「解説」
天然ダムの決壊原因としては、①越流侵食による決壊、②すべり崩壊による決壊、そして、
③進行性破壊による決壊の 3 通りがあると言われている2)。しかし、これまでの災害発生事 例のほとんどが越流によるものである3)。ただし、閉塞土砂の透水性が高い等の場合には、
堤体内の浸透が進み、すべり崩壊または進行性崩壊等による決壊も考えられる。
したがって、越流侵食に伴う侵食状況や、天然ダム土塊からの浸透水の浸出状況等の変状 の監視が必要となる。
2004 年中越地震後の芋川流域東竹沢地区に形成された天然ダムでは、監視カメラによる 定性的な侵食状況の把握であったため、定量的な監視の必要性が課題として挙げられた。
越流侵食に よる決壊
すべり崩壊 による決壊
進行性破壊 による決壊
図4.15 天然ダムの決壊原因の概念図
【下流法面状況の監視方法の選定】
天然ダム発生後、初動時の対応や決壊までの時間が極めて限られる場合には、ヘリコプタ ーによる監視(4.1 参照)および目視監視や、手で持ち運び可能な計測機器(デジタルコン パス・距離計)による監視を行う。
決壊までの時間に余裕がある場合には、観測機器(測量機器、又はセンサー類)を用いた 監視を行う。
閉塞部からの越流による侵食状況又は閉塞部の変状把握を目的として、目視、地上
測量、監視カメラおよびセンサー類により監視する。
図 4.16 閉塞部の観測選定フロー
(1) 越流侵食による決壊に対する監視
侵食状況等の監視には、監視カメラによる定性 的な観測、地上レーザスキャナ等の測量機器によ る定量的な観測があげられる。観測機器の設置が 不可能な場合、あるいは緊急を要するときには簡 易レーザ(デジタルコンパス・距離計)が有効で ある。それ以外の場合には、地上レーザスキャナ もしくはトータルステーション(ノンプリズム)
により観測を行う。代表的な地上測量機器の性 能・規格を巻末資料1に示した。また、天然ダム 堤体の侵食擬似モデルを利用した計測実験によ る各観測機器の性能比較表を巻末資料7にとり まとめた。この計測実験によると、自然環境の中 では観測機器の性能(適応距離など)がレーザ入 射角や対象物の色等に依存し、必ずしも公称値ど おりとはならないことが確認され、使用する際に は現場の自然条件に注意する必要がある。
観測機器の設置場所は、観測対象物の不可視域がなく全体形状を俯瞰できる安全な場所を 選定することが望ましい。
なお、侵食状況および侵食速度のみを把握するのであれば、トータルステーションによる 計測が高精度かつ安価であるが、侵食状況の把握以外に、数値計算等を実施する場合の地 形データとして活用するなど、他の解析も検討することが考えられる場合には地上レーザ
決壊まで数日あり
観測機器が設置可能な場合
・ ヘリコプターによる監視
・ 監視員・監視カメラによる監視
・ 距離計・デジタルコンパスによる監視
・地上レーザスキャナによる監視
・トータルステーションによる監視
・センサー類(崩壊検知センサー)による監視 閉塞部の監視
東竹沢地区の堤体侵食状況
出典「平成16 年(2004)新潟県中越地震による土砂災 害と対応 H17.2 湯沢砂防事務所」
からの見通しがきかない場合は航空レーザ測量を用いることも考えられる。
これらの観測機器による堤体の侵食状況等の監視に加え、流出流量(4.5 参照)による観 測結果と合わせて、越流侵食による決壊に対する観測を行う。
① 距離計又はデジタルコンパス距離計(簡易レーザ)
計測対象物に遠隔からレーザ光線を照射し、斜距離の計測が可能なため、侵食部の奥 行きを経時的に計測することで侵食速度の把握が可能となる(測距距離 1,100m)。軽量 で手軽に計測できる半面、手ぶれや視準性に劣るため調査精度は概略把握の位置づけと なる。
斜距離だけでなく、高度角及び水平角も計測可能なタイプもあり、ノンプリズム型ト ータルステーションの簡易版となりうる。このタイプの侵食部の計測方法および侵食速 度・侵食量の算出方法、観測条件はノンプリズム型トータルステーションと同様である。
② 地上レーザスキャナ
地上レーザスキャナ(測距距離2,000m)は、遠隔地からレーザビームを照射し、その 反射光を測定することにより、観測対象物の地形形状を表す3 次元データが得られる。侵 食の進行が予測される面を経時的に連続観測することにより、侵食箇所、形状、侵食速度 を定量的に把握することが可能である。
機器は本体、三脚からなり、人力により測定地点まで運搬することが可能であるが、
他の測量機器より重量(本体14~18kg)がある。観測開始から測定地点に据え置きで設 置するのが効率的であるが、本体は防水機能を備えていないため、この場合には屋根など が必要となる。また、観測時には人による操作が必要となる。電源は 12V のバッテリー または発動発電機で稼働可能である。
観測条件としては昼夜間問わず観測が可能であるが、霧の場合は観測が困難となる。
また、観測対象物に対しレーザビームの入射角が低かったり、対象物が暗色系である場合、
反射率が低下しデータ取得が困難になるなど、注意が必要である。
③ トータルステーション(ノンプリズム型)
トータルステーションには、プリズム型(測距距離 5,500m)や反射シートを必要と しないレーザ光を用いたノンプリズム型(測距距離2,000m)がある。
土塊の侵食上端、下端、側端部を測定点として XYZ 座標を計測し、得られた数値をプ ロットすることで侵食形状が得られる。これらの計測を経時的に実施することで、侵食 速度、侵食量を把握することが可能である。
観測条件としては、入射角が低かったり、対象物が暗色系であるなど、反射率が低下 する場合には計測が困難になるなど、注意が必要である。また、夜間は観測対象物を照 明機器で照射し、観測点を視認できるようにする必要がある。
図 4.17 地上レーザスキャナを用いた3次元データ作成例
【侵食状況の把握】
縦断方向への侵食速度を把握することにより、決壊への危険性を判断することが出来る。
このため、少なくとも計測ごとに縦断図を作成し、経時的な変化より堤体部の侵食状況を 把握することができ、今後の予測にも活かすことができる。なお、地上レーザスキャナ等 を用いて計測した場合は、可能であれば侵食土砂量も算出しておくことが望ましい。
(2) すべり崩壊あるいは進行性破壊による決壊に対する監視
監視員、監視カメラまたはヘリコプターによる定期的な監視(詳細は4.1 参照)により、
主に堤体下流法面の漏水の濁り状況や亀裂、パイピング、小崩壊といった閉塞部の変状を 定性的に監視する。監視カメラは堤体全体を見渡せる安全な場所を選定し、地上レーザス キャナ等の定量的な観測と併用し、閉塞部を監視する。堤体法面に観測機器の設置が可能 な場合には崩壊検知センサー(土木研究所共同研究、巻末資料9参照)により、流出流量 の把握(4.5 参照)による計測結果も考慮して、下流法面の漏水の濁りや、すべり崩壊・進 行性破壊を監視する。
崩壊検知センサー
崩壊検知センサーは、変位によるセンサーの傾きを検知して無線伝送するものであり、
閉塞部の変状を監視することができる。すなわち進行性破壊が生じそうな場所にあらか じめ設置しておくことにより、大規模な決壊の前兆(小崩壊)あるいは決壊に至るすべ り崩壊そのものを捉えることを目的とする。
特徴としては、リアルタイムで崩壊情報が得られること、設置が簡便であること、安 価であることなどが挙げられる。
機器構成は、センサー、受信機、電源装置などである。センサーから送信される無線
センサー外観
その距離は低減するため、実設置前に無線伝搬試験を行う必要がある。
測定は、センサーを設置する点での測定となるため、これを多点的に配置することに より、閉塞部の変位が生じた位置及び発生時刻を検出し、別途伝送装置によりリアルタ イムで遠方監視することが可能となる。
図 4.18 崩壊検知センサーの検知イメージ
崩壊土砂・斜面など
①転倒・検知
②無線伝送
③無線受信
④外部出力
受信機 センサー