1.htm。
制 定した防衛 政策の総検 討を行うと ともに、冷 戦後の日本 が直面 し た 新たな安全 保障をめぐ る環境及び 国際社会に おいて求め られる 安 全 保障上の役 割に関する 戦略的思考 に対応した ものである 。この た め 、この新大 綱は、民主 党政権の防 衛政策綱領 を示してい るのみ な らず、今後の日本の安保戦略に関する制約ともなるべきものであり、 十分な研究を行うに値すると考える。 新 『防衛 計画 大綱』 が打 ち出さ れた ことは 、「 ポスト 鳩山 」の民 主党政権が、「新自由主義」(neoliberalism)的外交路線を捨て、再 度「攻撃的現実主義」(offensive realism)3に戻り、新たな外交及び 安 全保障政策 を構築する ことを意味 した。本稿 では、民主 党によ る 『 防衛計画大 綱』見直し に関する議 論から、日 中間の新た な安全 保 障関係のゆくえを分析する。
二 日・中安全保障戦略の競争関係
2010 年 4 月 10 日、中国の潜水艦二隻を含む計 10 隻の艦隊が沖縄 本 島 と 宮 古 島 の 公 海 を 南 下 し 、 日 本 が 「 排 他 的 経 済 水 域 」(EEZ: exclusive economic zone)と大陸棚を有すると主張する中西太平洋に 位置する日本の最南端、沖ノ鳥島附近の海域を通過した。(図 1 参照) 日 本政府は、 中国の行動 は軍事戦略 上、その海 軍戦力の遠 海展開 能 力 を 示 す も の と 見 て い る 。 宮 古 島 海 域 に ほ ど 近 い 台 湾 は 、「 周 辺 有 事 」の際に「 日米同盟」 が発動され 、台湾海峡 における衝 突に介 入 す る際の「玄 関」とみな されている 。中国のこ の軍事演習 は、日 米 に 対して「接 近拒否戦略 」を展開す ることで、 警告を示す 意味が 非3 国際関係は権力闘争であり、国家は権力の拡大を不断に行うことで国家の安全を追 求するものであるとし、「攻撃的現実主義」と称される。シカゴ大学教授 John J.
Mearsheimer 等の主張。John J. Mearsheimer, The Tragedy of Great Power Politics (New York: W.W. Norton & Co., 2001) 参照。
常に濃厚である。 図 1 中国海軍南西諸島を通過 (出典)『読売新聞』(電子版)、2010 年 4 月 13 日、http://www.yomiuri.co.jp/politics/ news/20100413-OYT1T01341.htm。 また、2010 年 4 月 8 日には、東シナ海において(東シナ海ガス田 は、近年、日中間で争いがある)、中国の艦載ヘリが、解放軍の海軍 演習を間近で監視している海上自衛隊の護衛艦の約90 メートルまで 接近し攝影を行ったとされる4。これは、偶発的な事ではない。4 月 21 日には、中国の艦載ヘリが、再度沖縄本島から 500 キロの太平洋 上で、海自護衛艦の上空 50 メートルを旋回している。中国政府は、 こ れは日本の 監視活動に 対する必要 な防衛措置 であると反 論して い る5。日中両国の海軍が東シナ海附近で繰り広げる争いは、4 月 11 日 に 米国ワシン トンで行わ れた日中首 腦会談で、 中国の胡錦 濤国家 主
4 「中国艦隊の沖縄近海南下、偵察・挑発の可能性」『読売新聞』(電子版)、2010 年 4 月13 日、http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100413-OYT1T01341.htm。 5 「艦隊外洋訓練 中国軍ヘリの危険な異常接近」『読売新聞』(電子版)、2010 年 4 月24 日、http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100423-OYT1T01388.htm。
席が、「東シナ海を平和友好協力の海にしていきたい」と語ったのと は大きなギャップがある。また、中国軍が太平洋の第 1 列島線を越 え て展開した 軍事能力に より、日本 は与那国へ の自衛隊配 備を想 定 し ていると報 じられた。 そして、米 海兵隊の沖 縄駐留を今 後も継 続 させるという自衛隊の戦略的な主張を助けることになった。 自 衛隊の 防衛 戦略上 、南 西諸島 は、 中国軍 によ り突破 され た「太 平洋第1 列島線」における弱点となる可能性が非常に高い。2008 年 10 月、中国のソヴレメンヌイ級(Sovremenny Class)駆逐艦等 4 隻が 本州と北海道の間の津軽海峡を通過し、日本の東側の海洋を航行し、 沖 縄本島から 宮古島に向 い東シナ海 を航行した 。この中国 海軍の 艦 艇 による日本 列島の周回 は、日本が 初めて確認 した事案で あり、 自 衛 隊はこれを 非常に重視 した。中国 の軍事力( 投射能力) が海に 向 け てつぎ込ま れているこ とは、日本 を不安にさ せ、自衛隊 は、周 辺 海 域の船舶の 活動状況を 収集し、南 西諸島の防 衛を強化す るため 、 与 那国島に陸 上自衛隊の 小隊を派遣 駐屯させ、 レーダーサ イトを 置 く 方針を決定 した。現時 点では、中 国や近隣の 台湾への刺 激を避 け るため、与那国島に実戦部隊を駐屯させることは計画されていない。 し か し 、 与 那 国 に は 1,500 メートルの滑走路を有する空港があり 、 「 周辺有事」 の際には、 陸上自衛隊 を支援する 作戦部隊や 海上自 衛 隊のP3C 対潜哨戒機の増援が可能である。2009 年 6 月の中国全人大 常務委員会において、『島嶼保護法』が審議されてからは、日本の軍 備 行動には、 尖閣諸島を 含む離島を 防御すると いう決意が 見られ る ようになった。 南西諸島は台湾に近接しており、日本の最南端であり、2,500 の離 島からなるが、そのうち有人なのは 200 のみである。ここに駐屯す る陸上自衛隊「西部方面隊」は、現在、沖縄本島に常駐する「第15 旅 団」のみで ある。この 西部方面総 監部は九州 の熊本市に 置かれ 、
その守備範囲は長崎の対馬から沖縄の与那国島までの北1,200 キロ、 東西900 キロ(図 2)と非常に広範囲である。しかし、作戦の基本部 隊となるのは、わずか二個師団(第4、第 8)と一個旅団(第 15)の みで、2 万 8 千人編制、24 の駐屯地と 8 の分屯地において展開して い る。沖縄本 島のほか、 南西諸島の 離島もまた 長崎県佐世 保市に 駐 留 する「西部 方面普通科 連隊」(通 称:西普連 )が防衛を 担い、 戦 力は非常に喫緊している。2010 年 10 月 5 日、北澤俊美防衛相は『共 同 社』のイン タビューに 対し、南西 諸島の防衛 が弱いこと を認め て いる6。南西諸島における防衛力を強化するために、防衛省は南西諸 島 において台 湾に近接し ている宮古 島、または 石垣島への 陸上自 衛 隊配備の検討を始めており、また2011 年度の予算概算要求では調査 費 を計上し、 日本の最西 端である与 那国への自 衛隊配備に 向けて 着 手した7。 こ の他、 陸上 自衛隊 の歩 兵連隊 には 「海兵 隊化 」の趨 勢が 見られ る。南西諸島における広域的な戦略に応じるため、自衛隊は2006 年 1 月より、陸上自衛隊第 8 師団8及び第15 旅団の「普通科連隊」を米 国 カリフォル ニア州に送 り実動訓練 を行ってい る。これは 米海兵 隊 に 倣い陸自を 「水陸両用 部隊」へ改 編すること で、「離島 奪回」 に あた っての両棲 上陸作戦任 務に投入す ることを意 図するもの である 。 防 衛省の長島 昭久政務官 (当時)は 、離島の防 衛に当たる ため、 陸 自の一部に海兵隊的な機能を担わせると言及した9。
6 「 訪 談 : 日 本 防 衛 相 有 意 加 強 西 南 諸 島 防 衛 」 共 同 網 、 2010 年 10 月 5 日 、 http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=86043。 7 「日本民主黨考慮修改法律使自衛隊警備西南諸島」共同網、2010 年 10 月 17 日、 http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=86435。 8 駐屯地は熊本市。 9 「陸自、歩兵連隊の「海兵隊化」検討 離島防衛の強化狙う」『朝日新聞』(電子版)、
図 2 「西部方面隊」守備範囲 (出典)『軍事研究』2010 年 10 月号、131 ページ。 1976 年に制定された『基盤的防衛力構想』は、冷戦期におけるソ 連の侵略に対する基本戦略を想定したものであった。しかし冷戦後、 ロシアはもはや日本の辺境における脅威ではなくなった。その一方、 中 国軍が日本 の周辺海域 において積 極的に行動 するように なった 。 戦 略環境の変 化に対応す るため、日 本は、均等 に防衛力を 配備す る と いう過去の やり方から の転換を迫 られ、戦略 に基づいて 兵力を 集 中 配備し、南 西諸島の防 衛能力を強 化し戦略的 意義をもつ 離島へ の 自 衛隊配備の 検討を行っ た。次に、 防衛省は潜 水艦数を増 強する こ と で海上自衛 隊を強化し 、西太平洋 に活動範囲 を拡大しよ うとす る 中国海軍の挑発を防ぐことを決定した10。
2010 年 8 月 31 日、http://www.asahi.com/politics/update/0830/TKY201008300422_01.html。 10 「分析:日本防衛重心明顯轉向西南」共同網、2010 年 10 月 5 日、http://china.kyodo.co. jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=86569。
中 国の軍 備の 近代化 が進 むに連 れて 、ソフ ト・ ハード 面で のレベ ル アップ及び 戦略観の変 化の下、中 国軍は徐々 に近海や遠 海へ向 か って進出を始めた。これにより、「統一」の実現や周辺諸国間におけ る 東シナ海や 南シナ海の 領土主権に 関する現状 において有 利な状 況 の 創出のほか 、自国に利 益となる国 際新秩序の 実現を構築 しよう と し ている。防 衛省防衛研 究所が初め て発表した 『中国安全 保障レ ポ ート』(NIDS China Security Report)の中で、中国が遠海航海能力を 向 上 さ せ て い る こ と を 例 に 、「 人 民 解 放 軍 の 活 動 範 囲 と 領 域 は 拡 大 傾向を見せている」ことを指摘している。「台湾独立」や第三国によ る 台湾海峡問 題への介入 を阻止する 「接近拒否 戦略」能力 の向上 に 着 手すること のみならず 、貿易航路 や海洋権益 の確保のた め太平 洋 遠 海訓練の常 態化をも図 っており、 また南シナ 海にて戦闘 機によ る 空 中給油訓練 を繰り返し 行うなど、 同海域にお ける制空圏 優勢の 確 保 を目指して いる、と指 摘している 。中国と東 南アジア諸 国間に お け る南沙諸島 の主権をめ ぐる問題に ついて同研 究所は、中 国解放 軍 が2010 年 7 月に南シナ海で数隻の艦隊を投入して行った軍事演習は、 南 シナ海問題 を自国に有 利な方法で 解決を得よ うと威力を 示した 、 と見ている11。 『 中国安 全保 障レポ ート 』の執 筆陣 の一人 であ る防衛 研究 所教官 の 増田雅之氏 は、北京は 世界金融危 機の後、有 利なタイミ ングを 積 極 的に掴みに 出ることに よってアメ リカが国際 社会で失っ た一部 の 影響力にとってかわろうとねらっていると分析している12。『中国安 全保障レポート』では、中国解放軍は正に活動範囲を拡大しており、
9 ページ。
12 Julian Ryall, “Study Says China Adding Military Might to Diplomacy,” South China
こ のため中国 は軍事訓練 において解 放軍の空中 給油能力に 非常に 重 きをおいている。ただし、現時点においては、新世代の戦闘機Su-30 に 空中給油で きる装備を 有しておら ず、これが 中国の空中 給油能 力 に はボトルネ ックである が、中国の 軍部はこの 技術的な問 題を明 確 に 認識してお り、大型輸 送機を開発 し、それを 空中輸送機 に改修 し ようと試みているところである、と指摘する13。これに対して増田氏 は 、中国が空 中給油能力 を重視する のは、明ら かに南シナ 海領空 に おける空域の優勢の確保を狙ったものであると見ている14。 し かしな がら 、中国 の海 ・空軍 の活 動範囲 が南 シナ海 、東 シナ海 の 中国軍の重 要な活動地 域において 拡大してい るだけでは なく、 日 本 の戦略に対 して大きな 圧力となり 、これが日 本の安全に 脅威を 与 えている。「東シナ海問題」に対して、日本は尖閣諸島においては主 権問 題は存在し ていないと いう立場を 堅持してい る現実があ るなか 、 中 国は近年来 、徐々に東 シナ海にお ける権利に 対して圧力 を強め て おり、今後中国の東シナ海に関する主権の主張(authority claims)が 国 際法上不利 にならない よう、日本 が東シナ海 海域や尖閣 諸島に 対 して行っている主権の主張に対抗する構えをみせている。 総 合的に 見て 、中国 の国 防費が 年々 増加す るな か、中 国海 軍が空 母の 建造を計画 し遠海作戦 能力を高め ようとして いることに 対して 、 日 本は中国軍 の国境を越 えた周辺諸 国の安全保 障環境に対 する挑 戦 を 感じるよう になった。 こうしてい るうちに、 日中間の「 東シナ 海 問 題」が激化 し、日本は 南西諸島が 、中国が日 本の海洋権 益に関 す る 主張へ挑戦 する際の突 破口となる のではない かと懸念し ている 。 そ のなかで、 中国が主権 を主張する 尖閣諸島は 、中国軍が 「太平 洋
衛研究所編、前掲書、15 ページ。
第 1 列島線」封鎖を突破する足がかりになる可能性は大きいであろ う。新『防衛計画大綱』の改定は、日本が冷戦期に持っていた宗谷、 津軽、対馬の 3 海峡封鎖という戦略の重点が、明らかに南西諸島周 辺 の広大な海 域にシフト されており 、「南方有 事」となら ないよ う 日本の海上に長城を築き、台頭している中国の「太平洋第1 列島線」 に 対する圧力 形成への対 応を意味し ている。こ のほか、日 本は安 全 保 障に関する 戦略に対し て中国から 強い圧力を 受けること を願っ て おらず、「東シナ海問題」においては更に「寸土必争(わずかな土地 でも決して敵に渡さないよう戦う)」であり、ガス田のほか尖閣諸島 も また、日本 が東シナ海 において地 位を占める 上での足が かりで あ り 、東シナ海 もまた日中 間に「戦略 的互惠関係 」を築くに あたっ て の試金石となろう。
三 新『防衛計画大綱』改訂の要点
新 たな『 防衛 計画大 綱』 では、 「動 態的な 防衛 力」を 今後 の自衛 隊の概念とした。1976 年に制定された『防衛計画大綱』の核心概念 で ある「基礎 的防衛」と 比較すると 、今回の大 綱では、初 めて中 国 の 軍事動向が 「地域と国 際社会の懸 念事項」で あると指摘 、テロ 攻 擊 、北朝鮮の ミサイル等 の多様な事 態に対応で きるよう「 動態的 防 衛」へ転換することを明確に打ち出している15。「基礎的防衛」とい う概念の下、自衛隊は過去、旧ソ連からの攻撃に対する防衛のため、 北 海道及び全 国各地に均 等に最低限 の必要性に 基づいて陸 上自衛 隊 と 重火器を配 置してきた 。これは、 日本に「力 の空白」が 生じる こ と が周辺地域 の不安定要 因とならぬ よう、独立 国家として 必要最 低 限度の戦闘力を保持することを目的としていたものである16。16 「解讀日防衛新大綱:不排除先發制人攻撃可能」中國評論新聞網、2010 年 12 月 17
今 後、自 衛隊 は「動 態的 な防衛 力」 という 概念 の下で 、脅 威が存 在 するところ に戦闘力の 重点を置く よう、冷戦 以来の防衛 力の配 備 の 見直しを行 っていく。 新たな脅威 に対応する ため、自衛 隊の装 備 や 部隊規模も 見直しが行 われる。ま ず、陸上自 衛隊を削減 し、海 上 自衛隊の増強を図るため、陸上自衛隊の戦車を600 両から 390 両へ、 火砲も600 門から 400 門にそれぞれ削減、兵力も 1,000 人減、今後は 兵 力を全国各 地に均等に 配備するの ではなく、 その多くを 南西諸 島 一 帯に移すこ とが決定さ れた。厳し い財政赤字 の制約の下 、「陸 上 自衛隊」の兵力を13,000 人拡大することは当面できないが、日本の 防 衛重点を南 に移すとい う戦略的な 必要性の下 、南西諸島 の防衛 に あ たる「陸上 自衛隊」は 大幅に増加 され、今後 は水陸両棲 作戦能 力 を 有する「海 兵隊」へ徐 々に転換さ れる。また 、南西諸島 がある 海 域は非常に広く、無人島は2,300 を数える。これらの島嶼への攻撃は 容 易だが守り は困難であ る。この海 域には、日 本が領土で あると し 主権を主張する尖閣諸島も含まれる。自衛隊の防衛構想の見直しは、 こ の海域にお いて衝突の 可能性が高 まった際に 、「海上保 安庁」 の 「 警察権」に 替り、自衛 隊による「 防衛権」が 行使できる ように す るというものである。 次 に、防 衛の 機動力 を強 化し、 中国 と北朝 鮮に よる軍 事的 安全へ の挑戦に対応するため、海上自衛隊の潜水艦を現在の18 隻(16 隻は 実戦部隊配備、2 隻は訓練用)を 22 隻とする。「海自」は慣例によ り毎年一隻ずつ更新することで、保有隻数16 を維持してきたが、今 後は潜水艦による任務が増加することから 22 隻体制とする。また、 西南諸島一帯に約 2,000 名の兵力が増員されることも計画されてお
日 、http://www.chinareviewnews.com/doc/1015/4/0/9/101540958.html?coluid=7&kindid= 0&docid=101540958。
り、これには台湾に近接する与那国島に増設される「沿岸監視部隊」 が含まれている。また、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)の導入 時期も前倒しする予定で、那霸基地に駐留する戦闘機部隊も 1 個飛 行隊(戦闘機18 機)から 2 個飛行隊に改編される(図 3 参照)。こ のほか、「パトリオットPAC3」ミサイル基地もまた、現在の 3 ヶ所 から 6 ヶ所に増強、このうち沖縄には、弾道ミサイルによる脅威に 対応するためミサイルを配置し、イージス艦も現在の 4 隻から 6 隻 に増強、全てに「迎撃ミサイル」(SM-3)の搭載が予定されている17。 図 3 自衛隊の南西諸島における新防衛配備 (出典)「2015 年までの南西諸島の防衛計画」時事ドットコム、2010 年 12 月 17 日、 http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_pol_seisaku-anpoboei20101217j-02-w500。
17 「平成 23 年度以降に係る防衛計画の大綱について」、前掲資料。
新『防衛計画大綱』を見ると、今後日本は、1954 年の自衛隊創設 以 来の「日米 同盟」の「 盾」として の役割から 転換を図ろ うとし て いることがうかがえる。「憲法第 9 条」という制約があるため、自 衛 隊は完全な モデル転換 を行って全 方位的防衛 任務を行使 するこ と が できず、ま た攻擊力の上では、在日米軍が今後も日本の防衛に と っ て欠かすこ とのできな い「矛」な のではある が、自衛隊 が今後 受 身 から能動へ と転化する ことで、周 辺地域から の脅威に対 応し、 東 ア ジアにおけ る米国の安 全保障の重 要なパート ナーとなっ ていく こ と が予想され る。こうし た戦略から 考えると、 「敵を国外 に追い 払 う 」ことが、 日本にとっ て、領土や 領海に対す る脅威を排 除する た め の主要な手 段であり、 当分の間は 日本が「先 制攻撃」を 仕掛け る こ とはないが 、自衛隊が 今後「機動 性と攻擊力を備えた盾」に転 換 することは充分に予期できる。 最 後に「 武器 輸出三 原則 」の見 直し である が、 民主党 は参 議院に お いて社民党 の協力が欠 かせないた め、三原則 を緩めると いう決 定 を 行うことが できないの だが、「大 綱」では、 時局の変化 に応じ て 見 直しは必要 であると明 記され、将 来的な「三 原則」の見 直しに 含 みを持たせた。日本は「三原則」の制約を受けるため、自衛隊は「武 器 国産化」の 政策の下、 武器装備の 取得コスト は高止まり である 。 ま た、国債の 負担が非常 に重い日本 は、国防支 出において 中国と 競 う ことができ ない。「三 原則」を緩 め、武器生 産が「規模 の経済 」 を 実現できる ようになれ ば、コスト が下がり防 衛予算の効 率化が 期 待できる18。この他、日本は、戦前の軍需工業が民生工業に転換した ことで日本の戦後経済の奇蹟が実現できたのだが、90 年代以降、日 本経済には疲弊が見られるようになり、少子高齢化が進む日本では、
18 小川和久『日本の戦争力』(新潮社、2005 年)、47 ページ。
内 需市場を拡 大すること は困難であ った。輸出 もまた中韓 等の新 興 国 家による強 力な挑戦を 受けたため 、日本では グローバル な競争 力 を 有し、なお かつ高利益 が期待でき る産業の開 発発展が切 に求め ら て いる。民生 科技を軍需 工業に投入 し、国際共 同開発に参 与する こ とが日本が「TPP 亡国論」19から脱却する道の一つであろう。
四 新『防衛計画大綱』の戦略的意味
90 年代以降、日本社会において「中国脅威論」が提起されるよう に なったが、 日本政府は 中国への刺 激を避ける ため、外交 や安保 政 策上は、中国を「脅威」だとは見なしてこなかった。しかし、近年、 中 国の海軍が 東シナ海に おいて積極 的に活動を 展開してい ること に より、日米は再度「太平洋第 1 列島線」の防衛を喚起し、米国は北 朝 鮮が近年黄 海上で行っ ている挑発 行為をきっ かけに、再 度東ア ジ ア に回帰する という決心 とその実力 を見せ、日 本の民主党 政権も ま た 新『防衛計 画大綱』に おいて、「 日米同盟」 を基軸とす る政策 の 基 調を見せ、 鳩山内閣時 代に一度「 漂流」の危 機にあった 「日米 同 盟 」は、日米 の共同安全 保障が脅威 にあるとの 認知を再度 固めあ っ た 。自衛隊の 防衛上、南 西諸島は中 国解放軍に より突破さ れる可 能 性が非常に高い「太平洋第 1 列島線」の弱点で、菅内閣が打ち出し た 『防衛計画 大綱』にお いては「動 態的な防衛 力」が提起 され、 防 衛力の重点が南に移され「太平洋第 1 列島線」を固守するものとな っている。日本のメディアは、2010 年 12 月に日米が太平洋第 1、第 2 列島線の間で行った合同軍事演習(図 4 参照)の際に、この演習は、19 中野 剛志が『TPP 亡国論』(集英社、2011 年)にて自由貿易で輸出が増えるどころ か、デフレの深刻化を招き、雇用の悪化など日本経済の根幹を揺るがしかねない危 険性のほうが大きいことを述べた。
中 国海軍の西 太平洋にお ける行動に にらみを利 かすことに つなが る と評した20。とはいえ、日米は両国ともに中国大陸における経済的利 益 を鑑みると 、現在の「 日米同盟」 においては 、冷戦期に 採った よ う な「封じ込 め政策」を 再度行うわ けにはいか ない。この ため新 大 綱は、日本が具体的な行動を起こすことで国防に対する決心を見せ、 中 国が誤った 情勢判断に より危険な 方向へと突 き進み、米 国が主 導 す る西太平洋 における国 際秩序を乱 すといった ようなこと を避け る と ともに、中 国が既存の 国際秩序に 戻ることは 、中国にも 有利と な り 、安全保障 においても 日米と協力 することで 東アジア地 域にお け る 衝突のリス クを下げる ことになる ということ を認識させ ようと す る ものであっ た。しかし 、中国は新 『防衛計画 大綱』の方 向性に 対 し て不快感を 示し、「外 交部」の姜 瑜報道官は 、「一部の 国が国 際 社 会の代表を 自任し、中 国の発展に ついて無責 任にとやか く言う 権 利はない」とのコメントを出した21。中国新華社は、新「大綱」の思 考 は、現実か らずれてお り、西洋社 会は「冷戦 思考」を捨 ててい な いと、より厳しい論評を行った22。 し かし、 新『 防衛計 画大 綱』が 打ち 出した のは 、日本 が中 国を敵 と するという ことではな く、日中は 安全保障戦 略上の競争 関係に あ
20 「日米演習、中国の海洋戦略もけん制:韓国がオブザーバー参加 規模最大、北朝 鮮のミサイル想定」『日本経済新聞』(電子版)、2010 年 12 月 4 日、http://www.nikkei. com/news/headline/related-article/g=96958A9693819481E2E1E2E0998DE2E1E3E0E0E2E 3E28297EAE2E2E2;bm=96958A9C9381959FE2E4E2E28A8DE2E4E3E0E0E2E3E29C9C E2E2E2E2。 21 「外交部發言人姜瑜就日本出新『防衛計畫大綱』答記者問」中華人民共和國外交部、 2010 年 12 月 17 日、http://big5.fmprc.gov.cn/gate/big5/www1.fmprc.gov.cn/chn/gxh/tyb/ fyrbt/t779076.htm。 22 「錯位的日本防衛新戰略」新華社、2010 年 12 月 18 日、http://world.people.com.cn/ GB/14549/13518982.html。
る ということ を突出させ たものなの である。自 衛隊は、中 国海軍 の 遠 洋航行の技 術力の獲得 はまだ始ま ったばかり で、未熟な 艦隊で あ る ところ、中 国脅威論は やや誇張さ れた面があ るかもしれ ないが 、 中 国海軍の暴 走を防止す るために、 遠洋におけ る戦力と経 験が成 熟 す る前に外交 努力を通し て、中国を 関連する国 際秩序の枠 組みに 引 き込むことが必要だと、認識する23。五百旗頭真・防衛大学学長は、 現 時点で安全 保障に対し て最も効果 的なのは、 多数の国家 が中国 に 建設的な役割を担うよう促すことであるとしている24。また、松田康 博・東京大学准教授は、新聞への投書で、「日本が中国のよりよい変 化を期待して「関与戦略」を採るのと同時に最悪の事態に備えて「ヘ ッ ジ戦略」を とるのは当 たり前のこ とで、これ は中国を脅 威と認 識 し て軍事力増 強と同盟強 化でそれに 対抗する伝 統的バラン ス政策 を と ることとは かなりの距 離がある。 また単純な 「中国脅威 論」や 単 純な敗北主義に陥ってしまうことは、どちらも中国の穩健派を弱め、 強 硬派の意見 を強めてし まいかねな い。日本は 中国との関 係を切 る ことはできないのだから」と指摘している25。米中関係の安定的な発 展 において、 日本が日中 関係を悪化 させるわけ にはいかな い。こ れ は 、日本の東 アジア地域 における影 響力を減じ ることとな り、日 米 同盟関係に影響を与えかねないためである。
23 「中國海軍暴露不成熟一面 中國威脅論或言過其實」共同社、2010 年 11 月 18 日、 http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=87543。 24 五百旗頭真「『二つの中国』のはざまで」『毎日新聞』(電子版)、2010 年 10 月 24 日、 http://mainichi.jp/select/opinion/jidainokaze/news/20101024ddm002070084000c.html。 25 「日學者:與中交往應參與和防範」中央社、2011 年 1 月 28 日、http://n.yam.com/cna/ international/201101/20110128674538.html。
図 4 中国海軍の主な活動と日米演習の関係 (出典)「日米演習、中国の海洋戦略もけん制 韓国がオブザーバー参加 規模最大、 北朝鮮のミサイル想定」『日本経済新聞』(電子版)、2010 年 12 月 4 日、 http://www.nikkei.com/news/headline/related-article/g=96958A9693819481E2E1E2E 0998DE2E1E3E0E0E2E3E28297EAE2E2E2;bm=96958A9C9381959FE2E4E2E28A 8DE2E4E3E0E0E2E3E29C9CE2E2E2E2。 新 『大綱 』は 、日本 の民 主党政 権が 再度「 日米 同盟を 基軸 」とす る 途に戻った ことを意味 し、米国も また日本を 、この地域 の紛争 処 理 における重 要なパート ナーである と見ている ことを意味 してい る が、「ポスト小泉時代」以来、日本では度々首相が変わり、弱体化し た 日本経済は 地域の安全 保障維持と いう役割に 二の足を踏 み、防 衛 省は「専守防衛」の立場を固守するといった状況にあって26、与野党
26 「憲法と自衛権」『防衛省・自衛隊』2011 年 2 月 14 日、http://www.mod.go.jp/j/approach/
間 で「集団自 衛権の行使 」に関して 共通の認識 が形成され にくい と いった現実がある。「日米同盟」が歩いてきた半世紀の間、両国間に あっては 1996 年の「再定義」の後に、『日米安保条約』を新たな定 義 を求める動 きがあった 。しかし、 この時日本 は、米国の 「日米 同 盟 」を拡大し 共同で地域 の安全保障 に関する問 題に対応し 責任を 負 うという期待に対し、「気はあれども力不足」であるおそれがあった た め、米国は この形式的 な「新再定 義」への関 心が薄かっ た。米 国 の 国会調査報 告は、今後 の日米関係 に関する態 度を保留し ており 、 日本政府の「憲法第9 条」に関する解釈27は日米間の緊密な防衛協力 を 制限するも のだと指摘 した。しか も、現在の 日本政治は 混迷を 極 めており、「集団自衛権の行使」に関する法律的解決の実現は非常に 困難である28。こうしたことから、日本国内の情勢は米国の利益にマ イナスに働き、また日本において効率性のない指導者が続くことは、 日 本が政治的 リスクを犯 して米国の グローバル な行動を支 持しな い で あろうこと をも意味し ている。ま た、日本の 政策決定が 先延ば し に され、米国 が日本で進 める経済、 外交、軍事 等の協力に おいて も 支障が出ている。これでは、「日米同盟」は互恵を基礎とはしている
agenda/seisaku/kihon02.html。 27 日本政府は「憲法第 9 條」に基づき「集団自衛権の行使」を「わが国が、国際法上、 このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、 憲法第9 条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要 最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使する ことは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。」と解釈し ている「稲葉誠一議員質問主意書に対する答弁書」日本内閣法制局、1981 年 5 月 29 日より引用。
28 “U.S. says Article 9 limits close defense cooperation,” The Japan Times, February 12, 2011,
ものの、両国間の関係にひびが入ってくるだろう29。米国のシンクタ
ン ク 「 戦 略 国 際 問 題 研 究 所 」(CSIS: Center for Strategic and International Studies)のニコラス・セーチェーニ日本部副部長もまた、 日 本の指導者 が国内の政 争にあけく れ、国際舞 台における 日本の 役 割 の拡大に集 中できない と指摘する 。時間が経 ち、次にア ジア問 題 が再び爼上に上ったとき、米国はまず、日本とではなく中国等の国々 と協議を行うであろう30と指摘している。言い換えれば、日本は今後 も「日米同盟」により地域の安全保障における日本の役割を強化し、 そ の義務と責 任を負うこ とで、東ア ジアの核心 的地位を確 保する こ とができるのである。 つ まり、 日本 は、世 界に は米国 と対 等の同 盟国 は存在 しな いのだ ということを認識すべきである。当面の急務である、「ジュニアパー トナー(junior partner)」の見直しや、米国に対等の同盟関係の構築 を 求めるので はなく、米 国のグロー バル戦略に おいて、日 本自身 を ど のような役 割に位置づ けるかを考 え、そして これを日本 の国家 利 益に転化するのである31。日本は、現時点では米国の東アジア地域に おける安全保障上の最重要パートナーであるが、『防衛計画大綱』の 改訂は、日米間の「同盟のジレンマ」(alliance dilemma)を解決する ものではない32。日本が行動と実力によって、米国の東アジア地域の 安全保障における「バックキャッチャー」(buck-catcher)としての役
29 Mark E. Manyin and Emma Chanlett-Avery, “Japan’s Political Turmoil in 2008: Background
and Implications for the United States,” September 16, 2008, http://assets.opencrs.com/ rpts/RS22951_20080916.pdf.
30 「美國的日本問題專家談福田辞職」共同社、2008 年 9 月 3 日、http://china.kyodo.
co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=61422.
31 小川和久、前掲書、117~119 ページ。
32 Glenn H. Synder, “The Security Dilemma in Alliance Politics,” World Politics, Vol. 36, No. 4
割を果たすことが証明できないならば33、今後米国は他のパートナー を積極的に探すことになろう。
五 黄粱の夢「日中関係による日米関係の均衡」
戦 後の日 本外 交は「 日米 を基軸 とし 、アジ ア軽 視」の 路線 を採っ たが、70 年代以降は、アメリカが「中国カード」を切ることでソ連 を牽制し、日本もまた米国追従の外交政策の見直しを始め、「脱米、 ア ジア共同体 論」や「多 角的な自主 外交」が形 成されてい った。 鳩 山 前首相が推 進しようと した外交は 、この路線 を具体化し たもの で ある。民主党の『政権公約』にある外交政策では、「対等な日米関係」 と 「東アジア 共同体の構 築」が突出 している。 鳩山首相の 「東ア ジ ア共同体」に関する論述は、基本的に「欧州連合」(European Union, EU)をモデルとしており、米国の東アジア地域における影響力は認 め るものの、 米国が東ア ジアの秩序 を左右する のは好まし くない と す る。鳩山氏 は、東アジ アは日中韓 を核とした 東アジア諸 国が集 団 安 全 保 障 体 制 を 構 築 し 、 通 貨 の 統 一 も 実 現 す べ き だ と し て い る34。 2009 年 9 月 24 日、鳩山首相は第 64 回連総会にて外交デビューし、 「東アジア共同体」を構築する2 つの中核概念である「友愛」と「ア ジア重視」を基調とした演説を行い、「鳩山外交」を大々的に宣伝し た 。このとき の鳩山首相 の米国訪問 は、過去の 自民党時代 に首相 が 初訪米する「参勤外交」とは異なり、ニューヨークを起点としたが、 対 話 の ポ イ ン ト は 中 韓 等 の 東 ア ジ ア 近 隣 諸 国 で あ り 、「 東 ア ジ ア 共 同 体」を宣伝 することに より新しい 外交主張を 行い、民主 党の外 交33 John J. Mearsheimer, The Tragedy of Great Power Politics, pp. 30~41.
34 辛貞録「【東アジア】民主党・鳩山代表が語る『東アジア共同体』とは-集団安全
保障体制、通貨統一、米国の影響力を減らしていくべき」『朝鮮日報日本語版』(電 子版)、2009 年 8 月 17 日、http://www.chosunonline.com/news/20090817000007。
政 策は過去の 自民党によ る外交思想 とは異なる ことを突出 させた 。 鳩山首相の考え方を見てみると、「東アジア共同体」とは経済的な面 に 限るもので はない。外 務省の兒玉 和夫報道官 による今後 の「東 ア ジ ア共同体」 の青写真に 関する説明 によると、 共同体は総 合性を も つ 「欧州連合 」のような 組織であり 、政治問題 や経済問題 を議論 す る のみならず 、安全保障 問題もまた 共同体の枠 組み内で議 論する と されている35。「鳩山外交」では、当初の民主党政権は、対米関係を 見 直し、アジ アへ回帰し 、地域統合 を主導する という意図 が感じ ら れた。 「 東アジ ア共 同体」 の実 現は、 実は 中国に とっ て利と なる 。これ に より、冷戦 以来の「日 米同盟」が 弱体化し、 米軍の東ア ジアに お ける影響力も弱まるからである36。アメリカという勢力が東アジアか ら 消えるとい うことは、 日本の外交 や安保にと って不利と いうよ り は、「日米同盟」の放棄が日本の対中外交上において「切り札」を失 う こととなり 、これによ り徒に中国 のアジアに おける独り 勝ちを 許 し、日本の外交にとっては災難となる結末が待っていることとなる。 こうなると、米国は外交上「日本はずし」(Japan passing)ではなく、 日 本 の 安 全 保 障 戦 略 に と っ て は 非 常 に 不 利 な 「 日 本 切 り 捨 て 」 (Japan Dissing)政策をとってくるであろう37。「脱米」という外交 は 日本の外交 政策におい て重要なマ ターを失う ことと成り 、対中 外
35 「日外務省:建東亜共同體 歴史問題不是障礙」中國評論新聞網、2009 年 9 月 29 日、 http://www.chinareviewnews.com/doc/1010/8/9/4/101089476.html?coluid=7&kindid=0&do cid=101089476。 36 「東シナ海のガス田問題、中国の譲歩は不透明」『読売新聞』(電子版)、2009 年 9 月 23 日、http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090923-OYT1T00118.htm。
37 「日本切り捨て」(Japan Dissing)の概念に関しては、Michael Auslin, “Japan Dissing,”
The Wall Street Journal, April 22, 2010, http://online.ws.com/article/SB1000142405274870
交 においても 苦境に陥る であろう。 日本は「ア ジア外交」 を進め る にあたって、より慎重に対米、対中外交を行うべきである。「脱米入 亜」政策では、両者とも失いかねない。 2010 年版の『外交青書』では、鳩山内閣の外交政策における「ア ジ ア外交」の 重要性が突 出していた が、日中間 の海洋利益 におけ る 矛 盾や東シナ 海海域上の 島嶼主権紛 争を見ると 、日本にと って政 治 や歴 史上の障壁 を取り払い 、「友愛外交 」を実現し 、「東アジア 共 同 体」の構築を主導するのは困難であろう。2010 年 9 月上旬、日中間 に おける尖閣 問題は、日 中関係をも とに戻すこ ととなった 。日中 関 係を以って日米関係のバランスを図るというのは「黄粱の夢38」にす ぎ なかった。 民主党の「 鳩山外交」 は日本の外 交、安保政 策上の 焦 点 を失うこと となり、菅 内閣が改め て練り上げ た日本外交 の概要 は 自民党時代の政策と似たものであった。 2010 年 3 月に起きた「韓国哨戒艇沈没事件(天安艦事件)」は、 米 国のオバマ 政権を再度 東アジアへ と向かわせ る格好の口 実とな っ た 。膠着状態 に陥ってい た日中間の 東シナ海問 題は、米国 や中国 と の 間における 外交方針を 失いかけて いた日本に 新たな外交 政策の 方 向 性を見出さ せ、日米同 盟関係は改 めて堅固な ものとなっ た。五 百 旗 頭真学長は 、「日本の 安全保障に とって、米 中両国と良 好な関 係 を 保つことは 非常に重要 であるが、 中国がアメ リカに取っ て代わ る と いうことは なく、「日 米同盟」が 最も重要で ある。対中 外交に お いては、ともに経済的利益を追求すべきである。つまり、日本は「日 米 同盟+日中 協商」を採 るべきであ り、「日米 中正三角論 」は現 実
38 成語。黄梁夢、黄梁一炊夢。米や粟・きびなどを炊く時間を指す。きびが炊ける間 に見た昼寝の夢、束の間の夢のこと、はかないものの例え。
的な考え方ではない」としている39。 「 韓国哨 戒艇 沈没事 件( 天安艦 事件 )」は 、東 北アジ ア地 域の安 全 保障に変数 をもたらし た。日韓は 竹島問題に よる不快さ をしば し 棚上げし、共通の相手に立ち向かった。2010 年の「日中韓サミット」 で は、ともに 北朝鮮を譴 責し、今後 も共に北朝 鮮問題にお いて協 力 し ていくこと を確認した 。韓国の李 明博(イ・ ミョンバク )大統 領 は 、鳩山首相 に対して在 日米軍の海 兵隊の沖縄 継続駐留政 策を賞 賛 し 、珍しく日 韓が外交上 協調姿勢を 見せた。菅 内閣発足後 も、日 本 は韓国に対して頻繁に秋波を送り、2010 年 8 月 10 日の「日韓併合」 百 周年の当日 、菅内閣は 、日本の朝 鮮植民地支 配に対し遺 憾の念 を 表 す閣議決定 を行い、当 時朝鮮から 日本の宮内 庁に移管さ れた『 大 礼儀軌』(朝鮮王朝儀軌)の返還に着手することとした。菅首相の談 話は、1995 年の「村山談話」の精神を越えるものではなかったが、 管 談話は韓国 をだけを対 象としてお り、同様に 日本の軍国 主義に よ る 被害が甚大 であった台 湾や中国へ の言葉はひ とつもなく 、韓国 と の 外交関係を 固めようと する意図が あふれたも のであった 。朝鮮 半 島 問題を専門 に研究する 慶應大学の 小此木政夫 教授は、日 韓両国 は 双 子国家であ るのだから 良好な競争 パートナー 関係を築く べきで あ と指摘している40。日本による韓国の植民地支配という障害を如何に 乗 り越えるか を考えてい た日米は、 新「共同戦 略目標」に おいて 、 韓 国を地域防 衛協力とい う枠に組み 込むことで 、日米韓の 三国の 安 全保障協力関係を築き41、中国や北朝鮮による東アジア安全保障への
39 五百旗頭真、前掲資料。 40 「訪談:學者主張日韓為“雙子國家”望建立良好夥伴關係」共同社、2011 年 2 月 8 日、 http://tchina.kyodonews.jp/news/2011/02/4343.html。 41 「美日戰略目標 擴大安保合作」中央社、2011 年 2 月 5 日、http://www.cna.com.tw/ ShowNews/Detail.aspx?pNewsID=201102050061&pType1=PF&pType0=aOPL&pTypeSel=
新たな課題に対応しようとしている。 北朝鮮が適時に引き起こした「韓国哨戒艇沈没事件(天安艦事件)」 は 、対米外交 で迷走を続 けていた鳩 山首相にと って格好の 材料と な り「普天間基地移転問題」は元の交渉過程に戻り、「日米同盟」もま た迷走の暗い影から脱することとなった。同盟関係が50 週年を迎え るにあたり、朝鮮半島の緊張により同盟は再び堅固たるものとなり、 日 米双方にと って、日本 周辺の共同 安全保障利 益が確立さ れるこ と と なった。北 朝鮮が引き 起こした「 韓国哨戒艇 沈没事件( 天安艦 事 件)」は、1996 年に中国のミサイル演習によってもたらされた東ア ジ アの緊張が 当時の『日 米同盟再定 義』を創り 上げたのと 同様に 、 東 北アジアに は不愉快な 出来事では あったが、 日米両国に は望外 の 収穫をもたらしたのである。 中国は東アジアの核保有国であり、核をもたない日本は安全保障 上、米国の「核の傘」の下にある。米国「戦略・国際問題研究 セン ター」のジョン・J・ヘイムリ(John J. Hamre)所長は、「中国の軍 事力の増強が続く中、沖縄の米軍基地が置かれる地位は非常に大き なな鍵となる。米国は今後も日米間において、より緊密な軍事協力 関係の構築を要請していくが、問題は日本の態度である」と指摘す る42。『日米安保条約』は、1996 年に再定義されているが、10 数年 が経過し、国際環境もまた大きく変化した。このため、条約を再定 義し直すべきだと主張する学者もいる43。しかし、ヘイムリ 所 長 は、 「民主党新政権が正面から「集団自衛権の行使」について考えるこ とができないのであれば、日米がここで「新安保宣言」を発表する
&pPNo=1。 42 「安保条約 50 年 普天間抜きに他の合意困難」『産経新聞』(電子版)、2010 年 1 月 10 日、http://sankei.jp.msn.com/world/america/100110/amr1001102130004-c.htm。 43 森本敏『米軍再編と在日米軍』(文藝春秋、2006 年)、213 ページ。
意義はあまりない。米国が東アジアから撤退することはなく、米軍 がこの地域に配備していることは、地域における衝突を避ける可能 性を高めており、米軍の存在は東アジア地域の国家的安全に関わる ものである」としている44。これには、民主党は駐日米軍を支持すべ きであり、「日米同盟」関係を深めることで日本の安全は最大の保 証が得られ、今後日中韓の三国の力が次第に上がってくるという状 況下にあって、在日米軍は東北アジアの安定に重要な存在となって くるのだという意味が言下に含まれているのである。 こ のよう に、 民主党 が進 める「 アジ ア外交 」は アメリ カ抜 きにし て 独走するこ とはできず 、「アジア 外交」は、 依然として 「日米 同 盟 」の下にあ り、米国の 東アジア外 交政策をう かがって動 いてい く し かない。日 米の同盟関 係が改めて 強固なもの となったこ とは、 日 米 両国が共同 で中国に対 抗しようと することを 意味するも のでは な い 。日米中の 経済関係は 相互依存関 係にあり、 日本、韓国 、豪州 、 タ イ、フィリ ピン、ベト ナム、イン ドにより構 成される「 対中軍 事 聯 盟」は、中 国に対し冷 戦期の「封 じ込め」の ようなもの を展開 す る ことができ ない。米中 閣僚級戦略 経済会談等 の協力関係 が日増 し に 強まってい くという状 況にあり、 日中は「東 シナ海問題 」の解 決 は 困難ではあ るが、現実 的な経済利 益に基づき 、日本は一 刻も早 く 日中関係のジレンマから脱却し、「政治は親米、経済は親中」を選択 することが今後の日本の外交政策の方向となろう。 民 主党の 重要 ブレー ンで ある寺 島実 郎氏は 、具 体的な 貿易 額の分 析 で は 、2009 年 の 日 本 の 対 外 貿 易 全 体 に お け る 比 重 は 、 対 米 国 が 13.5%、対中国が 20.5%、対アジアが 49.6%を占めており、これは、 日 本が昔とは 異なり、中 国市場を中 心としたア ジア経済に 依存す る
44 「安保条約 50 年 普天間抜きに他の合意困難」、前掲資料。
国家となっていることを証明していると指摘する45。日本経済界もま た、2008 年のウォール街を震源地とする金融危機による日本への打 撃 は大きくな かったが、 これは中国 市場があっ たからで、 経済的 に は 中国は米国 より重要で あるとして いる。『読 売新聞』と 『瞭望 東 方 週刊』が共 同で行った 世論調査に よると、日 本にとって 経済的 に 重要なのは、58%の人が中国とし、31%の米国を大きく上回っていた。 し かし、政治 上米国は日 本にとって 中国よりは はるかに重 要であ る とされ75%が『日米安保条約』は地域の安全保障に貢献していると 回答した46。 民 主党政 権発 足の当 初、 日本外 交に おける 政治 と経済 の乖 離現象 を 正すため、 鳩山首相は 新現実主義 を試行した ほか、新自 由主義 的 制 度主義及び 社会構造主 義的方法を 整合させる ことで、東 アジア 地 域 の秩序へ新 たな道を切 り開こうと したが、西 太平洋にお ける中 国 の 軍事力(投 射能力)が 高まったこ と、また朝 鮮半島にお ける緊 張 状 態に対応す るため、現 実主義的政 策を採るこ とが目下の 日本外 交 や 安保上の合 理的な選択 肢となった 。菅内閣の 政策は自民 党によ ら な い自民党の 政策である 。民主、自 由両党の『 政権公約』 におけ る 外 交政策を比 較すると、 その違いは それほど大 きくない。 新『防 衛 計 画大綱』は 、菅内閣の 外交政策が 再度「現実 主義」路線 に戻っ た こ とを意味し 、「鳩山外 交」が「日 米同盟」を 再構築しよ うとし た 主張とは全く異なるものである。
45 佐信高・寺島実郎『新しい世界観を求めて』(毎日新聞社、2010 年)、64 ページ。 46 政治面で日本にとって重要になるのは米中のどちらかという問いに対し、60%が米 国とし、中国の27%を大きく上回った。詳細は以下を参照:「『膨張中国』への不信 感、『尖閣』で表面化」『読売新聞』(電子版)、2010 年 11 月 7 日、http://www.yomiuri. co.jp/world/news/20101107-OYT1T00390.htm?from=top。
六 結論
民 主党は 政権 を握っ てか ら、日 中関 係を以 って 日米関 係の バラン ス をとるとす る「鳩山外 交」により 、一旦は日 中関係が急 速に接 近 し た。これに 加えて近年 、日中両国 間の経済交 流が活発化 したこ と も あり、中国 は米国に替 り日本の最 重要貿易相 手国となり 、両国 は 日 本 の 中 国 侵 略 と い う 暗 い 歴 史 の 影 か ら 脱 し た か に 見 え 、「 戦 略 的 互 惠関係」を 実現し地域 政治におい て両国共に 利益を得る 途を模 索 し ようとした 。しかしな がら、経済 的利益が地 政学上の競 争関係 に 敵 うことはな く、日中関 係は安全保 障戦略にお ける矛盾を 乗り越 え ることはできていない。菅内閣の外交方針は、前任の鳩山首相の「友 愛 外交」を棚 上げし、防 衛政策に関 しては、以 前の自民党 路線に 戻 りつつある。2008 年の金融危機後、世界の覇権国としての地位がゆ さぶられた米国は、「太平洋第1 列島線」を守るという決心と行動の もとに、その地位が揺らぎないものであることを証明しようとした。 こ のとき、日 米両国はと もに冷戦以 来の同盟関 係を改めて 緊密な も のとする機会をうかがったが、「政治は親米、経済は親中」というね じ れた状態に ある日本が 対中政策に おいて、ぐ らつきを見 せるこ と は 避けられな かった。一 旦日米関係 に食い違い が生じると 、日本 で は直 ちにアジア に回帰し日 中関係を強 化しようと する態勢に なるが 、 日 本は外交的 に「親中遠 米」路線を とることは 困難である 。米国 か ら の圧力を受 け、米中関 係が緊張し 、日中間で 東シナ海の 問題が 突 出 すると、日 本は為す術 がなくなり 、再び「日 米同盟」を 強化す る ことになる。 こ のよう に、 日増し に強 大化す る中 国に対 して 日本が 採れ る外交 選択肢は多くはない。隣国である韓国の支持を得、「日米同盟」を基 軸 とする外交 戦略を堅持 することが 唯一の道で あろう。し かしこ れは 、日本が米 韓を引き入 れて中国に 対抗し、冷 戦時代の思 考に戻 る と いうことを 意味するも のではない 。現在、日 米の対中政 策は、 明 ら かに「政経 分離路線」 を採ってお り、中国に 対して軽率 に軍事 行 動 を起こすこ とはないが 、中国と戦 略的相互信 頼関係がな いとい う 情 勢にあって は、日中関 係の発展は 今後限られ たものとな るであ ろ う。防衛研究所は『東アジア安全戦略概観 2011』において、中国の 軍 事行動につ いて、中国 が軍事的に 日本等の周 辺国家との 距離が 縮 ま りつつある ことから、 対外関係に おいて強硬 な手段をと るよう に なったと指摘する47。近年来、温家宝首相等の中国の指導者は国際社 会に対して、「中国の台頭は何人にとっても脅威とならず、何人の利 益 も損なうこ とはない。 周辺諸国と の善隣友好 に力を尽く し、対 話 と協議によって食い違いの平和的解決をする」、との発言を繰り返し ている。しかし、日本は、中国はすでに鄧小平氏がかつて掲げた「韜 光養晦(才能を隠して外に表さない)」を捨て去り、黄海、東シナ海 及 び南シナ海 問題におい て、日米や 東南アジア 国家との間 で争い が 絶 えず、周辺 海域を「核 心的利益」 と見なして いると認識 してい る ようである。防衛省は『東アジア安全戦略概観 2011』において、中 国 に対して「 発言も聞く が、行動も 見ていく」 とし、今後 、中国 が 対外的に採る実際の行動に関心を払っていく、としている48。 菅 内閣発 足後 、民主 党政 権が行 った 外交の 見直 しは、 基本 的に民 主 党内の保守 派の「現実 主義」と自 由派の「自 由主義」と の両路 線 の 矛盾が反映 されており 、菅総理の 外交は鳩山 由紀夫前総 理の外 交 とは大きく異なっている。菅内閣の外交政策は、「現実主義者」を自
47 防衛省防衛研究所編『東アジア戦略概観 2011』(防衛省防衛研究所、2011 年)、93~112 ページ。 48 同上、111~112 ページ。
称する前原誠司外相(当時)に左右されているのみならず、防衛「官 僚 」からの制 約もある。 中国の清華 大学の当代 国際問題研 究院副 院 長 劉江永氏は 、菅直人政 権発足後、 日本の対外 政策におけ る、防 衛 省 の影響力は 以前の防衛 庁をはるか に越えるも のとなって いると 指 摘 している。 特に日本の 対中政策に おいては安 全保障問題 が核心 的 議 題となって おり、新『 防衛計画大 綱』は、外 交政策を視 野に入 れ た国家安全戦略的性質を持つものとなっている、と指摘して い る49。 新 『防衛 計画 大綱』 では 、日本 の対 中外交 に関 する新 たな 方向が 打 ち出されて いる。日本 はこれまで 「歴史認識 問題」がか らみ、 対 中 外交の上で 、中国が敷 く路線から の制約から 逃れること が困難 で あ った。この ため「歴史 問題」は、 中国と駆け 引きを行う 場とな り 日本にとっては対中外交上の「戦場」ではなかった。「歴史認識問題」 に おいて中国 と争い、道 義なくそれ ぞれが己を 主張するこ とにな っ て しまうぐら いなら、安 全保障戦と いう他の「 戦場」に転 進し、 中 国と真っ向から戦ったほうがよい50。以上から見ると、「歴史認識問 題 」が今後の 日中関係に 与える影響 は弱まり、 これに替わ るのは 両 国 の現実利益 に関わる領 土主権、海 洋権益の争 いであり、 地政上 の 安 全保障利益 が、日中関 係のゆくえ を左右する 主要な変数 となる で あ ろう。今の 日本の政治 経済情勢か ら見て、日 本が再び以 前の軍 国 主 義や軍事強 権へ戻るこ とはないで あろうが、 日中間には 安全保 障 戦 略上の矛盾 があるため 、今後の日 中関係にお いて経済の レベル を 越 えて、全方 位的な「戦 略的互惠関 係」を実現 することは 困難で あ ろう。
49 劉江永「波瀾起伏的 2010 年中日關係」李薇主編『日本藍皮書:日本發展報告(2011)』 (北京:社會科学文獻出版社、2011 年)、頁 99。 50 同上、頁 99。
翻訳:阿部由理香(フリーランス翻訳者) (寄稿:1 月 30 日、採用 6 月 9 日)
日本新防衛計畫大綱下日、中安全關係走向
何 思 慎
(輔仁大學日文系教授)【摘要】
2009 年 9 月,日本民主黨取代自民黨執政,在外交與安保上展現與 自 民黨政權的 不同思考, 力圖強化日 中關係平衡 美日關係, 實現對 等 的「美日同盟」。然而,外交的理想不敵現實的安全利益外交、安保政 策 異於經濟、 社會等內政 相關政策, 較不受國內 政治影響, 不論保 守 派 或改革派當 政,皆無法 改變一國所 處的客觀安 全環境,全 憑執政 者 的主觀好惡將政策改弦更張。在後鳩山內閣時期的民主黨政權揚棄「新 自 由 主 義 」(neoliberalism ) 的 外 交 路 線 , 重 回 「 攻 勢 現 實 主 義 」 (offensive realism)的思維,建構新的外交與安保政策。本文將分析 日 本民主黨關 於『防衛計 畫大綱』修 訂之討論, 據以評估日 、中的 新 安全關係走向。 關 鍵字:日本 防衛計畫大 綱、日本自 衛隊、美日 同盟、美日 關係、 日 中關係The Future of Japan-China Security Relations
under Japan’s New National
Defense Program Guidelines
Szu-Shen Ho
Professor of Japanese Department and Deputy Convener of Diplomacy and International Affairs Program Fu Jen Catholic University
【
Abstract】
On September 2009, the Democratic Party of Japan (DPJ) replaced the Liberal Democratic Party (LDP) and became the ruling party. DPJ has shown different diplomatic and security ideals from those of LDP, endeavoring to strengthen Japan-China relations to balance U.S-Japan relations and pursue an “equal U.S.-Japan alliance.” However, these diplomatic ideals have been defeated by real security interests. Security and defense policies are different from economic, social, and internal policies in that they are not as easily influenced by the domestic politics. A country’s objective security environment cannot be changed at a leader’s will, regardless of the leader’s position as a conservative or radical politician. In the Post-Hatoyama era, DPJ has abandoned the neo-liberalist diplomacy route and returned to the offensive realism ideals to construct the new diplomatic and defense and security policies. This paper is aimed at analyzing DPJ’s amendments to the National Defense Program Guidelines and exploring the future of Japan-China security relations.
Keywords: Japan’s National Defense Program Guidelines, Japan Self-Defense Forces, U.S.-Japan alliance, U.S.-Japan relations, Japan-China relations
〈参考文献〉 「『膨張中国』への不信感、『尖閣』で表面化」『読売新聞』(電子版)、2010 年 11 月 7 日、 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20101107-OYT1T00390.htm?from=top。 「2015 年までの南西諸島の防衛計画」時事ドットコム、2010 年 12 月 17 日、 http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_pol_seisaku-anpoboei20101217j-02-w500。 「安保懇が報告書 『専守防衛』『集団的自衛権』の見直しを提起」『産経新聞』(電 子版)、2010 年 8 月 27 日、http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100827/plc100827232 2019-n1.htm。 「安保条約50 年 普天間抜きに他の合意困難」『産経新聞』(電子版)、2010 年 1 月 10 日、 http://sankei.jp.msn.com/world/america/100110/amr1001102130004-c.htm。 「稲葉誠一議員質問主意書に対する答弁書」日本内閣法制局、1981 年 5 月 29 日。 「艦隊外洋訓練 中国軍ヘリの危険な異常接近」『読売新聞』(電子版)、2010 年 4 月 24 日、http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100423-OYT1T01388.htm。 「憲法と自衛権」『防衛省・自衛隊』2011 年 2 月 14 日、http://www.mod.go.jp/j/approach/ agenda/seisaku/kihon02.html。 「中国艦隊の沖縄近海南下、偵察・挑発の可能性」『読売新聞』(電子版)、2010 年 4 月 13 日、http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100413-OYT1T01341.htm。 「日米演習、中国の海洋戦略もけん制:韓国がオブザーバー参加 規模最大、北朝鮮の ミサイル想定」『日本経済新聞』(電子版)、2010 年 12 月 4 日、http://www.nikkei. com/news/headline/related-article/g=96958A9693819481E2E1E2E0998DE2E1E3E0E0E2 E3E28297EAE2E2E2;bm=96958A9C9381959FE2E4E2E28A8DE2E4E3E0E0E2E3E29C9 CE2E2E2E2。 「平成23 年度以降に係る防衛計画の大綱について」首相官邸、2010 年 12 月 17 日、 http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2010/1217boueitaikou.pdf。 「東シナ海のガス田問題、中国の譲歩は不透明」『読売新聞』(電子版)、2009 年 9 月 23 日、http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090923-OYT1T00118.htm。 「防衛大綱解説」防衛省自衛隊、2010 年 10 月 25 日、http://www.mod.go.jp/j/approach/ agenda/guideline/1996_taikou/kaisetu/index.html。 「陸自、歩兵連隊の「海兵隊化」検討 離島防衛の強化狙う」『朝日新聞』(電子版)、 2010 年 8 月 31 日、http://www.asahi.com/politics/update/0830/TKY201008300422_01.html。 『読売新聞』(電子版)、2010 年 4 月 13 日、http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100413- OYT1T01341.htm。 小川和久『日本の戦争力』(新潮社、2005 年)。 五百旗頭真「『二つの中国』のはざまで」『毎日新聞』(電子版)、2010 年 10 月 24 日、 http://mainichi.jp/select/opinion/jidainokaze/news/20101024ddm002070084000c.html。 佐信高・寺島実郎『新しい世界観を求めて』(毎日新聞社、2010 年)。
辛貞録「【東アジア】民主党・鳩山代表が語る『東アジア共同体』とは-集団安全保障 体制、通貨統一、米国の影響力を減らしていくべき」『朝鮮日報日本語版』(電子版)、 2009 年 8 月 17 日、http://www.chosunonline.com/news/20090817000007。 中野剛志『TPP 亡国論』(集英社、2011 年)。 防衛省防衛研究所編『中国安全保障レポート』(防衛省防衛研究所、2011 年)。 ──『東アジア戦略概観2011』(防衛省防衛研究所、2011 年)。 森本敏『米軍再編と在日米軍』(文藝春秋、2006 年)。 「日本民主黨考慮修改法律使自衛隊警備西南諸島」共同網、2010 年 10 月 17 日、 http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=86435。 「日外務省:建東亞共同體 歴史問題不是障礙」中國評論新聞網、2009 年 9 月 29 日、 http://www.chinareviewnews.com/doc/1010/8/9/4/101089476.html?coluid=7&kindid=0&d ocid=101089476。 「日學者:與中交往應參與和防範」中央社、2011 年 1 月 28 日、http://n.yam.com/ cna/international/201101/20110128674538.html。 「分析:日本防衛重心明顯轉向西南」共同網、2010 年 10 月 5 日、http://china.kyodo.co.jp/ modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=86569。 「中國海軍暴露不成熟一面 中國威脅論或言過其實」共同社、2010 年 11 月 18 日、 http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=87543。 「外交部發言人姜瑜就日本出新『防衛計畫大綱』答記者問」中華人民共和國外交部、2010 年12 月 17 日、http://big5.fmprc.gov.cn/gate/big5/www1.fmprc.gov.cn/chn/gxh/tyb/fyrbt/ t779076.htm。 「美日戰略目標 擴大安保合作」中央社、2011 年 2 月 5 日、http://www.cna.com.tw/ ShowNews/Detail.aspx?pNewsID=201102050061&pType1=PF&pType0=aOPL&pTypeSel =&pPNo=1。 「美國的日本問題專家談福田辞職」共同社、2008 年 9 月 3 日、http://china.kyodo.co.jp/ modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=61422。 「訪談:日本防衛相有意加強西南諸島防衛」共同網、2010 年 10 月 5 日、http://china. kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=86043。 「訪談:學者主張日韓為"雙子國家"望建立良好夥伴關係」共同社、2011 年 2 月 8 日、 http://tchina.kyodonews.jp/news/2011/02/4343.html。 「解讀日防衛新大綱:不排除先發制人攻撃可能」中國評論新聞網、2010 年 12 月 17 日、 http://www.chinareviewnews.com/doc/1015/4/0/9/101540958.html?coluid=7&kindid=0&d ocid=101540958。 「錯位的日本防衛新戰略」新華社、2010 年 12 月 18 日、http://world.people.com.cn/ GB/14549/13518982.html。 劉江永「波瀾起伏的2010 年中日關係」李薇主編『日本藍皮書:日本發展報告(2011)』 (北京:社會科学文獻出版社、2011 年)、頁 99。
“U.S. says Article 9 limits close defense cooperation,” The Japan Times, February 12, 2011, http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20110212a4.html.
Auslin, Michael, “Japan Dissing,” The Wall Street Journal, April 22, 2010, http://online.ws.com/ article/SB10001424052748704448304575195431417711568.html.
Manyin, Mark E., and Chanlett-Avery, Emma, “Japan’s Political Turmoil in 2008: Background and Implications for the United States,” September 16, 2008, http://assets.opencrs.com/rpts/ RS22951_20080916.pdf.
Mearsheimer, John J., The Tragedy of Great Power Politics (New York: W.W. Norton & Co., 2001).
Ryall, Julian, “Study Says China Adding Military Might to Diplomacy,” South China Morning
Post, April 7, 2011, http://www.scmp.com.
Synder, Glenn H., “The Security Dilemma in Alliance Politics,” World Politics, Vol. 36, No. 4 (July 1984), pp. 466~467, p. 494.