気候変動問題の国連交渉に対する検討
─「ツー・トラック」を中心に─
鄭 方 婷
(東京大学大学院法学政治学研究科博士課程)【要約】
現在(2011 年)の国連気候変動交渉プラットフォームは、AWG-KP (京都議定書に依拠)とAWG-LCA(国連気候変動枠組条約に依拠) と いう二つの 作業部会で 構成される 「ツー・ト ラック」あ る。こ の シ ステムは、 本来「独立 性」と「競 争性」とい う二つの性 質を備 え ている。「独立性」とは、次期枠組み交渉における各トラック間の相 互 不干渉性で ある。また 「競争性」 とは、トラ ック間で次 期枠組 み 草 案の早期合 意を競うポ ジティブな 関係を指す 。しかし、 現状は 交 渉 国間の強い 利害対立を 背景に、現 在両トラッ ク間では「 独立性 の 欠 如」により 「負の競争 性」が生成 され、国連 気候変動交 渉の進 展 を 妨げている ことから、 本稿では「 負の競争性 」の生成メ カニズ ム と 交渉に与え る影響を詳 細に分析し た。国連は 、ツー・ト ラック 方 式 の一本化、 相互協力機 関の設置な どを検討し 始めている 。実現 に は 困難を伴う ことが予想 されるが、 各国は依然 として交渉 方式の 改 良を目指し、模索し続けている。 キ ー ワ ー ド : 気 候 変 動、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)、バリ 行動計画、コペンハーゲン合意、締約国会議(COP)一 はじめに
2007 年 12 月 、 イ ン ド ネ シ ア の バ リ 島 で 国 連 気 候 変 動 枠 組 条 約 (United Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCC) 第 13 回 締 約 国 会 合 ( COP13) 及 び 京 都 議 定 書 第 3 回 締 約 国 会 合 (COP/MOP3、通称バリ会合)が開催された。ここで、決議 1/CP.3
によりバリ行動計画(Bali Action Plan、BAP)」が採択され、国連気
候 変動枠組条 約に依拠す る長期的協 力の行動に 関する特別 作業部 会 (the Ad Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention、AWG-LCA)が設置された。2005 年に発足した国連決議 1/CMP.1 により発足した京都議定書に依拠する附属書 I 国の更なる約 束 に 関 す る 特 別 作 業 部 会 (the Ad Hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol、AWG-KP) と 合わせて二 つの特別作 業部会から なる国連気 候変動交渉 の体制 が 発足した。 本稿において「ツー・トラック」はAWG-KP と AWG-LCA の二つ の 特別作業部 会を指し、 その下で行 われてきた 国連交渉を 検証の 中 心に位置付ける。ツー・トラック交渉は2008 年に正式にスタートし、 2009 年の締約国会合までにポスト京都議定書となる次期枠組の形成 に 期待 が持た れた が、結 局全 体合意 には 至らな かっ た。2009 年 12 月上旬にコペンハーゲンで第15 回締約国会合(COP15)及び京都議 定書第5 回締約国会合が開催され、「コペンハーゲン合意」が経済新 興 国を含む一 部の交渉国 によって作 成されたが 、一部の途 上国が 透 明 性の欠けた 政策決定過 程であると 強く批判す るなど交渉 国間の 不 協和音が目立った。また国連の交渉現場においても、2012 年以降に 気候変動に対処する次期枠組の構築にUNFCCC が果たす役割と実効 性に対し、懐疑的な意見が多く出ていた。
気 候変動 をめ ぐる国 際交 渉は、 関係 国間の 利害 調整過 程で あると 同 時に国際法 の厳正な法 文化過程で もある。本 稿では、国 連主導 で 行われてきた気候変動の国際交渉の方式について、2007 年以降の実 績を基に評価する。その中で、「独立性」(Interdependence)及び「競 争性」(Competitiveness)という、国連気候変動交渉の方式そのもの が 持つ性質に 着目し、交 渉が行き詰 まる要因に ついて考察 する。 問 題 点の一つは 、実際に国 際交渉に臨 む各国の担 当者が二つ の作業 部 会 の両方に同 時に関わっ ているため 、参加国間 の「独立性 」が欠 如 し ていること である。も う一つは、 国連交渉の 場に実在す る多く の 国 家や交渉グ ループ間で の立場の不 一致が、負 の競争性を 生み出 し て いることで ある。この 二つの性質 を軸に、こ れまで、そ してこ れ からの気候変動の国連交渉の在り方について考察する。
二 バリ行動計画の採択と「ツー・トラック」の形成
2005 年 2 月、京都議定書がロシアの国内批准に伴って正式に発効 した。同年12 月にモントリオールで開催された UNFCCC 第 11 回締 約国会合(COP11)及び京都議定書第 1 回締約国会合(COP/MOP1、 通 称モントリ オール会合 )で各交渉 国はポスト 京都体制を めぐる 議 論 を開始した 。そこでは 次期枠組交 渉に二つの トラックを 交渉の 場 とする新たなプロセスがスタートした。この方式は2007 年の COP13 以降ツー・トラック方式と呼ばれる国連交渉方式の前身である。 COP/MOP1 は京都議定書の下に特別作業部会(the Ad Hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the KyotoProtocol、AWG-KP)を設置し、附属書I国1、すなわち先進国および
1 UNFCCC の附属書 I に記載された締約国である。附属書 I 国は先進国と旧ソ連、東欧
市 場 経 済 移 行 国2の 第 二 約 束 期 間 の 更 な る 排 出 削 減 義 務 に 関 し て 協
議することを定めている。
またCOP11 は対話の場を設置している。UNFCCC の下に全ての国
が 参加する「 気候変動に 対応するた めの長期的 協力のため の行動 に 関 する対話」 を開始する ことで合意 し、所謂「 モントリオ ール・ ア
クションプラン」(Montreal Action Plan)が成立した3。この対話トラ
ックは、後にツー・トラック方式を構成する AWG-LCA の前の形で あ る。しかし 、この対話 は今後の交 渉、コミッ トメント、 合意プ ロ セ ス、枠組み やマンデー トなどに拘 束力を持た ず、途上国 と京都 議 定 書未調印の 米国が気候 変動枠組み 条約の下、 国際的な気 候変動 対 策を促進するための長期的行動について 2 年間の対話を行うという も のである。 これに関す る合意は、 京都議定書 発効後にお ける日 本 の 交渉の基本 方針である 「全ての国 が参加する 実効ある枠 組みの 構 築」につながるため日本政府も重要視している4。この二つのトラッ
義務が課されている。 2 旧ソ連・東欧の旧社会主義諸国など、市場経済への移行過程にある国のこと。気候 変動枠組条約および京都議定書では先進国と同様の義務を負うが、途上国への資金 提供義務などが免除されている。「温暖化用語集」、全国地球温暖化防止活動推進セ ンター、http://www.jccca.org/dictionary/。 3 具体的には、(1) 京都議定書未批准国の米国や削減義務のない途上国も含めた全ての 国の参加の下、(2) 将来の対話を行う場が設定され、(3) 経験の交換、戦略的アプロ ーチの開発及び分析のための対話を、(4) COP の指揮の下で先進国1名、途上国1名 の共同議長による最大 4 回のワークショップの開催を行うこと、(5) 対話の結果の COP12(2006 年)、COP13(2007 年)への報告、(6) 2006 年 4 月 15 日までに各国の 考えを提出して対話を開始することなど具体的作業手順とプロセスが合意された。 外務省「気候変動枠組条約第11 回締約国会議(COP11)・京都議定書第一回締約国会 合(COP/MOP1)概要と評価」、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop11_ 2_gh.html.。
4 “Japan’s Proposal for AWG-LCA: For Preparation of Chair’s Document for COP14,”
ク が 気 候 変 動 問 題 の 対 応 を 議 論 す る プ ロ セ ス は 、2006 年 5 月 の UNFCCC 補助機関(subsidiary body、SB)会合と並行して開催され た第一回作業部会から開始した。 これら2005 年に設けられた二つのトラックは、各国の相互理解の 強 化と共通認 識の促進に 重要な役割 を果たした が、その活 動は各 国 の 考えを集約 して締約国 会合で報告 するに止ま り具体的な 進展は 得 られなかった。 UNFCCC と京都議定書の実効性に対する信頼が薄れつつあった中、 2007 年 12 月、インドネシアのバリ島で UNFCCC 第 13 回締約国会合 (COP/MOP3)が開催された。バリ会合の焦点は気候変動に対処す るための次期枠組み構築に関する2013 年以降の指針と交渉の方式で あり、BAP が採択されるなど重要な成果を残した。BAP には、既存 のAWG-KP のほか、次期枠組を議論するための交渉事項を取り上げ、 「 気候変動枠 組条約の下 での長期的 協力の行動 のための特 別作業 部 会(the Ad Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention、AWG-LCA)」の設置が新たに定められた。 先進国と途上国間の激しい利害対立を背景に2007 年新たに発足し た AWG-LCA は、実際に米国、中国、インドなど主要排出国を取り 込 んだ形で立 ち上げたト ラックであ り、次期枠 組みの下地 となる 草 案 の作成につ いて先進国 に期待を持 たれていた 。それを示 すもの と し て、米国な ど主要排出 国を含む次 期枠組みの 交渉内容に 関し、 各 交渉国はバリ会合で以下の内容を BAP に明記することで合意した。 そ れ は 新 た な 気 候 変 動 枠 組 を 議 論 す る 際 に 、 「 共 有 の ビ ジ ョ ン 」5、
warm/cop/cop14-p.html. 5 一つ目の「共有のビジョン」とは、気候変動に対処するための長期的なシナリオを 指す。ここでの「長期」とは、国連交渉や主要国首脳会議をはじめとする多国間対 話によって2050 年を基準にした「一つ」の「世界全体」の目標を意味している。
「緩和」6、「適応」7と「資金及び技術移転」8といった 4 つの主要 要素に焦点を当て、長期的な協力関係について AWG-LCA で議論す るというものである。 BAP は、「第 15 回締約国会合での採択を目的に、2009 年までにそ の作業を終了し、成果を締約国会合に提出する9」という記述により、 新 たな交渉プ ロセス開始 までの作業 期間を与え 、次期枠組 み交渉 に 関する日程表を提示した10。具体的には 2009 年 12 月に COP/MOP5 が開催されるまでの2 年間を交渉期限とし、UNFCCC と京都議定書
6 また、「緩和」について、BAP では先進国による「緩和」の行動は「全ての先進国締
約国による、計測・報告・検証可能(MRV:measurable, reportable, and verifiable)で 各国に適合する緩和の約束または行動、これには排出制限及び削減の数量目標を含 める。なお各国の国情の違いに配慮した上で、それぞれの取り組みを比較できるよ うにする」とする。一方途上国による緩和の行動についても、「技術、資金、能力向 上による支援を受け、実行可能となる持続可能な発展の概念に則った、途上国締約 国による各国に適合する緩和の行動、これは計測・報告・検証が可能な方法で行わ れる」と記述されている。 7 三つ目の「適応」に関しては「適応行動の速やかな実施を支援する国際協力には(中 略)、全ての締約国の脆弱性を軽減する方法が含まれる、いずれも気候変動の悪影響 をもっとも受けやすい途上国、特に後進開発途上国及び小島嶼開発途上国の緊急の、 及び当面のニーズに配慮し、さらに旱ばつ、砂漠化、洪水の影響を受けるアフリカ 諸国のニーズを考慮に入れる」と定め、気候変動によりもたらされる災害や需要に 応じて支援を提供するように定めた。 8 最後に、「資金及び技術移転」について、BAP では「緩和及び適応のための行動並び に技術協力を支援するための資金源及び投資を提供する行動の強化」、そして「緩和 と適応の行動支援を目的とする技術開発及び技術移転の行動の強化」について検討 する[1. (d) 及び (e)]と規定されている。 9 「緩和」は GHGs の排出量、GHGs 排出量増加率の削減などを含む GHGs 排出挙動の 緩和を意味している。経済成長率が高い途上国ではGHGs の GDP 当り排出量(排出 強度)が高く、かつ排出量が毎年増加するなか、GHGs の排出量「削減」は非現実的 である。そのため、排出強度や排出量成長率の緩和と称す。 10 「決定書 1/CP.13:バリ行動計画」(財)地球産業文化研究所訳、2007 年、http://www. gispri.or.jp/kankyo/unfccc/pdf/20080104_cp13.pdf.
によりそれぞれ設置が定められたAWG-LCA と AWG-KP という二つ の 特別作業部 会が並行し て交渉を進 めるという 「ツー・ト ラック 」 が 次期枠組み の成立に向 けた国連交 渉の方式と してスター トした の である。 1 「ツー・トラック」交渉の実施状況 (1) 交渉の構図 2008 年 3 月から AWG-LCA と AWG-KP は並行して次期枠組みに関 する交渉を進めてきた。これはCOP13 以降、次期枠組をめぐる国連 交渉が「ワン・トラック」、すなわち京都議定書の改定や附属書I国 の 更なる削減 約束に重点 を置く交渉 の方式から 、途上国を 含めた 長 期 的協力次期 枠組の具体 的な構想に 重点を置く 「ツー・ト ラック 」 方式に転換したことによる。 (図 1)は、現在の気候変動枠組交渉の組織相関図である。UNFCCC を 事 務 局 と し て 条 約 締 約 国 会 合 (COP) と 京 都 議 定 書 締 約 国 会 合 (COP/MOP)が設置されており、AWG-LCA と AWG-KP はそれぞれ COP と MOP の下で交渉を進める。その成果に関する決定書草案を 各自にCOP 又は COP/MOP へ提出し、本会議(プレナリー)で検討 と採択を委ねる。UNFCCC は毎年 COP 締約国会合を開催しているが、 2005 年の京都議定書発効以降は COP および COP/MOP を同時開催す るようになった。COP では AWG-LCA の報告書を基に決議書を採択 し、一方COP/MOP は UNFCCC と京都議定書の締約国会合であるこ と か ら 、 京 都 議 定 書 関 連 の 議 題 や AWG-KP の 報 告 書 に 基 づ い て COP/MOP の決議書を作成・採択する。また、AWG-LCA の交渉には UNFCCC の締約国全てが参加するが、AWG-KP の交渉には京都議定 書締 約国のみが 参加してい る。具体的に は、AWG-LCA には米国を 含むUNFCCC の締約国である 194 カ国と EU、合計 195 締約国(2011
年4 月現在)11が参加している。一方、194 カ国のうち京都議定書署
名済み・未締結の米国はAWG-KP においてオブサーバーとして在籍
し、実質的に参加しておらず、AWG-KP 参加国は 192 カ国と EU、合
計193 締約国となっている(2011 年 4 月現在)12。
図 1 BAP 成立後の気候変動に関する国連交渉プロセス
(注)SBI:「実施に関する補助機関」(Subsidiary Body for Implementation)。SBSTA:「科
学 的 技 術 的 助 言 に 関 す る 補 助 機 関 」(Subsidiary Body for Scientific and
Technological Advice)。 (出典)筆者作成。 (2) 交渉の手順 ツー・トラックの交渉では、AWG-LCA と AWG-KP それぞれ約 190 カ国に及ぶ交渉代表が議論を進めるが、交渉国が多数存在するため、 各 交渉国は常 に自国の立 場や利害関 係が近い国 々と交渉グ ループ を
11 “Status of Ratification of the Convention,” UNFCCC, May 9, 1992, http://unfccc.int/
essential_background/convention/status_of_ratification/items/2631.php.
12 “Status of Ratification of the Kyoto Protocol,” UNFCCC, December 11, 1997, http://unfccc.
組織する。COP3 では EU 諸国、JUSSCANNZ13、G77+中国14、小島嶼
国連合(Alliance of Small Island States、AOSIS)、OPEC(石油輸出国 機構:Organization of Petroleum Exporting Countries)等の交渉グルー プ が結成され たが、近年 ではその数 は更に多く なり、より 複雑化 ・ 多 様化してい る。このよ うな交渉グ ループには 、一時的な 利害調 整 の ためその場 限りで結束 するものも あれば、グ ループ形成 後継続 的 に 交 渉 に 関 わ る も の も 多 い 。 途 上 国 に つ い て 言 え ば 、 歴 史 の 古 い G77+中国、AOSIS、OPEC を始め、その後形成されたものを含める と交渉グループは少なくとも COP15 の時点で 17 個に及び、一口に 途 上国といっ てもその立 場は一枚岩 ではなく、 近年より複 雑化の 様 相 を呈してい る。また複 数のグルー プに参加す る締約国が 多く、 議 題に合わせて自国の立場を主張している。例えば AWG-LCA では中 南米諸国が中心として活動するALBA(米州ボリバル代替構想:The
Bolivarian Alliance for the Peoples of Our America)や SICA(中米統合 機構:Sistema de la Integracion Centroamericana)は特に反米の立場が 強く、交渉の際に先進国が気候変動問題で果たすべき責任を追究し、 途 上 国 に 義 務 を 課 す こ と に 拒 否 の 立 場 を 強 調 し て き た 。AWG-LCA は 気候変動に 対処する責 任を途上国 に求めてお り、こうし た対立 が 繰り返されることで交渉が難航している。また、AWG 会合やプレナ リー以外にも、並行して開催されるAWG-KP と AWG-LCA の進捗に
13 京都議定書採択後に形成され、気候変動枠組条約プロセスにおける国際交渉グルー プの一つである。日本、米国、スイス、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、ニ ュ ー ジ ラ ン ド な ど か ら 構 成 さ れ る 先 進 国 グ ル ー プ 。 主 要 国 の 頭 文 字 を 合 わ せ JUSSCANNZ(ジュスカンズ)と呼ばれ、EU と対立する立場にある。 14 国連のシステムにおける発展途上国(アジア、アフリカ、ラテンアメリカの発展途 上国及び中国)の交渉グループ。G77 は、1964 年に設立され、発足当時の参加国数 は77 ヶ国、現在 132 の発展途上国が参加している。
関 して情報交 換し各トラ ックで足並 みを揃える ため、毎回 の会合 で は交渉グループごとに非公開の会合が開かれている。 なお、COP、COP/MOP と AWG-LCA、AWG-KP はそれぞれ必要に 応 じてコンタ クト・グル ープを結成 できる。コ ンタクト・ グルー プ は 、細かい項 目に関する 議論を担う サブ交渉単 位として機 能する ほ か 、論点の確 認と整理か ら草案の作 成まで交渉 成果を法的 文書化 す る 役 割 も 果 た し て い る 。 例 え ば コ ペ ン ハ ー ゲ ン 会 合 の 後 半 で は AWG-KP が COP/MOP へ交渉報告書を提出し、その内容をプレナリ ー で討論した 。それに応 じてデンマ ーク首相の ラスムッセ ン議長 が コ ンタクト・ グループの 結成を提案 し、交渉国 の承認を得 た。こ の コンタクト・グループの仕事は、AWG-KP から送られた報告書に基 づ きコペンハ ーゲンの合 意文書を作 成すること であり、文 書中の 主 題 ごとにコン タクト・グ ループを補 助するため の草案作成 グルー プ も設置された。 (3) 交渉のメンバー 国連の気候 変動交渉で は、締約国 が多数存在 するため大 抵グル ー プ交渉の形で折衝する。UNFCCC と京都議定書の下に AWG-LCA と AWG-KP が設置され、それぞれ約 190 カ国以上にも及ぶ締約国が各 トラックにおいてグループ交渉に臨んでいる。COP の際にはグルー プ内交渉がAWG-KP や AWG-LCA、プレナリーの際にも非公開に実 施されるなど、頻繁に行われたことが印象的であった。COP16 カン クン会合の時点で存在した交渉グループは(表 1)に示すように多く、 排出削減義務や環境破壊、森林などをめぐる立場の差異によってEU、 アンブレラ・グループ(Umbrella Group、UG)、EIG、G77+中国、 AOSIS、小島嶼開発途上国(Small Islands Developing States、SIDS)、 OPEC、熱帯雨林諸国連合(Coalition of Rainforest Nations、CRN)、
経済移行国(Economies in Transition、EIT)などが存在し、また経済
開発レベルが近い経済新興国集団であるBASIC15、低度開発国集団の
後発発展途上国(Least Developed Countries、LDCs)などが積極的に
発 言権を求め ている。中 でも近年国 家規模の拡 大に伴い温 室効果 ガ ス(Greenhouse Gases、GHGs)排出量を増加させている BASIC は、 排出 抑制に関し て先進国か ら強くコミ ットメント を求められ ており 、 次 期枠組合意 の見通しを 左右してい る。また気 候変動をめ ぐる交 渉
にも関わらずアジアングループ、東南アジア諸国連合(Association of
Southeast Asian Nations、ASEAN)、アフリカン・グループ、アラブ 連 盟 、 中 南 米 カ リ ブ 海 諸 国 グ ル ー プ (Group of Latin American and Caribbean States、GRULCA)、中央アメリカ統合システム(Central American Integration System、SICA)、パシフィック諸国と東欧諸国
グループ(Eastern European Group)、西欧その他のグループ(Western
European and Others Group 、 WEOG ) な ど 国 連 の 地 域 グ ル ー プ も COP15 でグループ内交渉を展開した。さらに、UNFCCC では中央ア
ジア、コーカサス、アルバニア、モルドバ共和国グループ(Central Asia、
Caucasus、Albania and Moldova、CACAM)が G77+中国に属さない完 全 な途上国と して交渉に 関わり、関 連分野での 権利を求め ようと し たほか、COP15 の際結成された ALBA は強い反米立場を帯び、先進 国 のみに全て の責任があ ると主張す る。一つの トラック内 に主張 の 異 なる多くの 途上国グル ープが存在 することで 、気候変動 の責任 問 題 で途上国と 先進国とい うよりむし ろ途上国グ ループ内に 亀裂が 広 がる傾向がある16。議題の複雑化に対応し合意達成の可能性を高める
15 経済成長に伴って、二酸化炭素の排出量が増えている新興国であるブラジル、南ア フリカ、インド、中国の4 カ国が 2009 年 12 月の COP15 会期中に結成したグループ。
16 Barnett Jon, “The Worst of Friends: OPEC and G-77 in the Climate Regime,” Global
表 1 COP15 以降に存在する交渉グループリスト 名称 構成国 ALBA ボ リ ビ ア 、 ベ ネ ズ エ ラ 、 ニ カ ラ グ ア 、 キ ュ ー バ 等8 カ国 ア フ リ カ ン ・ グ ル ー プ アフリカ ン52 カ国 AOSIS ツバル、 サモ ア、ミク ロネ シア等42 カ国 ASEAN アセアン10 カ国 Asian Group アジア53 カ国 BASIC ブラジル 、南 アフリカ 、イ ンド、中 国の4 カ国 CACAM ウ ズ ベ キ ス タ ン 、 コ ー カ サ ス 、 ア ル バ ニ ア 、 モ ルドバ等8 カ国、G77 に属していない Central Group ブ ル ガ リ ア 、 チ ェ コ 、 エ ス ト ニ ア 等 経 済 移 行 国 (EIT)を含む 10 カ国 CRN バングラ ディ シュ、チリ、ナ イジェリ ア等31 カ 国 G77+中国 途上国グ ルー プ、130 カ国以上存在 GRULAC ブ ラ ジ ル 、 ベ ネ ズ エ ラ 、 ボ リ ビ ア 、 コ ロ ン ビ ア 等の21 カ国 LDCs バングラ ディ シュ、レ ソト 、ツバル 等47 カ国 League of Arab States サウジア ラビ ア、エジプ ト、イエメン 等22 カ国 OAPEC* サウジア ラビ ア、クウ ェー ト、リビ アの3 カ国 SICA グ ア テ マ ラ 、 ホ ン ジ ュ ラ ス 、 エ ル サ ル バ ド ル 、 ニ カ ラ グ ア 、 コ ス タ リ カ 、 パ ナ マ 、 ベ リ ー ズ 等 7 カ国 SIDS AOSIS を多く含む 38 カ国 途 上 国 中 心
The Pacific States オースト ラリ ア、ニュ ージ ーランド 等14 カ国
EU 欧州連合 加盟 国27 カ国 東欧諸国 グル ープ ロシア、エ スト ニア、ポー ラン ド等東欧23 カ国 WEOG 西 ヨ ー ロ ッ パ 、 オ ー ス ト ラ リ ア 、 カ ナ ダ 、 イ ス ラエル、ニ ュー ジーラン ド等28 カ国(米国はオ ブザーバ ー) 先 進 国 中 心 UG 米 国 、 日 本 、 カ ナ ダ 、 オ ー ス ト ラ リ ア 等 非 EU 先進国9 カ国
T., et al., “The Group of 77 in the International Climate Negotiations: Recent Developments and Future Directions,” International Environmental Agreements, No. 8 (January 2008), pp.116~125.
EIG** スイス、 メキ シコ、韓 国の3 ヵ国 両 方 参 加 Cartagena Group (2010 年に成立) オースト ラリ ア、EU 諸国、コスタリカ、インド ネシア、メ キシ コ、マーシ ャル 諸島等26 カ国及 び欧州委 員会
( 注 )OAPEC : ア ラ ブ 石 油 輸 出 国 機 構 ( Organization of Arab Petroleum Exporting Countries)、EIG:環境十全性グループ(Environmental Integrity Group)。
(出典)“Members of the General Assembly are Arranged in Current Regional Group, ”UN official list, http://www.un.int/wcm/webdav/site/gmun/shared/documents/GA_regionalgrps_ Web.pdf.を参照。非 UN 加盟国、非 UNFCCC 締約国を除く。 た めのグルー プ内交渉で あるが、環 境問題に対 する交渉現 場であ る と は思えない ほど地政学 的なリアル ・ポリティ ックス、す なわち 理 念 や規範、協 力関係より も現実的力 関係と絶対 的利害損得 を重視 し た政治という色彩を強く帯びている。 2 気候変動の国連交渉に対する評価 気候変動抑 制に向けた 国際協力体 制の在り方 についてい くつか の 研 究例がある 。ヴィクタ ーは、より 効果的な国 際協力を得 るため に 必要なのは交渉国数、利益、制度の三つであるとする17。少数国家が 利 益基準に従 いながら、 法的拘束力 のない枠組 みで自主的 な行動 を 起 こすことが 、温室効果 ガス排出量 を管理する 意欲の向上 につな が るという主張である18。またグラッブは次期枠組みの内容の側面から、 先 進国と途上 国との論争 により交渉 が行き詰ま っているこ とを説 明
17 Victor David, “Towards Effective International Cooperation on Climate Change: Numbers,
Interests and Institutions,” Global Environmental Politics, Vol. 6, No. 3 (August 2006), pp.90~103.
18 Victor David, “Towards Effective International Cooperation on Climate Change,” pp.100~
した19。これについて、途上国が目指す京都議定書の延長・改定版か ら なる次期枠 組みの成立 に、先進国 が一定の譲 歩を示さな ければ 交 渉は引き続き難航するとの見解もある20。こうした多くの論者は、現 在 国連交渉に 大きな進展 がない原因 は国連自体 の様々な制 限や交 渉 国 間の利害対 立にあり、 また枠組み が成立し得 る合意の内 容と形 式 は 依然不明で あると説明 している。 一方、フェ ットナーら は交渉 の 膨 大 な 議 論 内 容 を 調 査 し 、 そ の 「 手 続 き 的 か つ 実 質 的 複 雑 性 (procedural and substantial complexity)」こそ、国連気候変動交渉が
行き詰まる原因であると指摘した21。だが、それが生じた原因につい て の考察や、 交渉国間の 対立を解消 するために 必要な議論 がなさ れ ていない。これに対し以下に筆者の見解を示す。
三 「ツー・トラック」方式が抱える問題点
国 連交渉 の問 題点は ツー ・トラ ック 方式に あり 、各国 がこ の方式 の 実効性を懐 疑視しなが らも、代替 の体制がな く進展のな いまま 交 渉が続いている。この原因として、筆者はツー・トラック方式が「独 立性(Independence)」と「競争性(Competitiveness)」という二つ の 性質を備え ていること を指摘する 。以下では これらの性 質が生 成 する原因と、交渉への影響について詳細を明らかにする。19 Grubb Michael, “Copenhagen: Back to the Future?” Climate Policy, Vol. 10, No. 2 (January
2010), pp.129~130.
20 Tangen Kristian, “The Odd Couple? The Merits of Two Tracks in the International Climate
Change Negotiations,” No. 59 (April 2010).
21 Huettner Michael, Freibauer Annette, et al., “Regaining momentum for international climate
policy beyond Copenhagen,” Carbon Balance and Management, Vol. 5, No. 2 (June 2010), p.3.
1 「独立性」の欠如 AWG-LCA は BAP 条項により「条約の全面的、効果的、持続的な 実施を可能にする総合プロセス」として開始、COP15 において「そ の(筆者:AWG-LCA の)成果について合意をし、決定書を採択す る (第 1 条)」と定められている22。 一方 AWG-KP については、 COP/MOP1 の決議書に「附属書Ⅰ国に含まれる締約国の 2013 年以降 のコミットメントの検討は、期限制約のない(open-ended)アドホッ ク・ワーキング・グループにおいて検討され、COP/MOP で進捗状況 を報告する」との記述がある23。 BAP によれば、AWG-LCA での交渉は「条約の下で設立された他 の 組織の会合 と合同で行 うこととし 、必要な場 合は、その 会合に お いてワークショップ及び他の活動を開催して活動を補え(第3 条)」、 「 条約及び京 都議定書実 施の経験、 条約及び議 定書のプロ セス、 他 の 関連する政 府間プロセ スの成果、 ビジネス社 会、研究者 社会、 市 民団体の識見を得ること(第 11 条)」24と規定されている。これは AWG-LCA が AWG-KP と同格の組織であることを指すが、両者の法 的 権 利 又 は 義 務 上 の 境 界 に つ い て は 明 確 な 規 定 が な い 。 即 ち AWG-LCA はあくまでも必要に応じて AWG-KP と協力し広範な知見 が 得られるに すぎず、実 際には二つ のトラック どちらから も報告 書 が 提出され、 交渉の後半 から閣僚レ ベルでこれ らをそれぞ れ採択 し
22 前掲「バリ行動計画(BAP)」。
23 “Decision -/CMP.1: Consideration of commitments for subsequent periods for Parties
included in Annex I to the Convention under Article 3, paragraph 9, of the Kyoto Protocol,” UNFCCC, December 2, 2005, http://unfccc.int/resource/docs/2005/cmp1/eng/crp02.pdf ;
(財)地球産業文化研究所『気候変動枠組条約第11 回締約国会議(COP11)及び京
都議定書第1 回締約国会合(COP/MOP1)参加報告書』2005 年 12 月、http://www.
gispri.or.jp/kankyo/unfccc/pdf/COP11_COPMOP1(WEB).pdf。
ているのである。 ツー・トラック以前の方式では、AGBM25等の事務レベル交渉によ り 合意文書草 案を作成し 、それを交 渉の後半か ら閣僚レベ ルで政 治 的 折衝を行っ た上採択に 持ち込むと いう、通常 の国連らし いもの で あ った。これ に対しツー ・トラック 方式では、 二つの作業 部会そ れ ぞ れが独自に 与えられた 議題に対し 複数のコン タクト・グ ループ や 草 案作成グル ープを作り 、各グルー プ内で交渉 を経て決定 書草案 を 仕上げ、それぞれCOP 及び COP/MOP に提出する。二つのトラック は独立性を付与されており、COP15 会合では締約国の交渉担当者に より 「一方での 議論は他方 の進捗や結 論により束 縛されない 」、「 こ こ での議論は 他方の如何 なる状況を 前提や条件 とせず、他 方の交 渉 成果によって影響されなく、他方の交渉結果への影響も期待しない」 といった内容の発言が繰り返された26。 上記を踏まえ、互いに独立しているはずのAWG-LCA と AWG-KP で あるが、実 際には法的 権利と義務 の住み分け が定められ ていな い の で、それぞ れの活動範 囲を見極め て独自に交 渉を進める 必要が あ
る。BAP は AWG-KP と AWG-LCA の交渉スケジュールや両者の関係
等について詳細に規定していないにもかかわらず、2008 年以降、次 期 枠組に関す る交渉はツ ー・トラッ ク方式の下 で行われて きた。 つ まり次期枠組交渉の場として AWG-LCA が開始して以来、AWG-KP と 並行して会 合が進めら れているの である。そ の理由は、 ほとん ど の参加国がAWG-LCA の設置を定める UNFCCC の締約国であると同 時に、AWG-KP の設置を定める京都議定書の締約国でもあるからで
25 1995 年、ドイツのベルリンで開催された UNFCCC の第一回締約国会議では「ベルリ ン・マンデート(Berlin Mandate)」が採択され、「アドホック・ワーキング・グルー プ(Ad Hoc Group on the Berlin Mandate, AGBM)」が交渉の作業部会として発足した。
ある。多くの締約国交渉代表団は(表 1)にあるような複数の交渉グ ル ープに属し ており、グ ループ内で 意見を調整 した上で二 つの作 業 部 会へそれぞ れ交渉担当 者を送る。 途上国と先 進国は対処 責任や 望 ま しい次期枠 組みの在り 方などに対 し主張が異 なるため、 各交渉 グ ル ープはそれ ぞれのトラ ックにおけ る交渉戦略 、優先項目 などグ ル ー プの立ち位 置を明らか にして交渉 に臨むこと になる。そ のため 、 実 際にはツー ・トラック が完全に「 独立性」を 維持して交 渉を展 開 することは難しい。 2 「負の競争性」 BAP が AWG-LCA に与えたマンデートによれば、次期枠組の内容 は 作業部会の 交渉結果に 準ずる。す なわち与え られた一定 の交渉 期 間 において、 それぞれ作 業部会で作 成した合意 文書が次期 気候変 動 枠 組みの一部 となり得る のである。 逆に期間を 過ぎて合意 文書が ま と まらない場 合、次期枠 組みの内容 に反映され なくなる。 このよ う なシステムは、各作業部会に制限される期間内での合意を動機付け、 効 率的な合意 文書の作成 を促進させ る上で一見 有効である ように 見 える。 し かし既 に指 摘した よう に、こ の交 渉の方 式に は「独 立性 」が欠 如 している。 これによっ て、もう一 方での交渉 を進め、他 方での 交 渉 を遅らせた り、停滞さ せたりしよ うとする「 負の競争性 」が生 じ る。実際、米中など主要排出国間の対処責任をめぐる論争によって、 「 競争性」が 本来もたら すはずのイ ンセンティ ブが機能せ ず、二 つ の作業部会は互いに足を引っ張り合うようになった。 目下国連交渉の重点は米国を取り込んだ AWG-LCA の方に置かれ て いる。ここ では先進国 だけでなく 、すべての 国、特に主 要排出 国 は 気候変動に 対して共通 な責任を持 ち、途上国 も先進国か ら資金 拠
出 と技術移転 を受けるな どして気候 変動に対処 する義務を 負わな け ればならない。よって先進国は AWG-LCA で交渉の進展を図るが、 AWG-LCA では先に述べた四つの主要議題について議論がまとまら ず、COP に提出した結論文書も未定事項が散見される上、170 ペー ジ以上にも及ぶ冗長なものであった27。こうしてAWG-LCA が手間取 る間にAWG-KP での議論が先行し次期枠組に採用されるような事態 になれば、AWG-LCA の交渉で先進国が途上国に対し大幅に譲歩せ ざるを得なくなる可能性が高まることから、先進国はAWG-LCA で の議論を積極的に展開したい思惑がある。 京都議定書 の目標達成 義務がない 途上国(非 附属書I国 )にと っ て 、望ましい 次期枠組み の形は、京 都議定書の 単純延長や 附属書 I 国 (先進国) の更なる排 出削減目標 が約束され た改定版で ある。 仮 に議題ごとに行き詰まるAWG-LCA に先んじて、途上国が AWG-KP で交渉を進展させておけば、次期枠組はAWG-KP の結論に基づいて 採 択 さ れ 、 途 上 国 に 有 利 な 内 容 と 形 式 が 期 待 で き る28。 し か し AWG-KP における交渉の主体は EU、日本など対処責任を持つ先進国 で ある。米中 が次期枠組 みに参加し ない場合、 日欧は自国 の削減 約 束 を第二約束 期間までに 延ばしたり 、さらに野 心的な削減 目標を 掲 げ たり するこ とは 容認し にく い。付 属書 Ⅰ国が更なる削減約束の拒 否 を続ければ 、京都議定 書の単純延 長案や先進 国のみが法 的に拘 束
27 2009 年 COP15 時点の交渉結果による。 28 AWG-KP では (1) 附属書I 国の数値目標(①各国の中期目標の積上げの試算、②各 国の中期目標を議定書上の数値約束に換算する方法、③排出割当量(AAUs:Assigned Amount Unit)の計算方法、④先進国全体の削減量や各国の目標の決め方、⑤基準年 が含まれる)、(2) 柔軟性メカニズム、(3) 森林・農地等吸収源(LULUCF:Land Use,
Land-Use Change and Forestry)、(4) 対象ガス、潜在的影響、(5) 法的問題及びその他 の問題、の五つが主に議論される。
される改定版が作成できず、結果としてAWG-KP の報告書は次期枠 組 交渉の下地 として採用 されないこ とになる。 こうした事 態にな る と途上国グループは AWG-LCA において対処約束への拒否姿勢を強 め、ツー・トラック交渉は完全に出口を見失うことが懸念される。 二つの作業 部会が相互 に「独立性 」を保ち、 両者の「競 争性」 が 政 治的妥協案 を合意へ導 く原動力に なると期待 される。し かし実 際 に は独立性が 欠けており 、従って競 争関係に付 随すべき合 意成立 へ の インセンテ ィブも失っ ていること から、「競 争性」は「 負」で あ ると言える。 3 「ツー・トラック」交渉の現状 こ れまで 見て きたよ うに 、ツー ・ト ラック の「 競争性 」は 、独立 性の欠如によりネガティブな性質を帯びている。2005 年に発足した AWG-KP は、米国が実質不参加であり実効性に疑いが残る。また途 上 国の責任と 義務がわず かにしか問 われておら ず、先進国 からは 途 上 国の取り組 みが不十分 であると不 満が出てい た。日本政 府も「 全 て の主要排出 国が参加す る公平で実 効性のある 枠組み」と いう自 国 の 主張に反す ることから 、「一部の 先進国のみ が削減義務 を負う 現 行 の枠組みを 固定化する 京都議定書 の第二約束 期間の設定 」、い わ ゆるAWG-KP において京都議定書の単純延長に反対している29。 日本、米国などを中心とした先進国は AWG-LCA で議論の進展を 図り、途上国はAWG-KP で京都議定書の改定版と先進国による更な る 約束を求め る。これは 、一方が他 方のトラッ クに先んじ て交渉 を 進めることで、その成果が次期枠組に反映され易くなるからである。
29 「COP16 における日本の基本的立場及び京都議定書に対する立場」外務省、2010 年 12 月 7 日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop16_position.html。
結 果、自然な 方向性とし て、二つの トラックは 互いに他方 の進展 を 遅 らせるため の戦略をと るようにな る。しかし 次期枠組の 内容と 形 式 は二つのト ラックの成 果に依存す るため、互 いに他方の 進捗を 妨 げ ようとする 行為は結局 、交渉全体 としての結 論を遠ざけ るとい う 悪循環を招く。 そ れぞれ の合 意文書 が次 期枠組 の内 容を左 右す るため 、各 トラッ ク では交渉国 グループが 自国に有利 な文言を盛 り込もうと する一 方 で 、他方のト ラックにも 優位に立つ よう交渉を 進めている 。その 結 果 、他方のト ラックにお ける交渉の 進展を妨害 したりする 状況が 見 られる。COP15 までの流れを見ても、ツー・トラックで合意を探っ たが結局両トラック間の負の競争により、最終的にはCOP15 で国連 の正式な法的決議に至らなかった。 「 負の競 争性 」はま た、 先進国 と途 上国間 の利 害対立 を激 化させ る原因ともなっている。「共通だが差異のある責任」の原則から途上 国に気候変動への対処責任を当面問わないAWG-KP は、米国の協力 な しに削減義 務を負う日 本、カナダ など一部の 先進国が消 極的な の に 対し、途上 国の支持が 厚い。一方 、この原則 を否定し全 ての国 に 対処責任を課す AWG-LCA は、対処責任の公平性と枠組みの実効性 を求める先進国から強く支持されている。AWG-KP と AWG-LCA の 「 負の競争」 の構図は、 そのまま一 部の先進国 と途上国の 利害対 立 の 構造に反映 されている ことが分か る。本来、 ツー・トラ ック方 式 は 共通だが差 異ある責任 という国連 交渉原則の 解釈をめぐ る争議 を 経 て、これを 逸脱しない 範囲の妥協 点として先 進国と途上 国に受 け 入 れられたも のである。 しかしこの 方式は利害 対立を緩和 できず 、 かえってCOP15 会合において途上国グループが抗議手段として交渉 の 中断を求め た件に象徴 されるよう に、交渉が 阻害される までの 悪 影 響を及ぼし た。また気 候変動交渉 そのものも 行き詰まり 、先進 国
と 途上国双方 が相手に対 するより深 い警戒心と 不信感を抱 くよう に なったのである。 しかし一方で、AWG-LCA と AWG-KP どちらかの交渉結果のみ、 或 いはツー・ トラックそ れぞれの成 果を統一し た内容に基 づいて 次 期 枠組の合意 を得ること も現段階で は難しい。 その理由は 、気候 変 動へ の対処責任 に関わる次 の二点、(1)途上国、特に主要排出国で もあ る新興国の 温室効果ガ ス排出削減 義務の有無 、(2)先進国によ る 削減約束の 幅と技術移 転と資金拠 出の許容範 囲、につい て交渉 国 間で見解が一致しないからである。例えば、一部の先進国は2009 年 のCOP15 においてツー・トラックの一本化を主張した。これには京 都 議定書に代 わる単一の 法的文書を とりまとめ る狙いがあ った。 し か し、途上国 にとってこ れは京都議 定書と国連 交渉原則を 否定す る も のであり、 先進国の責 任回避とい う見方が根 強い。但し 先進国 の 狙い は、AWG-LCA の下で中印など主要排出国から排出削減約束に 関する約束を取り付け、途上国との責任分担の差を縮めると同時に、 AWG-LCA の成立で国連の交渉原則を再解釈し、新たな意味を与え る ことであっ た。次期枠 組において 先進国と途 上国を含め たすべ て の 主要排出国 が気候変動 の実質的責 任を負うこ とを目指し たので あ る。
2010 年 12 月の COP16 の閉幕を受け、AWG-LCA と AWG-KP の下 で それぞれの 決議文書が 合意された 。しかし今 後、これら が次期 枠 組 みの内容に 反映される かは交渉の 方式次第で あり、依然 楽観視 は できない。
四 2010 年以降の発展:交渉の方式の変化と改善への
試み
1 「ツー・トラック」間協力への試み交 渉の 方式に 関す るコペ ンハ ーゲン での 論争の 経験 を受け 、2010 年4 月の AWG 会合ではツー・トラックに関する問題が焦点となった。 AWG-KP では、AWG-LCA との協力問題について意見が交わされ、 EU が二つの AWG による密接な協力の必要性を強調し、スイスは先 進国による緩和の誓約など相互関連事項(cross-cutting issue)に関し、 二つのAWG 間の一貫性を確保する必要性があると強調した30。また、 AOSIS が一つのコンタクト・グループを立ち上げ、特定の問題に対 する議論」、「ワークショップの開催」、「AWG-LCA と共同にイベン トを行うこと」などを提案した31。筆者は、これらをツー・トラック の 「独立性の 欠如」と「 負の競争性 」を緩和す る現実的な 試みで あ ると考える。 こ の提案 に対 し、途 上国 の多く は「 二つの 交渉 トラッ クを 厳密に 切 り離した状 態にしてお くことを希 望する」旨 で反対した 。これ は 本 来あるべき 「独立性」 を維持する 意図と考え られる。ツ ー・ト ラ ック方式の改善については、依然先進国(AOSIS など一部途上国を 含む)と途上国グループの立場が一致しなかったが、2010 年 4 月の 会合ではAWG-KP のアッシュ議長が AWG-LCA 議長のサンガーウェ 氏と会合し、「AWG-KP 議長は AWG-KP のマンデートに十分に配慮 し、自身のイニシアティブで AWG-LCA 議長と会合し、付属書I国 の 約束に関す る情報(す なわち限定 的な議題: 筆者)を交 換し、 こ れを締約国に提供することに留意する」ことで合意した32。この進展 は 規模として は小さいが 、ツー・ト ラック間で 協力の可能 性が探 ら
30 「ボン気候変動会議サマリー:2010 年 4 月 9 日から 11 日」(財)地球産業文化研究 所訳、2010 年 4 月 14 日、ttp://www.iisd.ca/climate/ccwg9/japanese/enb12460j.pdf、16 ペ ージ。 31 同上、18 ページ。 32 2010 年 4 月に開催となった第 11 回 AWG-KP の結論書(FCCC/KP/AWG/2010/L.2)。
れた事実として興味深い。
2 共有スペースの設置提案
「 独立性 」と 「積極 的競 争性」 が両 立でき ない 状況を 打破 し、議 論を前進させようとするもう一つの出来事として、2010 年 5 月から 6 月に開催された AWG 会合において、調和性の欠ける二つの AWG
の間 に「共有ス ペース(common space)」を設置することが AOSIS
によって提案された33。一部の途上国は、現在ツー・トラックの下で 限 定的な共有 スペースの 設置で付属 書I国の緩 和問題を討 議する こ と を支持した が、途上国 グループに は共有スペ ースの設立 に反対 す る国もあり、「このような議論は京都議定書の『死』に向かう一歩で ある」34と懸念を示した。 ツ ー・ト ラッ ク方式 の有 効性に 対し て、途 上国 グルー プ内 でも各 国の立場は必ずしも一致していない。途上国グループの G77+中国 は ツー・トラ ックを一本 化するとま では支持を 明言しない が、場 合 によっては限定された議題についてAWG-LCA と AWG-KP による共 通の議論を行う可能性があることを示唆している35。 ツー・トラック間に共有スペースを設置するという案は、2010 年 4 月 AWG 会合で EU とスイスが提案した両 AWG 間協力体制の整備 と 同じ目的で あると考え られる。こ れは、独立 性を維持で きてい な い 現状に合わ せて原則を 変える手段 として評価 されるべき である 。 筆者は先進国との対立から途上国はAWG-KP の独立性を維持し共有
33 「ボン気候変動会議サマリー―2010 年 5 月 31 日から 6 月 11 日」、(財)地球産業文 化研究所、2010 年 7 月 14 日、http://www.iisd.ca/climate/sb32/japanese/enb12472j.pdf、 14 ページ。 34 同上、47 ページ。 35 同上。
ス ペースの創 設を拒み続 けるであろ うと予測す るが、実際 には明 確 に限定された議題に関しては、両 AWGs 間での情報交換や議論が容 認されている。 3 国連プロセスへの強化 ツ ー・ト ラッ クを改 善す るには 、そ もそも 国連 プロセ スを 強化し なければならない。COP15 以降、UNFCCC を補完するための「有志 連 合」が誕生 した。例え ば、スペイ ン、コスタ リカと米国 が主導 す る「適応パートナーシップ」、ドイツと南アフリカの主導となる「MRV パートナーシップ」、ノルウェー、フランスがリードする「REDD+ パートナーシップ36」などがコペンハーゲン合意後に形成され、交渉 現場の片隅で会合を行った37。しかし少数のグループによる政治交渉 が国連交渉と競合し、UNFCCC の中心的役割が維持できなくなるこ と 、もう一つ はパートナ ーシップと いう形式の トラックは 合法性 と 透 明性が懐疑 視されてお り、パート ナーシップ の構築によ る政治 的 妥 協や具体的 進展が比較 的に成立し やすいこと から、この ような 新 た な試みが国 連交渉に対 し脅威とな ることが危 惧されてい る。こ の よ うな補完的 対話トラッ クは主権国 家主導の交 渉手段では あるが 、 先 進国と途上 国、先進国 間、途上国 間で行われ る協力プラ ットフ ォ ー ムと位置づ けられ、情 報の交換と 共有を目的 にしており 、既存 の 国 連交渉を妨 害しようと の考えはな い、とパー トナーシッ プ関係 者
36 REDD+とは、「バリ行動計画」の 1b (iii)「森林保全を含む、途上国における森林減少 および劣化に起因する二酸化炭素ガス排出量削減」の略称。原文は、“policy approaches
and positive incentives on issues relating to reducing emissions from deforestation and forest degradation; and the role of conservation, sustainable forest management and enhancement of forest carbon stocks in developing countries.”
が説明している38。 国連交渉を強化しようとする背景には、COP15 以降 UNFCCC の役 割 と実 効性自 体が 議論の 対象 となっ たこ とがあ る。2010 年 4 月の AWG 会合では、気候変動に関する国際協力を継続するには UNFCCC を 確保する必 要があると いう意見と 、既存の国 連交渉以外 に行わ れ て きた国際協 力がより効 率的であり 、実行性の あるもので あると 主 張 する立場と が対立して いた。例え ば、国連交 渉の外で行 われた 成 功例として、フランスとノルウェーによる暫定的な REDD+パート ナーシップの設置と、気候変動に関して主要経済国が G20 など国連 以外の場で議論することが挙げられる。 現 在、こ れま で気候 変動 問題に 対し て国連 が定 めた交 渉の 方式が 2010 年 4 月の会合において支持そして再確認され、交渉における「透 明 性かつ民主 的参加型」 という基本 方針が途上 国と先進国 によっ て 確認された。それ以降のAWG 会合では、一部の交渉国が気候変動に 関する自国開催の外部会議、例えば2010 年 4 月にボリビアで開催さ れた「気候変動と母なる大地の権利に関する世界人民会議」、ウィー ンで開かれた「アフリカ-EU エネルギーパートナーシップ第一回ハ イ レベル会議 および持続 可能なエネ ルギーに関 する第九回 世界フ ォ ーラム」と、5 月にオスロで行われた「気候及び森林会議」の会議結 果をUNFCCC に報告する動きが見られた39。 4 国連以外での交渉体制の発展―アジア太平洋地域の状況 ツ ー・ト ラッ クの行 き詰 まりを 改善 する取 り組 みは始 まっ たばか り だが、国連 交渉そのも のの強化と 信頼回復を 図らなけれ ばなら な
38 同上。 39 前掲「ボン気候変動会議サマリー:2010 年 4 月 9 日から 11 日」、24 ページ。
い ことが締約 国に確認さ れたことは 、大きな進 歩である。 それだ け でなく、現在、国連の外では気候変動に関する多国間40、地域内41、 二国間交渉42が数多く行われており、各国の指導層にとって、気候交 渉に関する直接対話の機会が多く提供されている43。特にアジア太平 洋 地域には気 候変動に関 して、規模 の大きな多 国間対話・ 協力体 制 が二つ存在しており、参加国のGHGs 排出への寄与は極めて大きい。 一 つ目は 「ク リーン 開発 と気候 に関 するア ジア 太平洋 パー トナー シ ッ プ 」(the Asia-Pacific Partnership on Clean Development and Climate、APP)であり、2011 年 7 月に米国と日本の主導で設立され た 。米国の京 都議定書離 脱問題では 、中国やイ ンドなど新 興国と の 排出削減義務の不公平が焦点となったが、APP は米、中、印各国の 参 加を最低限 確保するた めに、気候 変動とエネ ルギー安全 保障、 エ ネ ルギー需要 の増大への 対処を全体 のテーマと して、法的 拘束力 の ない多国間体制を目指している。APP の参加国は現在 7 か国だが、
40 例えば、多国間交渉について G8、G20 気候変動に関する議論と閣僚ないし首脳宣言 があり、また米国による主催の「エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済 国会合(MEM)が 2007 年から三回にわたって開催された。引き続き、2009 年 4 月 から同じく米国の下で「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」(MEF) も9 回にわたって行われてきた(2011 年 4 月現在)。 41 地域のレベルでは、EU 域内の気候政策のほかに、APEC による「気候変動に関する シドニー宣言」、環境大臣会議、さらに「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋 パートナーシップ」(APP)が挙げられる。 42 両国間交渉の場合、例えば日本が 2004 年 3 月から「日中気候変動対話」をスタート させ、2007 年 8 月から「日中韓気候変動対話」に三カ国規模まで拡大したことや、 更に、2007 年の APEC に際し、「気候変動とエネルギー安全保障に関する日豪共同声 明」を発表したことが挙げられる。 43 また、日本とブラジルが共同議長を務めてきた「気候変動に対する更なる行動に関 する非公式会合」が2003 年から 2011 年 3 月までに東京で 9 回開催され、非公式会合 でありながらも、米国、EU、中国、インド、サウジ、メキシコなどを含めた主要排
世界全体のGHGs 排出量に占める割合は 55.24%に及んでいる44。 もう一つはアジア太平洋経済協力機構(APEC)である。現在は 21 か 国 が 参 加 し て お り 、 世 界 全 体 の GHGs 排 出 量 に 占 め る 割 合 が 64.01%の大規模な枠組みである45。APEC は多国間の協議体制として よ り成熟して おり、毎年 開催される 首脳会談に て各国の政 治指導 者 が直接意見交換する場が設けられている。2007 年 9 月に「気候変動、 エ ネルギー安 全保障およ びクリーン 開発に関す るシドニー 宣言」 に おいて、「APEC 地域全体でエネルギー集約度46は2005 年を基準年と して2030 年までに少なくとも 25%削減」47と表明し、域内のエネル ギー使用効率の改善を図ろうとした。 APP と APEC に共通している点は二つある。第一に、米国、中国、 日本など GHGs の全体排出量に寄与度の高い国が含まれていること である。気候変動に対処するための政策を有効にするには、米、中、 日 など主要排 出国家間の 協力が不可 欠である。 気候変動を めぐる 国 際 交渉の歴史 においては 、米国、日 本、カナダ 、オースト ラリア 、
44 APP の参加国は現在オーストラリア、カナダ、中国、インド、日本、韓国、米国の 七か国である。 45 APEC の参加国は現在オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、イン ドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニュー ギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、 タイ、アメリカ及びベトナム、合計21 か国である。 46 エネルギー集約度とは、「国民総生産(GNP)当たりのエネルギー消費量」を指す。 要するに「単位当たりの経済活動に要するエネルギーの量を表し、エネルギーの利 用効率や産業構造のエネルギー依存度、気候条件等によるエネルギー利用度などを 代表する」指標の一つである。環境省「環境白書(平成 3 年版)」1991 年、 http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/hakusyo.php3?kid=203。 47 外務省「気候変動、エネルギー安全保障およびクリーン開発に関するシドニーAPEC 首脳宣言」『世界と日本』、2007 年 9 月 9 日、http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/ documents/texts/APEC/20070909.O3J.html。
ニ ュージーラ ンドといっ た国々が比 較的に近い 立場を共有 してき た た めに、中国 やインドな ど経済新興 国の説得が 今後の課題 である 。 第二に、APP や APEC のような地域の国際協力体制は各国の政治指 導 者と閣僚級 官僚間にお いて政治的 協議のパイ プラインと して機 能 し ており、国 家間ないし 交渉グルー プ間におけ る歴史的、 政治的 、 ま たは経済的 対立関係な どによって 利害と立場 の調整が難 しい国 連 プロセスと異なっている。日米等の先進国と中印等新興国にとって、 相 互の要求と 需要を理解 し合える柔 軟性を持っ た手段であ ると考 え られる。 ア ジア太 平洋 地域で はこ れまで 、著 しい経 済成 長を成 し遂 げてき た 。これから は経済発展 とエネルギ ーの安全保 障や大気環 境の保 護 な ど開発問題 との間にお いて持続可 能性のバラ ンスをとる ことが 求 められている。無論、日米をはじめとする先進国による資金、技術、 科 学的知見な いし規範の 提供が必要 かつ重要で あるが、今 後は欧 州 諸 国にも同じ 観点を広げ 、更なる国 際協調と気 候合意を目 指さす 必 要がある。
五 おわりに 「ツー・トラック」に対する評価及び
アジア太平洋地域における意義
現 行の交 渉の 方式で ある ツー・ トラ ック交 渉は 独立性 、競 争性と い う二つの性 質を有する ことを本稿 で初めて指 摘した。先 進国と 途 上 国間の強い 利害対立を 背景に、こ の交渉の方 式は「独立 性」が 維 持 されておら ず積極的な 「競争性」 を失ってお り、締約国 間利害 関 係 対立の解消 は極めて困 難であった 。しかし現 行の国連気 候変動 交 渉 方式である ツー・トラ ックは今後 も継続が見 込まれてお り、交 渉 方 式という制 約により交 渉国間の利 害調整が進 展しない状 態で、 ツ ー ・トラック の交渉成果 を統合し新 たな法的文 書を成立さ せるこ とは現実的ではない。これを改善するため、COP15 以降「両作業部会 間 協力必要性 への理解」 と「共有ス ペース」設 置などが試 みられ て き た。これら はツー・ト ラックが順 調に機能し ない原因で ある「 独 立 性の欠如」 と「負の競 争性」を排 除し、現実 的な協力関 係を築 こ う とする新た な試みであ り、評価さ れるべきで ある。実際 、現在 の 交 渉では両作 業部会が合 同記者会見 を開いたり 、市民団体 から質 問 を 受けるため にセッショ ンを設けた りしている 。今後、両 作業部 会 間 の協力をさ らに推進す るために、 公式の特別 会合を開く ことが 妥 当であると考える。 な お現在 、国 連以外 の枠 組みに よる 国際的 アプ ローチ が進 められ て おり、既存 の交渉手段 を補完でき るかどうか は未知数で あるが 、 今 後 更 な る 分 析 が 必 要 と な る 。 国 連 交 渉 は 、「 透 明 か つ 民 主 的 な 参 加 」というス ローガンを 掲げたうえ 、国際社会 、特に数多 くある 途 上 国の支持を 得ており、 先進国グル ープもそれ を無視する ことは で き ない。国連 は依然とし て気候交渉 の主戦場で あり、今後 もここ で 合 意を得るた めの努力が 継続される と見られる 。なかでも 気候変 動 問 題交渉が法 的な国際合 意に持ち込 めるかどう かは、これ からの 新 興 国の役割に かかってい る。中印な ど主要排出 国でもある 新興経 済 国 は途上国グ ループの一 員であり、 途上国グル ープとの友 好関係 維 持 、先進国と の関係構築 、緩和・適 応政策と国 益のバラン ス、そ し て 国際的責任 という四つ の難題に、 当面ツー・ トラックの 枠組み の 範囲内で対応していく必要がある。これが、2012 年以降の次期枠組 成立に向けた新興国の挑戦である。 ( 寄 稿 :2011 年 4 月 14 日、採用:2011 年 7 月 31 日)
聯合國氣候變遷國際談判之檢討
-以「雙軌制」為中心-
鄭 方 婷
(東京大學大學院法學政治學研究所博士課程)【摘要】
聯合國針對氣候變遷問題自 2008 年起以「雙軌制」(two-track)進 行國際談判。所謂「雙軌制」是指談判在兩個特設工作小組之下舉行, 分 別為附屬於 京都議定書 之下的「關 於先進國家 之進一步承 諾特設 工 作小組」(AWG-KP)以及附屬於氣候變遷綱要公約之下的「關於長期 合作行動特 設工作小組 」(AWG-LCA)。本文透過分析,指出雙軌之 間在本質上應具有「獨立關係」,即雙軌之間互不干涉,各自協定草案 以作為後京都氣候合作方案的一部分。另外,應具有「競爭關係」,即 雙 軌間為促進 早日達成後 京都體制所 具備的積極 特性。然而 ,在締 約 國 間強烈利益 衝突的背景 之下,雙軌 間之獨立關 係崩潰,負 面的競 爭 關 係應運而生 。本文除指 出聯合國氣 候談判的種 種內生問題 外,並 視 雙 軌 制 的 不 完 善 運 作 為 造 成 聯 合 國 氣 候 談 判 陷 入 僵 局 的 主 要 原 因 之 一。 關 鍵字:氣候 變遷、聯合 國氣候變遷 綱要公約、 峇里島行動 計畫、 哥 本哈根協議、締約國會議(COP)International Negotiation on Climate Change
under the UN Framework: Principle, Process
and the “Two-track” System
Fang-Ting Cheng
Graduate Schools for Law and Politics, the University of Tokyo
【Abstract】
This paper analyzes the challenges presented in the UN-led climate change negotiations from a process perspective, focusing primarily on the two-track system. Following the adoption of the Bali Action Plan in December 2007, the current two-track system was launched in a bid to produce agreements for the post-Kyoto regime. Two-track negotiations – negotiations taken place respectively at the Ad Hoc Working Groups under the Kyoto Protocol (AWG-KP) and under the Convention (AWG-LCA) – entail both independence and competitiveness: independence in that each track works separately to agree upon respective draft frameworks, while competitiveness indicates that the two working groups, given a fixed period of time to negotiate, compete to reach an early consensus. However, with strongly conflicting countries participating in a dual manner, a lack of true independence has resulted in a negative competitiveness, which in turn has triggered a deprivation of cooperation and unwillingness to compromise. Unable to reconcile fundamental discrepancies between countries, the two-track scheme should be regarded as the cause of the UN stalemate on climate change negotiation. Calls of track unification or the establishment of mutual cooperation between the two working groups have been given consideration.
Keywords: Climate change, UNFCCC, Bali Action Plan (BAP), Copenhagen Accord, Conference of Parties (COP)
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