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新政権下の日韓関係:日韓両国は何故対立するか

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新政権下の日韓関係:

日韓両国は何故対立するか

木 村 幹

(神戸大学大学院国際協力研究科教授)

【要約】

2012 年の李明博韓国前大統領の竹島(韓国名:独島)上陸以降、 日 韓関係は一 向に改善の 兆しを見せ ていない。 そしてこの 状況は 、 同年末から2013 年初頭にかけて日韓両国の新政権の成立以降も変化 し ていない。 何故に日韓 両国の関係 は悪化を続 けているの か。両 国 間 の経済・安 全保障上の 互いの重要 性の低下と 、中国の台 頭に伴 う 北東アジア認識の相違という構造的変化がその背後に存在する。 キーワード:日韓関係、日本、韓国、中国、アメリカ

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一 はじめに

「歴史問題や領土問題で歴史に逆行する発言をする日本 の指導部のために信頼を築けていない。首脳が2 人で座っ て解決することができない状況だ。…被害者は青春をめち ゃくちゃにされ、深い傷を受けているのに、日本は謝罪ど ころか、ずっと侮辱している」1 2013 年 9 月 30 日、ソウルで行われた朴槿恵大統領のヘーゲル米国 防長官との会談で飛び出した発言である。 韓国で朴槿惠政権が成立したのは2013 年 2 月、日本で安倍政権が 誕生したのは 2012 年 12 月末の事である。しかしながら、それから 既に1 年近く以上経過した 2013 年 12 月の段階でも、朴槿惠大統領 と 安倍首相の 首脳会談は 未だ実現し ていない。 否、それど ころで は な い。両国の 間では、首 脳会談実現 のための準 備さえ満足 に行わ れ て おらず、取 り分け韓国 政府は強硬 な姿勢を取 っている。 周知の よ う に、少なく とも建前上 は、何時で も韓国との 首脳会談を 行う準 備 があることを繰り返し明言している2日本側とは対照的に、韓国側は 首脳会談開催の明確な条件すら示していない。10 月 14 日の段階で

1 NHK Online「韓国大統領 首脳会談に否定的」2013 年 9 月 13 日、http://www3. nhk.or.jp/news/html/20130930/k10014925351000.html(最終確認 2013 年 12 月 7 日)。 2 例えば、2013 年 10 月 22 日、安倍は「最も大切な隣国で1つの事に問題があったか らといって関係すべてを閉ざしてしまうのは間違っている。対話のドアはいつも開 いており、韓国側にも同様の対応を取ってもらいたい」と述べている。NHK Online 「首相 集団的自衛権行使は法整備必要」2013 年 10 月 22 日、http://www3.nhk.or.jp/ news/html/20131022/k10015456881000.html(最終確認 2013 年 10 月 24 日)。また、防 衛省・自衛隊「大臣臨時会見概要」2013 年 8 月 29 日、http://www.mod.go.jp/j/press/ kisha/2013/08/29.html(最終確認 2013 年 10 月 24 日)

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も、韓国の尹炳世外交部長官は、「現在のところ日本の真剣な措置が 不足しているため、条件が熟していないと見ている」と述べており、 韓国政府の姿勢は極めて強硬なものとなっている。1987 年における 韓 国の民主化 以後、日韓 両国は韓国 にて新しい 大統領が就 任する 度 に 、早い段階 から両国首 脳による会 談の準備を 進めてきた から、 こ の事態は極めて異例なものということが出来る。 このような 事態は、日 韓両国の国 民感情にも 影響した。 両国国 民 の相手側国家や政府に対する感情も大きく悪化し(グラフ 1、表 1)、 こ のような状 況は両国政 府をして相 手国に対す る積極的な 融和政 策 を 取る余地を 狭めさせる こととなっ ている。結 果、今日の 両国に お い ては、関係 改善のため に積極的に 乗り出そう とする動き は極め て 小さなものとなっている。そのことは、日中関係と比べても明確で グラフ1 日本人の韓国に対する好感度 (出典)内閣府「外交に関する世論調査」(2013 年 10 月)http://www8.cao.go.jp/ survey/h25/h25-gaiko/2-1.html(最終確認 2013 年 12 月 7 日)より、筆者作成。

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あ ろう。例え ば、尖閣問 題が悪化し て以来、こ れを憂慮し た日本 の 財界からは幾度か中国への使節団が派遣された3。しかしながら、同 じ ような積極 的な動きは 韓国に対し ては存在し ない。政界 のみな ら ず 、財界にお いても日韓 関係改善に 向けての動 きは小さく 、だか ら こそ事態は深刻なものとなっている。 表1 周辺国指導者に対する韓国人の好感度(2013 年 9 月現在) 好感を持っている 好感を持っていない わからない オバマ 71 14 14 習近平 48 25 27 プーチン 31 31 38 金正恩 6 86 8 安倍 3 89 8 % % % (出典)한국갤럽조사연구소(韓国ギャラップ調査研究所)、http://www.gallup.co.kr/ (最終確認2013 年 12 月 7 日)。

二 比較の対象としての第一次安倍政権

先 の朴槿 恵大 統領自 身の 発言に も典 型的に 表れ ている よう に、通 常 、韓国にお いては、日 韓関係悪化 の原因は安 倍政権の「 右傾化 」 に求められている4。とはいえここで考えなければならないことがあ る。安倍が首相に就任したのは、2006 年に次いで 2 回目、しかしこ の 7 年間の間に安倍の政治的主張は殆ど変化していない。即ち、安

3 例えば、時事ドットコム「汪洋副首相と会談へ=『副首相』は2 年ぶり-日中経協」 2013 年 11 月 11 日、http://www.jiji.com/jc/zc?k=201311/2013111800542(最終確認 2013 年12 月 7 日)。 4 「尹외교 “日 지도자 시대착오적 언행 개탄”」(尹外相「日本指導者 の 時代錯 誤的言行を慨嘆」)『동아일보』(東亜日報)2013 年 4 月 27 日。

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倍 は前回政権 に就いた際 にも、憲法 改正論者で あったし、 集団的 自 衛権の適用を主張し、また従軍慰安婦の強制連行を否定していた5。 言 い換えるな ら、少なく ともこの両 時期の安倍 の主張を比 較した 限 り では、彼の 主張は「右 傾化」など していない 。勿論その ことは 彼 が 最初から「 右寄りの」 主張を有す る政治家だ ということ を否定 は し ない。しか しながら、 安倍の主張 の変化が存 在しない以 上、今 日 の 状況が安倍 、あるいは 彼の政権が 「右傾化」 したことの 結果だ 、 ということはできない。 とはいえ、 本稿で議論 したいのは このような 安倍の政治 的性向 に ついてではない。重要なことは 2006 年と 2013 年における安倍の政 治 的主張がほ ぼ同一であ るにもかか わらず、こ の安倍に対 する韓 国 政 府やメディ アの理解が 大きく異な ってしまっ ていること である 。 こ の点を理解 するために は、前回の 政権獲得時 に、韓国政 府やメ デ ィアがどのような主張をしていたかを見ればよくわかる。 振り返れば、2006 年に安倍が最初に政権についた当時の韓国の大 統 領は盧武鉉 だった。言 うまでもな く、盧武鉉 は韓国の歴 代大統 領 の 中でも、日 韓両国の間 に横たわる 歴史認識問 題や領土問 題に対 し て 、最も強硬 な姿勢を有 していた人 物の一人だ った。その ことは 、 第 一次の安倍 政権期に先 立つ、小泉 政権期の日 韓関係を見 れば容 易 に知ることが出来る。周知のように、2003 年 2 月に政権の座に就い

5 例えば、1997 年 5 月、安倍は「(河野)官房長官談話は誤報から発した。強制性を 検証する文書が出てきていない」「河野談話の前提がかなり崩れてきている」、と衆 議院決算委第2 分科会にて述べている。安倍は同じく、2006 年 2 月の衆議院予算委 員会にて、A 級戦犯について「日本において彼らが犯罪人であるかと言えば、それ はそうではないだろう」と述べ、併せて村山談話と関連して「いわゆる侵略戦争を どう定義づけるかという問題も当然ある。まだ学問的に確定しているとは言えない 状況ではないか」とも述べている。「歴史認識『本音』は封印 安倍首相、中韓歴 訪控え」『朝日新聞』2006 年 10 月 5 日。

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た盧武鉉は、当初こそ、「自らの政権下においては歴史認識問題を争 点 化しない」 ことを強調 し、日韓関 係の修復を 図ったもの の、や が て、2005 年 3 月、島根県議会が所謂「竹島(韓国名:独島)の日」 条 例を通過さ せると、日 本への批判 を強めるよ うになり、 更に 翌 4 月 に、当時注 目を浴びて いた「新し い教科書を つくる会」 による 教 科書が検定を通過すると、その方向性を更に明確化させた。2006 年 に は竹島問題 で日本政府 への批判を 強める韓国 政府と日本 政府の 関 係は、一触即発の事態へと発展する。即ち、2006 年 4 月、日本政府 が 竹島近海に 測量船を派 遣すること を決定する と、盧武鉉 はこの 測 量 船が竹島近 海の韓国側 の認識する 「領海」に 入った場合 には、 韓 国 側の警備艇 を衝突させ てでも撃沈 するように 命じる事態 となり 、 日 韓両国は文 字通り、本 格的な紛争 の一歩手前 まで至るこ ととな っ た 。当時の盧 武鉉政権は 、北朝鮮政 策において も、宥和政 策を掲 げ て 、拉致問題 との絡みで 経済制裁を 強化する日 本政府と激 しく対 立 し 、日韓両国 は、今日と 同じく韓国 側の拒否に より、日韓 首脳に よ る会談さえ実現できない状況へと追い込まれていた。小泉は2006 年 8 月 15 日には、兼ねてより自らが公約していた靖国神社参拝を強行 し、日韓関係は袋小路へと陥った。 このような状況を受けて、2006 年 9 月に成立した安倍政権を、当 時の韓国政府や世論は好意的に受け止めた。小泉は既に、2005 年 9 月 、郵政改革 を最大の焦 点として行 われた総選 挙に大勝を 収めた 直 後、自らが翌年9 月に退陣することを明らかにしており6、当時の韓 国 政府はこの 日本の政権 交代を、両 国の関係改 善の好機と して受 け 止めた7。事実、2006 年 8 月 15 日の小泉による靖国参拝の直後にお

6 「総選挙勝利でも来年9 月退陣 小泉首相が表明」『朝日新聞』2005 年 8 月 20 日。 7 「中韓、『小泉後』を視野 麻生氏、存在感アピール 外相会談実現」『朝日新聞』

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い ても、韓国 外交通商部 は、まもな く成立する 安倍政権と の関係 を 損 なうことを 恐れて、わ ざわざ「日 本の責任あ る指導者た ちが韓 日 関 係を阻害す ることが二 度とないよ うに」と述 べ、将来に 含みを 持 たせることとなっている8 このような状況は、2006 年 9 月 26 日に正式に第一次安倍政権が成 立 すると、韓 国側からの 日韓関係修 復へのより 強い期待を 生み出 し た。この政権の成立に際して、韓国政府は「(新政権下の日韓関係は) 日 本側がどう するかにか かっている 。我々が求 めているこ とを日 本 は よく知って いる」との 声明を発表 し、両国は 第一次安倍 政権成 立 の僅か2 日後に、早期に首脳会談を開催することで一致した9。事実、 韓 国政府は小 泉政権下の 官房長官で あった安倍 に対して、 総理就 任 の以前から首脳会談の開催を打診しており10、日本政府側もこのよう な 韓国側の期 待に応える 形で、最初 の外遊先と して、同じ く小泉 政 権 期に大きく 関係が悪化 した中国と 並んで韓国 を選択し、 安倍首 相 は10 月 8 日、9 日の両日、中韓両国を相次いで訪問し首脳会談を開 催した。 第 一次安 倍政 権への 好意 的な姿 勢は 韓国メ ディ アにお いて も同様 だ った。例え ば、安倍が 政権に就任 する直前、 韓国メディ アの多 く は 、この政権 下における 日韓関係の 打開への期 待を、その 民族主 義 的な姿勢に対する「憂慮」と共に示しており11、第一次安倍政権に対

2006 年 5 月 25 日。 8 「小泉首相、靖国参拝 中韓『次で』打開期待」『朝日新聞』2006 年 8 月 16 日。 9 「中韓、関係改善に期待感 安倍内閣発足」『朝日新聞』2006 年 9 月 28 日。 10 「정부, 아베 관방장관에 정상회담 타진」(政府、安倍官房長官 に 首脳会談打 診)『세계일보』(世界日報)2006 年 9 月 5 日。 11 例 え ば 、「日 아베시대 개막/‘전쟁할 수 있는 나라로' 깃발 올렸다」(日本、 安倍時代開幕/「戦争できる国に」と旗揚げ)『동아일보』(東亜日報)2006 年 9 月 21 日、「<포럼>예고된 아베정권과 對 マ 日 マ 외교전략」(フォーラム:予告され

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す る関心は極 めて高い水 準にあった 。例えば、 韓国の有力 紙の一 つ である東亜日報は自らの社説で次のように述べている。 「盧大統領も『日本とは付き合って見なければわからな い』といった後ろ向きの言葉で日本を刺激したり、対話の 門を閉じたりする自閉症的態度を捨てるべきだ。中国と日 本 が 靖 国 神 社 参 拝 問 題 で 対 立 し な が ら も 実 益 に 関 わ る 事 案では『ウィンウィン』の関係を築こうとする実用的戦略 を駆使している点に注目しなければならない。韓国が中国 と 北 朝 鮮 の 側 に 立 っ て い る と い う 認 識 を 日 本 に 与 え る の は賢明でない。 安倍政権のスタートを契機に韓日両国が『閉じられた民 族主義』の競争から抜け出して長期的共同利益次元で互い に理解して協力する方法を探さなければならない」12

2006 年と 2013 年の違い

以上のこと からもわか るように、 一見類似し ているかの ように 見 え る第一次安 倍政権誕生 当時と現在 との間の違 いは、安倍 政権や 安 倍個人の政治的志向にあるのではない。そしてそのことは、2 度の安

た安倍政権の対 マ 日 マ 外交戦略)『문화일보』(文化日報)2006 年 9 月 15 日、「[사설] '아베의 일본' 기대는 작고 걱정은 크다」(社説:「安倍の日本」期待は小さ く 心配は大きい)『한국일보』(韓国日報)2006 年 9 月 21 日。 12 「[사설] 아베시대, 韓日 ‘닫힌 민족주의' 탈피해야」(社説:安倍時代、韓日 「閉じた民族主義」脱皮せよ)『동아일보』(東亜日報)2006 年 9 月 21 日。なお、本稿 に お い て は 2010 年以前 の 韓国 の 新聞記事 に つ い て は 、한국언론진흥재 단(韓国言論振興財団)「기사통합검책」(記事統合検索)、http://www.kinds.or.k r/(最終確認 2013 年 12 月 7 日)によっている。

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倍 政権成立に 先立つ時期 における日 韓関係が、 共に大きな 問題に 直 面 していたこ とを見れば 更に明瞭に なる。小泉 政権期と同 様に、 野 田 政権期にお ける日韓両 国の関係も 、李明博の 竹島訪問や 所謂「 天 皇謝罪発言」、更には従軍慰安婦問題を巡る見解の相違により悪化し た 状態にあっ た。その意 味では、野 田政権から 第二次安倍 政権へ の 移 行もまた、 韓国側によ って両国の 関係改善の 好機と看做 される 可 能 性が存在し たことにな る。実際、 日本政府は ほぼ同時期 に誕生 し た 朴槿恵政権 の成立を、 日韓関係の 好機と看做 し、朴槿恵 の大統 領 当 選直後には 、日韓議員 連盟幹事で あった額賀 福志郎を安 倍首相 の 特 使として派 遣し、また 同大統領の 就任式には 麻生太郎副 首相を や はりソウルに派遣して、日韓関係の修復を打診している。 しかしなが ら、第二次 安倍政権の 成立期が第 一次政権期 と大き く 異 なったのは 、韓国側の 日本の新政 権成立に対 する姿勢が 全く異 な っ ていたこと だった。即 ち、大統領 に当選した 朴槿恵は額 賀の訪 韓 に 対する答礼 として派遣 した黄祐呂 セヌリ党代 表に特使の 資格を 与 えず、首脳会談の開催を打診した麻生13に対する姿勢も冷淡なものに 終始した。そして、この後、3 月 27 日に韓国外交部から出されたレ ポ ートには、 日韓間にお ける「歴史 認識問題な どに対して は原則 に 基 づ い た 断 固 た る 対 処 を 取 る 方 針 」 で あ る こ と が 公 式 に 宣 言 さ れ た。つまり、韓国政府はこの時点で、「歴史認識問題など」の日韓間 の 懸案につい ては、些か の譲歩を行 う準備もな いことを明 らかに し た訳である。 重要なのは、2006 年においては第一次安倍政権の成立を日韓関係

13 但し、この時に行われた朴槿恵と麻生の会談では、麻生による歴史認識に対する発 言が、朴槿恵の心情を大きく害し、これが後の日韓関係に大きな影響を与えた、と いう分析もある。「日韓摩擦、一番の理由は朴槿恵大統領の切れ長な眼差しの怒り」 『産経新聞』2013 年 4 月 29 日。

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改善の好機だと看做した韓国政府が、2013 年には同じ考えを持たな か った、とい うことであ る。同じこ とは韓国メ ディアにつ いても い うことができた。例えば、2006 年の第一次安倍政権成立時には、時 の 盧武鉉政権 の「後ろ向 き」の政策 を批判し、 日本との間 での実 利 外交を主張した東亜日報は、2012 年 12 月に行われた日本の総選挙に て 自民党が圧 勝し、総裁 であった安 倍の総理就 任が確実視 された 直 後、「日本『安倍自民党』の軍国主義回帰を憂慮する」という社説を 掲載し、次のように述べている。 「 安 倍 の 再 執 権 の た め の 青 写 真 は 日 本 を 怪 物 に 変 貌 さ せる可能性が大きい。彼は憲法を改正して自衛隊を国防軍 に変更して、集団的自衛権を確保すると公約した。教科書 検定基準を変えてアジア周辺国に対する配慮を入れた『近 隣諸国条項』を修正すると約束した。軍国主義時代に行っ た 慰 安 婦 動 員 に は 強 制 性 が な い と い う 反 論 と 反 証 を 行 い、島根県が条例で定めた2 月 22 日の『竹島の日』を政 府行事に昇格させるという方針も明らかにした。中国との 領土紛争に直面する尖閣列島(中国名:釣魚島)に公務員 を常駐させて周辺漁業環境を整備するとも強調した。安倍 は公約集に『日本を取り戻す』というタイトルをつけたが こ れ は 戦 争 責 任 を 否 定 し て 隣 国 で あ る 韓 国 と 中 国 を 足 蹴 にしたも同然だ」14 勿 論、こ のよ うな東 亜日 報の社 説は 、今日 の韓 国メデ ィア におい

14 「[사설]日 '아베 자민당' 軍國 회귀를 우려한다」(社説:日本「安倍自民党」の 軍国主義回帰を憂慮する)『동아일보』(東亜日報)2013 年 12 月 17 日。

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て 孤立したも のではない 。現在の韓 国メディア は安倍政権 の成立 を 日 本 社 会 が 右 傾 化 し て い る こ と の 証 左 と し て 当 然 視 す る の み な ら ず 、その政権 の政策に対 し韓国をは じめとする アジア諸国 を脅威 に 晒す危険なものであるとして強力に非難している。

四 世代交代の効果

それでは類 似した政策 を有する第 一次と第二 次の安倍政 権に対 す る 韓国政府や メディアの 姿勢はどう してこれほ どまでに大 きく異 な ってしまったのだろうか。 この点にお いて、先の 安倍自身の 政治的性向 の安定と並 んで重 要 なことは、少なくとも2013 年初頭までの間に、歴史認識問題や領土 問 題 を 巡 る 基 本 的 状 況 が 大 き く 変 化 し た 訳 で は な い15、 と い う こ と だ 。即ち、「 新しい教科 書をつくる 会」のそれ に代表され る民族 主 義的な教科書の検定通過は2001 年以降繰り返し行われているし、自 民 党内におけ る河野談話 や村山談話 の見直しを 求める議論 も以前 と 同 様に続けら れている。 靖国神社参 拝も首相で ある安倍自 身は就 任 以 降自制して おり、逆に 閣僚からの 参拝者が出 ていること は以前 の 内 閣 と 同 様 で あ る 。 領 土 問 題 を 巡 る 日 韓 両 国 の 姿 勢 に も 変 化 が な く 、日韓両国 の軍事的バ ランスが日 本側に傾き 、韓国に対 する脅 威 が増している訳でもない。 に もかか わら ず、日 韓関 係が悪 化し ている 背景 には幾 つか 理由が あ る。最初に 明らかなの は、従来と 比べて、日 韓両国のエ リート 間 を 繋 ぐ ネ ッ ト ワ ー ク が 限 定 さ れ た も の に な っ て 来 て お り 、 こ の 結

15 但し、従軍慰安婦問題については、その後、慰安所の会計係であった人物の日記が 発見されている。新たな史料の発見がこの問題に対する新たな議論を齎す可能性が ある。「慰安所:朝鮮人男性従業員の日記発見 ビルマなどでつづる」『毎日新聞』 2013 年 8 月 8 日。

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果 、日韓両国 政府の「疎 通」レベル が大きく低 下している ことで あ る。 こ の 点 に つ い て は 、 再 び 過 去 の 事 例 と 比 較 し て み れ ば わ か り 易 い 。振り返れ ば、韓国の 植民地支配 からの解放 以後、日韓 間には 常 に 多くの問題 が存在して きた。にも 拘らず両国 の関係が破 綻に至 ら ず 今日まで来 られた理由 の一つは、 各々の危機 の時期にお いて、 問 題 の解決に向 けて動いた 人々がいた からである 。代表的な 人物と し ては、80 年代、日韓両国が所謂「60 億ドル借款問題」にて紛糾して い た当時の日 韓関係にお いて密使役 を果たした 瀬島龍三を 挙げる こ とができよう16。また、2000 年代においても電通の成田豊が日韓間 のパイプ役を果たしたことはよく知られている17 し かしな がら 、今日 の日 韓両国 には そのよ うな 人物は 見当 たらな く なっている 。そして、 その理由は 幾つか挙げ ることが出 来る。 最 初 に挙げられ るのは日韓 両国エリー トの世代交 代である。 瀬島が 元 日 本陸軍参謀 として軍事 政権期の韓 国に独自の 人脈を持ち 、また 成 田 が植民地期 の朝鮮半島 に生を受け 、生涯、韓 国との関係 に関心 を 向 けたように 、かつての 日本におい て日韓間の パイプ役を 果たし た 人 物の多くは 植民地支配 から続く日 韓の複雑な 過去と、何 らかの 繋 が りを持つ人 々が多かっ た。勿論、 同様の事情 が韓国側に あった こ と も忘れては ならない。 瀬島の交渉 相手となっ た全斗煥政 権期の 与 党 幹事長、権 翊鉉が瀬島 の日本陸軍 士官学校の 同期生であ ったこ と

16 この点については、中曽根康弘「巻頭随想 瀬島龍三さんと私―戦後日本の再構築 ・日韓関係修復の事」日本戦略研究フォーラム『季報:平成20 年「瀬島龍三特集」』 第36 巻(2008 年)、を参照のこと。また、小倉和夫『秘録・日韓 1 兆円資金』(講 談社、2013 年)。 17 「電通元社長、成田豊氏が死去 日韓 W 杯共催を後押し」『産経新聞』2011 年 11 月 21 日。

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に 典型的に表 われている ように、か つての日韓 関係のある 部分は 、 韓 国側におい ても同様の 過去の遺産 によって支 えられてい た。同 様 の 事情はつい 最近まで存 在した。李 明博政権下 において、 日本と の パイプ役を果たしていたのは大統領の実兄であり、1935 年に日本に て 生を受けた 李相得元国 会議長であ った。李相 得は韓日友 好議員 連 盟の会長をも務めており、2011 年末における汚職スキャンダルによ る 彼の失脚は 、日韓両国 間の議員外 交にも決定 的な影響を 与えた と 言われている。 し かしな がら 、今の 韓国 には彼 等の ように 「日 本語に よる 教育を 受 けた」世代 のエリート は最早存在 しない。つ まり、今日 の日韓 関 係 は、日韓両 国がはじめ て「植民地 世代」の助 けなしに運 営する こ とを強いられるものとなっているのである。

五 日本の重要性の低下

と はいえ 、そ れだけ では 古い世 代の 日韓の パイ プ役が いな くなっ た 理由は説明 できても、 どうして新 しいパイプ 役が生まれ ないの か は 説明できな い。そして 今日の状況 において、 韓国側が日 本との 積 極 的な協力を 拒否するも のとなって いる以上、 とりわけ重 要なの は 韓国側における状況がどのようなものとなっているか、である。 この点について注目すべきは、日韓両国にとって「互いの重要性」 が 急速に低下 しているこ とである。 なお、この 点について はこれ ま で 別稿にて幾 度も議論し ており、こ こではその 議論の概要 を説明 す るにとどめることにしよう18。まずこの問題を経済問題から見てみる

18 日韓関係に対する相互の重要性の低下が与える影響については、より詳しくは、以

下の拙稿を参照いただきたい。“Nationalistic Populism in Democratic Countries of East Asia,” Journal of Korean Politics, Vol. 16, No. 2, 2007, 'Why Are the Issues of “Historical Perceptions” between Japan and South Korea Persisting?’『国際協力論集』第 19 巻第 1

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な ら次のよう になる。韓 国経済にお いて日本の 重要性が低 下して い ることはよく知られている。1970 年代の一時期には韓国の輸出入の 実に40%を占めていた日本のシェアは、現在 10%を切る水準になっ ている(グラフ 2)。因みに韓国における日本のシェアがこのように 低 下している のは、韓国 内でよく誤 解されてい るような、 日本経 済 の 低迷による ものではな い。韓国に おける日本 のシェアは 日本経 済 が世界的な脚光を浴びていた80 年代においても 70 年代より大きく 低下しているし、何より同時期にアメリカのシェアも35%から 10% 以 下に低下し ているから だ。かつて の韓国は冷 戦下の最前 線に立 た さ れた貧しい 発展途上国 であり、中 国やソ連と は国交を持 つこと さ え できなかっ た。だから こそ日米両 国に過度に 依存せざる を得な か っ たというこ とになる。 だからこそ 、韓国が経 済発展を果 たし、 冷 戦 が終わり、 グローバル 化が進むと 、韓国の国 際関係は飛 躍的に 増 加 し、結果と して日米両 国への依存 度が低下し た、という 構造に な っている。 そ して同 じこ とは日 本に おいて もあ る程度 いう ことが でき る。韓 流 現象等で、 あたかも向 上している ように見え る日本にお ける韓 国 の 存在感は、 実際には思 われている ほどには向 上していな い。例 え ば 、日本の貿 易に占める 韓国のシェ ア は 6%程度でほぼ横ばいであ り、特に増加している訳ではない(グラフ 3)。携帯電話等の一部を 例外にすれば、サムソンやLG、現代といった韓国の世界的大企業は 依然として日本で大きな成功を収めていない。

号、2011 年 7 月、“How can we cope with historical disputes?: The Japanese and South Korean experience?” Marie Söderberg ed., Changing Power Relations in Northeast Asia, (London, Routledge, 2010) 等。

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グラフ2 韓国貿易における主要国のシェア ( 出 典 ) 통계청 ( 統 計 庁 )「 국 가 통 계포 털 」( 国 家 統 計 ポ ー タ ル )http://kosis.kr/ ( 最 終 確認2013 年 12 月 7 日)より筆者作成。 一 言でい うな ら、韓 国に おける 日本 の経済 的重 要性は 低下 してお り 、日本にお ける韓国の 重要性は伸 び悩んでい る。なかん ずく、 韓 国 における日 本の経済的 重要性の低 下は重要な ものであり 、その こ とは、先に引用した東亜日報の社説においても、2006 年の段階で強 調されていた韓国にとっての日本の重要性が、2012 年末の段階では き れいに消え うせている ことからも 知ることが できる。ま た、同 じ く 既に言及し た外交部の レポートに おいても、 韓国にとっ ての日 本 の 経済的重要 性は殆ど言 及されてい ない。日本 の重要性が 金融面 に おいてすら低下していることは、2012 年、2013 年と相次いで行われ た 日韓通貨ス ワップ協定 の延長交渉 が、韓国側 がこれを要 請せず 、

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打ち切りになってしまったことにもよく表れている19。グローバル化 が 進む今日で は、中国を はじめとし て、韓国が 通貨スワッ プ協定 等 を 結ぶことの できる相手 先は急速に 増加してお り、結果と して、 日 本の重要性はここでも低下しているという訳である。 だ からこ そ今 日の韓 国政 府やメ ディ アは日 韓関 係の修 復を 早急に 為 されねばな らないこと だとは考え ていない。 また同様の ことは 程 度 の 差 こ そ あ れ 、 日 本 政 府 や メ デ ィ ア に つ い て も い う こ と が で き る 。加えて、 日韓の間に 存在する相 互依存関係 は次第に一 般の人 々 にわかりにくいものとなっている。例えば、80 年代には、現代の自 動車のボンネットを開ければ、「MITSUBISHI」のロゴが入ったエン ジ ン が 載 っ て お り 、 両 者 の 相 互 依 存 関 係 は 誰 の 目 に も 明 ら か だ っ た 。勿論、現 在において も、例えば サムソンの 携帯電話、 ギャラ ク シ ーの蓋を開 ければ、そ こには日本 製の部品が 相当数入っ ている 。 だ が、我々に はその部品 がどの社の もので、ま た、ギャラ クシー の パ フォーマン スにどれだ け影響を与 えているか を知る術は ない。 こ う して日韓の 相互依存関 係は、目に 見えにくい ものとなり 、人々 に 認知されにくいものとなる。 だ からこ そ、 このよ うな 状況に おい て、人 々は この両 国の 関係改 善 のために積 極的に動こ うとはしな い。政治家 にせよ、経 済人に せ よ 、また、マ スメディア や知識人に せよ、彼等 を動かす最 も大き な 動 因が、それ を取り巻く 利益にある 以上、大き なそして新 しい利 益

19 財務省「二国間通貨スワップの時限的な増額部分の終了について」2012 年 10 月 9 日 、 http://www.mof.go.jp/international_policy/financial_cooperation_in_asia/bsa/swap_ korea_houdou_20121009.htm(最終確認 2013 年 12 月 7 日)、及び、同「30 億ドル相 当の日韓通貨スワップ取極を終了します」2013 年 6 月 24 日、http://www.mof.go. jp/international_policy/financial_cooperation_in_asia/swap/swap_korea_houdou_20130624 .htm(最終確認 2013 年 12 月 7 日)。

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が 生 ま れ な い 分 野 で 人 が 積 極 的 に 動 く こ と を 期 待 す る こ と は 難 し い 。同じこと は現場で外 交を担当す る外交官た ちについて も言う こ と ができる。 韓国におけ る日本の重 要性が下が れば、当然 、韓国 内 の日本専門家たちの地位も下がることになる20。勿論、日本における 韓 国専門家た ちも同じで ある。ジャ パン・スク ールやコリ ア・ス ク ー ルが退潮す れば、当然 のことなが ら両国を繋 ぐパイプは 更に細 く なることになる21

六 米中関係に対する理解の相違

22 更 に悪い こと に、同 じメ カニズ ムは 安全保 障の 分野で も働 いてい る 。重要なこ とは、日韓 両国におけ る今日の北 東アジアを 巡る理 解 が 大きくずれ てしまって いることで ある。そし てこの点を 巡る日 韓 両 国の理解の 最大の懸隔 の一つが、 米中関係を 巡るもので ある。 そ れ は 一 言 で い え ば 次 の よ う に な る 。 今 の 日 本 政 府 や 多 く の 日 本 人 は 、米中関係 を基本的に 対立的なも のと考えて いる。だか らこそ 日 本 が中国と対 立しても、 アメリカは 自らを支持 してくれる 筈だ、 と いう計算の下で動くことになる。 こ れに対 して 現在の 韓国 政府は 米中 両国の 間で 「連米 連中 」的な 路 線を選択し ている。そ こでは、米 中両国関係 は必ずしも 対立的 な も のとは理解 されておら ず、むしろ 、グローバ ル化の進む 世界に お

20 「외교부 권력 이동 … 재팬스쿨 지고 차이나스쿨 뜬다」(外交部権力移動・ジ ャパンスクール退潮し、チャイナスクール浮上)『중앙일보』(中央日報)2013 年4 月 23 日。 21 この点については、「竹島上陸、不意打ち 対日強硬路線に勢い 韓国大統領周囲、 知日派消え」『朝日新聞』2012 年 8 月 11 日をも参照のこと。 22 以下の2 章については、詳しくは、拙稿「韓国はなぜ中国に急接近するのか」アジ ア調査会『アジア時報』(2013 年 6 月)を参照のこと。

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いては、究極的には共存を目指す筈である、という理解が存在する。 だ からこそ、 韓国では中 国に接近す ることによ り米韓関係 は大き く 損なわれることはない、という理解が生まれる。 実 際、こ のよ うな米 中両 国と共 に同 盟レベ ルに 近い密 接な 関係を 持 つべきだと いう主張は 、既に李明 博政権下に おいて、韓 国の保 守 メディアによって頻繁になされてきた23。つまり、今日の朴槿恵政権 に おける米中 等距離外交 は、同政権 独自の政策 というより は、む し ろ、朝鮮日報24や東亜日報、更には中央日報といった、韓国の代表的 な 保守メディ アの主張に 忠実に沿っ たものなの である。逆 にこれ ら のメディアでは5、6 年までは頻繁に見られた「中国脅威論」が急速 に減少している25。朴槿恵政権が、保守政党による保守政権である以 上 、この政権 がこれらの メディアと 同じ方向で 動くことは 、ある 程 度、当然の結果だということが出来る。 こ うした 米中 関係に 対す る理解 の相 違は、 日韓 両国の 互い に対す る 理解にも大 きな影響を 与える。米 中の対立構 造を基本に 北東ア ジ ア の国際秩序 を考える日 本では、韓 国による中 国への接近 は、韓 国 が アメリカを 中心とする 陣営から離 脱、或いは 中立化を試 みるも の

23 「'연미화중(聯美和中)'을 넘어 '연미연중'으로」(「連米和中」 を 超 え 「連米連 中」へ)『동아일보』(東亜日報)2012 年 6 月 13 日、「한·중 수교 18 주년 전문 가 인터뷰」(韓中修交 18 周年専門家インタビュー)、『중앙일보』2010 年 8 月 26 日。 24 例えば、「'양다리 外交'」(「二股外交」)『조선일보』(朝鮮日報)2013 年 4 月 7 日。 25 逆 に 、「[한중수교 20 년&인천 '중국을 다시 보다'·6]중국의 발전은 우리에게 위협적인가?」(韓中修交 20 年&仁川:「中国再発見 6」中国の発展は我々に脅威か) 『경인일보』(京仁日報)2012 年 2 月 21 日、に見られるように、経済発展に伴う「中 国脅威論」を明確に否定し、その成長を「機会として捉えなければならない」とい う主張が増えている。

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として理解される26。これに対して、韓国から見れば領土問題等で中 国と対立する日本は米中間のトラブルメーカーに見える27。 そ してこ のよ うな米 中関 係に対 する 理解の 違い は、日 韓関 係にお け る障害物と して実際に 現れている 。例えば、 朴槿恵政権 が発足 す る 前後の時期 に、日本政 府は自ら唱 える「価値 観外交」に 則って 、 韓国との対話を試みた。2013 年 2 月 28 日、朴槿恵政権の成立から僅 か 3 日後に行われた国会での施政方針演説にて安倍首相は、「韓国 は 、自由や民 主主義とい った基本的 価値と利益 を共有する 最も重 要 な 隣国です。 朴槿惠新大 統領の就任 を心より歓 迎いたしま す」と 述 べ 、同じ「西 側民主主義 的な価値観 」を共有す る日韓両国 はそれ 故 に協力できるし、協力すべきだ、というメッセージを送っている28 背 景にあった のは、朴槿 恵政権は保 守政権だか ら、日本と 同じく 、 現 在の北東ア ジアを巡る 情勢を、米 中対立を機 軸に理解し て行動 す る筈だ、という予測である。 し かしな がら 、この メッ セージ が朴 槿恵政 権に 好意的 に受 け止め られることはなかった。理由は極めて簡単である。「西側民主主義的 な 価値観」を 有している 国が団結す る、という ことは、即 ち、こ れ を有していない国 ― 具体的には中国 ― に日本と協力して対抗す る 、というこ とを意味し ており、中 国との友好 関係を重視 する朴 槿

26 「『中国の取り込み警戒を』産経/『核問題で中韓は不一致』毎読」『産経新聞』2013 年8 月 22 日。 27 例えば、박창희(パク・チャンヒ)「미중관계와 한반도: 미국의 “전략적 재균 형”을 중심으로」(米中関係 と 韓半島: ア メ リ カ の 「戦略的再配置」 を 中心 に)『숙명안보학연구소 연례특별학술대회 한반도 안보의 새로운 지평』(淑明 安保学研究所年例特別学術大会:韓半島安保の新地平)、2012 年、http://www.kinu. or.kr/upload/neoboard/KNEVENT/%C0%DA%B7%E1%C1%FD2.pdf(最終確認 2013 年12 月 7 日)。 28 「安倍首相の施政方針演説」『朝日新聞』2013 年 3 月 1 日。

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恵 政権にはと ても応諾で きるもので はなかった からである 。そし て こ のような朴 槿恵政権の 対応は、大 統領自身の 志向の結果 という よ り、韓国の世論を忠実に反映した結果だった。事実、2013 年 6 月に 行 われた中韓 関係と日韓 関係に関わ る世論調査 において、 前者が 後 者より重要だとする回答が 83.0%であったのに対し、後者が前者よ り重要だとする回答は僅か11.7%に過ぎなかった29 米 中関係 を、 対立を 機軸 に見る か、 それと も共 存関係 を中 心に見 る かは、当然 、両国の軍 事的な協力 関係にも影 響を与える ことに な る 。米中関係 を、対立を 機軸に考え る日本から すれば、韓 国もま た 中 国の強大な 軍事力の圧 力に晒され ており、こ れに抗する ために は ア メリカ軍に 軍事基地を 提供する日 本との関係 は極めて重 要であ る 筈 だ、という 理解になる 。だから、 軍事情報保 護協定や軍 需支援 協 定 と い っ た 日 本 と の 軍 事 協 力 を 拒 む 韓 国 政 府 の 姿 勢 は 非 合 理 で あ る 、と考えら れる。逆に 、北東アジ アの脅威を 中国ではな く、北 朝 鮮を中心に考えれば、日本ができることは余り多くない。であれば、 韓 国にとって 日本との軍 事協力は特 に急ぐべき ことではな く、む し ろ 、朝鮮半島 における緊 張を不必要 に招くだけ の行為であ る、と い う理解になる。

七 中国に対する依存度の相違

日韓両国の理解の相違は、中国そのものについても大きい。一見、 そ のことは奇 妙に見える 。例えば再 び貿易のデ ータを取っ てみる な ら 、今日の日 韓両国の輸 出入総額に 対する中国 のシェアは 、等し く

29 Realmeter「"한중 정상회담 기대된다", 74.4%」(「韓中首脳会談 に 期待 す る 」 74.4%)http://www.realmeter.net/issue/view.asp?Table_Name=s_news2&N_Num=862&fil e_name=20130626130027.htm&Cpage=1(最終確認 2013 年 12 月 7 日)。

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20 数%を上回るものになっている。つまり、このデータを見るだけ な ら 、 両 国 に と っ て の 中 国 の 経 済 的 重 要 性 は 同 じ よ う に 見 え る か ら 、 そ の 中 国 観 に 大 き な 違 い が 出 る の は お か し い と い う こ と に な る 。しかしな がら、実際 には現在の 日韓両国に おける中国 の重要 性 に 対する認識 には大きな 違いがある 。よく知ら れているよ うに、 今 日 の韓国の人 々は最大の 貿易パート ナーである 中国の存在 を大き く 捉 え、自らの 経済成長を 支える最も 重要なエン ジンである と考え て い る。そして そのような 韓国人から 見れば、領 土問題や歴 史認識 問 題 で 中 国 と 対 立 を 続 け る 日 本 は 愚 か な 存 在 に 見 え る30。 実 際 、2012 年 の大規模な 反日デモ以 来、日中貿 易は縮小し ているし、 日本企 業 の対中投資も減少基調へと変化している。 グラフ3 日本貿易に占める韓国のシェア (出典)財務省「財務省貿易統計」http://www.customs.go.jp/toukei/info/(最終確認 2013 年12 月 7 日)、より筆者作成。

30 例えば、「일본 사상 최대 무역적자 … 대중국 수출 감소가 결정타」(日本史 上最大の貿易赤字:対中国輸出減少が 決定打)『중앙일보』(中央日報)2012 年 10 月 23 日。

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だ が、こ れに はから くり がある 。貿 易に占 める 中国の シェ アは同 じ でも、そも そもの経済 全体に対す る貿易その ものの重要 性が、 日 韓両国では全く異なるからである。現在、貿易総額がGDP に匹敵す るかこれを凌駕する今日の韓国とは異なり、日本のGDP に対する貿 易総額は僅か20 数パーセントにしか達していない(グラフ 4)。つま り、韓国にとって、貿易総額の20%強を占める中国との貿易はその ままGDP の 20%強を占める存在である。当然のことながらこのよう な 巨大な中国 の存在は、 いわば韓国 経済の生命 線とも言え るもの で あ る。だから こそ巨大財 閥をはじめ とするビジ ネス界と密 接な関 係 を 持つ、韓国 の保守メデ ィアは中韓 関係の一層 の強化を主 張する こ と になり、朴 槿恵政権は 保守政権で あるからこ そ、この韓 国の保 守 メディアの論調に忠実に行動することとなる。 グラフ4 各国の貿易依存度の推移

(出典)World Trade Organization, “Statistics database”, http://stat.wto.org/Home/WSDBHome. aspx?Language=E(最終確認 2013 年 12 月 7 日)より筆者作成。

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GDP に対しては 5%弱の大きさしか占めていない。簡単に言えば、 日本から見た中国は、韓国から見た中国の 1/4 以下に見えているこ とになる(表 2)。 表2 貿易額の GDP に対する比率 GDP 対中貿易 /GDP 対韓貿易 /GDP 対日貿易 /GDP 統計年度 中国 5,878,629 ー 3.52 5.07 2010 韓国 1,116,247 19.76 ー 9.68 2011 日本 5,867,154 4.69 1.44 ー 2011 百万米ドル % % % 年 (出典)JETRO「統計ナビ」http://www.jetro.go.jp/world/statistics/(最終確認 2013 年 12 月7 日)より筆者作成。 類 似性が 言わ れるこ との 多い両 国で あるが 、こ の点に おい て、今 日 の日韓が置 かれている 状況は大き く異なって いる。韓国 に比べ れ ば 、日本経済 はその圧倒 的な部分を 外需にでは なく内需に 頼って い る 。ここで忘 れてはなら ないことは 、日本が依 然として世 界第三 位 の巨大なGDP を有する経済大国だということである。また、日本に と って中国は 確かに最大 の貿易相手 国であるが 、例えば原 油に相 当 す る よ う な 戦 略 的 に 緊 要 な 資 源 を 排 他 的 に 依 存 し て い る 訳 で も な い 。言い換え るなら、日 中関係の悪 化により、 日中貿易が 減少し て も 、その影響 は日本にと って限定的 であり、場 合によって は他国 と の 貿易関係の 拡大により 、これを十 分補うこと ができる。 日本企 業 の多くは、2012 年の中国における大規模デモを受けて、生産拠点を 中 国から東南 アジア等に 移す動きを 強めている とも言われ ており 、 実際、2013 年上半期の ASEAN 諸国に対する投資額は中国に対する

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それの2 倍にも達している31。だからこそ、日本国内では中国との関 係 が多少損な われても、 領土や民族 のプライド を優先すべ きだ、 と 考える人が生まれ易い。結果として、「内向きな日本」は時に国際関 係よりも自らの論理を優先させる。 そ して同 時に 、この よう な状況 は日 韓両国 と中 国との 力関 係にも 影響を与えることになる。重要なのは再び日韓両国のGDP の大きさ の違いである。表 2 に明らかなように、韓国にとってGDP の 20%に も相当する中韓貿易は、中国にとっては3%強の比重しか持っていな い 。だからこ そ中韓両国 の外交交渉 において、 中韓関係に 大きく 依 存 する韓国に 対して、中 国は強い立 場を維持す ることがで きる。 対 して、依然として大きなGDP を持つ日本にとっての日中貿易の重要 性 は 、 韓 国 に と っ て の 中 韓 貿 易 と は 比 べ 物 に な ら な い 程 小 さ い か ら、対中外交において日本はある程度の自由度を持つことができる。 こ のよう な日 韓両国 の違 いは、 一旦 中国が 自ら に強硬 な姿 勢に出 た時に、わかり易い形で現れることとなる。例えば、2013 年 11 月の 中 国による防 空識別圏拡 大に対し、 尖閣諸島を 巡って中国 と激し い 対 立関係にあ る日本はこ れに激しく 抗議した。 しかしなが ら、同 じ く 東シナ海上 にある離於 島(中国名 :蘇岩礁) という暗礁 を巡っ て 中国との対立を抱えている韓国政府の立場は曖昧なものだった32。中 国 から「踏絵 」を示され た時にどう するか。韓 国の立場は 複雑な も のとならざるを得ない。

31 JETRO 『 ジ ェ ト ロ 世 界 貿 易 投 資 報 告 2013 』、 2013 年 、 http://www.jetro.go.jp/ world/gtir/2013/(最終確認 2013 年 12 月 7 日)。また、『産経新聞』2013 年 8 月 8 日。 32 Chosun Online「韓国の防空識別圏、離於島を含まない三つの理由」2013 年 11 月 25 日、http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/11/26/2013112600945.html(最 終確認2013 年 12 月 7 日)。

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八 日韓両国における「北東アジア観」の乖離

ここまで見 てきたよう に、いつの 間にか、日 韓両国を取 り巻く 状 況 が大きく変 化し、また それ故に、 両国の人々 が国際関係 を見る 目 も 、大きく異 なってしま っている。 そしてここ での大きな 問題は 、 こ のような状 況にもかか わらず、両 国の人々が この何時し か生ま れ た 両国間の国 際社会に対 する理解の 大きな間隙 を十分に認 識して い な いことであ る。言い換 えるなら、 日韓両国は 依然として 、相手 側 も また自分と 同じ視覚で 国際社会を 理解してい る、という 前提で 議 論を構築し、互いの関係に臨んでいる。 つ まり、 日本 人は、 依然 として 、か つて自 らが アジア 唯一 の経済 大 国であった 時代のイメ ージで、韓 国をはじめ とするアジ アの国 を 眺めている。だからこそ、韓国もまた、「経済的不況に陥れば、経済 大国である日本を頼る筈だ」と多くの人は漠然と考える33。事実、日 本 の書店に数 多く並ぶ「 嫌韓本」の 多くは、韓 国経済があ たかも 崩 壊 寸前である かのように 論じ、だか らこそ韓国 はやがて日 本に対 し て屈服することになる、と主張する34。アジア通貨危機当時の韓国の イ メージだと 考えればわ かり易い。 だが勿論、 今の韓国に おいて 日 本 はそのよう な存在では ない。既に 紹介したス ワップ協定 を巡る 駆 け 引きにも表 れているよ うに、かつ てよりも遥 かに力と自 信をつ け た 韓国は、国 際社会にお ける様々な パイプを利 用して、日 本を飛 び 越 えて多様な 資源を利用 することが できる。し かしながら 、多く の

33 エコノミックニュース「中国経済急減速、ウォン高で韓国経済危機感増幅」2013 年 8 月 10 日、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130810-00000067-economic-bus_all(最終 確認2013 年 12 月 7 日)。 34 例えば、三橋貴明『いよいよ、韓国経済が崩壊するこれだけの理由』(ワック、2013 年)。

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日 本人はこの ような韓国 の変化を見 落としてい る。だから こそ、 彼 等 には韓国政 府や韓国人 が行うこと は著しく非 合理に見え る、と い うことになる。 同 じこと は、 韓国の 人々 につい ても いうこ とが できる 。今 日の韓 国 にとって中 国の存在は 極めて大き なものであ り、だから こそ、 彼 ら は中国との 円滑な関係 を望んでい る。既に述 べているよ うに、 こ の 数年間の韓 国では、か つて中国に 対して警戒 的であった 保守メ デ ィ アが、中国 との友好関 係を積極的 に訴える、 という変化 が進行 し て いる。この 点について は、例えば 朝鮮日報の ような韓国 の代表 的 な 保守メディ アによるこ の数年間の 中国に対す る論調の変 化を調 べ て 見てみると 面白い。か つては頻繁 に見えられ た中国脅威 論は今 日 の韓国の保守言論ではすっかり影を潜めている35。今では、FTA 問題 等 において農 業的利益の 保護を訴え る進歩派の メディアの 方が中 国 との関係改善にむしろ及び腰であるかのように見えるほどだ。 だ からこ そ、 そのよ うな 韓国か ら見 れば、 領土 問題や 歴史 認識問 題 によって中 国と韓国が 協力して行 う抗議活動 に反応しよ うとし な い 日本は極め て非合理的 な存在に見 える。だが 勿論、日本 側の行 動 に は理由があ る。日中貿 易の不振等 は、少なく とも現在の ところ 日 本経済に大きな影響を与えていない36。逆に、中国と韓国の一致した ように見える行動は、日本の民族主義を刺激する37のみならず、米中

35 韓国保守メディアにおける中国観の変化については、別稿にて詳しく論じる予定で ある。 36 三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社調査部「日本経済の景気動向等に関 する資料」2013 年 9 月、http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/jyukyuu/pdf/2013092501.pdf (最終確認2013 年 12 月 7 日)。実際、2013 年上半期においては、内需の寄与度が 外需を大きく上回る形で経済成長が支えられている。 37 「中韓首脳会談 日本に問われる東アジア戦略」『読売新聞』2013 年 6 月 30 日。

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関 係を、対立 を機軸に考 える日本で は次のよう に解釈され る。つ ま り 、中国はそ の経済力を 生かして韓 国を自らの 陣営に取り 込みつ つ あるのであり、その動きに乗ってはならない、と38。こうして日本側 は 更に頑なに なり、政治 的な譲歩は 困難なもの となる。し かしな が ら 、このよう な日本側の 内情がわか らなければ 、多くの韓 国人に と っ て、日本側 の行為はた だ不可解な ものと看做 されること となる 。 行きつく先は、「日本は不合理な存在」だという理解である39。こう し て日韓両国 は互いを、 不合理で不 可解な存在 であるとみ なすよ う になり、日韓関係はいよいよ迷走する。 勿 論、こ のよ うな日 韓の 「北東 アジ ア観」 の相 違は、 両国 におけ る 「将来予測 」とも繋が るものであ り、どちら かがより正 しいと 言 え るようなも のではない 。しかしな がら同時に 重要なこと は、こ の よ うな日韓両 国の異なる 「北東アジ ア観」が共 に両国と同 盟関係 を 有 するアメリ カの北東ア ジア外交に おいて大き な障害とな る、と い う ことである 。当然のこ とながら、 アメリカは 自らの外交 におい て 統 一性を持た なければな らず、日韓 両国から向 けられる異 なる期 待 の中、長期的にアメリカは両国のどちらかを選ぶこととなる。 だが、状況は韓国にとって不利なように見える。2013 年 11 月にお け る中国の防 空識別圏拡 大や、西沙 ・南沙諸島 を巡る領土 問題の 高 ま りは、アメ リカを中国 との対立へ と動かして いるように 見える 。 ま た何よりも 、アメリカ の安全保障 政策におけ る日韓両国 の地位 は

38 例えば「【主張】朴大統領訪中 日米との結束こそ重要だ」『産経新聞』2013 年 6 月 30 日。 39 例 え ば 、「정부 "집단적 자위권에 대한 기본입장, 日에 전달"」(政府「集団的 自衛権に対する基本的立場を日本に伝達」)『연합뉴스』(聯合ニュース)2013 年 10 月 22 日、http://www.yonhapnews.co.kr/politics/2013/10/22/0503000000AKR2013102 2142700043.HTML(最終確認 2013 年 12 月 7 日)。

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大 きく異なっ ている。ユ ーラシア大 陸の東端に 位置する韓 国は、 海 軍 力において は他国を圧 倒する一方 で、陸軍力 においては 同様の 大 きな優位を持たないアメリカにとって、「守りにくい」存在である。 だからこそ、1970 年代以来アメリカは繰り返し朝鮮半島からの撤退 を論議して来たのであり、今日においてもいわゆる「作戦統制権」 - 有事において韓国軍を統制する権限 - を早期に韓国政府に返還す ることを求めている。即ち、アメリカにとって韓国との同盟関係は、 「 整理するこ とのできる 関係」であ り、時に「 整理したい 関係」 で さえあるのである。 し かしな がら 、アメ リカ にとっ て日 本の重 要性 は全く 異な ってい る 。世界第三 位の経済力 を持ち、強 大な海軍力 を持つ日本 は、北 東 ア ジアにおけ るアメリカ 軍の重要な パートナー であり、ま た何よ り も 北東アジア の海上に浮 かぶ日本は それ自身が 中国の海洋 進出を 阻 む 巨大な防波 堤であり、 不沈空母と しての価値 を有してい る。沖 縄 の 米軍基地問 題が如実に 示すように 、韓国から とは異なり 、今日 に 至 るまでアメ リカは日本 からの撤退 の意を示し たことはな く、む し ろ 同盟国との しての日本 の重要性は 次第に大き くなってい る。そ れ は 異なるいい 方をすれば 次のように なる。その 地政学的配 置から 必 然 的に、アメ リカは日本 との同盟関 係なしに、 韓国を守る ことは 出 来 ないが、韓 国との同盟 関係なしに 日本を守る ことは出来 る。だ と す れば北東ア ジアに拠点 を維持した いアメリカ が最終的に どちら を 優先するかは明らか、に思える。

九 むすびにかえて

と もあれ 、重 要なの はこ のよう な日 韓関係 の悪 化の影 響は 、単に 両 国関係を損 なうだけで なく、最終 的には両国 とその同盟 国であ る ア メリカを含 む諸国との 関係にも大 きな影響を 与えていく という こ

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と である。そ して、勿論 そのことは 、我々がこ の状況を放 置して よ い、ということを意味しない。日本にとっても、貿易の6%のシェア を 持つ韓国と の関係は経 済的に重要 であり、ま た、北東ア ジアの 変 化する国際情勢の中で、世界 15 位の GDP を誇り、世界有数の陸軍 力 を持つ韓国 との関係を いたずらに 損なうのは 日本の国益 にも反 し ている。 だ とすれ ば、 日韓両 国は この問 題に どう取 り組 むべき なの だろう か 。明らかな のは、何故 相手側に自 らのメッセ ージが伝わ らない の か 、相手側を 動かす原理 がどこにあ るかを見極 めることで ある。 し か しながら、 現在の日韓 両国で行わ れているの は、これと は全く 異 な るゲームで ある。つま り、両者が 互いに自ら が奉じる原 理原則 を 突 きつけて、 状況をその まま放置し ている。厄 介なことは 、日韓 両 国 ともに互い が相手に突 きつけたカ ードに効力 があると信 じてい る 点 である。か くして日韓 両国の間で は「チキン ゲーム」が 演じら れ る40。いや、このゲームは本当の「チキンゲーム」よりたちが悪い 。 が けっぷちに 向かって車 を走らせ、 お互いの度 胸を競い合 う本来 の 「 チキンゲー ム」なら、 どちらかが いずれブレ ーキを踏む ことに な るだろう。しかし、今の日韓間で行われているのは、「大草原のチキ ン ゲーム」と でもいうべ きものであ る。日韓両 国が互いに 相手に 突 き つけている のは効力の ないカード であり、相 手にとって は自ら が ブ レーキを踏 む理由には なり得ない 。両者の間 に立って、 無意味 な 「 大草原のチ キンゲーム 」の終わり を呼びかけ る人はなく 、だか ら こそ両者は永遠に広野を走り続けることになる。 そして更に悪いことがある。振り返れば21 世紀に入ってから、日

40 この点については、「緊張続く日中韓『チキンゲーム』」『AERA』2013 年 10 月 7 日 号、をも参照のこと。

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韓 間には常に 様々な問題 が存在して きた。靖国 問題や教科 書問題 、 従軍慰安婦問題や領土問題41。その度ごとに、両国の政治家は互いに 非 難し、また 、メディア には過激な 言辞が躍る こととなっ た。民 族 主 義的な市民 運動も時に 激しさを増 し、インタ ーネット上 では読 む に耐えない言葉が飛び交った。 些 か逆説 的な 説明に なる が、問 題は 、にも 拘ら ず、こ れら の現象 に よって日韓 の経済的、 社会的関係 は大きく損 なわれなか ったこ と で ある。即ち 、この間に サッカー日 韓ワールド カップ共催 があり 、 また、韓流旋風が吹き荒れた。つまり、我々はこの10 数年間に、政 治 家をはじめ とするエリ ートが日韓 関係の改善 に積極的に 働きか け を しなくても 、短期的な 日韓関係に 大きな問題 は生じない 、とい う ことを学んできた訳である。 勿 論、そ のこ とは日 韓両 国の市 民社 会が成 熟し てきた こと を意味 し ており、そ れ自身が悪 い訳では決 してない。 だが、この ような 状 況 は、日韓両 国の政治家 や言論人、 更には本来 なら両国の 関係改 善 に 影響力を発 揮すること のできる人 々にモラル ハザードを 提供す る こ とになる。 日韓両国に 横たわる問 題の多くは 、両国の民 族主義 と 密接に関連したものであり、だからこそ、多くのエリートにとって、 こ の問題に携 わることに より失われ るものは、 得られるも のより も 大 きい。言い 換えるなら 、彼らの利 益にとって は、この問 題に携 わ ら ないこと、 或いは原則 論を相手側 に突きつけ てポーズを とるこ と の方が容易であり、合理的なのである。 日 韓の間 に存 在する のは 、だか らこ そ誰も が自 らのカ ード に「効

41 歴史認識問題の発展過程については、拙稿“Discovery of Disputes: Collective Memories

on Textbooks and Japanese–South Korean Relations,”, Journal of Korean Studies, Volume 17, Number 1, Spring 2012。また、『究』(ミネルヴァ書房)の拙連載「日韓歴史認識 問題にどう向き合うか」をも参照のこと。

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力 があること にして」現 状を放置す るに任せて いる、とい う状況 で あ る。だから こそ現在の 日韓両国政 府からは似 たような声 が聞こ え てくる。つまり、日本政府から聞こえるのは、「中国との関係改善さ え できれば、 韓国との関 係改善は放 っておいて もついてく る」と い う 声であり、 他方、韓国 側からは「 欧米の世論 さえ味方に つけれ ば 慰 安婦問題等 で自らに有 利なように ことが運ぶ 筈だ」とい う声で あ る。「大草原のチキンゲーム」の中、相手側の行き先に「落とし穴」 を掘ろうというのである。 だが問題がそれにより解決するとは思えない。「落とし穴」に落ち た 相手は、プ ライドを傷 つけられ、 それによっ て負った深 い傷は 、 短 期的にはと もかく、中 長期的には 彼等をより 頑なな姿勢 に変え て いくからだ。 根 本的な 誤謬 は、そ もそ も外交 は「 交渉」 によ ってそ の成 果を勝 ち取るものであり、相手に一方的にカードを突きつけて「勝ち負け」 を 決めるもの ではない、 ということ を日韓両国 政府が忘却 してい る こ とにある。 北朝鮮を巡 る問題を考 えてもわか るように、 一国の 政 治 姿勢を変え させるには 、単純な制 裁だけでは 不十分だ。 日韓両 国 が 相手に対し て、甞て自 らが北朝鮮 に加えた程 度の制裁さ え加え る ことが出来ない点を考えれば、「大草原のチキンゲーム」がいかにナ ンセンスであるかは容易にわかるであろう。 それでは結局、どうすれば良いのであろうか。この点については、 短 期的な課題 と中長期的 な課題に分 けて考える 必要がある 。短期 的 な 課題、特に 、首脳間の 対話さえ困 難な状況に ある両国の 外交関 係 をどうするかを考えるにあたって重要なのは ― いささか後ろ向き に聞こえるかもしれないが ― ともあれ対話を再開するための「言 い訳(エクスキューズ)」をいかにして見つけるか、ということであ る。上記のように、現在の日韓両国政府は、「相手側が折れてくる」

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こ とを前提に 外交を行っ ているが、 共に両国の 世論が相手 国に対 し て 強硬な姿勢 を取ってい る以上、現 在のままの 状況でこれ を期待 す る ことは難し い。必要な のは、両国 政府がこの 強硬な世論 を説得 す る ための材料 をいかにし て見つける かであり、 その一つの 方法は 、 取 り あ え ず 、 懸 案 と な っ て い る 問 題 に ― その 実 態 は と も あ れ ― 「 取り組む」 姿勢を見せ 、事態が前 進に向かっ ているとの 期待を 世 論 に 与 え る よ う な 状 況 を 作 り 上 げ る こ と で あ る 。 例 え ば そ の 一 つ は、2002 年から 2010 年までの間、2 度に渡って行われた「日韓歴史 共 同研究」の 再開であろ うし、場合 によっては 、これを現 在両国 間 で 最大の懸案 となってい る慰安婦問 題に集中し て行うのも 一つの 方 法である。実際、2013 年 11 月の段階で韓国の大統領は日中韓「共通 の 歴史教科書 」の作成を 提案してお り、これを 契機にして 会談を 行 い 関係を正常 化するのは 一つの方法 である。大 事なのは外 交の基 本 は 対話である という原則 を思い出し 、今一度、 これに立ち 返るこ と である。 し かしな がら 、この よう な方法 が日 韓関係 の抜 本的な 解決 には繋 がるか、と言えば勿論そうではない。2 度の「日韓歴史共同研究」の 結 果が如実に 示すように 、歴史学者 の対話や共 同研究によ り、両 国 が「共通の歴史認識」に至るのは極めて困難である。「歴史認識」と は 単なる「過 去」の歴史 的事実のみ によって決 まるのでは なく、 そ れ 以上に「過 去」の歴史 的事実をど のような「 文脈」で理 解する か に よって決ま るものであ り、故に異 なる「文脈 」の中で「 過去」 を 解釈する日韓両国の「歴史認識」が共有されることは容易ではない。 「 共通の 歴史 教科書 」の 困難性 につ いては 言う までも ない 。日韓 両 国の歴史教 科書はそれ ぞれの「国 史」の文脈 に沿って書 かれて お り 、異なる近 代史を経験 した日韓両 国がそれを 共有するこ とは不 可 能 に近い。そ もそも教科 書とは各々 の社会にお ける教育目 的に沿 っ

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て 作られるも のであり、 当然、社会 に存在する 教育制度や 教育目 標 に より様々な 制約を受け ている。わ かりやすく 言えば、日 韓両国 の 基 本的な教育 指針が共有 されていな い以上、我 々は「共通 の歴史 教 科書」どころか、「共通の数学教科書」すら作ることができないので ある。 本 稿で強 調し てきた よう に、日 韓関 係の悪 化の 背景の 背後 には、 両 国にとって 互いの重要 性の低下と 、これに代 わって登場 した中 国 の 台頭、とい う構造的な 問題がある 。だからこ そこの問題 の解決 も ま た、この構 造的な問題 にいかに取 り組むか、 ということ を抜き に し て考えるこ とはできな い。忘れて はならない のは、日韓 両国は 共 に 世界的に見 ても大きな 経済力や軍 事力を持つ 国家であり 、本来 な ら 両者の協力 によりでき ることは沢 山ある筈だ 、というこ とであ ろ う。FTA 締結等の手段を用いて互いの市場を開放し、経済的発展に 生 かすことや 、それをも ってとりわ け韓国にお いて増大す る中国 へ の過度な依存のバランスをとることはその一つであろう。 ま た、グ ロー バル化 が進 む今日 にお いて、 隣国 しかで きな い協力 関 係にいかな るものがあ るかを考え ることも重 要であろう 。金融 や 情 報のそれと は異なり、 人の移動に おいては依 然として移 動に伴 う 時 間的制約が 大きな意味 を有してい る。だから こそ例えば 東日本 大 震 災時に日米 両国の間で 行われたよ うな、巨大 災害時の相 互協力 の た めの体制を より制度的 に構築する ことや、将 来の少子高 齢化に 備 え て教育面や 福祉面のイ ンフラを整 備すること は重要な提 案の一 つ に なるだろう 。地政学的 配置が影響 を与えるの はエネルギ ー分野 に お いても同様 である。パ イプライン の敷設や電 力の相互融 通にお い て EU と類似した協力体制を構築することができれば両国のエネル

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ギー政策の自由度は増加するに違いない42 ともあれ重 要なのは、 日韓関係の 重要性その ものが問わ れてい る と いうことで あり、だか らこそ、我 々はその重 要性を再構 築する た め の「知恵」 を出さなけ ればならな い、という ことである 。そし て こ のような日 韓関係の姿 は、実は北 東アジアの 多くの国々 の国際 関 係 の姿でもあ る。グロー バル化や中 国の台頭の 中で、いか に新た な る 地域の協力 関係を再構 築するか。 問われてい るのは、我 々自身 の 「創造力」なのかも知れない。 ( 寄 稿 :2013 年 10 月 24 日、採用:2013 年 12 月 7 日)

42 これらの点については、拙稿“Northeast Asian Trilateral Cooperation in the Globalizing

World: How to Re-establish the Mutual Importance”、『国際協力論集』第 21 巻第 2 号 (2014 年)を参照のこと。

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新政府下之日韓關係:

日韓兩國為何對立?

木 村 幹

(神戶大學大學院國際協力研究科教授)

【摘要】

2012 年前韓國總統李明博登獨島(日本名稱:竹島)以降,日韓 關係不見改善之徵兆。此狀況自去年末起至2013 年初,日韓兩國新政 府 成立後仍未 改變。為何 日韓兩國關 係持續惡化 呢?其背後 在於: 兩 國 間於經濟、 安全上之相 互重要性降 低,以及伴 隨著中國崛 起,對 於 東北亞認知差異等構造性之變化。 關鍵字:日韓關係、日本、韓國、中國、美國

參考文獻

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