第二章 先行研究
2.1 はじめに
2.1.2 日本語研究論述における「わ」の機能と意味
この節では先行研究の論述から見る「わ」の機能と意味につ いて考察する。最初は日本語の文の構造を見ていきたい。玉村 (2012)によれば文は、大きく質的に異なった二つの層から成り 立っている。一つは「言表事態」であって、一つは「言表態度」
と仮称される。図に表示すると以下 2.1 のように示す。
図 2. 1、言表事態と言表態度
(出典:玉村(編)(2012))
言表事態とは、話し手が現実との関わりにおいて描きとった 一つの世界、文の意味内容のうち客体的な出来事や事柄を表し た部分である。それに対して、言表態度とは、話し手の、言表 事態をめぐっての把握の仕方や発話・伝達的態度のあり方を表 した部分である。最も純粋で典型的な言表態度の形式は、「発話 時」における「話し手の立場」からした心的態度を表したもの である。本稿で中心とされている「わ」は「言表態度」であり、
発話者による最も主観的な表現である。文法上の文末詞もこの 言表態度の領域に属している。半藤(2012)は「終助詞は、概し て言えば、発話者の主観を表すわけだが、この「主観」が表す ところのものは、言語研究における「意味」というものを考え
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る上で、避けては通れない研究領域である」と定義している。7 終助詞「~カ」、「~ワ」、「~トモ」、「~ゾ」、「~ゼ」の意味特 徴は(話者自分の)判定と相手に対する働きかけであると玉村 編(2012)は述べている。
「言表態度」と同じような働きをしているのは「モダリティ」
である。仁田(2009)は「モダリティ」とは、発話時の話し手 の立場からした、命題に対する把握のし方、および、それらに ついての話し手の発話・伝達的態度のあり方を表し分けたもの であると定義している。それを大きく分けると〈言表事態めあ てのモダリティ〉と〈発話・伝達のモダリティ〉になる。本稿 で中心としているのは〈発話・伝達のモダリティ〉に属して文 をめぐっての話し手の発話・伝達のあり方8を表したものの「わ」
である。以上述べたように「わ」は文末詞及び女性語だと一般 的に認識されるが、また伝達のモダリティという役割をしてい る。文法カテゴリの層状構造9は以下の 2-2 のように示す。
図 2. 2、文法カテゴリの層状構造
(出典:仁田(2009))
つまり「わ」は同時に文末詞、女性語及び発話・伝達のモダ リティという三つの側面を持っているが、その働いている機能
7玉村編(2012:49)表4を参照する。
8仁田(2009:26)
9仁田(2009:27)の図を参照する。
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はあまり変わりがないと見られる。野田(2002)は「わ」が女性 に使われる文末詞だと分析した。結論について「わ」は、基本 的に、その文の内容を、話し手自身が、強い感情や驚きを伴っ て認識したことを表わすが、聞き手に対して用いられる場合は、
文の内容を、話し手個人の認識や経験として提示すると述べて いる。その結果は日本語記述文法研究会(2003)、宮崎(2002)
とほぼ一致している。つまり「わ」は個人の感情を持っている 主張度があるものだとも言える。しかし、話し手が自分の認識 や経験を聞き手に提示することと自分の考えや判断を示すこと は主張度の強さが同じだとは考えられない。本稿では「GOLD」
をデータベースとして「わ」の意味・用法を主張度が強い用法 と主張度が弱い用法に分けて考察を行う。一方、深尾(2005)は、
「わ」の意味はまとまりがないと述べているが、本稿では考察 によって解決していきたい。
「わ」の接続は現代日本語記述文法研究会(2003)が述べたよ うに平述文に付加されるものである。丁寧形に接続することも できるが、現在ではあまり用いられない。「GOLD」のセリフで も一つも観察されなかった。認識のモダリティを表わす形式に も接続するが、「だろう」には付加されない。以上をまとめてみ ると、「わ」は平述文以外には接続しない。そして「だろう」と 命令文や意志文・疑問文には使われない。
井出(1997:36)は「わ」の使用が男性10と女性によって、機能 とイントーネーションが違うということを示している。女性の 場合は上昇のイントーネーションにより、聞き手に話し手の主 張の妥当性の判断を譲る。男性の場合は下降のイントーネーシ ョンである。それは自分自身の確認で、「ぞ」、「よ」などの相手 に行為を促すことができるという機能より、相手に働きかける 力が非常に弱いと述べられている。一方、話し手が男性でも女 性でも「わ」の上昇のイントーネーションは必ずしも相手に判
10現代日本語研究会(1990)では「わ」は動詞・形容詞に後接する場合で 下降のイントーネーションと実現されたのはむしろ使用者が男性であろう と述べている。
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断を譲るわけではない。相手の会話を持続させたいという用法 があり、または聞き手との会話に対する話しての積極的な態度 を示していることがある。逆に下降のイントーネーションは話 し手が会話を持続させたくない、つまり会話を終わらせる時に 用いられると見られる。それで「わ」のイントネーションによ り発話者の性別が判断できると思われる。