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ISSN 0386-5878 土木研究所資料 第4121号

土 木 研 究 所 資 料

天然ダム監視技術マニュアル(案)

平成 20 年 12 月

独 立 行 政 法 人 土 木 研 究 所

土 砂 管 理 研 究 グ ル ー プ

火 山 ・ 土 石 流 チ ー ム

(2)

Copyright © (2007) by P.W.R.I.

All rights reserved. No part of this book may be reproduced by any means, nor transmitted, nor translated into a machine language without the written permission of the Chief Executive of P.W.R.I.

この報告書は、独立行政法人土木研究所理事長の承認を得て刊行したも のである。したがって、本報告書の全部又は一部の転載、複製は、独立行 政法人土木研究所理事長の文書による承認を得ずしてこれを行ってはなら ない。

(3)

土 木 研 究 所 資 料 第 4121 号 2008 年 12 月

天然ダム監視技術マニュアル(案)

土砂管理研究グループ 火山・土石流チーム 上席研究員 田村 圭司

〃 〃 主任研究員 山越 隆雄 〃 〃 交流研究員 松岡 暁 〃 〃 交流研究員 伊藤 洋輔 〃 〃 前交流研究員 田方 智*1 〃 〃 前交流研究員 柳町 年輝*2

要 旨

*1 現 日本工営(株)

*2 現 (株)拓和

キーワード:天然ダム 地震 監視

平成16 年新潟県中越地震により、信濃川水系の芋川流域において多数の天然ダムが発 生した。また、平成 20 年に発生した岩手・宮城内陸地震においても、栗駒山周辺にお いて多数の天然ダムが生じた。本報は、その際の教訓を踏まえ、天然ダムの監視技術に ついてこれまで検討した結果をまとめたものである。

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はじめに

地震や豪雨を起因とした崩壊等によって、崩壊土砂が河道を埋塞し、天然ダムを形成することが ある。天然ダムの形成により、上流側では湛水による浸水被害が、下流側では天然ダム決壊による 土石流等が下流域に大きな被害を及ぼす可能性がある。わが国ではこのような災害事例として、過 去には、1889 年十津川災害、1953 年有田川災害や 1984 年長野県西部地震による御岳崩れが、最 近では、2004 年新潟県中越地震による芋川流域の天然ダムや 2008 年岩手・宮城内陸地震による栗 駒山山麓の天然ダムが記憶に新しい。

本マニュアルは、既存の文献「建設省総合技術開発プロジェクト災害情報システムの開発報告 書」”第Ⅲ巻 第5 編 土砂災害復旧編(平成 4 年 3 月)”等に基づき、最近の 2004 年 10 月 23 日 新潟県中越地震および2008 年 6 月 14 日岩手・宮城内陸地震で発生した天然ダムへの対応事例や 明らかになった技術的課題を踏まえて作成された。現時点までに得られている知見、データ、技術 情報をもとに天然ダムが形成された場所で必要となる監視を実施するために必要な技術を総覧で きるように取りまとめた。本書が、現場における天然ダム監視システムの迅速かつ効率的な構築の 一助となることを希望する。

なお、天然ダムへの対応全般については、上記の報告書のほか、「大規模な天然ダムの形成・決 壊を対象とした異常土砂災害対応マニュアル(案)」(平成17 年 3 月 (財)砂防フロンティア整 備推進機構)、または、「天然ダム形成時における土砂災害対応ガイドライン」(国土技術政策総合 研究所作成中(平成20 年 12 月時点))を用いられたい。

最後に、本マニュアルの作成にあたっては、平成16 年新潟県中越地震後の天然ダム等に対応し た国土交通省北陸地方整備局、新潟県土木部砂防課、また、平成 20 年岩手・宮城内陸地震後の天 然ダムに現在も対応中の国土交通省東北地方整備局の天然ダム対応関係者から多大な助言、情報提 供を受けた。また、(財)砂防フロンティア推進機構森俊勇理事長、京都大学大学院農学研究科の 水山高久教授、ならびに、長野県建設部砂防課栗原淳一課長からは、記載内容全般にわたって懇切 なご指導をいただいた。ここに記して感謝の意を表する。

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(7)

目 次

1.本マニュアルの目的 ···1

2.天然ダム監視について ···3

2.1 天然ダム監視の目的と項目 ···3

2.2 天然ダム監視体制整備の留意点 ···8

3.天然ダム概況把握 ···9

3.1 基礎資料の確認・収集 ···9

3.2 天然ダム全般の状況把握(概況調査) ···10

(1) 現地踏査 ··· 10

(2) ヘリコプター調査 ··· 11

4.監視・把握 ···13

4.1 天然ダム全体状況の監視・把握 ···13

4.2 湛水位の監視 ···16

4.3 湛水部への流入流量の把握 ···23

(1) 連続流量観測による流入流量の把握··· 24

(2) 定期的な流量観測による流入流量の把握··· 24

(3) H-V曲線と水位観測による流入流量の把握··· 25

(4) 雨量観測による流入流量の予測··· 25

4.4 閉塞部の監視 ···27

(1) 越流侵食による決壊に対する監視··· 28

(2) すべり崩壊あるいは進行破壊による決壊に対する監視··· 30

4.5 閉塞部からの流出流量の把握 ···32

4.6 崩壊部および周辺部の状況の監視 ···33

(1) 崩壊の前兆現象の把握 ··· 33

(2) 斜面変位の観測 ··· 33

4.7 閉塞部決壊による土石流等発生監視 ···36

(1) 水位計(超音波式水位計等)による検知··· 36

(2) 振動検知式土石流センサー(振動センサー)による検知··· 37

(3) 監視員または監視カメラによる監視··· 38

(4) 接触型センサー(ワイヤーセンサー等)による検知··· 38

(5) 雨量観測による土石流発生予測··· 39

5.監視情報伝送システムの選定 ···40

(1) 衛星小型画像伝送装置(Ku-SAT)··· 41

(2) 災害対策テレメータ ··· 43

6.事態の推移に応じた観測機器・情報伝送システムの更新 ···45

(8)

<参考文献> ···46

<観測機器、伝送機器に関する用語解説> ···47

<巻末資料> ···49

1.代表的な監視・観測機器の性能・規格 ···50

2.ヘリコプターによる監視 ···52

3.簡易レーザ測距計によるヘリコプターからの天然ダム調査シミュレーション結果 ···68

4.決壊や上流部の浸水被害発生までの時間の推定方法 ···71

5.越流による天然ダム決壊時のピーク流量推定手法 ···75

6.上流域からの流入流量予測手法 ···78

7.地上測量機器の性能比較表 ···83

8.投下型水位観測ブイ ···84

9.崩壊検知センサー ···86

10.崩壊部の計測データ管理基準値(参考資料) ···87

11.崩壊斜面の緊急計測手法(RE・MO・TE2) ···88

12.観測施設台帳の事例(岩手宮城内陸地震時の事例) ···89

13.監視情報通信システム ···99

14.天然ダム場内の監視機器の無線化について ···105

15.中越地震で発生した天然ダムの監視手法に関するヒアリング結果 ···106

16.岩手・宮城内陸地震で発生した天然ダムの監視手法に関するアンケート結果 ···111

(9)

1.本マニュアルの目的

「解説」

本マニュアルの適用範囲

天然ダムが発見された場合、緊急的に二次災害防止のための概略調査、危険度緊急評価 がなされる。本マニュアルでは、これらの調査、評価によって監視すべき天然ダムが選定 された後の応急的な監視方法について述べる。

図 1.1 天然ダム対応フロー

なお、天然ダム発生後直ちに対応を要するため、監視を行う時間的余裕が全く無い場合 や、規模が小さい等、監視を必要としない場合には、本マニュアルは適用しない。

本マニュアルは、事務所の土木系職員を対象に初期段階の対応を中心にまとめたもので あり、図 1.1 に示す天然ダム対応フローの「監視」以外の部分については、別途国土技術 政策総合研究所「天然ダム形成時における土砂災害対応ガイドライン(案)」等によって対 応されたい。

本マニュアルは、天然ダムが形成された箇所において、監視を実施する際の留意

点等をまとめ、天然ダム監視システムを迅速、かつ効率的に構築し、応急的な監視の

円滑な実施に資することを目的としたものである。

(10)

本マニュアルの概要

本マニュアルでは、天然ダムが形成された箇所において、下記の項目について具体的に 解説している。

○ 監視の項目と方法

○ 監視に必要となる機器の選定

○ 監視のための情報通信システムの構築

なお、本マニュアルは、既存の文献「建設省総合技術開発プロジェクト災害情報システ ムの開発報告書」”第Ⅲ巻 第 5 編 土砂災害復旧編(平成 4 年 3 月)”1)等をもとに、平成 16 年 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震による芋川の天然ダムにおける対応事例や平成 20 年 6 月 14 日に発生した岩手・宮城内陸地震による栗駒山周辺の天然ダムにおける対応事 例を踏まえて、作成されたものである。

本マニュアルでは天然ダムが形成された場所を大きく 4 つに分け「湛水部」、「閉塞部」、

「崩壊部」「周辺部」と呼ぶものとする(図 1.2 参照)。なお、周辺部とは湛水部に隣接した 斜面のことを示す。

図 1.2 天然ダムの部位名称

(11)

2.天然ダム監視について

2.1 天然ダム監視の目的と項目

「解説」

河道が閉塞すると、流水が上流に貯留されて湛水部が形成される。その結果、上流部では 浸水による被害、下流部では湛水部からの越流や浸透水の流出による閉塞部の侵食、決壊 による土石流、洪水、崩壊部の拡大崩壊など甚大な二次災害が発生する恐れがある。

これらの二次災害発生危険度を評価し、適切に対策を講じるためには、閉塞部、湛水部、

崩壊部、および閉塞部の上・下流の監視を実施する必要がある。

監視項目は、天然ダム形成場所、規模等により異なるが、一般的な監視項目を表 2.1 に示 す。この内、新潟県中越地震および岩手・宮城内陸地震の教訓をふまえると、重要な項目 として次の4 項目があげられる。

①天然ダム全体状況の監視・把握

②湛水位の監視

③湛水部への流入流量の把握

④閉塞部の監視

表 2.1 天然ダム形成後の監視項目と手法・観測機器

監視の目的 監視項目 手法・観測機器

① 天然ダム全体状況の監視・把握 ・閉塞部、湛水部、崩壊部

および周辺部 ・目視判読、ヘリコプター、監視カメラ

② 湛水位の監視 ・湛水位 ・ヘリコプター、水位標、地上測量、

水圧式水位計、投下型水位観測ブイ

③ 湛水部への流入流量の把握

・流量

・湛水位

・雨量

・流速計、浮子、監視カメラ

・ヘリコプター、水位標、地上測量、

水圧式水位計、投下型水位観測ブイ

・雨量計

④ 閉塞部の監視 ・侵食速度・量

・変状

・目視判読、ヘリコプター、監視カメラ

・簡易レーザ、地上レーザスキャナ、トータルステーション

・崩壊検知センサー

⑤ 閉塞部からの流出流量の把握 ・流量 ・流速計、浮子、監視カメラ

・水位標、水位計

⑥ 崩壊部および周辺部の状況の 監視

・崩壊の前兆現象

・斜面変位

・目視判読

・地表伸縮計、崩壊検知センサー、抜き板、

移動杭、GPS 測量、地上測量

⑦ 閉塞部決壊による土石流等発

生監視 ・土石流等の発生

・水位計、振動センサー、目視判読、

監視カメラ、ワイヤーセンサー

・雨量計

天然ダム形成後の二次災害を事前に予測し、適切に対策を講じるために、天然ダ ム全体状況、湛水位、湛水部への流入流量、そして、閉塞部の監視等を行う。

:重要項目

(12)

天然ダム形成後の監視の流れを図 2.1、天然ダム監視・観測機器の配置等のイメージを図 2.2 に示す。また、本マニュアルで示した監視・観測機器の選定条件についてまとめたもの を表 2.2 に示す。

(13)

5

図 2.1 天然ダム形成後の監視の流れ

(注: 非着色部分は本マニュアルの対象外)

(14)
(15)

表 2.2天然ダム監視・観測機器選定条件 ●観測機●伝送機器 全体状況降雨崩壊検知土石流発生 検知 トーョン (ノンプリ゙ム) 3Dレーザ スキャナ ①湛水位○○○○○ ②湛水部への流入流量○○○○○○○○ ③閉塞部○○○ ④閉塞部からの流出流量○○○○○○○ ⑤崩壊部および周辺部の状況○○○ ⑥土石流等発生 可搬性 (人力のみ)○○○ (ヘリ運搬)○○○○○○ 14~18kg 程度○○○○ 迅速性 (観測体制の整備時間)○○    ※2 △○    ※2     ※2 △○    ※2 △○    ※2     ※2     ※2     ※2     ※2     ※ 無人自動連続観測○××○○○×××× ソフト要開発×○○○迅速○○○    ※7 電  人力で運搬可能なバ太陽 電池で運

    ※ 不 要○○○○ 不 要○○    ※1     ※1 △○○○○ 夜間×××○○○×○××○×○○○ 大雨・霧 視界が あれ

視界が あれ

視界が あれ○○○ 視界 あれば可○××××○○○ 携帯電話    ※     ※4     ※4 ○○    ※6     ※6     ※4     ※4     ※4     ※4     ※6     ※4     ※6   ※6※8   ※6※8 衛星携帯電話    ※     ※4     ※4 ○○    ※6     ※6     ※4     ※4     ※4     ※4     ※6     ※4     ※6    ※8     災害時 通信の 信頼性

× (災害規模・状況 による)○○○○ 衛星小型画像伝送装置 Ku-SAT    ※4     ※4     ※9     ※6     ※6     ※4     ※4     ※4     ※4     ※6     ※4     ※6    ※8     国土交通省移動通信 K-COSMOS×    ※5     ※5     ※9     ※5     ※5     ※5     ※5     ※5     ※5 ○×    ※5     ※5     ※5     ※ 災害対策用 テレ×××    ※9 ○○○×××××××○○ 24時間体制 の人手 する

人が近づけ ない も計測可能

迅速性、安 全性に優れ

土砂による 埋没に注意

豪雪地帯 冬期監視 には向かな

概ね1回/1日 程度計測、 人手を要す

計測範囲 ル等の突 出し位置ま

ポイン毎で の計測 精度悪

ポイン毎で の計測人手を要す

豪雪地帯 冬期の監視 には向かな

豪雪地帯 冬期の監視 には向か

豪雪地帯 冬期の監視 には向かな ※1 機器の運用可能時間は、観測頻度や用意したバッテリー容量に変わる。(一般連続使用例:○ビデオカメラ:専用大容量バッテリ使用:5時間程度、○トータルスーション:内蔵バッテリー:半日程度、○3ーザスャナー:専用バッテー:数時間程度) ※2 観測機器の手配に時間を要す場合があ ※3 PC等を利用し静止画伝送 ※4 電話機能を使口頭にか、PC等に手入力しデータ通信を行う ※5 電話機能を使い口頭で伝え ※6 データロー・PC・モデム等に接続しデータ通信を行う ※7 緊急対応として、簡易的なポールやパイプを利用しアナを設置する ※8 シス構造に起因する検知から伝送まの時間遅れが重大な影響を及ぼす場合がある。 ※9 ブイ内に特定小電力無線装置を収容して送信し、無線受信した後に信号変換することによ対応可能

備考災害時通信の 信頼が低い

静止衛星周回 衛星によりアン ナ調整の要否 異な

輸送する車、発 電機必要

電 源 (バ リー、 陽電池) データ 伝送容

3G携帯使用: 高速通信 地域: 最大384kbps 通常地域: 64kbps

下り最大64kbps 上り4.8kbps

(10kg) (10kg)

(約100kg 複数分割可) 電池で2週

× 発動発電機 が必 (1回の燃料補 給で使用可能な のは標準で4~8 時間程度、長時 間型は72時間)

静止衛星の場 合は、通話時間 120分程度 軌道周回衛星 の場合は通信 専用で3ヶ月程

待受:500時間、 通話200分程度

崩壊検知 セン 衛星小型画像 伝送装置 (Ku-SAT 大雨・霧 大雨時不安定 場合がある

大雨時不安定 場合があ

(数kg)

人力で の可搬

災害対策用 テレ衛星携帯電話 通信可能エリア が限られる

データ伝送量 少な BCD信号入力2 量、雨量入力1 量ま

(約70kg、 複数分割可) 映像伝送64kbps デー 16kbps

電話回線 データ通信

数百bps程度 (水位計データ 等最大2量)

監視内容通信方流速 携帯型簡 流速計

水位移動侵食 地上測量機 水位標 の目視

地上無線通信

備 

距離計(簡易 レーザ)水圧 水位転倒ま 型雨量計

浮 

監視機器監視カメラ (市販のビデ オカ

測量機器 による下型水位 観測ブイ

衛星通信シス 地上測量伸縮計振動セン サー等 携帯電話国土交通省移 動通信シ (K-COSMOS)

(16)

2.2 天然ダム監視体制整備の留意点

「解説」

(1)監視体制の整備

監視体制整備には一定の時間を要する。長い時間をかければより高精度な監視を行う体制 を組むことができるが、監視体制整備可能期間、機材の準備状況、現地の電力・通信インフ ラ破損状況、他機関の対策・監視体制、そして、現地への道路交通事情に応じて実施可能な 監視体制を組む必要がある。個々の監視項目における監視手法、機器選定については、第 4 章を参照のこと。

本マニュアルで定める監視体制は、あくまで応急的なものであることから、個々の監視手 段による監視データの信頼性は平常時に比べて低くならざるを得ない。そこで、監視対象で ある天然ダムの重要度を考慮しつつ、なるべく単一の監視手法、単一の通信手段に頼らない 多重的な監視体制を整備することが望ましい。

たとえば、重要な監視項目である流入流量は、流入河川の流量を直接計測することによる ばかりでなく、湛水部の水位計測結果から単位時間内の水位増分を求めることによっても求 めることができるので、二通りの手法で求めることが重要である。また、水位計測にあたっ て、連続的に自動観測可能な水位計が設置できたとしても、水位標による目視監視も並行し て実施する方が良い。

(2)監視体制の見直し

天然ダムの状況や保全対象の状況の推移、そして気象条件の変化に応じて、監視体制を随 時見直す。なお、監視期間が長期化する場合のより持続的な監視体制構築に関する留意点に ついては、第 6 章を参照のこと。

※監視体制整備可能期間の決定

監視体制整備は、少なくとも、対象とする天然ダムが決壊してしまったり、上流の家屋が浸水して しまう前までに済ませなければならない。監視体制の整備の迅速さが最優先されるが、満水または浸 水までの猶予時間を推定することで、監視手法の改善等、監視体制の随時の見直しが可能な期間が求 められる。

まず、概況調査結果等から求めた天然ダムの諸元や周辺の保全対象の位置等を踏まえ、天然ダム箇 所周辺の大縮尺図面から、満水位および天然ダム上流域の浸水被害が生じる恐れのある湛水位を求め、

低い方の水位に対応する容量(V)を求める。

上流からの流入流量が水位上昇速度などの現地調査により推定できる場合には、それを流入流量

(Qin)として、V/Qin より満水または浸水までの時間を推定し(巻末資料4参照)、それをもとに 監視体制の整備にかけることが可能な期間を決定する。

なお、現地調査によって推定できない場合には、近隣に存在する観測所の流量観測データ(至近 10 年間程度)を用いて単位面積当りの月別平均日流量等を整理し、天然ダム上流の流域面積に乗ず ることで、天然ダム形成時期に応じた湛水部への流入流量(Qin)を概略推定する。

基礎資料収集、概況調査結果をもとに、機材の準備状況、現地の電力・通信・交通イン

フラの破損状況を考慮して、実施可能な天然ダム監視体制を整備する。監視にあたって

は、可能な限り複数の手法を用いることにより、データの信頼性の確保に努める。

(17)

3.天然ダム概況把握

3.1 基礎資料の確認・収集

「解説」

地震や豪雨等により天然ダムの発生が報告された場合、緊急的に二次災害防止のための 広域の概略調査、危険度概略判定がなされる。これらの調査、判定により監視すべき天然 ダム箇所が選定された場合、その後の監視体制整備のために、天然ダム形成位置、保全対 象の分布状況を確認するとともに、流域状況(流域規模、流路平面・縦断状況、砂防施設 設置状況等)および湛水予想範囲を早急に把握する必要がある。

また、崩壊斜面の拡大や湛水位の上昇・決壊に伴い被害の拡大するおそれがあるため流 域の雨量状況とともに湛水部への流入流量を把握する必要がある。さらに被害の拡大の誘 因となる余震等の地震情報も把握する必要がある。

したがって、次の資料や情報を確認し収集する必要がある。

○ 大縮尺地形図(1/1,000~1/5,000)

○ 広域地形図(1/10,000~1/25,000)

○ 縦断図(湛水域の上流端~保全対象まで)

○ 横断図(湛水域、閉塞部、保全対象周辺、その他流下区間におけるトラブルス ポット(橋梁など))

○ 流域空中写真または衛星画像(天然ダム形成後)

○ 流域の雨量、河川の水位(流量)情報

○ 震度、震源に関する情報

○ 道路、電気、通信インフラ被害状況

なお、これらの基礎資料については、概略調査時にある程度、確認・収集されているも のと考えられる。例えば、国土地理院は大きな災害が発生した場合には、緊急的に空中写 真や図面を提供しているので、それを入手し活用する。ここでは、天然ダムの監視に必要 な資料を再度確認し、不足資料を収集するものとする。

監視体制整備の基礎資料とするために、地形図や流域空中写真・衛星画像、雨量・

水位(流量)観測所等の情報を収集し確認する。

(18)

3.2 天然ダム全般の状況把握(概況調査)

「解説」

広域の概略調査時に天然ダム箇所の規模、形態、範囲等全般の状況はある程度把握され ているものと考えられるが、監視にあたって必要となる次の項目を確認し、必要に応じて 再度調査を実施する。調査方法としては、現地踏査、ヘリコプターによる手法があげられ る。

○ 崩壊部:崩壊地の拡大可能性、地質、幅、長さ、発生源面積、比高 推定最大崩壊深、推定移動土塊量、崩壊地の勾配

○ 閉塞部:天然ダムの高さ・長さ・幅・上下流法勾配

構成材料の透水係数・粒度分布、越流川幅、越流流量 堤体の侵食箇所と形状、堤体土砂の侵食状況

天然ダム形成前の元河床勾配

○ 湛水部:天然ダム湛水池への流入流量、

天然ダム湛水池の水位、天然ダム湛水池状況 満水までの比高・容量、天然ダム上流の流域面積

○ 周辺部:天然ダム湛水池周辺の斜面の崩落等

これらの調査項目には定性的なものも含まれるが、今後の監視を実施していく上で、基 礎的な情報となるため重要である。また、監視機器設置の制約条件となりうる事項を確認 しておく必要がある。

表 3.2 に天然ダム全般の調査結果を記入する様式例を示す。

(1) 現地踏査

概況調査は二次災害の危険がないと判断される箇所から、目視、写真撮影、ビデオ撮影、

簡易レーザ、GPS などにより、天然ダム全般(主に閉塞部・湛水部・崩壊部)の状況を把 握し記録する。可能であれば、仮の水位標を設置しておく。また、観測機器の設置箇所お よび設置可能な人工構造物の有無(護岸、橋梁など)、電源の確保方法、現地へのアクセ ス方法などを確認しておく。

調査には、携帯電話(複数社が望ましい)・K-COSMOS・衛星携帯電話等の通信機器を持 参し、通信状況を確認する。また、通信可能な場合、必要に応じて情報・画像をリアルタ イムで事務所等に伝送する。

天然ダムの規模、形態、湛水部範囲等、天然ダム全般の状況を把握することを目的

に、現地踏査、ヘリコプター、監視カメラによる調査を実施する。また、調査結果は、監

視体制整備の基礎資料とする。

(19)

(2) ヘリコプター調査

ヘリコプターにより上空から流域内全般を調査し、閉塞部の位置、規模、形態、決壊の 危険性、湛水部の大きさ、流入状況、崩壊部の規模、崩壊拡大の危険性、保全対象の位置 などの情報を得る。

ただし、夜間や悪天候時にはヘリコプターによる上空からの調査は難しくなるため地上 での限定的な調査となる。ヘリコプターによる調査のポイントおよび詳細については、表 3.1 や巻末資料2・3を参照されたい。

表 3.1 ヘリコプターによる調査のポイント 調査項目 調査(撮影及び判読)のポイント 情報の質

実態 変動

①位置 GPS による緯度経度情報より地形図上で位

置を確認 ○

②高さ

③長さ

④幅

⑤上下流法勾配

天然ダム全体を撮影し、ビデオ映像から地 形図上に描き高さ、長さ、幅を計測する 機上から簡易レーザ測距計を用いて計測を 行う

⑥流水流入量 浮木を投下して撮影し、ビデオ映像から流

速、川幅を読みとる ○

⑦ダム水位(変化) 同一箇所を飛行毎に撮影し、既存の画像と

の比較等から読みとる ○

⑧構成材料の透水係数

⑨構成材料の粒度

天然ダムをズームアップで撮影し、ビデオ 映像から推定する

⑩周辺の地形・人家の配置

⑪人名・建物・施設等の被害状況

全体を撮影したビデオ映像から読みとる。

被災箇所はズームアップで撮影する

※巻末資料3参照

「建設省総合技術開発プロジェクト災害情報システムの開発報告書 (平成 4 年 3 月)」1)を一部改

一方、天然ダムの規模、形状および湛水範囲等の定量的な把握にあたり、対象とする規 模が大きな場合や地上からでは見通しが悪い等、全体の把握が困難な場合には、「航空レ ーザ測量」が有効である。この場合、3 次元データの取得が可能となる。特に、天然ダム 発生後の航空レーザ測量を基に作成した地形図は精度が高く、湛水部の満水までの容量を 把握するのに非常に有効である。また、航空レーザ測量は比較的容易に繰り返し計測が可 能であることや計測結果を直接デジタル化できるため、閉塞部や崩壊部の変位状況の把握 にも有効である。ただし、計測後データ化されるまでに時間を要することから、調査後直 ちにデータを活用することはできないことに注意が必要である。

また、夜間等通常のヘリコプターを飛行させることが困難な状況においては、UAV

(Unmanned Aerial Vehicle)と総称される無人航空機の活用も検討すべきである。

(20)

表 3.2 天然ダム調査様式(例)

調査表作成日時; 年 月 日 時 分※

調査者;所属 氏名

①形成地区名 都道府県 市郡区 区町村

②河 川 名 水系 川

③図 面 名 (1/25,000)

④天然ダム位置 緯度 経度

⑤天 然 ダ ム 形 成 日 時 年 月 日 時 分(頃)

⑥直接の誘因

地震・火山噴火・豪雨・融雪・その他( )

(地震の情報;震度・震央からの距離・余震の可能性)

(豪雨の原因;台風・前線・雷雨・その他( ))

⑦土砂移動形態 土石流 ・ 地すべり ・ 崩壊 ・ その他( )

⑧調査方法 地上 ・ 空中 ; 目視 ・ 測量 ・ 写真 ・ VTR ・ その他

⑨形成地区概況

(地形・地質特性)

地 質 :

幅 : 最大幅 平均幅 (m)

長 さ : 最大長さ 平均長さ (m)

発 生 源 面 積 : (㎡)

比 高 : (m)

推定最大崩壊深: (m)

推定移動土塊 量: (m3

⑩崩壊部の状況

崩 壊 地 の 勾 配 : (°)

天 然 ダ ム の 高 さ ( H ) : (m)

天 然 ダ ム の 長 さ ( L ) : 天端長さ L1 底部長さ L2 (m)

天 然 ダ ム の 幅 ( B ) : (m)

天 然 ダ ム の 上 下 流 法 勾 配 ( n ) : 上流法勾配(n1) 下流法勾配(n2) 天 然 ダ ム 推 定 土 塊 量 (V ) : (m3) 天然ダムの構成材料の透水係数(K): * (m/s)

天 然 ダムの構 成 材 料 の粒 度 分 布 : *

越 流 川 幅 、 越 流 流 量 : ☆ (m) (m3/sec)

堤 体 の 侵 食 箇 所 と 形 状 : ☆ 略図に示す 堤 体 土 砂 の 侵 食 状 況 : ☆

⑪閉塞部の状況

天 然 ダム形 成 前 の元 河 床 勾 配 (θ): (°)

天然ダム湛水池への流入流量(Qin): (m3/sec)

天 然 ダ ム 湛 水 池 の 水 位 : 略図に示す 天 然 ダ ム 湛 水 池 状 況 : 略図に示す

満 水 ま で の 比 高 ・ 容 量 : 略図に示す 比高(h1-h3)= (m) 、 容量= (m3

⑫湛水部の状況

天 然 ダム上 流 の流 域 面 積 (A): (k ㎡)

⑬天然ダム越流予想時刻 (満水までの容量)÷(流入流量)

時間 分後

( 日 時 分頃)

⑭天然ダム浸水予想時刻 (浸水までの容量)÷(流入流量)

時間 分後

( 日 時 分頃)

⑮天然ダム周辺の地形、人家等の配置 略図に示す

⑯人命・建物・施設等の被災状況 時間経過に従い表に示す

⑰今後の雨量、流量等の情報

⑱その他

※: 天然ダム形成時から時間を追って、各時刻1 枚ずつ作成する。

*: 資料があれば記入する。

☆: 閉塞部から越流が始まっている場合に記入する。

太線: 現地踏査あるいはヘリコプター調査で確認すべき項目。

⑲略図・写真(写真はヘリコプターにより撮影し判読に使用したハードコピーも添付する。)

・左右岸で高さ(H)が異なる場合は、左岸の高さ(H)、右岸の高さ(H)とする。

・天然ダムの形状のスケッチ、諸元の定義

⑳対応(監視すべき場所や現地の制約条件、崩壊地の拡大可能性など)

長さ(L1)

高さ(H)

元河床勾配(θ)

幅(B)

推定満水面

湛水面( 月 日 時 分)

長さ(L2)

下流法勾配 1:n2

上流法勾配1:n1

推定満水位(h1)

湛水位(h3)

満水までの容量

推定満水位(h1)

湛水位(h3)

顕著な台形形状を呈する場合はL1 も計測

(21)

4.監視・把握

4.1 天然ダム全体状況の監視・把握

「解説」

天然ダムの規模、形状、湛水部範囲等、天然ダム全般の状況を連続的に監視するために、

監視員の配置または監視カメラを設置する。監視員の配置にあたっては、その安全管理に万 全の注意を払う必要がある。また、監視が長期に及ぶ場合には、監視カメラを設置して監視 することが望ましい。その他、天然ダムが大規模で、監視所、監視カメラ設置地点から全体 が見渡せない場合、又は監視カメラを設置できない場合には、3.2 節で述べたような現地踏 査、ヘリコプターによる調査を実施して、全体状況の連続的な監視・把握に努める。

なお、監視カメラ等による監視成果は、例えば水位計が異常値を示した場合に、現場状況

(「水面に波が立っている」等)や観測機器の設置状況(「水位センサーがなんらかの理由で 破損している」等)を確認できる等、観測機器データと現地状況との対応を把握する補完的 な役割も有する。

監視カメラは次の事項の監視を目的として、該当箇所にそれぞれ設置することが望ましい

(P7 表 2.2)。

① 湛水部の水位

② 湛水部への流入流量

③ 閉塞部の変状

④ 閉塞部からの流出流量

⑤ 崩壊部および周辺部の変状

⑥ 土石流等の発生

監視カメラは、中越地震の天然ダム形成時も災害発生から約 1 週間後に設置され、閉塞部 やその周辺を連続的に監視することが可能となった。

【ヘリコプターによる監視の留意点】

天然ダムが大規模であり、監視カメラ等で全体が見渡せない場合には、ヘリコプターによ る監視が有効である。調査実施時期は晴天継続時の定期的な監視と降雨後あるいは地震(余 震)後等において地形変化が懸念される場合とに分けられる。以下に、ヘリコプターによる 主な確認のポイントを挙げる。監視調査により閉塞部等の変化が確認された場合には、その

天然ダムの規模、形状、湛水部範囲等、天然ダム全般の状況を監視することを目的

として、監視員または監視カメラにより連続監視する。また、現地踏査、ヘリコプターに

より全体状況を定期的に監視・把握する。

(22)

様子を図示し、写真撮影を実施する。なお、監視の詳細は巻末資料2を参照されたい。

<晴天継続時>

„ 閉塞部下流側の水の色

¾ 上流側との変化を断続的に確認する

„ 閉塞部上流部の湛水状況

¾ 目標物を決め変化を確認する

¾ なるべく同じ構図で写真撮影し、視覚的に変化を捉える

(地図、容量データ完成後には定量的な評価も可能であれば実施する)

„ 閉塞部の漏水・新しい水みちの有無

¾ 前回との変化を見る(調査員が変更している場合は、写真との比較を行う)

„ 斜面の大規模な亀裂・ズレの有無

„ 斜面の漏水、水たまりの有無

<雨天後、地震(余震)後> 次の事項を追加する

„ さらに周辺に大きな天然ダムがないかを確認する

„ 崩壊地の足下が洗掘を受けていないかを確認する

【監視カメラによる監視の留意点】

初動時の観測では、汎用ビデオカメラにより現地状況の画像監視を迅速に開始する。

電源はバッテリーにより数時間程度使用が可能であるが、連続監視の場合には定期的な交 換が必要となるため、発動発電機を用意することが望ましい。また、発動発電機への燃料補 給体制も検討しておく必要がある。

撮影は、極力画角を一定にしておいて、対象物の変化を認識しやすいようにしておく。可 能であれば、水位標などを設置して水位を読み取れるようにしておく。

設置に際しては、防雨性や防塵性に配慮する。また、夜間監視も対象とする場合には照明 施設の設置や高感度カメラの導入が必要となり、照明施設用の電源として発動発電機も必要 となる。監視が冬季にも及ぶ場合には耐寒性にも配慮する。

撮影した映像は Ku-SAT を用いてリアルタイムに遠方伝送することが可能であるが、機材 が搬入されるまでの間は、携帯電話・衛星携帯電話による通信手段と PC 等を利用して静止 画を伝送することが可能である。

天然ダムの状況や事態の推移に応じて、長期間にわたる監視が必要となった場合には、据 置型の監視カメラを設置することが望ましい。この場合には、情報通信システム等の更新と あわせて、商用電源の利用などを行う(6 章参照)。

(23)

図 4.1 監視カメラと Ku-SAT

図 4.2 監視カメラによる映像監視

画角を揃えておき、変化を捉えやすいようにしておく。

【情報連絡手段】

現地と遠方の保全対象地域又は災害対策本部などの間の連絡手段を確保しておく必要が ある。初動的には携帯電話、衛星携帯電話を用い、Ku-SAT が搬入されたあとはこの通話機 能も併せて利用し、情報連絡手段の冗長化を図っておく必要がある。

×日後

×日後

・土砂流入による河床上昇

・湛水位が高いまま推移

●天然ダムの湛水部監視

●天然ダム下流側流路の監視

(24)

4.2 湛水位の監視

「解説」

河道が閉塞すると上流部に湛水部が形成される。湛水部の水位上昇は閉塞部の越流による 決壊や上流での浸水被害をもたらす。従って湛水深、閉塞部の天端までの比高、上流の浸水 範囲を把握するために湛水位およびその変動を監視する。

水位は昼夜問わず上昇するため、24 時間監視が必要で、観測間隔は 1 時間間隔を基本と し、水位変動の状態により弾力的に対応する。危険なため湛水部に接近できない場合には、

ヘリコプターから目視で監視することも重要である。

なお、観測した湛水位をもとに、決壊や上流部の浸水被害発生までの時間を推定する方法 については巻末資料4に記した。

【湛水位観測方法の選定】

湛水位を監視する方法には、ヘリコプターから目視で観測する方法、投下型水位観測ブイ を設置して自動観測する方法、水位標を設置して地上から目視により観測する方法、測量機 器を用いて基準面と水面の比高を観測する方法、水圧式水位計による自動観測等がある。

地上から湛水部への接近が困難な場合や、二次災害の危険が高い場合には、初動的対応と してヘリコプターから目視によって湛水位を観測する。また、投下型水位観測ブイはヘリコ プターから投下するだけで安全・迅速に設置できるためこれを利用することも有効である。

地上から湛水部付近へ立ち入ることが可能な場合には、水位標を設置して目視により観測 する方法を用いるが、急崖などで湛水部付近まで立ち入ることができない場合は遠方から測 量機器を用いて水位変化を観測する方法もある。いずれの場合も、余震等に伴う斜面崩壊や、

閉塞部の決壊による土石流によって作業員が被災することの無いよう、十分に注意する必要 がある。

また、決壊までに猶予時間があり、かつ機材の準備・搬入が可能な場合には、水圧式水位 計や非接触式水位計を設置して、水位の自動観測を行う。なお、自動観測が開始された後も 機器の精度を確認するために水位標等による目視観測は継続して行う必要がある。

閉塞部からの越流による決壊に至るまでの時間(満水までの時間)の予測、湛水域

拡大に伴う上流部の浸水被害予測を目的に、湛水位を監視する。

(25)

図 4.3 水位観測選定フロー

①ヘリコプターからの目視による監視

天然ダム発生後、初動時の観測および決壊までの時間が極めて限られる場合で、地上から 湛水部への接近が困難な場合には、ヘリコプターから目視によって湛水位を観測する。水位 の監視にあたっては、なるべく、湛水域周辺の人工構造物等を参考にして、水位上昇を定量 的に判読するように努める。また、判読する度に同じ位置・構図の写真を撮影し、次回判読 する際に、水位を比較することができるようにする必要がある。

②水位標の目視判読

天然ダムの決壊が迫っている時などは、水位計や Ku-SAT の準備が間に合わない場合が多い。

その場合には、水位標(河川用量水板や測量用スタッフ)を必要な測定範囲分設置し、目視 により水位を定期的に観測する。また、水面付近に近寄れない場合は投げ込み式水位標(浮 いているフロートを目視で計数するもの)を投げ込んで設置して観測を行う。

緊急時では昼夜問わず観測を要するため、夜間連続観測が可能な人員体制を図ったり、照 明機器を配備するなどの対応が必要となる。

また、監視カメラが確保できる場合はそれによるものとし、二次災害を回避できる安全な 場所でモニター監視することもよい。その後、通信・測定機器が搬入され次第、水位計と Ku-SAT による自動連続観測に移行し、遠方監視体制を構築する。

但し、自動連続観測が開始された場合でも、水位標を目視やカメラで確認できる状態を継 続しておく必要がある(観測データ異常値が生じた場合の確認などのため)。

②水位標の目視判読

⑤投下型水位観測ブイによる計測

④水圧式水位計による計測

※水位標の目視判読も継続

③地上測量による計測 湛水位の監視

①ヘリコプターからの 目視による監視

湛水部に 近づけるか?

yes no

決壊まで数日あり 観測機器が設置可能な場合

人力による観測

自動観測

(26)

図 4.4 一般的に使用される水位標の種類

図 4.5 水位標の目視判読

湛水部 水位標

閉塞部、渓岸など

想定される最大水深まで 読み取れるように

目視

河川用量水板、測量用スタッフ

(水位標を閉塞部などに打ち込める場合)

ウェイト

カラーフロート(10cm おき)

投げ込み式水位標

(急崖、土砂崩落などで水際に近寄れない場合)

河川用量水板

河川の水位測定に一般的に使用されており、

目視で読みとりやすい。

測量用アルミスタッフ 調達性に優れるが、測量用のため

数字や目盛りが小さい。

(27)

③地上測量による観測

湛水部に近づけないなど水位標等の設置が不可能な場合は、遠方から測量機器を用いて水 位変化を観測する。斜距離および高度角を計測できる測量機器(一般にはノンプリズム型、

測距距離2,000m)を用いて、基準地点と水面の比高を計測し、水位を算定する。この際、基 準地点の標高(または任意高さ)をあらかじめ設定しておく。夜間は標的とする水面を照明 機器で照射し観測する。

なお、この計測方法は、湛水面と渓岸の接する箇所が見通せることが条件となり、観測地 点の現場状況(二次災害の危険性など)には十分注意を払う必要がある。

X=sinθ・L

∴ 湛水位標高=h+T-X(m)

図 4.7 湛水位標高算定の概念図

④水圧式水位計による観測

人力による水位観測は非常に労力を要するため、決壊まで数日あり観測機器の準備が整っ た場合には、水圧式水位計などを設置して自動観測体制に移行することが望ましい。

機器の設置は、背後斜面からの土砂流入が少なく渓岸部が安定している地盤にアンカー等 で堅固に固定することが望ましいが、ルーズな地盤の場合には、仮杭やおもりを付けて暫定 的に設置する。なお、センサーの設置深度は、浅くすると水位低下時に水位センサーが干上 がって測定できなくなり、深くすると土砂に埋没して水圧を受けることができなくなるため、

深浅のバランスを考慮して安定した測定が確保できるようにする必要がある。

水位計とともに、Ku-SAT や災害テレメータも併設して自動伝送を行うものとする。

天然ダムが地震により発生している場合には、水位計設置後に余震でセンサー位置がずれ る可能性もあるため、余震発生前後での水位データの不連続などが生じた場合は補正する必 要がある。また水位標を併設しておきデータ精度を確認する手段を確保しておくことが望ま しい。

土砂の流入が多く水圧式水位計での設置・運用が困難な場所で、かつ湛水面上に橋梁等が ある場所では、非接触の水位計(超音波式・電波式・光波式)を用いることにより、土砂に よる埋没や流下物の衝突による破損を回避することができる。

X L θ h+T(m) 標高 h(m)

T : 機器高さ(m)

L : 斜距離(m)

θ: 俯角(°)

<水位自動観測を開始できるまでに要する日数>

水位計による自動観測の開始は早いことが望ましいが、機器の手配日数、現地へのアクセスを確保する までの日数などにより、災害発生後数日から数週間程度かかる場合が多い。また、観測機器と伝送機器の インターフェースなどの不整合も日数を増加させる要因となる。平成 20 年岩手・宮城内陸地震では 15 箇 所の天然ダムが発生したが、最短で 5 日間、最長で 3 週間程度を要している。

このため、少しでも早い水位自動監視を実現するためには、機器の事前準備による手配日数の軽減、

ヘリコプターによる運搬や設置による設置日数の軽減が必要となる。

(28)

図 4.8 水圧式水位計設置概念図

図 4.9 水圧式水位計設置事例

センサーにワイヤーと重錘を付けて上部から吊るし、

ケーブルは波付硬質ポリエチレン管で保護している。

(平成20 年岩手・宮城内陸地震で発生した磐井川・市野々原地区の天然ダムの湛水測定事例)

センサー取付高さについて

護岸等構造物に設置する場合 水位センサー

保護管 固定金具 センサーケーブル

護岸

湛水部 湛水部

水位センサー ワイヤー

木杭

波付硬質ポリエチレン管等

センサーケーブル

土砂

閉塞土砂・渓岸部に設置する場合 センサー下部が最低水位よりも

下回らない高さとなるように施工する

水圧受感部

(29)

⑤投下型水位観測ブイによる観測

天然ダム発生後、迅速かつ安全に湛水位を自動的・連続的に観測したい場合には、土木研 究所で開発された投下型水位観測ブイを設置する。

投下型水位観測ブイは、衛星通信装置を収容したブイ部と、水位センサーを収容したケー ジ部から構成され、ヘリコプターでの運搬性が考慮されるとともに、投下するだけでブイと ケージが分離して観測体勢となり、衛星通信を通じて遠方監視が可能な機器である。

設置の際は、見込まれる湛水位上昇量が水位計の測定可能範囲内となるよう、設置時点で の水深状況などを勘案して設置ポイントを決める必要がある。また、水位計ケーブルが絡ま ると測定に影響を来すため、樹木等が少ない地点や土砂流入が少ない地点を選択する必要が ある(詳細は巻末資料8参照)。なお、設置した段階で観測される水位は、設置時の水位を基 準とした観測水位との相対的な値であり、標高は不明である。このため、地上測量や航空レ ーザ測量等による水面や閉塞土砂の測量結果を用いるなどして、標高値への換算が必要とな る。

図 4.10 投下型水位観測ブイの外観

図 4.11 投下型水位観測ブイ設置概念図

①ヘリで輸送 ②水中に投下、直ちに観測開始 ブイ浮上

ケージ沈下

低軌道周回衛星通信(イリジウム)

を利用してデータ伝送

ブイ

水位センサーで水位測定 ケーブル

ヘリコプター 投下

投下型水位観測ブイ

(30)

【満水位と観測水位との比高の算出】

上記①~⑤の方法で観測した水位データは電子基準点等に基づいて、絶対標高に変換して おくことが望まれる。絶対標高により、天然ダム天端(満水位)の絶対標高から越流開始(満 水)までの比高を把握しておくことが可能である。また、上流域の浸水範囲を把握すること も重要である。

なお、水位データを絶対標高に変換することが困難な場合には、観測水位と満水位までの 比高を最低限、把握しておくことが重要なため、天然ダム天端(満水位)を測量することな どが必要である。測量にあたっては、例えば航空レーザ測量の活用や、ヘリコプターからの 目視による推定などが有効である。

また、実施には天端付近の巨礫、倒木等の間隙より通水し、満水位に達しなくても越流に 近い状態が起こることも想定される。したがって、ここで算出した満水位と観測水位との比 高は安全側に余裕を見ておく必要がある。

図 4.12 越流開始(満水)までの比高

【観測機器と伝送機器のインターフェース整合性】

湛水位を測定するための観測機器と、そのデータを遠方伝送するための伝送機器のインタ ーフェースは整合が図られていなければならない。

一般的に、使用される信号はデジタル信号とアナログ信号に大別され、前者はBCD 信号

(桁数、ピンアサインに数種類ある)、電圧接点信号、シリアル信号(RS-232C や RS-422 といった規格があり通信フォーマットは機器毎に異なる)などがあり、後者には電圧か電流 かといった違いや出力レンジなどに種類がある。

このため、観測機器側からの出力信号と伝送機器側への入力信号は、信号種類及び規格を 事前に十分確認して必要に応じて信号変換器を設けるなど、整合を図っておく必要がある。

満水位 観測水位

越流開始までの比高

(31)

4.3 湛水部への流入流量の把握

「解説」

閉塞部の越流や上流部の浸水までの時間を予測するためには、湛水部の水位上昇速度を把 握する必要がある。水位上昇速度は上流からの流入流量と湛水面積によって規定されるため、

流入流量の把握・監視は最も重要な事項の一つとなる。また、ポンプ排水を行う場合には、

必要な排水量を算定するためにも流入流量を把握する必要が生じる。

巻末資料4に、水位上昇速度の計測値から越流・浸水までの時間を予測する手法を示した が、水位上昇速度ではなく、上流側からの流入流量を直接計測することによっても同様に越 流・浸水までの時間を予測することができる。また、二重にチェックする意味においても、

越流・浸水までの時間の予測の上で重要である。そのほかにも決壊時のピーク流量を予測す る場合には、上流からの流入流量が不可欠なパラメータとなっていることから、流入流量の 把握は重要である。

実際には、急峻な山間部などで天然ダムが発生した場合には、天然ダムの上流側へアクセ スすること自体も困難となり、流入流量の把握が難しいことも想定される。ただし、上述の とおり重要性は高いため、流入流量の観測を実施しておくことが望まれる。

なお、観測した流入流量および湛水位(4.2)をもとに、決壊や上流部の浸水被害発生ま での時間を推定する方法や、越流による天然ダム決壊時のピーク流量推定手法は巻末資料 4・巻末資料5にとりまとめた。

【流入流量観測方法の選定】

天然ダム発生後、初動時の対応や決壊までの時間が極めて限られる場合には、流入流量は、

湛水部の水位上昇速度と流出流量の差から逆算して求める。すわなち、流出流量が把握でき ているか、または無視できるほど少ない場合で、巻末資料4に示すH-V曲線が精度よく把 握できている場合には、水位観測結果から流入流量を逆算する。

また、湛水部上流の流入部へ接近可能で、流量計測する時間的余裕がある場合の流入流量 を把握・監視する方法としては、現地状況により次の 2 種類が挙げられる。観測機器が設置 可能な場合は水位計・流速計による自動観測により流入流量を求める。観測機器が設置不可 能な場合には、携帯型簡易流速計、浮子やビデオカメラ等を用いて定期的に流入流量の瞬時 値を算出する。なお、湛水部に流入する河川が複数ある場合には、各河川において観測を行 い、流入流量を把握しておくことが重要である。

また、観測した流出流量の精度を確認するために、前述のように、H-V 曲線と水位観測

(4.2)により間接的に求めた流入流量の推定値と比較しておくことが望ましい。

閉塞部の越流による決壊や上流部の浸水被害発生までの時間の予測、ポンプ排水

の場合の排水量の算定および決壊時のピーク流量予測を目的に、湛水部への流入

流量を把握する。

數據

図  2.1  天然ダム形成後の監視の流れ
表 2.2天然ダム監視・観測機器選定条件  ●観測機器●伝送機器 全体状況 降雨量崩壊検知土石流発生 検知 トータルステーション (ノンプリズム) 3Dレーザ スキャナー ①湛水位 ○○○○○ ②湛水部への流入流量○○○○○○○○ ③閉塞部 ○○○○ ④閉塞部からの流出流量○○○○○○○ ⑤崩壊部および周辺部の状況 ○○○○ ⑥土石流等発生○○ 可搬性 (人力のみ)○○○-(ヘリ運搬)○○○○○○○14~18kg 程度○○○○ 迅速性 (観測体制の整備時間)○○    ※2△○    ※2△    ※2
表  3.2  天然ダム調査様式(例)  調査表作成日時;    年    月    日    時    分※        調査者;所属                      氏名                  ①形成地区名                          都道府県                市郡区                区町村  ②河  川  名                          水系                    川  ③図  面  名
図 4.1  監視カメラと Ku-SAT  図 4.2  監視カメラによる映像監視  画角を揃えておき、変化を捉えやすいようにしておく。  【情報連絡手段】    現地と遠方の保全対象地域又は災害対策本部などの間の連絡手段を確保しておく必要が ある。初動的には携帯電話、衛星携帯電話を用い、Ku-SAT が搬入されたあとはこの通話機 能も併せて利用し、情報連絡手段の冗長化を図っておく必要がある。 ×日後×日後 ・土砂流入による河床上昇  ・湛水位が高いまま推移 ●天然ダムの湛水部監視 ●天然ダム下流側流路の監
+7

參考文獻

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