両岸和平交渉における政治上の困難と
選択可能な代替案について
1
張
顕 超
(国立中山大学中国・アジア太平洋地域研究所副教授)【要約】
2008 年 12 月 31 日、胡錦濤総書記が対台湾政策の方針として発表 した「胡六点」は両岸の敵対状態の終結、および和平交渉を求める ものであった。台湾からすると、当面の国家主権の認識と交渉の対 価についての双方の認識は相当かけ離れており、また民主化後の台 湾にとって、中国に従属する「一国二制度」の非主権国家という肩 書きは受け入れ難いものである。中国大陸側の意図する交渉とは、1 和平条約または和平協議の定義とは、敵対する双方が署名するある種の取り決めで ある。主に戦争と武力衝突の終結のためのもので、署名する双方とは国家または政 府である。協議の署名を以って双方の敵対状態は終結する。休戦協定と異なる部分 は、敵対状態の終結が長く、軍備と武装が強制的に解除されるわけではない。和平 協議の内容を検討するにあたり、協議そのものの目的と性質をみながら、通常は境 界や争議解決の手順、資源の使用、難民の地位、債務、関連作業の取り決め、既存 の条約の再適用などいくつかの項目を討議する。現代の国際社会での実践上、通常 は停戦協議や敵対状態の終結の交渉をまず行い、和平交渉の手続きを討議、最後に 和平協議の署名を以ってこれを完了する。詳細は Robert L. Bledsoe, Boleslaw A. Boczek, The International Law Dictionary (Santa Barbara: ABC-CLIO Press, 1987), pp. 385~386 を参考のこと。
徐々に政治的・法的拘束力を発揮し、台湾を中国大陸との政治的な 国 家 統 合 に 向 か わ せ 、 い わ ゆ る 両 岸 関 係 の 「 後 戻 り で き な い 形 勢 (making the positive changes irreversible)」に持ち込むものである。 ところが、両岸の和平協議に関わる政治交渉は、主権を国際政治や 国際法、憲法の具体的な意義の中に置いた上で検討して初めて、台 湾にとって実質的な意味を持つ。まもなく到来するであろう両岸の 政治交渉という難局に際し、中国・福建省と台湾による「海西経済 区(台湾海峡西岸経済区)」協力モデルの道や、あるいは双方が受け 入れられる範囲のもとで、両岸の経済と社会モデルの初期段階のす り合わせにおいて、実行可能な道筋をつけていくことができるであ ろう。 キーワード:和平協議、両岸關係、政治統合、一つの中国
一 議題の始まりと双方の基本的立場
1 議題の始まり 台湾海峡をはさむ両岸は、1949 年の国共内戦が終結したのち、冷 戦という世界的な背景のもとで、南北に分裂し衝突する朝鮮半島の ように、数十年という長期にわたり軍事的に対峙する状態に置かれ ていた。両岸が和平協議を主張するきっかけは、中国大陸(以下、 大陸と略)の全国人民代表大会(全人代)で1979 年元旦に発表され た『台湾同胞に告げる書』2で、これは大陸による両岸の平和的統一 の実現を目指す政治方針を表明したものである。この提案がなされ た当時の国際政治情勢は、1979 年に米国が中華人民共和国政府と正 式な外交関係を樹立すると同時に、台湾の中華民国と断交、米台双 方は米華相互防衛条約を終結させた。当時の米国政府は中華人民共 和国と国交を樹立させたとき、台湾海峡問題については平和的な方 法で解決すると強調した。大陸はちょうど経済の改革開放を推進し ており、当時の指導者、鄧小平は台湾に両岸和平交渉の考えを伝え た。1981 年 10 月 1 日、当時の全人代常務委員会の葉剣英委員長は 9 項目の方針、いわゆる「葉九条」3を公表した。また「平和統一、一 国二制度」の構想は鄧小平が80 年代初期に次々に発表した思想であ る4。江沢民と胡錦涛の第三世代、および第四世代の大陸の指導者は、2 「中華人民共和國全國人大常委會告台湾同胞書」人民網、2008 年 11 月 28 日、 http://tw.people.com.cn/GB/26741/139936/139938/8427598.html。 3 「葉劍英向新華社記者發表的談話(葉九条)」中國台湾網、2007 年 10 年 31 日、 http://big5.chinataiwan.org/tsfwzx/qybh/zywx/200710/t20071031_476930.html。 4 1982 年 12 月、全人代第 5 回会議で決議された改正『中華人民共和国憲法』の第 31 条の規定によると、「国家は必要な時に特別行政区を設立する。特別行政区で実行さ れる制度は具体的な状況をみて全人代で法的な規定を行う。」これによると、「一国 二制度」の構想は中華人民共和国の憲法に正式に記載される。詳細は「從『葉九條』
対台統一政策の考えにおいては、鄧小平の基本路線の延長上に補足 を行ったに過ぎない5。 2 双方の基本的立場 (1) 中国大陸側 Ⅰ 江澤民による主張 鄧小平による対台政治主張の基礎のもと、江沢民は1995 年 1 月に 「江八点」を公表、両岸統一の課題は、双方が敵対状態を終結させ、 徐々に平和統一に向けた交渉を実現するという二段階に分けて完了 させるべきであると主張した。また、その第一歩として「一つの中 国」原則下で、両岸の敵対状態を正式に終結させ交渉を進め、協議 をまとめるべきであるとした。そしてこれを基礎とし、共同で義務 を負いつつ、中国の主権と領土の完全性を守り、今後の両岸関係の 発展に向けた計画を進めていくとした6。 Ⅱ 胡錦涛による主張 中国共産党の胡錦涛総書記は2008 年 12 月 31 日、台湾に対する 6 項目の政治的主張を公表した7。同声明がこれまでと違っていたのは、
到『鄧六條』:台湾的歴史和現状」新華網、2010 年 6 月 17 日、http://big5.xinhuanet.com/ gate/big5/news.xinhuanet.com/ziliao/2003-01/24/content_705095.htm、を参照のこと。 5 1993 年 9 月、中国の国務院台湾事務弁公室と国務院新聞弁公室は共同で『台湾問題 與中國的統一』白書を発表、初めて中華人民共和国政府による文書の形式でいわゆ る「台湾問題的由来和中国政府解決台湾問題的基本方針」が公表された。「台湾問題 與中國的統一」新華網、2011 年 3 月 10 日、http://news.xinhuanet.com/ziliao/2003-01/23/ content_704463.htm。 6 「江澤民:為促進祖國統一大業的完成而繼續奮鬥」新華網、2005 年 1 月 26 日、 http://news.xinhuanet.com/taiwan/2005-01/26/content_2510849.htm。 7 「攜手推動兩岸關係和平發展 同心實現中華民族偉大復興:胡錦濤在紀念告台湾同胞
極めて具体的で、かつ台湾に対し政治交渉の定義権をあらかじめ設 けていたことであった。これは、2008 年 3 月に馬英九氏が総統に当 選してから、大陸側が両岸政策として台湾に提示した最も直截的な 政治的要求であった。「胡六点」の政治主張によると、両岸は「一つ の中国」の原則のもとで、政治的信頼を増大させることとしている。 両岸は国家が統一されていないという特殊な状況のもとで、具体的 な検討を行い、軍事的安全の相互信頼メカニズムを構築することが できる。つまり「一つの中国」の基礎の上に、両岸敵対状態の正式 な終結についての協議を行い、和平協議を確立する。両岸は総合的 な経済協力協定を締結し、両岸ならではの経済協力メカニズムを構 築、両岸経済の共同発展とアジア太平洋地域の経済協力メカニズム とを互いにつなぐ道筋を検討する。台湾による国際組織への参加に 関しては、「一つの中国」の原則のもとで、合理的な処置ができる としている。 (2) 台湾政府側 Ⅰ 李登輝総統による主張 江沢民が1955 年に両岸関係基本方針として発表した「江八点」に 対する政治的な回答として、台湾の李登輝総統は1995 年 4 月 8 日、 正式に「李六条」を公表、「両岸は別々に統治されているという現実 のもとに中国の統一を追及し、大陸側が台澎金馬(台湾・澎湖・金 門・馬祖地区)に対する武力公使の放棄を正式に宣言しさえすれば、 ただちに適当な時期をみて、双方がいかに敵対状態を終結させるか の交渉に関し、予備協議を進める」と主張した。これは両岸の指導
書發表30 周年座談會上的講話」中國網、2009 年 1 月 1 日、http://big5.china.com.cn/ overseas/zhuanti/gtwtbs/2009-01/01/content_17042163.htm。
者が公に「敵対状態の終結」と「両岸和平協議」に関して初めて対 応 、 討 議 す る 政 治 的 な 起 点 と な っ た8。 し か し 、 李 総 統 に よ る 1995 年 7 月の訪米は、同年 9 月以降の中国共産党政府による対台軍事演 習や台湾海峡ミサイル危機を引き起こし、最後には米国が空母戦闘 群 2 隊を派遣して介入、双方の両岸和平協議に関する呼びかけはこ れにより棚上げされることとなった。1998 年 10 月、海峡交流基金会 (海基会)と大陸の海峡両岸関係協会(海協会)は北京で第二次「辜 汪会談」を行い、政府の権限を受けて辜振甫氏と汪道涵氏の両名が 政治的対話を行い、4 つの政治上の共通認識を確立、両岸の政治的協 議に道筋をつけた9。その後、1997 年 7 月の李登輝総統による「両国 論(二国論)」の主張は、大陸側の「一つの中国」を原則とする政治 的な最低ラインを壊すものであったため、両岸の協議は完全に中断 されてしまった。 Ⅱ 陳水扁総統による主張 台湾は2000 年の総統選で初めて政権交代が実現した。民進党と陳 水扁総統の主張は、台湾の独立と「一辺一国」の政治的立場をとる ものであったので、大陸側は両岸の両会(海基会と海協会)の往来 を引き続き断絶した。また民進党政府にとって「一つの中国」の政 治的立場に立つ大陸側との政治的な会合は存在せず、このため1995 年の両岸による敵対状態の終結と和平協議に関する討議は、李総統
8 「李六條」とは李総統による「國家統一委員會」第 11 回全体委員会における挨拶で ある。「『李六條』的中、英文內容」行政院大陸委員會大陸資訊及研究中心、1995 年 4 月 8 日、http://www.mac.gov.tw/ct.asp?xItem=47407&ctNode=5841&mp=4&xq_xCat=01。 9 「辜汪会談與辜汪会晤」財團法人海峽交流基金會、2010 年 6 月 17 日、http://www.sef. org.tw/lp.asp?CtNode=4479&CtUnit=2552&BaseDSD=7&mp=1&xq_xCat=48763&pubfile =921612405871.jpg。
の任期二期目から民進党政権の時期にかけ、十数年という長期にわ たり棚上げされたままとなった。 Ⅲ 馬英九総統による主張 馬英九総統は2008 年の総統選で勝利したのち、「92 年合意(九二 共識)」による見解を認めたほか、就任演説の中でも両岸和平協議に 言及し10、中国大陸との和平協議締結の可能性を「排除しない」とし た11。同時に馬総統は、台湾は平和の創造者としての役割を演じ、台 湾と中国大陸の関係を改善したのち、米国や日本、EU 諸国や ASEAN 諸国とも信頼関係を再構築すべきだと主張した12。馬総統は和平協議 は一つの方向性だとしながらも、中国大陸の指導者と会見するには 時機は熟していないと表明した。目下の台湾の両岸政策は「不統、 不独、不武(統一せず、独立せず、 武力行使せず)」であり、4 年 もしくは8 年の任期内に「中国大陸との統一は絶対にない」「両岸和 平 協 議 の 交 渉 ス ケ ジ ュ ー ル は 未 定 」「 理 由 は 双 方 が あ と ど の く ら い の期間を要するか確実な予測が不能となっているためで、その間に
10 「中華民国第 12 任総統馬英九先生就職演說」中華民国総統府、2008 年 5 月 20 日、 http://www.president.gov.tw/php-bin/prez/shownews.php4?Rid=14000。 11 「馬英九不排除與大陸簽和平協議」『新報』(香港・マカオ)、2010 年 6 月 11 日、 http://www.hkdailynews.com.hk/china.php?id=105565。 12 馬英九総統は大陸委員会 20 周年の記念会合に出席し、同様の概念と考え方を強調、 両岸はともに長い歴史の段階を経て、交流を重ね、中華文化の知恵が導く下で、争 いの解決策を見出すことが必要であると表明した。両岸関係は中華民国憲法の枠組 みのもと、台湾海峡の「不統、不独、不武」の現状を維持し、「92 年合意」や「一中 各表」の共通認識のもとで両岸の交流を進める。原則は「台湾を主体とし、人民に 有利であること」。「解決兩岸爭端 總統提『三心』」『中央通訊社即時新聞』2011 年 1 月28 日、http://www.cna.com.tw/ShowNews/WebNews_Detail.aspx?Type=Firstnews&ID= 201101280018。
より切迫している経済問題を処理する」13としている。馬総統が国際 メディアに再三主張しているのは、将来的に可能性のある二期目に おいても、両岸間のいかなる政治交渉も行わないという見解である14。 馬総統は、両岸の和平協議に向けた交渉について政治的に前向きな 態度を示しているものの、実際の処理においては極めて慎重で注意 深い。 3 双方の立場の主な落差 大陸側は、両岸和平協議の前提としてまず「一つの中国」の原則 を堅持するという一貫した政治的立場をとっている。まず両岸の内 戦状態の終結を協議し、その後政治的な共通認識を確立、和平協議 を締結するというものである。1995 年の「江八点」15、2004 年の「517 声明」16、2005 年の「反国家分裂法」17、2008 年末の「胡六点」18の いずれもが、この政治的な主張の延長線上にある。大陸側は、両岸 の和平協議をいかに進めていくか、どういった重要な原則を確認す る必要があるかについて、これまで具体的な見解を公式には出して
13 「總統:任內不與大陸談統一問題」『中央通訊社』、2010 年 5 月 19 日、http://www. opview.com.tw/BiHistPage.aspx?daid=3749055&date=20100519。 14 「總統接受英國金融時報專訪全文」總統府、2011 年 3 月 8 日、http://www.president. gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=23711&rmid=514。 15 注 6、前掲資料。 16 「中台辦、國台辦就當前兩岸關係問題發表聲明」新華網、2004 年 5 月 17 日、 http://news.xinhuanet.com/taiwan/2004-05/17/content_1472605.htm。 17 『反分裂国家法』第 2 条には、世界にはただ 1 つの中国しかなく、大陸と台湾は同 じ中国に属し、中国の主権と領土は完全無欠で分割はできないと明白に規定してい る。国家の主権と領土の完全性を守るのは台湾の同胞を含む全中国人民の共同の義 務である。台湾は中国の一部である。国家は「台独」など分裂勢力によるいかなる 名義、方法を持っても台湾を中国から分裂させることは許さない。 18 注 7、前掲資料。
いない。現在、比較的明確にこれを指摘しているのは、北京学界の 議論であり、多くが両岸和平協議について以下の 4 つの重点を含む べきだとしている。①原則的かつ過渡的な規範協議である。②規範 内容は両岸の位置付け、両岸政権間の関係を確定することにある。 ③将来的な統合の発展方向を示すべきである。④双方が共同で統一 委員会を組織するなど和平の発展メカニズムを確立する19。 筆者の理解によると、両岸が和平協議の政治交渉を進めるなら、 台湾は国際・国内政治の各要素を検討しなければならない。また、 台湾にとってより困難なのは、大陸側から既に、協議内容は両岸が 同じ一つの中国に属している事実を受け入れること、双方が共同で 中国の主権を守ること、台湾独立に明確に反対すること、ひいては 両岸の平和的統一のプロセスを受け入れるという政治要求に至るま で、台湾の民意の主流とはかけ離れた政治的ないくつかの条件が設 定されていることである20。これが、台湾側が両岸の和平協議の提案 を排除しないとしながらも、棚上げせざるを得ない主な要因となっ ていることは間違いない。台湾には両岸の「和平協議」は「統一協
19 2009 年 6 月、大陸側の主導で開催した会議に関連する報道。「兩岸學者聚京研討兩岸 和平協議與統合路徑」中国評論新聞網、2009 年 6 月 14 日、http://www.chinareviewnews. com/doc/1009/9/4/9/100994915.html?coluid=7&kindid=0&docid=100994915。 20 台湾の遠見雑誌世論調査センターは長期にわたり台湾の人々の統一・独立の立場を 追跡している。2010 年 8 月の最新調査によると、現状維持を希望する人が 51.2%、 独立支持が29.0%、統一に賛成はわずか 7.5%であった。両岸の経済・政治・社会の 各条件が類似していても、66.1%の人は統一する必要はないという見解である。同年 9 月の調査でも現状維持(「現状維持、状況をみてから独立か統一を決める」、「現 状維持、その後統一へ」、「現状維持、その後独立へ」、「永遠に現状維持」)が 大多数(87%)を占めた。「2010 年 9 月馬總統執政滿意度民調」『遠見雑誌』2010 年10 月号、http://www.gvm.com.tw/gvsrc/20100915S01AP00PR1R.pdf;「民眾對當前兩 岸關係之看法」行政院大陸委員會、2011 年 3 月 11 日、http://www.mac.gov.tw/ct.asp? xItem=53491&ctNode=5617&mp=1。
議」と切り離すべきと提案する学者もいるが、これこそ両岸の和平 の議題に対する認識における根本的な差異を示している。最大のし こりとなっているのは以下の 2 点である。第一に、両岸の和平協議 のビジョンは双方で重なり合うものではない。台湾の主流民意は単 純な和平協議による交戦状態の終結と現状維持であるのに対し、大 陸は台湾が両岸の将来的な統一について保証すべきであるという見 解を持つ。第二に、和平協議の交渉タイミングについて、大陸側は 国民党が政権復帰したときこそ和平発展にとって得難い好機だとと らえているが、台湾政府は、現在の台湾社会は両岸の政治的議論に ついての共通認識が全くないため、大陸側が論争性の高いこの政治 的議題の話し合いを急げば、台湾の社会内部での対立を激化させる だけだという懸念を持つ21。
二 「胡六点」の政治交渉に関する部分を読み解く
1 胡錦涛の任期内における政治的圧力と歴史的位置付け 馬総統にとって、一期目の任期 4 年間においては、両岸関係の処 理に際し時間的、空間的な余裕が比較的あると言える。両岸間の協 議項目について、馬総統は経済優先で次に政治という優先順位を望 んでおり、まずは切迫した経済の議題の処理を最優先としたい方針 である。しかし、現在、任期二期目にあたる胡錦涛総書記にとって は両岸の歴史における使命と政治スケジュールのプレッシャーがあ る。大陸側も早めに両岸の統一スケジュールに取り掛かる政治的準 備を進めたいと望んでおり、両岸関係の処理があまりに遅れると、 台湾の内部で大陸側にとって不利な政治的変化が起こるのではと懸21 李允傑「和平協議應與統一協議脫鉤」『台湾蘋果日報論壇』、2009 年 11 月 19 日、 http://tw.nextmedia.com/applenews/article/art_id/32101435/IssueID/20091119。
念している22。現在、双方の政権が政治交渉の考えを持っているが、 台湾側の政治的な懸念の方がはるかに大きい23。両岸の敵対状態の終 結と和平協議の正式交渉開始に困難を伴うなら、大陸側は例えば権 限を受けた窓口による対話をできるだけ早く行うなど、非公式な初 歩的会合を行いたいとする希望も表明している24。 2 両岸が同じく「一つの中国」に属することの指摘と内戦の原則 胡錦涛は両岸の政治交渉に際し、既に「一つの中国」という原則 を設定している。この「一つの中国」の政治原則の内容は、これま でに両岸の両会が協議を再開した際の「92 年合意」ではなく、中華 民国と中華人民共和国の 2 つの政府を「一中各表(それぞれ一つの 中国を代表する)」とする原則でもない。中国大陸の反国家分裂法第 二条の文言に従えば、大陸側が要求しているのは「台湾と大陸はす べて中国の領土である」という国家主権の共同宣言である。このた め、台湾の政府代表が両岸の政治交渉のテーブルに着けば、両岸の 政治交渉または和平協議の交渉と考えられ、国際世論において両岸 統一に向けた準備としての政治交渉と誤って受け止められる可能性 があり、台湾は国際・国内政治の対応において、極めて慎重になら なければならない。 大陸側は「胡六点」本文の中で、台湾には東西ドイツ基本条約と
22 「北京對対台沒有政治談判時間表」『亜洲週刊』二十四卷十三期(2010 年)、 http://www.yzzk.com/cfm/Content_Archive.cfm?Channel=aw&Path=372762111/13aw1a.cf m。 23 「胡錦濤:兩岸要為解決政治軍事問題創造條件」中新網、2009 年 5 月 27 日、 http://www.hi.chinanews.com/hnnew/2009-05-27/22803.htm。 24 「商簽和平備忘録北京有時間表」『星洲日報』2009 年 11 月 2 日、http://www.sinchew. com.my/node/136751?tid=2。
同じような対等の主権地位を与えないと明言している25。つまり、大 陸側は交渉における対等の地位は与えるが、その主観における互い の主権上の政治的な地位は対等でないということである。これはま た、大陸側が両岸の政府間交渉を避け、民進党をも「国共フォーラ ム」に取り込み、将来の両岸の党対党による交渉の政治的基礎とし たい方針でもある26。大陸側は意図的に両岸による通常の国共第三次 和平交渉という印象を対外的に与えようとしており、その背後にあ る交渉戦略は、台湾政府が存在するという事実承認や、民主化され た台湾政府との正式な交渉を避けるものであると同時に、台湾の民 主政治の発展上にある現実とは完全に乖離したものである。 中国の政治経済の台頭が始まり、両岸の政治は主導権をめぐり国 際的なプロパガンダ競争を始めたが、その大部分がすでに大陸側の 手中にあり、台湾政府は慎重にこれに対応しなければいけない羽目 に陥っている。中国共産党は「胡六点」の第一点で「両岸の統一状 態への復帰は、主権と領土の再創造ではなく、政治的対立の終結で ある」とする政治的な前提を設定している。つまり、大陸側は現段 階で中国の主権の中身について、台湾政府と政治的な待遇や条件を 分かち合う意図は全くない(中華連合や連邦的な政治モデルの拒絶 を明言している)。台湾政府が大陸の「胡六点」に基づく交渉の求め に前向きに応じられない本当の理由はここにある。両岸が政治的に 中央と地方に対応する関係とするならば、台湾の中華民国政府と人
25 詳細は、中国国務院台湾事務弁公室『中国台湾問題外事人員読本』(九洲出版社、2006 年)、209~231 ページ参照のこと。 26 中国側は政治協商会議を土台とし、台湾の各主要政党と辛亥革命 100 年記念を共に 行い、両岸の政治交渉を推進、両岸指導者による正式会談や和平協議の締結を実現 したい方針である。「北京合慶辛亥100 規劃馬胡會」海峡資訊網、2009 年 10 月 19 日、 http://www.haixiainfo.com.tw/75811.html。
民にとって、国家主権の地位を自ら放棄することとなり、一方的に このような不平等な政治的待遇を受け入れるのは極めて困難なので ある。 もう一つ重要な点は、胡錦涛主席が60 年の両岸の内戦関係の終結 をもって、両岸の政治交渉の起点としようとしていることである。 国共内戦は中国の歴史上の事実ではあるが、これと台湾の領土の主 権の帰属、あるいは一部の国際的な観点が示す戦後の台湾の国際法 における地位は、全く別問題なのである。少なくとも台湾の領土の 主権は、中華人民共和国ではなく、中華民国に帰属するものである。 占領に関する国際法の有効原則に照らし合わせると、中華人民共和 国は真の意味で台湾を統治したという法的事実はない。また、台湾 では1949 年から 60 数年の間に民主政治が十分に発達し、人民主権 という概念が人々に深く根付いている。台湾は現代化された公民社 会の実質を持ち、また1949 年の国共内戦時の単純な政治概念で、両 岸関係の60 数年の歴史と政治的な発達を完全にカバーし説明するこ とは絶対にできない。大陸側は意図的にこれをひとつにまとめ、自 身にとって有利な国際法の解釈を採りつつ、冷戦期の自決権に関す る新たな国際法の概念を故意に避けている。両岸関係の発展が中国 内戦の定義にはめ込まれてしまったら、台湾の中華民国にとっては 国家主権と国際政治におけるリスクを伴うことになる27。
27 大陸側の対台武力行使に際する法的な難点は、これが国際法上の武力行使に合致す るかどうかの問題である。国際法の条件に合致しない場合は、侵略または国際法の 平和原則に違反するとみなされる。このため、両岸関係の位置付けは中国の内政と 内戦に関する問題を残し、基本的には台湾問題には国際法の適用がされない可能性 もある。国際法の適用を排した内戦の危険と不道徳に関しては、Antonio Cassese,
International Law in a Divided World (Oxford :Oxford University Press, 1989), pp. 81~84,
大陸側は「反国家分裂法」の中で、台湾問題は中国の内政問題で あり、国際社会による両岸の事務的な政治調停または干渉を拒むと 表明している28。馬総統は「一つの中国」論を支持しているが、台湾 の政治的な観点からみて、この「一つの中国」が代表するのは中華 民国である、もしくは台湾が憲法上の一つの中国を代表しているに 過ぎない、または少なくとも台湾政府は「一つの中国」について自 ら表現する余地を留保すべきであるとしている。もし大陸側が一方 的に主張する中国内戦の定義を受け入れ、国際社会の参加や協力を 排除し、台湾の「中華民国」の主権的立場における但し書きまたは 留保を明確に表明することができなければ、台湾政府は国内外で甚 大な不利益をこうむることとなる。さらに台湾の反対党や台湾の民 衆、日米など国際社会が留保の余地のない「一つの中国」の原則を 受け入れるかどうかについては、政治的リスクを慎重に検討する必 要があるはずである。 3 政治、経済、軍事の三大枠組みの設定 胡錦涛は「胡六点」において、両岸の政治的および経済的交渉、 軍事的敵対の終結において、すべて「一つの中国」の原則に基づく という前提条件を設けている。大陸側は、現在の条件をもって短期 間で完全に台湾を統一するという政治的な可能性は存在しないこと をはっきり了解している。そのために前もって「胡六点」において 台湾に対して政治、軍事、経済の三大分野の交渉枠組みを提示して いるのである29。前述の三大政治枠組みの実現、および台湾の現政権
28 『反分裂国家法』の第 2 条第 2 項には台湾問題は中国内戦が残した問題と明記して いる。台湾問題を解決し、国家の完全な統一を実現するのは、中国の内部事務で、 この問題ではわれわれは外国勢力のいかなる干渉も受けない。 29 2009 年 6 月、大陸側の主導で開催した両岸和平協議学術シンポジウムで、参加者の
との経済・政治の議題における各項目の協力を通じ、徐々に政治お よび法的拘束力を獲得し、台湾が今後中国との国家統合に向け政治 発展を遂げるようセッティングする。これも両岸関係をいわゆる「後 戻りできない形勢(making the positive changes irreversible)」に持ち 込むものであり30、また双方の政府相互の約束事により、台湾の内部 で政治的に独立に傾く事態が再び起こるのを阻止したいとの方針で もある。「胡六点」の本文の最終段落では、「両岸の統一は中華民族 が偉大なる復興に向かう歴史的な必然である。」と論じている。もし 真面目に政治的な解釈を行うなら、つまり大陸側は中国台頭という 構想の上で、既に台湾問題の平和的解決を、中国が台頭し世界的な 覇権大国となるための必要条件として優先的に扱っているのである。 仮にそうであれば、今後台湾には中国側からの両岸統一の政治交渉 の圧力のもと、極めて大きな困難が待ち構えているであろう。
三 両岸和平協議の枠組み上の主権の問題点と国際社
会における生存空間
1 一つの中国の原則の文字表現と構造的な実質 一部の人々の見解によると、両岸関係においてこれまで起こった 困難というのは、「一つの中国」の原則に対する認識における衝突で あった。共同で双方が受け入れることのできる文字表現方法を生み多くは、以下の4 点を重点として含むべきとの認識を見せた。①原則的かつ過渡的 な規範協議である。②規範内容は両岸の位置付け、両岸政権間の関係を確定するこ とにある。③将来的な統合の発展方向を示すべきである。④双方が共同で統一委員 会を組織するなど和平の発展メカニズムを確立する。注19、前掲資料。
30 Qimao Chen, “The Taiwan Straits Situation since Ma came to Office and Conditions for
Cross-Straits Political Negotiations: a view from Shanghai”, Journal of Contemporary China, Vol.20, No.68, (January 2011), pp. 153~160.
出すことができさえすれば、両岸の主権と法律管轄権における衝突 や、両岸の政治的・経済的利益の衝突ですら、すべて「一つの中国」 の原則の大きな概念のもと、合理的で妥当な解決策が得られる、ま たは政治的な硬直状態から第一歩を踏み出すことができる。これに 似た見方は、これまで両岸の政治学界に広くみられ、また中国大陸 が中華民国の存在を認めさえすれば、両岸の政治的見解の相違は埋 めることができるともみられていた。ただ、国際法と憲法学の角度 から論じると、「一つの中国」の原則の文字表現がどんなものである かは、両岸関係の表面的な見解に伴うものに過ぎない。両岸関係が 最も困難な点は文字表現ではなく、中国の主権そのものにあり、両 岸が政治枠組みの上でともに分かち合う、または再編することがで きるかどうか、また深い部分での両岸の政治的・経済的な重要利益 を共にできるかどうか、法的枠組みや政治的保証を通じて処理でき るかどうか、一歩踏み込んだ政治的な配慮と処理ができるかどうか にかかっている。住民投票のような民主的方法で、国際社会の監督 のもと自身の国家の前途を決める権利、台湾の人々が国際法が認め る自決権を享受できるかどうかは、両岸と国際政治に関わる深くて 重い課題であり、「一つの中国」の原則を受け入れられるかどうかと いう文字上の条件にとどまるものでは決してない31。今後両岸の政治 交渉と和平協議の上で、両岸の主権論争にどのように立ち向かうか は、台湾内部の政治的なエスニシティ論争のもとでは解決が難しい 問題である。国民党が1992 年の両岸による両会で達成した「一中各
31 2009 年 6 月、大陸側の主導で開催された両岸和平学術シンポジウムでは、将来の両 岸和平協議の討議における核心的な問題は大陸側がどのように中華民国の身分と地 位の問題と向きあうかということであるとし、双方の学者は概ね同意している。注 19、前掲資料。
表(一つの中国について各自が解釈する)」32という見解や、2008 年 に馬総統政権発足後に公表された「92 年合意」は、どちらも両岸関 係における主権という障害を本当に乗り越えるものではない。また 民進党が 2000 年に政権を握ったことと、その中での民主の発展は、 両岸の主権争いの中に国際法における台湾の自決条件を持ち込み、 もともと困難な両岸関係を、より厳しい対立とより困難な問題に変 えただけであった33。 「一つの中国」の原則の問題は、両岸関係で最も解決の難しい問 題で、かつほぼ解決の見込みのない難題であるが、だからこそ両岸 関係における政治的に解決不能な問題の中でも核心的な問題なので ある。「一つの中国」の原則の実質を真剣に検討しようとすると、以 下の6 点の政治的な難点に直面しなければならない。 (1)両岸の国共内戦の歴史が残した問題をいかに片付けるか。また 中華民国と中華人民共和国の名称、中華民国の政治的位置付け、 台湾の領土の主権と人々の帰属、両岸の人々の国家についての ア イ デ ン テ ィ テ ィ と い う 感 情 的 な 問 題 を ど の よ う に 処 理 す る か。 (2)主権と国家の位置付けが有効性を持つかどうかについては、国 際政治の配慮や両岸協議を通じて行われるべきであり、またこ の重大な両岸の政治的処置の結果は、双方の政府と大多数の両
32 「台海兩岸關係的發展」行政院大陸委員會、2011 年 3 月 10 日、http://www.mac.gov.tw/ ct.asp?xItem=68279&CtNode=5836&mp=4。 33 蔡英文は主権問題では民進党はどのようなオプションも排除しないと表明。具体的 には「主権問題においては、民進党はすべてのオプションを考慮し、いかなるオプ ションも排除しない。第2 に、台湾の人々には自分で決定する権利がある。第 3 に、 決定できるのは台湾の人々だけである」。「蔡英文訪問華府在傳統基金會演說」美 國之音中文網、2008 年 9 月 10 日、http://www.voafanti.com/gate/big5/www.voanews.com/ chinese/news/a-21-w2008-09-10-voa1-58293467.html。
岸の人々が認められるものであるべきである。 (3)双方の現行憲法による法的制限や、将来の「一つの中国」の憲 法(専門家が提案する「一中三憲」を例として)を共同で構築 するという難題、双方が二重の憲法のもとで行う極めて複雑な 法的プロセスをいかに処理するか。 (4)それぞれの国会審議と決議のプロセスも、両岸の民主政治の極 めて重要な課題である。 (5)台 湾 の 人 々 が こ の 政 治 交 渉 の 結 果 に 関 し 住 民 投 票 で 決 議 す る ことになれば、双方の政府がどのように事後処理を行うのかも 極めて政治的に困難な事柄であることから、政治的な時機の成 熟を見極めるのは非常に重大な問題である。 (6)米国や日本など友好国の国際的な関心と、地域安全政治の枠組 みの現状は、東アジア全体の地域的なパワーバランスの問題に 関連してくる。特に米国の政治的な関心と注目を集めており、 台 湾 と 大 陸 側 の 双 方 が 自 分 た ち だ け で 協 議 で き る よ う な 単 純 な内政問題ではない。 両岸が「一つの中国」の内容に関して実質的な討議に入るとすれ ば、それ自体が極めて錯綜した複雑な難題となる。率直に言うと、 両岸の和平協議が「一つの中国」の実質的な内容について協議を再 開すれば、必然的に大きな政治的リスクに立ち向かうこととなる。 これは双方の内部でも論争性の高い政治的な議題であり、交渉が決 裂すれば、双方の政治にも極めて深刻な結果をもたらすことが想定 される。しかしこれに論及しなくとも、あるいは当面は両岸の「92 年合意」に論及しなくとも、両岸の基本的な政治的難題は依然とし て存在し続け、それぞれ政治的な信頼と発展を達成するのは難しく、 つまり処理の点でも板挟み状態の政治的局面となるのである。また
台湾政府が気にかけているのは、大陸側が「一つの中国」原則に関 し、一貫して「内外有別(内と外での対応が違う)」戦略を取ってお り、新・旧の「一中三段論(一つの中国に関する三段論法)」はどち らも、国際的な場においては唯一、中華人民共和国だけが中国を代 表するものだとしている34。 (1)国際的な場における「一つの中国」とは中華人民共和国を指す。 (2)両岸関係上、台湾と中国大陸はともに「一つの中国」に属する という新たな見解をとる。 (3)中国の主権と領土は完全無欠であり、分割することはできない。 前述の新「一中三段論」という見解は、大陸の海協会・汪道涵会 長の「両岸はともに一つの中国に属する」という政治的概念の延長 に過ぎないもので、両岸の統一を、台湾と中国大陸の 2 つの主体が 共に一つの中国を創建するという考え方のもとに置くものである。 しかし、国際政治の領域においては、中華人民共和国だけが中国の 中央政府を代表し、台湾の国際社会における生存空間は大陸側の同 意のもとにのみ、条件付きで部分的に国際社会に参加する権利が与 えられる可能性があると、大陸側は明確に指摘している。「一つの中 国、内外有別」の本質は、大陸は対内関係において、台湾政府を国 家の内部での特別な政治的主体の存在と認めるが、対外的な関係の もとでは、大陸側のみが代表的な主体であり、台湾は主権上の権利 を持たないとするものである。 台湾が中国大陸と「一つの中国」の原則について交渉するならば、 この問題にある主権という壁を突破できず、主権国家で構成される
34 「朱鎔基總理在政府工作報中重申對新三段論」人民網、2002 年 3 月 6 日、 http://tw.people.com.cn/GB/14810/14858/896237.html。
国際社会において、常に中華人民共和国による意図的な孤立状態に 置かれてしまうという問題を解決できない。台湾が国際社会におい て、大陸側が一方的に設定した制限とその同意のもとに存在しなけ ればならないとしたら、台湾の中華民国政府には国家主権に関して 一定のリスクが生じることになる。もう一つ深刻な問題は、台湾政 府が前提条件を付帯しない一つの中国の原則を受け入れたならば、 台湾人民による自決の選択権を著しく損なわないかどうか、台湾内 部と両岸政治が対立する新たな危機を招かないかどうか、これらに 関する政治的な思考の事前準備は、90 年代初期に台湾政府が国家統 一綱領を定めたころの古い観念にとどまっているわけにはいかない のである。 2 両岸和平交渉における国家の位置付けに関する選択 両岸が政治的交渉を進める際の国家の位置付けに関する選択とそ の対処は、台湾政府が常に重視し、政治交渉と和平協議の対処に関 する極めて切迫した研究でもある。実際、大陸側の言う「一国二制 度」に踏み込んだ研究ができるなら、そこで初めて関連対策の効果 的な提示ができるであろう。例えば中華民国の存在に関するいわゆ る「承認」問題や、台湾の国際社会での生存空間や法的な位置付け の研究のような、中国大陸のここ数年における香港での「一国二制 度」実践や、最近の台湾問題に対する新たな考え方は、台湾政府が 前向きに思索し、有効な対応措置を提示する価値のあるものである。 両岸の和平交渉における台湾の国家的位置付けを検討する際に、 台湾の民衆と政党が往々にして陥りやすい議論と俗説は以下のとお りである。 (1)台 湾 に あ る 中 華 民 国 は 主 権 独 立 国 家 が 持 つ べ き 地 位 と 待 遇 の 獲得に引き続き取り組むべきか。いかにして国家主権に関する
苦境を乗り越え国際社会での生存空間を勝ち取るかは、台湾内 部でも常に統一か独立かの論争を巻き起こしている。 (2)中 華 民 国 で あ る 台 湾 は 主 権 独 立 国 家 と し て の 新 た な 政 治 説 明 を備えておくべきか。特に両岸の政治交渉のプロセスにおいて、 大陸側による、「一つの中国」の主張と意図的な台湾政治の矮 小化のために、台湾は知らず知らず以下のような理論上の矛盾 に自ら陥ってしまう。「台湾の中華民国は一つの国家であるべ きだが、両岸が政治交渉を行う際には、中華人民共和国が国家 としての中華民国には同意しないため、研究者は連合や連邦、 国家の中の国家、藩属国、一国二制度、他の国と提携している 自治国、などなどそのほか可能な国家モデルの中で最も適した、 あるいは2 番目に適した選択を行えばよい」という矛盾である。 この類の考え方は大陸側の「一国二制度」という政治的な落と し穴に陥り易い。国際法主体の形式からみると、葉九条と鄧小 平のいう「一国二制度」モデルは、多くの連邦モデルよりもさ らに「優遇された条件」である可能性もあるのである。バチカ ンモデルや属国などの政治形式に至っては論じるまでもない。 (3)もし「一国二制度」もまた台湾が将来的に受け入れられる政治 統合条件でなければ、政治的な観点からみて、前述した「一国 二制度」の条件を下回るいかなるものも選択肢にはない。では、 台湾は今後中国大陸と交渉を進めるに当たり、設定すべき政治 的な最低ラインはいったいどうあるべきであろうか。いかなる 合 理 的 な 国 際 法 主 権 モ デ ル と 憲 政 構 造 を 設 け る べ き で あ ろ う か。仮に「一中三憲」が双方共に受け入れられる政治条件であ るならば、国際法と憲法にはどのような政治的配慮と協議プロ セスが必要となってくるであろうか。短期的にはこれらの政治 問題に答えられる回答はない。
3 和平交渉の実質的な政治交換条件と手続きの問題 両岸の敵対状態の終結は双方の軍事的信頼に関わる問題で、ひと まず和平協議の内容検討の外に置くとして、両岸和平協議の政治的 な位置付けと関連作業に言及すると、処理すべき重点は、政治的な 位置付けに関する交渉時の、実質内容と手続きの2 点が考えられる。 台湾はどのような交渉条件を勝ち取れば実質的な意義があるであろ うか。また、協議方法と手続きの上で、どのように協議利益とその 後の保障・執行を確保するべきであろうか。「胡六点」では両岸の政 治交渉の原則と方向性を示してはいるものの、これまで大陸側や大 陸の主流学界では、両岸和平協議の具体的な方法や内容に関する指 摘や討議はあまり多く発表されていない。本文は台湾が取りうる立 場と観点からのみ、いくつかの原則的な観点を提示する。両岸の政 治交渉と和平協議の対象は、国際政治や軍事、国際法、憲法、国内 政治など多岐の専門分野に亘る。本文は各種問題点における考えを 提示しようとするものであり、筆者の能力の範囲を超える一連の解 決策を提案するものではない。両岸の政治交渉や和平協議の議論は、 本質的には政治的な価値に基づく選択肢が多く、単純な学術的議論 にはならない。 筆者の観察によると、両岸の政治交渉または和平協議における台 湾の「国際社会における生存空間」に関する要求は、台湾にとって は、大陸側の「一つの中国」の原則に対応する弁証である35。両者の
35 馬英九総統は、政府の両岸政策路線はウィンウィンの関係による好循環の道を採り、 両岸関係の改善と、国際生存空間の拡大を同時に行うことで、より多くの人の希望 に沿い、中国大陸との交流を自信をもって深めることができ、安全に心配のない時 には、中国大陸との両岸関係をより改善したいと表明した。「馬總統:兩岸政策雙贏」 『 中 時 電 子 報 』、2011 年 1 月 29 日 、 http://news.chinatimes.com/politics/130502/ 132011012801240.html。
間にも政治上の「相生相剋(相互作用・相互抑制)」の原理が存在す る。ある意味では、台湾に十分な「国際生存空間」があれば、「一つ の中国」の主権問題に関し譲歩することもやぶさかではない。しか し大陸側にとって、台湾に国際上の政治的実体(international political entity)の地位を十分に与えるというような「国際生存空間」を認め ることは、具体的な政治ではあり得ない難題なのである。 A. 国際生存空間と政治保障の実質的問題 例: (1) 台湾は国家として、あるいは他の名義で国連に加盟できるのか。 (2) 台 湾 は 国 際 組 織 ま た は 地 域 組 織 に 加 盟 で き る 地 位 を 獲得 でき るのか。 (3) 台湾は、他にどのような国際生存空間について獲得・重視する 必要があるか。 (4) このほか、両岸の憲法の位置付け、条約の加盟、及び、両岸関 係の国際社会と権利義務関係における取り決め。 (5) 両岸の経済、外交、政治、軍事、社会などに関連する各種の政 治的措置に、どのように具体的な実現方法を提示すれば、大陸 側が「葉九条」や「江八点」、「胡六点」で台湾に与えると述べ ている実質的な内容について要求、または対応することができ るのか。 (6) 台湾の地位は香港ではなく、香港の「一国二制度」という特区 モ デ ル で 台 湾 の 国 際 生 存 空 間 と 位 置 付 け を 検 討 す る こ と は で きない。 つまり、政治交渉における一つ一つの実質的内容を確定して初め て、両岸の互いの確固たる政治的位置付けを反映することができる のである。また、国際法上の各種の非主権国家モデルの中からのみ、
中国大陸が受け入れられるであろう政治的実体の人格を模索するの ではない。 B. 国際生存空間と政治保障の手続き的問題 例: (1)いかに両岸の政治的位置付けを確立し、和平協議の交渉結果を 有効に実施するのか。 (2)国際慣例と台湾の安全保障に従い、国際社会または大国が介入 と保障をする必要はあるか。 (3)国連安全保障理事会や米国、北大西洋条約機構(NATO)の介 入、あるいは北朝鮮をめぐる6 カ国協議のモデルのうち、どれ がより妥当な方法なのか。あるいは中国の内政であるとして、 両岸が自分たちだけで協議を完了させ、第三者の調停や介入を 必要としないのか。 (4)台湾は国際社会または地域安全における保障を確保すべきか。 (5)双方が和平協議の交渉に入る前に、和平協議交渉に付随する各 議題とその手続き進行について、各々の優先順位を事前に確認 すべきか。 (6)両岸の国家の位置付けに関する交渉を行うとき、前もってどの ような政治による事前作業(国際社会とのコミュニケーション や国内の共通認識の構築など)を考慮し準備しなければならな いか。 (7)双方の政府が派遣する代表の構成、交渉人の肩書きと締結する 協議の名称の問題をどうするか。 研究者が見落としがちな重点とは、台湾の国家としての位置付け を討議する際、往々にして台湾そのものの主観的要素のために、台 湾の国際的地位が圧倒的に劣勢にあることへの評価と認識が欠落す
る事態を招いてしまうことである。1971 年の国連総会における 2758 号決議の後36、台湾の多国(多地域)間または2 国(2 地域)間関係 における総体的な実力は失われたが、これは台湾の現実的な国家の 位置付けと極めて密接な関連がある。国際法学界の主流が広く、台 湾の中華民国は完全な主権国家の身分を有しないとしており、ある いは国際法の実践上で、台湾は準国家の身分を有するに過ぎないと するのもこのためである。しかし台湾の国家としての位置付けは、 台湾の外交関係と国際生存空間における実力や、国交国との多国間 関係にも関連してくる。台湾政府は両岸の政治交渉に入る前に、ま ずは自身の国際社会における真の姿(交渉カード)を見つめなおし、 台湾の国際社会における「位置づけ座標」を確認すべきである。両 岸が政治的な位置付けに関する交渉に入れば、台湾はどういった国 際生存空間を考慮しなければならないか。また、台湾は交渉の中で いかにしてなるべく多くの外交カードを獲得するか。両岸の主権と 国際的な尊厳に関した合理的な内容の構築にどのように取り組むか。 この問題を深めることが、台湾の国家としての位置付けと国際生存 空間の交渉に取り組む上で、極めて重要なポイントとなるであろう。
四 両岸和平協議の交渉における内外の難題
将来的な両岸の和平協議の交渉は、「一つの中国」の原則に関わる 実質内容を議論することとなり、双方はこの議題につなげて、台湾 の国際法上の地位や国際生存空間、憲法における政治的配慮、その36 1971 年 10 月 25 日、国連総会における 2758 号(XXVI)決議で、大陸の中華人民共 和国政府は唯一中国を代表する合法的な政府とし、台湾の国連安保理常任理事の席 に取って代わられた。“RESOLUTIONS ADOPTED BY THE GENERAL ASSEMBLY DURING ITS TWENTY-SIXTH SESSION”、United Nation、10 March 2011, http://daccess- dds-ny.un.org/doc/RESOLUTION/GEN/NR0/327/74/IMG/NR032774.pdf?OpenElement.
他両岸の政治経済の議題やそれに関わる重要な利益について、とも に議論することは避けられない。ただし、以上のいかなる政治項目 も、すべて中国における台湾と大陸の主権内容に重く関わることと なり、どのように実質的な配分を行い、法律問題を表現するかに関 わる問題である。双方が政治的な議題に関する交渉の蓄積をもって、 両岸関係における政治的な障害を乗り越えるのはよいことではある が、台湾自身の対外的・対内的な政治的タイミング、両岸双方の政 府が取り掛かる時機が熟しているかどうかは、「一つの中国」の原則 に関する実質的内容を議論できるかどうか、また政治の重点におい て具体的な結果が生まれるかどうかに大きく関わるっている。 台湾政府が和平協議交渉の中でさらに一歩踏み込み、敵対状態を 終結させた上、協議の中ほどで台湾の国際社会における生存空間な どをひも解くことを狙うなら、一つの中国の実質的な内容の交渉が、 大陸側から台湾に要求する政治的対価となるであろう。双方の交渉 時におけるゲームのルールと対価の関係は、台湾は引換書にある対 価だけを支払い、政治コストを負担しないでよいということでは絶 対にない。双方が正式に和平協議の交渉に取り掛かる場合、検討に 加えなければならない点が他にもいくつかある。以下に、7 項目挙げ る。 (1)両岸の和平協議の締結後に派生するであろう、台湾の国家安全 に関わる米台軍間の取引、徴兵制の廃止の是非、台湾の人々の 国家安全に関する考え方に与える影響など、政治的な配慮が必 要である。 (2)台湾国内の中華民国憲法第四条に関わる国家領土の規範、六十 三条の宣戦案、講和案の規範、国会における憲法改正の手続き、
政党間の論争、さらに予想される住民投票など、さまざまな内 部の政治的議論はすべて、極めて重要な政治課題となる37。 (3)両 岸 の 和 平 協 議 の 複 雑 な 交 渉 議 題 と そ れ に 関 連 す る 内 容 の 構 築は、国際および国内の政治工学により綿密な設計をしなけれ ばならない。民主化した政治と政権交代という台湾政治の現実 は、大変な努力を経て統一性を持ち、またとない政治体制を確 立したのである。 (4)両岸の地位平等の実現は、客観的にみて両岸の政治的実力に大 きな落差があるため、対等な政治的地位を考慮するうえで、双 方がどちらも不利だと感じ易く、政治制度の構築が難しい。大 陸 側 は 台 湾 に 連 合 や 連 邦 の よ う な 国 家 主 権 を 構 築 す る 地 位 を 与える意図はなく、これは国内政治の要素でも中国の少数民族 地域における政治的な困難に直面する。 (5)双方の政府と人民は、政治的な共通認識の土台がほとんどない 上、政治体制が極めて異なっているために、民主政治体制に関 して同意の形成が難しい。双方が一定の政治的信頼の基礎が欠 けている中で、和平協議の核心についていきなり議論すること については、両岸の指導者は無闇に取り組むことはないであろ う。 (6)米国と日本の関心や、東アジア地域の安全など、国際的な要素 は非常に複雑で、これが隠れた政治的制約を加えることとなる ため、台湾も国際社会の背景要素を軽視することはできない38。
37 「陳明通︰和平協議商談前 必須先公投」『自由時報』2010 年 5 月 10 日、http://www. libertytimes.com.tw/2010/new/may/10/today-p6.htm。
38 米国が制定した台湾関係法(Taiwan Relations Act)は、過去 30 年の台湾海峡の安全
保障の中でも最も重要な国際的な誓約である。台湾関係法の英文全文は、Taiwan Relations Act: Public Law 96-8 96th Congress, Sec. 4 under APPLICATION OF LAWS;
この和平協議の締結は、現行の日米による東アジアの安全メカ ニズムへの波及が避けられないため、台湾は国際社会の安全と いう要素を見過ごすことはできない。 (7)交 渉 の プ ロ セ ス で 内 部 政 治 の 深 刻 な 矛 盾 を 抱 え る 可 能 性 も あ る。台湾は 90 年代の政治民主化の結果、さまざまな政党が主 権という議論で深刻な対立をみせており、分離・自決運動を引 き起こしかねない。地殻変動後の火口のように制御が難しく、 両 岸 関 係 の 深 刻 な 軍 事 的 ま た は 政 治 的 な 衝 突 に 発 展 し か ね な い。ケベック州がカナダ連邦政府からの離脱を住民投票で決め た論争は、世界の民主政治の上でも解決が困難な実例となって いる39。さらに 90 年代にチェチェン共和国が独立したことで、 ロシアとの間で 10 数年にわたる戦争という悲劇が起こったこ とは引き合いに出すまでもない40。
五 結論と提案:代替案による解決モデル
慎重に言えば、両岸の政治交渉または和平協議の実質的な解決は、 国際政治と国際法、そして双方の憲法の枠組みの中で、慎重にかつ 具体的な内容の検討を行って初めて、双方の政府が政治的な難題を 乗り越えるという実質的な意義を持つ。しかし現在の双方の政治的 な認識と対価に関する考え方の落差が大き過ぎるため、両岸の和平 協議の本格的な開始が難しくなっている。厳密に言うと、両岸の和INTERNATIONAL AGREEMENTS, American Resource Center, 10 March 2010, http://usinfo.org/docs/basic/tra_e.htm を参照のこと。
39 張顕超・辛翠玲『加拿大魁北克省 1995 年公投事件的背景研究』(台灣民主基金會、
2005 年)、頁 1~238。
40 John B. Dunlop, Russia confronts Chechnya: roots of a separatist conflict (Cambridge:
平交渉の結果を受け入れるということは、台湾政府と人民が最終的 に統一以外の政治的な選択を放棄する、もしくは台湾を中国主権下 の政治的に二義的な存在に貶めるものである。現時点でいかなる台 湾の指導者、政党、人々も、軽々しくこの結果を受け入れることが ないことは間違いない。双方の政府が十分な政治認識と準備をもっ て 取 り 組 む こ と が で き な け れ ば 、 こ の 政 治 上 の 「 パ ン ド ラ の 箱 (Pandora’s box)」を易々と開けるべきではない。 実質的には、東西ドイツの統一前の政治交渉モデル、またはロシ アと旧ソ連の構成国との政治交渉モデルこそ、現代の国際政治にお いて国家の政治統合の問題を解決する比較的よい例であるといえる。 ただ難しいのは、大陸側は両岸関係においてこの類の国際モデルを 採用する意図が全くないことである。両岸の今後の政治統合問題を 本当に解決したいと願うなら、両岸の政治と法律にかかわる複雑で 巨大な一大プロジェクトが待っている。双方ともに受け入れられる 一連の解決策を見出すことができなければ、長期的な両岸の平和の 発展という大きな流れの助けにはならない。その上、本当に政治が 成熟したというタイミングまで時間的な距離がある現在、ともすれ ばさらに長い時間を待つことに費やさなければならないのかもしれ ない41。 両岸の政治統合モデルは、トップダウンとボトムアップの 2 つの
41 馬総統は『International Politik』(ドイツ)2009 年 9 月号のインタビューに答え、両岸 の和平協議締結の時機はまだ熟しておらず、中国大陸は台湾の民主体制を尊重し、 中華民国が存在する事実を否定せず、またあらかじめ設けた政治的前提を捨て、対 台ミサイルの配備を撤去させるべきであり、「対等、尊厳、互恵」の原則のもとで初 めて関連交渉の進行が可能になると表明した。兩岸の発展は法律や歴史以外にも、 台湾人民の決定を尊重する必要があると述べた。「總統接受國際政治期刊專訪」総統 府、2009 年 12 月 31 日、http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid= 19547&rmid=514。
モデルが考えられるが、これをさらに分類すると4 つの方法となる。 (1)トップダウン方式とは、これまで研究されてきたような東西ド イツ基本条約モデルで、憲法と政治の枠組みを通じて政治的な 難題を処理したのち、各種の交流を通じて統合を目指すもので ある。ただ、このモデルは現時点の両岸関係からみて、双方の 政治的タイミングとしては時期尚早である。少なくとも大陸側 が発表した「胡六点」からみれば、まだこういった見解を受け 入れる時期ではない。 (2)ボトムアップ方式とは、事務協議と両岸交流という従来の手段 を利用することで、進展は遅いがリスクはさほど大きくはない。 安全・穏健という点が最大の政治的メリットだが、大陸側は既 に こ の や り 方 で 下 層 レ ベ ル で の 両 岸 事 務 交 渉 を 続 け る こ と に 不満があるようである。台湾内部の民主選挙の変化、および台 湾意識の台頭を受け、大陸側は政治的な作業を行わないまま両 岸関係の発展を静観することが難しくなっている。 (3)前述 2 者の中間として、まず両岸が中間協議(または暫定枠組 み)を締結し、当面は「台湾は独立せず、中国は武力行使せず」 の政治的配慮をふまえ、双方は一定期間内において、両岸の主 権衝突を一旦棚上げする。ただこの方式は政治的な操作の難度 が高い。また「一つの中国」の原則を受け入れると、政治上は 台湾独立への反対を表明することになるため、台湾内部の民主 的手続きが最大の困難となるとみられる。 (4)もう一つの選択肢として、両岸が共通の政治ビジョンを提示す る。双方の指導者が各自提示、また共同による政治声明を加え ることもできるが、政治的あるいは法的な拘束力は強くない。 続いて双方の累進的な協議と、経済や社会、文化の交流を通じ、 徐々に両岸関係における各種の政治的可能性を構築、実現して
いくこととなる。
両岸の政治を将来的にどのように統合していくかについて、政治 学 者 の カ ー ル ・ ポ パ ー42が 提 唱 し た 「 ピ ー ス ミ ー ル 社 会 工 学 」
(piecemeal social engineering)43が、最も安全な道筋として両岸の今
後の段階的な枠組みに適しているのかもしれない。その理由は、現 在の両岸の政治や社会、経済は互いにかけ離れており、双方の政治 と社会の発達がともに、経済体制の変化と民主化の途中の重要な段 階にあるからである44。両岸がもし短期間に共同の政治ルートのすり 合わせを完了したいなら、双方の指導者と国際社会に大きな政治的 困難がのしかかる上、想定できないリスクにより双方の善意による 政治構想が覆されかねない。両岸関係の未来を本当に予測し掌握す ることは誰にもできないことであるため、両岸の指導者は過度な自 信を持って自身の政治的能力を越えてまで、双方が承諾しがたい一 度限りの政治プロジェクトを引き受けるべきではない。 1 両岸の共同ビジョンは青写真とすることが可能 両岸は共通の青写真または政治ビジョンを持つこともできる。た だし、双方の政治・経済統合において参考にできる座標軸とするだ
42 Karl Popper, Stanford Encyclopedia of Philosophy, first published Nov 13, 1997; substantive
revision, 9 February 2009, http://plato.stanford.edu/entries/popper.
43 Karl Popper, The Open Society and Its Enemies: The spell of Plato (Princeton: Princeton
University Press: 1971, pp.169~201. 44 馬総統は『International Politik』(ドイツ)2009 年 9 月号のインタビューに答え、現段 階の両岸間は「求同存異(小異を残して大同につく)」、つまり最大公約数を求める べきだと主張した。「同」の部分が多くなるほど、「異」の部分は徐々に取り除かれ、 両岸関係の発展はますます可能性が広がり、両岸の和平協定にプラスの利益がある。 注41、前掲資料。
けで、法的あるいは政治的に大きな拘束力を期待してはならない。 例えば、両岸関係の共同発展綱領などについて、双方の政府が真剣 に検討し、両岸の将来に多元的な発展の余地を与えることが可能で ある。 2 事務的・基礎的な法律枠組みを統合の土台に 両岸の事務的・基礎的な法律の枠組みには一歩ずつ取り組み、政 治的な基本作業は 1 項目ずつ実現させる。これまでの両会の長年の 交流関係からみると、両岸の法的な基礎を土台とすれば、両岸の民 間の往来と社会の交流が行き過ぎることはない。両岸関係の統合と は長くて遠い法律・政治プロジェクトの道のりであり、初期段階の 基礎がなければ、段階的に進めることもできない。一歩ずつ徐々に 事務協議と両岸の民意の共通認識の構築を進めなければならず、政 治的な手段で一気にゴールに到達させることはできない。両岸の政 治統合作業とは双方の指導者に共通認識があるかどうかの問題では なく、両岸の社会を融合させるという極めて難しい大プロジェクト である。小さなプロジェクト項目の積み重ねがなければ、全体のプ ロジェクトを最終的に完成させることはできない。同様に、台湾は 既に政治・経済で台頭する中国に向き合い、少なくとも中国大陸が 受け入れられる、また台湾に有利な戦略をもって説得にあたらなけ ればならない。もちろん台湾が中国と真っ向から対峙するというも う一つの道を選択するならば、また違った構想と方法を採ることと なる。
3 金門・馬祖の処理と海西経済区の発展を優先的に 先ごろ中国の福建省は「海峡西岸経済区」戦略の構想を提示し45、 この構想の成功は両岸の地域経済関係における協力にかかっている。 福建は台湾にとって中国の入り口でるため、福建省の経済展開や海 峡西岸経済特区計画に関する検討と協力は、台湾にとって一定の必 要性を持っている。しかし、福建省の「海西」推進に協力すること は、台湾がこれまで政治的に最も敏感になっている「西進」政策に 触れることとなる。政治や軍事、経済、社会などの戦略的な方面か ら、両岸が福建と台湾地域の政治経済関係の交流を促せば、80 年代 における広東省・香港間関係の発展と同じように、政治・経済への 影響は巨大であり、また長期にわたるものとなる。大陸側は中央・ 福建(地方)共同での対台湾の政治的プラットフォームの構築に積 極的に取り組む姿勢を見せているが、これは同じ政治認識に基づく ものである46。 双方は両岸共同で平和的に地域経済発展の戦略的思考を構築する ところからはじめ、一方で大局から両岸関係の緊張を緩和、もう一 方で台湾と福建という小さな範囲の政治・経済関係に着手し、徐々 に双方が解決を望む軍事や政治、経済、社会の各方面での衝突を処 理することもできる。両岸の60 年以上に亘る政治的な分離と敵対は 金門島の戦いと福建の最前線から始まっている以上、双方はこの歴