• 沒有找到結果。

馬英九政権における両岸人的移動の拡大と展望--中国人観光客・学生の来台拡大を中心に 馬英九執政後的兩岸人民交流之擴大與展望--以擴大陸客‧陸生來台為例

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

Share "馬英九政権における両岸人的移動の拡大と展望--中国人観光客・学生の来台拡大を中心に 馬英九執政後的兩岸人民交流之擴大與展望--以擴大陸客‧陸生來台為例"

Copied!
36
0
0

加載中.... (立即查看全文)

全文

(1)

馬英九政権における両岸人的移動の拡

大と展望

─中国人観光客・学生の来台拡大を中心に─

駒 見 一 善

(財団法人交流協会台北事務所専門調査員1

【要約】

2008 年、馬英九政権発足後、両岸協議が 9 年ぶりに再開され、両 岸関係、特に経済関係の正常化が図られた。同政権の下、観光や学 生等の中国から台湾への人的移動が拡大し、2010 年の台湾訪問者は 163 万人(前年比 67.8%増)に増加した。2011 年 1 月、中国人団体 観光客の受入枠が拡大、同年 9 月、中国から正規学生としての台湾 就学受入が開始される等今後も更なる拡大が予想される。 拡大した両岸の人的移動で注目されるのは、「人口大国」、「経済力」 を背景にした「規模」、「スピード」である。馬英九政権は、経済的利 益を確保するとともに、台湾訪問の中国人に台湾の現状と華人社会 で初めて自由で民主的な政治、社会を実現した「ソフトパワー」を アピールし、中国に変化を促したい意向であるのに対し、中国側は、 中国への経済依存の拡大、特に台湾内部の利益配分を左右する影響 力拡大を意図している。台湾は勢いを増す中国からの「大陸風」に 如何に対峙するかが問われている。 キーワード:両岸関係、観光客、学生、ソフトパワー、経済依存

1 本稿は筆者個人の見解をまとめたもので、所属団体とは無関係であることをお断り します。

(2)

一 はじめに

2008 年 3 月に行われた台湾総統選挙の結果、両岸関係の改善を公 約した国民党の馬英九氏が当選した。2008 年 5 月の馬英九政権発足 後、6 月には江丙坤・海峡交流基金会董事長(台湾)、陳雲林・海峡 両岸関係協会会長(中国)2 による両岸協議が 9 年ぶりに再開され、 2011 年 2 月までの間に、両岸では年に 2 回の両岸協議開催がほぼ制 度化され、すでに15 項目の協議と 1 項目のコンセンサスが締結され た。特に2010 年 6 月に締結、9 月に発効した FTA に相当する「両岸 経 済 協 力 枠 組 み 協 議 」 (ECFA: Economic Cooperation Framework Agreement)の締結は、両岸経済関係が新しい段階に進んだことを象 徴している。 陳水扁政権時代、両岸が激しく対立する中、台湾から中国への台 湾ビジネスマン(台商)の移動は拡大したが、馬英九政権では中国 からの台湾への人的移動の開放に着手した。 従来の両岸人的移動の研究は、台湾人の中国渡航、台商の往来、 中国からの配偶者、不法就労、一部の観光を対象としていた。現在、 馬英九政権での中国から台湾への人的移動の開放政策により、観光 や就学(留学)といった経済力を背景とした中国人の移動が拡大す る新しい事象が発生している。本稿では、馬英九政権のもとで拡大 した中国からの台湾への人的移動、中国人観光客の台湾訪問と2011 年後半、開放拡大予定の中国人学生の台湾就学についての議論から、 両岸人的交流の現状と課題について考察する。

2 議論の混乱等を避けるため、本稿では中国大陸を「中国」、同住民を「中国人」、台 湾住民を「台湾人」と表記する。

(3)

二 馬英九政権発足までの両岸人的移動

1 国共内戦と人的移動 1949 年、国民党は中国での共産党との内戦に破れ、台湾にその政 権を移した。中華民国中央政府の台湾への移転とともに、1949 年当 時、台湾の人口が約600 万人だったところに、1945 年から 1950 年前 後までに中国から約90 万人~250 万人超3の人々(軍人、軍属、国民 党、政府関係者、共産政権を嫌った資本家、難民)が台湾に流入し た。 1955 年、浙江省沖合の大陳島への中国人民解放軍による攻撃によ り 1.8 万人の住民が台湾へ撤退した4。これを最後に、蒋介石総統の 「大陸反抗」のスローガンのもと、台湾と中国が激しく対立する中、 台湾には戒厳令が敷かれ、また、中国でも反右派闘争、文化大革命 等を経る中、少数の亡命、密航を除き両岸間の人的移動は停止した。 2 台湾からの中国親族訪問開放と両岸人的移動の拡大 1978 年末、実権を掌握した鄧小平氏の下、中国は改革開放政策の 推進に大きく舵を切る。同政策は、台湾政策にも反映し、1979 年 1 月 1 日、中国全国人民代表大会常務委員会名義で「台湾同胞に告げ

3 蔡明璋・曾瑞鈴「20 年來兩岸社會交流」游盈隆主編『近二十年兩岸關係的發展與變 遷』(台北:海峽交流基金會、2008 年)、頁 271;若林正丈『台湾の政治』(東京大学 出版会、2008 年)、58 ページ;蔣正華・米紅・張友干「1946-1949 年中國大陸人口 向台灣及海外遷移估計」『中國人口科學』1996 年第 4 期(1996 年 4 月)、頁 1~12;山 本勲『中台関係史』(藤原書店、1999 年)、117 ページ。流入人口の大きな差異には、 戸籍外の軍人数把握が困難なこと(約 60 万人とも)、当局のプロパガンダとして流 入人口が水増しされたこと等が原因として指摘されている。ステファン・コルキュ フ(上水流久彦・西村一之訳)『台湾外省人の現在』(風響社、2008 年)、50~53 ペー ジ;柯旗化『台湾監獄島』(高雄:第一出版社、1992 年)、頁 80。 4 蔣正華・米紅・張友干、前掲書、頁 11。

(4)

る書」を発表し、「台湾解放」から祖国の「平和的統一」を目指す ことを表明した。これは中国が、国際社会ですでに中国の代表権を ほぼ獲得し、台湾の存立に影響力を持つ米国との間で「米中国交回 復」を実現したという自信から、台湾に対する政策変更が図られた ものである。さらに中国では、1981 年に葉剣英・全国人民代表大会 常務委員長による「平和的統一」に向けた「9 項目提案」が発表され た。同項目には、「第三次国共合作」の提案、三通(通信、通航、 通商)実現と四流(観光交流、学術交流、文化交流、スポーツ交流) 促進、「一国二制度」と呼ばれる統一後の「特別行政区」設置、台 湾の経済体制等の維持、中国への投資促進等が含まれ、中国から台 湾へ積極的な交流促進の働きかけがなされた。中国側は、1980 年、 台湾海峡を隔てた台湾対岸にある福建省廈門(アモイ)を経済特区 に指定し、台湾からの中国投資を促す政策を実施する。 これに対し、台湾では、こうした呼び掛けに「三不政策」(妥協 せず、接触せず、交渉せず)という形で、中国側との接触を避ける 政策を採って対抗し、基本的には両岸間の人的移動を厳しく制限す る政策を取り続けた。 台湾でも1979 年の台湾住民の海外渡航開放措置が取られると、香 港、第三国経由での親族の接触や秘密裏の台湾人の中国渡航が行わ れていた5。また、経済交流でも、中国での台湾製品への需要は高く、 香港、第三国を経由した両岸間の間接貿易は増加していた。両岸の 表面化しない交流の拡大には、両岸対立の中で親族離散が長期化し、 徴用等で故郷を離れ軍人軍属として渡った人々が高齢化しているこ とから、人道上も切実な背景があった。また、経済的にも中国との 間接貿易は拡大傾向にあり、これらの課題が政策変更の圧力となり、

5 若林正丈、前掲『台湾海峡の政治』、41 ページ。

(5)

1985 年には「中継貿易三原則」を締結し、中国との直接通商、中国 政府代表との接触、交渉を禁止する等の条件のもとでの両岸間接貿 易を許可した6 両岸交流、人的移動にとって大きな転換点となるのは、1987 年で ある。台湾においては、蒋経国総統の病状悪化とともに、それまで の戒厳体制の見直しが図られる事となった。 1987 年 7 月、戒厳令が解除され、台湾人の外貨持ち出し規制が解 かれた。1987 年 11 月、台湾から中国への親族訪問開放に、中国も台 湾の動きに呼応して同開放決定前には、台湾同胞を対象に出入国関 連法規を制定し、親族訪問は1988 年 1 月に実施された。 1987 年以降台湾から中国への訪問数は、台湾側の統計上あまり大 きな数字ではない。しかし、同時期、台湾から香港マカオへの渡航 者の相当数が香港経由で中国に入境したものと考えられる7。中国側 統計では、台湾人の中国訪問は 1988 年 43.8 万人、1989 年は天安門 事件という政治的混乱があったにもかかわらず、54.1 万人に拡大し た。 3 李登輝政権時代の両岸人的移動拡大 1988 年、蒋経国総統の死去後、副総統だった李登輝氏が総統に就 任した。李登輝政権では、香港、マカオ、第三国を経由した中国へ の投資が大きく拡大する中、中国への過度な投資を避けるべく、「有 効管理」の方針を打ち出し、東南アジアへの南向政策を提案した。 台湾が90 年代直面した、台湾元高や台湾における労働コストの上

6 山本勲、前掲『中台関係史』、197 ページ。 7 若林正丈、前掲『台湾海峡の政治』、41 ページ。

(6)

昇は、労働集約型産業の中小企業を中心に8、言語を共有し安価な労 働力を持つ中国への投資を急速に高める結果となった。1990 年代後 半には、香港に隣接した広東省東莞等を中心に台湾企業が多く進出 し、世界の電子機器の大きな生産拠点となった。世界経済の中で電 子立国として激しい競争に挑む台湾企業は自らの経済グローバル化 の帰結として対中国投資を選択していく。 台湾からの中国投資の拡大に伴い、台商の往来、長期滞在者も増 加し、台湾から中国への渡航者は1990 年に 94.8 万人、鄧小平氏の南 巡講話のあった1992 年に、131.8 万人、1997 年には 211.8 万人、2000 年に310.9 万人に拡大した。 4 陳水扁政権時代の両岸人的移動 李登輝政権下での台湾から中国への人的移動の拡大傾向は、2000 年以降の陳水扁政権でも変わることなく、グローバル化の進展とと もに、台湾企業は、言語、商取引習慣を共有する最適生産地として 中国進出が拡大した。この間、政治的には李登輝総統の「二国論」 (1999 年)、「台湾独立」の党綱領を持つ民進党政権の発足(2000 年)等両岸間での緊張が高まるなかで、2003 年の SARS の流行で一 時低迷するものの、2005 年以降年 400 万人超の人々が中国を訪問し た。 すでに中国には、上海だけで約 70 万人の台商、その家族が滞在し 9100~200 万とも言われる台湾人が中国各地に滞在している。中国

8 2007 年、筆者が広東省東莞、上海、福建省アモイで実施した台商企業に対する現地 調査によれば、多くの企業が1990 年代にマレーシア、インドネシア等東南アジア諸 国に投資を実施した経験を持ち、現地政府、労働者の水準等課題から中国に投資先 を変更している。 9 「70 萬台灣人上海定居工作」『聯合報』2010 年 12 月 3 日、版 A23。

(7)

の位置付けも「工場」から「市場」に変化し、製造業から中国国内 市場を狙ったサービス業への投資が増加し、進出地域も当初の広東、 上海等沿海部から内陸部の地方都市に至る中国全土に広がっている。 図 1 台湾地区人民の中国(大陸)訪問(入境のべ人数) (出典)「自開放以來截至99 年 12 月兩岸交流統計圖」行政院大陸委員会、2010 年 12 月、http://www.mac.gov.tw/big5/statistic/ass_lp/0a/9912/5.pdf、より筆者作成。 5 制限された中国から台湾への人的移動 「台湾から中国へ」の親族訪問、旅行、投資、ビジネス等人的移 動は80 年代末から拡大してきたが、中国から台湾への人的移動は厳 しく管理されてきた。 しかし、1987 年、戒厳令が解除されると、中国から台湾への密航、 非合法移民問題が表面化した。戒厳令下の台湾では、言語等に障壁 を持たない中国と台湾においては、中国からのスパイが一度台湾内 部に潜入すると摘発等が困難になることから、中国からの諜報活動 に強い監視の目が注がれ、スパイ摘発は厳しく実施されていた。し かし、戒厳令の解除は労働を目的とした中国人の流入を容易にする

(8)

ことになった。1987 年 762 人だった中国からの不法越境による逮捕 収容者は、1988 年 2,260 人、1989 年 3,284 人、1990 年 5,626 人と拡 大、近年激減しているものの1987 年から 2009 年までの統計は 51,969 人に達する10。ちょうど、中国からの非合法移民労働者の流れは、日 本においても1989 年頃からベトナム難民を装った福建省等中国南部 沿海地域からの「偽装難民」が拡大した現象と重なっている11。台湾 においても、上昇した労働賃金、逼迫した労働市場は、中国福建省 等沿海地域からの密航、非合法移民労働者を拡大させた。 また、台湾では、女性の非婚化、晩婚化に伴って、兵士軍属、農 村では配偶者不足が深刻化した。現在、中国からの流入した中国人 花嫁が、約 30 万人が台湾に滞在している12。中国からの花嫁は、家 族訪問、親族居留、長期居留を経て、「中華民国」身分証を取得す る4 段階の過程を経るため13、外国籍配偶者と異なり、公民権を獲得 するまで長期間必要な制度となっている14

10 内政部入出國及移民署「内政部入出國及移民署 98 年報」(台北:内政部入出國及移 民署、2010 年)、頁 120。 11 田嶋淳子「東アジアにおける国際人口移動」『淑徳大学社会学部研究紀要』第 35 号、 (2001 年 3 月)、119 ページ。 12 野嶋剛「巨竜の影中国建国 60 年:台湾中国人妻への差別に歯止め」『朝日新聞』(2009 年10 月 17 日)9 面。 13 内政部入出國及移民署編『九十七年外籍與大陸配偶生活需求調査報告』(台北:内政 部入出國及移民署、2009 年)、頁 45。 14 宋秉忠「新外省人?新台灣人」『天下雜誌』(2003 年 3 月)、頁 117。

(9)

図 2 大陸地区人民の台湾訪問(入境のべ人数) (注)大陸委員会、観光局双方とも内政部出入国及移民署統計を基本としているが、数 値にズレがあり、観光局発表の 2010 年統計資料は、大陸委員会発表の数値より 中国からの來台者、観光客とも数万人規模で大きくなっている。 (出典)「自開放以來截至99 年 12 月兩岸交流統計圖」行政院大陸委員会、2010 年 12 月、http://www.mac.gov.tw/big5/statistic/ass_lp/0a/9912/5.pdf、より筆者作成。 2000 年に発足した民進党政権下でも、中国から台湾への観光、訪 問者の拡大が模索された。2001 年 12 月、内政部は「大陸地区人民来 台従事観光活動許可弁法」を発布し、法的に中国から台湾への観光 について規定した。同法では、中国人観光客を身分と台湾へのルー トで 3 つに区別し、中国大陸住民が直接、或いは香港マカオを経由 して台湾へ入る観光客を「第一類」、国外への旅行、或いはビジネ ス視察で台湾を訪問する観光客を「第二類」、中国大陸以外に長期 滞在している中国人の台湾への観光客を「第三類」と規定している15。 2002 年 1 月、同法に基づき「第三類」に当たる中国人の台湾観光 を試験的に開放、5 月に「第二類」のビジネス視察を目的とした訪問

15 「大陸地區人民來臺從事觀光活動許可辦法」交通部觀光局、2001 年 12 月 10 日、 http://admin.taiwan.net.tw/law/File/200112/901210.doc。

(10)

を開放した。2004 年 12 月、「第一類」観光客について、福建省住民 に限り、小三通を利用した金門島への観光を開放し、中国人観光客 の往来は、2005 年には 50,000 人を超え、2006 年には約 98,500 人の 規模に拡大した。2007 年 4 月、福建省住民の金門、馬祖経由による 澎湖島への観光を開放する等の模索が続けられた。 その後も陳水扁政権では、「福建省住民」、「離島への訪問」に 限定されていた「第一類」に属する中国人観光客の台湾訪問拡大は 模索されたが16、両岸関係が緊張する中、両岸観光交流の拡大につい ても、両岸の政治的対立で実現できず、中国側からの積極的な政策 は得られず、交流拡大に制限をかける動きが採られた17

三 馬英九政権での両岸人的移動の状況(中国人観光

客の台湾訪問開放を中心に)

1 中国人観光客の台湾訪問開放 2008 年 3 月、「両岸関係の改善」を公約に台湾総統選挙に臨んだ 国民党の馬英九氏が当選を果たした。2008 年 5 月 20 日、馬英九総統 は、就任演説で同任期中「統一しない、独立しない、武力を行使し ない」との「三不政策」を維持し、「一つの中国については各自が表 述する」との「92 年コンセンサス」の基礎の上で、直ちに両岸間の 正式ルート(中国側・海峡両岸関係協会、台湾側・海峡交流基金会) を通じ、両岸の接触・対話の再開を目指すと述べた。就任に先立ち 2008 年 4 月、蕭萬長次期副総統は中国側の胡錦濤総書記に、両岸直

16 同政策には、両岸交流以上に離島建設の色彩が強かった。石原忠浩「もう一つの両 岸交流「小三通」の回顧と展望」『問題と研究』第39 巻 1 号(2010 年 3 月)、88~89 ページ。 17 范世平「開放「第一類」陸客來臺旅遊 1 周年對兩岸關係影響之研究」『中共研究』43 卷10 期(2009 年 10 月)、頁 96。

(11)

航の早期実現、大陸観光客の台湾観光の早期開放を進める提案を行 った。 馬英九政権発足直後の 2008 年 6 月には、江丙坤・海峡交流基金会 董事長、陳雲林・海峡両岸関係協会会長による両岸協議が 9 年ぶり に再開し、両岸双方は、「両岸直航チャーター便の週末運行」と「中 国人観光客の台湾訪問の開放」が実現し、中国人観光客の台湾観光 を一日当たり3000 人、10 日間までの団体観光客の開放が合意された 18 2008 年の開放後、馬英九政権の思惑とは異なり、中国人観光客は なかなか増加しなかった。これには、両岸直行便等両岸交通インフ ラ不足、中国側での開放地域、台湾観光取扱旅行社数、高い保証金 等がネックとなった。開放から半年、台湾初の開催となった第 2 回 江丙坤・陳雲林会談(両岸協議)開催の際にも、観光客が「一日3000 人の制限枠に程遠い」と台湾メディア、野党民進党は同問題を大き く取り上げ、馬英九政権を厳しく突き上げた19。 「両岸協議の成果」が見えないという声が台湾で高まる中、2009 年春以降、中国は各地の台湾弁公室等を通じた政府主導の台湾観光 促進活動(「萬人遊台湾」)を展開した。中国人観光客開放地域は当 初、北京、上海、広東等の沿海部の比較的生活水準の高い14 省に限 られていたが、以後25 省(2009 年 2 月)、2010 年 7 月以降、チベ ット、新彊等自治区を含む31 の省級行政区全てからの観光が開放さ れた。さらに、渡航保証金の削減、両岸協議で確認された三通拡大 による交通インフラ整備等に伴い、2009 年には 60.6 万人の観光客が

18 大陸委員會編「大陸地區人民來臺從事觀光活動許可辧法」『台灣地區與大陸地區人民 關係條例曁施行細則』(台北:大陸委員會2010 年)、頁 89。 19 范世平、前掲「開放「第一類」陸客來臺旅遊 1 周年對兩岸關係影響之研究」、頁 96。

(12)

訪れ、中国人来台者は96.7 万人に急拡大した。こうした中国観光客 の増加は、中国から馬英九政権への援護の一面も見え隠れする。2010 年には122.8 万人の中国人観光客、163.1 万人(観光局統計)の中国 人が台湾を訪問し、これまで40 年以上にわたり、海外からの台湾訪 問トップであった日本人は 108 万人で、その地位を中国に譲った。 海外からの台湾訪問者も前年比26.7%増の 557 万人となった20 図 3 2008 年以降の中国人観光客の台湾訪問推移(月別観光客数) (出典)「觀光統計(各月)」交通部観光局、2008 年 7 月~2010 年 12 月、http://admin.taiwan. net.tw/indexc.asp より筆者作成。 さらに、2010 年 12 月の両岸協議で、2011 年 1 月 1 日から中国人

20 「556 萬 7277 人次 99 年來台旅客大增百萬大陸旅客最大客源馬來西亞成長居冠」、交 通部観光局、2011 年 1 月 11 日、http://admin.taiwan.net.tw/bulletin/bulletin_show.asp? selno=2833。

(13)

団体観光客を一日あたり約3,000 人から 4,000 人に、個人自由旅行に ついても早期に試験的な開放を模索することが合意された21。こうし た開放措置により2011 年は最大で中国人団体観光客が約 36.5 万人拡 大し、さらに個人自由旅行が解禁されれば、中国から台湾への人的 往来は200 万人規模になることが予想される。 2 中国人観光客の特徴 観光局による台湾を訪問する観光客に対する2009 年の調査によれ ば、日本人観光客一人の一日当たり消費金額は268.96 米ドル、中国 人観光客は234.26 米ドルで、日本人観光客に比べ若干劣るものの、 全観光客平均の216.30 米ドルよりも高い結果であった22 同消費額が消費分野に占める割合を見ると、中国人観光客は、ホ テル等での消費は、全体平均 39.33%に対し、中国人 30.49%、レス トラン飲食費が全体平均11.60%、中国人 6.27%、商品購入費が全体 平均 33.78%、中国人 50.16%になっている。これは日本人観光客が 全体的に平均的な消費割合であるのに対し、中国人の場合、宿泊、 飲食を節約した分、商品購入に全消費金額の半分を集中させている ことが読み取れる23。商品購入費に占める購入上位品目では、宝飾・ ヒスイ類が25.20%を占め、中国に比べ台湾の輸入関税が低いことか ら海外有名ブランド、化粧品、特に日本製化粧品にも人気が集まっ

21 「第六次『江陳會談』順利舉行兩會簽署海峽兩岸醫藥衛生合作協議」海峡交流基金 会、2010 年 12 月 21 日、http://www.sef.org.tw/ct.asp?xItem=183518&ctNode=4327&mp=1。 22 交通部觀光局「中華民國 98 年來台旅客消費及動向調査報告」(台北:交通部觀光局、 2010 年)、頁 11~12。 23 旅行業界関係者への筆者聞き取り調査によれば、旅費は団体観光客で 1 日あたり 30~40 ドルと低く抑えられ、一日あたり 100~150 ドルの専門家等訪問団とは異なると 指摘している。

(14)

ている。 また、言語が共通する安心感から中国人観光客の比較的年齢層が 高いことも特徴であり、5 泊から 7 泊で台北(故宮博物院、101 ビル、 士林夜市)、南投(日月潭)、嘉義(阿里山)、高雄、花蓮(タロ コ渓谷)等台湾を一周するルートが一般的となっている24。 3 中国人観光客受入政策の展望 中国人観光客の拡大については、受入政策を含む両岸政策の調整、 決定は大陸委員会が主管しており、受入枠も両岸間の協議を経て決 定される。また、一日あたりの受入人数の拡大とともに、両岸航空 当局、特に中国側の就航便数、路線の拡大等航空インフラの整備が 必要になる。今後の観光客の拡大については、送り出す中国側が更 なる開放に積極的か否か、両岸間の交通インフラ整備が進むか否か 等、台湾側の努力以上に、中国政府が大きな影響力を持つことにな っている。 また、台湾旅行業界には、中国の国営大手旅行社の台湾進出への 不安がある25。台湾側旅行社は中小企業が主であるのに対し、中国の 旅行社は、中国国際旅行社、中国青年旅行社、華僑旅行社等国営大 手が絶大な影響力を持っており、中国資本旅行社の進出は台湾にと っても脅威である。現在台湾への中国資本の旅行社進出は許可され ていないが、一部ホテル業は制限を設け、中国資本の投資を認めて いる。

24 交通部觀光局、前掲「中華民國 98 年來台旅客消費及動向調查報告」、頁 124~136。 25 海外では中国人観光客の増加とともに中国資本が進出、「一条龍」といわれる中国資 本の旅行社、ホテルが中国人へのサービスを独占し、地元に利益が還元されないと 指摘されている。范世平、前掲「開放『第一類』陸客來臺旅遊1 周年對兩岸關係影 響之研究」、頁103~104。

(15)

四 中国人学生の台湾就学開放政策の現状と展望

1 中国大陸学生の台湾就学拡大の背景と現状 2007 年 1 月、当時の馬英九氏は中国学生の台湾就学に次のように 述べている。 同方針は、総統選挙の公約の一つとなり、政権発足後、馬英九総 統は中国学生の受入開放に向け、教育部等政府機関も積極的に研究 を進めてきた。2009 年 7 月、中国湖南省長沙で開催された「国民党・ 共産党経済貿易文化フォーラム」では「両岸文教協力」をテーマに 議論され、中国人学生の台湾就学開放の推進が提起され、両党は合 意に達している26。 現在、すでに台湾には、両岸の各大学間で行われている交換留学 で中国大陸学生が「研修」という形で多数学習している。中国人学 生の台湾での研修制度は、すでに李登輝政権後半から実施されたが、 研修期間が 4 ヶ月と短く、規制も厳しかったため、同制度は十分に 活用されにくい状況があった。 馬英九政権発足後、2008 年 10 月に、同研修制度の開放措置に着手 し、研修期間を最大1 年間(1,000 人を限度、半年までの研修は人数 制限なし)に延長したことで27、大学間交流協定も増加し、台湾で就 学する中国人学生も大幅に増えている28 2010 年 11 月の段階で、台湾の大学 153 校と中国の大学 617 校の間

26 「第五屆兩岸經貿文化論壇呉主席開幕致詞全文」中國國民黨、2009 年 7 月 11 日、 http://www.kmt.org.tw/hc.aspx?id=32&aid=2835。 27 「促進兩岸文教交流,放寬陸生來臺研修及大學赴大陸辧理推廣教育」教育部、2008 年10 月 21 日、http://www.edu.tw/print.aspx?table_name=news&table_sn=2141。 28 他方、台湾では中国の大学での取得単位を承認していないため、台湾学生の交換研 修への参加者は少ない。

(16)

で2,271 項目の両岸間の各種学術交流協力協定が結ばれており29、学 生交流協定に基づき「研修」する中国人学生の台湾就学者数は、2008 年には2,888 人302009 年 1~9 月までに 4440 人が台湾の大学で学習 している31 2 中国人学生の台湾における学位取得就学の開放 2010 年 8 月、「両岸人民関係法」、「大学法」、「専科学校法」 等いわゆる「陸生三法」と呼ばれる中国学生の台湾就学関連法規の 修正案が立法院を通過した。教育部では、「大陸地区人民来台就読 専科以上学校弁法」を作成し、2010 年 12 月、行政院の批准を受け、 2011 年 9 月から台湾で学位取得を目指す中国人学生の受入が開始さ れることになった。 今回の中国人学生の開放拡大により、大学、大学院(修士課程、 博士課程)を合わせ、全募集学生定数の約1%にあたる年 2000 人、 各大学募集定数の2%を限度に受入が可能となり、それぞれ台湾での 学位取得を目指すことになる。 国公立大学の受入は、大学院生(修士課程、博士課程)に限定し、 私立大学は、学部生を含む全ての学生の受入ができる。学部生は、 一般の高校卒業資格で進学できるが、大学院生は優秀学生の確保の 目的から、中国側の「985 工程」に選ばれた大学から32、国防関係の

29 2010 年両岸大学校長フォーラムにおける趙建民・大陸委員会副主任委員発言。「發展 國際觀兩岸大學校長表達共識」『中國時報』2010 年 11 月 6 日、版 A22。 30 「 教 育 部 針 對 大 陸 學 生 來 台 研 修 之 政 策 立 場 」 教 育 部 、 2010 年 4 月 2 日 、 http://www.edu.tw/mainland/news.aspx?news_sn=3297&pages=0&site_content_sn=8337&k eyword=%b1%d0%a8%7c%b3%a1%b0w%b9%ef%a4j%b3%b0%be%c7%a5%cd。 31 2010 年両岸大学校長フォーラムにおける林聡明・教育部次長発言。「發展國際觀兩岸 大學校長表達共識」『中國時報』2010 年 11 月 6 日、版 A22。 32 1998 年 5 月、中国教育部が研究レベル等の向上のため集中投資を行う事を決定した

(17)

大学を除き、芸術、体育等分野の大学を加えた41 校の大学学士号を 承認し、受入を行う33。また、台湾の国家利益と教育資源を確保する ため、専攻については、国防、国家機密、ハイテク、医学分野の受 入は行わない。 また、中国人学生には、公的奨学金は支給されず、就学期間中の アルバイト、卒業後の台湾での就職、台湾公務員試験への参加等は 認めていないほか、卒業後 1 ヶ月以内に台湾を離れることが条件に 入れられ、学資の負担を保証し、就学を名目に台湾に来て不法移民 労働者等にならないように、10 万人民元(日本円で約 125 万円)の 経済力の証明を求めている。

五 展望と課題

1 景気回復と中国 馬英九政権発足から 2 年半、両岸関係の改善と中国から台湾への 新たな人的移動の拡大は、台湾にも新しい局面をもたらした。 中国人の台湾への観光客は年間(2010 年)122.8 万人に拡大し、中 国人の台湾訪問者数163.1 万人を突破した。中国人観光客の拡大は、 行政院主計処推計によれば、一人当たり滞在期間 7.5 日、消費額 1 日あたり237 米ドルとして試算すると 20.6 億米ドルに及ぶ経済効果 があるとしている34。さらに中国の地方政府等が組織した中国企業の

大学。 33 「行政院核定『大陸地區人民來臺就讀專科以上學校辦法』案、首批陸生將於今年 9 月來臺」教育部、2011 年 1 月 4 日、http://www.edu.tw/news.aspx?news_sn=4181、(附 件 )1000104-1 ;「 大 陸 高 等 學 校 認 可 名 冊 」 教 育 部 、 2011 年 1 月 10 日 、 http://www.edu.tw/files/bulletin/ED1106/1000110。 34 林惠君「陸客貢獻 GDP0.28 百分點」『中央社即時新聞』2011 年 1 月 5 日、 http://www.cna.com.tw/ShowNews/Detail.aspx?...&pType0=aALL&pTypeSel=0。

(18)

買付団の買付契約といった「中国特需」は、金融危機以降低迷した 台湾経済の景気回復を促し2010 年台湾 GDP は 10.47%の成長率を達 成した35 当初、中国人観光客の開放に当たり、同開放が不法滞在、不法就 労に利用されるとの不安があったが、実際には、団体観光から離脱 発生率は10 万分の 3 人(0.003%)程度で36、現在、旅行社に監督責 任を求める等制度は有効に機能している37 中国人学生は「研修」という形ですでに年4,000 人超が台湾の大学 に就学している。さらに、2011 年 9 月から 1 年 2,000 人の学位取得 を目指す中国人学生の受入が始まる。大学数増加と少子化に直面す る台湾の私立大学にとって中国人学生の増加は、経営安定につなが るものとして期待が高まっている。 中国から台湾への観光客や学生の増加を支えているのは、経済発 展に伴い中国沿海部、都市部における急速かつ大規模な富裕層の拡 大である。日本貿易振興機構の調査によれば、都市部高所得者層の 世帯平均月収は 2007 年に約 8,600 元(約 107,500 円)で、約 2,300 万世帯、6,000 万人に達する38。また、内陸部主要都市の一人あたり

35 「 國 民 所 得 統 計 及 國 内 經 濟 情 勢 展 望 」 行 政 院 主 計 處 、 2011 年 1 月 31 日 、 http://www.dgbas.gov.tw/public/data/dgbas03/bs4/ninews/10002/new10001.pdf。 36 王鵬捷「陸委會:陸客遊台續成長 糊設機構便利服務」『中央日報網路報』2010 年 2 月18 日、http://www.cdnews.com.tw/cdnews_site/docDetail.jsp?coluid=111&docid=101068 046。 37 同制度では逃亡等事件発生時、旅行社に逃亡者 1 名あたり 10 万台湾ドルのペナルテ ィーを求めている。 38 日本貿易振興機構による中国家計所得統計に基づく試算によれば、都市部の高所得 者層の世帯数は総世帯数の約10%を占めると見られる。真家陽一『中国の景気刺激 策と日本企業のビジネスチャンス』ジェトロセミナー報告(台北:台北市日本工商 会、2009 年 10 月 20 日)。

(19)

の可処分所得(都市部)でも、上海における水準を内陸部の主要都 市が数年(3~8 年)差で現在の上海水準を追走し、数年の時差で中 国内陸部都市(都市部)の経済規模も拡大が進んでいる39 都市住民を中心とした富裕層の拡大は、観光、留学、ビジネス、 投資等で中国から海外への人的移動を拡大している。中国人の海外 旅行客数は、近年二桁以上の高い伸び率で拡大しており、2010 年は 前年比20.4%増、のべ 5,739 万人に達している40。早期に中国人観光 客の個人自由旅行を解禁した香港では2,268 万人(2010 年)に達し、 中国観光客のもたらす経済的利益で香港経済は活況を呈している41 同 様 に 2009 年の中国人留学生の出国人数も 22.9 万人(前年比 27.5%増)と拡大している42。中国では「一人っ子政策」の実施によ り、急激な少子高齢化が進んでいるものの青年人口の規模は大きく、 約2 億 7,000 万人と推定される43。中国の高等教育機関への進学率は 大きく伸びており、1978 年当時 16.3 万人にすぎなかった大学卒業生 は、2009 年には 531.1 万人へと急激に拡大した44。同時に留学を志向 する学生も増加し、中国人の海外留学は急速な伸びを示しており、

39 2008 年の世帯可処分所得は、フフホト(内モンゴル)が 2006 年の上海水準、長沙(江 西)2005 年同水準、瀋陽(遼寧)、武漢(湖北)、成都(四川)が 2004 年同水準、西 安(陜西)、重慶が2003 年同水準、最も貧しい貴州省の省都貴陽も 2000 年同水準。 同上セミナー中井邦尚氏報告。 40 「邵琪偉在 2011 年全國旅游工作會議上的講話」中國網、2011 年 1 月 18 日、 http://www.china.com.cn/policy/txt/2011-01/21/content_21790439.htm。 41 「2010 年旅客數字及消費同創新高」香港旅遊発展局、2011 年 1 月 26 日、 http://partnernet.hktb.com/pnweb/jsp/doc/HKTB_listDoc.jsp?charset=&doc_id=136264。 42 「教育部國際司司長:2009 中國出國留學三大突破」中國合作辧學教育網、2010 年 3 月 20 日、http://www.cfce.cn/web/Topic/Bzzl/201004/860.html。 43 20~34 歳人口が総人口に占める割合は 20.4%(サンプル調査)、中華人民共合國國家 統計局編『中國統計年鑑』(北京:中國統計出版社、2008 年)。 44 中華人民共合國國家統計局編、前掲『中國統計年鑑』、各年版。

(20)

中国は世界で最も多くの留学生を送りだす国となった45。国内の大学 進学率上昇とともに大学卒業生の就職難も深刻化しており、大卒と いう学歴だけではなく、高度化、差別化を図ることで自身の可能性 を広げようとする考えは大学進学希望者や若者層に広がっている。 都市部若年層が将来設計を考える際、すでに留学は選択肢の一つに なっている46 人口大国中国からの観光客、留学生の拡大のスピードと規模は、 さらに強まる傾向にあり、台湾でも大きな供給市場として期待が高 まっている。 2 「ソフトパワー」による安全保障を模索する馬英九政権 両岸人的交流の拡大、特に観光客、学生就学の拡大は、台湾に経 済的利益をもたらしたが、それ以上に台湾訪問の中国人に馬英九政 権は台湾が持つ「ソフトパワー」をよりアピールしたい意向がある47 台湾が誇る「ソフトパワー」とは、メディア等台湾社会の自由な 言論、華人社会で初めて実現した民主的な政治社会、自由選挙によ る二度の政権交代、自由と民主主義の価値観等であり、台湾を訪れ

45 UNESCO Institute for Statistics (UIS), Global education digest 2009 (Montreal: UNESCO

Institute for Statistics, 2009), p36.

46 王輝耀「今年高考人人數下降背後的留學熱」中國僑網、2009 年 6 月 12 日、

http://www.chinaqw.com/lxs/lxyj/200906/12/167263.shtml。

47 「ソフトパワー」は、ジョセフ・ナイ元米国防次官の提唱した概念で、軍事力、経

済力等の「ハードパワー」に対し、文化、政治的価値観、道徳的外交政策の実践等 を通じ自国の政策を推進する非軍事的外交を提唱。同概念は現在広く用いられ、馬 英九総統の演説でも多用している。Joseph S. Nye, Jr, SOFT POWER (NewYork: Publicaffairs, 2004), pp.5-32;劉相平「馬英九『軟實力』思想評析」『台灣研究集刊』 (廈門)、2009 年第 1 期(2009 年 3 月)、頁 1~8。

(21)

た中国人がこれらを体感することで48、現在の台湾を理解し、中国と は異なる民主社会の存在を認識させ、中国自身にも変化を促す意向 を持っている49 2010 年 12 月、馬英九総統は台湾を訪れたソフトパワーの提唱者で あるジョセフ・ナイ氏(Joseph S. Nye, Jr)を総統府に招請し50、講演 会を行い、両岸関係の改善と観光交流、留学生受入を通じた「ソフ トパワー」の実践を同氏より高く評価された51 一方、馬英九政権としては、中国人観光客、学生が多数台湾に滞 在することで「中国が台湾にミサイルを撃てない環境づくり」を進 めたい。両岸では中国国内に暮らす台商が「人質になっている」と して過度な中国依存への警鐘がしばしば指摘される52。台湾企業や台 湾人が中国に多数存在し、人的安全保障リスクに「非対称性」があ り53、台湾の中国人観光客・学生の受入は、同「非対称性」を解消し、 両岸が「対等」な立場に立つことになる。

48 李明賢「馬:五都選舉讓陸生動容落涙」『聯合報』2011 年 1 月 7 日、版 A23。 49 趙建民・大陸委員会副主任委員は「中国の台頭と国力の拡大に注目が集まるが、中 国の内部問題は非常に大きく、中国は現代化の厳しい試練に直面しており、両岸情 勢の緩和とともに台湾の『ソフトパワー』が中国に大きな影響力を発揮する可能性 がある」旨述べ、政治的価値観、民主主義等が台湾の中国に対抗しうる交渉力、自 信となっていることを指摘している。『中央社』2010 年 3 月 13 日。「訪日溝通 趙建 民:日方支持馬總統兩岸政策」『中央社』2010 年 3 月 13 日、新聞版。 50 「總統接見『軟實力之父』哈佛大學教授奈伊博士」総統府、2010 年 12 月 8 日、 http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131。 51 李明賢「開放陸生奈伊肯定好投資」『聯合報』2011 年 1 月 7 日、版 A23。 52 蘇永耀「台商成兩岸人質中透過國共平台操弄台灣」『自由時報』2011 年 2 月 16 日、 版A2。 53 您 海峽交流基金會『錢進中國- 不可輕忽的前車之鑑』(台北:海峽交流基金會、2007 年)では中国における数多くの台商ビジネストラブルを紹介。

(22)

3 両岸人的移動拡大と中国の思惑 中国側は、中国人観光客開放、学生の台湾就学を台湾人の中国に 対する警戒感を取り除き、様々なレベルでの関係構築と信頼醸成の ための存在と位置づけている。両岸では、陳水扁政権時代から輸出 産業を中心に台湾経済の中国への依存が高まってきたが、さらに直 接、台湾内部経済への中国の影響力拡大のチャンスととらえている。 これまでにも中国は、2004 年の陳水扁総統再選前後から、新たな 形での台湾工作を展開してきた。胡錦濤政権の台湾政策では「強硬 な政策はより強硬に、柔軟な政策はより柔軟に」との硬軟を織り交 ぜた施策の中で、2005 年 3 月に「反国家分裂法」を制定し、台湾に 照準を向けた戦術ミサイルを増強するとともに、「時間は中国に有 利」との考えから長期の現状維持を容認し54、台湾内部において「台 湾独立」の支持を弱め、特に「台湾独立」を党是に掲げる民進党の 支持基盤切り崩しを図る政策を取り始めた。 2004 年には中国国内の台商への圧力を本格化し「台商カード」を 多用して「緑色台商(民進党を支持する台商)」への圧力を強化し た55。また、台商や台商協会が台湾政府への圧力団体」として機能す ることを期待し、中国在住の台商が台湾に戻り投票を行うよう奨励 した。そのほかにも台湾産農産物の中国での販売促進による民進党 支持層の多い台湾南部農民へのアプローチ等が試みられたが、こう した活動は、一程度の圧力になるものの、中国での活動が中心で台

54 2000 年台湾総統選挙前の「台湾当局が交渉による両岸統一問題の平和的解決を無期 限に拒否すれば、中国政府はやむなく武力行使を含むあらゆる可能な断固たる手段 を採る」との姿勢から、変化したことを意味する。國務院台灣事辦公室「一個中國 的原則與台灣問題(白皮書)」『人民日報』(北京)、2000 年 2 月 22 日、版 4。 55 代表的人物として奇美グループ・許文龍氏が厳しい糾弾の対象にさらされた。程剛 「我們不歡迎『綠色』台商」『人民日報(海外版)』(北京)、2004 年 5 月 31 日、版 1。

(23)

湾内部への影響力浸透には限界があった。 しかし、今回の中国人観光客の台湾訪問拡大は、これまで中国と 直接の経済的利害関係を持たなかった台湾人に対し、観光という裾 野の広い産業を通じ、中国への経済依存を高め、直接台湾人の懐を 左右できる力を持つ機会となり、特に、民進党支持層である「三つ の中」(中下層、中南部地域、中小企業)に対して直接働きかけを 行うチャンスとなっている56。また、中国人学生の台湾就学拡大がメ ディアや世論形成に影響を与える力を持つ教育関係者にも、観光業 者同様、中国との特別な利害関係が生まれることになる。 こうした中国の台湾内部への働きかけによって、両岸関係の改善 が、台湾人の経済的利益につながり、中国への根強い不信感を払拭 し、信頼醸成の土壌を作るとともに、経済依存という形で、長期的 に台湾内部に「中国との対立を避ける雰囲気」を作り出し、さらに は台湾内部に「台湾独立」への対抗勢力を形成することを意図して いる。 4 台湾内部での不安 両岸人的交流の拡大に対し、台湾では、経済的利益の分配が不均 衡で、一部ホテル業、運送業、飲食店、土産物業者に多くの富がも たらされているものの、果実の分け前から漏れた他のサービス産業 からは不満が大きい。2011 年内にも開放が予定される中国人個人自 由旅行の開放は、観光客急増の恩恵が一部観光業者だけでなく、裾 野の広い消費と経済的恩恵の配分が期待できる施策である。現在、

56 2009 年、中国は中国人観光客の高雄訪問を避ける圧力をかけたが、2011 年 2 月開催 の「海峡両岸旅遊業聯誼会」は中国側との間で高雄市での開催が合意され、中国が 台湾南部地域との交流に積極的であることが伺える。

(24)

中国人観光客の団体観光からの失踪率は低く抑えられているものの、 個人自由旅行は観光客の行動把握が困難であることから、逃亡が容 易になり、不法就労等の拡大が予想され、野党民進党立法委員をは じめ安全保障上の危険を指摘する声が上がっている57 また、中国人学生の台湾就学についても、発表された受入学生数 が台湾の私立大学の期待に比べ少なく、受入条件が非常に高く設定 されたことから、果たして学生が台湾に本当に来るのかという不安 も存在する。特に、各国が中国人学生募集に奨学金を設けているに もかかわらず、学生に求める10 万人民元の財産証明や学資を台湾で の奨学金やアルバイトに頼ることができないため、台湾就学学生の 父母に大きな負担を強いるものになる58 13 億人の人口をもつ中国は優秀な人材を有しているものの、台湾 に比べ教育、科学インフラにおいて遅れている面もあり、台湾の高 等教育機関は中国学生にとっても一定の魅力を持つと思われる59。他 方、中国における急速な大学進学率の拡大で、大卒者の就職問題が 深刻化しており、台湾での就学が就職に有利に働くか否か、卒業後 台湾内での滞在、就職が許可されなければ、台湾留学は高い海外残 留志向を持つ中国学生にとって魅力的とは映らないと指摘されてい る60。さらに、中国人留学生の特徴である海外での残留率の高さを考

57 翟思嘉「江陳會九協議撥算盤算舊張」『新新聞』1190 期(2009 年 12 月)、頁 26-31。 58 金奕「台灣當局開放陸生赴台政策評析」『両岸關係』(北京)、2010 年 6 期(2010 年 6 月)頁12~13;「陸生來台須備 44 萬財力」『蘋果日報』2011 年 1 月 5 日、版 A7。 59 台湾で学ぶ中国人学生への調査では「キャンパスの開放感」、「教学の柔軟性」、「選 択科目の多様性」を半数以上の中国人学生が台湾の大学の魅力と回答。林奇伯・林珮 萱「台灣人才保衛戰-兩岸交流學生大調查:陸生認為只有3.2%台生用功」『遠見雜誌』 第285 期(2010 月 3 月)、頁 179。 60 揚景堯「兩岸教育交流未來發展的觀察-以大陸學歷採認與大陸學生來臺為例」『展望 與探索』第6 卷第 9 期(2008 年 9 月)、頁 12~16。

(25)

慮すれば、厳しく台湾での残留、就職等を禁止していることは、台 湾での就学への魅力を減らすものとなる61 また、中国人学生の台湾就学拡大によって、現在の最長 1 年の短 期滞在から2010 年 9 月以降、学位取得期間(博士号取得は 5 年)に 延長され、長期滞在することになる。馬英九総統自身は中国人学生 が台湾の自由と民主を体感することに期待しているが62、台湾社会は 隣人として中国人を受け入れることになる。2008 年北京オリンピッ クの聖火リレーに対し、各国で中国の人権状況に対し批判から聖火 リレーへの妨害行為が多発した。その際、聖火を守る「守護隊」、 劉暁波氏ノーベル平和賞受賞への反対デモ動員等中国人学生が在外 公館等の指導の下で組織され、愛国主義と強い動員力を見せつけた。 現在、中国政府の華僑、僑務政策の変化を見ても、在外中国人の 中国に対する様々な形での貢献が求められ「台湾独立反対」等の海 外での統一戦線活動が実施されている63。僑務政策の重点が台湾政策 であり64、中国人学生の受入開放によって台湾内での中国の政治的影

61 張彤・朱麗婷「大陸學生赴台學習障礙分析及解決思路」『教育與考試』2010 年 1 期(2010 年)、頁63~67。 62 学内での外交部長講演で、チベット問題等敏感問題に身分調査もなく活発に質問で きた台湾の大学の持つ「文化刺激」に、中国人学生が興奮したことを紹介。楊瑪利・ 林奇伯「義守大學>最多大陸交換生 大江南北 169 人帶來 3 大刺激」『遠見雜誌』第 275 期(2009 年 5 月)、頁 184~185。他方、中国人観光客の場合、観光客となりうる 中間層「保守性」、富裕層が現在の中国における既得権益者であること、短期間の台 湾滞在等から民主化意識の効果の限界も指摘されている。范世平『大陸觀光客來台 對兩岸關係影響的政治經濟分析』(台北:秀威資訊科技股份有限公司、2010 年)、頁 290~311。 63 范世平「中國大陸僑務組織與政策之分析及其外交意涵」『2008 僑務發展之外交意涵學 術研討會論文集』(台北:國立臺灣師範大學、2008 年)、頁 18~52。 64 庄國土「經濟全球化下中國的國家發展戰略和華僑華人」『華僑華人研究』第 7 号(2010 年11 月)、頁 102。

(26)

響力の拡大も懸念されている。 馬英九政権は、リーマンショックで金融危機以後、大きく落ち込 んだ景気を立て直し、高い経済成長を実現した。大きな成果がある にもかかわらず、同政権への支持率は長期にわたり低迷を強いられ、 2008 年総統選挙、立法委員選挙で大きく勢力を減らした野党民進党 は、立法委員補選、県市長選、直轄市長選を通じて支持を広げてい る。原因の一つには、両岸の経済、人的交流によって強まる「中国 の影響力への不安」が挙げられる。中国政府のほか、企業や人々と の直接的な接触が、様々な形で台湾人の不安心理や反発を駆り立て る面もあり、台湾人がこうした不安に神経質になっていることを表 している65 江丙坤・海峡交流基金会董事長は、2010 年末の両岸協議の際、両 岸が新たな議題に進むのではなく、中国側にこれまでの成果の確実 な履行を強く求める姿勢を示した66。政府、国民党にとっても、両岸 間でさらに新しいテーマで協議を締結することは、2012 年春の馬英 九総統再選が係る台湾総統選挙、立法委員選挙に不利な影響を与え るとの考慮がある。

六 終わりに

馬英九政権も台湾内部の懸念をよく理解し、中国から台湾への人

65 中国首善集団総帥が台湾を訪問し、低所得者に手渡しで 1 万台湾ドルの「紅包(お 年玉)」を配るパフォーマンスを行った。同行為は「中国人の力の誇示」として台 湾人を傷つけたと注目された。「攔路跪討紅包 立委:馬英九你不慚愧嗎」『自由時 報』2011 年 1 月 28 日、版 A4。 66 「第六次『江陳會談』順利舉行 兩會簽署『海峽兩岸醫藥衛生合作協議』」海峡交流 基金会、2010 年 12 月 21 日、http://www.sef.org.tw/ct.asp?xItem=183518&ctNode=4333& mp=1。

(27)

的移動の拡大だけでなく、中国以外からの海外観光客、留学生を受 入のため、観光局、教育部も積極的なプロモーションを展開してい る。2011 年の台湾の国際観光戦略として 650 万人の受入目標を立て て、2010 年秋から「台北国際花卉博覧会」の開催等イベントを計画 し、同年秋に台北松山-東京羽田間が直航便就航した日本、ローコ ストキャリアの就航で2010 年大きく伸びたマレーシア、韓国、シン ガポール等からの観光客拡大を図っている67 教育部も、台湾人の教育機会、就業機会、安全保障、教育資源を 守るため、中国人学生に厳しい制限を設けている68。馬英九総統も、 中国人学生の台湾就学拡大について、私立大学の学生確保が主要目 的ではなく、台湾高等教育機関の国際化が目的であることを強調し ている69。しかし、実際、拡大の規模やスピードを考えると、中国に 比べ日本、東南アジア等からの人的移動の成長には人口、経済規模、 勢い等から限界があり、台湾が国際化を目的とした開放政策も70、結 果的に中国人比率を高める「中国化」となる可能性もある71。 数億人規模で拡大する富裕層という経済力を手にした中国の魅力 は、台湾だけでなくアジア、世界を引き寄せている。香港、シンガ

67 「556 萬 7277 人次 99 年來台旅客大增百萬大陸旅客最大客源馬來西亞成長居冠」、前 掲記事。 68 両岸の大学間の交換留学で台湾に来る学生には、10 万人民元の経済力証明を求めて いない。 69 「總統出席 98 學年度全國大學校長會議」総統府、2010 年 2 月 2 日、http://www.president. gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=19944&rmid=514&word1=%e7%be%a9%e5%ae% 88%e5%a4%a7%e5%ad%b8。 70 台湾で学ぶ留学生総数は 2008 年 16909 人。教育部統計處編『中華民國教育年報(民 國九十七年)』(台北:國立教育資料館、2009 年)、頁 431。 71 黃以敬「兩岸教育協議勿損台生權益:張宗任專坊」『自由時報』2010 年 10 月 25 日、 版A6。

(28)

ポール、韓国、タイ、そして日本もリーマンショック後の経済危機 対応として、中国からの観光客、留学生の受入政策を推進している。 中国への依存という潮流に日本ですら抗うことができない現状があ る72 中国も自国の影響力をよく認識し「観光客」を外交交渉のカード として活用する姿勢を示している。2010 年 9 月に発生した尖閣諸島 海域での中国漁船侵入事件の発生以後、レアメタル禁輸等のほか、 「学術会議」「上海万博への1000 人交流団の派遣」等文化分野での 日中交流についても「交流の雰囲気ではない」として開催が中止さ れた。「交流の雰囲気ではない」との考えは、中央、地方政府レベ ルでの公的訪問団、さらに完全に独立した自由な国際移動、渡航が 存在しない中国人観光客の訪日に直接影響を与えた732009 年新疆 ウイグル民主活動家ラビア・カーディル女史の映画上映をめぐり、 映画祭での上映を行った高雄市への圧力でも同様の原因が挙げられ る74。 台湾が持つ中国に対する言語、地理、商習慣等の優位性を考える と、中国は非常に魅力的な有力市場である。各国が中国人観光客や 留学生の受入を積極的に推進する中で、経済的に中国への依存を高

72 「民主・休暇分散化構想 中国「国慶節」に配慮 3 ブロックごと 10 月に 5 連休」『産 経新聞』2011 年 2 月 11 日、5 面。 73 富裕層への個人旅行解禁で拡大が期待された中国人観光客の訪日は、同事件発生後、 大幅に減少。「1 万人」宝建集団観光団も日本から韓国へ旅行先を変更した。「訪日予 定の中国団体観光客1 万人が韓国へ」『中央日報(日本語版)』(韓国)、2010 年 12 月 14 日、http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=135747&servcode=400&sectcode= 400。 74 同事件では、高雄市への訪問を回避しただけで台湾全体の観光客数への影響は少な く、観光客及び中国地方政府の視察団・買付団が政治的リスクを考慮し高雄市訪問 を避けた。

(29)

めることと、台湾がその依存度を高めることには、根本的な違いが ある。それは、2005 年 3 月成立の「反国家分裂法」で中国が台湾と の統一に非平和的手段(武力)を行使することも排除していないと いう事実である。 当面、胡錦濤政権も政治、軍事分野での両岸協議進展を強引に求 め、2012 年に選挙を控える馬英九総統を追い込むことは考えていな い。他方、中国は、2012 年総統選挙、さらに将来の両岸関係を長期 的にとらえ、経済交流、人的移動拡大を通じ、両岸人民間の積年の わだかまりを取り、台湾人の信頼を勝ち取り、将来の「両岸問題の 最終解決」に向けた一歩を踏み出そうとしている75 勢いを増す中国に台湾は如何に対応するのか。今後、台湾と中国 との間で経済力、軍事力の格差が拡大し、国際社会からの孤立感を 深めた場合、台湾が現在の台湾社会や現状維持に対する自信を持ち 続けられるのか。今後、経済的恩恵や中国への経済依存の浸透によ って、台湾に「中国との対立を避ける雰囲気」が高まることは避け がたい。有権者の動向は、両岸関係改善を進めた与党国民党だけで なく、「台湾独立」を党是とする民進党の対中国政策にも影響を与 え、すでに「台湾のフィンランド化」の可能性等も指摘されている76。

75 中国軍事科学院の羅援・中国人民解放軍現役少将は「馬英九総統の「三不政策」は 「平和的分離」を作るものであり、両岸の政治問題の矛盾は解消されない」と批判 し、軍内部には異なる意見も存在。『聯合報』2009 年 11 月 22 日、版 A16。 76 「フィンランド化」とは、冷戦期のフィンランドが米ソ対立の中、議会制民主主義 と資本主義体制を維持するもののソ連等社会主義陣営の勢力下にあったことから (川田侃・大畠英樹編『国際政治経済辞典 改訂版』(東京書籍、2003 年)、657 ペ ージ)、台湾についても安全保障、体制等の維持を条件に中国の影響下に入る選択 についても指摘がなされている。野嶋剛「台湾の将来選択-ECFA 後の中台関係と馬 英九政権の行方」『東亜』No.523(2011 年 1 月)、18~20 ページ;門間理良「台湾の 対中国政策と台湾の戦略的・地政学的価値再考」『東亜』No.523(2011 年 1 月)、106~116

(30)

1996 年総統選挙の際、中国のミサイル演習という軍事圧力に示した 台湾の団結力を将来の台湾も毅然と表明できるか。まさに台湾の自 由、民主、多様な価値観という「ソフトパワー」が試されることに なる。 同時に、中国も台湾人の信頼獲得のためには、中国自身がより自 由、民主、法の支配といった台湾が「当たり前」と考える自由な社 会体制に向け更なる改善がなければ、台湾の不信を払拭することは 難しいだろう。 今後、両岸関係では、両岸交渉という表舞台だけでなく、中国人 観光客、学生という存在も両岸関係の推移に影響を持つことになり、 中国が台湾の政治情勢、対中関係の変化に際し、中国が手にした影 響力を如何に行使するのか、台湾の世論に変化を与えるのか、が注 目される。両岸関係の改善の中で、台湾は観光客、学生を受入れ、 中国が直接内部の利益配分を左右する「影響力」を内包化すること になった。表面的な融和ムードをよそに、内部化した中国との距離 感をめぐり、台湾の主体性を賭けた両岸の厳しい駆け引きは続いて いる。 (寄稿:2011 年 2 月 1 日、採用:2011 年 3 月 17 日)

ページ。

(31)

馬英九執政後的兩岸人民交流之

擴大與展望:

-以擴大陸客‧陸生來台為例-

駒 見 一 善

(財團法人交流協會台北事務所專門調查員)

【摘要】

2008 馬英九總統執政後,重啟中斷 9 年的兩岸協議,兩岸關係,特 別是經濟關係也日趨正常化。馬總統執政下,由中國大陸來台觀光客 及交換學生等人數大幅成長,2010 年大陸人士來台人數增至 163 萬人 (較前一年增加67.8%)。由於政府於 2011 年 1 月放寬陸客來台人數 限制,9 月亦即將開放陸生來台就學,預估兩岸的來往人次將會更加擴 大成長。 目前,兩岸人民擴大交流,因為「人口大國」、「經濟實力」背景 下的「規模」、「速度」而備受矚目。馬政府在確保台灣經濟利益的 同時,為能讓訪台大陸人士了解台灣現狀,並對他們展示第一個實現 民主政治的自由華人社會的「軟實力」,期待中國能因此而有所變化。 然而相對於此,中國則意圖擴大台灣對中國的經濟依賴,並提高左右 台灣內部利益分配時之影響力。台灣正面臨如何因應實力漸增的中國 之課題。 關鍵字:兩岸關係、觀光客、學生、軟實力、經濟依賴

(32)

The Movement of People in Cross-strait

Relations under the Ma Ying-jeou

Administration

―A Case of Tourists and Students from Mainland China―

Kazuyoshi Komami

Interchange Association (JAPAN) Taipei Office, Research Fellow

Abstract】

Since the Ma Ying-jeou administration took office in 2008, Taiwan and China began to restart “Chiang-Chen Talk” which had been suspended for 9 years. Furthermore, cross strait relations, especially economic relations, have begun to normalize in recent years. Under Ma’s administration, the number of Chinese visitors, including students and tourists, has been steadily increasing. These visitors numbered over 1.63 million in 2010 which was a 67.8% increase from the previous year. In January 2011, Taiwan agreed to enlarge the daily capacity of Chinese group tourists. In addition, Taiwan is going to go forward in this division, for example Taiwan is going to accept more formal university and grad students from Mainland from September 2011.

On movement of people in cross-straight, “scale” and “speed” will be more focused, which are based on huge population of China and big economic power of China Ma Ying-jeou intends to not only accrue economic benefit but also change mainland China by means of making an appeal of present situation of Taiwan and “soft power” of Taiwan to Chinese visitors, which is the first free and democratic area from viewpoint of politics and society in all ethnic Chinese communities around the world. On the contrary, China intends to make Taiwanese people depend on China more heavily, especially which means to extend its influence in sharing profits of Taiwan and its concerned. It is high time that Taiwan decide its attitude to growing China and its influence.

Keywords: Cross-strait relations, Tourism, Students, Soft Power, Economic

(33)

〈参考文献〉 「訪日予定の中国団体観光客1 万人が韓国へ」『中央日報(日本語版)』(韓国)、2010 年 12 月 14 日 、 http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=135747&servcode=400& sectcode=400。 石原忠浩「もう一つの両岸交流「小三通」の回顧と展望」『問題と研究』第39 巻 1 号(2010 年3 月)、88~89 ページ。 川田侃・大畠英樹編『国際政治経済辞典 改訂版』(東京書籍、2003 年)。 ステファン・コルキュフ(上水流久彦・西村一之訳)『台湾外省人の現在』(風響社、2008 年)。 田嶋淳子「東アジアにおける国際人口移動」『淑徳大学社会学部研究紀要』第 35 号、 (2001 年 3 月)、119 ページ。 野嶋剛「台湾の将来選択-ECFA 後の中台関係と馬英九政権の行方」『東亜』No.523(2011 年1 月)、18~20 ページ。 ______「巨竜の影中国建国 60 年:台湾「中国人妻への差別に歯止め」『朝日新聞』(2009 年10 月 17 日)9 面。 真家陽一『中国の景気刺激策と日本企業のビジネスチャンス』ジェトロセミナー報告(台 北:台北市日本工商会、2009 年 10 月 20 日)。 門間理良「台湾の対中国政策と台湾の戦略的・地政学的価値再考」『東亜』No.523(2011 年1 月)、106~116 ページ。 若林正丈『台湾の政治』(東京大学出版会、2008 年)。 山本勲『中台関係史』(藤原書店、1999 年)。 「2010 年 旅 客 數 字 及 消 費 同 創 新 高 」 香 港 旅 遊 発 展 局 、 2011 年 1 月 26 日 、 http://partnernet.hktb.com/pnweb/jsp/doc/HKTB_listDoc.jsp?charset=&doc_id=136264。 「556 萬 7277 人次 99 年來台旅客大增百萬大陸旅客最大客源馬來西亞成長居冠」交通部 観光局、2011 年 1 月 11 日、http://admin.taiwan.net.tw/bulletin/bulletin_show.asp?selno= 2833。 「大陸地區人民來臺從事觀光活動許可辦法」交通部觀光局、2001 年 12 月 10 日、 http://admin.taiwan.net.tw/law/File/200112/901210.doc。 「大陸高等學校認可名冊」教育部、2011 年 1 月 10 日、http://www.edu.tw/files/bulletin/ ED1106/1000110。 「民主・休暇分散化構想 中国『国慶節』に配慮 3 ブロックごと 10 月に 5 連休」『産経新 聞』2011 年 2 月 11 日、5 面。 「自開放以來截至 99 年 12 月兩岸交流統計圖」行政院大陸委員会、2010 年 12 月、 http://www.mac.gov.tw/big5/statistic/ass_lp/0a/9912/5.pdf。 「行政院核定『大陸地區人民來臺就讀專科以上學校辦法』案、首批陸生將於今年9 月來 臺」教育部、2011 年 1 月 4 日、http://www.edu.tw/news.aspx?news_sn=4181、(附件)

(34)

1000104-1。 「 邵 琪 偉 在 2011 年全國旅游工作會議上的講話」中國網、2011 年 1 月 18 日、 http://www.china.com.cn/policy/txt/2011-01/21/content_21790439.htm。 「促進兩岸文教交流,放寬陸生來臺研修及大學赴大陸辦理推廣教育」教育部、2008 年 10 月 21 日、http://www.edu.tw/print.aspx?table_name=news&table_sn=2141。 「陸生來台須備44 萬財力」『蘋果日報』2011 年 1 月 5 日、版 A7。 「訪日溝通 趙建民:日方支持馬總統兩岸政策」『中央社』2010 年 3 月 13 日、新聞版。 「教育部針對大陸學生來台研修之政策立場」教育部、2010 年 4 月 2 日、http://www.edu.tw/ mainland/news.aspx?news_sn=3297&pages=0&site_content_sn=8337&keyword=%b1%d0 %a8%7c%b3%a1%b0w%b9%ef%a4j%b3%b0%be%c7%a5%cd。 「教育部國際司司長:2009 中國出國留學三大突破」中國合作辦學教育網、2010 年 3 月 20 日、http://www.cfce.cn/web/Topic/Bzzl/201004/860.html。 「第五屆兩岸經貿文化論壇呉主席開幕致詞全文」中國國民黨、2009 年 7 月 11 日、 http://www.kmt.org.tw/hc.aspx?id=32&aid=2835。 「第六次『江陳會談』順利舉行 兩會簽署『海峽兩岸醫藥衛生合作協議』」海峡交流基金 会、2010 年 12 月 21 日、http://www.sef.org.tw/ct.asp?xItem=183518&ctNode=4333& mp=1。 「 國 民 所 得 統 計 及 國 内 經 濟 情 勢 展 望 」 行 政 院 主 計 處 、2011 年 1 月 31 日 、 http://www.dgbas.gov.tw/public/data/dgbas03/bs4/ninews/10002/new10001.pdf。 「發展國際觀兩岸大學校長表達共識」『中國時報』2010 年 11 月 6 日、版 A22。 「總統出席98 學年度全國大學校長會議」総統府、2010 年 2 月 2 日、http://www.president. gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=19944&rmid=514&word1=%e7%be%a9%e5%ae %88%e5%a4%a7%e5%ad%b8。 「總統接見『軟實力之父』哈佛大學教授奈伊博士」総統府、2010 年 12 月 8 日、 http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131。 「攔路跪討紅包 立委:馬英九你不慚愧嗎」『自由時報』2011 年 1 月 28 日、版 A4。 「觀光統計(各月)」交通部観光局、2008 年 7 月~2010 年 12 月、http://admin.taiwan.net.tw/ indexc.asp。 『聯合報』2009 年 11 月 22 日、版 A16。 内政部入出國及移民署「内政部入出國及移民署98 年報」(台北:内政部入出國及移民 署、2010 年)。 内政部入出國及移民署編『九十七年外籍與大陸配偶生活需求調査報告』(台北:内政部 入出國及移民署、2009 年)。 大陸委員會編「大陸地區人民來臺從事觀光活動許可辦法」『台灣地區與大陸地區人民關 係條例曁施行細則』(台北:大陸委員會、2010 年)。 中華人民共合國國家統計局編『中國統計年鑑』(北京:中國統計出版社、2008 年)。 王 輝 耀 「 今 年 高 考 人 人 數 下 降 背 後 的 留 學 熱 」 中 國 僑 網 、2009 年 6 月 12 日 、

數據

図 2  大陸地区人民の台湾訪問(入境のべ人数)  (注)大陸委員会、観光局双方とも内政部出入国及移民署統計を基本としているが、数 値にズレがあり、観光局発表の 2010 年統計資料は、大陸委員会発表の数値より 中国からの來台者、観光客とも数万人規模で大きくなっている。  (出典)「自開放以來截至 99 年 12 月兩岸交流統計圖」行政院大陸委員会、2010 年 12 月、http://www.mac.gov.tw/big5/statistic/ass_lp/0a/9912/5.pdf、より筆者作成。  2

參考文獻

相關文件

附属災害制御研究センター 真野 明・有働恵子 土木工学専攻

中国大陆 中国台湾 大韩民国 日本 泰国 菲律宾 新加坡 马来西亚. Filipinas

2010海峽兩岸教育 考試評價改革發展 研討會紀要 2010參訪大陸教育 部考試中心的心得 九-十月份中心活動 焦點?.

大きく違う点は、従来の BASIC ではプログラムの実行順序はプログラム作成時に予め決 めたとおりに実行する定義型であるの対し、Visual

為配合政府推動六大新興產業及十大重點服務業之發展與開拓就業

潮州就業中心、屏東縣政府勞動暨青年發展處就業服務台所服務之求職者平均希

 具大名稱大勝慧  得大無畏大牟尼   已度生死險難中  稽首出過煩惱岸 

Schopen 著,平岡聰譯<《大般涅 槃經》における比丘と遺骨に関する儀礼>;(4) 此 Schopen 之意見,美國學者 Silk Jonathan 及日本學者下田正弘均表同意。Silk, Jonathan, The