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6-1 本論文のまとめ

本稿は「ガ格」の扱い方をはじめとし、日本語の能格構文をめぐる文法現象 を考察してきた。まず、日本語に存在する能格構文の性質を利用し、「ガ格」の 機能を再び検討した。次に、能格構文の基本形を設定するとともに、「非対格性 の仮説」と「語彙概念構造」を用いて、能格的文法現象における「統語レベル」

と「意味レベル」を関連付けさせた。また、日本語における能格構文と対格構 文を比較することで、能格構文の特徴とその本質を提示し、最後は、能格構文 の性質を今の文法理論に導入して、従来と違う観点で日本語の構文を見直すこ とを示した。本稿の考察によって明らかになった結論を、以下に要約する。

まず、第 3 章では、日本語に存在する能格構文の性質を通して、「ガ格」の機 能を再検討してみた。考察の結果、日本語における能格構文の基本形は「x△

yガz」として設定することができ、またその格配置は「△格=能格」「ガ格=

主格」と、それぞれ位置付けられることが分かった。ただ、「能格」標識は日本 語では主題化が常に働くために、「ハ」の後ろに隠れて、具現化されない。この ように、能格構文の基本形を設定することによって、従来「対象格」とされた

「ガ格」を「主格」として解釈することができ、日本語における「ガ格」をす べて「主格」という一つの機能に統合することが可能となった。これで、先行 研究で提出した「主格」と「対象格」が明快に区別できないという問題点を解 決できるとともに、「主格」「対象格」のような全く正反対の概念がなぜ同じ格 標識で示すのかという疑問も説明が付く。さらに、本章は先行研究で判明され た「能格」の本質を借りて、日本語の「能格」は「行為・過程の出発点」を明

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示する格標識であると規定した。結論として、能格構文の基本形とその発生過 程については、以下のことが言える。能格構文の基本形は、まずある性質をも つ物体が存在し、それから人間が現れ、それを認知してから感情を発した、と 定義付けられる。即ち、客観から主観へと変化するプロセスが、能格構文の発 生過程である。

次に、第 4 章では、「非対格性の仮説」を能格性述語に導入し、「語彙概念構 造」を通して分析することを試みた。その結果、「非対格性の仮説」で提示され た「外項」「内項」の概念を、「x△yガz」という能格構文の基本形において、

それぞれ「x=外項」「y=内項」と規定することができる。そして、それを LCS とリンクさせて、能格構文における「統語レベル」と「意味レベル」を関連付 けさせる。結論として、能格性述語は意味特徴によって、「外項」「内項」の現 れ方が変わり、統語構造に反映されたことが分かった。その現れ方をもとに、

本稿は能格性述語を以下のように分類できる。まず、「主観性の度合い」が増え るにつれて、「内項」しかない「非対格述語」は「外項」による「使役化」を通 して「使役化的述語」へと派生する。要するに、客観性の強い述語(「高い」な ど)であれば「非対格述語」、主観性の強い述語(「好きだ」など)であれば「使 役化的述語」となる。そして、「客観的用法」としても「主観的用法」としても 用いられる、言わば、両者の中間に位置するもの(「こわい」など)は、「非対 格述語」と「使役化的述語」の二種類の統語構造をもっている。さらに、上記 における一部の「使役化的述語」(例えば、「嬉しい」など)は「内項」を「背 景化」させることによって、「非能格述語」へと派生することができる。まとめ として、能格性述語はまず「主観性の度合い」に応じて、三グループ(各グル ープの代表的な語例は、それぞれ「高い」「こわい」「好きだ」である)に分け ることができる。そして、もしそれらの述語に「内項背景化」が発生する場合、

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「内項」はさらに言語表層から消去される現象が起きる(「嬉しい」など)。ち なみに、能格性述語が以上の分類要素に応じて反映された統語構造のパターン は、「非対格述語」「使役化的述語」「非能格述語」の三通りである。

最後に、第 5 章では、能格構文と対格構文の違いについて論じた。能格構文 は主観性をもつ構文であるのに対し、対格構文は客観性をもつ構文である。つ まり、「主観性の度合い」は両構文を使い分ける決定的な要素である。そして、

「主観性の度合い」はまた「視点」「視野」「格配置」に影響を与え、両構文に おいて様々な異なる統語現象を引き起こしている。例えば、主観性をもつ能格 構文は、その当事者の心を通さないと使役化が成立しないので、話し手の視点 は当事者と同じでなければならない。そのため、能格構文には「一人称制限構 文」が存在する。それに対し、客観性をもつ対格構文はそのような制限がない。

また、視点の違いは視野にも影響を及ぼす。その結果、能格構文は、視野に入 るのが「内項」だけなので、まず「ガ格」標識はその唯一の項にマークし、そ れから視野外にある「外項」は「能格」で標識する。一方、対格構文は、視野 には「外項」「内項」の二つの項が存在するため、名詞句階層規則に従って、「ガ 格」は先に認知された方を標識し、残った方は対象として扱われて「ヲ格」で 示すことになる。

6-2 今後の課題

今回では処理できなかったことを以下に整理する。まず、今回本稿が主に扱 ったのは「形容詞」及び「状態動詞」の「単純形」であるため、「飲み+たい」

「食べ+られる」などの「複合形」は考察対象に入れなかった。特に、「~たい」

と「~れる/~られる」構文の意味特徴は、本稿で考察した能格性述語と大体

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同じ性質をもつと考えられるので、本稿の能格構文という観点を「複合形」の 述語にも応用できるのではないかと思われる。また、これまでの対格構文を中 心とする日本語の文法理論に、本稿で論じた能格構文の考えを如何に導入する のかも大切な課題だと思われよう。以上の諸問題点に関する考察をすべて今後 の課題として考えたい。

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参考文献(日本語文献)

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