習近平時代の中国の社会治理および
国家と社会の関係
王
信 賢
(台湾・国立政治大学東亜研究所特聘教授兼所長)
【要約】
権 威主義 は近 年、比 較政 治学の 分野 におい て重 要な研 究テ ーマと
な っている。 その焦点は 体制内部の 権力分配だ けではなく 、政権 に
対する社会からの圧力にも向けられている。中国が
40 年近くにわた
っ て実施して きた改革開 放は、急速 な経済成長 をもたらし ただけ で
はなく、国家と社会の関係にも変化をもたらした。とりわけ、近年、
社 会的勢力が 拡大するに つれ、市民 の維権要求 と国の維穏 の間に 大
き な矛盾が生 じている。 本論は独裁 的な政治形 態および国 家と社 会
の 関係の理論 的観点を出 発点とし、 習近平氏が 権力を握る 前後の 社
会 的勢力の台 頭と党国の 対応の変化 を比較検討 する。本論 として は
習 近平政権は 国家強制力 の運用を強 化したと考 える。特に 情報通 信
技 術を掌握し 社会のコン トロールを 強めた。こ れは共産党 が推進 す
る 「依法治国 」および「 創新社会治 理」と本質 が異なる。 本論の 終
わりには理論と政策意義を具えた結論を示す。
キ ーワ ード: 独裁的な政治 形態、国家 と社会の関 係、社会治 理、 頂
層設計、情報通信技術
一 はじめに:維権
vs 維穏
独裁的な政治形態(authoritarian regime)は近年、比較政治学およ
び 比較政治経 済学におけ る重要な研 究テーマと なっている 。その 焦
点の
1 つは、統治集団が政権の存続(regime survival)のためにどの
よ う に 権 力 を 共 有 (power-sharing)し、経済発展に力を入れている
かという点である
1。この角度から見ると、独裁政権は内部の統治エ
リ ートからの 権力共有の 要求を満た したり、経 済的なイン センテ ィ
ブ を与えるこ とで、官セ クターの統 制を図り、 統治の正当 性を高 め
て いる。しか し、課題は それだけで はない。多 くの独裁国 家の体 制
転換の際の情勢やアラブの春の激動を見ると、権威主義統治のもう
1
つ の課題は社 会、特に社 会の安定に 関わる市民 の抗議活動 、組織 化
された社会活動などからくる
2。
中国を見て みると、市 場化改革が 高い経済成 長をもたら しただ け
で はなく、社 会の変化も 引き起こし た。そして 、これらの 大きな 変
化 は政治にも 影響を与え た。経済改 革、グロー バリゼーシ ョン、 イ
ン ターネット の発展は、 中国の社会 セクターを 急速に成長 させた 。
民間企業、社会組織、あるいはさまざまな維権運動(合法的な利益・
権利を擁護する運動)、または大規模災害(2008 年の四川大地震など)
発 生後の政治 的社会的影 響でさえも 、中国の「 国家-社会 」の関 係
1 Carles Boix and Milan W. Svolik, “The Foundations of Limited Authoritarian Government:
Institutions, Commitment, and Power-sharing in Dictatorships,” The Journal of Politics, Vol. 75, No. 2 (April 2013), pp. 300~316.; Jason Brownlee, Authoritarianism in an Age of
Democratization (New York: Cambridge University Press, 2007).; Jennifer Gandhi,
“Dictatorial Institutions and their Impact on Economic Growth,” European Journal of
Sociology, Vol. 49, No. 1 (April 2008), pp. 3~30.
2 王信賢・寇健文主編『邁向公民社會?當代中國「國家-社會」關係分析』(台北:五
(
state-society relationship)の変化について考えさせられる。近年、
中 国 共 産 党 政 権 が 社 会 の 変 化 に 対 応 す る た め に と っ た 政 策 に は 、
「 胡温政権期 」に強調さ れた「社会 管理創新( 政府の社会 統治手 法
の 改 革 )」
3、 そ れ を 習 近 平 氏 が さ ら に 「 進 化 」 さ せ た 「 創 新 社 会 治
理体制」
4、および「十九大(中国共産党第
19 回全国代表大会)」《政
治 報告》に提 起された「 打造共建共 治共用的社 会治理格局 (共建 ・
共管・共有の社会管理の枠組みの構築)」がある
5。一方で、「維穏経
費(社会安定の維持に使われる経費)」が国防予算を上回っているな
ど、さまざまな噂も後を絶たない。さらに、習政権発足後は党国(国
家 、政府と党 の一体化構 造)の市民 社会に対す る制約が至 る所に 広
が り、言論の 取り締まり もますます 厳しくなっ た。習近平 が総書 記
に就任以降、中国の「社会治理」の手法が
2 つの方向へと発展して
いるのは非常に興味深い
6。
中国の社会的勢力(
social forces)は現在、確実に台頭してきてお
り、党国体制も警戒と対応にあたっている。したがって、社会の「維
3 「胡錦濤在中國共產黨第十八次全國代表大會上的報告」『新華網』2012 年 11 月 17 日、 http://news.xinhuanet.com/18cpcnc/2012-11/17/c_113711665.htm。 4 「中共中央關於全面深化改革若干重大問題的決定」『新華網』2013 年 11 月 15 日、 http://news.xinhuanet.com/politics/2013-11/15/c_118164235.htm。 5 「中國共產黨第十九次全國代表大會關於十八屆中央委員會報告的決議」『新華網』 2017 年 10 月 24 日、http://news.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/24/c_11218497 94.htm。 6 「治理」(governance)という言葉は、1980 年代後半に欧米諸国で始まった「ニュー・
パブリック・マネジメント」(new public management, NPM)運動以降使われるように
なった。「治理」とはそれまでの「統治」(government)とは異なり、政府は権力と資 源の独占者ではなく、社会セクターと多元的かつ相互依存の協力関係を築かなけれ ばならないことを強調している言葉である。ただ、中国では「治理」という言葉は 依然として「統治」あるいは「管理」(management)という意味で使われる傾向にあ る。しかし、前述のとおり「治理」という言葉は中国の重要な公式文書の中に書か れているので、本論では「社会治理」という言葉を使う。
権(合法的な利益・権利の擁護)」要求と政府の「維穏(社会安定の
維持)」政策を検討することは、現在の中国の政治・経済・社会の発
展を考察する上での重要な軸と言える。「十九大」では、中国共産党
の イデオロギ ーと中国の 発展プロセ スがすでに 「新時代」 に入っ て
い ることがは っきりと示 された。こ れに基づき 、本論は独 裁的な 政
治 形態 におけ る「 国家
―社会」関係を出発点とし、習近平氏就任後
の 社会治理政 策を説明す るとともに 、習近平氏 の「新時代 」の中 国
の 国 家 と 社 会 の 関 係 、 特 に 情 報 通 信 技 術 (
Information and
Communication Technologies, ICTs)を運用した社会に対する国の管理
とコントロールを考察する。
二 中国の権威主義体制および国家と社会の関係
改革開放が 進んでくる と、中国政 府の変化に 対する学術 界の討 論
テーマは、主に
2 つの部分に集中するようになった。1 つは共産党政
権の特質、もう
1 つは国家と社会の関係である。
1 中国共産党政権の特質
中国共産党 政権誕生当 初は冷戦真 っ只中であ り、東西両 陣営が 激
し く対立して いた。その ため、ソ連 を分析する のに用いら れてい た
全体主義(
totalitarianism)の概念が中国研究にも用いられた
7。そし
て ほとんどの 研究者は、 中共政権は 強力な統制 メカニズム を利用 し
て社会全体に浸透し、新政権の政策を支援するよう民衆に働きかけ、
7 全体主義の政治形態は以下の特徴を持つ:(1)単一の公式イデオロギー(2)カリスマ的 なリーダーが率いる大衆政党(3)恐ろしい秘密警察が支配(4)国家がすべてのマスメデ ィ ア を 独 占(5)党 国 が 軍 隊 を 掌 握 (6) 中 央 統 制 経 済 。 Carl Friedrich and Zbigniew Brzezinski, Totalitarian Dictatorship and Autocracy (Cambridge: Harvard University Press, 1956).
計 画経済を利 用して資源 配分も掌握 し、古い伝 統的な社会 を新し い
社会に変えようとしていると考えた
8。しかし、40 年近くにわたる改
革 開放を経た 今では、典 型的な全体 主義からは とうの昔に 遠ざか っ
ており、ポスト全体主義(
post-totalitarian authoritarianism)
9あるいは
権威主義(authoritarianism)に向かい始めていると考えられている。
ポスト全体 主義か権威 主義か、ど ちらに向か っているに しろ、 そ
れ は共産党政 権内の制度 が多様化し 、集団的リ ーダーシッ プと技 術
官 僚が重視さ れているこ とを示して いる。公式 イデオロギ ーは存 在
す るが、全体 主義のよう な高度のユ ートピア色 を持ってい るわけ で
は なく、その 働きかけも 強くない。 また、経済 活動や社会 活動に 対
する国の監視も弱まった。黎安友(
Andrew Nathan)は、共産党政権
は「すでに全体主義から典型的な権威主義へとシフトしており」、生
存 のための強 靭性を具え 、自身のシ ステムの欠 陥を修正す ること が
できると述べた
10。裴敏欣(
Minxin Pei)は現在の共産党政権につい
て、当初の台湾や韓国の柔らかい権威主義(soft authoritarianism)と
8 A. Doak Barnett, Communist China and Asia: Challenge to American Policy (New York:
Harper & Brothers, 1960); John W. Lewis, Leadership in Communist China (Ithaca, NY: Cornell University Press, 1963); Franz Schurmann, Ideology and Organization in Communist
China (Berkeley, CA: University of California Press, 1966).
9 Juan Linz, “Totalitarian and Authoritarian Regimes,” in Fred I. Greenstein and Nelson W.
Polsby eds., Handbook of Political Science (3): Micropolitical Theory (Reading, MA: Addison-Wesley, 1975), pp. 175~412.; Juan J. Linz and Alfred Stepan, Problems of
Democratic Transition and Consolidation: Southern Europe, South America, Post-Communist Europe (Baltimore, MD: John Hopkins University Press, 1996), pp. 38~54.; Juan
J. Linz, Totalitarian and Authoritarian Regimes, (Boulder, CO: Lynne Rienner, 2000).
10 Andrew Nathan, Totalitarianism, Authoritarianism, Democracy: The Case of China,” in
Myron L. Cohen ed., Case Studies in the Social Sciences (Armonk, NY: M. E. Sharpe, 1992), pp. 235~256.; Andrew Nathan, “China’s Changing of the Guard: Authoritarian Resilience,”
類似しており、民主化する可能性もあると考えている
11。両者は共産
党 政権の将来 については 異なった見 解を示して いるものの 、今の 共
産 党政権が権 威主義の定 義に当ては まっている と考えてい る点で は
一致している。
共産党政権 に変化が現 れると、多 くの学者が 「形容詞を 冠した 権
威主義」(
authoritarianism with adjectives)の名称を次々と提案するよ
うになった 。李侃如(
Kenneth Lieberthal)は、共産党内部の政策決
定 過程には、 異なる層や 異なる部門 の間で複雑 な官僚交渉 プロセ ス
が あ る こ と か ら 、「 分 断 化 し た 権 威 主 義 」(
fragmented
authoritarianism)と呼んだ
12。また、中国社会が多様に発展し、争点
フレーム(
issue frames)を構成する能力を具えるメディアや非政府
組織(
NGO)などの政策起業家(policy entrepreneurs)も現れた。そ
し て、各官セ クターは政 策を推進す るため、彼 らと同盟を 結ぶよ う
になった。このような状況を毛学峰(
Andrew Mertha)は「分断化し
た権威主義
2.0」(fragmented authoritarianism 2.0)と名づけた
13。
このほか、李磊(
Pierre Landry)は「分権的権威主義」(decentralized
authoritarianism)という表現を用いて、地方政府に莫大な予算と政治
的 権限がある 場合、中央 政府はどの ようにして 組織や人事 の任命 を
通 して地方の 役人を管理 し、組織の 完全性を保 障し、政治 的リス ク
11 Minxin Pei, “China’s Evolution Toward Soft Authoritarianism,” in Edward Friedman and
Barrett McCormick eds., What If China Doesn’t Democratize? Implication for War and
Peace (Armonk, NY: M. E. Sharpe, 2000), pp. 74~98.
12 Kenneth Lieberthal, “Introduction: The Fragmented Authoritarianism Model and Its
Limitation,” in Kenneth Lieberthal and David Lampton eds., Bureaucracy, Politics, and
Decision-Making in Post-Mao China (Berkeley, CA: University of California Press, 1992),
pp. 1~30.
13 Andrew C. Mertha, “‘Fragmented Authoritarianism 2.0’: Political Pluralization in the
を減らすのかを考察した
14。テレサ・ライト(
Teresa Wright)は、国
家主導の発展政策、市場勢力、社会主義の遺産という
3 つの要素の
絡 み合いから 、経済を開 放する一方 で政治的に は閉鎖的な 状況に お
い て、共産党 政権は社会 の各層の市 民にどのよ うに我慢を 強い、 一
党 独裁を受け 入れさせて いるのかを 分析した。 そして、こ のよう な
権威主義を「容認できる権威主義」(
accepting authoritarianism)と名
づけた
15。
Jessica Teets は、過去 20 年にわたる北京の市民社会の発展
を 検証し、中 国の基層社 会には民間 組織が地方 統治に協力 するモ デ
ル が で き あ が っ て い る と 指 摘 し 、 そ れ を 「 諮 問 的 権 威 主 義 」
(
consultative authoritarianism)と名づけた
16。
前述の研究はみな1つの事実を示している。それは、中国は
40 年
近 くの改革開 放を経て、 全体主義の 典型である 社会と市場 のすべ て
を 支配するよ うな国では なくなった ということ である。国 がすべ て
の 生産資源の 使い道を独 断で決める ことをやめ 、農業を非 集団化 へ
転 換し、地方 自治体・企 業の台頭や 共鳴する私 営企業と外 資系企 業
の 発展に理解 を示したこ とで、独断 の根源が効 果的に崩壊 した。 新
た な所有形態 の誕生は、 雇用機会に 関する国の 影響力が弱 まった こ
とを意味する。恩顧主義
17、宗族勢力
18、地方の利益が複雑に絡み合
14 Pierre Landry, Decentralized Authoritarianism in China: The Communist Party’s Control of
Local Elites in the Post-Mao Era (New York, NY: Cambridge University Press, 2008).
15 Teresa Wright, Accepting Authoritarianism: State-Society Relations in China’s Reform Era
(Stanford, CA: Stanford University Press, 2010).
16 Jessica Teets, “Let Many Civil Societies Bloom: The Rise of Consultative Authoritarianism
in China,” The China Quarterly, No. 212 (February 2013), pp. 1~20.
17 Andrew Walder, Communist Neo-Traditionalism: Work and Authority in Chinese Industry
(Berkeley: University of California Press, 1986); Jean C. Oi, State and Peasant in
Contemporary China: The Political Economy of Village Government (California: University
う国家構造は
19、国の社会への浸透を妨げる。
Tony Saich は、社会セ
ク ターに相対 することで 中国の国と しての役割 は劇的に変 化し、 自
主型国家(
autonomous state)から協商型国家(negotiated state)に変
わったと主張している
20。
2 国家と社会の関係
ポスト社会主義国家(
post socialist states)への移行研究では、政
権 の特質が現 れる国の制 度構築、エ リート間の 交流、国と 市場の 関
係に加え、「国家と社会の関係」も常に注目を浴びてきた
21。「国家と
社 会の関係」 というのは 、主に国と 社会組織の 関係や、国 が社会 か
ら の反対意見 や行動にど のように対 応するのか といったこ とであ る
が 、中国を研 究するにあ たっても、 この「国家 と社会の関 係」の 考
察が重要な側面となっている。
現在の中国の国家と社会組織の関係には、市民社会(
civil society)
とコーポラティズム(corporatism)という 2 つの概念の論争が常に
18 Lin Nan and Chih-jou Jay Chen, “Local Elites as Officials and Owners: Shareholding and
Property Rights in Daqiuzhuang,” in Jean Oi and Andrew Walder ed., Property Rights and
Economic Reform in China (Stanford: Stanford University Press, 1999), pp. 301~354.
19 Andrew Walder ed., Zouping in Transition: The Process of Reform in Rural North China
(Cambridge: Harvard University Press, 1998); Jean Oi, Rural China Takes Off (California: University of California Press, 1999); David Wank, Commodifying Communism: Business,
Trust, and Politics in a Chinese City (Cambridge: Cambridge University Press, 1999), pp.
23~40.
20 Tony Saich, “Negotiating the State: The Development of Social Organizations in China”, The
China Quarterly, No. 161 (March 2000), pp. 124~141.; Tony Saich, Governance and Politics of China (New York: Palgrave Macmillan, 2004), pp. 213~232.
21 Tsveta Petrova and Sidney Tarrow, “Transactional and Participatory Activism in the
Emerging European Polity: The Puzzle of East-Central Europe,” Comparative Political
存 在している 。市民社会 とは社会組 織の台頭、 続いてやっ てくる 公
共 分野の開放 、および自 由と民主主 義への道筋 に着目した もので あ
る
22。コーポラティズムは国家機関が制度的な環境を整え、資源を管
理 し、さまざ まな統制戦 略を運用す ることで、 社会組織の 独立性 と
自主性を大幅に抑える部分に焦点を当てたものである
23。コーポラテ
ィズムのような「国家主導の社会」という観点は、ここ
20 年の中国
研 究の主流で あった。し かし、最近 では組織的 な社会勢力 が「制 度
の隙間を縫って活動」できるさまざまな要因が現れている
24。例えば、
自然災害により生まれた政治的・社会的機会や
25、組織の行動戦略と
社会的ネットワークなどである
26。あるいは各官僚の利害衝突が生ん
22 Gordon White, Riding the Tiger: The Politics of Economic Reform in Post-Mao China
(Stanford: Stanford University Press, 1993); Gordon White, Jude Howell, In Search of Civil
Society: Market Reform and Social Change in Contemporary China (New York: Oxford
University Press, 1996); Baogang He, “The Limits of Semi-Civil Society”, The Democratic
Implications of Civil Society in China (London: MacMillan Press, 1997), pp. 147~165.
23 Anita Chan, “Revolution or Corporatism? Workers and Trade Unions in Post-Mao China,”
The Australian Journal of Chinese Affairs, No. 29 (January 1993), pp. 31~61.; Margaret
Pearson, “The Janus Face of Business Associations in China: Socialist Corporatism in Foreign Enterprises,” The Australian Journal of Chinese Affairs, No. 30 (January 1994), pp. 25~46.; Jonathan Unger and Anita Chan, “China, Corporatism and East Asian Model,”
Australian Journal of Chinese Affairs, No. 33 (January 1995), pp. 29~53.; Kenneth W.
Foster, “Associations in the Embrace of an Authoritarian State: State Domination of Society?” Studies in Comparative International Development, Vol. 34, No. 4 (Winter 2001), pp. 84~109.
24 王信賢・王占璽「夾縫求生:中國大陸社會組織的發展與困境」『中國大陸研究』第 49
卷第1 期(2006 年 3 月)、頁 27~51。
25 Andreas Fulda, Yanyan Li & Qinghua Song, “New Strategies of Civil Society in China: A
Case Study of the Network Governance Approach,” Journal of Contemporary China, Vol. 21, Iss. 76, (July 2012), pp. 675~693.
26 Shawn Shieh and Guosheng Deng, “An Emerging Civil Society: The Impact of the 2008
だ 制 度 的 な 欠 陥 が 、 市 民 組 織 と 独 裁 的 な 政 治 形 態 の 「 偶 然 の 共 生 」
(Contingent Symbiosis)を形成することもある
27。また、特定のキリ
ス ト教教会は 共産党組織 の運営方式 や行動戦略 を「そのま ま共産 党
組織へ切り返す」ことで政府の介入や捜査を防いでいる
28。
社会運動に ついては、 政府構造の 分裂が集団 行動を引き 起こし 、
権威主義体制の下で「政治的機会」が生まれたことがわかる。
Kevin
O’Brien と李連江は、市民のこの種の抗議行動は中央政府の政策と法
令 に基づいて おり、理性 的かつ合法 的な方法で 政府に圧力 をかけ 、
権 利 を 主 張 し て い る と 指 摘 し 、 こ れ は 「 正 当 な 抗 議 」(
rightful
resistance)だとした
29。また、権力が異なる部門や異なるレベルの政
府 に分散して いるため、 抗議者は複 数の政府組 織の間を行 き来す る
ことができ、訴えを認められる機会も増えることになる
30。独裁的な
政 治形態の場 合、抗議活 動が起こる 原因は実質 的な競争選 挙、メ デ
ィ ア報道の自 由、市民社 会の欠如で ある。しか し、中国の 現在の 抗
議 活動はその 多くが小規 模かつ経済 面に集中し ている。ま た、中 国
の 抗議活動は 国民の不満 を発散させ る場になっ ている一方 で、中 央
政府が地方政権の情報を入手する手段にもなっており、しばしば「安
(January 2011), pp. 181~194.
27 Anthony J. Spire, “Contingent Symbiosis and Civil Society in an Authoritarian State:
Understanding the Survival of China’s Grassroots NGOs,” American Journal of Sociology, Vol. 117, No. 1 (July 2011), pp. 1~45.
28 Karrie Koesel, “The Rise of a Chinese House Church: The Organizational Weapon,” The
China Quarterly, Vol. 215 (September 2013), pp. 572~589.
29 Kevin J. O'Brien and Lianjiang Li, Rightful Resistance in Rural China (New York:
Cambridge University Press, 2006).
30 Yao Li, “Fragmented Authoritarianism and Protest Channels: A Case Study of Resistance to
Privatizing a Hospital,” Journal of Current Chinese Affairs, No. 2 (January 2013), pp. 195~224.
全弁」(
safety valve)の役割を果たしている
31。故に、現在の中国を
「 交 渉権 威主 義 」(Bargained Authoritarianism)と形容する学者もい
る 。 基 層 社 会 の 安 定 を 維 持 す る た め に 「 お 金 で 平 穏 無 事 を 買 い 」
(
buying stability)、民衆とパトロン・クライアント関係を構築して
いるのである
32。
文献を見る 限り、中国 は既に全体 主義体制か ら権威主義 体制に 移
行した。そして、
40 年近くの改革を経て、2 つの重要な特徴が現れ
た。
1 つは国家内部の「分裂」、もう 1 つは社会的勢力の台頭によっ
て もたらされ た国家と社 会の関係の 変容である 。これらは 行政能 力
(
state capacity)に影響を与えている。これを踏まえ、習近平就任後
の 中国の社会 的勢力の台 頭とそれに 対する党国 の対応を検 討し、 現
在の中国の国と社会の関係の変化について分析する。
三 社会的勢力の台頭と党国の対応
改革開放は 驚異的な経 済成長だけ ではなく、 社会活動の 場を広 げ
る 機会ももた らし、人々 はさまざま な行動を通 して自身の 権利を 主
張 し擁護する ようになっ た。政治的 安定を維持 するため、 共産党 は
さ まざまな政 策を打ち出 して対応に あたった。 したがって 、現在 の
中 国の国家と 社会の関係 を考察する 上で最も重 要な視点は 「維権 」
と 「維穏」で ある。以下 に、現在の 中国の社会 的勢力の台 頭を最 も
よ く表してい る社会組織 、インター ネット、社 会運動を例 に、国 家
31 Peter Lorentzen, “Regularizing Rioting: Permitting Public Protest in an Authoritarian
Regime,” Quarterly Journal of Political Science, Vol. 8, No. 2 (2013), pp. 127~158.
32 Ching Kwan Lee and Yonghong Zhang, “The Power of Instability: Unraveling the
Microfoundations of Bargained Authoritarianism in China,” American Journal of Sociology, Vol. 118, No. 6 (May 2013), pp. 1475~1508.
と社会の相互作用を分析する
33。
1 社会組織
中国民政部の統計によると、
2017 年現在、中国で法人格で登録さ
れている社会組織は合計
75 万 6,000 にのぼる。内訳は民間非営利団
体が
35 万 2,000、社団法人が 39 万 7,000、財団法人が 6,323 である
34。
し か し 、 こ れ ら の 組 織 の 多 く は 政 府 と の 関 係 が 密 接 な
GONGO
(
government organized NGO)であり、構造の面でも数の面でも社会
の ニーズを満 たしていな い。その上 、ほとんど の政府組織 は官セ ク
ターのもう
1 つの看板にすぎず、社会奉仕能力は相当に不足してい
る。学術界では、中国の社会組織の数は、公式発表の
10 倍をはるか
に 上 回 っ て お り
35、 そ の 多 く が 政 府 の 管 理 外 に あ る と 考 え ら れ て い
る。これらの組織には、環境保護、エイズに関する活動、貧困緩和、
女 性支援、移 民労働者支 援、慈善団 体などが含 まれており 、地方 で
の 活動が非常 に活発であ る(特定の 分野の影響 力は全国に も広が っ
ている)
36。
近年、共産党の社会組織管理には
3 つの傾向が見られる。「二重管
33 王信賢・寇健文主編、前掲書。詳論の幅により、詳しくは台灣民主基金會(Taiwan
Foundation for Democracy)から毎年発行されている『中國人權觀察報告』を参照のこ と。台灣民主基金會ホームページ http://www.tfd.org.tw/opencms/chinese/publication/ human/。 34 「社會服務統計季報(2017 年四季度)」中華人民共和國民政部、http://www.mca.gov.cn/ article/sj/tjjb/qgsj/2018/201803131510.html。 35 「改革民間組織雙重管理體制的分析和建議」北京市社會組織網上服務網、2012 年 5 月25 日、http://210.73.89.225/cms/zxux/402.jhtml;王紹光・何建宇「中國的社團革命: 中國人的結社版圖」『浙江學刊』(浙江)、2004 年第 6 期、頁 71~77。 36 王信賢『爭辯中的中國社會組織研究:「國家社會」關係的視角』(臺北:韋伯文化出 版社、2006 年)。
理 体制」の緩 和、政府の 公的サービ スの購入、 ハブ型組織 の構築 で
ある。「二重管理体制」の緩和とは、近年、多くの省や市で一部の組
織 は民政部に 登録するだ けでよくな ったことで ある。しか し緩和 さ
れ たのは、業 界団体、科 学技術関連 、慈善団体 、都市と農 村の地 域
福祉の
4 つのカテゴリーであり、これらはすべて政府に経済的にも
社会治理の面でも協力できる組織である
37。政府の公的サービスの購
入 というのは 、主に政府 が資金と資 源を提供し て市民団体 を引き つ
け 、社会サー ビスへの参 加を促すと いうもので ある。近年 、各地 で
中央政策に協力する団体が跡を絶たず、「政府のサービスの購入」は
加速している。「ハブ型組織」の構築とは、既存の民間団体か新たに
設立した
GONGO に「ハブ組織」を務めさせ、関連する草の根組織
を「割り当て」たり資源配分を行わせることで、「以民管民(民を以
って民を管理する)」あるいは「以社管社(社会を以って社会を管理
する)」を実現しようとするものである。ここから、共産党が社会組
織 を取り込み 公的サービ スに参加さ せようとし ている意図 が明白 で
ある。
台頭する社 会組織を前 に、共産党 は社会組織 を「取り込 む」こ と
で独裁体制の強化を図り
38、もう一方では、最も自信のある「抑圧的」
な手段で市民の声を封じ込めている。広州市の「番禺打工族服務部」、
「向陽花女工服務中心」、「海哥労工服務部」、および仏山市の労災維
権組織「南飛雁社会工作服務中心」などの労働
NGO と呼ばれる労働
者支援組織のメンバーが、
2015 年に広東省で相次いで逮捕・拘束さ
37 「行業協會商會脫離『官辦』方案即將出台」『新華網』2015 年 3 月 10 日、http://news. xinhuanet.com/politics/2015-03/10/c_1114590586.htm。
38 Jessica Teets, Civil Society under Authoritarianism: the China Model (New York: Cambridge
れたのは、その一例である
39。外国の
NGO については、2016 年 4 月
の全国人民代表大会で「域外非政府組織(NGO)域内活動管理法」
を可決、成立させ
40、
2017 年 1 月に施行した。この法律の最大の焦
点は、海外
NGO の監督機関を従来の民政部から、省級以上の公安機
関に移管したことである。
2 インターネット
イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 に よ り 新 た な 公 共 領 域 が 生 ま れ た 。「 中 国
インターネット情報センター」(
CNNIC)の第 41 回「中国インター
ネット発展状況統計報告」によると、
2017 年 12 月現在、中国のネッ
トユーザー総人口は
7 億 7,200 万人、インターネット普及率は 55.8%
に達し(図
1)、2016 年末から 2.6%増加した。スマートホンでイン
ターネットにアクセスする人も増え続け、現在では
7 億 5,300 万人に
上り、中国のインターネットユーザー総数の
97.5%を占める。スマ
ー トホンは中 国のソーシ ャルメディ ア「微博」 のアカウン トとつ な
が り、無料イ ンスタント メッセンジ ャーアプリ 「微信」の 使用量 が
大 幅に増え、 モバイルシ ョッピング の利用率も 上昇した。 通信速 度
が 速く、メッ セージの送 信が便利で 、低コスト など、利点 が多い ス
マートホンでのインターネット利用者は、今後も増加が見込まれる。
こ れ は 中 国 の イ ン タ ー ネ ッ ト の 監 視 能 力 に と っ て 新 た な 挑 戦 と な
る。
39 「廣東勞工 NGO 遭連串打壓、至少 3 人被刑拘」『端傳媒』2015 年 12 月 5 日、 https://theinitium.com/article/20151205-mainland-guangdong-worker-ngo/。 40 「授權發布:中華人民共和國境外非政府組織境內活動管理法」『新華網』2016 年 4 月 29 日、http://news.xinhuanet.com/legal/2016-04/29/c_1118765888.htm。
図
1 中国のインターネットユーザー数と普及率
インターネット人口数 普及率
注:人数の単位は「万人」 出典:「中國互聯網絡發展狀況統計報告(2018 年 1 月)」中國互聯網絡信息中心、http:// www.cnnic.net.cn/hlwfzyj/hlwxzbg/hlwtjbg/201803/P020180305409870339136.pdf。2016 年に「魏則西事件
41」と「雷洋事件
42」が明るみに出た際、ネ
ッ トユーザー はインター ネットを通 して情報を 集め、事件 の真相 を
究 明し、追跡 調査を行っ ただけでは なく、さま ざまな電子 掲示板 や
41 「魏則西事件」2016 年 4-5 月に発生した事件。亡くなった魏則西は生前、中国で有 名な討論サイト「知乎」に「人としての最大の『悪』は何か?」という文章と動画 を公開し「武警北京市総隊第 2 病院」と検索サイト「百度」への金銭授与による検 索順位の操作問題を明るみにした。魏則西の死後、この問題は世間で大きな話題と なりマスコミでも大きく報じられた。民衆の強い怒りにより、中央政府は世論に対 応せざるを得ない状況となった。 42 「雷洋事件」は 2016 年 5 月に発生した事件。中産階級の雷洋は買春容疑で警察に逮 捕され移送中に死亡した。これが民衆に広まり、警察の不当な法の執行や個人の自 由保障に関する議題について活発に討論されることになった。ネット上での世論が 加熱し、人民大学、清華大学同窓生も共同で抗議し、中央政府の強力な介入により 徐々に沈静化した。
「 インターネ ットカフェ 」で、医療 制度の欠陥 や個人の自 由の保 障
に ついて議論 した。天津 で起きた大 爆発事故や 客船「東方 之星」 の
沈 没事故など 、いくつか の重大な公 安事件への 対応の際、 共産党 は
「 必ずや全て を政府の思 い通りに動 かす」とい う思想のも と、各 メ
デ ィアに対し 統一した報 道内容を要 求し、ひい ては情報を 完全に ブ
ロ ックした。 これにより 、国民はイ ンターネッ トで情報を 入手せ ざ
るを得なくなり、いっそう噂が飛び交う状況に陥りやすくなった。
国の対応と しては、近 年、既存の インターネ ット検閲の 仕組み を
強 化したほか 、インター ネット上の 反体制派の 言論の監視 を厳し く
し、インターネットポリスの検閲を強化し、五毛党の活動を拡大し、
インターネットユーザーの意見や態度を分析する機関を設置した
43。
特に「集団行動」を引き起こしやすい言論に対する管制を強化した
44。
そうしたことから、公安部、国務院新聞弁、工業和信息化部…など、
インターネット管理に携わる部門が入り乱れ、「九龍治水(指図する
人間が多いために統一がとれない)」状態となり、中央と地方の足並
みにも乱れが生じている
45。この問題を解決するため、共産党は
2014
年 、中国共産 党中央網絡 安全和信息 化領導小組 (後に「委 員会」 に
43 ハーバード大学の Gary King 教授などの関連研究によると、「五毛党」は「外部から の招聘」以外では、主に政府機関に所属する各部門の職員である。彼らの仕事は「責 任制」で、インターネット上で注目されている事件の「討論に参加」しなければな らないが、その目的は「争いを起こす」ことではなく、「話題をそらす」ことだとい
う :Gary King, Jennifer Pan and Margaret Roberts, “How the Chinese Government Fabricates Social Media Posts for Strategic Distraction, Not Engaged Argument,” American
Political Science Review, Vol. 111, Iss. 1 (January 2017), pp. 1~42.
44 Gary King, Jennifer Pan and Margaret Roberts, “How Censorship in China Allows
Government Criticism but Silences Collective Expression,” American Political Science
Review, Vol. 107, Iss. 2 ( May 2013), pp. 1~18.
45 夏倩芳・袁光鋒「『國家』的分化、控制網絡與衝突性議題傳播的機會結構」『開放時
変 更。次節で 述べる)を 設立し、そ の下に事務 局である中 国共産 党
中 央網絡安全 和信息化領 導小組弁公 室(網信弁 )を設置し た。こ の
ほか、《第
13 次 5 カ年計画》では「インターネット強国戦略」の実
施が発表され、「インターネット+」行動プランと国家ビッグデータ
戦略が国家戦略に格上げされた。
近年、「七不講」、「十六条」、大学での教育「綱領」、「党媒姓党」、
「 不 得 妄 議 中 央 」、 お よ び イ ン タ ー ネ ッ ト 安 全 法 の 審 議 計 画 を 通 し
て、「重大な突発的事件」が発生するのを未然に防ごうとしており、
中国の世論空間は狭められている。
2015 年 7 月 10 日には、100 人以
上 の弁護士、 人権活動家 、陳情者、 および弁護 士や人権活 動家の 親
族 が公安部に よって大規 模に逮捕さ れるという 事件もあっ た。一 部
の 人々は行方 不明になっ ている。ま た、身柄を 拘束された り、連 行
さ れたり、連 絡がとれな くなったり 、事情聴取 を受けたり 、召喚 さ
れ たり、ある いは短期的 に自由を制 限された人 もいる。こ の事件 に
関係した行政機関は
23 にも上り、中国では「710 維権弁護士」大逮
捕事件と呼ばれている。
3 社会運動
ここ
10 年余りで中国の社会運動が急増した。公安部の 2006 年 1
月の発表によると、
2005 年の未許可の示威行進、示威行為、集会活
動は
9 万 6,000 件に達し、820 万人以上が参加した。一日平均 263 件
の 抗議活動が あったこと になる。北 京清華大学 社会学科の 孫立平 教
授の予測では
2010 年の社会運動は 18 万件に上ったが、興味深いこ
とに中国当局は最近、社会運動の数を公表していない
46。社会運動に
46 「中國大陸學者:2010 年 18 萬起抗議事件、中國社會動盪加劇」『多維新聞網』2011 年9 月 26 日、http://china.dwnews.com/big5/news/20110926/58160315.html。
は不当な土地の収用、幹部の腐敗、労資の紛糾、環境保護、消費者、
コミュニティの権益、人種問題、ナショナリズム、突発的事件など、
ほ ぼすべての 議題が含ま れている。 最近では退 役軍人の大 規模な 闘
争 も 多 発 し て い る 。 中 国 は 研 究 者 の い う と こ ろ の 「 運 動 社 会 」
(movement society)になったようである
47。
社会問題というのは継続性のあるものだが、習近平氏の就任以降、
そ の抗議内容 には変化が 見られる。 筆者が収集 したデータ からそ の
変化の内容がいくつかわかる
48。
2012 年 11 月の「中国共産党第十八
回 全国代表大 会」で習近 平氏が胡錦 濤の後任と して党総書 記・中 央
軍 事委員会主 席に就任し たのを境に 、胡錦濤時 代と習近平 時代と に
分 けて、中国 の抗議活動 の主体と性 質、抗議の 内容、抗議 の方法 、
および政府の対応を比べると、以下のような違いがある(表
1)。
47 David Meyer and Sidney Tarrow, The Social Movement Society: Contentious Politics for the
New Century (Lanham, MD: Rowman and Littlefield, 1998); Sarah Soule and Jennifer Earl,
“A Movement Society Evaluated Collective Protest in the United States, 1960-1986,”
Mobilization: An International Journal, Vol. 10, No. 3 (October 2005), pp. 345~364.
48 資料は諸報道ホームページからまとめた。信頼に値する代表的な資料がなく各媒体
の分析には偏りがあるが、これらの情報をまとめて比較することで、より正確な資 料へと近づけた。表にまとめた資料は、2006 年~2017 年 12 月、計 3,083 件。社会運 動の時間、場所、運動の性質、運動の理由、規模、運動対象、動員方法、暴力的手 段の有無、解決方法、国外勢力介入の有無等をまとめた。
表
1 胡錦濤時代と習近平時代の社会運動の特徴比較
項
目
任意項目
指
標
胡錦濤時代 習近平時代
抗議の主体
と性質
主体層
中上
13.06%
17.50%
抗議要求
ポスト・マテリアリズム
9.50%
12.50%
抗議内容
規模
1 万人以上
4.68%
4.08%
抗議対象
政府
80.34%
74.36%
脅威度
あり
2.64%
2.30%
モバイルイ
ンターネッ
トの使用
あり
8.97%
7.02%
抗議の方法
と政府の対
応
抗議の方法
暴力
33.18%
21.50%
政府の対応
抑圧
53.03%
55.00%
出典:筆者による整理(1) 抗議の主体と性質
この部分は 抗議の主体 となる社会 層と抗議要 求の性質に 分けて 考
える。習近平氏が権力を握る前後では中上層の抗議の割合が
13.06%
から
17.5%に上昇した。抗議要求の性質については、環境主義、人
権 、平和と市 民権運動な ど、社会正 義を守るポ スト・マテ リアリ ズ
ム (
post materialism)
49の 傾 向 を 持 つ 「 新 社 会 運 動 」 が 、
9.5%か ら
12.5%に上昇した。この 2 つのデータは、現在の中国の社会運動が社
会 の発展の多 様化に伴っ て、これま での「衣食 」に関する 要求か ら
変 化したとと もに、より 多くの中産 階級が関与 しているこ とも意 味
している。
49 Ronald Inglehart, The Silent Revolution: Changing Values and Political Styles among
(2) 抗議内容
1 万人以上の規模の抗議活動の比率は、習近平氏就任の前後でそれ
ぞれ
4.68%と 4.08%と、わずかに減少した。政府に対する抗議活動
も
80.34%から 74.36%に減少した。抗議の対象の多くが政府である
こ とには変わ りはないも のの、非政 府組織にも 移行し始め ており 、
抗 議の理由が 多様化して いることを 表している 。抗議の脅 威度は 習
近 平氏就任前 後であまり 変わらず、 その割合は ともに極め て低い 。
モバイルインターネットツールの使用は
8.97%から 7.02%へ約 2%
低下した。しかし、習近平氏就任の
1、2 年前の割合を見てみると 15%
前 後と非常に 高かった。 就任後に一 桁台に下が ったことに なる。 こ
れ は習近平氏 就任後、イ ンターネッ トの監視を 強化したこ とと関 係
がある。
(3) 抗議の方法と政府の対応
人々の抗議 方法も、国 家と社会の 相互作用を 非常によく 表して い
る。習近平氏就任後、暴力による抗議の割合は
33.18%から 21.50%
へと急激に下がった。時間の流れで見てみると、
2012 年以降暴力に
よる抗議の割合は徐々に低下し、2014 年と 2015 年には 15%を下回
った。政府の対応は抑圧による対応が
53.03%から 55%へとわずかに
増 加した。つ まり、民衆 は感情を抑 えて抗議ス キルを向上 させる こ
と で、国家機 関との正面 衝突を避け る流れにあ ることがわ かる。 し
か し、政府の ほうは抑圧 を弱めない ばかりか逆 に強めてい る。中 産
階級の抗議と政府の抑圧は、もう
1 つの注目すべき焦点である。胡
錦 濤時代は中 上層の抗議 に対しては 寛容な態度 をとり、国 家機関 に
よ る抑圧を安 易に始める ことはなか った。しか し、習近平 時代に な
ると、政府は中上層の抗議に対して抑圧的な戦略をとるようになり、
こ れまでの研 究結果や胡 錦濤時代と は反対の状 況となった 。中産 階
級 に対する抑 圧の強化は 社会の安定 を維持する ための習近 平時代 の
「重心」といえる
50。
習近平氏が 権力を握っ てから抗議 を行う階層 が上位へシ フトし 、
その性質は「価値志向」が強くなり、
1 万人以上の活動の割合が減少
し 、政府に対 する抗議の 割合が下が り、脅威を 具えた活動 の割合 が
低 く、暴力に よる抗議も 少なくなっ た。これは 社会運動を 行う人 々
が この政権と どう「向き 合うべきか 」を認識し てきたこと を示し て
い る。しかし 、中央政府 が社会の安 定を重視し ている限り 、地方 幹
部 にとって「 一票否決」 の対象とな る任務はや はり維穏で あり、 こ
れが「抑圧」で集団抗議行動を解決しようとする原因になっている
51。
前 述した社会 組織への圧 力や、より 厳しくなっ たインター ネット 上
の 監視などが 相まって、 最近の中国 の「市民社 会」の空間 はます ま
す 限られたも のになって いる。これ は習近平氏 就任後の社 会治理 の
方法と関係している。
四 習近平時代の維穏体制と社会治理戦略
前述したよ うに、中国 は改革開放 以降、全体 主義から遠 ざかる 中
で、特に胡温政権期にその権威主義体制に
2 つの明らかな特徴が現
れた。
1 つは政府内の分裂と利害の衝突、もう 1 つは社会的勢力の台
頭 に伴う国家 と社会の関 係の変容で ある。以下 に、習近平 氏就任 後
50 Hsin-Hsien Wang, Wei-Feng Tzeng, Shinn-Shyr Wang, Wei-Chih Chiu, “An Eye for an Eye?
Analyzing Citizens' Use of Violence in China's Popular Protest,” presented for the 2018 Annual Conference of Midwest Political Science Association (Chicago, Illinois: The Midwest Political Science Association, April 5-8, 2018).
51 王信賢・邱韋智・王信實「中國社會抗爭中的策略互動與類型:三層模型分析」『中國
の社会治理体制の調整と戦略を分析する。
1 社会治理能力の強化:硬軟両様
中国共産党の社会管理業務は常に「飴と鞭」の論理を含んでおり、
硬 軟両様の戦 略をとって いる。ここ 最近の『政 治報告』も この流 れ
を継承しており、これらはすべて党の執政能力(
state capacity)に関
係する
52。
Michael Mann の見解によると、この戦略は国家権力を専制
的 権 力 (
despotic power ) と イ ン フ ラ ス ト ラ ク チ ャ ー 的 権 力
(
infrastructural power)に分けることができる。前者は一種の分配能
力 を指し、党 ・政官僚は 社会の同意 なしにその 意志を遂行 するこ と
が できる権力 である。後 者は国が社 会へ入り込 み浸透する 力で、 組
織 の構築と政 策決定を通 じて国民生 活を調整す る。現代国 家の特 徴
は 「インフラ 」を強化す ることであ り、社会に 対する浸透 力、社 会
生 活への影響 力を強化す れば、国民 の民族国家 に対する認 識をよ り
強くできると考えられている。国はインフラ整備に加え、経済発展、
社 会福祉、人 々の生活に も介入すれ ば、政策を 地域の隅々 にまで 浸
透させ、社会への介入を広げることができる
53。
一般的に、社会の安定の維持は、強制力の使用だけではなく、人々
の生 活や社会福 祉改革とも 関係する 。「十九大」『政治報告』に 記 載
さ れている「 社会政策」 には、教育 、雇用と所 得、社会保 障、貧 困
脱却、保健医療、「三農問題」の解決、生態保護などが含まれている。
これらは「インフラストラクチャー的権力」に属し、「飴」の手法で
52 Theda Skocpol, “Bringing the State Back In: Strategies of Analysis in Current,” in Peter
Evans and Theda Skocpol ed. Bringing the State Back In (NY: Cambridge University Press, 1985), pp. 3~37.
53 Michael Mann, The Sources of Social Power: The Rise of Classes and Nation-states,
ある 。一方、「社 会の安定」 は専制的権 力に属し 、「鞭」の手法 で あ
る
54。専制的権力はさらに「人民内部の矛盾」と「敵味方の矛盾」に
分けることができる。『政治報告』に提起された「打造共建共治共用
的社会治理格局(共建・共管・共有の社会治理の枠組みの構築)」は
「 人民内部の 矛盾」に対 処する手段 であり、教 育すること ができ る
も の で あ る 。 他 方 、「 有 効 維 護 国 家 安 全 ( 国 家 の 安 全 の 効 果 的 な 維
持)」、とりわけ「三股勢力(テロリズム、分離主義、宗教過激派)」
に関することは「敵味方の矛盾」に属し、妥協を許さない(図
2)。
図
2 十九大『政治報告』の中の社会問題に関する論述の構造
出典:筆者作成。2 維穏体制を統合するための「頂層設計」の強化
中国共産党 が政策策定 と実施の上 で常に遭遇 する最大の 困難は 、
各 行政部門間 の利害の衝 突である。 共産党、政 務院、部会 、委員 会
54 「中國共產黨第十九次全國代表大會關於十八屆中央委員會報告的決議」『新華網』 2017 年 10 月 24 日、http://news.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/24/c_1121849794. htm。
の 間で業務を 分担すると 、意見の相 違が生じ共 通目標を達 成でき な
く なる。これ が前述した 「分断化し た権威主義 」である。 そこで 、
習 近平氏は「 頂層設計」 という党中 央によるト ップ・ダウ ン式の 政
治運営方式を打ち出した。これは政策策定を中央集権化することで、
既 存の構造を 変え、部門 本位の考え 方や既得権 益という枠 を取り 払
おうという考えで、組織体制を改革し問題を解決しようとしている。
「頂層設計」の最も代表的なものは「中国共産党第
18 期中央委員会
第
3 回全体会議」後の 2014 年に設立した「国家安全委員会」、「全面
深化改革領導小組」、および前述の「網路安全和信息化領導小組」で
ある。この
3 つは共産党の「維穏」業務と密接な関係がある。また、
2018 年 3 月には『深化党和国家機構改革法案』を公布し、重要な目
標 である「頂 層設計、総 体設計、統 一調整、全 面推進、実 施管理 」
を 達成するた め、共産党 中央領導小 組の一部を 「委員会」 に変更 し
た
55。その中には「全面深化改革領導小組」と「網路安全和信息化領
導 小組」も含 まれている 。つまり、 習近平時代 の維穏にお ける「 頂
層設計」の政治運営方式は、以下のように分けることができる。
(1)中央国家安全委員会:「鞭」の権力に関係する政府機関には、少
な くとも中央 政法委員会 、中央社会 治安総合治 理委員会( 中央総 治
委)、公安部、中国人民武装警察部隊、国家安全部、および中国共産
党中央議事協調機構に属する「中央維穏工作領導小組」(維穏小組)
や「党中央邪教問題を防止および処理する領導小組弁公室」(
610 弁
公室)がある。「国家安全委員会」設立の目的は指示の統一を図るた
めで、国の安全に関する全体的な調整を担当しており、「維穏」業務
は 中 国 国 内 の 社 会 治 理 の 任 務 に 属 す る 。『 深 化 党 和 国 家 機 構 改 革 法
55 「人民日報:建立健全黨對重大工作的領導體制機制」『中國新聞網』2018 年 04 月 18 日、http://www.chinanews.com/ll/2018/04-18/8493570.shtml。
案』では「中央総治委」、「維穏小組」、「
610 弁公室」の機能が中央政
法委員会に統合され、「頂層設計」の理念がさらにはっきりと示され
た。
(2)中央全面深化改革領導小組:維穏の「飴」の手法である。国民
生 活 や 社 会 事 業 改 革 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。「 改 革 の 総 体 設
計 」の責任を 負い、経済 発展、社会 の安定、国 民生活の向 上など を
管轄しており、『戸籍制度改革の一段の推進に関する意見』を公表し
た 。これによ り、農民工 が都市部で 暮らす場合 の戸籍に関 する規 制
が 緩和され、 人口の移動 や社会の安 定に大きな 影響を与え た。こ の
ほか、「雷洋事件」が発生し社会的議論が巻き起こった際には、公安
による「行き過ぎた法執行」の問題に対処するため、『公安機関によ
る法執行の規範化の深化に関する意見』も発表した
56。
(3)「網信小組」と「網信弁」:インターネットの安全を国の安全概
念に組み入れた後、「網信弁」の業務は非常に重要なものとなった。
そ こで、共産 党は「国家 安全委員会 」の設立に 加え「網信 小組」 も
設立し、インターネット管理の強化と業務の効果的な分散を行った。
共 産党の権力 の配置に基 づき「網信 弁」は各級 宣伝部のコ ントロ ー
ル 下に置かれ た。その目 的は、中央 政府が世論 を監視し導 くため の
反 応速度や対 応能力を強 化するため である。共 産党は人権 活動家 、
オピニオンリーダー、インターネットの大
V(多数のフォローワー
を 持つ公式ア カウントも しくは実名 登録アカウ ント)を社 会不安 を
招 く根源と見 なしている 。彼らが自 身の知名度 や影響力を 利用し て
デマを飛ばし紛糾を引き起こしているため、「根源管理」を行わなけ
ればならないと考えている。「八・一九講話」の後にインターネット
56 「習近平主持召開中央全面深化改革領導小組第二十四次會議」『新華網』2016 年 5 月 20 日、http://news.xinhuanet.com/politics/2016-05/20/c_1118904441.htm。
に対する統制が厳しくなり、多くの大
V やオピニオンリーダーが逮
捕されたのはその例証である。
3 「依法治国」?関連法の公布
共 産 党 の 維 穏 の た め の ツ ー ル は 目 に 見 え る 国 家 暴 力 だ け で は な
い 。「法整備」を 強化し「依 法治国(法 に依って国 を治める )」も 着
実 に進めてい る。つまり 、社会統制 を「総体的 な安全概念 」の枠 組
みに組み込み合法化した。
2015 年 7 月 1 日に可決された『国家安全
法 』はその一 例である。 インターネ ット上の安 全について 、政府 は
インターネット規制を合法化するため、『国家安全法』第
26 条に「イ
ン ターネット 管理を強化 し、サイバ ー攻撃、機 密情報の盗 難、違 法
で 有害な情報 を広めるな どのインタ ーネット犯 罪行為を防 止・処 罰
し 、国のイン ターネット 空間の主権 、安全およ び発展の利 益を維 持
する」と定めた
57。このほか、『インターネット安全法』の施行もイ
ン ターネット 主権の合法 化を意味し ている。ま た、インタ ーネッ ト
の 安全を国家 戦略レベル に押し上げ た理由には 、国際的な サイバ ー
戦 争の脅威に 対応するほ か、政権基 盤をさらに 強固なもの にし社 会
維穏を図るなどの内情も含まれている。例えば「テロリズムの宣伝、
宗教過激派、国家政権の転覆の扇動、社会主義体制の打倒」などは、
インターネット上の安全を脅かす主な活動と認定されている
58。
社会組織に ついては、 前述した関 連する規制 措置の変更 に加え 、
法令でも活動が規制された。
2016 年 3 月に可決・成立した『慈善法』
の第
4 条には「慈善事業を展開するにあたって…国家の安全に危害
57 「中華人民共和國國家安全法」『中國人大網』2015 年 07 月 01 日、http://www.npc.gov. cn/npc/xinwen/2015-07/07/content_1941161.htm。 58 「中華人民共和國網絡安全法」『中國人大網』2016 年 11 月 7 日、http://www.npc.gov. cn/npc/xinwen/2016-11/07/content_2001605.htm。
をもたらしてはならない」と規定され、第
15 条と第 104 条でも慈善
組 織は国の安 全に危害を もたらす活 動に従事し たり援助し たりし て
はならないと言及している
59。また、前述の『域外非政府組織(
NGO)
域内活動管理法』第
5 章「監督管理」(第 39-44 条)においては、域
外
NGO の責任者への事情聴取、一時的な活動の停止、書類・資料の
チェック、口座資金の凍結、「ブラックリスト」の公表(第
48 条)
など、中国国内で活動する海外の
NGO を監督・管理するための大き
な権力とさまざまな手段が公安機関に与えられている
60。
このほか、社会秩序を乱す世論を効果的に監視するため、「全国人
民代表大会」は
2015 年 8 月末に『刑法修正案(九)』を可決し、犯
罪となる行為を
9 つ追加した。このうち、第 291-1 第 2 款「造謡(デ
マを飛ばす)」に関する部分は、言論の自由の締めつけであるとの議
論を呼んだ。条文によると、「造謡」とは「虚偽の危険情報、疫病情
報 、災害情報 、警告をで っち上げ、 インターネ ットやその 他の媒 体
で その虚偽情 報を流通さ せ、あるい は明らかに 虚偽の情報 と知り な
が らインター ネットやそ の他の媒体 でその虚偽 情報を故意 に流通 さ
せ、社会秩序を深刻に乱す」ことであり、
7 年以下の有期懲役に処さ
れる
61。しかし、この法的規制は誤用されたり悪用されたりする可能
性 もある。そ れは「虚偽 」や「デマ 」の線引き はそれ自身 、主観 的
な 意識である からである 。当局が反 体制派を取 り締まるた めのツ ー
ルになる可能性もある。中国の「依法治国」は「法の支配」(
rule of
59 「中華人民共和國慈善法」『中國人大網』2016 年 3 月 19 日、http://www.npc.gov.cn/ npc/dbdhhy/12_4/2016-03/21/content_1985714.htm。 60 「授權發布:中華人民共和國境外非政府組織境內活動管理法」『新華網』2016 年 04 月29 日、http://news.xinhuanet.com/legal/2016-04/29/c_1118765888.htm。 61 「中華人民共和國刑法修正案(九)」『人大新聞網』2015 年 8 月 29 日、http://npc.people. com.cn/n/2015/1126/c14576-27857512.html。
law)ではなく、「法治主義」(rule by law)であり、その目的は社会
的統制を「合理化」し「合法化」することである。
4 科学技術を強化し社会を監視する
情報技術の 発展は民主 主義を促進 するのか、 あるいは権 威主義 を
強固なものにする武器であるのか。学術界で長い間議論されてきた。
自 由主義者は 情報技術の 発展は政治 参加のため のより良い 環境を 作
り出すことができると信じている
62。一方で、国の情報の独占と国民
に対する監視の強化につながると考える人もいる
63。ジョージ・オー
ウ ェルの 著名 な小説 『
1984』では、政府が町中至る所で監視をして
いる世界が描かれている。「ビッグ・ブラザーがあなたを見守ってい
る」(
Big brother is watching you)という言葉は、全体主義国家を描
写する名句となった。英国のテレビドラマ『ブラックミラー』(
Black
Mirror)では、あるユートピア世界を描いた回がある。そこでは人々
は 統一された システムに よって点数 をつけら、 その点数に よって 人
付 き合いや仕 事において 得られる待 遇が決まる 。しかし、 中国で は
今、現実にこのような状況が起きているのである。
2015 年 5 月、中国国務院は『中国製造 2025』(Made in China 2025)
計画を発表した。この計画はドイツの「インダストリー
4.0」(Industry
4.0)に影響を受けたもので、製造業のコンピュータ化、デジタル化、
ス マート 化を 推し進 める もので ある 。「中 国製造
2025」の推進に加
62 Barry Hague and Brian Loader, Digital Democracy: Discourse and Decision-making in the
Information Age (London: Routledge, 1999).
63 Hubertus Buchstein, “Bytes that Bite: The Internet and Deliberative Democracy,”
Constellations, Vol. 4, No. 2 (1997), pp. 248~263.; James Scott, Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition have Failed (New Haven, CT.: Yale
え、中国
3 大ネットサービス企業と呼ばれるアリババ、百度、騰訊
の 成長も、ユ ビキタスネ ットワーク 、ビッグデ ータ分析、 人工知 能
(
AI)などの関連産業を「爆発的成長」時代へと発展させた。しか
し 、この発展 は経済的な 側面だけで はない。制 度設計や企 業に対 す
る コントロー ルなどを通 した「デジ タル経済」 が、共産党 政権が 国
民 を直接監視 する手段と なり、新た な超監視社 会を実現す る可能 性
が ある。共産 党は近年、 インターネ ット管理、 社会信用シ ステム 構
築、スカイネット(
skynet)システムや DNA データベースの構築、
とりわけ党国による「ビックデータ」の独占を積極的に進めている。
そ れに伴い中 国の国家と 社会の関係 も変化して いる。科学 技術の 発
展 と制度改革 を通して整 備された党 国体制は、 社会のため に整備 さ
れ たより完全 な安全ネッ トワークと 謳われてい るが、しか しその 本
質 は社会全体 に張り巡ら された包囲 網であり、 国民がその 便利さ を
享受している傍らで、よりグレードアップした「ビッグ・ブラザー」
が全力で監視しているのである。
ドイツの政治学者
Sebastian Heilmann は、このようなやり方を「デ
ジ タル ・レー ニン 主義 」(
digital Leninism)と名づけた
64。 また 、 こ
の ようなイン ターネット で監視し民 意を導くこ とに長けた 中国共 産
党 の 政 治 形 態 を 「 イ ン タ ー ネ ッ ト 権 威 主 義 」(
networked
authoritarianism)と呼ぶ学者もいる
65。
Stein Ringen は、今の中国の社
64 Sebastian Heilmann, “Big Data reshapes China’s approach to governance,” Mike Norman
Economics, October 7, 2017, https://heterodox.economicblogs.org/mike-norman-economics/
2017/norman-sebastian-heilmann-mdash-big-data-reshapes-china-governance.
65 Rebecca MacKinnon, “China's “Networked Authoritarianism,” Journal of Democracy, Vol.
2, No. 2 (April 2011), pp. 32~46.; Wen-Hsuan Tsai, “How ‘Networked Authoritarianism’ was Operationalized in China: Methods and procedures of public opinion control,” Journal of