トランプ政権の登場と日本の外交戦略
―北朝鮮・中国・ロシア―
東
郷 和 彦
(京都産業大学教授/京都産業大学世界問題研究所所長)【要約】
ト ランプ の「 アメリ カ第 一」政 策は 、アメ リカ 国内の 矛盾 の反映 で あると同時 に、国際社 会情勢の反 映でもある 。防衛・安 保・外 交 面 では、大統 領就任後の トランプの 政策は、軍 事力を必要 に応じ て 使 用する「強 いアメリカ 」政策であ り、北朝鮮 問題に典型 的に現 れ て いる。経済 面では、二 国間主義に よる米国の 利益の直接 追求に 強 く傾斜し、典型的には TPP からの撤退に現れているように、多数国 間主義から逸脱している。安倍総理は 2013 年から 2016 年まで戦略 的 で 創 造 的 な イ ニ シ ア テ ィ ヴ を た く さ ん と っ て き た が 、2017 年 の 間 、トランプ のチャレン ジに効果的 に対応して きた。北朝 鮮につ い て は「今は圧 力の時だ」 という安倍 総理の政策 の結果は必 ずしも よ く 見えないが 、トランプ の立場とは 見事に調和 してきた。 トラン プ の TPP からの撤退は、一帯一路政策にもっと理解を示す絶好の機会 を 安倍総理に 与えたが、 総理はトラ ンプを敵対 化させずに 中国の 関 心 を 引 く 政 策 転 換 に 成 功 し て い る 。 米 ロ 間 の 緊 張 は 拡 大 し て い る が、安倍総理の日ロ平和条約締結への努力は続いている。 キーワード:安倍外交、金正恩、習近平、プーチン、トランプ政権一 序章
現 下の世 界は 、巨大 な激 動に見 舞わ れてい る。 震源地 は一 概に特 定 できない。 現代という 時代をその 大きな区切 りにおいて 考えた 場 合 、まずは、 第二次世界 大戦が終了 し、そこか ら、米ソの 二大超 大 国 が世界をし きる「冷戦 時代」が始 まったこと に大方の異 論は無 い と思う。冷戦の終焉を、1989 年―1991 年と考えた場合、ここから、 アメリカ一極時代が始まり、それが徐々に陰ってきた。長い意味で、 今 私たちは、 このアメリ カ一極時代 の陰りの中 に生きてい るのだ と 思う。さてここから先はもう少しやっかいになる。 陰りの最初の画定点は、やはり 2001 年の「9・11」に求めねばな る べき であろ う。 つまり 、「9・11」は力の享有とその行使という意 味で、「一極」であることを疑われていなかったアメリカの軍事力に 大 きな脆弱性 がありうる ことを示し たのである 。同時にア メリカ へ の 挑戦が、オ サマビンラ ディンとい う複雑に入 り組んでき た中東 世 界 から発生し たことは、 今後ともに 広い意味で の「中東問 題」が 、 大 きな問題で あり続ける ことを示し たのではな かろうか。 エマニ エ ル ・トッドの 『帝国以後 』とチャー ルズ・カプ チャンの『 アメリ カ 時代の終わり』が出版されたのは期せずして、2002 年である1。 陰 りの最 初の 画定点 が安 全保障 から でたと する なら、 次の 画定点 は、経済からやってきた。2007 年にアメリカ資本主義の本家本元で あるウォール街からサブプライムローン危機が発生し、これが2008 年 には、リー マンブラザ ースの倒産 に伴う米国 経済全般へ の危機 感 と なって現れ た。さてこ の危機を救 うために世 界経済をど うする か と いう議論が 焦眉の急を 持った時に 、世界のリ ーダーたち がその 根1 会田弘継『破綻するアメリカ』(岩波書店、2017 年)7 ページ。
本 認識におい て同意した のは、この 危機への対 策を考える なら、 そ れまで類似の問題が起きた時のアクターだったG7 ないし G8 では対 応 できないと いうことだ った。そう いう問題を 真剣に話す のなら 、 ど うしてもそ こに中国を 入れて話さ ない限り、 実効的な合 意はえ ら れ ないという ことだった 。ここに、 中国の本格 的な国際政 治・経 済 の トップグル ープへの参 画が画定さ れたと言え よう。別の 言葉で 言 えば、中国が、鄧小平の「改革開放」(78 年)そして天安門事件(89 年)を乗り越える「南巡講話」(92 年)で打ち出した「韜光養晦」の 姿勢を改め、「主張すべきものは主張する」という政策に舵をきった のは、まさに2008 年ではないかという見方が多い。 日本との関係でいうならば、中国の公船が尖閣領海に「領土要求」 を根拠として初めて侵入したのが2008 年 12 月、中国の GDP が米国 に次ぎ日本を追い越し第二位になったのが2010 年からということに なる。ポール・ケネディは『興隆と衰亡』(2010 年)で「大航海時代 以来続いた欧米優位の約 500 年の歴史が閉じつつあり、世界の中心 は中国を中心とするアジアに移りつつある」と論じた2。 さて、トランプ政権が成立した 2017 年は、2008 年から数え始めて 丁度10 年になる。そして、2017 年はいまだに世界が漂流しているポ スト冷戦期における第三の画定点といってもよいのではないか。「ア メ リカ・ファ ースト」と いうトラン プの「アメ リカ第一主 義」は 、 そ の意味をど のように解 するにせよ 、米国一極 世界の根幹 に迫る 新 し い国策を表 す標語とな ってしまっ たのである 。もちろん 、筆者 が 言 う「アメリ カ一極勝利 からの衰退 の三回目の 画定点」と しての ト ランプ政権という位置づけは、「アメリカ衰退論」が「9・11」(2001 年 )から始ま ったことを 意味しない 。冷戦の終 了時期にむ しろそ う
2 会田、前掲書、8 ページ
い う論考が輩 出された様 子は、例え ば、会田弘 継氏の分析 に詳し い が、その分析は他日に譲りたい3。 そ こで本 稿で は、ま ず、 トラン プ政 権の「 アメ リカ第 一主 義」を 基本的にどう理解すべきかについて述べ(第二章)、それに正面から 向 き合う宿命 を背負わさ れた安倍政 権がどのよ うに腰を据 えてい っ たかを述べ(第三章)、次に以上の日米の基本姿勢の結果として、日 本 外交が今ど のような影 響をうけつ つあるかに ついて、ま ず最近 の 喫緊の外交課題たる朝鮮半島問題を(第四章)、次に現下の日本にと って最重要課題と言ってよい中国問題を(第五章)、最後に安倍政権 が 余人にまね のできない 重要性を付 加している ロシア問題 を(第 六 章)順次取り上げ分析していきたい。 本 稿は、 最後 に短い 「終 章」を 持っ てとり まと められ るこ ととな る。
二 トランプ政権と「アメリカ第一主義」
ト ランプ 政権 につい ては 実に様 々な 論考が なさ れてお り、 その本 質 を簡潔に指 摘するのは 決して容易 ではないが 、筆者なり に試み て みたい。 ト ラ ン プ が 選 挙 戦 で 勝 利 す る こ と に な っ た キ ー ・ ワ ー ド で あ る 「 ア メ リ カ 第 一 」 を ど う 理 解 す べ き か と い う 問 題 に つ い て 考 え た い 。選挙戦に おける勝利 は言うまで もなく、ア メリカ資本 主義の 発 展 の中でとり のこされて きた貧困白 人層からき ており、彼 らを核 と3 会田氏はサミュエル・ハンチントンの『アメリカ、衰退か再生か』(「フォーリン・ アフェアーズ」1988・89 年冬号)が戦後のアメリカ衰退論を包括的に論じていると 指摘の上、ポール・ケネディの『大国の興亡』(1989 年末)や、エドワート・ルトワ ックの保守系論壇誌『コメンタリー』における衰退論(1992 年 3 月号)を紹介して いる(会田、前掲書、7~14 ページ)。
す る「取り残 されたアメ リカ」回復 への希求、 それらの人 々に仕 事 ・ 生活・自己 認識におけ る誇りと満 足感を与え るような政 策をと る こ とを公約し たことが大 統領選出に までトラン プを押し上 げたと 解 される。2016 年 9 月選挙戦の最終段階で、アメリカ衰退の惨状を論 じ 「少なくと も移民・通 商・戦争に ついては、 トランプの 方針は ま っ とうだ。だ から確実に 失敗するヒ ラリーでは なく、トラ ンプに か け てみるべき だ」と公然 と論ずる論 評が現れた ことの重要 性を会 田 氏は指摘する4。 け れども 、ト ランプ 勝利 の背景 とし て、も う一 つ、世 界政 治の主 要な担い手の意識が、それぞれに、「自国第一」の動きを創り出し、 ト ランプの「 アメリカ第 一」はいわ ばその総仕 上げの感を 持って 登 場したことも指摘しなければいけないと思う。 すでに、2001 年「9・11」に中東における反米の動きがただならな い 状況を引き 起こしたこ とは述べた 。ところが 、中東の流 動化は そ の後も加速され、「アラブの春」として2011 年から 13 年、中東世界 に 改革の未来 を招き入れ たと思われ た状況が、 実は結果と して特 に イラクとシリアに力の真空を生み出し、そこに、2014 年に極端な自 己中心主義ともいうべき「Islamic State of Iraq and Syria (ISIS)」を生 み出すこととなった。 他方において欧州・アジア世界に目を転ずると、北朝鮮で 2011 年 末 に、金日成 ・金正日と 続いた体制 の下に、金 正恩という 「核兵 器 に 自国体制の 保障のすべ てをかける 」という自 己中心政策 に固ま っ た指導者が現れた。 2012 年には期せずして、「ロシアのガスダールスツヴェンノスチ
4 プブリウス・デキウス・ムス「フライト 93 選挙」『クレアモント・レビュー・オブ ・ブックス(CRB)』オンライン版、2016 年 9 月掲載(会田、前掲書、3 ページ)。
(国家性)の回復」を標榜するプーチン大統領の復帰(3 月)、「中国 の夢の実現」を政権の目標に据えた習近平の選出(11 月)、「日本を と りもどす」 を政治スロ ーガンの中 核に据える 安倍首相の 復帰(12 月 )という、 それぞれ全 く違った政 治状況では あるが、強 いリー ダ ー であり、そ れなりに「 自国第一」 を主張する 三者そろい 踏みの 状 況が起きたのである。 2016 年には、春先に、おおかたの予想に反して Brexit(イギリス の EU 脱退)という予想しえなかった「イギリス第一主義」が爆発 し 、秋口にア メリカ大統 領選挙で「 アメリカ第 一主義」を 標榜す る トランプが登場したというわけである。 一 体この 世界 的な動 きを どう理 解す べきか 。や っかい なの は、こ う いう「自国 第一」を標 榜する強い 政権をそれ ぞれの国民 がおお む ね 支持し、そ の心理的動 向を、ポピ ュリズムと ナショナリ ズムで 把 握 する傾向が 顕著になっ てきたこと である。国 内において は「自 由 ・ 民主・法の 支配」を、 国外におい ては「国際 主義」を標 榜する リ ベ ラルな風潮 が影を潜め 、世界レベ ルで、ポピ ュリズムと ナショ ナ リ ズムで武装 した「自国 第一主義」 が吹き荒れ はじめたと いうこ と も できよう。 アメリカが 「自由・民 主・法の支 配」を標榜 する西 欧 の 伝統思想の 体現者であ るとするな ら、そのア メリカの衰 退こそ が こ ういう反リ ベラリズム の危機を醸 成したとい えなくもな い。だ と す れば、最も 反アメリカ 的なやり方 にかけたト ランプのや り方は 、 最 も危険な賭 けに自らを 投じたとい うことにな るかもしれ ない。 ア メ リカン・リ ベラリズム といっても よいアメリ カの価値を 信ずる 一 部 のアメリカ の知識人か ら、中途半 端でない危 機意識が表 明され る のも、故なしとしないのである。 当然のことながら、アメリカ思潮の中から、「いやいや、そうでは な い の だ 」「 こ れ で よ い の だ 」「 こ れ こ そ ア メ リ カ 思 想 の 本 流 な の
だ 」という動 きが現れる 。その思想 をたぶん最 も明確に表 し、大 統 領 選挙戦の指 導者として トランプを 助け、いま 野に下った が引き 続 き 政権に強い 影響力を残 していると 言われるの が、スティ ーヴン ・ バノンである。 「オルタナ 右翼」すな わちアメリ カでこれま で強い影響 力を持 っ ていた「本流右翼」に対する代替としてこれからの求心力を目指し、 選 挙キャンペ ーンを率い 、ホワイト ハウスでし ばらく採用 された バ ノ ンの政策の 根幹には、 会田氏のと りまとめに よれば、以 下のよ う な思想があるようである。 「世界の文 明の清華は 欧米のユダ ヤ・キリス ト教文明と 、それ に基づく資 本主義の組 み合わせで あり、その 清華が今危 機に瀕 している」 「欧米はイ スラムの拡 大路線イデ オロギーと の戦いで、 実態を 理解しない まま敗北し つつある。 この戦いの ためには、 ロシア 等ライバル 国と、互い の相違に目 をつぶって 連携する必 要があ る」 「国家は市 民を(合法 ・不法)移 民から守り 、多国間協 定から 身をひいて主権を守るべきだ」 「エリート たちは「上 昇するアメ リカ」であ り、その反 対側に はエリートとまったく無縁の「下降するアメリカ」「忘れられた アメリカ」がある」 「雇用を政策の核に据えて、労働者を動員し」「すべてを雇用の ために向け る経済ポピ ュリズムの 格好の受け 皿がトラン プにあ る」 「アメリカ史は約 80 年でサイクルを繰り返し 20 年ごとに節目
をもつ。2005 年から約 20 年続く今の節目は大きな破局か転換 にいたる」5 会田氏は、これを総括して、「制度腐敗と戦争前夜を強く意識する キリスト教終末論に近い時代認識と文明衝突観」と述べる6。外にあ っ ては、よっ て立つキリ スト教世界 がイスラム からの文明 の衝突 に よ る危機に立 ち、内にあ っては格差 社会の深み に陥り弱者 の崩壊 が 止 まらないア メリカ、し かも内外の 危機は世界 規模の終末 論的な 破 滅 に向かって 動いている かもしれな い。もはや なりふり構 わずに 、 こ の危機を止 めるために 立ち上がる しかないで はないか。 それが ト ランプ(バノン)のいう「アメリカ第一」なのではないか。 も ちろん 、大 統領選 出後 の政権 の状 況は混 乱を 極めて いる ように も 見える。ト ランプ氏個 人の性格、 目前の危機 に着目し受 け身的 に 対 応してしま うという、 不動産取引 の仕事感覚 からくる政 治手法 、 国 際政治にお ける長期的 ビジョンの 欠如、選挙 戦以来のロ シアと の 関 係に対する 米国内から の強い批判 、オバマ政 権の政策と 手法に 対 する反発(Anything But Obama <ABO>)などの要因による混乱状況 が推移しているようにも見える。 に もかか わら ず、以 上の 基本状 況の 中では っき りして きた のは、 外交・安全保障問題では、「アメリカ・ファースト」はむしろアメリ カ の国益を害 するものに ついては「 必要なら武 力を使う」 という 強 い アメリカの 誇示を内容 とするとい うことであ る。従って 当初懸 念 さ れた国際問 題からの撤 退と孤立主 義への逃避 という方向 にはむ し ろ 行っていな い。その最 初の試金石 となってい るのが北朝 鮮核問 題 の解決である。外交の本質は、「交渉と力」の最適点を探求し、でき
5 会田、前掲書、113~122 ページ。 6 会田、前掲書、121~122 ページ。
うる限り交渉によって事態を解決することにある。「力の行使」の可 能 性を示すこ とに政権の 特徴を発揮 するアプロ ーチは、国 際社会 に お ける戦争と 平和の均衡 にとって予 断を許さな い状況を創 り出し て いる。 他 方、貧 困白 人層に 満足 感を与 える ための 経済 問題に 関す る具体 策 については 、二国間交 渉主義によ ってアメリ カが直接的 利益を 享 受 することと 、アメリカ が不当に利 益を失いか ねない多数 国間条 約 への根強い不信(TPP からの脱退、地球温暖化パリ議定書からの脱 退等)の二つの政策が表裏して進行し始めている。 終末論に基づくバノンの危機意識を背景に、「強いアメリカの軍事 的 証明」と「 二国間主義 によるアメ リカの利益 追求の経済 外交」 の 二つを軸とするトランプ外交がここに形成されてきたと言えよう。
三 安倍外交のトランプ外交への対峙
2017 年 1 月 20 日トランプ大統領が就任したときの安倍晋三首相の 立 ち位置はど こにあった か。安倍晋 三氏は、小 泉内閣の下 で政治 的 な求心力を蓄積、特に官房副長官として2002 年、一旦帰国した拉致 被 害者を再び 北朝鮮に戻 さない決断 をするにあ たって枢要 な役割 を 果 た し た 。2006 年 小 泉 退 陣 に あ た っ て 後 継 者 と し て 総 理 に 選 出 さ れ 、かねてよ り発言して いた『戦後 レジームの 脱却』とい う安保 ・ 政治案件を進め、教育基本法の改正(06 年 12 月)、防衛省への改組 (07 年 1 月)、憲法の解釈改正の研究懇談会(柳井委員会)の発足(07 年4 月)、憲法改正のための手続き法の採択(07 年 5 月)などの施策 を 次々に進め たが、閣僚 の不祥事な ど様々な内 政上の困難 に見舞 わ れ 最後には健 康上の障害 を克服でき ずに結局一 年で辞任し た。そ こ から雌伏5 年、2012 年 12 月総理の職に再選されたのである。 再 選後は 、第 一期政 権時 に弱点 とな った経 済社 会問題 を政 権の最重要 課題とし、「アベノミッ クス」「金融 ・財政・競 争力強化の 三 本 の矢」政策を次々と打ち出し、国民全般の支持率を高める中から『日 本をとりもどす』7という形で新たに定式化した政治・外交・安保政 策を実現し始めた。 表1 安倍内閣の2013 年~2016 年の外交・安保の実績8 2013 年 2014 年 2015 年 2016 年 中国 抑止 安保組織 尖閣 防衛予算 靖国 対話 靖国参拝 4 点合意 習近平会談 北京会談 インドネシ ア会談 杭州会談 米国 平和安全法 制 柳井委再開 解釈変更 立法化 法律施行 歴史和解 両院演説 (4 月) オバマ広島 安倍ハワイ 歴史認識 中国・韓国 70 周年談話 (8 月) 韓国 慰安婦合意 (12 月) ロシア 代表団訪ロ ウクライナ 紛争 ウクライナ 紛争 ソチ山口 そ の政治 手法 は、①総理として実現すべきと考えるいくつかの重 要 案件につい ては、決し てぶれずに 不退転でと りくむ、②周囲に経 験 ある官僚・ 有識者を配 置し、必ず しも総理の 心情にピタ リと合 わ な い 人 達 の 見 解 を も 聴 取 し 、 総 理 と し て の 均 衡 あ る 判 断 に 到 達 す る 、③取り上げる問題は難しいものが多いだけに同時重複で爆発し
7 安倍晋三『新しい国へ』(文春新書、2013 年)253~254 ページ。 8 諸報道をもとに筆者により作成。
な いように、 タイミング をよく考え 、一つ一つ ていねいに 実行す る ということである。 その結果、2013 年から 2016 年の末まで、実に見事な外交実績をあ げ 続けてきた のである。 国別・問題 別にその主 要な動きを 見れば 次 のようになる。 1 中国:抑止と対話の組み合わせ 安倍内閣が野田前民主党政権からひきついだ日中関係は、2012 年 9 月から「領土要求を根拠として入りたいだけの回数、国境監視船を 始 め と す る 公 船 が 尖 閣 の 領 海 に 入 っ て く る 」 と い う も の で あ る か ら 、安倍内閣 の当初の全 精力がこれ に対する「 抑止と対話 」にむ け られたのは、蓋し当然のことだと言わねばならない。その結果2013 年一年をかけて国家安全保障会議及び国家安全保障局の設置、「積極 的 平和主義」 を要とする 国家安全保 障戦略の策 定、島嶼防 衛を視 野 に 入れた統合 機動防衛力 を核とする 新防衛大綱 の策定、防 衛予算 の 着実な拡大等の新政策が次々と打ち出された。 首脳レベルの対話については、総理就任一年後の 2013 年 12 月の 靖 国 参 拝 に よ っ て 一 と ん 挫 の 感 は あ っ た が 、2014 年 11 月 の 北 京 APEC に際して最初の首脳会談が開催された。会談の三日前に『日中 関 係の改善に 向けた話し 合い』とい う双方事務 当局の苦心 の合意 文 書 が作成され 、靖国・尖 閣をもって 首脳会談の 妨げとしな い旨の 合 意が成立したことが大きな役割を果たした9。
9 「日中関係の改善に向けた話合い」外務省、2014 年 11 月 7 日、http://www.mofa. go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page4_000789.html、2018 年 1 月 14 日アクセス。
2 米国:平和安保法制によるブレークスルー なんといっても、憲法 9 条の平和主義によって集団的自衛権は国 際法上もってはいるが憲法解釈によって行使できない、他方60 年安 保 条約5条に よって米国 には対日防 衛義務が発 生したとい う、こ の 非対称性を乗り越えたことの意義は大きい。 しかも憲法 9 条の平和主義の考え方を受け継ぎ、我が国と密接な 関係にある他国に対する攻撃があっても、「これにより我が国の存立 が 脅かされ、 国民の生命 、自由及び 幸福追求の 権利が根底 から覆 さ れる明白な危険がある(存立危機事態)」場合のみに集団的自衛権を 行使できるという知恵を働かせたわけである。 以上の同盟強化の基礎のうえに、2015 年 4 月 29 日太平洋戦争で死 傷した米兵の心情によりそった両院合同会議演説がおこなわれ10、16 年5 月のオバマの広島訪問、12 月の安倍総理の真珠湾訪問による相 互献花が実現している。 3 中国・韓国:歴史認識問題 2015 年 4 月に米国との歴史認識問題で重要な前進があったことを 踏まえ、8 月 14 日には 1995 年の村山談話をそれなりに継承すること となった戦後 70 周年安倍談話が発出され11、更には 12 月 28 日両国 外 務大臣間で 、両国間で 長く懸案で あり続けた 慰安婦問題 に関す る 画期的な合意が達成されたのである12。
10 “Speeches and Statements by the Prime Minister,” Prime Minister of Japan and His Cabinet,
April 29, 2015, https://japan.kantei.go.jp/97_abe/statement/201504/uscongress.html 、 accessed on February 18, 2018.
11 「内閣総理大臣談話」首相官邸、2015 年 8 月 14 日、https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/
discource/20150814danwa.html、2018 年 2 月 18 日アクセス。
4 ロシア:ウクライナ問題によるとん挫を乗り越える 安倍総理が2006 年に総理に就任した時から、並々ならぬ覚悟で対 ロ シア関係に とりくんだ のは、麻生 外務大臣が 国会答弁で 「面積 等 分による解決」への関心を表明したこと(06 年 12 月)、ハイリゲン ダ ム・サミッ トで「極東 ・東シベリ ア日ロ間協 力イニシア ティヴ 」 をプーチンに提案したこと(07 年 6 月)でも見てとれる13。安倍総 理 のロシアへ の関心が、 総理の座を 目の前にし ながら病を えて実 現 で きなかった 父親の安倍 晋太郎氏と ゴルバチョ フ大統領の 思いを 受 け継いだものであることも自著に詳しい14。 2012 年 12 月第二期政権成立直後から安倍政権は動き始めた。この 年の 3 月プーチンが大統領に再選される直前の記者会見で「自分が 再選されたら、日ロ関係では、経済関係の抜本的強化と『引き分け』 に よる領土問 題解決をし たい」とい う提案があ ったことも 追い風 と なった。 2013 年 4 月には大規模経済代表団を同道し多数の協力分野を合 意、安全保障分野では外務・防衛 4 大臣で構成される「2+2」が設 置 さ れ 、 双 方 受 け 入 れ ら れ る 合 意 を 目 指 す 平 和 条 約 交 渉 も 再 開 さ れ、この上潮ムードは、2014 年 2 月のソチ冬季オリンピックの開会 式 まで続いた 。だが、そ の直後に起 きたキーエ フでの騒擾 事件、 ク リ ミア併合、 ウクライナ の動乱、こ れに対する G7の厳し い対応 、
裕 が な く 、 こ れ に つ い て は 、 以 下 を 参 照 願 い た い 。Togo, Kazuhiko, “Japan’s reconciliation diplomacy in Northeast Asia,” James Brown and Jeff Kingston edited, Japan’s
Foreign Relations in Asia (London and New York: Routledge, 2018), pp. 149, 153~155.
13 「極東・東シベリア地域における日露間協力強化に関するイニシアティブ」外務
省、2007 年 6 月 7 日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/g8_07/jr_kki.html、2018 年1 月 15 日アクセス。
一連の経済制裁措置により2015 年末まで日ロ関係は完全に動きをと めた。 しかし、こ の間、なん とかして両 国関係を動 かしたいと いう不 退 転の安倍総理の意向は変わらなかったようである。2016 年から両国 関係にモメンタムがもどり、5 月のソチでの首脳会談において、交渉 に活気がもどった。安倍総理から 8 項目の経済協力が提案され、ま た、外交慣例上まれにしか行われない「通訳のみの会談」が行われ、 首 脳間対話の 深化が報ぜ られた。以 上の流れが 基本的には 、ウラ ジ オストック(9 月)、APEC リマ(11 月)と続き、12 月には安倍総理 の故郷山口から東京に続く首脳会談に繋がった。 かくて両首 脳間に、領 土問題の解 決、極東・ シベリアを 視野に 入 れ た経済関係 の推進、安 全保障問題 における双 方の立場を 考慮し た 新しい関係という大きな枠組みの下、2017 年交渉推進の枠組みがで きたように看取されたのである。 そいう状況の下で、2017 年 1 月 20 日、トランプ大統領が登場した。 選 挙戦を通じ て、時に人 種差別・反 既得権益・ 反メディア 的で、 こ れ までのワシ ントン政治 の常識を覆 すトランプ 氏を批判す る米国 世 論 の声は大き なものがあ った。しか し安倍総理 は、一旦当 選した 大 統領との人間関係をつくるために、急速に行動した。2016 年 11 月 17 日 NY 市内のトランプタワーで 1 時間半に渡る会談が行われた。 「 ともに信頼 関係を築い ていくこと ができる、 そう確信で きる内 容 だった」――安倍首相の弁である15。この第一回目の会談は、2 月 9 日~13 日の安倍総理の訪米、トランプのアジア訪問の最初の訪問国
15 「安倍首相がトランプ氏と初会談「トランプ氏は信頼できる指導者」場所は前日に
なっても決まらず?」『BuzzFeed NEWS』2016 年 11 月 18 日、https://www.buzzfeed. com/jp/sakimizoroki/abe-trump-first-meeting?utm_term=.ayBR5jZDR#.xrAog3bYo 、 2018 年1 月 15 日アクセス。
となった11 月 5 日~7 日の訪日に繋がっていく。いずれの訪問でも、 ゴルフを含め「話の通じあう」関係の構築が目立つ形となった。 トランプと 各国首脳と の「対話」 の構築が困 難視される 中で、 素 早 い初動操作 に始まる安 倍総理の人 間関係の構 築は、今日 にいた る ま で見事とい ってよいと 思う。では 、政策内容 については どうか 。 安倍政権の2017 年の対外政策は、見事なほどに、既述のトランプ政 権 の二つの政 策の焦点に 即応したも のとなった 。日本にと っての 喫 緊 の課題は、 まずは、北 朝鮮に対し て適応され ていると看 取され る 「 強いアメリ カの軍事的 証明政策」 である。次 章でまず、 トラン プ 政権の北朝鮮政策と、安倍政権の朝鮮半島政策について述べたい。
四 北朝鮮との戦争を回避できるか
2011 年 12 月 17 日金正日総書記死去のあと、北朝鮮の最高指導者 の 地位を急速 に固めた金 正恩(キム ・ジョンウ ン)につい て何を 語 るべきか。 ① 短期間に絶対権力を手中におさめ、13 年 12 月叔父の張成沢国防 委員会副委員長処刑を始めとして粛清により権力基盤を強化。 ② 核武力建設路線を邁進、第 3 回核実験(13 年 2 月)、第 4 回核実 験(16 年 1 月、初の水爆と主張)、第 5 回核実験(16 年 9 月)を 挙行。 ③ 同時に 13 年 3 月「経済建設との並進路線」を決定。 ④ 中国とのパイプ役だった張成沢の処刑もあり、習近平との関係は 険悪。 といったところが、2016 年末までの状況だったといえよう16。16 小倉和夫・康仁徳編著『解剖 北朝鮮リスク』(日本経済新聞出版社、2016 年)3~6 ページ。
ト ランプ 政権 登場後 、際 立った 特徴 がこれ に付 け加わ った 。一つ は、以下の<表2>が示すように、ミサイル実験が頻繁に行われ、9 月 3 日の第 6 回核実験とあいまって、米国に到達しうる核搭載・大 陸間弾道弾(ICBM)の能力をほぼ持つに至ったのではないかと想定 する専門家の見解が増えていることである。 表2 北朝鮮 2017 年ミサイル発射実験17 2 月 22 日 3 月 6 日 3 月 22 日 4 月 5 日 4 月 16 日 4 月 29 日 5 月 14 日 5 月 21 日 北極星2 スカッド ER 改良型 実験失敗 北極星2 実験失敗 実験失敗 火星 12 北極星2 5 月 29 日 6 月 8 日 7 月 4 日 7 月 28 日 8 月 26 日 8 月 29 日 9 月 15 日 11 月 29 日 スカッド 推定 地対艦巡 航ミサイ ル 火星14 火星14 改良 短距離 3 基 火星12 火星12 火星15 新型 ICBM もう一つは 、トランプ 氏及びトラ ンプ政権と 北朝鮮側と の応酬 の 動 向である。 トランプ政 権のキー・ ワードは「 すべての選 択肢が テ ー ブルの上に ある」とい うことによ り、武力行 使の可能性 を示唆 す るところから始まった。 も ちろん トラ ンプ政 権か ら武力 行使 を戒め る声 も定期 的に 聞こえ てくる。5 月 18 日にティラーソン国務長官は、ムン・ジェイン大統 領の特使に対し「北朝鮮の政権交代を求めず、侵略もしない」「キム 政 権 の 体 制 を 保 証 す る 」「 北 が 核 廃 棄 の 意 思 を 示 せ ば 米 国 も 敵 意 を 見せる理由はない」と述べ、翌19 日にはマティス国防長官は記者会 見 で「軍事的 な解決に向 かえば信じ られない規 模の悲劇に なるだ ろ う」と述べている18。
17 諸報道をもとに筆者により作成。 18 東郷和彦「安倍政権の内政対応で懸念する取返しのつかない外交遅延」『エルネオ
し かし夏 に至 り、舌 戦の オクタ ーブ が上が って きたよ うで ある。 記憶に新しいところでも 8 月 8 日ワシントンポスト紙が「北朝鮮が 小 型核弾道の 製造に成功 した」と報 道。これに 対しトラン プ大統 領 は「北朝鮮はこれ以上、米国にいかなる脅かしもかけるべきでない。 (さもなければ)北朝鮮は炎と怒りに見舞われる」と言明。9 日の朝 鮮中央通信は、「米グアム島周辺への包囲射撃を検討している」と警 告する報道官声明を発表19。 同日トラン プ大統領は ツィッター で米国核戦 略について 「二度 と 使 わないこと を望むが、 米国が世界 最強国家で なくなる時 は決し て 来ない」と言明20。現在北朝鮮をめぐる動きは、様々な対応が錯綜し ている。 ア メリカ :や むをえ なけ れば武 力を 使うと いう 政策を 明示 的にと っ ているのが 米国である ことはいな めない。北 朝鮮が自分 が満足 す る 水 準 ま で の 核 保 有 に い た る ま で は 核 放 棄 に 肯 ん じ な い の で あ れ ば 、戦争の可 能性はある と考えなけ ればならな い。古来の 歴史は 、 戦 争が緻密に 計算された 意思決定に よる場合も あれば、誤 解、計 算 違い、偶発などによって起きることもあることを教えている。NY タ イムズの2018 年 1 月 14 日付のヘレーヌ・クーパーほかによる「軍 部 は静かに最 後の手段を 準備してい る:北朝鮮 との戦争に ついて 」 という力作は、背筋を寒からしめるものがある21。
ス』2017 年 9 月号、33 ページ。 19 『産経新聞』2017 年 8 月 10 日。 20 『読売新聞』2017 年 8 月 10 日。
21 “Military Quietly Prepares for a Last Resort: War With North Korea,”The New York Times,
January 14, 2018, https://www.nytimes.com/2018/01/14/us/politics/military-exercises-north- korea-pentagon.html?emc=edit_th_180115&nl=todaysheadlines&nlid=37789217, accessed on January 16, 2018.
日 本:こ の立 場に最 も近 いのが 安倍 政権だ と思 う。安 倍総 理の発 言は一貫しており、ブレがない。「今は圧力の時である。国際社会の 協調によって圧力をかけ続ける。そして、北朝鮮の立場を変えさせ、 意 味 の あ る 対 話 に も ち こ ま せ る 。 対 話 の た め の 対 話 で は 意 味 が な い」。2017 年秋の国連総会の演説では「対話とは北朝鮮にとって我々 を 欺き時間を 稼ぐため、 むしろ最良 の手段だっ た。・・・ 対話に よ る 試みは一切 ならず無に 帰した。・ ・・必要な のは対話で はない 。 圧 力なのです 」という強 硬発言とな ったが、こ れほど強硬 な発言 は 他の場所では行われていない22。 中国:そして、安保理は2017 年 6 月、8 月、9 月、12 月と次第に 内 容が厳しく なる「安保 理決議」を 採択し、ま さに北への 圧力を 強 め てきている 。米日がこ の国際社会 の共同行動 の一番のカ ギをに ぎ る として最も 期待してい るのが習近 平率いる中 国である。 確かに 習 近 平は金正恩 のやりかた にいたく不 快を募らせ ている。だ んだん 内 容 がきつくな るこれまで の安保理決 議にも賛成 している。 同時に 常 に 対話の重要 性を指摘し 、米韓が軍 事演習を控 えることと 北朝鮮 が 挑 発的な行動 を抑えるこ ととのパッ ケージを主 張すること もやめ て いない。 ロ シア: この 立場を 更に 対話に むか って一 歩進 めてい るの がプー チンである。記憶に新しいのは、2017 年 9 月 7 日訪問先の中国アモ イ で言った「 北朝鮮は自 国の安全が 保障された と思わない 限り、 た と え草を食べ ても核開発 をやめない だろう」と いう言葉で ある。 現 実 主義のプー チンとして 、米国大統 領による体 制保障のみ が北の 政
22 「第 72 回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説」首相官邸、2017 年 9 月 20 日、https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html、2018 年 1 月 16 日アクセス。
策 の軟化を招 き、それを 説得するの は対話のみ であると考 えてい る 証左であるという見方もある(関根和弘)23。 韓 国:関 係国 の中で 北と の対話 を最 も重視 し、 実行し てい るのは い うまでもな く韓国のム ン・ジェイ ン大統領で ある。本稿 執筆の 時 点 では、核兵 器問題は一 旦横に置き 、まずは平 昌オリンピ ックに お け る南北共同 チームでの 参加を実現 し、北朝鮮 からオリン ピック に 訪 れた高位代 表団(金永 南最高人民 会議常任委 員長、金正 恩朝鮮 労 働 党委員長の 実妹である 金与生党宣 伝扇動部副 部長他)と の対話 を 開 始、対話の 議題に「南 北首脳会談 」の可能性 が上がって いると 報 ぜられるにいたっている。 そ ういう 北朝 鮮問題 をめ ぐる現 状の 下で筆 者に は安倍 政権 は今重 要な分岐点にきているように見える。「今は圧力の時」というブレな い 安倍テーゼ に違和感は ない。しか し、圧力は 、交渉・外 交と戦 争 ・ 武力の中間 に位置する 。国連憲章 が、第六章 で「紛争の 平和的 解 決」として、「交渉・審査・仲介・調停・仲裁裁判・司法的解決・・ ・ ・」と述べ 、その次に 第七章で「 平和に対す る脅威、平 和の破 壊 及び侵略」」という一連の武力行使に関する規定がある。「交渉」は7 章の武力行使と最も遠い平和的手段の窮極なのである。 そ こで経 済制 裁によ って 「圧力 」を かけて いっ た後に 現れ る世界 は、「交渉」かまたは「武力の行使」ということになる。 ど のよう なシ ナリオ から 武力行 使に 至りう るか は本稿 では 割愛し た い 。 け れ ど も 米 国 が 本 気 で 北 朝 鮮 に 対 し て 武 力 行 動 を と っ た な ら 、それは北 朝鮮の壊滅 を意味する 一方、北朝 鮮が「座し て死を 待
23 「 北朝鮮 問題を ロシア の立場 から考 える 過去の 取材ノ ートを 手がか りに 」 HUFFPOST、2017 年 9 月 9 日、http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-sekine/north-korea- and-russia_a_23201532/、2018 年 1 月 16 日アクセス。
つ 」という事 態は極めて 想定しにく い。崩壊を 覚悟でなり ふりか ま わずに戦う可能性が高いと、筆者は判断する。その場合、「信じられ な い規模の悲 劇」に見舞 われるのは 、韓国と日 本である。 我が国 の 総 理大臣の最 も重要な責 務は、何と してでもそ のような事 態を起 こ させないことにある。それには、「圧力」から「外交交渉」への舵の 切 り替えのタ イミングと 方策におい て、絶対に 失敗しては ならな い のである。 安 倍総理 のこ れまで のブ レない 「圧 力行使 」の 姿勢、 トラ ンプ大 統 領との対話 のチャネル 、これらは すべて、少 なくとも一 回、外 交 交渉を主唱する機会の窓が開くことを想定させるものがある。 更 にその 時に 日本の 総理 大臣に は、 北朝鮮 の今 のメン タリ ティに つ いて、彼で しか説明の できない論 理を持って いる。それ は、現 下 の 北朝鮮のメ ンタリティ の中に大日 本帝国最後 の時代に日 本が持 っ て いたメンタ リティの一 部が残って おり、それ を活用して 説明す る な らば、事態 は大変わか りやすいと いうことで ある。それ こそが 、 「1941 年の状況」即ち、石油禁輸をはじめとする圧力の増大が、結 果として日本の開戦決断を招いたことへの理解である。更に、「1945 年 の状況」即 ち、国体の 護持なけれ ば日本帝国 はその最良 の国際 派 に いたっても 一億玉砕の 覚悟があり 、おそらく 金正恩にと って「 金 王朝体制」こそがその国体なのではないかという理解である。 こ の理解 を持 ってト ラン プに和 平を 説得し 自ら がその ため に行動 する、そのタイミングさえつかむのに失敗しなければ、2018 年安倍 総 理は極東の 戦争への火 種を取り去 る枢要な役 割を果たす ことに な る 。日本国民 として安倍 総理にはそ の役割を是 非果たして いただ き た いと思う。 さもなけれ ばその役割 は、ムン・ ジェインか プーチ ン か 習近平か、 誰かが果た すことにな る。それは それで理由 のある こ と かもしれな い。けれど ももし誰も 有効な「外 交交渉」の 道を開 け
ず に戦争に至 れば、それ は戦後日本 の崩壊を意 味しかねな い。安 倍 総理はそれだけはやめさせなければならないのである。
五 中国への政策変更はどこに連なるか
安倍政権のトランプ政権への政策対応で次に2017 年に大きな重要 性 をもったの は正に、ト ランプ政権 が実施し始 めたもう一 つの政 策 動 向「二国間 主義重視と 多数国間主 義の軽視」 の経済外交 への対 応 で あった。そ れは、期せ ずして、安 倍外交が抱 える最大の 課題で あ る対中国政策を変更する形で現れたのである。 表3 アジア太平洋地域協力の推移(~トランプ登場まで)24 太平洋 トラックII 太平洋協力会議 PECC 1970 年代末設立 1980 年代中心 アジア太平洋 トラックI アジア太平洋協力 APEC 1989 年設立 1990 年代中心 FTAAP へ 東アジア ASEAN+3 APT 1997 年設立 2000 年代中心 東アジア ASEAN+6 東アジアサミット EAS 2005 年~ 2005 年~ RCEP へ 太平洋 ( オ バ マ 政 権 の太平洋回帰) EAS 米ロ参加 環太平洋パートナ ーシップ TPP 米国参加 TPP 日本参加 TPP 2010 年以降~ 2006 年~ 2010 年以降~ 2013 年 3 月 そ の状況 を語 るため に、 アジア 太平 洋にお ける 日本の 地域 主義が こ れまでどの ような形で 発展してき たかを概括 しておきた い。日 本 の アジアにお ける地域主 義は、これ まで太平洋 から東アジ アにそ の 軸 足を移して きていたが 、安倍政権 の下では、 オバマ政権 のイニ シ24 諸報道をもとに筆者により作成。
ア ティヴを受 け入れる形 で、ふたた び太平洋に 腰を据えよ うとし て いた。その動きを概括すれば、以下の、<表3>のようになる。 オバマ政権 の「太平洋 回帰」政策 に同調し、 日本政府は 民主党 政 権 から安倍政 権へと、か なりの国内 説得へのエ ネルギーを 費やし 、 ようやく2013 年 3 月 TPP 参加への決断をした。しかし、トランプ政 権 は政権把握 当初から、 経済の多数 国間主義を 否定し二国 間主義 を 声高に主唱、なかんずくTPP はあっけなく葬り去られることとなっ たのである。 敗戦後の国 際社会復帰 の過程で、 アメリカ主 導の下でブ レトン ウ ッ ズ体制の優 等生ならん として努力 してきた日 本にとって 、これ は 難 しい事態で あった。国 策の根本を どうするか に加え、当 面地域 協 力をどうするかの課題が急浮上したわけである。 丁 度その 時、 日本政 府の 眼前に 、こ れまで 「横 から眺 める 」姿勢 を とってきた 中国の「一 帯一路」政 策が浮上し たのではな いかと 思 う。 「一帯一路」構想が中國指導部から語られ始めたのは、2013 年の 秋、習近平主席のカザフスタンでの9 月の演説で「一帯」が、10 月 のインドネシアでの演説で「一路」が語られた。期せずしてTPP 参 加 の実務処理 に忙殺され ていた政府 関係者は基 本的に「様 子見」 の 姿勢をとった。もちろん「一帯一路」構想と一口にいってもそれは、 ① 『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』を核として中国からユー ラ シ ア 大 陸 を 経 て ヨ ー ロ ッ パ を つ な ぐ 巨 大 な 貿 易 ・ 投 資 圏 を 作り上げる経済面、 ② 第一次・第二次列島線、いわゆる「真珠の首飾り」戦略による 中国海軍戦略との一致、 ③ 『上海協力機構(SCO)』を中心に、『アジア相互協力信頼醸成 会議(CICA)』で固める政治協力という三つの側面をもつ巨大
な「イ二シアテイヴ」であった。 日 本とし ては 、十分 にそ の意味 を考 え、最 善の 対応を すべ き動き であった。しかしその中で、AIIB を核とする経済面からの協力に関 しては、2015 年末で欧州 G7 全国を含む 57 カ国が署名手続きを終 了、2017 年 3 月 23 日には『アジア開発銀行(ADB)』67 カ国を上回 る 70 カ国が加盟。AIIB の活動領域は戦後国際社会に復帰する中で 我 が国民間企 業の貿易と 投資が行わ れてきた場 所であり、 我が国 発 の援助活動(二国間ODA、ADB を含む)の動きと重複する部分もあ り、TPP 亡き後の地域協力の一つのパートナーとして関心を持つべ きは当然のところがあった25。 かくて安倍政権は、2017 年 5 月から、深く静かに、政策転向をな しとげたのである。しかもこの時期安倍政権は、2017 年 3 月から 7 月 まで、森友 学園への土 地提供・加 計学園獣医 学部建設へ の政治 圧 力 ・稲田防衛 大臣の発言 問題という 国内政治問 題に関する 激しい 批 判 と支持率の 急降下にさ らされてい た。その逆 風下でこれ だけの 政 策転換をなしとげたのは、見事という他はない。 2017 年 5 月 14 日・15 日北京にて「一帯一路国際協力サミット フォーラム 」が開催さ れ、日本か らは二階俊 博自民党幹 事長が 出席、16 日習近平主席と会談した。『人民中國』は二階氏の言 葉として「『一帯一路』の着眼点は素晴らしいものだ。十分理解 している人 とこれから その重要性 をだんだん と理解して いく人 との間に多 少の温度差 はあるが、 この考え方 に共感を持 って、 今後の発展 を眺めてい くというの が日本の大 方の考え方 だ」を
25 我が国と「一帯一路」構想との関係については、2018 年 3 月発刊予定の『京都産業 大学・世界問題研究所紀要第33 巻』に掲載予定の拙論「一帯一路構想と日本外交」 を参照願いたい。
伝えた26。 同年6 月 5 日第 23 回国際交流会議「アジアの未来」晩餐会安倍 総理スピー チの中で、 総理から従 来の日本政 府の「様子 見」発 言とはニュアンスのちがう発言が行われた。「今年はユーラシア 大陸の地図 に、画期的 な変化が起 きました。 本年初めて 、中國 の 義 烏 と 英 仏 海 峡 を 越 え て 英 国 と 貨 物 列 車 で 繋 が り 始 め ま し た。一帯一 路の構想は 、洋の東西 、そしてそ の間にある 多様な 地域を結び つけるポテ ンシャルを 持った構想 です。・・ ・万人 が利用できるよう開かれており、透明で公正な調達によって整備 される・・ ・プロジェ クトに経済 性・・・債 務が返済可 能・ ・ ・国際社会 の共通の考 えを十分に とりいれる ・・・日本 とし て は、こうした観点からの協力をしていきたいと考えています」27。 以上の公開のシグナルの後に、7 月 8 日、ドイツ・ハンブルグ でのG20 会合の際に開かれた G20 の際の日中首脳会談で安倍総 理 は 一 帯 一 路 構 想 に つ い て 「 ポ テ ン シ ャ ル を 持 っ た 構 想 で あ り 、 国 際 社 会 共 通 の 考 え 方 を 十 分 採 り 入 れ て 地 域 と 世 界 の 平 和、繁栄に 前向きに貢 献していく ことを期待 している」 と公平 性の確保について条件を付したうえで、「日本としてはこうした 観点からの 協力をして いきたい」 と表明した 。中国外務 省によ ると、習氏 は「経済・ 貿易関係は 中日協力の 推進器だ。 日本が 一帯一路の枠組みで協力を広げることを歓迎する」と応じた28。 現時点での頂点は、ベトナム中部ダナンでの APEC 首脳会議の
26 『人民中國』2017 年 6 月号、11 ページ。 27 「第 23 回国際交流会議『アジアの未来』晩餐会 安倍内閣総理大臣スピーチ」首相 官邸、2017 年 6 月 5 日、https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0605speech. html、2017 年 11 月 20 日アクセス。 28 『朝日新聞』2017 年 7 月 9 日。
際、11 月 11 日に行われた日中首脳会談であろう。邦字各紙は一 様に、この 会談をもっ て、日中関 係改善の機 運が出てき たこと を報じてい る。対中関 係に関する 辛口の論評 で知られる 産経新 聞の以下の報道が特徴的である。「(それぞれに )政権基盤を強 化した両首脳の 6 度めの会談は余裕の笑顔で始まった。・・・ 習氏『この 会談は日中 関係の新た なスタート となる』安 倍首相 『全く同感だ』約 50 分の会談は最後、このような友好モードで 終わった」。習氏は会談で、日中関係について「改善のプロセス はまだやる べきことが たくさんあ る。時流に 乗って努力 し、前 向きな発展を推進したい」と呼びかけた。首相は、「関係改善を 力強く進め ていきたい 。日中両国 は地域、世 界の安定と 平和に 大きな責任 を有してい る」と応じ た。両首脳 は、中国の 現代版 シルクロー ド経済圏構 想「一帯一 路」にから み「日中が 地域や 世界の安定 と繁栄にど のように貢 献するか議 論していく 」こと で一致した」29。両国国旗を背にして安倍首相と習近平主席が握 手を交わしている写真は、日本では、「習近平主席の最初の微笑 み」として広く報道された30。 当 面、多 数国 間協力 から の離脱 の方 向にあ るト ランプ の政 策に対 し 、経済的観 点から「一 帯一路」へ の柔軟対応 に舵をきっ た安倍 政 権 の政策は、 日中双方に とり好まし い結果をあ げたようで ある。 日 本 においては 、これまで 積みあげて きたブレト ンウッズを 基礎と す る 多国間経済 主義の経験 を、中国の 新しい地域 主義と調和 的に運 用
29 『産経新聞』2017 年 11 月 12 日。
30 http://livedoor.blogimg.jp/yasuko1984ja-oku/imgs/e/d/ed3ed6d6.jpg, accessed on December
す るにはどう したらよい かを検討す る可能性が 開けたこと になる 。 そ れに対する 中国の反応 は習近平の 笑顔によっ て語りつく されて い ると言ってよいと思う。 更 に付言 すれ ば、既 述の ように 、安 倍政権 の目 前に迫 る最 大の安 全 保障上の危 機は北朝鮮 問題である が、戦争に ならない範 囲で北 朝 鮮 を非核化の 方向に動か すために、 トランプ大 統領も安倍 首相も 最 も 期待を寄せ ているのは 、中国の役 割である。 中国からも っと効 果 的 な圧力をひ きだすため には、中国 ともっと効 果的な対話 のチャ ネ ルを模索することは理由のあるところである。 中 国との 関係 全体を 俯瞰 すれば 、こ れもま た、 決して 平た んなも の にはなって いない。尖 閣問題にお いて中国の 言う「新し い現状 維 持(尖閣領海への公船侵入の既成事実化)」は日本として受け入れら れるものではない一方、「昔の現状維持(1972 年から 2012 年までに あった状態)」への回帰の見通しはまったくたっていない。北東アジ ア における攻 撃兵器と迎 撃兵器の均 衡をどこで 見出すかと いう極 め て 難しい問題 について、 日中間の意 見がどのよ うにかみ合 ってい く か についても 、事態は予 断を許さな いと言って よいであろ う。南 シ ナ 海における 人工島建設 の問題も、 周辺国との 合意の有無 は、看 過 できない重要性をもっている。 歴史認識問題についても、これまでどちらかといえば「靖国問題」 一 つにしぼら れていた感 のあるこの 問題は、上 海交通大学 におけ る 「東京裁判研究センター」、上海師範大学における「中国慰安婦問題 研究 センター 」、ユネスコ記 憶遺産にお ける「南京 事件」「慰安 婦 問 題 」の登録問 題など、中 国からは今 広範な新し い問題提起 が始ま っ た ように見え る。逆にそ ういう問題 が存在し、 顕在化して いれば こ そ 、協力が国 益にかなう 分野におい て両国間の 協力を模索 するこ と には、理由があると言うことになるのではないか。
そ れでは 安倍 政権の 対中 政策の 変更 につい てト ランプ 政権 はどの よ うに反応し ているのか 。経済面か らする「一 帯一路」へ の柔軟 対 応路線について、筆者の知る限り、アメリカ政府が NO を言ってき た ことはない 。より大き な戦略的な 視点に立っ た場合でも 、安倍 政 権は大変効果的な布石を打ってきている。2013 年 1 月 18 日安倍総理 はジャカルタで『開かれた、海の恵み、日本外交の新たな 5 原則』 と いう政策ス ピーチを行 う予定だっ た。政権把 握後最初の 政策演 説 と いってもよ いこの演説 には「今米 国自身が、 インド洋か ら太平 洋 へかけ 2 つの海が交わるところ、まさしく、われわれが今立つこの 場 所へ重点を 移しつつあ るとき、日 米同盟は、 かつてにも 増して 、 重要な意義を帯びてまいります」という対米殺し文句に、「思想、表 現 、言論の自 由、法とル ールの支配 」などのも うひとつの 対米殺 し 文句をちりばめた見事なものだった。 ア ルジェ リア での邦 人拘 束事案 で直 接指揮 をと るため 、予 定を早 めて帰国することになったためスピーチ自体は行われなかったが、内 容はその後も繰り返し引用されている31。そして 2017 年 11 月トラン プ大統領のアジア訪問で、米国はまさにこの「インド太平洋」をアジ ア政策のキー・ワードとして提起したのである。蓋し、日本主導の戦 略論の登場として、日本外交の快挙とも言えるのではないか32。
六 日ロの正常化はなるか
さて最後に安倍政権が2016 年末まで一貫して追求してきたロシア31 「安倍総理大臣演説」外務省、2013 年 1 月 18 日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/ enzetsu/25/abe_0118j.html、2018 年 2 月 18 日アクセス。安倍晋三『日本の決意』新潮 社、2014 年、69~73 ページ。 32 「トランプ大統領のアジア訪問から見えた新しい『インド太平洋戦略』」ZUU online、 2017 年 11 月 19 日、https://zuuonline.com/archives/181506、2018 年 1 月 17 日アクセス。
と の関係改善 の政策に、 トランプ政 権の登場が どのような 影響を 与 えたかを検討したい。まずもう一度2016 年 12 月 15 日(山口)及び 16 日(東京)というトランプ大統領登場直前に、日ロ関係がどこに いたかを簡潔に概観しておきたい。 先 ず北方 領土 問題で ある 。係争 地は 、千島 列島 の南部 で北 海道に 隣 接する「歯 舞群島・色 丹・国後・ 択捉」の四 島である。 過去の 歴 史的経緯の中から、1956 年の日ソ共同宣言でソ連は「平和条約の締 結 の後に歯舞 ・色丹を引 き渡す」こ とに同意、 日本側は「 それだ け で はだめだ、 国後・択捉 も合わせて 渡してもら わねば」と 言って 、 冷戦期、交渉は基本的には動かなかった。 ゴルバチョフの登場後、両国政府は、「この問題をなんとかしよう」 と いうことに なる。ソ連 邦崩壊とロ シア連邦成 立、エリツ ィンか ら プーチンへの政権交代でこの機運は更に高まった。1992 年春コズイ レ フ外相訪日 でロシア側 は「非公式 提案」とし ながらも、 歯舞・ 色 丹 についてま ず引き渡し 交渉をし、 それに倣っ た形で国後 ・択捉 の 交 渉をし、四 島併せて平 和条約を結 ぶという「 歯舞・色丹 と国後 ・ 択捉の時間差交渉」を提案、日本はうけいれなかった33。 2001 年プーチン森の間で、日本側から、「歯舞・色丹と国後・択捉 を 分離並行協 議」すると いう空間差 提案を行い 、ロシアは これに の り かけたが、 小泉時代に 入って日本 側の方から 並行協議を ひきあ げ てしまった。 そして、2012 年 3 月大統領職に復帰する直前プーチンは「引き分 けによる合意」を提案、12 月に政権に返り咲いた安倍総理との間で
33 東郷和彦『歴史認識を問い直す-靖国、慰安婦、領土問題』(角川 ONE テーマ 21、 2013 年)94~100 ページ。
いわば「三度目の正直」の交渉が始まったのである34。 こ の交渉 がウ クライ ナ問 題によ る二 年間の 遅延 にもか かわ らず継 続され、2016 年 12 月の山口・東京会談開催に繋がった経緯はすでに 述 べた。山口 で双方は「 新しいアプ ローチ」に 合意した。 どこが 新 しかったのか。ゴルバチョフ末期からエリツィン時代の90 年代、双 方 は主権交渉 という最も 難しい交渉 (主権の輪 )をやりな がら、 日 本 の四島への 現実的な関 わりをふや していくた めのビザな し交流 や 四島領海内操業についての交渉(環境の輪)を同時並行的に進めた。 「 新しいアプ ローチ」で はこの空間 差交渉を時 間差交渉に 改め、 一 旦 難しい主権 交渉を停止 し、まず日 ロ間で四島 内で何を一 緒にで き る かを考えて みようとい うことにな った。主権 の輪が解決 してい な い から、当然 やれること には限界が ある。だか らあまり難 しく考 え ないで、「とにかく「一緒にやることはいいことだ」という雰囲気を つ くれないか 。そのうえ で強化され た信頼関係 に基づき、 一気呵 成 に主権の輪をつめ、平和条約に行こう」というわけである。 も う一つ 、山 口・東 京で は、特 に極 東・シ ベリ アを中 心と する経 済 協 力 拡 大 の メ ニ ュ ー が 討 議 さ れ た 。2013 年 春 の 大 経 済 ミ ッ シ ョ ン、2016 年ソチで提案された 8 項目提案と、大プロジェクトから規 模 は小さいが 実際に役に 立ち民間も 協力にやぶ さかでない 中小プ ロ ジェクトのラインアップと実施が始まった。 更 にもう 一つ プーチ ンは 「日本 にと って日 米安 保条約 の重 要性は 解 るが、ロシ アにとって の安全保障 上の要諦が どこにある かをよ く 理 解し、それ を損なわな い方向でや ってほしい 」と述べた 。総論 に
34 筆者は日ロ関係につい手相当数の本を書いてきたが、この間の経緯を最も簡潔にと りまとめたのは『返還交渉――沖縄・北方領土の「光と影」』(PHP 新書、2017 年 3 月)の第五章・第六章・終章である(167~266 ページ)。
お いて日本側 に異議があ るはずもな いので、各 論への不安 を持ち な がら2017 年が開けていったのである。 さ て、一 年が たった 。こ の一年 を総 括する なら 、双方 事務 当局が 「やっています」「やっています」と言っている割には、何も結実し て はいないで はないかと いう懸念が ぬぐえない 。鳴り物入 りで始 ま っ た「主権交 渉を先延ば しにしてま ずできる交 渉をやる」 ことに し た共同経済活動からは、まだ一つのプロジェクトも合意されない。 シ ベリア ・極 東につ いて は、フ ァイ ナンス もち ゃんと つき 、これ な ら「日ロ協 力の目玉」 と思える大 プロジェク トは結実し ない。 安 全 保障にいた っては、ど うやら、日 米安保条約 の適用の話 とミサ イ ル防衛(MD)といういわゆる迎撃兵器の問題があるらしいことが漏 れ 伝わってく るが、それ が何を意味 するかは、 いまだ、霧 の中で あ る。 さてこの交 渉の停滞は どこから来 るのだろう ?これはト ランプ 政 権 になったか ら起きたの か、それと も本質的に 別の要因が あった か らなのだろうか? トランプと ロシアにつ いては、明 確に二つの ことを言わ ねばな ら な い。まずは トランプと ロシアとは 仲の良い関 係があり、 そこで 特 に 選挙戦の過 程で不正が あったので はないかと いう主にア メリカ の 国 内問題とし ての「ロシ アゲート」 の問題が噴 出している という 事 態 である。ア メリカ一部 の反プーチ ン・反トラ ンプのムー ドはす さ ま じいから、 もしかもし たら、トラ ンプ政権は これでひっ くりか え るかもしれない。 もう一つは 、トランプ 政権が日ロ 交渉につい て何を言っ ている か と いうことで ある。この 点について は、トラン プが日ロ関 係推進 に つ いて何か否 定的なこと を言ってい るとは、少 なくとも筆 者のと こ ろには何も聞こえてこない。
そ うだと する と、ト ラン プであ るが ゆえに 交渉 に内在 する 脆弱性 は増えたとしても、2017 年一年の交渉の遅れは、交渉に内在する難 し さゆえであ り、トラン プ政権が故 であるとい う議論はし にくい の ではないか。
七 結論
さて最後に もう一度総 括的に考え ておきたい 。北朝鮮・ 中国・ ロ シア、この三つの難しい交渉を 2018 年、ひいては、2021 年 3 年 3 期 の総裁任期 が終わるま での間安倍 政権が続け ていく間、 トラン プ 政権の政策はどのような影響を与えるのだろうか。 結論から言 えば、トラ ンプ政権に よって安倍 政権の政策 選択の 余 地 は広まった のではない かと思う。 北朝鮮とは 戦争勃発の 危機の 可 能 性は高まっ ている。し かし「危機 は機会」で ある。安倍 政権の 政 策選択のよろしきをえれば、外交の幅はひろがる。 ましてや中 国はそうで ある。トラ ンプが経済 の多数国間 主義否 定 からTPP から引いたという「危機」は、日本外交の「機会の窓」を ひろげたといえよう。2018 年はそれがどの程度ワークするか試され る時期である。 プーチンに ついても、 既述のごと く、米国内 の「ロシア ゲート 」 に よる脆弱性 の拡大はあ っても、日 ロ交渉につ いて注文を つけて こ ない(らしい)ことは、「機会の窓」の拡大であること、言をまたな い。 以上を持って結論としたい。 (寄 稿 :2018 年 1 月 18 日、採用:2018 年 3 月 1 日)川普政權的誕生與日本外交戰略
―北韓、中國、俄羅斯―
東
鄉 和 彥
(京都產業大學教授/京都產業大學世界問題研究所所長)【摘要】
川 普的 「美國 第一 」政策 不僅 反映出 美國 的國內 矛盾 ,亦顯 現了 當 今國際社會 的情勢。在 國防、安全 保障和外交 方面,川普 就任總 統 後 ,採取能夠 視情況來運 用軍事力量 的「強大美 國」政策, 這一點 在 面 對北韓問題 時能夠顯見 。在經濟方 面,則是走 向雙邊主義 ,追求 美 國自身的直接利益,典型的例子為從多邊主義的TPP 退出。日本首相 安倍晉三迄2013 年至 2016 年為止,採取具戰略和創造性的積極施政, 於2017 年間亦相當有效地回應了川普的挑戰。針對北韓,安倍首相的 「 正是施以壓 力之時」政 策,姑且不 論結果,至 少與川普的 立場達 成 一致。再者,川普退出 TPP 帶來一個絕佳的機會,讓安倍能夠對「一 帶一路倡議」採取更多的理解立場,而安倍在沒有得罪川普的情況下, 成 功地轉換了 引起中國關 注的政策。 另一方面, 美俄之間的 緊張局 勢 正在上升,而安倍首相與俄羅斯締結和平條約的努力仍在持續。 關鍵字:安倍外交、金正恩、習近平、普丁、川普政權The Trump Administration and Japanese
Foreign Policy: North Korea, China and
Russia
Kazuhiko Togo
Professor and Director of Institute for World Affairs, Kyoto Sangyo University
【
Abstract】
Trump’s “America First” policy is both a reflection of American domestic contradictions, as well as the international political situation under which major powers have begun to assert their own “Me First” policies. The Trump administration’s defense, security and foreign policies are characterized by an emphasis on a “Strong America” leveraging its military power, as seen in the administration’s handling of the North Korean issue. In terms of economic policy, the “America First” platform is seen in re-orientation towards direct enhancement of American interests through bilateralism at the expense of multilateralism, typically seen in his withdrawal from TPP. Thanks to the multiple successes of his strategic and creative initiatives over the first four years of his prime ministership between 2013 and 2016, Japanese prime minister Shinzo Abe was able to effectively rise to Trump’s challenge in 2017. On North Korea, Abe has taken the stance that “now is the time for pressure”. It is still unclear what the outcome of this approach will be, but so far at least it has been in harmony with Trump’s position. Trump’s withdrawal from the TPP presented Abe with the golden opportunity to show a more accommodating position on China’s “One Belt, One Road” initiative, which has successfully managed to bring China closer
without antagonizing Trump. Moreover, despite deepening tensions in the US-Russia relationship, Abe’s efforts towards concluding a peace treaty with Russia continue unaffected.
Keywords: Abe’s foreign policy, Kim Jong-un, Xi Jinping, Putin, Trump administration
〈参考文献〉
「安倍首相がトランプ氏と初会談『トランプ氏は信頼できる指導者』場所は前日になっ ても決まらず?」『BuzzFeed NEWS』2016 年 11 月 18 日、https://www.buzzfeed.com/ jp/sakimizoroki/abe-trump-first-meeting?utm_term=.ayBR5jZDR#.xrAog3bYo、2018 年 1 月15 日アクセス。
(“‘Trump is a leader who can be trusted’ Abe set for first meeting with Trump, but location to be decided?,” BuzzFeed NEWS, November 18, 2016, https://www.buzzfeed.com/jp/ sakimizoroki/abe-trump-first-meeting?utm_term=.ayBR5jZDR#.xrAog3bYo, accessed on January 15, 2018.)
「安倍総理大臣演説 開かれた、海の恵み―日本外交の新たな 5 原則―」外務省、2013 年1 月 18 日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/25/abe_0118j.html、2018 年 2 月18 日アクセス。
(“Prime Minister Shinzo Abe’s policy speech, The Bounty of the Open Seas: Five New Principles for Japanese Diplomacy” Ministry of Foreign Affairs of Japan, January 18, 2013, http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/25/abe_0118j.html, accessed on February 18, 2018.)
「北朝鮮問題をロシアの立場から考える 過去の取材ノートを手がかりに」HUFFPOST、
2017 年 9 月 9 日、http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-sekine/north-korea-and-russia_ a_23201532/、2018 年 1 月 16 日アクセス。
(“Russian Perspectives on the North Korea Problem: Clues From Past Interview Notes,”
HUFFPOST, September 9, 2017, http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-sekine/north-
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「極東・東シベリア地域における日露間協力強化に関するイニシアティブ」外務省、 2007 年 6 月 7 日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/g8_07/jr_kki.html、2018 年 1 月 15 日アクセス。
(“Initiative for the Strengthening Japan-Russia cooperation in the Far East Russia and Eastern Siberia,” Ministry of Foreign Affairs of Japan, June 7, 2007, http://www.mofa.go.jp/ mofaj/kaidan/s_abe/g8_07/jr_kki.html, accessed on January 15, 2018.)
「第72 回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説」首相官邸、2017 年 9 月 20 日、https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html、2018 年 1 月 16 日アクセス。
(“Address by Prime Minister Shinzo Abe at the Seventy-Second Session of the United Nations General Assembly,” Prime Minister of Japan and His Cabinet, September 20, 2017, https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html、accessed on January 16, 2018.)