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2.5 本章のまとめ

3.3.2 野田(2000)の調査について

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い、若年層における「ぜんぜんおいしい」・「ぜんぜんまずい」・「ぜんぜんきれ い(だ)」・「ぜんぜんきたない」という表現がそれぞれ「予想なし」「相手の意 見と異なる」「自分の予想と異なる」という文脈を伴うときの許容度について、

差異を比較した。「相手の意見」と「自分の予想」などのような否定する前提 がある場合と、「予想なし」のような否定する前提がない場合と、「ぜんぜん(全 然)+肯定表現」は許容度に差異が見られる。

野田は、以下のような文をアンケート調査の対象者に提示する例として取り 上げている。

(8)(味を予想せずに食べて)「これ、ぜんぜん{おいしい/まずい}」

(9)(「おいしいよね」と言われて)「いや、ぜんぜんまずいよ」

(10)(「まずいよね」と言われて)「いや、ぜんぜんおいしいよ」

(11)「まずそうに見えたけど、ぜんぜんおいしい」

(12)「おいしそうに見えたけど、ぜんぜんまずい」

例(8)は「予想なし」の文脈で「ぜんぜん(全然)+肯定表現」を用いる文で ある。例(9)と例(10)は「相手の意見と異なる」の文脈で「ぜんぜん(全然)

+肯定表現」を用いる文である。例(11)と例(12)は「自分の予想と異なる」

の文脈で「ぜんぜん(全然)+肯定表現」を用いる文である。

文の自然さの判断については、「○:まったく自然」「△:多少不自然」「×:

不自然」という三段階で若年層対象者に判断してもらうとされている。野田に よると、若年層というのは、18 才から 25 才までの対象者のことである。また、

実施時期は 1999 年 6 月であり、総計 50 名の若年層の対象者が参加した。

野田は若年層アンケートの結果を四つの図に示した。なお、「まずい」「きた ない」は本研究では「語彙的な否定表現」と扱うものであるため、ここでは取 り上げないことにする。前述したように、ここでは「平気」「大丈夫」「OK」「良 い」などのような「肯定表現」に焦点を絞り、「ぜんぜん(全然)」とそのよう な「肯定表現」と共起する場合の意味用法について考察する。したがって、以 下では「まずい」「きたない」の図を除き、若年層における「ぜんぜんおいし

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つまり、「相手の意見と異なる」の場合は、(10)のように、話し手は聞き手 の話から「まずい」という情報を読み取り、それに対して異なる意見を持って いる。相手の意見に反論するために、「まずい」ことを前提として想定し、そ れを否定するのに「ぜんぜんおいしい」という表現を使うと考えられる。また、

「自分の予想と異なる」の場合は、(11)のように、「まずそうだ」という話者 が自ら想定した前提がある。しかし、実際そのものを食べたら、話者は上記の 自ら想定した前提に対して否定的な意見を持ち、「ぜんぜんおいしい」という 表現で「まずそうだ」という予想を否定すると考えられる。したがって、「相 手の意見と異なる」の場合と「自分の予想と異なる」の場合は、本稿が主張し た「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の使用に必要とされる「前提を否定する」と いう条件を満たすと考えられる。

それに対して、「予想なし」の場合は、(8)のように、何らかの前提が想定 しにくいため、「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の使用に必要とされる「前提を 否定する」という条件を満たしていない。したがって、「予想なし」の場合に

「ぜんぜんおいしい」を用いると、不自然になると考える人が多いと思われる。

このように、「ぜんぜん(全然)+肯定表現」は想定された前提がない場合は用 いられにくく、想定された前提がある場合は用いられやすいのである。

以上の説明から、図 1 のアンケート調査の結果が見られる理由について、「ぜ んぜん(全然)+肯定表現」は、話者が自ら想定した前提があって、それを否定 する場合に用いられるという意味用法を持つことと関連していることが分か った。続いて、図 2 の「若年層における「ぜんぜんきれい(だ)」の許容度と文 脈」を見る。

図 2:若年層における「ぜんぜんきれい(だ)」の許容度と文脈

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という必要な使用条件を満たすと考えられ、その二つ場合に「ぜんぜんきれい (だ)」を用いると、比較的に許容度が高いのである。

それに対して、「予想なし」の場合は、何らかの前提が想定しにくいので、

「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の「前提を否定する」という必要な使用条件を 満たしていない。したがって、「予想なし」の場合に「ぜんぜんきれい(だ)」

を用いると、不自然になってしまう。

このように、図 2 のアンケート調査の結果が見られる理由について、「ぜん ぜん(全然)+肯定表現」は、話者が自らから想定した前提があって、それを否 定するという意味用法を持つことと関連していることが分かった。

野田(2000)の調査から、若年層における肯定形式と共起する「ぜんぜん(全 然)」は、「相手の意見と異なる」の場合と「自分の予想と異なる」の場合に用 いられるとき、許容度が比較的高いということがわかった。その結果が見られ る理由について野田は述べていないが、本稿が主張した「話者が自ら想定した 前提を否定する」という「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の意味用法と関連して いることが判明した。次の節では、「ぜんぜん(全然)+肯定表現」はこのよう な意味用法を持つ理由について述べる。

3.3.3 「ぜんぜん(全然)+否定表現」との関連

「ぜんぜん(全然)+肯定表現」はなぜ前節で述べた意味用法を持つのかにつ いて、「ぜんぜん(全然)」の「否定形式を呼応する」という典型的用法と関連 していると思われる。以下は「ぜんぜん(全然)+肯定表現」と「ぜんぜん(全 然)+否定表現」の関係から見ていきたいと思う。

まず、佐野(2010)は通時的な考察から「ぜんぜん(全然)+肯定表現」と「ぜ んぜん(全然)+否定表現」の関係を以下のように述べている。

「「全然」は江戸後期に中国語からの借用語として日本語に入ってきた。これが日本 語として定着・確立するのは明治40 年代以降で、この時代の「全然」は否定的にも、

否定辞を伴わずに肯定的にも使うことができた。つまり、現在誤った用法と見なされ ている肯定的用法がかつては正しい用法だったということである。(中略)しかしな

佐野(2010:34)

佐野の指摘によると、「ぜんぜん(全然)+肯定表現」と「ぜんぜん(全然)+

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図3 「全然」の呼応表現による分類

佐野(2010:35)

また、佐野は以下のように指摘している。

「近年多く見られるようになった革新形が確かに徐々に増加してきている。(中略)

単純に肯定的用法が増加してきたということではなく、従来使用されてきた否定辞と 伝統形に替わって革新形が使用されるようになるという呼応表現間の役割交替が起 こっていると言えるのである。また、伝統形は打消し表現(明示的な否定辞)を伴わ ないが否定的な意味合いを持つということを考えると、否定的な呼応表現全体が減少 傾向にあり、それに代わって肯定的な呼応表現が増加していると考えることができ る。」

佐野(2010:37)

佐野の指摘から、「ぜんぜん(全然)」は「~ない」「~ず」のような否定形 式や「違う」のような「異なる類」、「だめ」のような「語彙的な否定表現」

などと共起するほかに、「大丈夫」「いい」のような肯定表現と共起すること が多く見られるようになったということが裏付けられる。また、佐野の指摘か ら見ると、「ぜんぜん(全然)」は「~ない」「~ず」などの否定辞や「違う」

「だめ」のような「伝統形」と共起することが全体的に減少する傾向があり、

それに代わって「大丈夫」「いい」のような革新形が増加しているということ がわかる。「ぜんぜん(全然)」の呼応表現は、従来使用されてきた否定辞と伝 統形に替わって革新形が使用されるようになるという呼応表現間の役割交替 が起こっているということがわかる。

このように、佐野(2010)は「ぜんぜん(全然)+肯定表現」を「ぜんぜん(全 然)」の「肯定的用法の復活」と捉えた。また、「ぜんぜん(全然)」の呼応表現 を図3のように分類し、「否定的な呼応表現全体が減少傾向にあり、それに代わ って肯定的な呼応表現が増加している」と指摘した。

本稿は、さらに「ぜんぜん(全然)+肯定表現」と「ぜんぜん(全然)+否定表

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ら想定した前提を否定する」という意味用法を持つことが明らかとなった。

また、野田(2000)におけるアンケート調査結果(図 1・図 2)を概観した。

若年層における肯定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」は、「相手の意見と異 なる」の場合と「自分の予想と異なる」の場合に用いられるとき、許容度が「予 想なし」の場合に用いられるときより比較的高いという結果が見られた。その 結果が見られる理由について、野田は述べていないが、本稿が主張した「話者 が自ら想定した前提を否定する」という「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の意味 用法と関連していることが判明した。つまり、「相手の意見と異なる」の場合 と「自分の予想と異なる」の場合は、「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の使用に 必要とされる「前提を否定する」という条件を満たすため、比較的に許容度が 高いのである。それに対して、「予想なし」の場合は、何らかの前提が想定し

若年層における肯定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」は、「相手の意見と異 なる」の場合と「自分の予想と異なる」の場合に用いられるとき、許容度が「予 想なし」の場合に用いられるときより比較的高いという結果が見られた。その 結果が見られる理由について、野田は述べていないが、本稿が主張した「話者 が自ら想定した前提を否定する」という「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の意味 用法と関連していることが判明した。つまり、「相手の意見と異なる」の場合 と「自分の予想と異なる」の場合は、「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の使用に 必要とされる「前提を否定する」という条件を満たすため、比較的に許容度が 高いのである。それに対して、「予想なし」の場合は、何らかの前提が想定し