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中国文学に見られる地獄の思想

第四章 中国における地獄の思想

第三節 中国文学に見られる地獄の思想

立 政 治 大 學

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以上述べてきたように、中国では死後の世界は前三世紀前に天、帝廷、黄泉 や幽都などがある。そして、前二世紀に入ってから泰山、梁父、蒿里などがあ る。このことから考えてみれば、中国では仏教が伝来する前に天上と地下とい う死後世界の概念がすでに存在している。そして、仏教の伝来によって、地獄 思想も中国に伝わった。仏教の普及によって中国の文学作品には地獄の思想も 現われるようになった。では、仏教は中国の他界観にどのような影響を与えた のか、また中国の文学作品にどのような地獄思想があるのであろうか。以下、

それについて論説したい。

第三節 中国文学に見られる地獄の思想

仏教では、天国や地獄のことが説かれているが、仏教の伝来によって、仏教 の地獄思想も中国に伝わってきた。中国では、仏教が伝来した時地獄の思想が 強調された。陳登武によれば、これは当時の時代背景にも関連があるという。

仏教は当時宣伝するために、仏教倫理を強調し、国の統治に役に立つようにし た。そのために、地獄のことが説かれて、地獄審判のことが強調されていた。

そして、中国の仏教文学には、地獄の苦しみや地獄で受ける刑罰などが書かれ ている。これによって、仏教思想を宣伝しようとしたという236

実は「地獄」という言葉に、地獄審判の思想が窺える。澤田瑞穂によれば、

原始仏教では地獄の梵語はもとより「奈落迦」であるが、「奈落」と略称して、

「泥羅耶」や「泥梨耶」という別称があって、通常は「泥梨」と呼ばれている という。そして、「泥梨」という言葉は地獄に訳されて、地獄は「地下の牢獄」

235 陳登武の解釈によれば、丞負とは自分の行為によって、報いを受けることである。奪算と は現世の行為によって、寿命を増減することである。陳登武(2009)『地獄・法律・人間秩 序-中古中国宗教・社会と國家』台北:五南図書p.59 を参照。

236 陳登武(2009)『地獄・法律・人間秩序-中古中国宗教・社会と国家』台北:五南図書p.117 を参照。

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をという意味をするようになった237。つまり、地獄という用語には地下の刑罰 を受ける場所という意味があるという。

以上述べたような背景もあり、中国仏教の地獄思想には、原始仏教の地獄思 想もあれば、中国本来の地獄思想もある。五世紀頃の仏教文学に、このような 特徴が明らかに見られる。その中で、五世紀に成立した王琰の『冥祥記』はそ の代表的な文学作品とも言えよう。陳登武によれば、王琰の『冥祥記』はその 以後の仏教文学に大きな影響を与えたという238。以下、『冥祥記』を取り上げ て、その中に見られる地獄の思想について論じたい。

『冥祥記』では、趙泰という人のことが次のように書かれている。趙泰は晩 年に官途に就いていたが、しかし三十五歳の時に突然心臓病で死んで、「二人 が黄色の馬に乗っていた。その従者二人が泰の脇を左右から抱きかかえ、その まま引っ立てて東へ進んだ」(「趙泰」)239と地獄に赴いて、十日後また甦って、

地獄で見たことを述べた。趙泰が地獄に着いた時、地獄の府君は「どんな罪を おかし、どんな功徳をなしたか。ありていに申し立てるよう、しかとお前らに 申しつける。こちらはいつも六部の使者をつかわして人間に常駐させ、善悪を くわしく記録しており、十分にネタはあがっているのだ。いつわりがあっては ならぬぞ」(「同上」)240と趙泰に聞いた。そして、彼はただ家で学問の研究に 励んで、悪いことを一つもしないと言ったので、府君に地獄の役人に任命され た。

趙泰は役所に勤める時に、地獄の諸所に行って、様々な地獄の様子を見た。

「或る獄では針でその舌を突き通されて、全身血まみれとなっていた。(中略)

鉄の寝床や銅の柱がまっ赤に焼けており、これらの人を追いつめて、柱を抱か せたり寝床に臥せさせたりすると、たちまちに焦げ爛れ、やがてまた生きかえ

237 澤田瑞穂(1991)『修訂地獄変-中国の冥界説』平河出版社 p.216-217 を参照。

238 陳登武(2009)『地獄・法律・人間秩序-中古中国宗教・社会と國家』台北:五南図書p.120 を参照。

239 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.300

240 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.300

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るのであった」(「趙泰」)241というように、地獄では罪人にいろいろな刑罰を した。

その後、趙泰は役所に帰って、地獄の長官に会った。長官にどのような人が 死後に良い報いを得られるのかと聞いたら、長官は「仏教の帰依者となって精 進持戒すれば、楽報が得られて、なんの処罰もないのだ」(「趙泰」)242と言っ た。また、もし仏教に帰依したら、帰依しない時に犯した罪に対して、みんな 帳消しになると述べた。そして、趙泰の年齢を調べたところ、まだ余命は三十 年もあった。そこで趙泰を生き返らせることとなり、趙泰はこの世に帰った。

趙泰が地獄の長官と別れた時に、長官は「すでに地獄での罪の報いをありのま まに見たのだから、世の人びとに、みんな善をなすように申し聞かせるのだ。

善悪は人についてまわるもの、ちょうど影や響きのようなものゆえ、気をつけ なくてはいかんとな」(「同上」)243と話した。趙泰はこの世に帰ってから、地 獄で見たことを記録し、世の人に読ませたという。

以上は『冥祥記』に見られる地獄についての記述である。『冥祥記』には、

地獄の様子だけでなく、地獄の審判も見られる。この本の中で、地獄には「受 変形城」という場所がある。受変形城は「地獄で審決と処罰を終えた者が、こ の城で更に変報の処置を受ける」(「冥祥記・趙泰」)244ところである。ここに いた罪人はその後、「殺生を犯した者は蜉蝣となり、(中略)強・窃盗を犯した 者は豚や羊となり、(中略)債務を逃げた者はロバやラバや牛馬となる」(「同 上」)245という。ここから仏教の輪廻思想が見られる。つまり、罪人は地獄の 審判によって、地獄の刑罰を受けてから、再び裁判されて、輪廻に入るという。

『冥祥記』では、以上述べた趙泰のことのみならず、程道恵のことも書かれ ている。程道恵は病気にかかって、亡くなって、数日を経て生き返り、地獄に

241 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.301

242 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.302

243 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.302

244 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.301

245 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.302

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行ったことについて話した。彼は死後、地獄からの使者に連れられて、地獄に 赴いた。地獄の役人は帳簿を持って、程道恵が生前にほこらをこわし、人を殺 したので、地獄に来たべきであると言った。しかし、隣の比丘は「ほこらをこ わしたのは罪ではない。この人は前世で積んだ善根が極めて多いので、殺人は 重大ではあるけれども、報いを受けるまでには至っていない」(「程道恵」)246と 言った。その後、地獄の審判者は程道恵を連れた使者を罰して、彼を人間に帰 還させた。

程道恵が帰る前、地獄の長官は彼を連れて、地獄のあたりを見回した。「狂 犬が人の節々を噛み、(中略)流血が地を蔽っていた。また群鳥は刃のような くちばしをもち、(中略)さっとやって来ると人の口の中に突入して、表から 裏へ突きぬける。その人は転げ廻って泣き叫び、筋骨は破け落ちた」(「程道恵」)

247というように、彼は地獄における怖い場面を見て、この世に戻った。

以上は地獄に落ちて、審判を受け、無罪であると判明されて放免した話であ る。しかし、審判を受けて、有罪であると判決してから、刑罰を受けて、また この世に帰還した話もある。『冥祥記』にも書いてあるが、沙門の智達は行い が俗っぽくて、誦経の時に常にごまかした。彼は二十三歳の時病死して、二日 を経てまた生き返って、地獄に堕ちたことを話した。

沙門智達は死後に軍服をつけた二人の使者に連れられて、地獄に赴いた。そ こにはある貴人がいて、彼に罪を問いただした。智達が最初に罪を認めないの で、貴人は「沙門たる者が、戒を唱えぬとあれば、これが罪でなくてなんであ ろう。ひとつ経を誦してみよ」(「沙門智達」)248と彼を責めた。彼が誦経を終 わると、地獄の使者は彼を連れて、地獄の罪人を見に行った。「鉄の釜が十余 りあるのが見え、どれもこれも罪人を煮ており、(中略)それを釜のそばにい

246 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.329

247 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.329

248 入矢義高(1975)中国古典文学大系『仏教文学集』平凡社 p.374

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るやつが叉で突き刺していた」(「同上」)249という地獄にいる罪人の様子を見

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