第三章 巻二十八の表現法
第三節 話末評語の位相
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う。
(2)『今昔』にはそれが「欲望と失態の行動を取り、秩序に否定的なこと をした人」に対する批判の時に用いられ、或は「機知や弁才で問題を 解決する人」を賞賛する時に使用されている。
以上に見てきた巻二十八の「嗚呼」「物云ヒ」「咲」、この三つの類聚語の用 法及び意味をまとめてみれば、次のようになろう。
(1)『今昔』巻二十八の類聚語「嗚呼」は同時代の作品『日本霊異記』と
比 べ て み れ ば 、 全 く 違 う 意 味 で 用 い ら れ て い る 。『 日 本 霊 異記』では「物云」という言葉が用いられていない。「咲」という類
聚語は同時代の作品の中では同じ漢字を使用し、「ワラヒ・ワラフ」
と訓む作品がない。
(2)『今昔』巻二十八以外の各巻においては、「嗚呼」と「物云」がほぼ巻 二十八の「ばかげたこと」や「口達者」という意味で用いられていな い。「嗚呼」が用いられている場面は、第二章で論じた社会秩序化に 反する欲望や失態の行いをした時であり、「物云ヒ」が用いられた場 面は機知や弁才で問題を解決するか、危機を回避する場面が多いので ある。「咲」は「欲望や失態の行動を取り、秩序に否定的な影響があ る人」を批判する時に用いられ、その逆に、機知と弁才で問題を解決 する時や、危機を回避する人を褒め称える時にも使用されている。
以上の二点からも、巻二十八に用いられている「嗚呼」「物云」「咲」といっ た類聚語は重要な意味を持っていることが分かる。『今昔』の編者が揺れてい る時代の下で、社会秩序化の重要性を強調するために用いられている特化され た用語として見ることができる。
第三節 話末評語の位相
次に、巻二十八の話末評語を見てみたい。巻二十八の話末評語を考察するた
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めに、まずその話末評語を表のようにまとめてみた。
【表六】
話
数 話末評語
1 其妻、重方失ケル後ニハ、年モ長ニ成テ、人ノ妻ニ成テゾ有ケル、ト ナンマ マ語リ伝ヘタルトヤ。
2 然レバ、心猛ク思量賢コキ者共ナレドモ、未ダ車ニ一度モ不乗ザリケ ル者共ニテ、此ク悲シテ酔死タリケル、嗚呼ノ事也、トナム語リ伝ヘ タルトヤ。
3 然レバ可姓ノ者ハ尚ヲ弊キ也。好忠和歌ハ読ケレドモ、心ノ不覚ニテ、
歌読共召ト聞テ、召モ無キニ参テ、此ル恥ヲ見シ、万ノ人ニ被咲レテ、
末ノ代マデ物語ニ成ル也ナム語リ伝ヘタルトヤ。
4 隣ナル五節所ノ人共ノ臨テ、「可咲」ト思ケルマヽニ、後ニ関白殿ノ蔵 人所ニ参テ語ケルヲ聞継テ、殿原宮原ニ聞ヱ畢テ、被咲ケル事無限シ。
其ノ比ハ人二三人モ居タル所ニハ、此ノ事ヲナム語テ咲ヒケル、トナ ム語リ伝タルトヤ。
5 其ヨリ後、コリニケルニヤ有ラム、物不成サヌ国ノ司ノ許ニ、六衛府 ノ人発テ行ク事ヲバ、不為ヌ事ニナム有ケル。極タル風流ノ物ノ上手 ニテ、追返サムニモ不返マジケレバ、此ル可咲キ事ヲ構タリケル也、
トナム語リ伝ヘタルトヤ。
6 此ノ元輔ハ、馴者ノ、物可咲ク云テ人咲ハスルヲ役ト為ル翁ニテナム 有ケレバ、此モ面無ク云也ケリ、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
7 「賤ノ田舎人ナレドモ、皆然様ノ事ハ知タル者ヲ。彼ノ郡司ハ無下也 ケル奴カナ」ト此レヲ聞ク人皆謗リ咲ケル、トナム語リ伝ヘタルト也。
8 中算ハ止事無キ学生也ケルニ、亦此ノ物云ヒナム可咲カリケル、トナ ム語リ伝ヘタルトヤ。
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9 此助泥ハ物可咲シフ云フ者ニテナム有ケル。
此ニ依テ「助泥ガ破子」ト云フ事ハ云フ也ケリ。此レ嗚呼ノ事也、ト ナム語リ伝ヘタルトヤ。
10 然カ有ラム事共、尚聞カムマヽニ可咲キ也。程ド経ヌレバ、中々、 キ 事ニテ有ル也。武員ナレバコソ、物可咲ク云フ近衛舎人ニテ然モ、「死 ナバヤ」トモ云ヘ、不然ザラム人ハ、極テ苦リテ此モ彼モ否不云デ居 タラムハ、極ク糸惜ナムカシ、トナム人云ケル、トナム伝ヘ語ケルト ヤ。
11 此レヲ思フニ、守、「感秀ヲ引出シテ、踏蹴モ聞耳見苦カリナム。只恥 ヲ見セム」ト思ヒケル、糸賢キ事也カシ。感秀本ヨリ極タル物云ニテ 有ケレバ、唐櫃ノ内ニテ此モ云フ也ケリ。
世ニ此ノ事聞ヱテ、可咲シクシタリ、トゾ讃ケル、トナム語リ伝ヘタ ルトヤ。
12 隠ストスレドモ此ノ事世ニ聞ヱテ男ヲゾ、「心バセ有リ、極カリケル人 カナ」ト讃ケル、トナム語リ伝ヘタルト也。
13 然レバ、「延正、本ヨリ物云ヒ也ケレバ、物云ヒノ徳見タル者カナ」ト ゾ人云ケル。「鍛治ノ徳ニ 目ヲ見テ、物云ヒノ徳ニテ被免ル奴カナ」
トゾ、上下ノ人云ケル、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
14 昔ハ、女ナレドモ此ク物云ヒ可咲キ者共ナム有ケレバ、世ノ人モ興有 テゾ思ケル、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
15 此ノ講師ハ物云ヒ可咲キ奴ニテゾ有ケレバ、然モ云ケル也、トナム語 リ伝ヘタルトヤ。
16 此ノ史ハ極タル物云ニテナム有ケレバ、此モ云フ也ケリ、トナム語リ 伝ヘタルト也。
17 然レバ、早ヲ、極キ毒茸ヲ食ヘドモ、不酔ヌ事ニテ有ケルヲバ、人ヲ 愕カサムトテ、此ク云居ル也ケリ。其ノ比ハ此ノ事ヲナム世ニ語テ咲
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ヒケル。
然レバ茸ヲ食テ酔テ忽ニ死スル人モ有リ、亦此ク不死ヌ人モ有レバ、
定メテ食フ様ノ有ニコソハ有ラメ、トナム語リ伝ヘタルト也。
18 然レバ毒茸ヲ食ヘドモ、露不酔ヌ人ノ有ケル也ケリ。
此ノ事ハ、其ノ山ニ有ケル僧ノ語ケルヲ聞伝ヘテ此ク語リ伝ヘタルト ヤ。
19 僧ハ死許迷テ落居ニケリ、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
20 此レヲ思フニ、実ニ何カナリケル鼻ニカ有ケム、糸奇異カリケル鼻也。
童ノ糸可咲ク云タル事ヲゾ、聞ク人讃ケル、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
21 然レバ青経ノ君ニ異名付テ止ニケリ、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
22 人ノ命ヲ失フ事ハ、皆前世ノ報トハ云乍ラ、由無カラム戯言不可云ズ。
此ク思ヒ合スル事モ有レバ也。
右中弁ハ、其ノ後久ク有テ中納言マデ成テ有ケレドモ、尚其ノ異名不 失ズシテ、世ノ人、仰中納言トゾ付テ咲ケル、トナム語リ伝ヘタルト ヤ。
23 然レバ此ノ中納言弥ヨ太リテ、相撲人ノ様ニテゾ有ケル、トナム語リ 伝ヘタルトヤ。
24 早ウ、人ノ謀テ被貴ムトテ思テ密ニ米ヲ隠シテ持リケルヲ不知シテ、
穀断ト知テ、天皇モ帰依セサセ給ヒ人モ貴ビケル也ケリ、トナム語リ 伝ヘタルトヤ。
25 然レバ人、折節不知ヌ由無キ戯レバ、不為マジキ事也、トナム語リ伝 ヘタルトヤ。
26 其ノ比ノ世ノ咲ヒ物ニハ此ノ事ヲナムシケル。思フニ、実何カニ奇異 カリケム。清忠モ時棟モ遥ニ年老ルマデナム有シカバ、此ナム語リ伝 ヘタルト也。
27 其レハ傀儡神ト云フ物ノ狂カシケルナメリ、トゾ人云ケル、トナム語
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リ伝ヘタルトヤ。
28 此レヲ思フニ、極テ怪キ事也。近来モ其ノ舞茸有レドモ、此レヲ食フ 人必ズ不舞ズ。此レ極テ不審キ事也、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
29 其ノ比ハ此ノ事ヲナム世ニ云ヒ繚ヒ咲ケル、トナム語リ伝ヘタルト也。
30 現ニ不向ジカシ、トナム語リ伝タルトヤ。
31 然レバ清廉ガ猫ニ恐ルヲ、嗚呼ノ事ト見ツレドモ、大和ノ守輔公ノ朝 臣ノ為ニハ、極メタル要事ニテナム有ケルトゾ、其ノ時ノ人云繚テ、
世挙テ咲合ヘリ、トナム語リ伝ヘタルト也。
32 然レバ、春家ガ蛇ニ恐ル事、世ノ人ノ蛇ニ恐ル様ニハ違タリカシ。蛇 ハ忽ニ人ヲ不害ネドモ、急ト見付ツレバ気六惜ク踈マシキ事ハ、彼レ ガ ナレバ、誰モ然ハ思ユルゾカシ。然レドモ春家ハ糸物狂ハシクゾ 有ケル、トナム語リ伝ヘタルト也。
33 此レヲ思フニ、亀ノ頸ハ四五寸ト指出ヅル物ヲ、口ヲ指ヨセテ吸ハム トセムニハ、当ニ不被咋ヌ様ハ有ナムヤ。此レハ、世ノ人、上モ下モ 由無カラム虚 シテ、猿楽然様ナラム危キ戯レ事ハ、可止シ。
此ル白事シテ、被 ミ咲ル男ナム有ケル、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
34 此レヲ思フニ、兵ニテハ有ケレドモ、心ノ送クレテ、愚也ケルニコソ ハ有ラメ。
然レバ、人何事也トモ、急ト思ヒ廻シテ可為キ也、トナム語リ伝ヘタ ルト也。
35 然レバ此ル挑事ハ昔ヨリ必ズ事出来ル事ニテゾ有ケル、トナム語リ伝 ヘタルト也。
36 (未完)
37 院ハ、「此奴ハ極カリケル盗人カナ」ト被仰テ、強ニモ腹立セ不給ズ成 ニケレバ、彼尋ル事モ無テ止ニケリ。男ノ、「馳散シテ逃ナム」ト思ヒ 寄ケム心コソ、極テ太ケレドモ、逃ニケレバ、云フ甲斐無キ嗚呼ノ事
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ニテ止ニケリ、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
38 此レヲ思フニ、然許ノ事ニ値テ、肝心ヲ不迷ハサズシテ先ヅ平茸ヲ取 テ上ケム心コソ、糸ムク付ケレ。増シテ便宜有ラム物ナド取ケム事コ ソ、思ヒ被遣ルレ。
此レヲ聞ケム人争ニ ミ咲ケム、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
39 此レヲ思フニ、寸白モ然ハ人ニ成テ生ル也ケリ。聞ク人ハ此レヲ聞テ 咲ケリ。希有ノ事ナレバ此ク語リ伝ヘタルトヤ。
40 下衆共瓜ヲ不惜ズシテ、ニツ三ツニテモ翁ニ食セタラマシカバ、皆ハ 不被取ザラマシ。惜ミケルヲ翁モ テ、此モシタルナメリ。亦変化ノ
40 下衆共瓜ヲ不惜ズシテ、ニツ三ツニテモ翁ニ食セタラマシカバ、皆ハ 不被取ザラマシ。惜ミケルヲ翁モ テ、此モシタルナメリ。亦変化ノ