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量程度の副詞としての「ぜんぜん(全然)」

1.1 副詞研究における「ぜんぜん(全然)」の位置づけ

1.1.3 量程度の副詞としての「ぜんぜん(全然)」

立 政 治 大 學

N a tio na

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例(12)(13)のように、否定と呼応しない「ぜんぜん(全然)」は、「異な る」という意味を含むものとも共起すると述べられている。

しかし、以下示したように、「ぜんぜん(全然)」はこの二種類以外の表現 とも共起できる。(1.1.1 節における(1)(3)(4)の例再掲)

(14)K-1戦士の方が全然凄いですよね。 (Yahoo!知恵袋)

(15)男女間の友情は、成立出来る人からしたら、ぜんぜん普通のにとで、

逆に成立しない人からしたら絶対にできない行為だと思います。

(Yahoo!知恵袋)

(16)明日は抜歯の予定なので主治医に確認したところ全然OKでした。

(Yahoo!ブログ)

例(14)~(16)のように、否定と呼応しない「ぜんぜん(全然)」は、「凄い」

「普通」「OK」とも共起する。それらの表現は、「語彙としてなんらかの否 定の意味」も含んでおらず、「異なる」という意味も含んでいない。したが って、近藤の指摘のほかにも、肯定形式で「ぜんぜん(全然)」と共起できる 表現がある。それはどのような語であるかは、さらに詳しく考察する必要が あると思われる。

1.1.3 量程度の副詞としての「ぜんぜん(全然)」

仁田(2002)によると、「程度副詞」は属性(質)や状態を表わす成分に係 わってその程度性を修飾・限定するというものである。それに、仁田は、程 度副詞を「純粋程度の副詞」、「量程度の副詞」、「量の副詞」という三種類に 分けている。「ぜんぜん(全然)」は、「酒を全然飲まなかった」「全然歩かな かった」という純粋程度の副詞と量程度の副詞とを識別するテスト・フレー

を[X]飲んだ」/「[X]歩いた」という構文である。詳しくは仁田(2002:163)参照。

8 電子辞書に収録されている辞典。収録数:約 70,000 語。

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二【副】 ①(あとに打消しの語や否定的な表現を伴って)まるで。少しも。「―

食欲がない」「その話は―知らない」「スポーツは―だめです」

②残りなく。すっかり。「結婚の問題は―僕に任せるという愛子の言葉 を」<⇒志賀・⇒暗夜行路>

③(俗な言い方)非常に。とても。「―愉快だ」

このように、辞書における「ぜんぜん(全然)」は主に「あとに打消しの語 や否定的な表現を伴う」と「(俗な言い方)非常に。とても。」と解釈され ている。

1.2.2 森田(1977)

森田(1977)は、「ぜんぜん(全然)」を「さっぱり」、「まったく」という副 詞の関連語として取り上げている。森田によると、「ぜんぜん(全然)」は「否 定に呼応する副詞である。広く否定表現にかかわり、打ち消す気持ちを強調 する。否定を客観的に強め、その動作や状態がほんのわずかも成立しない、

不十分、不完全ではなく、ゼロの状態を言う」と説明している。森田は、次 のような例文を取り上げて、比較を行っている。

「ドアは全然しまらない」VS「ドアは完全にしまらない」

「ドアは全然しまらない」は、開いたまま微動でもしない、もしくは、一ミ リもしめることができない状態である。一方、「ドアは完全にしまらない」

は、隙間が少しある「不完全」、「不十分」な状態を言う。この比較で、「ぜ んぜん(全然)」は「その動作や状態がほんのわずかも成立しない、不十分、

不完全ではなく、ゼロの状態を言う」という意味を表すことが分かる。しか し、これは、否定形式を呼応する「ぜんぜん(全然)」の意味用法に限られて いる。現在、よく見られる肯定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」の意味用 法については言及されていない。ゆえに、本稿はより多くの用例を集め、肯 定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」の意味用法についてより体系的に分析

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したいと思う。

1.2.3 茅野他(1993)

茅野他(1993)は、「ぜんぜん(全然)」を「決まった言い方を伴う副詞」と いう分類に属するとしている。また「ぜんぜん(全然)」について、「まった く~ない」という意味を表す。が、否定の形だけでなく、否定の表現、例え ば「全然だめだ」のような言い方もあると説明している。さらに、例(17)

のように、「最近では、ただ『非常に』『とても』の意味で使われる場合もあ る」とも指摘している。

(17)新しいあの歌手のレコードは全然すてきですね。

茅野他(1993:142)

しかし、茅野他の「最近では、ただ『非常に』『とても』の意味で使われる 場合もある」という指摘が、果たしてそういう一言で総括し説明できるのだろ うか。したがって、本稿は「ぜんぜん(全然)+肯定表現」の意味用法について さらに考察し、その意味用法が「とても」・「非常に」とどう違うかについて述 べてみる。

1.2.4 工藤(1999)

工藤(1999)は、否定と呼応する 32 個の副詞を以下のように分類している。

A類 (A1)けっして、べつに

(A2)かならずしも、あながち、まんざら

(A3)まさか、よもや

B類 (B1)とても、とうてい

(B2)どうにも、なかなか、いっこうに

(B3)ついぞ、二度と/めったに、ろくに

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C類 (C1)さっぱり、まるで、ぜんぜん/夢にも、露ほども、もうとう

(C2)少しも、ちっとも、いささかも、みじんも、これっぽっちも

(C3)たいして、さして、さほど、それほど、あまり

工藤によると、A類の副詞のグループは、名詞述語であっても形容詞述語で あっても、さらに動詞述語であってもよく、述語のタイプに限定がないもので ある。そして、B類の副詞のグループは、動詞述語に限定されていて、典型的 な形容詞述語や名詞述語とは共起しないものである。その中の(B3)の四つ の副詞は、「頻度」あるいは「実現の量的側面」に関わる点で、C類に含めて もよいかもしれないと述べている。また、C類の副詞のグループは、形容詞述 語、動詞述語とは共起するが、名詞述語とは基本的に共起し得ないものである。

「ぜんぜん(全然)」は、工藤によると、同じ(C1)に属す「さっぱり、ま るで」と比べると、形容詞述語と共起する場合が多くなる点で、(C2)に近 い副詞である。そして、動詞述語と共起する場合、以下の用例のように三つに 分けられる。

<程度>

・ 分からない、全然分からない。

・ 僕全然、英語できないんだ。

<量>

・ 昨夜は全然眠っていない。

・ アルコール分は全然なかった。

<頻度>

・ 酒は全然やらない。

・ 未紀って全然映画見ないのね。

以上のように、工藤は否定形式と呼応する「ぜんぜん(全然)」の場合につい

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否定形式 2122 71.0% 1769 63.7%

相違類 666 22.3% 464 16.7%

だめ 126 4.2% 39 1.4%

別 23 0.8% 18 0.6%

平気 12 0.4% 42 1.5%

大丈夫 6 0.2% 76 2.7%

OK 1 0.0% 111 4.0%

良い 5 0.2% 67 2.4%

普通 1 0.0% 23 0.8%

いける 0.0% 10 0.4%

余裕 0.0% 5 0.2%

まし 0.0% 16 0.6%

その他 27 0.9% 137 4.9%

合計 2989 100% 2777 100%

表1によると、「ぜんぜん(全然)」と共起する頻度の高い表現は、「否定形式」

と「相違類」を除けば、動詞、イ形容詞、ナ形容詞、名詞など、さまざまな品 詞にわたる。一見ばらばらのようであるが、共通的に何らかの特徴があるはず である。したがって、本稿は、「ぜんぜん(全然)」が持つ副詞の機能を通して、

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ただ共起する語の傾向を提示するだけではなく、なぜそういう傾向があるのか も明らかにする。

また、表 1 によると「平気、大丈夫、OK、良い、いける、余裕」などの語 は、「語彙的に否定的意味を持った」語、あるいは「語彙としてなんらかの否 定の意味を含む」語のどちらでもない。それらの語はほとんどがプラス評価を 表わす表現なので、評価性の観点からも考察する必要があると思われる。

さらに、服部は、副詞「ぜんぜん(全然)」が「明示的比較形式(「~より、

~比べて」、「~よりも、~に比べると」など)」を伴う例の比率を、表 2 のよ うに示している。(太字は筆者によるものである。頻度が高いものを示す。)表 2 を見ると、否定形式でない方が否定形式より、「明示的比較形式」を伴う例 の比率が高いということが分かる。しかし、同じく、服部はこれ以上の分析は 行っていない。

[表 2]服部(2007)の「ぜんぜん(全然)」が「明示的比較形式」を伴う比率

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全数 比較形式付 比率 全数 比較形式付 比率 否定形式 2122 6 0.3% 1769 4 0.2%

相違類 666 3 0.5% 464 5 1.1%

だめ 126 0.0% 39 0.0%

別 23 0.0% 18 0.0%

平気 12 0.0% 42 0.0%

大丈夫 6 0.0% 76 0.0%

OK 1 0.0% 111 2 1.6%

良い 5 2 40.0% 67 25 37.3%

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普通 1 0.0% 23 0.0%

いける 10 1 10.0%

余裕 5 0.0%

まし 16 16 100%

その他 27 7 25.9% 137 38 27.7%

合計 2989 18 0.6% 2777 91 3.3%

表 2 によると、「ぜんぜん(全然)」が「良い」「まし」などの肯定表現と共起 する場合は、「明示的比較形式」を伴う例の比率が極めて高い。しかし、「ぜん ぜん(全然)」がほかの「普通」「余裕」などの肯定表現と共起する場合は、そ ういう傾向が見当たらない。したがって、「ぜんぜん(全然)」が肯定表現と共 起する場合は、必ず「明示的比較形式」を伴うとは限らない。よって、「明示 的比較形式」以外に、どのような言語形式が「ぜんぜん(全然)+肯定表現」と 共起しやすいのかについて、さらに明らかにする必要があると思われる。また、

そのような言語形式が「ぜんぜん(全然)+肯定表現」とともに現れやすい理由 についても明らかにしたいと思う。

以上のように、「ぜんぜん(全然)」の先行研究を、「副詞における位置づけ」

と「意味用法」に分け、概観した。従来の先行研究において、まだいくつかの 問題点が残っているということがわかった。次の 1.3 節では、それらの問題点 をまとめる。

1.3 問題点

前節で述べたように、従来の先行研究において、まだいくつかの問題点が 残っている。それらの問題点は、主に以下のようにまとめられる。

問題点①:肯定形式と共起する場合の「ぜんぜん(全然)」の副詞における

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位置づけである。

従来の研究(鈴木、近藤、仁田など)は、「ぜんぜん(全然)」

の副詞における位置づけについて、否定形式と呼応する場合を 考察するものが多い。肯定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」

の場合については、詳しく述べられていない。したがって、肯 定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」の「副詞における位置づ

の場合については、詳しく述べられていない。したがって、肯 定形式と共起する「ぜんぜん(全然)」の「副詞における位置づ