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第 2 章 先行研究と理論的な枠組み
2.1 はじめに
本論文は認知言語学の立場から考察を進める。2.2 節では先行研究を概観す る。2.3 節では先行研究のまとめ及び問題点を提示する。2.4 節では、本論文 で取り扱う理論的な枠組みを述べる。
2.2 先行研究
まず、反復形容詞の先行研究を見ていく。日本語の形容詞は語構成により大 きく二分されている。1 つは「~い」形式のいわゆるク活用形容詞であり、も う1つは「~しい」形式のいわゆるシク活用形容詞である。そして、第1章で も述べたように、反復形容詞は語尾に「-しい」が付くことにより、情意的意 味がもっと内面化して情意を表すことができると頼(2001)が指摘している。
また、先行研究で議論の中心となっているのは「ク活用形容詞」と「シク活用 形容詞」や「-しい」と「-らしい」と「-くさい」などの意味との違いである。
以下では山本(1955)、蜂矢(1998)、賴(2001)、荒川(2006)、湯(2008)、 田(2014)を年代順で見ていく。
2.2.1 山本(1955)
反復形容詞への言及がないが、山本(1955)は日本語の形容詞がク活用とシ ク活用に分類することができるとしている。
山本(1955:71)によれば、ク活用に属する語とシク活用に属する語が表す 概念は大きな相違がある。ク活用は大部分「重し」、「白し」、「高し」、「長し」、
「深し」等の状態的な属性概念を表す語であるが、シク活用は大部分「うれし」、
「恨めし」、「悲し」、「楽し」、「恋ほし」等の心的な、情意的な面を表す語であ る。
2.2.2 蜂矢(1998)
蜂矢(1998)は山本(1955)の考えに従い、形容詞はその語構成の違いによ って、意味が変わると述べている。ク活用のものは情態的意味を表し、シク活 用のものは情意的意味を表す。そして、反復形容詞が「情意」を表せるのは、
形容詞語幹の重複によるのではなく、語尾「しい」を伴っているからであると
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主張している。
2.2.3 賴(2001)
賴(2001)によれば、ク活形容詞は「寒い」等の感覚形容詞、「怖い」などの 感情形容詞を除き、「荒い」9に見るように、ほとんど状態を表すものである。
それに対し、シク活形容詞は「寂しい田舎」のように物事の性質を表すのに使 われることもあるが、ほとんど情意を表す時に用いられる。
(1)今にして思うのだが、私の旅の衝動には海の暗示があり、その海におそ らくこんな人工的な港の海ではなくて、幼時、成生岬の故郷で接してい たような、生れたままの姿の荒々しい10海であった。 (頼 2001:99)
第1章でも見たように、賴(2001)は(1)における「荒々しい」は海の状 態だけでなく、見ている主体の不安の気持ちも表しているとしている。頼
(2001)によれば、「荒々しい」が情意を表せるのは「しい」という語尾が付 いていることに由来する。
反復形容詞「XXしい」の語構成と意味は次のように図示される。
図2-1 「XXしい」の語構成と意味(頼 2001:105 を引用)
Mは反復形容詞「XXしい」が表す状態で、ɑ は表現主体の情意を表すので ある。つまり、反復形容詞「XXしい」の意味はただその構成要素の状態の強 調だけではなく、語尾「しい」をつけて重複語化することによって、主観的意 味が生じる。
2.2.4 湯(2008)
湯(2008)は、「~しい」で終わる形容詞は反復形容詞以外にも数多くあり、
その絶対多数が客観的属性を表す知覚形容詞や関係形容詞には属さないと指
9 賴(2001:99)は「荒い波」は「波」が激しく動いている状態を描写するとしている。
10 下線は筆者である。以下同様。
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摘している。そして、「~しい」形容詞は直観的判断を表す評価形容詞や主観 的な感覚・情意を表す感情形容詞に属することになるが、反復形容詞はすべて が評価形容詞に属すると主張している。これは「シク活用」の形容詞に共通す る意味特徴であり、統計によると、「-しい」(「-じい」を含むを語尾に取る基 礎形容詞の総数 233 語のうち、評価形容詞 128 語(55%)、感情形容詞は 37 語(16%)になる)。そして、反復形容詞の語幹反復は一般に反復による強調 の意を表す。例えば、
(2)「荒々しい」:「いかにも荒っぽい様子」
「忌々しい」:「いかにも腹立たしい様子」 (湯 2008:64)
反復形容詞の総語数49例のすべてに、強調の意味が見受けられ、この結果、
反復形容詞は一般的に程度副詞の修飾を受けることが少ない。
2.2.4 田(2014)
上記の蜂谷(1998)と頼(2001)の先行研究は反復形容詞の情意的意味は語 尾「しい」という語尾の付加によるものだと主張している。それに対し、田
(2014)は「寒い」と「寒々しい」、「苦い」と「苦々しい」との比較を通して、
反復形容詞の情意的意味は形容詞を畳語化することによって付いたものだと している。
(3)a.寒い→温度の低さを不快に感じる。また、そう感じるほど温度が低い。
b.寒々(さむざむ)しい→①いかにも寒そうである。
②何もなくて殺風景である。
(4)a.苦い→①舌を刺激し、口がゆがむような嫌な味である。
②不快である。おもしろくない
③つらくて苦しい。
b.苦々しい→甚だいとわしい。非常に不愉快である。
(田 2014:78-79)
田(2014:79)によれば、元の形容詞がどのような形容詞であろうと、反復
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形容詞になると、感情形容詞になる。元の形容詞が性質を表すものであるのに 対し、反復形容詞は話者の情意を強く表す。