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第 2 章 先行研究

2-1 「ガ格」研究概観

まず、これまで「ガ格」の研究を振り返ってみよう。「ガ格」は大槻(1897)

をはじめ、多数の学者によって研究がなされてきた。その研究の流れは、主に 二つの方向に分けることができる。一つは、構造主義の考え方で、代表的な学 者に、橋本(1969)などがいる。構造主義では、「ガ格」で標識された名詞句を すべて「主格」と見なす立場を取っている1。もう一つは、時枝(1950)をはじ めとし、久野(1973)などの生成文法学者に引き継がれ、現在主流の説となっ た、「ガ格」名詞句を「主格」と「対象格」の二通りで扱うという考え方である。

構造主義は、主に形態という立場から統語現象を論じるので、「ガ格」を一つ に認定する考え方は容易に想像が付く。しかし、形態面を出発点とした構造主 義は、意味面をあまり考慮に入れないため、なぜ同じ形態のものが複数の統語 機能を担うのか説明できないなどの点において、理論的には不十分なところが 見られる。それに対し、「ガ格」を二つに分けて考えた時枝説は、後に生成文法 という強力な理論に支持され、主流となったのもそれなりの理由がある。本稿 において、先行研究に関する検討も時枝説を中心に行う。次節より、現在主流 となった時枝の説を簡単に紹介し、その問題点を提示する。

2-2 時枝説とその問題点

時枝(1950:235-238)は、「ガ格」によってマークされた名詞句を、「主格」

1 「ガ格」をすべて主格標識と見なす考え方は、柴谷(2001)などの最近の研究にも見られるが、

氏は構造主義の立場から論じたわけではない。これについては後述する。

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と「対象格」の二分類に分けた。例えば、

(1) 山が 高い。

(2) 刺身が 好きだ。

氏は上記(1)(2)の「ガ格」について、(1)を「主格」と、(2)を「対象格」

と、それぞれ違うものとして扱った。その後、久野(1973)、柴谷(1978)、奥 津(1986)、三原(2006)なども、生成文法の観点から「ガ格」を考察したが、

「ガ格」を二通りに扱うことに変りはない。

ところが、以下の例を見てみよう。

(3) 火事が こわい。

(4) (私は) 火事が こわい。

(3)の「ガ格」は、果たして「主格」として捉えるべきなのだろうか。もし「主 格」として認めるならば、「火事」は「こわい」という性質を帯びた主体になり、

文全体は「火事は恐ろしいものである」と解釈することができる。しかし、(3)

は(4)のように、「私は」という名詞句が省略された結果とも考えられる。そ の場合、「火事」は「こわい」という感情を引き起こす対象となり、(3)の「ガ 格」は「主格」ではなく、「対象格」として解釈したほうが適切だと思われる。

同じ述語、同じ「ガ格」にもかかわらず、見方によって違う扱い方が出る。つ まり、「主格」と「対象格」の扱い方には、曖昧なところが見られるのである。

次の実例(5)は、(3)(4)とは少し異質なものであるが、「ガ格」の解釈に

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関しても曖昧なところがある。例文は山口(2000:223)による。

(5) 「この千鶴子さんはね君、ピエール氏が非常に好きだったんだよ。君は いつも傍にいたくせに、写真なんて機械に気を取られて、知らないんだ ろう」と云って笑った。「ピエール氏が好きか、を好きか、どっちだ」「さ ア、それはこの人に聞かなくちゃ」 (横光利一『旅愁』)(下線筆者)

下線部の「ガ格」は、「主格」として取るべきか、「対象格」として取るべきか、

それは聞き手も動揺している。故に、「ピエール氏が好きか、を好きか、どっち だ」と問いかけたのである。

時枝説の問題点を以下にまとめる。まず、一部の構文において、「主格」と「対 象格」の認定が微妙で、明快に区別することができない。(3)-(5)に示した ように、「ガ格」の解釈が曖昧になるため、格標識の認定が一致しない問題が生 じる。さらに、「主格」と「対象格」を標識する名詞句は、意味範疇でそれぞれ 行為の「主体」と「客体」に当たることが多く、いわゆる正反対の概念である。

このような正反対の概念が、なぜ同じ格標識で示されるのかも疑問である。

これらの問題点の解決策は、能格言語の性質に求めたい2。近藤(2005:12-19)

は、能格言語の観点を用いて、従来二通りで扱われた「主格」と「対象格」は 連続的な存在で、ただ物事を見る視点の違いによると述べた3。それについては、

次節より詳しく紹介する。

2 柴谷(2001)は、本稿と類似した能格パターンの観点を提示したが、主語を二つもつ「二重主 語構文」という主張は本稿と考え方が違う。本稿の考え方については第 3 章で後述する。

3 近藤が用いた用語は「主語」「目的語」であるが、筆者が確認した限り、氏が論じた「主語」

「目的語」は、実は格レベルの「主格」「対象格」に相当するものだと考えられる。

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2-3 能格言語とは

まず、能格言語について簡単に説明する。言語類型論では、世界中の言語を 対格言語と能格言語の二種類に分ける。池上(1981)、小泉(1982)、角田(1991)、 近藤(2005)などで、詳しく論じられている。その詳細は、図 2-1 に示す4

図 2-1 対格言語と能格言語の格分布

対格言語

自動詞文 自主(主格)-動詞

他動詞文 他主(主格)-動詞-他目(対格)

能格言語

自動詞文 自主(主格)-動詞

他動詞文 他主(能格)-動詞-他目(主格)

対格言語では、自動詞文の主語(自主と略す)と他動詞文の主語(他主と略 す)が同じ「主格」によって標識されるのに対し、他動詞文の目的語(他目と 略す)が「対格」によって標識され、「主格」と区別する。そして、能格言語の 場合は、自主と他目が同じ「主格」で標識されるのに対し、他主が「能格」で 標識され、「主格」と区別する。その格体系を、図 2-2 に整理する5

図 2-2 対格言語と能格言語の格体系 対格言語 主格 対格

他主 自主 他目 能格言語 能格 主格

4 近藤(2005)を参考にして書き直したものである。

5 小泉(1982)、角田(1983b)を参考にして書き直したものである。

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実際に例文を作ってみると、以下のようになる。(6)(7)は対格言語、(8)(9)

は能格言語の例である6。それぞれの深層意味表記を後ろに付けておく。深層意 味表記は池上(1981)によるものである。

(6) 花瓶が 割れた。 → x MOVE

(7) 太郎が 花瓶を 割った。 → y MOVE x

(8) 花瓶□ 割れた。 → x MOVE

(9) 太郎△ 花瓶□ 割った。 → y CAUSE [x MOVE ]

分かりやすくするために、例文のイメージを図 2-3 に示しておく(筆者作成7)。

以下、イメージ図を見ながら、近藤(2005)の考え方を説明する。

図 2-3 対格言語と能格言語のイメージ図

対格言語 能格言語

自 動 詞

文 (6)花瓶が 割れた (8)花瓶□ 割れた

x MOVE x MOVE

他 動 詞

文 (7)太郎が 花瓶を 割った (9)太郎△ 花瓶□ 割った

y MOVE x y CAUSE [x MOVE ]

6 (8)(9)は日本語を仮に能格言語とした架空例である。格標識も架空のものを用いた。

7 以下では、掲載されている図表は特に断りのない限り、当資料は筆者作成を示すものである。

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人間は、いちばん最初に認知するもの、または最も重要だと思うものを「主 格」(通常は無標)で標識するのが普通である8。図 2-3 を見れば分かるように、

両言語類型(対格言語と能格言語)は自動詞文において、現れる名詞句が一つ しかないため、「主格」は当然ながらその唯一の名詞句(ここでは「花瓶」に当 たる)を標識することになる。

ところが、他動詞文では、名詞句が二つ(太郎と花瓶)に増えたため、「主格」

をヒト(太郎)に置くか、モノ(花瓶)に置くか、その違いによって、格標識 の配置が変わる。対格言語の他動詞文では、「主格」をヒトに置くが、能格言語 の他動詞文では、「主格」をモノに置く。シルバースティーン(1976)の名詞句 階層によると、階層の左端(ヒトに関する名詞句)からは「対格型格組織」が 延びてくる一方、階層の右端(モノに関する名詞句)からは「能格型格組織」

が生じてくる。要するに、対格言語で、ヒトは「主格」、モノは「対格」として 捉えられやすいのに対し、能格言語で、ヒトは「能格」、モノは「主格」として 認識されやすい。シルバースティーン(前掲)の説明は、正に(7)と(9)の 格配置と一致している。

上述のように、(7)と(9)は言語類型によって格配置が異なる。しかし、語 意内容的にはどちらの場合も同じ出来事を語っている。ただ、モノ(花瓶)は、

焦点の置き方によって、対格言語では「対格」(統語的機能から見れば、時枝説 の「対象格」に相当する)と、能格言語では「主格」と、それぞれ捉え方が分 かれる。言い換えれば、「主格」と「対象格」は、図 2-4 のように、連続体とし て捉えることが可能である。

8 現代日本語の場合、「主格」は有標の「ガ格」で標識するが、大野(1977)、山田(2010)など では、昔の日本語において、「主格」は無助詞、いわゆる無標の「ゼロ格」で示されていた。

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図 2-4 連続体としての「主格」と「対象格」

主格 対象格

←――――――――――――――― 花瓶 ―――――――――――――――→

能格言語 対格言語

上図の線は、仮に左端を能格言語、右端を対格言語と設定しておこう。そし て、(7)と(9)の例における「花瓶」はこの線では、左端に行くほど「主格」

の性格が強く、右端に行くと少しずつ「対象格」の性格を帯びるようになる。

即ち、連続的に変化していくものである。

以上、近藤は能格言語の観点を用いて、「主格」と「対象格」の関係について 説明した。しかし、近藤の考察は言語類型論に重点が置かれたため、日本語に

以上、近藤は能格言語の観点を用いて、「主格」と「対象格」の関係について 説明した。しかし、近藤の考察は言語類型論に重点が置かれたため、日本語に

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