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臺灣原住民族料理之環境文化史

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台湾原住民族の料理の環境文化史

野林厚志 国立民族学博物館 教授 総合研究大学院大学 教授 【要旨】 本報告の目的は、台湾原住民族の食文化を料理という観点からとらえ、料理 という文化装置が原住民族の人々の環境利用をどのように規定しているかに ついて考察することである。料理は中華料理、日本料理、「和食」といった名 称で一般社会にもよく知られた概念である。近年では、料理が文化遺産として 制度的に位置づけられている事例も少なくない。一方で、生物の採食行動を生 態学的にとらえた場合、料理という行為は複合的な要素をもつ人類特有の文化 的所作であることが理解できる。換言すれば、人類のみが採食行動をデザイン し、食べるものの種類、量、時間、食べ方をデザインしているということであ る。そして、料理は計画的、目的的な生態資源の利用が集約されていて、それ が世代を越えて継承される文化装置であるとみなすことが可能となる。 こうした性質をもつ料理を作業概念として、原住民族の食のありかたの伝統 を考えてみたい。具体的には、儀礼に最重要な栽培植物であるアワ、象徴化さ れる野生動物の肉を中心にし、歴史的記述やフィールド調査のデータを参照し ながら、料理の環境利用レシピを提案し、原住民族の多角的な環境利用の視覚 化を試みる。 キーワード:料理、食文化、環境利用、生態資源

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臺灣原住民族料理之環境文化史

野林厚志 國立民族學博物館 教授 總合研究大學院大學 教授 【摘要】 本報告之目的,是由臺灣原住民族所烹煮之飲食文化為觀點,藉以考察所謂 料理之文化裝置,在原住民族族人之環境利用上是為何種規定狀態。料理,有中 華料理、日本料理或是被稱之為「和食」,是現今社會上一般所廣為人知之概念。 近年來,料理被規制定位為文化遺產的事例也不在少數。另一方面,由生物採食 行動的生態學來看,可以理解稱為料理之行為,是具有複合性要素之人類特有的 文化性作為。換言之,是蘊釀出人類僅有的採食行動,食物之種類、數量、時間 以及食用方式也是其蘊釀之結果。因此料理,是計劃性且具目的性的生態資源利 用之集大成,因而也可視為是跨越世代承接文化之存在。 想要以具有此種性質之料理為作業概念,試著考量原住民族既有飲食典範之 傳統。具體而言,是以儀式上最重要的栽培植物小米以及象徵野生動物的肉類為 中心,參照歷史記敍以及田野調查資料,提出利用環境的料理食譜,也試著視覺 化原住民族多方面的環境利用。 關鍵詞:料理、飲食文化、環境利用、生態資源 (譯者:胡家齊)

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1.目的 「野菜といっても、山の野菜はすべて薬と同じでしょう。」 これは、著者が原住民族工芸に関する調査を続けてきたパイワン族の集落 で、パイワン族の比較的高齢の工芸作家から聞かされた言葉である。台湾の 原住民族の日常の食生活は日本統治時代や中華民国の施政下で大きく変容し てきたことは言うまでもない。そこで、本稿は原住民族の食生活、さらに言 えば食文化を再考する出発点として、現在のパイワン族社会の中で慣行され ている食行動において選択されている植物に注目し、それらが食生活の中で どのように位置づけられているかを考えてみたい。 物流環境や食品の保存環境の変化は原住民族の人々の食生活をある意味で は画一化させてきた。「中華料理」の食材や調理法は原住民族の食生活に浸 透しているのが現状である。マジョリティの漢族社会への同質化に反動する かのように、1980 年代以降、原住民族のエスニシティはそれぞれの民族集団 の独自性や、原住民族全体として他の民族集団との差異化をはかるようなか たちで少なからず表象されてきた。そして、食生活は、原住民族が自然環境 と調和した民族であるというなかば理念的な姿を描きだすうえで適した要素 であった。野生動植物を獲得し、山間部で機械化されない農耕活動を通して 伝統作物を作り、伝統的な手法をもって料理を作るという食文化が記述さ れ、また、観光産業等とむすびついて実践されてきた。 一方で、原住民族の人々は生態資源に関する豊かな知識を継承させてき た。そして、それらは部分的にではあるが日常生活の中にもまだ息づいてい る。本稿ではそうした食文化が継続されてきたことの背景にある機能的な理 由について考えてみたい。ただし、食文化が包含する内容は広範であり、地 域差や民族集団ごとの差異もあることから、すべての事象や課題を本稿で扱 うことはできない。今回は、冒頭に述べた言葉から想起された一つの課題に ついて考えてみたい。すなわち、菜食がもつ機能である。具体的には、パイ ワン族の食生活の中で特定の植物が現在でも用いられることに着目し、食事 における素材の選択性の問題について考えてみることにする。 2.料理の環境文化史 人類が生み出してきた数多くの文化装置の中で、生態学的な優位性を人間 が得ることになった大きな役割を果たしてきたものが料理という行為であ る。クロード・レヴィ=ストロースが、料理について「動物と人間の線引きを する象徴行為と見なされている」と述べているように(レヴィ=ストロース 2006)、生態資源をそのまま摂取する動物の摂食行動と人間のそれとの大き な違いは、生態資源を組み合わせ、さらに外部のエネルギーを用いて加工す ることによって、生命体そのものが行う咀嚼や消化を代替させ、より有利な

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条件で生命体を維持させていくことである。マイケル・ポーランの言葉を借 りれば、料理とは「生の食材を栄養ある魅力的な食べ物に変えるあらゆる技 術」という定義が可能となる(ポーラン 2014:14)。一方で、料理には一定 の手順や決まった方法があることにも留意しておきたい。そして、それらは 料理を作る人間によって伝達され、継承されていくのである。 従前のような性質をもつ料理は、日常生活において人間の生態学的、栄養 学的充足を果たす役割に加えて、儀礼や共食といった社会関係の充足にも寄 与してきた。台湾の原住民族のアワの共食や、儀礼の際には狩猟によって得 られた野生の獣肉が必要になるといったこと、それらが人々に提供されてい く特有の形態は、先人たちの慣習的な行為を重ねながら継承することによっ て社会の中に確立していったと言ってもよい。これらのことを一般化した見 取り図が図1である(注1)。 図1:環境文化装置としての料理 人々の嗜好、響宴や分配の様式、信仰等による食の規制は社会的、文化的 に人間の食べるものやそれらの食べ方を規制する。この規制は継承されてい き、それぞれの社会の中で食のルールとして確立していくことになる。

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台湾の原住諸民族の中で、こうした食の選択を行なうことでよく知られて いるのは、タオ族の魚食に関わる規制である(野林 2000、森口 2003a、 2003b、徐 200、高 2004、3 等)。ジェンダーや年齢、社会的地位(子、孫、 曾孫の有無等)によって、接食される魚の種類が異なることが多くの研究者 から指摘され、その詳細が記述されてきた。一方で、なぜ魚食規制が行われ るかはいまだよくわかっていない。さらに、タオ族の魚食規制の研究には料 理という切り口での、調理方法や素材の組み合わせについての視点はそれほ ど与えられてこなかった。 台湾本島の原住民族の料理については、原住民族文化の特徴をあらわす要 素として紹介される機会を少なからず得てきた。例えば、アミ族の野生植物 を食材とした料理を紹介した書籍には、藤心(Daemonorops margaritae)や檳 榔(Aresa catechu)の花弁や茎部といった、我々が原住民族料理と称される ものを食するときにしばしば含まれる食材を用いた料理が記述され(財団法 人台湾原住民文教基金会 1998)、「野菜を食べる人たち」や「十心菜」とい った従来は意識されてこなかったであろうエスニシティに関わる言説までも 登場している(呉雪月 2006)。料理とは日常的な食生活と直結しているがゆ えに知覚されやすく、より強調され誇示されていくことは否めないであろ う。こうした状況にあっては、外部社会からの影響により食の形態は容易に 変化することから、伝統的な「不変の食」を記述することはほぼ不可能であ るだろう。しかしながら、それらが書かれた時点での食の様相であることに 留意しながら比較をすることにより、食の変わらない部分を確認することは 可能である。佐山融吉が記述しているアミ族(南勢蕃)の食材には、「甘薯 及葉、藤心「コアチン」ノ心「ゴア|サイ」ノ若芽、里芋、豆類、芹、蘿 蔔、筍、及軟カナル雑草(臨時台湾旧慣調査会 1913:45)」とあり、藤心と いった現在も変わらず使われている食材の存在を確認することができる(注 2)。 そして、現地社会での日常生活の中にも慣習的な食材利用はいまだ息づい ていることが少なくない。それらは、書籍に書かれたものとは異なる現実を もって存在していることから、伝統的な食材の利用や料理方法について探究 する場合には、過去と現在の文献資料に加えて、現地での食材の利用状況も また重要な手がかりとなる。そして、現在の利用状況が重要なのはそれらが なぜ食材として用いられるのかという理由について、実際にそれらを利用し ている人たちの考えや料理の中での使われかたを通して考えることが可能と なるからである。すなわち、利用が形骸化している植物は採集や栽培、利用 される機会は減少する一方で、利用が続けられているものは相応の存在理由 があり、それは経験的に継承されてきたと考えることが可能だからである。

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3.薬効をもつ野菜の利用-『蕃族調査報告書第五巻之三』中のパイワン族 の事例より 台湾の原住民族が利用する食材は日本統治時代の記録にも散見される。た だし、これらは一般的な記述が多く、どのような食材がどのような組み合わ せで料理されているかを詳しく記録したものは少ない。ひどいものになる と、原住民族に調理法というものはなく、ただ煮炊きをしたり焼いたりし て、塩で味付けをするといった程度の記述に留まったりする。一方で、そう した中にも食材として用いる植物の種類やその利用方法に触れられているも のもある。その中から、冒頭にあげた「山の野菜は薬である」という言説に ついて考える手がかりを以下に述べてみたい。 「又時々粟ニ稗、樹豆、大各豆又ハ雑菜(番地二ハ「サマク」、「カモ ト」、「サムチ」、「ラタラ」等称スル野菜アリ皆粟ニ混シテ煮ルコトヲ 得)」(台湾総督府蕃族調査会:1920:382)。 これは、『蕃族調査報告書第五巻之三』中のパイワン族の食生活に関する 記述の一部である。小島由道と小林保祥が中心になって編纂した同書に記載 された内容は、当人たちが現地に赴いて収集した情報もあり、生活の中で実 際に行われていたことも少なくない。従前の記述はアワと一緒に調理をする 具体的な植物の名前が記された貴重なものである。 上に記載された植物のうち、「サマク」、「カモト」「ラタラ」は『高砂 族調査書第六編』にも掲載されている。同書は、1931(昭和6)年に、各地 の警察官駐在所において調査された原住民族の疾病治療に用いられる薬用草 根木皮を調べたものを、佐々木舜一が同定した結果が示されたものであり、 原住民族の薬用植物利用の嚆矢をなしたものといってよい。興味深いのは薬 用植物として調べられたものが、旧慣調査では食用植物として位置づけられ ていたことである。これは調査者の専門や関心領域の相違によっても生じる 結果である。重要なのは多様な視点で収集された対象の情報を連結させるこ とであろう。 アワと一緒に炊かれるとされた植物の特徴について、『高砂族調査書第六 編』(『高』と以下には略称する。)ならびに、『台東地区薬用植物図 鑑』、『台湾原住民薬用植物彙編』、『台湾原住民族薬用植物図鑑』等の記 載をてがかりにしながら簡単に述べてみる。

「サマク」は、アキノノゲシ(Lactuca indica, Linn)である。漢語では鵝仔 菜である。キク科の越年草で、苦味はあるものの日本では食用雑草として知 られている。『高』にはその使用方法として、葉を煎じて飲むと頭痛に効能 があるとされ、他には、葉の成分が腫瘍や炎症に効くと記述されている。

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「カモト」は、ウスベニニガナ(Emilia sonchifolia)で、漢語では紫背草で ある。これも基本的には雑草で栽培されるほどの植物ではない。苦味もそれ なりにあり、若葉が食用にされる程度のものである。『高』中の薬効には葉 を破砕したものを服用することで頭痛に効果があり、葉を破砕したものが点 眼薬になるほか、外傷にも葉を破砕したものを塗布することが記されてい る。興味深いのは、熱病や腫瘍に用いるときには他の植物と組み合わされて いることである。 「ラタラ」は、オオバチドメグサ(Hydrocotyle nepalensis)で、漢語は乞食 碗とよばれている。栽培植物ではないが人里植物としても知られている。食 用は可能であるとされている。日本語では「大葉血止草」が漢字であてられ ている。これは同じ属のチドメクサ(Hydrocotyle sibthorpioides)と葉の形が 類似していて大型であることから命名されたものと考えてよいであろう。 『高』には眼病、腹痛に加えて、マラリヤや回虫駆除にも用いられると記載 されている。止血作用については具体的には書かれていないが、葉を破砕し て外傷部に塗布されても効果があるとされている。 このようにしてみると、『蕃族調査報告書第五巻之三』に記載されたアワ とともに摂食される植物はいずれも薬用植物という性格が強いことがわか る。これらの植物がアワとともに食べられるものとしてパイワン族の人たち に認識されていたことは興味深い。もし、こうしたことがパイワン族の食生 活の基層にあるものならば、その習慣は継続的である可能性もあるだろう。 そこで、現在行われているアワ食においてこうした植物が使われているかに ついても予備的に調査を行った。 4.アワと合わせて食用される植物 フィールド調査は台東県太麻里郷で行った。対象としたのは 70 代の女性が 所有している耕作地において栽培もしくは自生している植物で、現在も利用 しているものについて標本を採集するとともに、現地での名称、使用方法等 の聞取り調査を計画した。現在、2013 年 12 月に予備的な調査を行い、20 種 類ほどの利用植物の採集を行った。 これらの中に、先述した「サマク」(samak)、「カモト」(amoto)が含ま れており、さらに『高砂族調査書第六編』には記載の無かった「サムチ」 (samtji)とよばれる植物も栽培地に植えられていた。samtji はイヌホオズキ (Solanum nigrum)で、漢語では龍葵とよばれている。これは、植物体にア ルカロイドのソラニンとよばれる物質を含んでおり、一般には食用されな い。薬用には解熱や気管支炎等にも効果があるとされている(行政院衛生署 中医薬委員会 2000:342-343)。インフォーマントは samtji の解熱作用を知識

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としてもっていると同時に、大量に摂取すると下痢をするので注意が必要で あると認識していた。 インフォーマントは、samak、amoto、samtji のいずれもアワと一緒に調理 をすることもできるし、単独での料理も可能であるとしていた。ゆでてサラ ダにしたり、炒め物にしたり、スープの具材にすることも可能とされてい た。また、アワとこれらの植物とを一緒に調理する場合には、それらの複数 種をアワにいれて調理することもあるとしていた。 予備調査の時点でインフォーマントが実際にアワと一緒に調理を行ったの が、samak である。インフォーマントは、samak は耕作地の中に栽植しておら ず、自生していたものを採集、使用していた。このことについてインフォー マントは、samak はどこにでも容易に自生する植物なので、他所から移植し て栽培するほどのものではないと考えていた。samak は調理に必要な分量が 耕作地からその都度、採集されて料理に使われていて、一定の収穫時期は特 に存在しておらず、通年的に利用が可能な植物とされていた。 samak がアワとともに用いられた料 理は、アワもちの団子のはいった汁で ある。この料理は binaluv とよばれて おり、アワの団子のなかに豚肉をいれ て少し醗酵させたものが samak ととも に汁の中にいれて温められたものであ る(図2)。samak は、醗酵させたア ワの団子を binaluv にいれる際にはよ く一緒にするとされていた。それは samak が消化を促進するので、醗酵し た食品等を用いるうえでの組み合わせ としては非常に適していると考えてい たからである。 samak がアワ以外に他の食材との組 み合わせで用いられていたのは、 pinuljacengan とよばれる雑炊である (図3)。これは、鍋の中に水をいれ アワや米をいれて煮立てた中に野菜を いれてかきまぜながら水分をとばし て、粥状にしあげるパイワン族の伝統 的な料理である。大鍋で作られて鍋か ら直接さじを使って食べるものであ る。samak が相当量、加えられること 図 2 図 3

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により、アワや米だけで炊くのに比べ て料理全体の量が水増しされることに なる。 インフォーマントの説明で興味深かったことに、米を精米の程度でわけて いたこと、そして精米の程度によって samak 等の添加の有無が違っていたこ とである。パイワン語で一般に米(陸稲)は padai とされているが、インフ ォーマントは、padai は玄米のことをさしていて、padai を用いて雑炊を作る ときには samak をいれるが、vad とよぶ白米を炊くときには samak を添加す ることはないし、そもそも雑炊には用いないということであった(注3)。 samak のほかに pinuljacengan に用いることがあるとされていたのが、tjanak (刺葱、カラスザンショウ、Fagara ailanthoides)であった。tjanak はインフ ォーマントの耕作地に栽植されており必要に応じて採集され使われていた。 tjanak が samak と異なるのは、それが必要であるから他所の自生地から移植 したという点である。すなわち意識的に tjanak は栽培されていたことにな る。tjanak は、「チャナク」という名称で『高』にも記載されている。頭痛 や歯痛に効用があるとされている薬用植物として扱われていた。 5.考察 従前にあげた野生植物をアワにまぜて調理する理由には、いくつかの可能 性が考えられるだろう。一つにはアワやそれにともなって加えられることの ある獣肉等を栄養学的に補完させるような役割をこれらの植物が果たしてい るという可能性である。これについては、それぞれの植物の成分を化学的に 検証することがまずは必要となる。ただし、ウスベニニガナ(amoto)、イヌ ホオズキ(samtji)、カラスザンショウ(tjanak)は植物体や果実にアルカロ イドが含まれ、過剰摂取は中毒症状を引き起こす可能性もあるために、多量 の使用は見込まれない。インフォーマントが samtji の大量摂取には下痢が伴 うことを認知していたことは、植物の利用にある程度の制限が意識されてい たと言ってもよいであろう。 類似した可能性として考えられるのが、これらの植物のもつ薬効成分がア ワや加えられる獣肉等に対して薬理学的に効果があるということである。こ れも、栄養学的な補完作用の検証同様に、それぞれの植物の成分を化学的に 検証することが必要になる。仮説的な解釈を加えるならば、食肉は消化、吸 収の過程においてアンモニアを、それを食した生物体内で合成することにな る。アンモニアは毒性の強い物質であり、これを排出する必要がある。人間 の場合は尿にアンモニアを溶出して体外に排出する。この機序にはカリウム が関与するほか利尿作用が適応的となる。キク科でレタスの仲間であるアキ ノノゲシ(samak)はカリウム等のミネラルを相応に含み、ウスベニニガナ

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(amoto)は利尿作用もあることから、食肉との組み合わせについては適応的 な利用がなされてきた可能性がある。 こうした植物体の化学的性質と並んで重要なのが物理的な性質である。と りわけ、食行動における植物体の物理的な属性については十分に留意してお く必要がある。先述した雑炊に加えられたアキノノゲシの果たす大きな役割 の一つが全体の量を増加させることであった。アワはつねに大量に摂食でき るものではなく、パイワン族にとっては貴重な穀類である。より多くの成員 と貴重な穀物を共有するための方法の一つとして料理全体の量を、他の具材 を加えることによって増やすことが考えられる。 また、こうした他の具材をいれて穀類をとる方法は、日本では玄米や麦を 摂食するときにしばしば見られる。例えば、麦飯にヤマイモのすりおろした ものを加える「薯蕷飯」などがこれにあたる。これは穀物や玄米を食べやす くするための方法として慣習的におこなわれてきたことが知られている(注 4)インフォーマントが padai と vad に米を区別し、精米が進んでいないもの を食するときに植物を添加すると述べていたことは、のどの通りをよくする 添加材の機能がはたされている可能性を示している。現在は機械を用いた精 米が一般的であり、白米を食べる機会が圧倒的に増加している。しかしなが ら、機械精米が普及する以前には玄米が用いられることが多く、喉ごしをよ くするという点でも植物が添加されてきた可能性は低くない。この場合、あ る程度のまとまった量の植物体の添加が必要となる。そうした添加剤がなん らかの薬効や栄養学的な機能をもっていた場合、過剰摂取等による健康への 影響が生じることもある。 こうした点を考えた場合、アキノノゲシ(samak)はパイワン族の人々にと って使いやすい植物であった可能性はある。他のアルカロイドを含んだ植物 に対して、アキノノゲシ(samak)は人体に大きく影響を与える成分は少な い。また、繁殖力が強く、栽培しなくても自生しているものが周囲の環境か ら容易に入手できてきたと考えられる。 ところで、アキノノゲシ(samak)は、原住民族社会に広く用いられてきた ことも知られている。『高』には、「ヤホ」(タイヤル南勢蕃)、「ワツサ オ」(タイヤル族上坪前山蕃、上坪後山蕃)、サマ(ブヌン族巒蕃)の記載 が見られる(台湾総督府警務局理蕃課 1939:2)。これらがそれぞれの社会 の中でどのように使用されてきたかについては今後の課題としておきたい。 これらがアワや玄米といった穀物の調理に合わせて使用されているかどうか や、他の調理方法、薬効についての人々の意識等は、パイワン族の事例と比 較することによって、原住民族の植物利用の環境文化史の議論へ展開させて いくうえでも必要となるであろう。

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6.結語 限られた資料の中で、本稿ではパイワン族の食文化における植物利用の選 択性について、いくつかの観点から考察を行った。明らかになったことは以 下のようにまとめることができる。 1)パイワン族が慣習的に利用してきた植物とその調理形態について、そ れらがアワやその他の穀物とともに調理されるものについて過去から現在ま での継続性が見られる。 2)植物の利用はその薬効が期待されているというよりは、慣習的に用い られてきたという理由によることが強い。ただし、個々の植物を摂取したと きの身体変化については基本的に認識されている。 3)アワや米と植物とを合わせて調理する大きな理由は、全体量を増やす ことと喉ごしをよくするとともに消化を促進させることと推察できる。これ は、穀類が基本的には貴重な生態資源であり、それを効果的に活用するため の手段の一つと考えてよい。 4)利用される植物はなんらかの薬効をもつものが多い。一方で、食料資 源に用いるためにはある程度のまとまった量の摂取が期待される。そこで、 薬効が少なく入手が容易な植物種が食用に供されてきた。アキノノゲシ (samak)はパイワン族にとってそうした位置づけの利用植物となっている。 台湾の原住民族の生態学的知識についてはこの十数年間の間に、著しい進 展をとげてきた。伝統的知識が時代に関わらず、丹念に記録されてきた。一 方で、原住民族の人々の知識の量や質は確実に変化してきているのも事実で あろう。その中で、伝統的に継承されてきたものは、それが継承されること を保証するなんらかの機能的な背景が存在する可能性がある。本稿では、そ うした文化の継承の課題を食材の機能という観点で考える試みであった。具 体的には、アキノノゲシ(samak)のもつ植物としての性質が、彼らのアワや 玄米の摂食行動に有利であることから、人々が選択的にアキノノゲシ (samak)を利用している可能性が提示できたと言える。 もちろん、原住民族の人々が自然環境から有用な生態資源をとりだすうえ での背景は様々である。アキノノゲシ(samak)も含めて、本稿でとりあげた それぞれの植物の利用形態を民族間で比較しながら、台湾の自然環境と人々 をつなぐ行為としての料理を考えていくことは可能であろう。そこから、原 住民族の環境利用を論じることが、料理の環境文化史の狙いでもあるのだ。 1)筆者は現在、総合研究大学院大学の学融合推進センターによる学融合研究プロジェ クトとの課題として、「料理の環境文化史」という学際研究をすすめている。これ

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は、「料理」という行為を起因とする生態資源の選択、収奪、消費の過程とそれら が環境に与えてきたインパクトを生態学的、人類学的、考古学的アプローチによっ て検証することを目的としている。従来、環境改変はその現象面に関心が集中し、 農耕の開始、産業革命といった歴史的脈絡のなかに位置づけられてきた。これに対 して、この課題は環境改変の原因の一つとして生態資源の選択性に着目し、それを 生じさせたソフトとしての「料理」を作業概念とした調査、研究を行う試みであ る。本稿はその成果の一部である。本稿で示したデータを得る調査を行った際に は、台東県太麻里郷の陳利友妹氏、国立民族学博物館外来研究員林麗英氏に大変、 お世話になった。記して感謝の意を表したい。

2)「ゴア|サイ」は台湾語で、鵝仔菜に相当し、アキノノゲシ(Lactuca indica, Linn) であると考えられる。 3)筆者はパイワン族の稲の民俗分類についての調査はまだ十分には行っておらず、先 行研究で精米の程度による分類が行われているかどうかは未見であり、今後の課題 としておきたい。 4)大妻女子大学家政学部八倉巻和子名誉教授からの私信。 参考文献 クロード・レヴィ=ストロース 2006(1975)『食卓作法の起源』(渡辺公三他訳)東京:みすず書房 高信傑 2004「雅美族「魚的分類問題」的再思考」『民族學研究所資料彙編』第 18 期 pp.93-147、南港:中央研究院 徐韶韺 2003「漁撈と魚の民俗分類」『自然と文化』73 号、東京:日本ナショナルト ラスト (電子図書:https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00695/contents/0028.htm) 森口恒一 2003a「『真の魚』『悪い魚』考--「男」「女」に惑わされた魚分類」『台湾 原住民研究』第7号 pp.148-173、東京:風響社 2003b「真の魚・悪い魚・年寄りの魚」『自然と文化』73 号、東京:日本ナ ショナルトラスト (電子図書:https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00695/contents/0026.htm) 野林厚志 2000「「悪い魚」と「真の魚」─ 台湾ヤミの魚食における食物規制」竹井恵 美子編『食とジェンダー』pp.46-63、東京:ドメス出版 ポーラン・マイケル

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2014(2013)『人間は料理をする(上)』東京:NTT 出版 台東県薬用植物学会編 2010『台東地区薬用植物図鑑』台東:台東薬用植物学会 台湾総督府蕃族調査会編 1920『番族慣習調査報告書 五巻之三』 台湾総督府警務局理蕃課 1939『高砂族調査書第六編薬用草根木皮』台北:台湾総督府警務局理蕃課 呉雪月 2006『台湾新野菜主義』台北:天下遠見 行政院衛生署中医薬委員会編 2000『台湾原住民薬用植物彙編』台北:行政院衛生署中医薬委員会 財団法人台湾原住民文教基金会 1998『阿美族野菜食譜』台北:財団法人台湾原住民文教基金会

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